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2014年8月29日 (金)

多電子原子の構造(再掲載)

 前回の再掲記事;「量子力学の変分原理」が2008年8/13の記事ですから,少し前後しますが,約束通り定常的摂動論や変分原理の実用例として,

 2008年1/15の過去記事「多電子原子の構造」を再掲載します。

 

※以下,再掲過去記事の本文です。

 2個以上の電子を持つ一般の原子を多電子原子と呼びます。

 今日はヘリウム原子Heを中心として,それら多電子原子の量子状態の構造の基礎について記述します。

しかし,多電子原子について述べる前に,まず記事:

「水素様原子の波動関数」において得られた種々の固有状態

=電子軌道:ψnlm(r,θ,Φ)=Rnl(r)Ylm(θ,Φ)に関連して,

それらの軌道の呼称について1通りおさらいしておきます。

添字nを主量子数と呼ぶことは既に述べました。

 

また,軌道角運動量をとするとき,

l(l+1)hc2(l=0,1,2,..n-1)が軌道角運動量の絶対値

の2乗:2の固有値を表わし,

mhc(m=-l,-l+1,..,0,1,..,l)が軌道運動から生じる

磁気モーメントの大きさに比例した軌道角運動量の成分の1つ,

例えばLzの固有値を示しています。

 

それ故,lを方位量子数(軌道角運動量量子数),mを磁気量子数

と呼びます。ここにhc≡h/(2π)でhはPlanck定数です。

エネルギー準位に直接関わる主量子数nについては,n=1,2,3,..

に対してそれに属する"状態=軌道"を,それぞれK殻,L殻,M殻,..

と呼ぶ習わしになっています。

 

また,水素様原子ではエネルギー準位が何重にも縮退しています

が,一般の多電子原子では方位量子数l=0,1,2,3,..,n-1に対

するそうした縮退は解けます。

これらのlについては,"固有状態=軌道"はs,p,d,f,..軌道

と呼ばれます。

 

例えば,主量子数n=1のK殻においては,方位量子数lは 0 しか

許されないわけですが,それは1s軌道と呼ばれます。

 

l=0 のs軌道ではm=0 のみが許されるので,K殻の軌道状態

この1sの1つしかありませんが,スピンの自由度sz=↑,↓を

考慮してスピン波動関数σsz(s)をも含めると,1電子の波動関数

ψnlm(r,θ,Φ)σsz(s)=Rnl(r)Ylm(θ,Φ)σsz(s)となります。

 

スピンsz=↑,↓に応じて,1s状態には計2個の電子が入ることが

可能となります。

すなわち,n=1,2,3,4,5,6に対応する軌道をK,L,M,N,O,P殻,

l=0,1,2,3,4,5に対応する軌道をs,p,d,f,g,h軌道と呼び

ます。

 

n=1においては 1sなる表記の軌道のみがあって,それを占有する

2個の電子の存在が可能,n=2には2s,2pと表わされる 1+3

=4個の軌道があってそれを占有する8個の電子の存在が可能です。

 

さらに,n=3では3s,3p,3dで表わされる 1+3+5=9個の

軌道があり,それらを占有する18個の電子が存在可能ということ

になります。

さて,2個以上の電子を持つ多電子原子の系については古典論の

太陽-惑星系の多体問題と同じく,厳密に解くことは不可能です。

 

しかし,水素様原子と同じく原子核の質量は原子内電子よりはるか

に大きく,重心はほぼ原子核の位置にあって重心運動と電子の原子核

に対する相対運動とは分離できると考えられます。

 

原子核は近似的に原点に静止していて,個々の電子の換算質量

mはほぼ電子質量に等しいと考えます。

このときN電子原子の電子にi=1,2,..,Nなる番号をつけて

原子核の位置を原点としたときの個々の電子の位置ベクトルを

iとします。

 

