強い相互作用(湯川相互作用)(11)
「強い相互作用(湯川相互作用)」のπ-N散乱の続きです。
余談ですが,この原稿も夢中で書いてると意外に長くなりました。
このところ,寒さのせいか有名人の訃報続きで,半分義務的に訃報
記事をアップする必要もあり,また,今日は日曜日ですが昼前には
出勤する必要があって,朝7時前の起床から今(午前11時過ぎ)まで
まだ,朝飯もトイレも保留中です。
まあ,個人の趣味なので自業自得で仕方ないのですが忙しい。。
さて,本文に入ります。
π-N散乱の最低次の散乱振幅は,
Sfi=(2π)-6{M2/(4Ep1Ep2ωq1ωq2)}1/2
(2π)4δ4(q2+p2-q1-p1)M :
M=(-ig0)2χ2+u~(p2,s2)
[τφ2*iγ5i{γ(p1+q1)-M}1iγ5τφ1
+τφ1iγ5i{γ(p1-q2)-M}-1iγ5τφ2*]u(p1,s1)χ1
であり,
これの|p1|,|p2|,|q1|,|q2|<<M, μ のときの
重心系での非相対論的近似がu(p,s)≡t(u(s),u(p))
とおいて,
M ~ (-ig02/M)[u+(s2)u(s1)(χ2+χ1)(φ2*φ1)]
-{ig02/(4M2ω)}u+(s2)χ2+u+(s2)[(τφ2*)(τφ1)
(σq2)(σq1)-(τφ1)(τφ2*)(σq1)(σq2)]u(s1)χ1
と書けること,
そして,この近似式の右辺第1項:
(-ig02/M)[u+(s2)u(s1)(χ2+χ1)(φ2*φ1)]
の,散乱振幅Sfiへの寄与が,
ポテンシャル:V(r)≡{g02/(2μM)}δ3(r)
=6f2M{4π/(3μ3)}δ3(r);r≡rπ-RNによるπ中間子の
ポテンシャル散乱の最低次の近似であるBorn近似に一致する
こと,を見ました。
前のN-N散乱の項目において,無次元化された結合定数の平方:
f2≡{g02/(4π)}{μ/(2M)}2の値が0.08程度と評価されました。
今のπ-N散乱でも,この評価値が成立すると仮定すれば,
このf2 ~ 0.08は,πのV(r)によるポテンシャル散乱
の摂動論においては,S波の散乱の長さとして,
(4M2/μ)/μ ~ 2/μ ~ 2.8×10-13cm
という大きな値を与えます。
※(注11-1):π-N散乱をπ中間子が,
V(r)=6f2M{4π/(3μ3)}δ3(r)=(8πf2M/μ3)δ3(r)
なる中心力ポテンシャルによって散乱される1粒子量子力学
のポテンシャル散乱現象と考えると,
散乱振幅:f(θ)は,Born近似で,
f(θ)=-4π2μ<q2|V(r)|q1>
と書けます。
すなわち,2007年8/21の記事「S行列とレッジェ理論(1)」
で書いたように,
散乱状態の境界条件:
r→∞でΨ(r) ~ exp(ikr)+f(θ) exp(ik'r)/r
(θはkとk'のなす角)を満たす,
Helmholtzの方程式:(∇2+k2)Ψ(r)=U(r)Ψ(r)の解の
波動関数Ψ(r)について,
散乱振幅:f(θ)をf(k,k')と表わすとき,
(∇2+k2)Ψ(r)=U(r)Ψ(r)の両辺に (∇2+k2)-1を掛けた
積分方程式から,iterationによって摂動級数を作った第1項
の最低次の近似であるBorn近似は,
-4πf(k,k') ~ <k'|U|k>
=∫d3rexp(-ik'r)U(r)exp(ikr)
で与えられます。
ところが,(∇2+k2)Ψ(r)=U(r)Ψ(r)は,
Schroedinder方程式:[∇2/(2μ)+k2/(2μ)]Ψ(r)
=V(r)Ψ(r)の両辺に2μを掛けて得られた方程式
であり,U(r)≡2μV(r) です。
それ故,f(θ)=f(k,k')
~ -(1/4π)<k'|U|k>
=-(1/4π)∫d3rexp(-ik'r)U(r)exp(ikr)
=-(μ/2π)∫d3rexp{i(k-k')r}V(r) です。
そこで,状態:|k>の座標表示<r|k>を,上記の
-4πf(k,k')~ <k'|U|k>=(μ/2π)∫<k'|V|k>
