ゲージ場の量子論から(その1)(経路積分と摂動論2)
「ゲージ場の量子論から(経路積分と摂動論)」の続きです。
今日は経路積分において以下に定義する中点処方の詳細について
記述し,経路積分を通して量子論と古典論のHamiltonianに如何なる
対応関係があるのか?を考察します。
※Weyl変換とWeyl順序
経路積分の表式;<qF,tF|qI,tI>
=limN→∞∫dp0(2π)-1Πk=1N{dpkdqk/(2π)-1}
exp(iΣj=0N{{pj(qj+1-qj)/Δt-H(pj,(qj+1+qj)/2)}
×Δt}
=∫q(tI)=qIq(tF)=qFDpDq
exp(i∫tItFdt[p(t)qd(t)-H(q(t),p(t))])
において出現する形の古典的なHamiltonian:
H(pj,q~j);q~j≡(qj+1+qj)/2
と量子論のHamiltonian演算子;Hとには一般に如何なる関係
があるのか?という疑問が生じます。
そうしたことの考察を述べる前に,経路積分における古典的
Hamiltonianのq座標 としてはq~j≡(qj+1+qj)/2の
ようにqjとqj+1の中点q~jで与えると規約しておくこと
にします。
この規約を中点処法(midpoint prescription)と呼びますが,
一般には同一のHでもq座標の与え方でHの関数形そのもの
が変わってしまいます。
経路積分を定義するに当たっては必ずしも中点処法でなく
他の規約をとる方法もありますが,特に,この中点処法を採用
する理由はN → ∞の有限和から連続極限の積分への移行
がスムーズであることなど,いくつかの利点があるからです。
※[注1]:通常のLebesgue積分(またはRiemann積分)の定義では
積分変数の区間分割において被積分関数の値として,分割区間
の端点の関数値を採用しようが中央の関数値を採用しようが
極限としての積分結果には無関係です。
,
まあ,それをもって積分可能である,とか可積であるとか,称する
定義となっているわけです。
しかし,例えば以前の記事で詳述した伊藤積分のような確率積分
なら,マルチンゲール性の考慮から端点値を採用することが重要
で,こうしたことが結果に重大な差異を生むことを言及したこと
もありました。
まあ,これは結局,確立積分自体が有界変動ではない関数の積分
和の極限なので,そうだったのですが,今の量子論のケースで
は不確定性原理: [p,q]=-iによってqp≠pqと変数
が可換でないことが本質的な理由です。(注1終わり)※
さて,
<qj+1,tj+1|qj,tj>
=<qj+1|exp{iH(tj-tj+1)}|qj>
=<qj+1|(1-iHΔt)|qj> から,
<qj+1,tj+1|qj,tj>
=(2π)-1∫dpj
exp[i{pj(qj+1-qj)-H(pj,(qj+1+qj)/2)Δt}]
に至る導出手順と同様に,
<qj+1|H|qj>
=<qj+1|p2/2|qj>+<qj+1|V(q)|qj>
=∫dpj<qj+1|p2/2|pj><pj|qj>
+V(qj)δ(qj+1-qj)
=(2π)-1∫dpj[exp[i{pj(qj+1-qj)}
{pj2/2+V((qj+qj+1)/2)}]
=(2π)-1∫dpj[exp[i{pj(qj+1-qj)}H(pj,q~j)
です。
これをH(p,q)について解くと
H(p,q)=∫dv exp(ipv)<q-v/2|H|q+v/2>,
および,
H(p,q)=∫du exp(iqu)<p+u/2|H|p-u/2>
を得ます。
※[注2]:何故なら,q≡(qj+1+qj)/2,p≡pj,v≡qj-qj+1
とおくとqj+1=q-v/2,qj=q+v/2,なので,
<qj+1|H|qj>
=(2π)-1∫dpj[exp[i{pj(qj+1-qj)}H(pj,q~j)
は<q-v/2|H|q+v/2>
=(2π)-1∫dp exp(-ipv)H(p,q)
です。
そこで,Fourier逆変換によって,
H(p,q)=∫dv exp(ipv)<q-v/2|H|q+v/2>
が得られます。
さらに,右辺=∫dv exp(ipv)
∫dp1∫dp2<q-v/2|p1><p1|H|p2><p2|q+v/2>
=∫dp1∫dp2∫dv(2π)-1exp[I|p-(p1+p2)/2]v}
+i(p1-p2)q]<p1|H|p2>
=∫dp1∫dp2δ{p-(p1+p2)/2}exp|i(p1-p2)q}
<p1|H|p2>
=2∫dp1exp|i(p1-p2)q}<p1|H|p2>
=2∫dp1exp|i2(p1-p)q}<p1|H|2p-p1>
です。
それ故,u≡=2(p1-p)とおけばdu=2dp1であり,
p1=p+u/2,かつ,2p-p1=p-u/2です。
結局,H(p,q)=∫duexp(iqu)<p+u/2|H|p-u/2>
を得ます。(注2終わり)※
さて,再掲すると,
H(p,q)=∫dv exp(ipv)<q-v/2|H|q+v/2>
