強い相互作用(湯川相互作用)(10)
科学記事の原稿をアップしようと,いろいろ平行して記事を画策
していましたが,結局,今年最初の科学記事としては,手っ取り早
く安易な道を選択し,過去ノートがある非電磁相互作用の項目と
なりました。
更新を休んでいた「強い相互作用(湯川相互作用)(9)」からの
続きで,その記事の最後で予告していたπ-N散乱からです。
§10.6 Meson-Nucleon Scattering (中間子-核子散乱)
次の図10.8のFeynman-diagramは,結合定数:g02/(4π)の
オーダーでの最低次の,核子による中間子の散乱を記述し
ています。
Ruleによって,散乱振幅(S行列要素)は,
Sfi=(2π)4δ4(q2+p2-q1-p1)
(2π)-6{M2/(4Ep1Ep2ωq1ωq2)}1/2M ,
M=(-ig0)2χ2+u~(p2,s2)
×[τφ2*iγ5i{γ(p1+q1)-M}-1iγ5τφ1+τφ1iγ5
i{γ(p1-q2)-M}-1iγ5τφ2*]u(p1,s1)χ1
と表わすことができます。
ここで,交叉対称性(Crossing symmetry)に着目します。
すなわち,Sfiは,φ1⇔φ2*,q1⇔-q2なる交換の下で不変です。
この交換の下での対称性は,最低次だけでなく全ての高次の摂動
においても保持されることがわかります。
Feynman-diagramから,10.8a図のように,終状態でπが放出される
より前に始状態で入射するπが吸収されるようなグラフの各々に
対して,10.8b図のように終状態でπが放出されるより後に始状態
で入射するπが吸収されるだけ異なるグラフが1つずつ存在します。
さて,M=(-ig0)2χ2+u~(p2,s2)
[τφ2*iγ5i{γ(p1+q1)-M}-1iγ5τφ1+τφ1iγ5
i{γ(p1-q2)-M}-1iγ5τφ2*]u(p1,s1)χ1 において,
Feynman伝播関数因子の分母を有理化してガンマ行列の個数を
減らします。
すなわち,
{γ(p1+q1)-M}-1=1/{γ(p1+q1)-M}
={γ(p1+q1)+M}/{(p1+q1)2-M2}
={γ(p1+q1)+M}/(2p1q1+μ2),および,
{γ(p1-q2)-M}-1=1/{γ(p1-q2)-M}
={γ(p1-q2)+M}/{(p1-q2)2-M2}
={γ(p1-q2)+M}/(-2p1q2+μ2)
です。
また, (γp-M)u(p,s)=0 なので,
u~(p',s')iγ5{γ(p+q)+M}iγ5u(p,s)
=u~(p',s'){γ(p+q)-M}u(p,s)
=u~(p's')(γq)u(p,s)
ですから.
M=-ig02χ2+u~(p2,s2)
[(τφ2*)(τφ1)(γq1)(2p1q1+μ2)-1+(τφ1)(τφ2*)
(-γq2)(-2p1q2+μ2)-1]u(p1,s1)χ1
が得られます。
さて,ここで議論を低エネルギーに制限して,
(1/M)のオーダーのS波散乱項と,(1/M2)のオーダーのP波散乱
項のみを残します。
そして,重心系(慣性中心系)と考えて静的近似を行えば,
M ~(-ig02/M)[u+(s2)u(s1)(χ2+χ1)(φ2*φ1)]
-{ig02/(4M2ω)}u+(s2)χ2+u+(s2)×
[(τφ2*)(τφ1)(σq2)(σq1)-(τφ1)(τφ2*)(σq1)(σq2)]
u(s1)χ1 となります。
※(注10-1):何故なら,4成分spinoru(p,s)を,正エネルギー核子
の大成分:u(s)と小成分:u(p)の2つの2成分spinorに分けて,
u(p,s)≡t(u(s),u(p))と表現すれば,
(γp-M)u(p,s)=0 は,
(E-M)u(s)-(σp)u(p)=0,および,
(σp)u(s)-(E+M)u(p)=0 です。
故に.u(p)=(σp)u(s)/(E+M);
E=(M2+p2)1/2
~ M{1+(1/2)p2/M2}=M+O(p2/M2)M
と書けます。
よって,u(p)={(σp)/(2M)+O(p2/M2)}u(s)です。
|p|<<Mとして,(1/M)の3次以上の項を無視すると,
u(p,s)=t(u(s),u(p))
~ t(u(s),(σp)u(s)/(2M))
u+(p,s)=(u+(s),u+(p))
~ (u+(s),(σp)u+(s)/(2M))
そこで.