におけるexp(ikr)でなくて,通常の規格化である
(2π)-3/2exp(ikr)で表現すると,
f(θ) ~ -(μ/2π)(2π)3<k'|V(r)|k>
=4π2μ<k'|V(r)|k> となります。
そこで,今の場合はf(θ)=-4π2μ<q2|V(r)|q1>
=-(μ/2π)∫d3rexp{i(q1-q2)r}V(r)
=-(μ/2π)∫d3rexp{i(q1-q2)r}(8πf2M/μ2)δ3(r)
=-4f2M/μ2 と書けます。
一般に,f(θ)=Σl=0∞(2l+1)al(q)Pl(cosθ)
=(1/q)Σl=0∞(2l+1)exp(iδl)sinδlPl(cosθ)
と展開して,al(q)≡exp(iδl)sinδl/qを部分波振幅
と呼びます。
こうした部分波展開や位相のずれ(Phase-shift):δl等については,
2007年8/23の過去記事「S行列とレッジェ理論(2)」を参照して
ください。
上記のBorn近似のf(θ) ~ -4f2M/μ2は角度θに無関係なので,
l=0 のS波のみに寄与するものと考えられます。
したがって,-4f2M/μ2=(1/q)exp(iδ0)sinδ0=a0(q)
を得ます。
S波の散乱の長さ:aは,qがゼロの低エネルギーの極限での
位相のずれ:δ0がqaなること:
a≡-lim q→0 (sinδ0/q)で定義されるので,
今のπ-N散乱での散乱の長さは,
a=a0(k)=4f2M/μ です。
,
これは,低エネルギーの極限:波数がq ~1/λ ~ 0 では,
exp(ikr)+f(θ)exp(ik'r)/r~ exp(ikr)+(a/r)
となって,
散乱の有効レンジがaであること:
つまり,ポテンシャルVが示す力の及ぶ範囲がr≦aである
こと:力の到達距離がa程度であることを示唆するものです。
そして,このaの値を次元解析によって,自然単位から実際の
長さの単位に戻すと,a=4f2Mchc/μ です。
そこで,M ~ 940 MeV,μ ~ 140 MeV,f2 ~ 0.08,
hc≡h/(2π)=6.6×10-22 MeV・sec,c=3.0×1010cm/ sec
を代入して試算すると,a ~ 2.9×10-13cm を得ます。
テキストの a ~ 2.8×10-13cmとは,ほんの僅かだけ値が違い
ますが,これは力の到達距離の大体のオーダーの計算であり,
気にする程のことはないでしょう。
(注11-1終わり)※
ポテンシャル:V(r)=6f2M{4π/(3μ3)}δ3(r)
=(8πf2M/μ3)δ3(r) によれば,
相互作用は斥力でありDiracのデルタ関数から非相対論近似
では,そのレンジ(到達距離)がゼロという短距離斥力ですから,
現実には,これは非常に小さい効果を示すのみです。
これを図10.9に示しますが,これに描かれている強い短距離
の斥力ポテンシャルは,オーダーがδ ~ qa の位相のずれ
を生ぜしめます。
先に記述したように,aは散乱長でポテンシャルのレンジ
(到達距離)を表わすものです。
核子Nの反跳補正から,a~ 1/Mであり,低エネルギーのS波
π-N散乱の寄与は小さいことが予想されます。
※(追加補足):↑ここは,後で説明不足と感じたので補足します。
最も簡単な評価法として,先のN-N散乱では,核子間に働く核力の
レンジは仲介するπ中間子の質量μによって,~ 1/μ(=hc/(μc))
と評価されることを見ました。
今の場合のπN散乱では仲介するのは,πでなく核子なので,レンジ
(or 最も効くS波の散乱長)は ~ 1/M(=hc/(Mc))と評価される
わけです。
これは核子の質量が∞で原点に静止していると見るポテンシャル
散乱近似では,実際には質量がMの核子がπの衝突を受けて反動
を受ける反跳効果という描像で理解されます。
(補足終わり)※
これは不当なBorn近似を適用して得られた大きな振幅 ~1/μ
に相反するもので,実際にはa~ 1/Mなることが実験事実から
見出されています。
※(注11-2):S行列の理論によれば,
