ゲージ場の量子論から(その1)(経路積分と摂動論3
「ゲージ場の量子論から(経路積分と摂動論)」
の続きです。
Weyl順序積で与えた演算子の線型和の指数表示:
exp(αp+βq)
=Σm,n{1/(m!n!)(αmβn){pmqn}W
は,Weyl順序積 {pq}W の生成関数,
または母関数(generating function)と
なっています。
これの古典論での値との対応関係:
exp(αp+βq) ⇔ exp(αp+βq)
が成立している様を確認します。
まず,前にも述べたように,演算子X,Yが,
[X,[X,Y]]=0, [Y,[X,Y]]=0
を満たすときには,
exp(X+Y)=exp{-[X,Y]/2}expXexpY
なる等式が成立します。
この場合, expX=Σm(1/m!)Xm,かつ
expY=Σn(1/n!)Ynであり,
exp(X+Y)=Σk(1/k!)(X+Y)kです。
そして,二項展開の公式から,(X+Y)k
=Σr=0k{k!/(k-r)!r!}Xk-rYr
です。
この右辺の二項展開をWeyl順序積を用いて,
(X+Y)k=Σr=0k{Xk-rYr}Wで与えれば,
Xk-rYrの形の単項式の個数が{k!/(k-r)!r!}
で,Weyl順序積は,それら単項式の総和をXとYの交換
について対称形にして項の個数で除したものに等しい
ので,結局,
exp(X+Y)
=Σm,n{1/(m!n!)}{Xk-rYr}W
となって,
先に述べたWeyl順序積を用いた演算子の定義に
一致しています。
※[特注]:exp(X+Y)
=1+(X+Y)+(1/2)(X+Y)2+(1/6)(X+Y)3+..
において,これだけでは(X+Y)のベキ乗の意味が曖昧
ですから,これを厳密に定義する必要があります。
(1/2)(X+Y)2=(1/2)(X2+XY+YX+Y2)
=(1/2)(X2+2{XY}W+Y2)
(1/6)(X+Y)3
=(1/6)(X3+X2Y+XYX+YX2
+XY2+YXY+Y2X+Y3)
=(1/6)(X3+3{X2Y}W+3{XY2}W+Y3)
etc.と定義します。
もしもXやYが行列でも表現されるような量子論の
非可換の演算子ではなくて,古典論のただの数=専門語
ではc-numberの場合なら,3{XY2}Wも3XY2も全く同
じものなのでこのような気使いは不要なのですが。。。
量子論がPlanck定数;h=0 の極限で,通常の我々の
常識的な古典論の世界の物理的現象と対応する対応原理
を満たすことを根本的なところから検証したり理論的に
扱うような場合には,こうした微妙なことを明確にして
おくのは必要なことです。(特注終わり)※
公式:exp(X+Y)=exp{-[X,Y]/2}expXexpYは
[X,Y]が特にc数:γ=[X,Y]のときには,
exp(X+Y)=exp{-γ/2}expXexpY となって,
両辺がXとYの交換について対称な形をしているので
これはWeyl順序積を用いた定義でもそのまま成立します。
そこで,
exp(αp+βq)
=exp{-αβ[p,q]/2}exp(αp)exp(βq)
=exp(iαβ/2)exp(αp)exp(βq)
ですから,
∫dvexp(ipv)<q-v/2|exp(αp+βq)|q+v/2>
=∫dvexp(ipv+iαβ/2)∫dp'
<q-v/2|p'><p'|exp(αp)exp(βq)|q+v/2>
=∫dvdp'(2π)-1exp(ipv)exp{ip'(q-v/2)}
exp(αp'+β(q+v/2))exp{-ip'(q+v/2)}
=∫dvexp(ipv)exp(β(q+v/2))δ(v+iα)
=exp(αp+βq)
を得ます。
逆に,∫dpdq(2π)(2π)-1exp(αp+βq)
∫dudvexp{i(q-q)u+i(p-p)v}
=∫dp'dq'(2π)(2π)-1exp(αp'+βq')
∫dv'exp(ip'v')|q'+v'/2><q'-v'/2|
を<q-v/2|と|q+v/2>で挟み,
exp(ipv)を掛けてdvで積分すると再びexp(αp+βq)
が得られることは.既にexp(αp+βq)でなく一般の演算子