そして,ri|i |,ij|ij |(i≠j)と置きます。

すると,N電子の相対運動の総Hamiltonian

=Σi=1N[-hc2i2/(2m)-Ze2/(4πε0i)]

+Σi<j2/(4πε0ij) で与えられます。 

また,この電子の相対運動の総HamiltonianH  は,

=Σi=1N(i)+Σi<j(i,j),

h(i)≡-hc2i2/(2m)-Ze2/(4πε0i),

g(i,j)≡e2/(4πε0ij)(i,j=1,2,..,N)

なる形の和として表現することもできます。

このとき,h(i)ψ=Eψは水素様原子の定常状態の

Schroedunger方程式ですから,

その解はh(i)ψnlm=ε0nψnlm,

ε0n=-mZ24/{(4πε0)2(2c22)},

ψnlm(r,θ,φ)=Rnl(r)Ylm(θ,φ)

(l=0,1,2,.,n-1,m=-l,-l+1,.,0,1,.,l)

で与えられることは既に述べた通りです。

そこで,0≡Σi=1N(i)とおけば,固有値方程式

0Ψ=EΨの一般解は,固有値E=0n1n2..nNに属する

Ψ=Ψn1n2..nNの形,

つまり,0Ψn1n2..nN=E0n1n2..nNΨn1n2..nN

で与えられるはずです。

 

ただし,0n1n2..nN≡Σi=1Nε0nin1n2..nN≡ψn1ψn2..ψnNです。

 

ここで,ψnはΣl,mlmψnlm(r,θ,φ)(lmは複素定数)なる

h(i)の固有値εnに属する固有関数の線形結合の規格化

された形です。

 

これのアナロジーとして多電子問題を近似的に解く有効な手法

を考えることができます。

既に2007年6/15,6/17,6/18の一連の記事「ハートリー・フォック(Hatree-Fock)近似 (1),(2),(3) で固体金属内の周期的な多体電子

に対して行ないました。

 

ここでも個々の電子が独立に原子核と他の全ての電子の影響を

受けて1粒子のScroedinger方程式に従うとする"独立電子近似"

を採用することができます。

これは以下の手順です。

 

まず,ind(i)≡h(i)+1/2Σj≠i(i,j) (i=1,2,..,N)

とおけば=Σi=1Nind(i)と書けます。

 

これら個々のHamiltonian ind(i)が近似的に独立である

仮定してindφnεnφnなる1電子解が全て得られたな

ら,全体の固有値方程式Φ=EΦの一般解も見出すことが

できます。

 

その一般解はΦn1n2..nN=En1n2..nNΦn1n2..nNを満たす

独立1電子波動関数の積:Φn1n2..nN≡φn1φn2..φnNの全て

で与えられると考えられます。

ここにn1n2..nN≡εn1+εn2+..+εnです。

こうした"独立電子近似"での解を求めるには,次のような

方法が考えられます。

"(ⅰ)ハートリー・フォック近似(Hartree-Fock似)

=自己無撞着場の方程式を拡張して交換として知られる

相互作用を取り入れる。

(ⅱ)遮蔽現象を組み合わせる。"

です。

 

ここでいう遮蔽効果は,電子間相互作用に対して,より正確な

理論を展開する際,他の電子などの荷電粒子に対する電子の

応答を調べる際の重要な効果です。

(ⅰ)独立電子のHamiltonianを,ind≡-hc22/(2m)+V();

V()=-Ze2/(4πε0)+Vel(),

el() ={e2/(4πε0)}∫dj≠ij()|2/|'|]

として1電子方程式を作ります。

 

こうすれば,形式的な方程式系:

{-hc2/(2m)}2φi()-{Ze2/(4πε0)}φi()

+[{e2/(4πε0)}∫djj()|2/|'|]

=εiφi() が得られます。

このように各々の占有された1電子準位φi()にそれぞれ

1電子方程式が存在しているという近似で得られた一連の

方程式はハートリー方程式として知られています。

 