運動量以外の量子数をζ,ζ'とすれば,遷移不変性から,
P,ζ> → |P',ζ'>のS行列要素は
<P',ζ'|S^|P,ζ>
=<P',ζ'|1+iδ4(P'-P)R^|P,ζ>
なる形に書けることがわかっています。
それ故,運動量p1,p2を持つ2粒子が衝突して,
それぞれ,運動量p1',p2'を持つ状態に散乱されるときの
微分断面積:dσ/dΩに対応する散乱の総断面積σをσsc
と書けば,
σsc=V/(vT)Σζ'∫d3p1'd3p2'
δ4(P'-P)|<p1',p2',ζ'|R^|p1,p2,ζ>|2
となります。
ただし,Pμ=p1μ+p2μ,Pμ'=p1μ'+p2μ'であり,
vは衝突する2粒子の相対速度の大きさです。
ここで,衝突の前後で,p1=P/2+p,p2=P/2-p,
および,p1'=P'/2+p',p2'=P'/2-p'とおけば,
d3p1'd3p2'=d3P'd3p'です。
こう書けば,P,P'は総運動量,p,p'は重心系での相対運動量
を表わします。
計算の慣例により,V=(2π)3,T=2πとすれば,
σsc={(2π)2/v}Σζ'∫d3p'δ(W'-W)
|<P,p',ζ'|R^|P,p,ζ>|2
={(2π)2/v}Σζ'∫p'2dp'(dp'/dW')dΩ'
|<P,p',ζ'|R^|P,p,ζ>|2W=-W'
と書けます。
故に,v'≡dW/dpと定義すれば,
dσsc/dΩ={(2π)2/v}(p2/v')
|<P,p',ζ'|R^|P,p,ζ>|2W=-W'
=(p/p')
|2π(p'/v')1/2<P,p',ζ'|R^|P,p,ζ>(p/v)1/2|2W=-W'
となります。
そこで,<P,p',ζ'|f^|P,p,ζ>
≡2π(p'/v')1/2<P,p',ζ'|R^|P,p,ζ>(p/v)1/2
とおけば.
dσsc/dΩ=(p/p')|<P,p',ζ'|f^|P,p,ζ>|2
となります。
ところで, 今のπ-N散乱のケースでは,重心系:P=P'=0
であり.p=q1,p'=q2でζ=(s1,φ1),ζ'=(s2,φ2)
ですから,
<P,p',ζ'|R^|P,p,ζ>
=<0,q2,s2,φ2|R^|0,q1,s1,φ1> です。
そして,上で見たように,散乱振幅は,
Sfi=(2π)-6{M/(2μ)}(2π)4δ4(q2+p2-q1-p1)M
で与えられ,
不変振幅:Mは,低エネルギーでは、
M ~ (-ig02/M)[u+(s2)u(s1)(χ2+χ1)(φ2*φ1)]
-{ig02/(4M2ω)}u+(s2)χ2+u+(s2)
×[(τφ2*)(τφ1)(σq2)(σq1)
-(τφ1)(τφ2*)(σq1)(σq2)]u(s1)χ1
と書けます。
右辺の第1項のS波のみの散乱振幅は,ポテンシャル:
V(r)={g02/(2μM)}δ3(r)による散乱のBorn近似に
一致して,
(2π)4δ4(q2+p2-q1-p1)(2π)-6{-ig02/(2μM)
[u+(s2)u(s1)(χ2+χ1)(φ2*φ1)]
=(2π)4δ4(q2+p2-q1-p1)(2π)-6
{-ig02/(2μM)}<s2,φ2|s1,φ1>
で与えられることを見ました。
これを,同じS行列要素の表現:
<P',ζ'|S^|P,ζ>
=<P',ζ'|1+iδ4(P'-P)R^|P,ζ>
における,<P',ζ'|iδ4(P'-P)R^|P,ζ>
=iδ4(q2+p2-q1-p1)<0,q2,s2,φ2|0,q1,s1,φ1>
と比較して,両者を等置すると,
<0,q2,s2,φ2|R^|0,q1,s1,φ1>
=(2π)-2{-g02/(2μM)}<s2,φ2|s1,φ1> を得ます。
それ故,W'= W=P0 ~ p10=Ep ~ M,かつ,
q10=q20=ωq ~ μの低エネルギーの場合のS波のみの
散乱振幅は,
<0,q2,s2,φ2|f^|0,q1,s1,φ1>
=2π(p/v)1/2(p'/v')1/2<0,q2,s2,φ2|R^|0,q1,s1,φ1>
=2π(p/v)1/2(2π)-2(p'/v')1/2
