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2014年11月11日 (火)

統計力学の基礎(2)(古典統計力学2)

古典統計力学の続きです。

前回,粒子数がNで自由度がfの多粒子系で,系のエネルギーが

の孤立系において,エネルギーがε,..,にある粒子数を

それぞれ,n,n,..,とすると,その熱平衡時の分布がM-B分布

つまり,n=fexp(-βε)/Z;ただし,Z=Σexp(-βε)

で与えられることを見ました。

 

しかし,まだ,パラメータβやZがどのような量であるか?が不明

です。

 

そこで,以下では,まず,それらの量を明確にしたいと思います。

 

,異なる種類の粒子からなる2つの系A,Bがあって,これらの系

はどこかの境界で接触していて,それ以外の境界からはエネルギー

の流出入がなく熱平衡にあるとします。

 

このとき,系A,Bそれぞれを構成する粒子数N,Nは,独立に

不変ですが,エネルギーは弱い接触相互作用ですがAとBの間

では自由に交換できます。

 

系AのN個の粒子のうちで,エネルギーがε,..,にある

ものの数が,n,.., で.系BのN個のうちエネルギーが

,e,..,にあるもの数がm,m,..,であるような粒子

微視状態の配分方法の総数をWとすると,

 

W={N!/(n!n!..), }×{N!/(m!m!..)}

と書けます。

 

そこで,Stirlingの公式によって, 

lnW ~ fln(f)-Σln(n)+fln(f)

-Σln(m )

と近似されます。

 

前の考察と同じように=N=N,かつ,

Σε+Σme=E の条件下で,lnWを最大にする

分布をLagrangeの未定係数法で[求めます。

 

すなわち,-δlnW+αΣδn+αΣδm

+β(Σεδn+Σδm=0 ,δn,δm

ついての恒等式になる条件を求めます。

 

そこで,δn,δmの全ての係数がゼロ,つまり, 

lnn+α+βε=0,かつ,lnm+α+βe=0 

です。

 結局,n=Nexp(-βε)/Z,かつ,

=Nexp(-βe)/Zなる表式を得ます

 ただし,Z=Σexp(-βε),Z=Σexp(-βe)です。

 

ここでβは系AとB共通の係数であることに注意します。

 

熱力学によれば,こうした接触した2つの系AとBが熱平衡状態

にある条件は,両者の絶対温度が等しいことです。

 

それ故,βは絶対温度Tのみの関数と考えられます。

 

N粒子から成る孤立系でのM-B分布:n=Nexp(-βε)/Z; 

Z=Σexp(-βε)に戻って,lnZのβによる偏微分を取ると, 

(lnZ)/∂β=∂Z/∂β/Z=Σεexp(-βε)/Z 

=-Σε/N:つまり,∂(lnZ)/∂β=-E/N です。

 ところで,系のHelmholtz自由エネルギーをFとすると,Fの定義

系の内部エネルギーをU,エントロピーをSとしてF=U-TS

ですが粒子の総ネルギーEが系の内部エネルギーUに相当するため,

F=E-TS,/T=E/T-S です。

 

そこで,{∂(F/T)/∂T}

=-E/T+(∂E/∂T)/T-(∂S/∂T) 

ですが,熱力学第一法則により,TdS=dE+PdV

なので,(∂S/∂T)=(∂E/∂T)です。

 

したがって,{∂(F/T)/∂T}=-E/Tを得ます。

 

一方,∂(lnZ)/∂β=-E/fから, 

(flnZ)/∂T={∂(flnZ)/∂β}(dβ/dT) 

=-E(dβ/dT) です。

 

それ故,{∂(F/T)/∂T}

={∂(flnZ)/∂T}{(dβ/dT)-1/T2 ですから,

ある定数をkとして,F/T=-fklnZ,(dβ/dT)T=-1/k 

と置けば,この関係式が成立します。

 

dβ/dT=-1/(kT)を積分すれば,β=1/(kT)+C

を得ますが,特に積分定数Cはゼロでβ=1/(kT)と考えられます。

 

何故なら,非常に高温(T → ∞)では分布は,エネルギーεの値に

関係なく一様になると思われるからです。

 

一方,lnW=flnf-Σlnnに,n=fexp(-βε)/Z,

および,lnn=lnf-βε-ln/Zを代入すると,

f=Σ,E=Σεによって,lnW=βE-flnZ

ですが,F=-fkTlnZより,flnz=-βFなので, 

lnW==βE-βF=βTS=S/kです。

故にS=klnWなる関係式が得られます。

 