そしてこの方程式を具体的に解くには,まず1電子波動関数

φi()を適当に予測して,他の全ての電子による

有効ポテンシャルVel()=e2∫dj≠ij()|2/|'|

を作ります。

 

そのVel()に対する1電子方程式:

{-hc2/(2m)}2φi()-{Ze2/(4πε0)}φi()

+[{e2/(4πε0)}∫djj()|2/|'|]

=εiφi()を例えば数値計算によって解きます。

 

得られた解φi()をVel()の表式に代入して新たに得られた

1電子方程式を解くという逐次近似法を採用します。

理想的にはこの逐次近似法の繰り返しは,Vel()が繰り返し計算

の前後で不変になるまで続ければよいということになります。

 

こうした理由で,"ハートリー方程式を用いた近似=ハートリー近似"

は自己無撞着場の近似,あるいはSCFの近似と呼ばれます。

さらなる近似を加えるために,再びN電子系全体の正確な

Schroedinger方程式:HΦ=EΦに戻ります。

 

量子論の変分原理によれば,これの解:Φは等価な変分形式,

すなわち,エネルギー期待値:

<H>Φ=∫Φ*()HΦ()d/{∫Φ*()Φ()d}

を停留値にする状態:Φ()として与えられるはずです。

 

特に基底状態の波動関数は

<H>Φ=∫Φ*()HΦ()d/{∫Φ*()Φ()d}

を最小にする関数Φです。

ここで一般座標を具体的に位置iとスピンsiの全体で表現し,

φi(ii)(i=1,2,..,N)を直交規格化された1電子波動関数

のN個の組の1つとします。

 

近似解はΦ(11,22,..,NN)

=φ1(112(22)..φN(NN) なる形の全ての

Φ()にわたって期待値:

<H>Φ=∫Φ*()HΦ()d/{∫Φ*()Φ()d}

を最小にするものを検索すれば得られるはずです。

しかし,波動関数Φ=φ1φ2..φNの単純な形式のままでは

"2つの任意の電子変数の入れ換えに対して反対称であるべき

である。"というPauliの原理とは相容れません。

 

したがって最も簡単には,このハートリー近似を一般化して

波動関数Φを反対称化するために,いわゆるスレーター行列式

(Slater's determinant)を用います。

すなわち,Φ(11,22,..,NN)

=(1/N!)1/2det{φi(jj)}なる形式を採用します。

 

これを用いてエネルギーの期待値:

<H>Φ=∫Φ*()HΦ()d/{∫Φ*()Φ()d}

を計算します。

ただし,スピン波動関数をσsz(s)としてφi(,s)≡φi(sz(s)

と書きます。

すると,<H>Φ

=Σi∫dφi*()[{-hc2/(2m)}2-Ze2/(4πε0)]φi()

+{2/(8πε0)}Σi,j∫d'[1/|'|]|φi()|2

j(')|2±{2/(8πε0)}Σi≠jδsisj

∫di*(i(')[1/|'|]φj*('j()です。

 

右辺の最後の項の先頭の符号(±)はスピンsiとsjの交換に対する

符号の変化に(-)符号を掛けたもの,を示しており,通常の1電子

の組み合わせの電子数密度の因子:|φi()|2の代わりに積

φi*(i(')を含んでいます。

このエネルギー期待値に対してφi*の変分に対する変分原理を

適用すると,

{-hc2/(2m)}2φi()-{Ze2/(4πε0)}φi()

+{2/(4πε0)}Σj≠i∫d'[j(')|2]/|'|]φi()

±{2/(8πε0)}Σj≠iδsisj∫d'[1/|'|]×

φj*('i(')φj()=εiφi()

なる方程式を得ます。

 

これは,ハートリー・フォック(Hartree^Fock)方程式と呼ばれ,

この近似はハートリー・フォック近似といわれます。

 

そしてこの方程式は,左辺第3項の分だけ,ハートリー方程式

と異なっています。この異なる分の項は交換項と呼ばれています。

 

