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2014年8月29日 (金)

量子力学の変分原理(再掲載)

 

さて,定常的摂動論の続きとして散乱などを含む非定常的な

(時間に依存する)摂動論,や場の量子論(QED含む)における

摂動論の定式化(伝統的方法とFeynmanの経路積分の方法),

さらに,実際の計算に関わるWickの定理の適用,Feynman

ダイアグラムの手順やLSZの手続きなどにも言及し,最後に

くりこみ理論やS行列の理論なども記述しようと,

この摂動論の記事を書き始めた頃から考えていました。

 

その後,このところの入院中にもコツコツと練ってノートを作って

いた,一応私自身のオリジナルと考えている「くりこみ不要な理論: 

非線型自由場の仮説,あるいは,自由粒子=ソリトン 

(or インスタントン)の仮説」の構想と,そのこれまでやってきた 

計算などについても述べたいと思っています。

しかし,とりあえずは定常的摂動論の実際的適用例として多電子原子

や分子内電子の独立電子近似やHartreeFock近似などに言及したいと

考えました。

いまや私自身も過去記事に何を書いたか?検索しないと不明な状況

ですが,幸いこれらの例について書いたものもありました。

それに上記の予定記事の中にも既にかなりの部分が過去記事に埋も

れているので,そうしたものは参照アドレスの表示だけでもいいの

ですが,私自身のサビつきつつある頭での記事内容の再確認のため

にも適宜再掲載しようと考えています。

まずは,多電子原子の解に近似を適用する際,電子の原子内束縛状態

を見るための摂動論以外の有用な近似方法としての変分原理を紹介

する必要があるのでこれをします。

これも過去記事にありました。すなわち,2008年8/13の過去記事

「量子力学の変分原理」です。

 ※以下,この過去記事の本文です。

 

量子力学の問題を解くに際して,摂動論などと同じく近似法とされている方法の1つに変分法というものがあります。

 

以下では量子力学における変分法,あるいは変分原理の理論的基礎,および基礎的な定式化について復習してみます。

まず,系のHamiltonianが与えられたとき,その系の自由度がfなら,

それは座標:=(q1,q2,..,qf),および,運動量:

=(-ihc)(∂/∂q1,∂/∂q2,..,∂/∂qf)によって,

H(,)なる演算子関数として表現されます。

 

系を記述する波動関数をΨ(,t)と書けば,それは時間に依存する

一般的なSchrödinger方程式 ihc(∂ψ/∂t)=Hψに従います。

ここにhc≡h/(2π)で,hはPlanck定数です。

さらに,系がエネルギー値Eの定まった安定した状態にある

ための条件は,波動関数Ψの時間発展因子が

Ψ(,t)≡ψ()exp(-iEt/hc)なる形に分離され,

座標依存因子(定常状態波動関数):ψ()が"定常状態の

Schroedinger方程式=Hの固有値方程式":Hψ=Eψを

満足することです。 

そして安定した物理的状態を支配する基本方程式である上記の

定常状態のSchroedinger方程式:Hψ=Eψが成立することは,

波動関数ψの変分に対して変分原理:

δ[∫ψ*()(H-E)ψ()d]=0

が成立することと同値です。

実際,Hψ=Eψならδ[∫ψ*()(H-E)ψ()d]=0

が成り立つのは明らかです。

 

逆にδ[∫ψ*()(H-E)ψ()d]=0 が成立する場合,

ψは複素数なのでδψとδψ*は独立な変分ですから,この

変分原理によってHψ=Eψ,および,Hψ*=Eψ*の2つの式

が別々に得られます。

 

ところが,Hはエルミート(Hermitian)ですから,後者の等式

Hψ*=Eψ*は単に前者の複素共役であり,結局,前者:

Hψ=Eψと等価です。

そして,この変分原理δ[∫ψ*()(H-E)ψ()d]=0

Eを未定係数とするLagrangeの未定係数法を考えれば,

「∫ψ*()ψ()d=1 なる条件付きで,

δ[∫ψ*()Hψ()d]=0 が成立すべきである。」

という付帯条件付きの変分原理になっています。

付帯条件ψ*()ψ()d=1 の下での積分

ψ*()Hψ()dの最小値は,明らかにHの最小の

エネルギー固有値,つまり基底状態のエネルギー値E0です。

 

そして,この最小値を実現する関数ψは基底状態の波動関数

ψ0です。

それに続く定常状態の波動関数:ψn (n>0)は積分の極値を

与えるだけで真の最小値には対応しません。

ψ*()Hψ()dが極値を取るという条件:

δ[∫ψ*()Hψ()d]= 0 から,基底状態ψ0

次に来る波動関数ψ1と対応するエネルギーE1を求める

ためには,規格化条件ψ*()ψ()d=1 の他に,

基底状態ψ0に対する直交条件ψ*(0()d=0

を満たすものだけを許すという条件を課すべきです。

一般に,エネルギー準位が小さい方から最初のn個の状態を想定し,

そのn個の波動関数ψ01,...,ψn-1がわかっているとき,それに

続く状態の波動関数は付帯条件:

