相対論的場の量子論シリーズの第Ⅱ部に入る前に,
ここまでの記事の補足として,電磁場を(正準)量子化する際に
生じる問題点や,Gupta-leuilerの方法の詳細についての記事
を現在準備中です。
そのため,今回は参考ノートなどはないので取り合えず,原稿
を古典電磁場の定式化の確認から始めている状態ですが,
2008年5/19の記事「電磁気学と相対論(4)(真空中の電磁気学3)」
の内容が,つなぎの序文としてピッタリのようなので,手抜きです
が,ほぼそのまま再掲載しておきます。
※以下,再掲記事です。
電磁場の基本方程式であるMaxwellの方程式が,
∂Fμν/∂xλ+∂Fνλ/∂xμ+∂Fλμ/∂xν=0 の4個
と,∂Fμν/∂xν=-sμ/(c2ε0)の4個の計8個のテンソル
方程式に帰着することを見ました。
しかし,元々真空中の電場,磁場はE,D,B,Hによって表わさ
れますが,実質的にはEとBだけが決まれば残りも決まるので,
独立な未知関数の成分は6個だけですから,方程式が8個もある
のは過剰ではないかという気がします。
実際,divB=0 が成立することから,B=∇×A=rotAと表現
できるベクトルポテンシャルAの存在がわかります。
これをrotE+∂B/∂t=0 に代入して,
rot(E+∂A/∂t)=∇×(E+∂A/∂t)=0 から
E+∂A/∂t=-∇Φ=-gradΦと表現できるスカラー
ポテンシャルΦの存在することがいえます。
それ故,B=∇×A=rotA,E=-∇Φ-∂A/∂t
=-gradΦ-∂A/∂tと表現することで,
電場E,磁場Bの6成分を決めることを,スカラーポテンシャル
Φ,および,ベクトルポテンシャルAの4成分だけを決めること
に帰着せしめるのが,近代電磁気学の通常の理論で行なわれてい
ることです。
そしてE,Bをこのように表わしたときには,divB=0,および,
rotE+∂B/∂t=0 は自動的に満足されます。
このΦ,Aを総称して,特に電磁ポテンシャルと呼ぶこともあり
ます。
そこで,ポテンシャルの4元ベクトル表現:
Aμ=(A0,A1,A2,A3)≡(Φ/c,A)から,その成分が
Fμν≡∂μAν-∂νAμ=∂Aν/∂xμ-∂Aμ/∂xν
の2階反対称テンソル(Fμν)を作ります。
そして,電場E,磁場BをE=(E1,E2,E3)≡-c(F01,F02,F03)
B=(B1,B2,B3)≡-(F23,F31,F12)と定義すれば,
これらが自動的にdivB=0 ,かつrotE+∂B/∂t=0 を満たす
ことは明白です。
つまり∂Fμν/∂xλ+∂Fνλ/∂xμ+∂Fλμ/∂xν=0 は,
Aμを決める方程式ではなく,Aμをどう取っても常に成立する
恒等式であることは,確かめるまでもなく明らかです。
一方,∂Fμν/∂xν=-sμ/(c2ε0)の方は,
(∂2Aν/∂xμ∂xν)-(∂2Aμ/∂xν∂xν)
=-sμ/(c2ε0),
または,符号を変えると,
(∂2Aμ/∂xν∂xν)-(∂2Aν/∂xμ∂xν)
=sμ/(c2ε0),(μ=0,1,2,3)となり,これがxμの未知関数
Aμを求める4個の微分方程式,という形になります。
Aμ=(A0,A1,A2,A3)≡(Φ/c,A)の成分の数は,もちろん
4個であり,方程式の数も4個ですから,
この形に書けば,先に基本方程式であるMaxwell方程式において,
未知関数の数と比べて方程式の数が過剰ではないか?と見えた
のは見掛けの上のことであったとわかります。
一方,実際の観測などによって電場Eと磁場Bがわかっている
場合:つまり,テンソル(Fμν)が確定している場合を想定して,
∂Aν/∂xμ-∂Aμ/∂xν=FμνなるFμνの定義式を,右辺の
Fμνに既知の値,または関数を与えたとき,未知関数Aμを定める
微分方程式であるという見方をしてみます。
これの左辺は,"ベクトルAμの4次元的な回転=rot(Aμ)"に相当
