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2014年11月 5日 (水)

統計力学の基礎(1)(古典統計力学1)

 本ブログでは,統計力学についてこれまでは関連した断片的

トピックと,その応用例に言及する程度の記事しか書いてき

せんでした。


(↑※例えば,熱力学も含めると,一番最初のは2006年4/8の記事

基礎物理学講義①(温度と熱)」これ,昔池袋の専門学校での講義

用に作ったノートを書き写しただけです。

 次は2006年522の「エルゴード問題と次元」です。

また,2006年7/5の記事

可逆と不可逆のはざ間(エントロピー増大則)

や2006年8/6の「エントロピーの定義」など Pending)


 しかし,
今回,場理論による物性理論の扱いに関連した松原

温度Green関数についての記事を書くに当たって,急遽,統計力学

のエッセンスを紹介する気になりました。


 統計力学は,気体,液体,固体のように日常生活で我々が

いる物体を物理的対象と考え,そうした個々の物体を熱力学

的体系,または系と呼ぶとき,分子論に基づいて系を莫大な個数

の微視的粒子の集団と見るとき,それら粒子群の力学的運動の

総体から圧力や温度といった熱力学の巨視的状態量を説明する

ために生じた学問です。


 19世紀に分子論という思想が発生した当時,熱力学においては
,

熱とは何か?温度とは何か?などの根源的疑問がありました

,これらの解答が統計力学から得られることがと期待されて

いました。


当時,既に熱力学において熱はエネルギーの1形態であり温度

系の熱平衡を特徴付ける尺度であることなどは解明されて

いました。


普通に,大学で学ぶ統計力学というのは,熱平衡での系の温度

エネルギーがEのとき系の状態の出現確率はBoltzmann因子,

または,Gibbs因子と呼ばれるexp[-E/(kT)]なる量に比例

する,という法則を認めさえすれば,非常に便利な計算道具と

なります。

 
それ故,実験観測値を精密に計算で再現できる場の量子論で

くりこみ理論などと同じく.謂わゆる対症療法=有効理論

いう見地では,それほど難解であるという印象を受けないか

知れません。

 
しかし,私のように計算ができる云々より何故そうした方法

で計算可能なのか?という原理の方に興味を抱くような科学

的には変態?思想の持ち主にとっては,ずいぶん入り口の敷居

が高いものでした。

 
先達たちには,とりあえず,それを使って種々の必要な計算を

実施し年月と経験を経るうち自然に原理的なことも理解できる

ようになる,といった内容の忠告がしばしば成されましたが,

とにかく,理由がわからなければ一歩も先に進めないという,

厄介で意固地な性格でしたからね。。。

 
だからこそ,先端の研究課題までサクサクとは進めず,未だ

地べたを這いずりまわってるのでしょうネ。。>自分

 

というわけで,私のように大学生当時は学生運動に明け暮れたり,

むしろ数学の方に魅力を感じていて物理学では劣等生であり,

物理については,その頃講義で履修してもよく理解できず,後に

必要性を感じて独学で勉強を始めたものがほとんどなので,統計

力学はそうした頃から初学者であった私には理解に苦労しました。

 

どの本を読んでも常に,理論の導入部で躓いて迷路に入ること

の繰り返しで,10冊以上の専門書の精読と挫折の遍歴があり,

結局,中村伝著「統計力学」(岩波全書)に至って一応の納得を

得てゴールしたのはもう四十路半ばでした。。

 

熱力学については未だに遍歴中ですが。。

イヤ,馬鹿は死んでも。。かな?

 

専門書ではないですが,「磁力と重力の発見」(岩波書店)で最近

大仏次郎賞をとられたらしい山本義隆氏の恐らく最初の物理学史

のヒット著作である「熱学思想の史的展開」(現代思潮社)や

高林武彦氏の「熱学歴史」海鳴社)などは大いに理解の助けに

なりました。

 

また余談ですが,アチラは覚えてないでしょうが,山本義隆氏には

氏が東大全共闘議長だった頃,例えば1970年6月の安保粉砕闘争

のデモで当時封鎖占拠していた東大地震研の教室に,S大全共闘

一員としてゴロ寝一泊した際などにお会いしたこともありま

したネ。

 