{-g02/(2μM)}<s2,φ2|s1,φ1>
と表現されます。
そして,p=p'=|q1|,v=|q1/μ-p1/M| ~ |q1|/μ,
であり,また,W=p10+q10=(M2+q12)1/2+(μ2+q12)1/2より,
v'=dW/d|q1| ~|q1|/M+|q1|/μ なので,さらに,
<0,q2,s2,φ2|f^|0,q1,s1,φ1>
~ (2π)-1μ{-g02/(2μM)}<s2,φ2|s1,φ1>
となり,
結局,
<0,q2|f^|0,q1> ~ -g02/(4πM)=(1/q)exp(iδ0)sinδ0
を得ます。
したがって,a=g02/(4πM)=4Mf2/μ2となって,a~ 1/μ
という,前のN-N散乱と全く同じ結果を得ます。
これは,非相対論やポテンシャル散乱近似の限界でしょう。。
(注11-2終わり)※
さて,不変振幅Mの第1項はS波の散乱項でしたが,
第2項の,-{ig02/(4M2ω)}u+(s2)χ2+u+(s2)
×[(τφ2*)(τφ1)(σq2)(σq1)
-(τφ1)(τφ2*)(σq1)(σq2)]u(s1)χ1
は,q1とq2のなす角θの余弦cosθに比例しますから,
明らかにl=1 のP波の散乱項です。
この形は,2次の非相対論的摂動論を適用して得られるものとして
認識できます。
すなわち,入射する始状態π中間子の吸収と終状態π中間子の放出
の間には,正エネルギー状態のみで伝播する非相対論的なspin 1/2
粒子が存在するとして扱うなら,
M=-ig02χ2+u~(p2,s2)[(τφ2*)(τφ1)(γq1)
(2p1q1+μ2)-1+(τφ1)(τφ2*)(-γq2)(-2p1q2+μ2)-1]
u(p1,s1)χ1 において,
u~(p',s')γ5u(p,s)
~ u+(s')σ(p-p')u(s)/(2M)
なる近似が有効となって,相互作用頂点を
g0(σ∇)(τφ)/2M)という形の因子の効果
に帰着させることができます。
さらに,因子(1/ω)は,この近似での分母のエネルギーに由来
しており,(+)符号は10.8(a)図に,(-)符号は10.8(b)図に
対応して出現します。
それに反して,第1項のS波散乱項は,中間状態において,
負エネルギーの海の内外への遷移に由来しています。
このケースではv~γ5u ~ -1 です。
つまり,低い核子運動量に対しては,
u(p,s)=t(u(s),u(p))
~ t(u(s),(σp)u(s)/(2M)),
v(p,s)=t(v(s),v(p))
~ t(v(s),(σp)v(s)/(2M))
であって,
v+(p,s) ~ (v+(s),(σp)v+(s)/(2M))
ですから,
v~(p2,s2)γ5u(p1,s1)=v+(p2,s2)γ0γ5u(p1,s1)
~ (v+(s2),(σp)v+(s2)/(2M))γ0γ5
t(u(s1),(σp)u(s1)/(2M))
~ -v+(s2)u(s1) ~ -1 であるからです。
したがって,分母のエネルギーによる因子は-1/(2M)となります。
※(注11-3):H^=g0(σ∇)(τφ)/2M)とおけば,これには
場の量子論ではπ中間子を消滅させる演算子の役割をするφ因子
があるので,最低次のπN散乱でのT行列要素は2次のそれです。
ただし,T行列とはS^=1+iT^のTを意味します。
反応時間が-∞から∞まであると考えると,
非相対論的摂動論から,散乱振幅への寄与は,
(-i)2πδ(Ef-Ei)Σm{HfmHmi/(Ei-Em)}ですが,
さらに空間積分を実行すると,(2π)-6(-i)(2π)4δ(Pf-Pi)
なる因子をくくり出すことができます。
そして,π-N散乱の中間状態:mとしては,図10.8の(a)と(b)
の2つのケースがあります。
(a)のグラフでの(σ∇)の寄与は,
Hfmにおいては,-iσ(p1-pm)=-iσq2,
Hmiにおいては,-iσ(pm-pi)=-iσq1
です。
また,
Ei=ω+(M2+pi2)1/2,Em={M2+(pi+q1)2}1/2=M(重心系)