するので,この方程式は形式的にrot(Aμ)=Fμνと書けます。
そこで3次元ベクトルの渦無し場,または保存力場のアナロジー
で,この方程式:rot(Aμ)=(Fμν)の1つの解をAμとすると,
これに,rot(Bμ)=0 を満たす任意の渦無しベクトルBμを加え
ても,rot(Aμ+Bμ)=Fμνが満たされるため,(Aμ+Bμ)も
解になることがわかります。
ところが,rot(Bμ)=0 ならBμに対しあるxμのスカラー関数:
Λ=Λ(x)が存在して,Bμ=-∂μΛ=-∂Λ/∂xμ=-gradΛ
と表わせます。
しかも,Bμはrot(Bμ)=0 を満たす任意の4元ベクトルです
から,それを表現するΛ=Λ(x)も任意関数に取っていいです。
したがって,Aμが∂Aν/∂xμ-∂Aμ/∂xν=Fμνの解で
あれば,Λを任意関数として,Aμ-∂μΛもこれの解であると
いう性質があることがわかりました。
そして,∂Aν/∂xμ-∂Aμ/∂xν=Fμνは,
B=∇×A=rotA,E=-∇Φ-∂A/∂t
=-gradΦ-∂A/∂t なることを意味し,
Aμ→ Aμ-∂μΛなる変換は,Φ→ Φ-∂Λ/∂t,
A→ A+∇Λ=A+gradΛなることを意味します。
すなわち,電磁ポテンシャルAμをAμ-∂μΛと変えることは,
実際に観測される場である電場Eと磁場B,あるいは,
Fμν=∂Aν/∂xμ-∂Aμ/∂xνには何の影響も与えない
ことがわかります。
このAμ→ Aμ-∂μΛ,あるいは,Φ→ Φ-∂Λ/∂t,
A→ A+∇Λ=A+gradΛなる変換をゲージ変換
(gauge transformation)と呼び,この変換に対し理論が
何の影響も受けないことを,理論はゲージ不変である,
といいます。
そして,このスカラー関数Λ,あるいはその微分をゲージ(gauge)
と呼びます。
しかし,この変換でAμに対する基本方程式:
(∂2Aμ/∂xν∂xν)-(∂2Aν/∂xμ∂xν)=sμ/(c2ε0)
の方は,その形に変更を受ける可能性があります。
すなわち,方程式
(∂2Aμ/∂xν∂xν)-(∂2Aν/∂xμ∂xν)=sμ/(c2ε0)
において,Aμの代わりにA'μを代入すると,
(∂2A'μ/∂xν∂xν)-(∂2A'ν/∂xμ∂xν)=sμ/(c2ε0)
となりますが,A'μがゲージ変換:Aμ→A'μ≡Aμ-∂μΛ
=Aμ-∂Λ/∂xμ の結果として得られるものであれば,
左辺の第2項の(∂2A'ν/∂xμ∂xν)は,
(∂2A'ν/∂xμ∂xν)=(∂2Aν/∂xμ∂xν)
-{∂2(∂Λ/∂xν)/∂xμ∂xν}と書けます。
そこで,例えば,
(∂2Aν/∂xμ∂xν)-{∂2(∂Λ/∂xν)/∂xμ∂xν}=0
が満たされるようにゲージ Λを取ることができれば,
そのときには,基本方程式は,
(∂2A'μ/∂xν∂xν)=sμ/(c2ε0)
と簡単な形になります。
そこで,こういうゲージΛを取ることができたと仮定して,
(∂2Aν/∂xμ∂xν)-{∂2(∂Λ/∂xν)/∂xμ∂xν}=0
の両辺をxμで積分すると,これは,
∂Aν/∂xν-{∂(∂Λ/∂xν)/∂xν}=定数
となります。
したがって,この最後の条件となる等式の右辺の定数をゼロ
とおいた ∂μAμ=∂μ∂μΛ,または,∂Aμ/∂xμ
={∂(∂Λ/∂xμ)/∂xμ}が成立するようなΛが存在する
とき,言い換えると,変換後のA'μが∂A'μ/∂xμ=0 を満足
するようにできれば,
そのときは,電磁場の基本方程式は,
(∂2A'μ/∂xν∂xν)=sμ/(c2ε0)
と書けます。
(※ただし,右辺の定数はゼロでなくてもいいので,これは1つの
十分条件であり必要条件ではないです。)
一方,任意に与えられたAμに対し,Λを未知関数とする
微分方程式:∂μ∂μΛ=∂μAμ, or □Λ=∂μAμを
考えると,
これは解Λに右辺がゼロの斉次方程式:□χ=0 の一般解χだけ
