強い相互作用(湯川相互作用)(12)
「強い相互作用(湯川相互作用)」のπ-N散乱の続きです。
ブログを書くどころじゃなく身辺がバタバタしていることもあり
ますが,ブログ書きは余生のライフワークのうちの主要な1つです
から,毎日少しでも細々と原稿を書いています。
読書するのもそうですが,眼が悪くなって老眼鏡をかけても
判別できない文字があったりすると,水をさされたように,
興味もモチベーションも低下してしまいます。,
自分のノートといっても,それの思考体験はウン十年前ですから,
初めて読むのと大して変わらず,意味が不明だとブログ用に砕い
て表現することもできませんから,
解読しているうち,あまり長い式だと途中で休憩しよう。。
となってしまうので,最近は記事アップの間隔が長いのです。
本当に長くは根気が続きません。
やはり,2月1日で63歳ともなると,頭も老化して認知症も近いの
でしょうか。。
それは,イヤなので拒否したいけれど,そうなってしまえば,
そうした希望もわからない状態になるのでしょうから,アル
意味で,シアワセになってしまうのかも。。
信長の「人間。。五十年」ではなく既に六十年を越しています。
さて本題に入ります。新しい節です。
§10.7 アイソスピンと角運動量に対する射影演算子
(Projection Operators for Isotopic Spin and Angulr Momentum)
通常の量子力学での角運動量ベクトルの合成からのアナロジーで,
I=|I|=1/2の1つの核子Nと,I=|I|=1の1つのπ中間子の
系では,総アイソスピン(Isotopic-spin)が,I=3/2,またはI=1/2
の状態にあることがわかります。
こうした2つの状態の射影演算子(Projection Operator)
を,P3/2^,P1/2^とすると,これらはπ中間子のIsotopic空間
では3×3行列,核子NのIsotopic空間では2×2行列と
して作用します。
また,射影演算子の性質の1つとして,P1/2^+P3/2^=1^です。
ただし,1^はπとNの2×3の6次元直積空間の単位行列です。
※(注12-1):何故なら,固有状態のDirac括弧(bracket)で射影演算子
を表現すると,
P1/2^=|I=1/2><I=1/2|,
P3/2^=|I=3/2><I=3/2|,ですが,
このDirac括弧における状態が正規直交規格化されていれば,
P1/2^+P3/2^=|I=1/2><I=1/2|+|I=3/2><I=3/2|
=ΣI'|I'><I'|=1
となるからです。
演算子A^が,A^|α>=α|α>を満たす固有値αと固有状態:
|α>を持ち,それらの固有値は全て離散的で,
さらに,A^|α>=α|α>,A^|β>=β|β>を満たす固有状態
について,<α|β>=δαβと正規直交規格化されていて,かつ,
状態空間は可分(separable)であると仮定すれば,
任意の状態 |Ψ>は,|Ψ>=Σγc(γ)|γ>のように,
固有状態の1次結合(重ね合わせ)として展開可能です。
そして.この固有状態が正規直交規格化されている場合は,
係数はc(γ)=<γ|Ψ>となり,結局,|Ψ>=Σγ|γ><γ|Ψ>
と表現できます。
これは,|Ψ>が任意であることから,|γ><γ|をケット状態
に働く一種の線型演算子と見るとき:Σγ|γ><γ|=1と同定
されるからです。
これらについては,2007年8/8の2つの記事:
「量子力学の基礎(表示の話)(2)」,および,
2007年9/9の記事:「無限次元ヒルベルト空間」
etc.を参照。
(注12-1終わり)※
また,別の射影演算子の性質の1つから,
P1/2^2=P1/2^,P3/2^2=P3/2^です。
これらを満たす演算子を探すには,非交叉グラフ10.8(a)が
中間状態に純粋なI=1/2の単一の核子線のみを有すること
に着目すれば,グラフの各頂点におけるIの保存から,容易
にその形式が得られるであろうと予想されます。
そこで,この非交叉グラフのアイソスピン因子の部分の行列は
P1/2^の行列要素に比例すると見ることができます。
すなわち,α(τφ2*)(τφ1)=<φ2 |P1/2^|φ1 > です。
比例係数αは,この式を2乗して,P1/2^2=P1/2^を用いること
により,1/3に等しいことがわかります。
つまり,α=1/3であって,
<φ2 |P1/2^|φ1 >=(1/3)(τφ2*)(τφ1)
です。
※(注12-2):何故なら,
まず,<φ2 |P1/2^|φ1 >=<φ2 |P1/2^2|φ1 >
=ΣI=13<φ2 |P1/2^2|φ(I)><φ(I)|P1/2^2|φ2>
=α2ΣI=13(τφ2*)(τφ(I))(τφ(I)*)(τφ1)
と書けます。