つまり,ハートリー方程式が

[{-hc2/(2m)}2+V()]φi()=εiφi()

であるのに対して,

ハートリー・フォック方程式は

[{-hc2/(2m)}2+V()]φi()±{2/(8πε0)}

Σj≠iδsisj∫d'[1/|'|]φj*('i(')φj()

=εiφi() と修正されます。

このハートリー・フォック方程式やハートリー方程式は

非線形の方程式で,その上交換項は∫U(,')d'のような

積分演算子の形ですから,実際の扱いはさらにむずかしいもの

であるといえます。

さらに,(ⅱ)電子間相互作用Vel()を原子内のCoulomb

ポテンシシャルにおいて,単純ですが重要な現象である

遮蔽効果として取り入れることを考えます。

一般に,正電荷を持つ重い粒子が,電子気体の中の与えられた

位置に固定されている場合,その粒子は電子を引き付け近く

余分の負電荷の分布を伴なうため,正電荷の正味の量に

対応する場を減少させます。

これを電子による遮蔽効果と呼びます。

通常の多電子原子で,この遮蔽効果を扱うのには2つの異なる

意味を持つ静電ポテンシャルを考察します。

第1のポテンシャルは通常のCoulombポテンシャル:

n()=-Ze2/(4πε0)です。

 

これは"原子核=正電荷そのもの"から生じるものであり,原子核

の電荷密度をρn()=Zeδ()と書けば,Vn()はPoisson

方程式:∇2n()=-4πeρn()を満足します。

一方, 第2のポテンシャルは電荷が実際に感じる全ポテンシャル

V()で,正電荷の原子核とそのまわりの遮蔽電子雲によって

作られるものです。

 

遮蔽も含めた全電荷密度をρ()とすると,ポアソン方程式∇2()=-4πeρ()を満足します。

 

ここにρ()=ρn()+ρel()であり,ρel()は外郭電子の電荷

密度を示しています。こ

の全ポテンシャルV()を遮蔽ポテンシャルと呼びます。

トーマス・フェルミ(Thomas-Fermi)の遮蔽理論では,

全ポテンシャル:V()=Vn()+Vel()

=-Ze2/(4πε0)+Vel()があるときの電荷密度

を見出すためにハートリー近似を用います。

 

基本的には独立な1電子Schroedinger方程式:

{-hc2/(2m)}2φi()-V(i()=εiφi()

を解き,ρel()=-eΣii()|2なる表式を用いて

1電子波動関数φi()の組から電子の電荷密度を近似

する必要があります。

手順は,(ⅰ)の自己無撞着場の方法での独立電子の固有値方程式

であるハートリーの方程式:indφi=εiφ;

ind≡-hc22/(2m)+V()における有効ポテンシャルを

V()=-Ze2/(4πε0)+Vel()として

トーマス・フェルミの遮蔽ポテンシャルを採用します。

 

この結果,例えば有効ポテンシャルが

V()=-Zeff2/(4πε0) (0<Zeff<Z)なる

遮蔽ポテンシャルで近似される場合もあります。

 

近似ポテンシャルV()=-Zeff2/(4πε0)を代入した

ind=-hc22/(2m)+V()に対する方程式indφi=εiφ

を解くのを繰り返す逐次近似法で基底状態の1電子波動関数

φiを求めます。 

そして,得られた近似解のスレーター行列式によって最適解:

Φ(11,22,..,NN)=(1/N!)1/2det{φi(jj)}

を求めます。

 

これを出発点としたエネルギー期待値の一般的な変分原理

から独立電子Hamiltonianにさらに交換項を加えたものと

してハートリー・フォック方程式

{-hc2/(2m)}2φi()-{Ze2/(4πε0)}φi()]

+{2/(4πε0)}Σj≠i∫d'[j(')|2]/|'|]φi()

±{2/(8πε0)}Σj≠iδsisj∫d’[1/|'|]