さて,本文です。

系の熱平衡状態において観測される巨視的量の値が,微視的には

莫大な個数の運動する粒子から成る系の個々の粒子の物理量の

総和の長時間平均に一致するはずである,というのが統計力学の

概念であると考えられます。

 

そして,統計力学には「エルゴード仮設(仮説)」というものが

あります。

 

これは,古典的には粒子は非常に長時間には取り得る全ての軌道

を同じ回数だけ取るため,この全軌道平均(相空間平均)が長時間

平均に一致するだろう,というものです。

また,量子論においても

上記の軌道を量子状態に置き換えるとそのまま,同じことがいえ

るという仮説です。

 

これは,この多粒子系の一般座標と共役運動量の作る相空間の

領域に系を構成する粒子群が存在する確率が単純にその領域の

相空間の体積に比例するというような確率原理を仮定して相空間

平均を計算する方,長時間平均を計算するより,はるかに容易な

ため,長時間平均の代わりに便利な相空間平均を用いて計算して

よいことを保証するものです。

 

ここで上述の,「領域に存在する確率が,その領域の相空間の体積

に比例する。」という確率原理は,等確率の原理」あるいは

「等重率の原理と呼ばれています。

 

書物によっては相空間でなく位相空間という表現をとっている

ようですが,ここで相空間と呼んでいるのは,ここでの位相空間(phasespace)=相空間が,呼称は同じでも全く無関係な数学(幾何学)

での位相空間(topological space)と混同されるのを避ける

ためです。

 

系の粒子数NとエネルギーEが定まっていて外界と全くやりとり

のない孤立系では,系のエネルギーは全粒子のエネルギーの総和

で与えられます。


この全N-粒子系の自由度が
fの場合の一般化座標を

(q1,..,q),とし,その共役運動量=(p1,..,p)

します。

 

この多粒子系に対する系全体のHamiltonianをH(,)

とすると孤立系の条件はH(,)=E(一定)です。

 

そして,長時間では,あらゆる軌道を同じ回数だけ取ることから,

N粒子の自由度fの一般化座標,と共役運動量の組()

を2f次元Euclid空間の位置座標と見たときの空間を相空間,

特にΓ空間と呼び,()で表わされる状態をその代表点と

呼びます。

 

個々の粒子が構造を持たない質点と見なせるなら各々は3

つの空間座標という自由度しか持たないのでN個の粒子の

場合,f=3Nで,2f=6NなのでΓ空間6N次元空間です。

 

しかし,一般には個々の粒子(分子)は構造を持っているので,

必ずしも2f=6Nとは限りません。


いずれにしても,H(,)=Eは2f次元の空間における

等エネルギー面を示す曲面に過ぎないので,その次元は

(2f-1)であり,その上でのいかなる状態集合の領域も 

2f次元の体積という意味での測度はゼロです。

 

したがって,E≦H(,)≦E+ΔEなる微小な厚さが

ある領域を想定すれば,これは2f次元の体積を持つ領域です。

 

ところで,何故,粒子数の他の系に対する制約がエネルギーE

に対するものだけで運動量や角運動量などその他の力学変量

を問題にしないのか?というと,

 

統計力学で通常扱う系では系を構成する多粒子群は箱など

容器の有限の領域内にと閉じ込められているケースがほとんど

,もはや空間の一様性や等方性は失われ,それらに伴なう

運動量や角運動量は平衡状態では保存量でないからです。

残っている対称性はは時間の一様性だけで,これに基づく

エネルギーの保存があるだけです。

 

さて,代表点の位置ベクトルを=,()と置けば3次元

空間のベクトル解析における公式:ΔE=ΔH=∇H・Δ

が成立するはずです。

 

ただし,ここでの一般化された勾配 ∇H=gradHは, 

∇H

(∂H/∂q1,..∂H/∂q,∂H/∂p1,..∂H/∂p) 

で与えられます。

 

そして,ΔE=∇H・Δから,ΔE=|∇H||Δ|

より,|=ΔE/|ΔH|と書けます。

 

また,等エネルギー面H(,)=E上の代表点(,)に

おけるこの面の法線単位ベクトルは∇H/|∇H|であること

がわかります。

 

したがって,Γ空間の等エネルギー面H(,)=E上の面積

がSの領域を法線方向にΔだけ切り取った,

E≦H(,)≦E+ΔEの部分の体積は,

|SΔE/|ΔH|となります。

 

