量子力学における摂動論Ⅱ(続き)
さて,前回の記事も中途半端なところで終わりました。
そこでここに続き記事を書きます。
まず,いきなり続きを書いたのでは接続がよくないので最後の
必要な部分を再掲載します。
(※)H0の固有値:Enのエネルギー固有状態がg重に縮退して
いたなら,同じ固有値に属し正規直交化されたg個の固有関数を
unα(α=1,2,..,g)としてH0unα=Enunα(α=1,2,..,g)
が成立しています。
他方,H0の固有値がEnの別の正規直交化されたg個の固有関数
の系をvnj(j=1,2,..,g)とするとH0vnj=Envnjであり,
これらはunαの線型結合(重ね合わせ)として,
vnj=Σα=1gcαjunαのように関係付けられるはずです。
このとき,係数cαjはcαj=<unα|vnj>で与えられます。
そして,正規直交条件はδjj=<vni|vnj>
=Σα=1g<vni|unα><unα|vnj>
=Σα=1gcαi*cαjです。
特に,Σα=1g|cαj|2=1が成立します。
以前と同じく,以下,<unα|V|unβ>を<nα|V|nβ>etc.
と表記します。
縮退を考慮する前から扱っていた摂動論の方程式
(En-H0)Δ(1)Φn=Vun-Δ(1)Enun
(En-H0)Δ(2)Φn
=VΔ(1)Φn-Δ(1)EnΔ(1)Φn-Δ(2)Enun
(En-H0)Δ(3)Φn
=VΔ(2)Φn-Δ(1)EnΔ(2)Φn-Δ(2)EnΔ(1)Φn-Δ(3)Enun
.. において
固有値Enに属する非摂動系での固有状態の固有関数を
unからvn=Σα=1gcαunαに変更して新しい固有関数
ΦnをΦn=vn+ΔΦn
=Σα=1gcαunα+Δ(1)Φn+Δ(2)Φn+Δ(3)Φn+..
とします。
(En-H0)Δ(1)Φn=Vvn-Δ(1)Envn
(En-H0)Δ(2)Φn=VΔ(1)Φn-Δ(1)EnΔ(1)Φn-Δ(2)Envn
(En-H0)Δ(3)Φn
=VΔ(2)Φn-Δ(1)EnΔ(2)Φn-Δ(2)EnΔ(1)Φn-Δ(3)Envn
+.. となります。(※)
ここまでが,前回の終わりの部分の再掲載です。
ここから続きを書きます。
最後の式の両辺に左からunαを掛けて内積を取ります。
そして,前と同じく
<nα|Δ(d)Φn>=<unα|V|Δ(d)Φn>=0 (d=1,2.3..)
なる条件を仮定すると,
まず,1次の項については,
0=<unα|V|vn>-Δ(1)En<unα|V|vn>
です。
それ故,vn=Σβ=1gcβunβを代入して,
Σβ=1g [<nα|V|nβ>-Δ(1)Enδαβ]cβ=0 (
β=1,2,..,g)なるg個の方程式の系を得ます。
これは,
第α行β列成分が,
[<nα|V|nβ>-Δ(1)Enδαβ]のg行g列の正方行列をP,
つまり,Pを{Pαβ}≡<nα|V|nβ>-Δ(1)Enδαβ
(α,β=1,2,..,g)なる成分Pαβを持つg次の正方行列とし,
n次列ベクトルt(c1,c2,,..,cg)をxと定義すれば,
行列形式ではPx=0なるxを未知数とする同次方程式に書けます。
さらに,A={Aαβ}≡<nα|V|nβ>とし,Iをg次の単位行列I
をI={δαβ}とおけば,Px=0は[A-Δ(1)EnI]x=0 ,または
Ax=Δ(1)Enxなる固有値問題の方程式になることがわかります。
このx=t(c1,c2,,..,cg)に対する方程式れが自明な解
x=0 以外の解xを持つ:
つまり.vn=Σα=1gcαunαがvn=0
という,摂動の無かった初めからエネルギーEnの固有値に属さない
という,仮定に矛盾する無意味なもの以外のEnの固有関数である