φj*('i(')φj()=εiφi()を得ます。

 

これを満たす解Φで,基底状態のエネルギーの期待値の近似値

を計算すると,E(Φ)≡<H>Φ=Σi=1Nε01i+Σi<j[Jij±Kij]

0(Φ)+Σi<j[Jij±Kij] となります。

 

ここにJij{2/(4πε0)}∫d'[1/|'|]

i()|2j(')|2,

ij{2/(4πε0)}∫di*(i(')[1/|'|]

φj*('j()です。

 

Jはクーロン積分,Kは交換積分と呼ばれる積分です。

ここで,(Φ)≡<H>Φ=E0(Φ)+Σi<j[Jij±Kij]の

右辺第2項[ ]内の(±)符号の(+)符号は電子の交換に

対して,波動関数のスピン部分が反対称で軌道部分が対称

なもの,(-)符号はスピン部分が対称で軌道部分が反対称

なものに対応しています。

 

そして,一般にJij≧0,Kij≧0 なのでもしも両者の軌道部分

の寄与が同一ならスピン波動関数が対称な方,両者のスピン

が同じ向きであるような場合の方がエネルギー準位が低く

安定になることがわかります。

また,一般にΔE=E(Φ)-E0(Φ)=Σi<j[Jij±Kij]0,

すなわち,E(Φ)≧E0(Φ)でありN電子原子の基底状態は

各1電子の基底状態のエネルギーレベルの総和のレベル

0(Φ)<0 よりも電子間の斥力効果の分だけ高くなります。

 

そして,この差ΔEを電子相関エネルギーといいます。

例として,特にZ=2のヘリウム原子(Helium)を考えると,

これは2つの電子を持っています。すなわち,N=2です。

2つの電子のスピンs1,s2は共に1/2(or hc/2)ですが,

これらから合成されるスピンs=s1+s2の固有状態波動関数

はs=0:(1/21/2)[|↑>|↓>-|↓>|↑>](反対称1重項)と

s=1:|↑>|↑>,|↓>|↓>,(1/21/2)[|↑>|↓>+|↓>|↑>]

(対称3重項)の2種類しかありません。

そこで,Pauliの原理により軌道部分も含んだ全体の波動関数は電子

の交換に対して反対称でなければなりません。

 

この原理は同種粒子の判別不可能性に起因するもので波動関数は

同種粒子の2回の交換で元に戻るため,波動関数は粒子の交換に

対して対称か反対称しか有り得ず,特にBose粒子は対称,Fermi

粒子は反対称という性質を持ちます。

それ故,2電子波動関数の軌道部分が共にn=1,l=0 の1粒子

基底状態の波動関数:ψ100()=R10(r)

={Z3/(πa03))1/2exp(-Zr/a0)(a0はボーア半径)の積:

ψ100(1100(2)で近似される2電子エネルギーが最低の

基底状態は軌道部分が対称でスピン部分が反対称なものに

限られるわけです。

 

こうした基底状態では同一の軌道に1s状態の2つの電子が

入るのでこれを,(1s)2と表現します。

このときの2電子波動関数はゼロ次の近似で

Φ(1,s1,2,s2)=(1/21/2100(1100(2)

[|↑>|↓>-|↓>|↑>]=(1/21/2)[ψ100(1)|↑>ψ100(2)|↓>

-ψ100(2)|↑>ψ100(1)|↓>]

=(1/21/2)[φ1(1,s12(2,s2)-φ1(2,s22(1,s1)]

=(1/2!)1/2det{φi(jj)}(i,j=1,2) です。

そして,水素様原子では電子1個の束縛状態のエネルギー準位

n=-mZ24/{(4πε0)2(2c22)}であるということと

水素原子の基底状態の結合エネルギーが

1=-me4/{(4πε0)2(2c2)}=-e2/(8πε00),あるいは

具体的にE1=-13.6eVであることから,

ヘリウムの結合エネルギーE(Φ)の近似値を求めてみます。

電気的に中性のヘリウムではZ=2であると同時に束縛電子の数

もN=2ですから,非摂動時には2電子の総エネルギーは

0(Φ)=2Z21=-13.6eV×8=-108.8eVです。

 