の任意性があることを利用することで,任意の境界条件を満たす
一意解を持つことがわかります。
ここで,記号□は,□≡∂μ∂μ=∂2/∂xμ∂xμで定義される
D'Alembertianと呼ばれる微分演算子を示しています。
以上から,電磁場のベクトルポテンシャルとして,元々,
∂Aμ/∂xμ=0 なる条件を満たすようなゲージを取った
Aμを採用しておけば,電磁場の基本方程式は,最初から,
(∂2Aμ/∂xν∂xν)=sμ/(c2ε0),あるいは,
□Aμ=sμ/(c2ε0) と書けることになります。
このゲージを採用すれば,テンソル方程式としても対称な美しい
形であると感じます。
上記の∂Aμ/∂xμ=0 ,あるいは∇A+(1/c2)(∂φ/∂t)=0
なるゲージ条件はLorenz条件といわれ,この条件を満たすゲージ
はLorenzゲージ(ローレンスゲージ or ローレンツゲージ)と呼ば
れています。
Lorenz条件自体は,相対性理論の座標変換に対し不変のまま保存
される(共変な:covariant)ことが自明な形をしていますが,
Aμ → A'μ≡Aμ-∂μΛ=Aμ-∂Λ/∂xμ なる一般の
ゲージ変換は相対性理論の座標変換で不変に保たれる操作と
は限りません。
そこで,相対論的に共変でないゲージ,例えば良く使用される
もので,Φ/c=A0には関わりなくAのみが∇A=divA=0
を満たすべきである,というCoulombゲージなどは特定の座標系
に固定されたゲージですから,
S系 → S'系というように準拠系を乗り移ると,ゲージ条件が
破れてS'系では違う条件に従うゲージになってしまう,という
ことがあります。
まあ,それでもすぐ上に書いたように,
"実際に観測される場である電場Eと磁場B:
Fμν=∂Aν/∂xμ-∂Aμ/∂xνには何の影響も与えない"
のですが,見た目には美しくありません。
そこで古典電磁気学では相対論的に共変なLorenzゲージを採用
することが多いようです。
しかし,量子論ではゲージ条件が正準交換関係と矛盾するとか,
不定計量になるとかで確率解釈において困るなどの問題から,
素朴なLorenzゲージのみを用いて共変的量子化をすることは
不可能で,初期にはむしろCoulombゲージが使用されていたこと
が多いようです。
荷電粒子と光子の場の量子論であるQED(量子電磁力学)でも形
の上では共変でLorenzゲージと一致するものも取ることができ
ますが,それがLorenzゲージとは呼ばれず,Landauゲージと呼ば
れるのは上記のような問題があるからです。
系統的な共変的量子化の手続きでは,Aμの他にBという補助場
を導入して,ダミーのスカラー場C≡∂Aμ/∂xμ+αBを作り
α-1C2という項を含む場のLagrangian密度から,変分原理によっ
て得られる場の方程式=運動方程式のうちの1つであるC=0,
つまり,∂Aμ/∂xμ+αB=0 なる方程式を考慮することで
ゲージを一意に固定してゲージ変換の任意性を取除きます。
つまり,∂Aμ/∂xμ+αB=0 が場を支配する運動方程式の
1つとなり,この方程式において特にα=0 のLandauゲージを
取った場合がLorenz条件:∂Aμ/∂xμ=0 と一致するという
わけです。
しかし,補助場Bがある場合,
もう1つの方程式のsμ=0 のときの自由場の運動方程式の形
が,□Aμ=0 ではなく,□Aμ-(1-α)B=0 で与えられる
という事情があるため,
α=0 の場合には,方程式の1つが∂Aμ/∂xμ=0 と一致し
ても,Lorenzゲージと呼ばれないのですね。
ただ,∂Aμ/∂xμ+αB=0 は相対論的に共変な等式なので,
この意味で共変ゲージはαの数だけ無数にありますが,
場の方程式:□Aμ-(1-α)B=0 が古典論の共変な方程式:
□Aμ=0 に一致する場合に相当する,α=1 の特別な場合は
Feynmanゲージと呼ばれています。