=∫du exp(iqu)<p+u/2|H|p-u/2>
ですが,この形の演算子:Hからc数:H(pq)への変換は
一般にWeyl変換と呼ばれています。
これの逆変換は,H=∫∫dpdqH(p,q)Δ(p,q)
ただし,Δ(p,q)=∫du exp(iqu)|p-u/2><p+u/2|
=∫dv exp(ipv)|q+v/2><q-v/2|
=∫dudv(2π)-1 exp{i(q-q)u+i(p-p)v}
で与えられます。
※[注3];(証明):演算子:
A≡∫dp'dq'(2π)-1H(p',q')∫du'
exp(iq'u')|p'-u'/2><p'+u'/2|
をブラ:<p+u/2|とケット:|p-u/2>の間に挟み
exp(iqu)を掛けてduで積分します。
すると,
∫du exp(iqu)<p+u/2|A|p-u/2>
=∫dudu'∫dp'dq'(2π)-1H(p',q')
exp(iqu+iq'u')
<p+u/2|p'-u'/2><p'+u'/2|p-u/2>
=∫dudu'∫dp'dq'(2π)-1H(p',q')
exp(iqu+iq'u')δ(p-p'+(u+u')/2)
δ(p'-p+(u'+u)/2)
=∫dudu'∫dq'(2π)-1H(p+(u+u')/2,q')
exp(iqu+iq'u')δ(u+u')
=∫du∫dq'(2π)-1H(p,q')exp{I(q-q')u}
=∫dq'δ(q-q') H(p,q')
=H(p,q)
となります。
したがって,H(p,q)=∫du exp(iqu)
<p+u/2|A|p+u/2>
=∫duexp(iqu)<p+u/2|H|p-U/2>
が成立します。
同様に,演算子:
B≡∫dp'dq'(2π)-1H(p',q')∫dv'
exp(Ip'v')|q'+v’/2><q'-v'/2|
をブラ:<q-v/2|とケット:|q+v/2>の間に挟み
exp(Ipv)を掛けてdvで積分すると,
H(p,q)=∫dv exp(Ipv)<q-v/2|B|q+v/2>
=∫dvexp(ipv)<q-v/2|H|q+v/2>
が成立することを示すことができます。
これらは,任意のp,q,u,vに対して恒等的に成立する
式ですから,結局,演算子として,A=B=H が成立する
ことになります。
A,および,Bの定義式は,積分変数からプライムをはずすと
それぞれ,
A≡∫dpdq(2π)-1H(p,q)
∫duexp(iqu)|p-u/2><p+u/2|
および,
B≡∫dpdq(2π)-1H(p,q)
∫dvexpipv)|q+v/2><q-v/2|
であり,A=Bなのですから,
∫duexp(iqu)|p-u/2><p+u/2|
=∫dvexpipv)|q+v/2><q-v/2|
と結論されます。
この因子=演算子をΔ(p,q)と表わすことによって
H=A=B∫dpdq(2π)-1H(p,q)Δ(p,q)
なる表式を得ます。
さらに,
Δ(p,q)=∫dudv(2π)-1
exp{i(q-q)u+i(p-p)v}
となることも以下に証明します。
それには,
H=∫dpdq(2π)-1H(p,q)
×∫dudv(2π)-1 exp{i(q-q)u+i(p-p)v}
となることを示せばよいのですが,
H(p,q)=∫dvexp(ipv)<q-v/2|H|q+v/2>
ですから,
H(p,q)=∫dp'dq'(2π)-1H(p',q')
×∫du'dv'dv(2π)-1exp(ipv)
<q-v/2|exp{i(q'-q)u’+i(p'-p)v'}|q+v/2>
を示せば十分です。
さて,右辺=∫dp'dq'(2π)-2H(p',q')
∫du'dv'dvexp(ipv+iq'u'+p'v')
<q-v/2|exp(-iqu'-ipv')|q+v/2>
と書けます。
ところで,線型演算子X,Yの交換子[X,Y]=XY-YX
がX,Yと可換な場合:つまり,[X,[X,Y]]=0, [Y,[X,Y]]=0
が成立するときには,
exp(X+Y)=exp{-[X,Y]/2}expXexpY
なる等式が成立する。という性質があります。
(※↑ これについては2006年10/27の本ブログの過去の
記事:「量子力学の交換関係の問題(その2)」を参照
されたい。※)
この公式を適用すると,
exp(-iqu'-ipv')
=exp{-(-iqu'-ipv')/2}exp(-iqu')exp(-ipv')
です。
そして,[-iqu',-ipv']
=-u'v'[q,p]=-iu'v'より,
exp(-iqu'’-ipv')
=exp(-iu'v'/2)exp(-iqu')exp(-ipv')
です。
故に,
<q-v/2|exp(-iqu'-ipv')|q+v/2>
=exp(-iu'v'/2)
<q-v/2| exp(-iqu')exp(-ipv')|q+v/2>
です。
さらに,
<q-v/2| exp(-iqu')exp(-ipv')|q+v/2>
=∫dp"<q-v/2|exp(-iqu')exp(-ipv')|p">