ただし,φ(I)=t(1,0,0),φ(2)=t(0,1,0),φ(3)=t(0,0,1)
であり,それ故,φ(j)*=φ(j) (j=1,2,3)です。
前に述べたように,(τa)(τφ)=ab+ iτ(a×b)なる
公式が成立するため,
(τφ(I))(τφ(I)*)=φ(I)φ(I)+iτ(φ(I)×φ(I))=φ(I)φ(I)=1
ですから,
α2ΣI=13(τφ2*)(τφ(I))(τφ(I)*)(τφ1)
=3α2(τφ2*)(τφ1)=3α<φ2 |P1/2^|φ1 >
です。
したがって,<φ2 |P1/2^|φ1 >=3α<φ2 |P1/2^|φ1 >
が得られました。
そこで,一般に,<φ2 |P1/2^|φ1 >≠0 ですから,1=3αより,
α=1/3を得ます。(注12-2終わり)※
さらに,P3/2^の表現を求めるために,P1/2^+P3/2^=1^を用いると,
<φ2 |P3/2^|φ1 >=<φ2 |φ1 >-<φ2 |P1/2^|φ1 >
と書けます。
よって,<φ2 |P3/2^|φ1 >=φ2*φ1 -(1/3)(τφ2*)(τφ1)
なる表現も得られます。
さて,幸いなことに,今の場合は角運動量の構成が,たった今述べた
アイソスピンの構成と全く同じです。
すなわち,核子Nがspin角運動量:S=1/2を持ち,spinがゼロの
π中間子が軌道角運動量:L=1のP波の場合,
π中間子の軌道波動関数は,Isotopic-spinでの状態の波動関数
がベクトルφ2*とφ1 で与えられることからの類推で,それらに
ベクトルq2とq1が対応するもので与えられると考えられます。
そこで,totalの角運動量:J=S+Lに対して,J=1/2,および,
J=3/2の状態の角運動量射影演算子をそれぞれ,Q1/2^,および,
Q3/2^と書けば,
<q2 |Q1/2^|q1 >={(1/3)(σq2)(σq1)}{3/(4πq2)}
<q2 |Q3/2^|q1 >={q2q1 -(1/3)(σq2)(σq1)}{3/(4πq2)
となります。
ただし,今の最低次のBorn近似に寄与するのは,エネルギーが保存
される弾性散乱のみなので,q≡|q1|=|q2|です。
これらは,次のように規格化されています。
すなわち,
∫dΩ<q2 |Qi^|q><q |Qj^|q1 >=δij<q2 |Qi^|q1>
(i,j=1/2,3/2)です。
これはつまり,射影演算子の基本的性質:Qi^Qj^=Qj^δij
が運動量固有状態の完全系を挟んで,
∫dΩ Qi^|q><q |Qj^=Qj^δij と表現されるような
規格化です。
左辺は,アイソスピンの射影演算子に対する式:
<φ2 |P1/2^2|φ1 >
=ΣI=13<φ2 |P1/2^2|φ(I)><φ(I)|P1/2^2|φ2> において,
アイソスピン空間での3つの直交方向:φ(I)(i=1,2,3)にわたる
和:ΣI=13をq-空間における変数qの立体角積分:∫dΩに置き換え
た式です。
ただし,中間状態の完全系:|q>におけるベクトルqはq1,q2と
同じく,大きさがqのベクトル: |q|=q=|q1|=|q2|であると
しています。(弾性散乱のみを仮定)
※(注12-3):射影演算子の定義から,Qi^2=Qj^,Qi^Qj^=0
(i≠j)であり,また,完全系は∫dΩ|q><q |=4πq2
で表現されます。
そこで,<q2 |Q1/2^|q1>=α(σq2)(σq1)とおけば,
まず,Q1/2^2=Q1/2^より,<q2 |Q1/2^2|q1>=<q2 |Q1/2^|q1>
です。
そこで,
<q2 |Q1/2^2|q1>=∫dΩ<q2 |Q1/2^|q><q |Q1/2^|q1 >
=α2∫dΩ(σq2)(σq)(σq)(σq1)
=4πq2α2<q2 |Q1/2^|q1>より,
<q2 |Q1/2^|q1>=α(σq2)(σq1)= 4πq2α2<q2 |Q1/2^|q1>
ですから, α=4πq2α2より, α=1/(4πq2) です。
結局,<q2 |Q1/2^|q1>={1/(4πq2)}(σq2)(σq1)
を得ました。
他方,Q1/2^+Q3/2^=1^より,
<q2 |Q3/2^|q1 >=<q2 |q1 >-<q2 |Q1/2^|q1 >
=<q2 |q1 >-{1/(4πq2)}(σq2)(σq1)
と書けます。
右辺第1項の<q2 |q1 >は,<φ2 |φ1 >=φ2*φ1 と同じく,
スカラー積:q2 q1=q2cosθ12 に比例するはずですから,
<q2 |q1 >≡βq2 q1=βq2cosθ12 とおきます。
そして,<q2 |q1 >=∫dΩ<q2|q ><q|q1 >
=β2∫dΩ(q2q )(qq1 )において,
q1 =t(qsinθ1cosφ1,qsinθ1sinφ1,qcosθ1).