-ig02χ2+u~(p2,s2)(τφ2*)(τφ1)(γq1)(2p1q1+μ2)-1
u(p1,s1)χ1 において,
u~(p2,s2)(γq1)u(p1,s1)
~ (u+(s2),(σp2)u+(s2)/(2M))(q10-γ0γq1)
×t(u(s1),(σp1)u(s1)/(2M)) ですが,
重心系では,p1+q1=0 ⇔ p1=-q1 かつ,
p2+q2=0 ⇔ p2=-q2 です。
さらに,静的近似ではq12 ~q22 ~ q2で,それ故,
q10=(q12+μ2)1/2 ~ q20=(q12+μ2)1/2 ですから,
ω≡q10=(q12+μ2)1/2とおけば,ω ~ q20=(q12+μ2)1/2
です。
そして,γ0γqは(σq)を2次の反対角細胞とする
細胞反対角行列:
なので.
(u+(s2),(σp2)u+(s2)/(2M))(q10-γ0γq1)
×t(u(s1),(σp1)u(s1)/(2M))
=u+(s2)[ω+{(σq2)(σq1)+(σq1)(σq1)}/(2M)]u(s1)
+O(q2/M2)
=u+(s2)u(s1)[ω+q12/(2M)]
+u+(s2)(σq2)(σq1)u(s1)/(2M)
+O(q2/M2)
となります。
また,(2p1q1+μ2)-1=1/(2p1q1+μ2)
=1/(2Eω+2q12+μ2)=1/(2Eω+q12+ω2)
={1/(2Mω)}{1-(q12+ω2)/(2Mω)}+O(q2/M2)
=1/(2Mω)-(q12+ω2)/(4M2ω2)}+O(q2/M2)
です。
結局,u~(p2,s2)(γq1)u(p1,s1)(2p1q1+μ2)-1
=[u+(s2)u(s1){ω+q12/(2M)}
+u+(s2)(σq2)(σq1)u(s1)/(2M)+O(q2/M2)]
×[1/(2Mω)-(q12+ω2)/(4M2ω2)]+O(q2/M2)]
~u+(s2)u(s1){1/(2M)-ω2/(4M2ω)}
+u+(s2)(σq2)(σq1)u(s1)/(4M2ω)
を得ます。
したがって,
-ig02χ2+u~(p2,s2)(τφ2*)(τφ1)(γq1)(2p1q1+μ2)-1
u(p1,s1)χ1
~ {χ2+(τφ2*)(τφ1)χ1}
×[{-ig02/(2M)}u+(s2)u(s1)-{-ig02ω2/(4M2ω)}
u+(s2)u(s1)
―{ig02/(4M2ω)}u+(s2)(σq2)(σq1)u(s1)]
が得られます。
同様に,
-ig02χ2+u~(p2,s2)(τφ1)(τφ2*)(-γq2)(-2p1q2+μ2)-1
u(p1,s1)χ1 では,
u~(p2,s2)(-γq2)u(p1,s1)
~ (u+(s2),(σp2)u+(s2)/(2M))(-q20+γ0γq2)
×t(u(s1),(σp1)u(s1)/(2M))
=[u+(s2)u(s1){-ω-q22/(2M)}
-u+(s2)(σq2)(σq1)u(s1)/(2M)+O(q2/M2)]
であり,
(-2p1q2+μ2)-1=1/(-2p1q2+μ2)
=1/(-2Eω-2q1q2+μ2)
=1/(-2Eω-2q1q2-q22+ω2)
={-1/(2Mω)}{1-(q22+2q1q2-ω2)/(2Mω)}
+O(q2/M2)
=-1/(2Mω)+(q22+2q1q2-ω2)/(4M2ω2)}
+O(q2/M2) です。
結局,u~(p2,s2)(-γq2)u(p1,s1)(-2p1q2+μ2)-1
=[u+(s2)u(s1){-ω-q22/(2M)}
-u+(s2)(σq2)(σq1)u(s1)/(2M)+O(q2/M2)]
×[-1/(2Mω)+(q22+2q1q2-ω2)/(4M2ω2)+O(q2/M2)]
~ u+(s2)u(s1){1/(2M)+ω2/(4M2ω)}
-u+(s2)(σq1)(σq2)u(s1)/(4M2ω)
を得ます。
ここで,-2q1q2+(σq2)(σq1)=-q1q2+iσ(q2×q1)
=-q1q2-iσ(q1×q2)=-(σq1)(σq2)
を用いました。
故に,
-ig02χ2+u~(p2,s2)(τφ1)(τφ2*)(-γq2)(-2p1q2+μ2)-1
u(p1,s1)χ1
~ {χ2+(τφ2*)(τφ1)χ1}
×[{-ig02/(2M)}u+(s2)u(s1)+{-ig02ω2/(4M2ω)}
u+(s2)u(s1)
―{ig02/(4M2ω)}u+(s2)(σq1)(σq2)u(s1)]