ここで,SもΔEも任意に取った量ですから,それらを共に単位量

1に取ることもできます。また,等重率の原理により代表点が

この領域に存在する重み確率は一様でSとΔEの双方に単純に

比例しますから,結局,存在確率は1/|ΔH|に比例することが

わかります。

 

また,=,()により,代表点の速度を

=d/dt=(,p)と定義すれば, 

(,p)

=(∂H/∂p1,..∂H/∂p,-∂H/∂q1,..-∂H/∂q) 

です。

 

故に,

=div

=Σj,kH/∂q∂p-∂H∂p∂pq=0

を得ます。つまり,代表点の集合を流体と見たときの流速

の発散がゼロです。

 

一方,この代表点から成る流体の運動においてどこにも

湧出し,吸込みがないとして連続の方程式:

∂ρ/∂t+∇(ρ)=0 が成立します。

 

よって代表点密度のLagrange微分(流体素片の運動に沿って

の微分)はDρ/Dt=∂ρ/∂t+∇ρ=∂ρ/∂t+∇(ρ)

=0 となります。

 

したがって,代表点の密度はその運動と共に時間tに

依らず不変であることが示されました。

これはリウヴィル(Liouville)の定理と呼ばれています。

この方向で話を進めていく方法もありますが,等重率の原理

を利用して別のカラメ手から熱平衡での粒子の状態分布を

求めてみます。

 

簡単に,自由粒子が体積Vの箱の中にN個閉じ込められている

ケースを考えます。(※実際には互いに衝突したり分子であれば

分子間力などの微弱であっても相互作用があるため,もはや本来

の自由粒子ではありませんが。)

 

また,簡単のため,系全体のHamiltonianが系を構成する各粒子

のそれの単純和であるとしてよい場合を論じます。

 

 すなわち,系全体のHamiltonianHは,H(,)

(k=12,..,N)を各粒子のそれとして,

(,)=Σ(,)で与えられ,H(,)=E

のときの全体のエネルギーEは,(,)=ε

満たすεによってE=Σε表わされるとします。

 

さらに,点(,)全体のつくる2f次元Γ空間の1粒子

(または1調和振動子)(kjkj)(k=1,.N)の各々が作る

Γ空間の部分相空間をμ空間と呼ぶことにします。

Γ空間はこれらN個のμ空間の直積です。

 

そして,例えばN個の1次元調和振動子の場合,μ空間は

2自由度(2次元)で(p,q)のHamiltoninは1次元調和振動子:

(p,q)=p/(2m)+mω/2で与えられるとします。

/(2m)+mω/2=εはμ空間の楕円です。

 

ここで,便宜上添字kを省略してμ空間の点の座標を

(q,p)で表わし等エネルギーの楕円を

/(2m)+mω/2=εと書きます。

 

楕円の長軸と短軸は(2mε)1/2,{2ε/(mω)}1/2です

から,この楕円の面積は2πε/ωです。

 

このμ空間の微小部分dqdpに代表点がn個あると

すると,n/Nが1個の振動子がこのdqdpに存在する

確率を表わします。

 

有限次元Euclid空間全体はパラ・コンパクト,または

第二可算的なので,2次元のμ空間を大きさaの細胞

に分けこの高々可算個の細胞群に番号を付けることが

できます。

各μ空間はほとんど独立でε,ほぼ一定ですが,μ空間

同士でほんの僅かなエネルギー交換があって軌道には,少し

のぼやけがありそれは楕円の面積程度ですから,それが細胞

の大きさaに相当します。

 

そこでaのオ-ダーは楕円の面積程度であり,a~ε

ですが,量子論ではこれは不確定性原理:ΔqΔp~hから,

aはPlanck定数h程度と古典論より明確に決まります。

逆に,aの値を固定すると,μ空間での2次元代表点の取る

エネルギーの拡がりはε~aωとkには依存せず共通に

なります。

 

さて,N個の振動子のうちk番目の細胞にn個の

代表点が存在するとします。

 

すると=Nですがこの(n,n,..)の分配の仕方

の総数Wは,W=N!/(n!n2!..)と書けます。

そしてこの分配のΓ空間における体積はWaです。

 

そこで,等重率の原理により,分配が(n,n,..)となる

確率はWに比例します。

 

それ故,平衡時の分布はWが最大になるような分布であると

考えられます。

 

Wが最大になることとlnWが最大になることは等価ですから

計算の簡単さの都合上lnWを最大にする分布:(n,n,..)