電磁場は,そのLagrangianが特異であり,それ故,ゲージの自由度
を持つわけですが,その特異性のため,
古典論でも単純なPoisson括弧による正準理論として扱うことは
できなくてPoisson括弧を修正したDirac括弧を用いることが必要
になります。
そうしたわけで,電磁場ではゲージを固定せずには,普通の正準
量子化によって共変的量子化を行なうことは不可能です。
従来から場を表現する空間であるHilbert空間の方に,"その個々
のベクトルが物理的に許される状態であるために必要な条件=
付帯条件(subsidary condition)"を課すことで量子化された場
そのものに生じる困難に対処してきました。
(→ ※ 例えばGupta-Bleulerの方法など※)
上に挙げた例では,α=0 のLandauゲージの場合には,
∂Aμ/∂xμ=0 かつ,□Aμ-B=0 が成立しますが,
補助場Bの正エネルギー部分=正振動数部分
(positive frequency part)をB(+)として,
B(+)|ψ>=0 を満足する|ψ>のみが物理的に許される
状態であるという付帯条件を与えます。
こう規定すれば,実質上このゲージでも□A(+)μ=0 が成立する
と見なせます。
また,α=1 のFeynmanゲージでは∂Aμ/∂xμ+B=0,
かつ □Aμ=0 ですが,これは実質上∂A(+)μ/∂xμ=0 ,
かつ□Aμ=0 なることを示しています。
結局,どのαでも共変ゲージとしては同等である,
と考えられます 。
このように,一連の量子化の手続きを補助場Bの導入によって
体系化し,電磁場Aμの4元運動量がゼロ質量の光子に対応する
Minkowski空間のヌルベクトル(null-vector)であることから,
不定計量の状態空間を扱うことを余儀なくされるため生じる
dipoleゴーストなどの非物理的存在を観測可能量から排除し
電磁場の共変的量子化を完成させた理論は,中西-Lautrap理論
として知られています。
既に脱線していますが,さらに量子論の話に脱線します。
電磁場のようにゲージ不変な場のことをゲージ場と呼ぶのです
が,ゲージ場に対応する粒子は電磁場の場合の光子のように質量
がゼロのベクトル粒子であり,それ故Bose粒子(Boson)です。
質量がゼロでなければゲージ不変性が満たされないという事実
があるにも関わらず,素粒子場の電磁相互作用とは別の相互作用
において,その力を媒介するゲージボゾンの中に有限な質量のあ
る粒子が存在する場合があります。
これはゲージ不変性を保証していた対称性が自発的に破れた際に
ヒッグス機構(Higgs mechanism)などによって,元々ゼロ質量だっ
た粒子が有限質量を獲得する場合があるためです。
さて,次に物質粒子を示す場の理論において存在する対称性と
ゲージ変換,あるいはゲージ場の関連性について述べてみます。
まず,電磁場(光子)と共に荷電粒子を含む系を対象とする量子
電磁力学において,電子などの物質粒子の波動関数,あるいは,
それが第二量子化された粒子場は,粒子がFermi粒子(Fermion)
である場合なら一般にスピノル(spinor)で与えられます。
そこで光と電磁相互作用する物質場の粒子がFermi粒子である
として,この粒子の場を表現するスピノルをψ(x)とします。
そして,これに対する1パラメータの位相変換:
ψ(x)→ exp(iθ)ψ(x)を考えます。
特に,パラメータθが無限小の場合,θの代わりにεと書けば
exp(iε)~ 1+iεによって,
同じ位相変換は,ψ(x) → (1+iε)ψ(x) と書けます。
この位相変換に対して,自由粒子のLagrangian密度:
L=ψ+γ0(iγμ∂μ-m)ψは明らかに不変です。
しかし,もしも位相変換が全ての時空点xμに対して共通な
大域的変換ではない場合,すなわち,パラメータのθまたはε