電子相関エネルギーの摂動はΔE=E(Φ)-E0(Φ)=J12+K12

であり,J1212{2/(4πε0)}∫d'[1/|'|]|

ψ100()|2100(')|2です。

 

このヘリウムの例ではクーロン積分Jと交換積分Kは一致します。

結局,具体的計算からΔE=-(5Z1/8)×2>0となり,

E(Φ)=E0(Φ)+ΔE=(-2Z28Z+5/4)

=(8-5/2)×13.6eV=-74.8eVなる近似値

が得られます。

 

これは摂動論の1次の摂動による計算値と一致しています。

 

Z=2を有効電荷Zeffに変更しそれに伴なって試行関数も

ψ100()=R10(r)={Zeff3/(πa03)}1/2exp(-Zeff/a0)より

Φ(1,2)={Zeff3/(πa03)}exp{-Zeff(r1+r2))/a0}に

変更します。

 

すると,E(Φ)=E0(Φ)+ΔE

=(Zeff24Zeff5eff/8){e2/(4πε00)}

=2(Zeff24Zeff5eff/8)E1 となります。

 

これの右辺をZeffで微分してゼロとおくと

dE(Φ)/dZeff2(2Zeff4+5/8)E10 です。

 

結局,Zeffに関する変分原理をも含めたあらゆる変分原理を

満たすような遮蔽ポテンシャルの有効電荷は

eff2-5/16=(27/16)で与えられることがわかります。

 

そこで,Zeff(27/16)と置いたとき,

Φ(1,2)={Zeff3/(πa03)}exp{-Zeff(r1+r2))/a0}

が最適な近似解になります。

 

この方法でのエネルギー期待値の最適近似値として

E(Φ)=E0(Φ)+ΔE=2(Zeff24Zeff5eff/8)E1

=-77.4eVが得られます。

これは摂動論による計算値-74.8eVよりもさらに実測値

-78.8eVに近い値です。

 

そして先述したように,軌道部分の寄与が同一ならスピン波動関数

が対称な方,つまり両者のスピンが同じ向きであるような場合の方

がエネルギー準位が低くて安定になります。

 

基底状態のすぐ次のレベルの(1s)(2s)の励起準位では軌道部分

が反対称の(1/21/2)[ψ100(1200(2)-ψ100(1200(1)>]

で,スピン部分が,s=1の対称3重項:

|↑>|↑>,|↓>|↓>,(1/21/2)[|↑>|↓>+|↓>|↑>]の状態

になると思われます。

 

 

まだ,原子軌道の分類の端緒に付いたに過ぎませんが,2007年5/23

の記事「対称操作の群とメタンのSP混成軌道」で記述している

ように,分子軌道に入る前段階の多電子原子の軌道においてさえ

各電子は必ずしも厳密に1s,2s,2p,3s,3p,3d,..の独立な

1電子の軌道上にあるというわけではなく,

また,エネルギー準位がこの順番で規則正しく単調に上昇するわけ

でもないことを強調しておきます。

 

もっとも「元素の周期律表」の方はそうした分類による順番と一致し

ています。

今日はこれで終わります。

 

って,これじゃ今年も1記事のページ数が全然減ってないじゃん。

参考文献:猪木慶治・川合 光 著「量子力学Ⅱ」(岩波書店),

アシュクロフト・マーミン著「固体物理の基礎上Ⅱ」(吉岡書店),

大野公一 著「(化学入門コース)量子化学」(岩波書店),

ランダウ=リフシッツ 著「量子力学1」(東京図書)

※以上,再掲記事でした。

PS:夏が終わりそうで少し生き返りました。

現時点での深刻な病気は金欠病くらいです。

 

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