q2=t(qsinθ2cosφ2,qsinθ2sinφ2,qcosθ2).
q=t(qsinθcosφ,qsinθsinφ,qcosθ)
と成分を陽に書けば,
q2q=q2(sinθ2cosφ2sinθcosφ+sinθ2sinφ2sinθ2sinφ
+cosθ2cosθ)
=q2{sinθ2sinθsin(φ2-φ)+cosθ2cosθ}
です。
同様に,qq1 =q2{sinθsinθ1sin(φ-φ1)+cosθcosθ1}
ですから,
<q2 |q1 >=β2∫dΩ(q2q )(qq1 )
=β2∫02πdφ∫-11d(cosθ)(q2q )(qq1 )ですが,
この被積分関数で,sinθ,cosθの1次因子や,sinφ,cosφの
1次因子を持つ項の積分結果はゼロですから,
<q2 |q1 >=β2∫02πdφ∫-11d(cosθ)(q2q )(qq1 )
=β2q4∫02πdφ∫-11d(cosθ)
{sin2θsinθ2sinθ1sin(φ2-φ)sin(φ-φ1)+cos2θcosθ2cosθ1}
です。
そして,∫-11d(cosθ)cos2θ=2/3,∫-11d(cosθ)sin2θ=4/3,
∫02πdφsin2φ=∫02πdφ(1-cos2φ)/2=π,
∫02πdφcos2φ=∫02πdφ(1+cos2φ)/2=πなので
<q2 |q1 >=(4πβ2q4)/3){sinθ2sinθ1sin(φ2-φ1)
+cosθ2cosθ1}=(4πβ2q2)/3)q2 q1
が得られます。
よって,βq2 q1=(4πβ2q2)/3)q2 q1ですから,
β=3/(4πq2)です。
結局,<q2 |Q3/2^|q1>
={3/(4πq2)}{q2 q1-(1/3)(σq2)(σq1)}
を得ました。
念のため,Q1/2^Q3/2^=0 を証明しておきます。
<q2 |Q1/2^Q3/2^|q1>
=∫dΩ<q2 |Q1/2^|q><q |Q3/2^|q1 >
={1/(4πq2)2}∫dΩ(σq2)(σq){3qq1-(σq)(σq1)}
={1/(4πq2)2}∫dΩ[3(q2q)(qq1)+3iσ(q2×q)(q q1)
-q2(σq2)(σq1)]
です。
ここで,∫dΩ[3(q2q)(q q1)=4πq2q2q1であることは既に
示しました。
一方,再び,
q1 =t(qsinθ1cosφ1,qsinθ1sinφ1,qcosθ1).
q2=t(qsinθ2cosφ2,qsinθ2sinφ2,qcosθ2).
q=t(qsinθcosφ,qsinθsinφ,qcosθ) より,
q2×q=q2 t(sinθ2sinφ2cosθ-cosθ2sinθsinφ.