Hに対して示したのと同じです。
以上,ここまでもっぱら1自由度の系に限って論じて
きましたが,
座標変数がqa,共役運動量がpa (a=1,2,..,n)
で与えられるn自由度系の場合でも,
上述のWeyl変換や経路積分の公式は,単に,
時刻tの分割:tI=t0<t1<t2<..<tN<tF =tN+1
に対する時刻tjのにおける1自由度の位置座標qjによる
積分変数dqjをn自由度のそれ:Πa=1ndqajで置き換え,
共役運動量の積分変数dpjをΠa=1ndpajで置き換え,
さらに,pjqkをpajqakで置き換える(ただし,aに
ついて1からnまで総和するというEinsteinの規約を採用)
などと解釈すれば,そのまま拡張されます。
※ 配位空間における経路積分
(※位相空間(p,q)での経路積分∫DpDqのうち,Dp
だけを先に実行すると,結果,配位空間qのみでの経路積分
∫Dqexp(-iS);Sは作用積分;S=∫L(q,qd)dt
の形になるというテーマについてです。※)
簡単な系:H=p2/2+V(q)の場合に戻って位相空間
における経路積分の表式を再掲載すると,
<qF,tF|qI,tI>
=limN→∞∫dp0(2π)-1Πk=1N{dpkdqk(2π)-1}
exp[iΣj=0N{pj(qj+1-qj)/Δt-H(pj,q~j)}Δt]
=∫∫q(tI)=qIq(tF)=qFDpDq
exp(i∫tItFdt[p(t)qd(t)-H(q(t),p(t))])
でしたが,
2行目の
limN→∞∫∫dp0(2π)-1Πk=1N{dpkdqk(2π)-1}
exp{iΣj=0N{pj(qj+1-qj)/Δt-H(pj,q~j)}Δt}
において,dpk積分(k=1,2,..,N)のみを先に実行する
ことにします。
exp(iΣj=0N{{pj(qj+1-qj)/Δt-H(pj,q~j)}Δt}
のpjに関わる指数因子の
exp[iΔt[pj(qj+1-qj)/Δt-H(pj,q~j)]
の指数:iΔt{pj(qj+1-qj)/Δt-H(pj,q~j)}
は,積分の極限のN→∞,Δt→0 において
(qj+1-qj)/Δt→ qdj=(dqj/dt)t=tj
となります。
そして,H(pj,q~j)=pj2/2+V(q~j)
なので,
iΔt{pjqdj-pj2/2+―V(q~j)}
=iΔt{-(pj-qdj)2/2+qdj2/2―V(q~j)}
です。
そこでk=jのdpk積分=dpj積分を実行する際に,
積分変数の置換:pj→pj'= pj-qdj
を実行します。
iΔt{-(pj-qdj)2/2+qdj}2/2-V(q~j)}
=iΔt{-pj'2/2+qdj2/2-V(q~j)}
です。
これを,指数関数に戻すと
exp{iΔt(-pj'2/2)}exp{iΔt(qdj2/2-V(q~j)}
ですが,これからqに関わる指数関数因子を分離して残り
のexp{iΔt(-pj'2/2)}をdpj'で積分します。
ここで,次のGauss-Fresnelの積分公式;
∫dxexp(-iαx2/2)=(2π/iα)1/2を用いれば
経路積分は,次のようになります。
<qF,tF|qI,tI>
=limN→∞∫dp0(2π)-1Πk=1N{dpkdqk(2π)-1}
exp[iΣj=0N{pj(qj+1-qj)/Δt-H(pj,q~j)}Δt]
=limN→∞∫(2πiΔt)-1/2Πk=1N{dqk(2πiΔt)-1/2}
exp[iΣj=0N{(1/2){(qj+1-qj) /Δt}2-V(q~j)}Δt]
=∫q(tI)=qIq(tF)=qFDq
exp(i∫tItFdt[(1/2)qd(t)2-V(q(t))])
=∫q(tI)=qIq(tF)=qFDq
exp(i∫tItFdtL(q(t),qd(t)))
です。
※[注3]:Gauss-Fresnelの積分公式の証明
∫dxexp(-iαx2/2)
=∫-∞∞{cos(αx2/2)-isin(αx2/2)}dx
=∫0∞{cos(αy)-isin(αy)}y-1/2dy
=2-1/2(1-i)(2π/α) 1/2
=(2π/iα)1/2 (2-1/2(1-i)=√-iです。)
(注3終わり)※