ためには,係数の行列式がゼロ:
detP=det[A-Δ(1)EnI]=0 が必要十分です。
これは固有値Δ(1)Enに対するg次の代数方程式です。
これがg重根を持つのでなければ,摂動の1次で部分的には
縮退が解けることになります。
全てのg個の根が相異なる場合は縮退は完全に解けます。
まず,全てのg個が相異なるかどうかは別にして
Δ(1)Enに対するg次の代数方程式:det[A-Δ(1)EnI]=0
の根をΔ(1)En=Δ(1)En1,Δ(1)En2,.,Δ(1)Eng とします。
それぞれの固有値:Δ(1)Enj (j=1,2,..,g)には,
固有ベクトル:xj=t(c1j,c2j,,..,cgj)が決まり,
対応してg個のvn=vnj=Σα=1gcαjunα (j=1,2,..,g)
が決まります。
そこで,1次の式;(En-H0)Δ(1)Φn=Vvn-Δ(1)Envn
の両辺で,それぞれ,Δ(1)Φn=Δ(1)Φnj,Δ(1)En=Δ(1)Enj
vn=vnjを代入すると,
(En-H0)Δ(1)Φnj=Vvnj-Δ(1)Enjvnj
となります。
したがって,まず,左からvnj*を掛けて内積を取ることにより,
vnj=Σα=1gcαjunα の具体的係数cαjなどを明示してない以上
あくまで形式的ですがΔ(1)Enj=<vnj|V|vnj>を得ます。
そして,m≠n,かつ,Em≠Enなるmについて左からumγ*
を掛けて内積を取ると,<umγ|vnj>=0 ですから
(En-Em)<mγ|Δ(1)Φnj>=<mγ|V|vnj>により
Δ(1)Φnj=Σm≠nΣγ<mγ|Δ(1)Φnj>umγ
=Σm≠nΣγumγ<mγ|V|vnj>/(En-Em)
を得ます。
このとき,(En-H0)Δ(2)Φn
=VΔ(1)Φn-Δ(1)EnΔ(1)Φn-Δ(2)Envn より,
(En-H0)Δ(2)Φnj
=VΔ(1)Φnj-Δ(1)EnjΔ(1)Φnj-Δ(2)Enjvnj
から,
<vni|Δ(2)Φnj>=<vni|Δ(1)Φnj>=0 によって.
0=<vni|V|Δ(1)Φn>-Δ(2)Enjδijです。
それ故,i=jとして
Δ(2)Enj=<vnj|V|Δ(1)Φn>
=Σm≠nΣγumγ<vnj|V|mγ><mγ|V|vnj>/(En-Em)
=Σm≠nΣγ|<mγ|V|vnj>|2/(En-Em)
同じく,(En-H0)Δ(2)Φnj
=VΔ(1)Φnj-Δ(1)EnjΔ(1)Φnj-Δ(2)Enjvnj
の左からm≠nのumγ*を掛けて内積を取ると,
<mγ|vnj>=0 なので(En-Em)<mγ|Δ(2)Φnj>
=<mγ|VΔ(1)Φnj>-Δ(1)Enj<mγ|Δ(1)Φnj>
を得ます。
Em≠Enなので,<mγ|Δ(2)Φnj>
=[<mγ|VΔ(1)Φnj>-Δ(1)Enj<mγ|Δ(1)Φnj>]
/(En-Em)
=Σk≠nΣβ|<mγ|V|kβ><kβ|V|vnj>
/(En-Ek)(En-Em)
-Σk≠nΣβ<vnj|V|vnj><kβ|V|vnj>/(En-Em)2
以上から摂動の1次で縮退が解ける場合も2次までの近似で,
εnj~ En+Δ(1)Enj+Δ(2)Enj
=En+<vnj|V|vnj>+Σm≠nΣγ|<mγ|V|vnj>|2
/(En-Em)であり,
このエネルギー固有値に属する摂動近似解は,
Φnj~vnj+ΣmΣγumγ<mγ|V|vnj>/(En-Em)
+Σk≠nΣβ|<mγ|V|kβ><kβ|V|vnj>
/(En-Ek)(En-Em)
-Σk≠nΣβ<vnj|V|vnj><kβ|V|vnj>
/(En-Em)2