が定数でなく時空座標xμの関数で与えられ,
θ=θ(x),またはε=ε(x)であるような局所的変換の場合,
Lagrangian密度は,L=ψ+γ0(iγμ∂μ-m)ψ
→ L'=ψ+γ0(iγμ∂μ-m)ψ-γ0γμ∂μθと変換され,
不変ではなく,余分な項がでてきます。
ところが,Lagrangian密度が,自由粒子のそれ:
L=ψ+γ0(iγμ∂μ-m)ψではなく,電荷eを持った粒子
が電磁場Aμと相互作用している場合のそれ,であるとすれば,
この相互作用の効果は,いわゆる極小相互作用変換
(minimal interaction):pμ=i∂μ→ pμ-eAμ
=i∂μ-eAμで表現されますから,
自由粒子のLagrangian密度に対し,この極小相互作用変換を
実際に行なえば,新しく得られるLagrangian密度の形は
L=ψ+γ0[γμ(i∂μ-eAμ)-m]ψ(x)となるため,
ψ(x)→ exp[iθ(x)]ψ(x)なる位相変換と同時に,
eAμ→eAμ-∂μθなるゲージ変換がなされるなら,
局所変換に対しても,こうしたFerm粒子のLagrangian密度
は不変になります。
さらに,"自由な電磁場=光子"自身のLagrangian密度をLphと
すると,Lph=(1/2)(ε0E2-μ0-1B2)=-(c2ε0/4)FμνFμν
ですから,
これは,eAμ→ eAμ-∂μθなるゲージ変換に対して不変な
量のみから構成されています。
したがって,電荷eを持つ自由な荷電粒子があるだけでは,
局所的位相変換に対して不変でなかった理論に"電磁場=光子"
というゲージ場を加えることで理論が不変になった,
という見方ができます。
この考えを発展させて,スピノルψ(x)が,唯1種類の粒子だけで
なく独立な属性(例えばcolor)を持つ複数種類の粒子;ψi(x)
(i=1,2,3,.)の集まりである場合を想定して,
これに対する位相変換のパラメータはQEDの場合のようにθ,
またはεの唯1つでなく,複数の値θk またはεk(k=1,2,3,.)
で与えられるとします。
通常の座標軸のまわりの回転が角運動量LやJの軸成分を持つ
ベクトルで表わされるのと同様,
抽象空間におけるk軸のまわりのθkの回転が,k軸方向
の角運動量演算子に相当する生成子:Lkにより,θkLk
で与えられるとすることができます。
そして,各々の生成子:Lkは,一般にはψi(x)を成分とする
縦ベクトルに作用する行列作用素で表現され,対応する粒子
場の位相変換は,ψ(x) → exp(iΣkθkLk)ψ(x)で与えら
れます。
しかし,これらパラメータが複数の局所位相変換に対して,
自由粒子場のLagrangian密度を不変にするために必要な複数
のゲージ場は,Lkが行列であることからも想像されるように,
"電磁場=光子場"のような可換なゲージ場ではなく,一般に
非可換な場であり,ゲージ変換も,電磁場のそれである:
eAμ→ eAμ-∂μθのような単純な変換でなく,いくらか
複雑になり非線形な項も出現します。
こうした原理=ゲージ原理を初めて導入したのは,ヤン(C.N.Yang)
とミルズ(R.L.Mills)です。
それ故,ゲージ場はYang-Mills場,上に考察したゲージ理論は
Yang-Mills理論と呼ばれることがあります。
いずれにしても,
上では引数xμを省略してθk(x)を単にθkと書きました
が,理論が局所的変換θk=θk(x)に対して不変であるなら,
これは,あらゆる時空点:x=xμに対しθk(x)が同一である;
つまり,θk(x)=θk(定数)の場合も特別な場合として含んで
いますから,大域的変換に対しても,もちろん理論は不変です。
しかしながら,逆に理論に"大域的対称性=大域的不変性"が
あっても,"局所的対称性=局所的不変性"があるとは限りません。
内山先生が,生前,Yang and Millsとは独立に発見したと述べられ