<p”|q+v/2>
=∫dp"(2π)-1exp{ip"(q-v/2)}
exp{-i(q-v/2)u'-ip"v'}exp{-ip"(q+v/2)}
= exp{-i(q-v/2)u'}δ(v'+v)
です。
そこで,∫du'dv'dv(2π)-2
exp(ipv+iq'u'+p'v')
<q-v/2|exp(-iqu'-ipv')|q+v/2>
=∫du'dv(2π)-2exp(ipv+iq'u'-ip'v)
exp(iu'v/2)exp{-i(q-v/2)u'}
=(2π)-1∫dvexp{i(p-p')v}δ(q'-q)
=δ(p-p') δ(q'-q)
以上から,∫dp'dq'(2π)-2H(p',q')
∫du'dv'dvexp(ipv+iq'u'+p'v')
<q-v/2|exp(-iqu'-ipv')|q+v/2>
=∫dp'dq'H(p',q')δ(p-p') δ(q'-q)
=H(p,q)
が得られました。 (証明終わり)(注3終わり)※
まとめると,H(p,q)
=∫dv exp(ipv)<q-v/2|H|q+v/2>
=∫du exp(iqu)<p+u/2|H|p-u/2>,
および,H=∫∫dpdqH(p,q)Δ(p,q)
ただし,Δ(p,q)=∫du exp(iqu)
|p-u/2><p+u/2|=∫dv exp(ipv)
|q+v/2><q-v/2|
=∫dudv(2π)-1 exp{i(q-q)u+i(p-p)v}
です。
これらから,量子論のHamiltonian:Hと経路積分に現われる
古典的Hamilyonian:H(p,q)とは中点処方を採用する規約
の下でWeyl変換と逆Weil変換によって1対1に対応すること
が確認されます。
さて,次にpとqのベキの単項式に対するWeyl順序積と呼ばれる
ものを,記号では{..}Wと書いて次のように定義します。
すなわち,
{pq}W≡(1/2)(pq+qp),
{pq3}W≡(1/4)(pq3+q2pq+qpq2+q3p)
etc.と定義するわけです。
より一般には,演算子pとqの指数関数演算子は
exp(αp+βq)
≡Σm,n{1/(n!m!)}αmβn{pmqn}W
で定義されます。
この順序積を用いると,先のH(p,q)とHの対応は,
H(p,q)とH={H(p,q)}Wの対応と理解されます。
したがって,常に演算子をWeyl順序積で与えることに
すれば,量子論と古典論のHamiltonianは事実上同じ関数形
を持つと理解されます。
(参考文献):九後汰一郎著「ゲージ場の量子論Ⅰ」(培風館)
(※ なお,余談であり手前味噌の記事の宣伝の類いですが,
確率積分やブラウン運動関連がテーマの過去記事については,
酔歩(ランダム・ウォーク) 酔歩(ランダム・ウォーク)(訂正)
および,
があるので参照してみてください。※)
いやあ,久しぶりでチェックの計算に疲れました。
今まで通り※[注]の部分が私が埋めた蛇足かもしれない
行間部分です。
そして,読んだことを私自身の認識能力の限界内 に入れて
納得するための自己満足的注釈です。
体調の関係で土,日,月が休みという優雅な生活パターン
にしてますが,一応,週末ブロガーと化す程度には,気力
が回復 しているようです。。
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コメント
九後汰一郎著「ゲージ場の量子論」を非常に苦労して独習しているまったくの素人ですが,その中で
Δ(p,q)=∫dudv(2π)^-1 exp{i(q-q)u+i(p-p)v}
を自力では導けなくて困っていました.この記事にめぐりあい,大変助かりました.ありがとうございます.
なお1カ所,誤記と思われるものを見つけました.「この公式を適用すると」の後ろの式の2行目
=exp{-(-iqu'-ipv')/2}exp{…}exp{…}
は
=exp{-[-iqu',-pv']/2}exp{…}exp{…}
ではないでしょうか.
投稿: | 2017年5月12日 (金) 13時46分
TOSHIさんに、1つお願いがあります
数式を展開される前に...
今回は、〇〇=●● の関係を導くために
様々な数式展開を行うなんてような
目標設定を最初におっしゃって頂けると
分かり易いし、理解のmotivatonもUPすると
思います
さらに欲を言えば、これからの数式展開で
①△△...
②□□...
の関係が成り立つ事が、話しの展開にとって
大切で、そういう関係が成り立たないと
話しが結論へと続く事が、なかなか困難に
なる...っていうような
POINTを絞って頂ければ、とても理解しやすい
モノになると思います
そうでなくても、TOSHIさんのコメントで
相当分かり易くなっているのに...
こんな注文付けてイイのか
ハナハダ迷惑な話しではナイカとも思うの
ですが...
言っちゃいました
素人からの1つの切ない希望とご理解頂ければ
幸いです
投稿: like-mj | 2014年9月27日 (土) 10時35分