cosθ2sinθcosφ-cosθsinθ2cosφ2,
sinθ2sinθcosφ2sinφ-sinθsinθ2cosφsinφ2),
および,
qq1=q2{sinθsinθ1sin(φ-φ1)+cosθcosθ1}
です。
それ故,∫dΩ(q2×q)(q q1)
=(4πq4/3)t(sinθ2sinφ2cosθ1-cosθ2sinθ1sinφ1,
cosθ2sinθ1cosφ1-sinθ2cosθ1cosφ2,
sinθ2sinθ1cosφ2sinφ1-sinθ2sinθ1sinφ2cosφ1)
=(4πq2/3)(q2×q1) が得られます。
したがって,
∫dΩ[3(q2q)(qq1)+3iσ(q2×q)(q q1)
=(4πq2){q2q1+iσ(q2×q1)}
=q2∫dΩ(σq2)(σq1) です。
以上から,確かに,
<q2 |Q1/2Q3/2^|q1>
={1/(4πq2)2}∫dΩ[3(q2q)(qq1)+3iσ(q2×q)(q q1)
-q2(σq2)(σq1)]=0
となることが示されました。(注12-3終わり)※
こうしたPi^とQj^の間に見られる差は,観測されるπ中間子
が常に電荷が±1 か 0 に対応するアイソ空間での3つの軸方向
の1つに沿った向きを持つのに対して,
運動量ベクトルは異なる散乱角に対応する連続的方向に沿って
存在するという事実に動機 付けられた,それらの間の規格化の
規約による非本質的な差異のみです。
アイソスピンと角運動量の同時固有状態に対応する結合射影演算子
は,単にそれらの積(直積)で与えられます。
すなわち,P11^≡Pi/2^Q1/2^,P13^≡Pi/2^Q3/2^,
P31^≡P3/2^Q1/2^,P33^≡P3/2^Q3/2^
の4つです。
確認のため,既に得られた射影演算子の寄与を要約すると,
<φ2 |P1/2^|φ1 >=(1/3)(τφ2*)(τφ1)
<φ2 |P3/2^|φ1 >=φ2*φ1 -(1/3)(τφ2*)(τφ1),
<q2 |Q1/2^|q1 >=(σq2)(σq1){1/(4πq2),
<q2 |Q3/2^|q1 >={q2q1 -(1/3)(σq2)(σq1)}{3/(4πq2)}
です。
そして,結合射影演算子:Pα^(α=11,13,31,33)は,
ΣαPα^=1^,Pα^Pβ^=δαβPα^なる性質,
および,規格化条件:
Σm=13∫dΩPα^|φm,q><φm,q|Pβ^=δαβPα^
を満たすことで,特徴付けられることになります。
これらによって,非相対論的近似の不変散乱振幅:
M ~ (-ig02/M)[u+(s2)u(s1)(χ2+χ1)(φ2*φ1)]
-{ig02/(4M2ω)}u+(s2)χ2+u+(s2)
×[(τφ2*)(τφ1)(σq2)(σq1)
-(τφ1)(τφ2*)(σq1)(σq2)]u(s1)χ1
は,次のように表現されます。
すなわち,
M ~ (-ig02/M)[u+(s2)χ2+]<φ2|(Pi/2^+P3/2^)|φ1>]
u(s1)χ1-{ig02/(4M2)}(4πq2/3)u+(s2)χ2+<φ2,q2|
[9P11^/ω-{4P33^-2P13^-2P31^+P11^}/ω]|φ1,q1>
u(s1)χ1 です。
(※↑これの証明は割愛します。要するに,q2q1に比例する項
を消去しただけです。)
第2項は,結局,-{ig02/(4M2ω)}(4πq2/3)u+(s2)χ2+
<φ2,q2|(8P11^+2P13^+2P31^-4P33^)|φ1,q1>
となります。
なお,第1項は軌道角運動量LがゼロのS波であり,
Q1/2^,Q3/2^はL=1のP波のみの射影演算子なので,
第1項ではこれらとの積の射影演算子は無意味です。
この最終結果によれば,I=J=3/2のP33^≡P3/2^Q3/2^に対し,
π-N散乱の相互作用項が,引力ポテンシャルとして寄与する
のに対応して,この謂わゆる(3,3)チャネルのみで散乱振幅が
負の符号の寄与となっています。
したがって,
このチャネルで,共鳴(Δ粒子:別名(3,3)共鳴)が,実験で観測
されていて,一方,他の3つのP波状態では,こうした低エネル
ギーでは,ごく小さい位相のずれだけしか観測されていないと
いう実験事実の存在が,
上記の不変振幅:Mを与えるポテンシャルから予想されること
と定性的に一致していることがわかります。
今日は,ここまでにします。
(参考文献:J.D.Bjorken S.D.Drell "Relativistic Quantum Mechanics” (McGrawHill)
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