ψ*()ψ()d=1,ψ*(m()d=0

(m=0,1,2,..,n-1)の下で積分ψ*()Hψ()d

を最小にしています。

 しかし実際には,Schroedinger方程式に頼らず,変分原理に

基づいてψ*()Hψ()dを最小にする関数ψ()を

発見することは困難です。

 

 なぜなら,具体的には幾つかの規格化された試行関数:

φ1(),φ2(),φ3(),..のそれぞれについて,

∫φj*()Hφj()d(j=1,2,3,..)を計算し,より小さい

積分値を取る関数を検索するわけですが現実問題として全ての

関数を試し尽くすことは不可能だからです。

 また,仮にHψ=Eψを満たすEとψの組が,偶々何組か

見つかったとしても,それらのうちの最小固有値が真に最小

な固有値であるという保証はありません。

 

 したがって,有限個の試行で中断して妥協するしかない

のですが,よほどの幸運に恵まれぬ限り,所期の結果を期待

することはできません。

 そこで試行関数の範囲を広げてさらに効率よく試行を実行する

ことを考えます。

 

 すなわち,予めn個のもっともらしい試行関数;

φ1(),φ2(),..,φn()を与え,その任意の線形結合:

Φ≡c1φ1+c2φ2+..+cnφnにおいて係数の組{cj}j=1,n

を実数の範囲で連続的に変化させてエネルギーの期待値

E[Φ]≡∫Φ*()HΦ()d/{∫Φ*()Φ()d}

が最小値を取る条件を求めるわけです。

 

 一般に,そうした条件を与える式はn個の未知数{cj}j=1,n

対する連立方程式になります。

 すなわち,重なり積分をHij≡∫φi*()Hφj(),

ij≡∫φi*(j()とおけば,期待値は

E[Φ]=ΣiΣji*ijj/{ΣiΣji*ijj}

と表現されます。

 

 故に,E[Φ]{ΣiΣji*ijj}-ΣiΣji*ijj 0 です。

これをci*で偏微分すると,

{∂E/∂ci*}{ΣiΣji*ijj}+E[Φ]{Σjijj}

-Σjijj 0  となります。

 

 E[Φ]が最小になる条件は,∂E/∂ci* 0 ですから,

これからΣj{Hij-ESij}cj 0(i=1,2,..,n)なる

未知数{cj}j=1,nに対するn元1次の斉次連立方程式

得られるわけです。

 

 (もしも,Schimdtの直交化法などによって,予め

φi()(i=1,2,..,n)が直交規格化されているなら,

ij=δijです。ここでδijはKroneckerのデルタ記号です。)

 そして,このn元1次斉次連立方程式が物理的に意味のある

自明でない解を持つためには,(H-ES)ij{Hij-ESij}

(i,j=1,2,..,n)で定義されるn次の正方行列(H-ES)

について,その行列式がゼロになること:det(H-ES)=0

が必要十分です。

 

このEに関するn次代数方程式は永年方程式とも呼ばれ,これの

n個の解E=ε01,..,εn-1i≦εi+1)は,それぞれ,

det(H-εi)=0 を満足していてこれはHψ=Eψなる

エネルギー固有値の近似値を与えるものです。

 このうちの最小の値ε0は,Φ=c1φ1+c2φ2+..+cnφnなる

線形結合で与えられるあらゆる可能なΦの範囲の中で基底状態の

エネルギーE0に最も近いものです。

 

 もちろん,近似値ですからE0≦ε0です。

 

 同様にして真のエネルギー固有値を下からE0,E1,E2,..

とするとEk≦εk (k=1,2,..,n-1)が成立しています。

そして,エネルギー固有値の近似値{εk}k=0,n-1に対応する

波動関数の近次解k}k=0,n-1は,連立方程式

Σj{Hij-ESij}cj0 (i=1,2,..,n)の左辺に,

それぞれE=εkを代入して,方程式の解ベクトルと

しての係数の組{cj}j=1,n{c(k)j}j=1,nを求め,

Φk≡c(k)1φ1+c(k)2φ2+..+c(k)nφnと定義する

ことで定めるわけです。 

しかし,係数行列の非正則性によって,解{cj}j=1,n{c(k)j}j=1,n

には定数倍だけの不定性があるので,

∫Φ*k(k()d=ΣiΣji*ijj =1を満たす

ように{c(k)j}j=1,nを調整します。

この方法は,線形結合近似の変分法,あるいはリッツ(Ritz)

の変分法と呼ばれています。

今日はこれで終わります。 

参考文献:ランダウ=リフシッツ(Landau & Lifshitz) 著

「量子力学1」(東京図書),

大野公一 著「(化学入門コース)量子化学」(岩波書店)

※ここまで再掲記事です。

今日はこれだけにします。

 

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