を求めることにします。

 

W=N!/(n!n2!..)の両辺の自然対数を取ると

lnW=ln(N!)-Σln(n!)ですが,N,および全ての

常温,常圧で1リットルの気体分子数のオーダー 

1022であるるように系の粒子数N,または自由度f

は莫大な数ですから,Mが大きいときのStirlingの公式:

ln(M!)~M(lnM-1)をln(N!),ln(n!)に適用します。

 

そうすると,近似式として, 

lnW=ln(N!)-Σln(n!)

~N(lnN-1))-Σ(lnn-1)

=N(lnN-Σlnnk を得ます。

 

この式を利用すると,N=Σ,および

E=Σεの制約条件付きlnWの最大値が

Lagrangeの未定係数法を用いて得られます。

 

すなわち,制約条件はδ(Σ)=Σδn=0, 

および,δ(Σε)=Σδnε=0 です。

 

一方,lnWが最大になるための必要条件は 

δlnW=-δ(Σlnn)

=-Σ(lnn+1)δn=0 です。

 

しかし,制約条件があるので,δnを全て任意の値と

することはできず,これらは独立ではありません。

 

したがって,全ての変分δnが独立になるように,

-δlnW+α(δ(Σ)+βδ(Σε)=0  

とします。


すると,
 

Σ(lnn+1)δn+αΣδn+βΣεδn=0

より,Σ(lnn+α+βε)δn=0 ですが,この式では

全ての変分δnは独立なので,係数をゼロとして

lnn+α+βε=0 を得ます。

つまり,n=exp(-α-βε)です。

 

N=Σexp(-α)Σexp(-βε)より,  

Z≡Σexp(-βε)と置けばexp(-α)=N/Z 

であり,=Nexp(-βε)/Z,あるいは,

/N=exp(-βε)/{Σexp(-βε)}

と書けます。


これはエネルギーεを取る粒子の確率が因子

exp(-βε)に比例することを意味します。

 

こうして,古典統計分布であるMaxwell-Boltzmann分布

(M-B分布)が得られました。

 

最初箱の中にN個の自由粒子があると仮定し,途中から

考察の都合上,自由粒子の変わりに1儀元調和振動子という

特殊例を用いたのですが,最終的な分布の導出方法には自由度

関係なくここで得た古典分布は一般的結論であり,自由粒子

しても同じです,上述の1次元調和振動子の場合,系の自由度

f=Nで2f=2Nです。

 

一方,最初に仮定した箱の中にN個の自由質点粒子がある

ケースならf=3Nで2f=6Nであることを断っておきます。

 

粒子数一定で系の外からエネルギーの流出入のない孤立系

においてΓ空間における代表点(微視状態)の集合を小正準

集合,または小正準集団(micro canonical ensemble)と呼び

上述の統計分布はミクロカノニカル分布とも呼びますが,

この方法を小正準集団(集合)の方法といいます。

 

後に紹介する正準集団,大正準集団の方法では,それぞれ,

孤立系ではなくエネルギーの流出入,粒子の流出入を許す

場合の,より一般的な系を想定した方法で同様な統計分布を

見出すことができます。

 

そして,孤立系はそれらの特別な場合に過ぎず,それらに

含まれています。

 

正準集団,大正準集団は,対象とする系と全く同じ条件の系が

大量に合計M個存在すると想定して,系が取る状態の確率は

その集団の中で同じ状態にある系の個数がnならn/Mで与え

られるというような統計集団であるのに対し,小正準集団は

統計集団というよりも状態の集合ですから意味はちょっと

違いますね。

 

今日はここで終ります。

 

悪いクセで脱線しだすと際限がないですが,昔と違って全て

通ってきた道で指針となる覚え書きノートも揃っているので,

すぐ収拾はつきます。

 


参考文献:中村伝 著「統計力学」(岩波全書),

阿部流蔵 著「統計力学(第2版)」(東京大学出版会), 

久保亮五 著「大学演習 熱学・統計力学」(裳華房)

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