ていて,もうちょっと早く発表していれば,Yang-Mills場ではなく,
ウチヤマ場になっていたのではないか?と悔やんでいたらしく,
実際には,自身の発見よりかなり後,自分の論文のReferenceに,
Yang and Millsの論文をも添えている1956年の論文を,私的には
Yang and Millsの有名な論文と並べて,共にゲージ理論の代表的
参考文献として挙げておきます。
余談はさておき,最後に上述の位相変換を連続群の一種である線形
Lie群に属する変換群の表現であると見て,位相変換に対する理論
の不変性は"対応する変換群に対して理論が不変である"という対
称性を持つと見なし,
粒子場やゲージ場は群のユニタリな既約表現や随伴表現で分類
されるとする系統的な見方をしてみます。
こう見たときには,電磁気力を媒介するゲージ粒子として
"光子=電磁場"を必要とする,可換な1パラメーターの位相変換
は1パラメータの線形Lie群の1つである1パラメータユニタリ
群であるU(1)に対応していて,
上で行なった位相変換不変性は量子電磁力学の理論がU(1)不変
であるという対称性を持つことを意味しています。
一方,例えばquark(クォーク)を結合させる強い相互作用を媒介
する非可換なゲージ場に対応するgauge Boson(ゲージボソン)は,
color gluon(カラーグルオン)と呼ばれており,
これを必要とする対称性変換である複数パラメーターを持った
ユニタリ変換群は,カラーSU(3)群と呼ばれています。
こうした,U(n)やSU(n)のような変換群に属する位相変換の
局所変換対称性に伴なう非可換ゲージ場の共変的量子化は,電磁
場の場合よりもかなり複雑ですが,
基本的には補助場Bを導入して行なわれる電磁場の量子化の
"中西・Lautrap理論"の直線的な応用で与えられます。
これは,Faddev-popovゴースト(FP-ghost)のようなゴースト
場を用いてゲージを固定する定式化を行なうことなどによって,
中西氏の教え子?であろう九後・小嶋(オジマ)氏により,スマート
な付帯条件が与えられて完成されました。
なお,理論の大域的対称性と密接に関係して現われる保存量に
ついてのNoetherの定理と関連した過去の記事をいくつか,列挙
しておきます。よろしければ参照してください。
まず,2006年9/6の「不確定性,相補性とネーターの定理」,
9/8の「ポアンカレ群と粒子のスピン」,10/8の
「WKB近似,ハミルトン・ヤコービ方程式,経路積分」,
さらに,2007年5/7の
「量子化された場と調和振動子(パラ統計)」,
8/7の「場の演算子とリー群(Lie群)の生成子」,
11/2の「解析力学の初歩」,
そして,2008年2/29の「ネーターの定理と場理論」
などがあります。
また,記事の順番は違うし,ちょっとマニアックな話題ですが
2008年2/21,2/25の「非ネーター保存量」,および,
「非ネーター保存量(続き) 」 もあります。
参考文献:
1.メラー 著(永田恒夫,伊藤大介 訳)「相対性理論」(みすず書房)
2.中西 襄(のぼる) 著「場の量子論」(培風館)
3.九後汰一郎「ゲージ場の量子論Ⅰ,Ⅱ」(培風館)
4.C.N.Yang and .L.Mills,Phys.Review.Vol.96,p191-(1954)
5.Ryoyu.Utiyma(内山龍雄)
“Invariant Theoretical Interpretation of Interaction”
(Institute for Advanced Study.Princeton New Jersey,
Received July 1955),Physical Revie,Vol.101,pp1597-1607(1956)
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