となります。
しかし,摂動の1次ではなおお縮退が解けず,2次で解ける場合,
これは,detP=det[A-Δ(1)EnI]=0がg重根を持つ場合
つまり,Δ(1)En≡Δ(1)Enj=Δ(1)En2=..=Δ(1)Eng
の場合です。
このときにも,同じ固有値に属するg個の固有ベクトル:
xj=t(c1j,c2j,,..,cgj):
vnj=Σα=1gcαjunαを<vni|vnj>=δijと
正規直交化して取ることができますから
同じ論理が成立します。
さて,以上のRaileigh-Schroedinger(R-S)の方法と呼ばれる
素朴な摂動論では高次になるほど補正式が煩雑になるため,
他にやや簡明なBrillouin-Wigner(B-W)の方法があります。
定常状態のSchroedinger方程式:(H0+V)Φn=εnΦn,
or (εn-H0)Φn=VΦnからH0un=Enun
において最初から,未知の波動関数Φnを正規直交完全系
:{un}で展開してΦn=Σm<m|Φn>umと表記して
おきます。
以前のようにΦn=un+ΔΦnで<n|ΔΦn>=0 から
<n|Φn>=1と仮定します。
よって,Φn=un+Σm≠n<m|Φn>um です。
(εn-H0)Φn=VΦnから
(εn-En)<n|Φn>=<n|V||Φn>で
<n|Φn>=1より
εn-En=<n|V||Φn>ですから,
εn=En+ΔEn,ΔEn=<n|V||Φn>
を得ます。
一方,同じ(εn-H0)Φn=VΦnから
(εn-Em)<m|Φn>=<m|V|Φn>より
<m|Φn>=<m|V|Φn>/(εn-Em)
そこで,Φn=un+Σm≠n<m|Φn>um
=un+Σm≠n<m|V|Φn>um/(εn-Em)
これらは,Φnとεnが未知のままなので微分方程式を積分
方程式 or 級数方程式?のように方程式を書き換えただけ
ですが,この形は謂わゆるiteration(逐次代入の反復)で
近似解を求めるのに適しています。
まず,右辺の<m|V||Φn>のΦnに,さらに形式的に
Φn=un+Σm≠n<m|V|Φn>um/(εn-Em)を
代入すると,
Φn=un+Σm≠nΣm≠n<m|V|k><k|V|Φn>uk
/(εn-Em)(εn-Ek)
を得ます。
これを繰り返せば,Φn
=un+Σm≠nΣm≠n<m|V|k><k|V|n>uk
/(εn-Em)(εn-Ek)+..なる摂動級数
が得られます。
こうして44年前に自分でとったノートを読み返してみると
当時,勉強したばかりで浅薄であった線形代数学の知識では
理解できたかどうかがあやふやな講義の板書をただ書き写し
たにしてはほとんど齟齬がないものだと改めて感心しました。
入学後に教養の1年生からイキナリよく知らない方程式や
専門用語の羅列等,初学者にはチンプンカンプンであった多く
の物理学の講義にしては,この教授が書いた板書は,
まるで当時,個人的によく潜入していた専門の数学科の講義
で感じたもののように至極丁寧であったと想像されます。
イヤ,それでも40年以上前のノートの式の中には意味を判読するの
に若干の時間がかかろものもありましたが。。。。
そうそう。。当時,量子力学の講義で,色々と参考プリントなど
配られ,それを見ていて,
「これらは物理にしては数学的過ぎるのでは?」
というクラスメイトのクレイムが出て,
それに対し「後になって,むしろ数学的であるほど,正に
量子力学なんだ,ということがわかるだろう。」という旨
のことを教授が返答していたと記憶しています。
今日はこのくらいにします。
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