なので,今の静的近似では,Ei-Em ~ ωです。
一方,(b)のグラフでの(σ∇)の寄与は,Hfmで-iσq1,
Hmiで-iσq2であり,Ei=ω+(M2+pi2)1/2は同じですが,
中間状態には,2つのπ中間子の雲(仮想π中間子)が存在
するので,Em={M2+(pi-q2)2}1/2+2ω となるので,
Ei-Em ~ -ωです。
それ故,
(2π)-3(2π)-3(-i)(2π)4δ(Pf-Pi)(-ig0)2){1/(4Mω)}
[(τφ2*)( τφ1)(σq2)(σq1)-(τφ1)(τφ2*)(σq1)(σq2)]
の因子が得られるわけです。
他方,中間状態が核子の負エネルギーの海の中にあるケース
は,次の図の2つのグラフのようになります。
中間状態には2個の正エネルギーの核子と1個の時間に
逆行する負エネルギー核子:時間に順行する1個の
正エネルギー反核子N~があるため,
Ei ~ M,Em ~ 3Mにより,1/(Ei-Em) ~ -1/(2M)
なる因子を得ます。
ただし,中間状態は摂動論でのみ許される仮想過程なので,
近似的で物理的なこうした考察が可能かどうか,個人的には
疑問を感じるところもあります。。
と当時のノートには書いてありましたが,今は妥当と思います。
(注11-3終わり)※
さて,ΔEΔt ~ 1なる不確定性関係から,こうしたグラフの
P波の相互作用時間の方が ~ 1/ωで,これはS波の ~ 1/M
より長時間にわたってP波が生じることを意味します。
したがって,低エネルギーでは,S波よりもP波の散乱振幅の方
がより強く効いて,強いエネルギー依存性を与えると予想する
のは当然のことです。
実際,もしも,この強いP波の引力ポテンシャルが存在すれば,
共鳴状態(共鳴粒子)も存在すると予想されます。
(※実際,Δ粒子というπ-N共鳴の実在が観測されています。)
Chewによって初めて強調された重要な疑問は,P波のポテンシャル
の符号は何か?ということでした。
非相対論的不変散乱振幅として得られた,
M ~ (-ig02/M)[u+(s2)u(s1)(χ2+χ1)(φ2*φ1)]
-{ig02/(4M2ω2)}u+(s2)χ2+u+(s2)
×[(τφ2*)(τφ1)(σq2)(σq1)
-(τφ1)(τφ2*)(σq1)(σq2)]u(s1)χ1
なる式においての摂動近似の定量的な評価の不十分さとは別に,
これの符号は,散乱に大きな影響を与え,P波のポテンシャルを
理解する上で,正しい定性的な指針を与えると予期されます。
このChewによる問いに答えるには,総角運動量Jや,
総アイソスピンIの各々の値に対応する様々なチャネル
(channnel)に振幅を射影するのが便利です。
何故なら,異なるJの間の遷移は角運動量の保存則によって
禁止され,同様にアイソスピン保存則から異なるIの間の遷移
も禁止されるからです。
ただし,アイソスピンの保存則は強い相互作用に限られた保存則
であることには注意する必要があります。
今日はここまでにします。
(参考文献:J.D.Bjorken S.D.Drell "Relativistic Quantum Mechanics" (McGrawHill)
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この記事へのコメントは終了しました。
コメント
どもhirotaさん。。TOSHIです。
今年も相変わらず,こまかいチェックありがとうございます。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2013年1月27日 (日) 22時05分
<r{k> → <r|k>
先に記述っしたように → 先に記述したように
=(M2+q12)/2+ → =(M2+q12)1/2+
=4Mf2/μz → =4Mf2/μ2
海の中にあるケースには, → 海の中にあるケースは,
PP波が生じる → P波が生じる
強いいエネルギー → 強いエネルギー
投稿: hirota | 2013年1月26日 (土) 22時09分