すなわち,この表式は,Δt→ 0の極限で(2πiΔt)-1/2
という大変特異な積分測度を伴ってはいますが,
exp(i∫tItFdtL(q,qd))を配位空間における
各々の経路{q(t)}tI<≦t≦tFの確率振幅として,それを
あらゆる経路について足し上げた形の配位空間での経路積分
の表式が得られました。
この形が元のFeynmanの提唱した経路積分の公式です。
しかしながら,実はH=p2/2+V(q)のように簡単ではない
一般の系の場合にはDq経路積分の被積分関数は必ずしも
作用積分S=∫dtLのi倍の指数関数という形にはなり
ません。
これを見るために,古典論の段階でLagrangian:Lが
L(q,qd)=(1/2)gab(q)qdaqdbで与えられる
(a,b=1,2,..,nについて総和します。) ような
n自由度の系を考察します。
この力学系{qa}は,計量がgabで与えられる,ある
n次元多様体の上の点を表わす座標(q1,q2,,..,qn)と
見なすことができます。
このとき,共役運動量は,定義によって,
pa=∂L/∂qda=gabqdb です。
そこで,H(p,q)=paqda-L(q,qd)
=(1/2)gabpapa となります。
ただし,gabは計量行列{gab}の逆行列の成分です。
※[注4]:何故なら,paqda-L(q,qd)
=(1/2)gabqdaqdbですが,
pa=gabqdbより,qda=gabpb,
かつ,qdb=gbcpcですから,
gabqdaqdb=gabgbcgadpdpc
=δacgadpdpc=gcdpcpdなので,
paqda-L(q,qd)=(1/2)gabpapa
が得られます。(注4終わり)※
量子論の演算子としては,Weyl積を取って
H=(1/2)gab{papa}WをHamiltonianとして
採用します。,
こうすればHのWeyl変換がH(p,q)になることは明らか
ですから,位相空間における経路積分の表式で,
qaj+1-qaj=qdajΔtとして,
<qF,tF|qI,tI>
=limN→∞∫dp0(2π)-1Πk=1N{dpkdqk(2π)-1}
exp[iΣj=0N{paj(qajj+1-qaj)/Δt-H(pj,q~j)}Δt]
=limN→∞∫dp0(2π)-1Πk=1N{dpkdqk(2π)-1}
exp[iΣj=0N{pajqdaj-H(pj,q~j)}Δt]
=limN→∞∫dp0(2π)-1Πk=1N{dpkdqk(2π)-1}
exp(iΔtΣj=0N{{pajqdaj-(1/2)gab(q~j)pajpaj}}
となります。
1自由度の場合と同様,運動量積分変数dpkのk=jに
対応する成分paj(a=1,2,..,n)を
paj→p'aj=paj-(1/2)gab(q~j)qdaj
と変数置換すれば,
pajqdaj-(1/2)gab(q~j)pajpaj
=-(1/2)gab{paj-(1/2)gacqdcj}
×{pbj-(1/2)gbdqddj}+(1/2)gabqdajqdbj
=-(1/2)gabp'ap'a+(1/2)gabqdajqdbj
となります。
(※計量:ab,およびgabは共に行列としては対称行列
であることに注意)
ここで,Gauss-Fresnelの積分公式;
∫dxexp(-iαx2/2)=(2π/I)α-1/2 を変数xが
n次元列ベクトルx=(x1,x2,..,xn)Tである場合
に拡張します。
ただし,上添字Tは行列の転値(transport),つまり
行と列の入れ替えを意味します。
したがって行ベクトルに上添字Tをつけたものは
列ベクトルです。その逆も成立します。
被積分関数exp(-iαx2/2)の指数の係数αも
n行n列の対称行列Aに置き換えて,αx2をxTAxなる
一般の2次形式に変更します。
Gauss-Fresnel積分∫dxexp(-iαx2/2)の左辺の
n変数への拡張は∫dxexp(-ixTAx/2)という形
です。
そして,
∫dxexp(-ixTAx/2)
=(2π/i)n/2(detA)-12となることがわかります。
※[注5]:(証明)Aが対称行列なので適当な直交行列Pに