が得られます。
さらに,部分的に(τφ2*)(τφ1)=φ2*φ1+iτ(φ2*×φ1)
を用いると,
M=-ig02χ2+u~(p2,s2)[(τφ2*)(τφ1)(γq1)
(2p1q1+μ2)-1+(τφ1)(τφ2*)(-γq2)(-2p1q2+μ2)-1]
u(p1,s1)χ1は,次のようになります。
すなわち,
M ~ (-ig02/M)[u+(s2)u(s1)(χ2+χ1)(φ2*φ1)]
-{ig02/(4M2ω)}u+(s2)χ2+u+(s2)×
[(τφ2*)(τφ1)(σq2)(σq1)-(τφ1)(τφ2*)(σq1)(σq2)]
u(s1)χ1 です。
(注10-1終わり)※
M ~ (-ig02/M)[u+(s2)u(s1)(χ2+χ1)(φ2*φ1)]
-{ig02/(4M2ω)}u+(s2)χ2+u+(s2)
×[(τφ2*)(τφ1)(σq2)(σq1)
-(τφ1)(τφ2*)(σq1)(σq2)]u(s1)χ1
において,
右辺第1項:(-ig02/M)[u+(s2)u(s1)(χ2+χ1)(φ2*φ1)]
は,Spinにもisotopic-spinにも独立な相互作用です。
これは,非相対論的に,Born近似のポテンシャル:
V(r)≡{g02/(2μM)}δ3(r)=6f2M{4π/(3μ3)}δ3(r)
によって記述されるものと同等です。
ただし,f2≡{g02/(4π)}{μ/(2M)}2であり,r≡rπ-RNです。
※(注10-2):何故なら,
Sfi=(2π)4δ4(q2+p2-q1-p1)
(2π)-6{M2/(4Ep1Ep2ωq1ωq2)}1/2M
M=(-ig0)2χ2+u~(p2,s2)
[τφ2*iγ5i{γ(p1+q1)-M}-1iγ5τφ1+τφ1iγ5
i{γ(p1-q2)-M}-1iγ5τφ2*]u(p1,s1)χ1
へのMの近似式の第1項:
(-ig02/M)[u+(s2)u(s1)(χ2+χ1)(φ2*φ1)] の寄与は,
|p1|,|p2|,|q1|,|q2|<<M,μのとき.Ep1~Ep2~M,
ωq1~ωq2 ~μより,
(2π)4δ4(q2+p2-q1-p1)(2π)-6{-ig02/(2μM)}
[u+(s2)u(s1)(χ2+χ1)(φ2*φ1)] です。
一方,ポテンシャル:
V(r)≡{g02/(2μM)}δ3(r);r≡rπ-RN
による散乱のBorn近似は,
-2πiδ(Ef-Ei)<p2,q2,s2,χ2,φ2|V|p1,q1, s1,χ1,φ1>
=2πδ(q20+p20-q10-p10)(2π)-6{-ig02/(2μM)}
×[u+(s2)u(s1)(χ2+χ1)(φ2*φ1)]∫d3RNd3rπ
[exp(-ip2RN-iq2rπ)δ3(rπ-RN) exp(ip1RN+iq1rπ)]
=(2π)4δ4(q2+p2-q1-p1)(2π)-6{-ig02/(2μM)}
[u+(s2)u(s1)(χ2+χ1)(φ2*φ1)] となるからです。
あるいは,このπ-N散乱を,π中間子のポテンシャル散乱と考える
と,核子Nは散乱の前後で固定されていて,p1-p2=0 なので,
Born近似から,(2π)4δ4(q2+p2-q1-p1)の因子が得られ,やはり
双方の一致を見るからです。
(注10-2終わり)※
途中ですが,この項目はまだ先があって長くなる予定なので,
ここで一旦終わります。
(参考文献:J.D.Bjorken S.D.Drell "Relativistic Quantum Mechanics" (McGrawHill)
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コメント
(注10-1終わり)の前
{ig02/(4M2ω2)} → {ig02/(4M2ω)}
これだけ残ってます。
投稿: hirota | 2013年2月 6日 (水) 17時35分
τφ2*iγ5i{γ(p1+q1)-M}]-1iγ5τφ1 → τφ2*iγ5i{γ(p1+q1)-M}-1iγ5τφ1
τφ1iγ5i{γ(p1-q2)-M}]-1iγ5τφ2* → τφ1iγ5i{γ(p1-q2)-M}-1iγ5τφ2*
[1/(2Mω)-(q12+ω2)/(4M2ω2)]+O(q2/M2)] → [1/(2Mω)-(q12+ω2)/(4M2ω2)]+O(q2/M2)
投稿: hirota | 2013年1月11日 (金) 21時04分