よってPTAPが対角行列となるようにできます。
Pは直交行列なのでdetP=det(PT)=±1です。
対角行列PTAPの対角成分をλ1,λ2,..,λn
とすると,x=Py ⇔ y=PTxなる変数置換の
変換に対して
xTAx=yTPTAPy
=λ1y12+λ2y22+..+λnyn2
=Σk=1nλkyk2
となります。
また,det(PTAP)=detA=λ1λ2..λn
です。
よって,n変数の置換積分公式により,
∫dxexp(-ixTAx/2)
=|det(PT)|∫dyexp(-iyTPTAPy/2)
=∫dyexp(-I(Σk=1nλkyk2/2))
ですが,
右辺
=Πk=1n∫dykexp(-iλkyk2/2)
=(2π/i)n/2(λn1λ2..λn)-12
なので,結局,
∫dxexp(-ixTAx/2)=(2π/i)n/2(detA)-12
が得られます。
(証明終わり)(注5終わり)※
拡張されたGauss-Fresnelの公式を用いると,
<qF,tF|qI,tI>
=limN→∞∫dp0(2π)-1Πk=1N{dpkdqk(2π)-1}
exp[iΔtΣj=0N{pajqdaj-(1/2)gab(q~j)pajpaj}]
=limN→∞∫(2πiΔt)1/2Πk=1N{dqk(2πiΔt)1/2}
∫dp0(2π)-1Πk=1N{dpkdqk(2π)-1}
exp[iΔtΣj=0N{pajqdaj-(1/2)gab(q~j)pajpaj}]
=limN→∞∫Πk=1Ndqk{∫dp'0(2π)-1Πk=1N{dp'k(2π)-1}
exp[iΔtΣj=0N{{-(1/2)gab(q~j)p'ap'a
+(1/2)gab(q~j)qdajqdbj}]
=limN→∞(2πiΔt)-n/2∫[Πk=1Ndqk]
[Πj=0Ndet(gab(q~j)-12]
exp(iΔt[Σj=0N{(1/2)gab(q~j)qdajqdbj}]
=∫Dqexp[i∫tItFdt[L(q(t),qd(t))
-(i/2)δ(0)ln{det(gab)(qj)}
ただし,lnは自然対数(=底がeの対数):
ln(x)=loge(x)です。
※[注6]:
Πj=0Ndet(gab(q~j)-12)
=exp[-(1/Δt)Σj=0NΔt{ln{det(gab(q~j))}] は
積分に移行するN→∞,Δt→0 の極限では,(1/Δt)をδ(0)
と見なすことができて,
Πj=0Ndet(gab(q~j)-12)
→ exp[-∫tItFdt(i/2)δ(0)ln{det(gab)(qj)}
となります。(注6終わり)※
したがって,この例の場合,配位空間の経路積分は
指数部が古典的なLagrangianからδ(0)に比例する項
だけずれています。
この例でのこのずれは,Lee-Yang項と呼ばれています。
座標変換 qa(t)→Qa(t):
つまり,qa(t)=qa(Q(t))で定義される変換のうち,
gab(q)(∂qa/∂Q c)(∂qb/∂Qd)=gcd(Q)を
満たすような変換の下では,
古典的Lagrangian:L(q,qd)=(1/2)gab(q)qdaqdb
は不変です。(証明略:疑問あればトライされたい。)
ところが,経路積分の積分変数は,Dq ∝ Πkdqk
=ΠjdQj{det(∂qak/∂Qbj)}
=ΠjdQj[detg(Qj)/detg(qk)]1/2
と変換されるため,Lee-Yang項:Π(detg)1/2を
因子に含めて初めて,配位空間の経路積分は不変になる
ことがわかりります。
一方,位相空間における経路積分の不変性は自動的に成立する
のでした。
何故なら,座標変換 qa→Qは点変換と呼ばれますが.今の
場合,これはある正準変換の一部分であり,積分測度dpjdqj
やpjqdjなどは正準変換の不変量であって,それ故,H(p,q)
を不変に保つ正準変換においては,位相空間での経路積分は明白
に不変だからです。
今日はここまでにします。この項目まだまだ続きます。
(参考文献);九後汰一郎著 「ゲージ場の量子論Ⅰ」(培風館)
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