ところで,理想気体の系でしかもそのN個の構成分子が構造を

持たない質量mの質点と見なせる場合(例えば単原子分子の場合),

個々の粒子のHamiltonianはH=/(2m)で与えられ,系の自由度

はf=3Nです。

 

このとき,運動量がの粒子数は,n()=Nexp{-/(2mkT)}

で与えられるはずでますが,このN粒子を閉じ込めている容器の体積

Vの増減と共に,取り得る状態の配分数WはVに比例して増減する

はずなので比例定数をAとしてlnW=ln(AV)=Nln(AV)と書け

ます。

 したがって,S=klnW=Nkln(AV)より,

T(∂S/∂V)=NkT/Vを得ます。

ところが,TdS=dE+PdVなので,

P=(∂S/∂V)です。

 

以上から,P=NkT/V,つまりPV=NkTなる関係式が

得られました。

 

理想気体の状態方程式は系の絶対温度をT,圧力をP,体積

をVとするとRを気体定数として,PV=nRT=Nk

で与えられます。

 

ただし,nはこの気体のモル数です。1モル当たりの気体分子

であるAvigadro数(~6.02×1023)をN0とすると,n=N/N0であり

はBoltzmann定数で,k=R/N0で定義されます。

 

この状態方程式PV=NkTを,すぐ前で求めた式:PV=NkT

比較等置して,未知定数 kはk=kB と結論されます。

 

こうして,結局,β=1/(kT)で,N個粒子の孤立系の粒子数分布は 

=Nexp{-ε/(kT)/ZでZ=Σexp{-ε/(kT)であり,

lnZはHelmholtzの自由エネルギーFとF=-NkTlnZなる関係

にあります。

 

そうして,エントロピーはS=klnWで与えられることが

わかります。 

この最後のエントロピーと状態配分の関係式はBoltzmanの原理

(Boltzmannの関係)と呼ばれています。

 

この関係から,熱力学での熱平衡でのエントロピー極大の条件

が正に最大確率の分布に対応していることがわかります。

 

 さて,次に,正準集団の方法を紹介します。

 

体系の全エネルギーが各粒子のエネルギーの総和となることは,

運動エネルギーにおいては常に成立しますが,位置エネルギーに

おいては一般には成立しません。

 

以下ではこれまでと異なって粒子間に微弱とはいえない相互作用

がある場合をも扱える一般的方法について述べます。

 

 前と同じく莫大な個数N個の粒子から成り立つ全粒子系の自由度

がfの体系を考え,その一般化座標を(q1,..,q),共役運動量

=(p1,..,p)とします。

 

この体系の状態を示す.座標が(,)の代表点の作るEuclid空間

は前にΓ空間と呼んだ2f次元の相空間ですが,

今回はH(,)=E(一定)という制約は設けません。

 この系と同じ構造を持つ体系を非常に多く用意できたと想定し

それらを並べるとします。

 そしてその同じ系の総数はM個とします。MもAvogadro数に

匹敵するような巨大な数です。

これらM個の体系はその間に微弱な相互作用があって,相互に

エネルギーを交換ができるとします。

 

しかし,M個全体では外界と何の交渉もない孤立系であるとします。

 

このように体系の集団(ensemble)を想像し,その統計的平均が実測

の物理量に一致すると考えます。

 

そしてM個の同じ体系の全体をM×(2f)次元の相空間として一般

化座標を((1,(1),21,(2),..,(M),(M))とする代表点

全体の空間をΓ0空間と呼ぶことにします。

 

ただし,(j)=(q(j)1,..,q(j)),(j)=(p(j)1,..,p(j)), 

(j=1,2,..,M) とします。

 

Γ空間と空間とΓ0空間の関係は,前回の孤立系でのμ空間とΓ空間

の関係と同じです。

 

そこで,以下,このM個の系全体の作る孤立英について前回と同じ 

小正準集団の方法を適用します。

 

すなわち,Γ空間を2f次元体積がaの高々可算個の細胞に分割

し,k番目の細胞のエネルギーをEとします。

M個の系の集合の要素のうち,このk番目の状態を取るものの個数

をMとします。

 

そして,M個の系全体の不変なエネルギーをE0=Σ

します。

 

 M個をM,M,..,M,..個に分割する配置の数Wは, 

 W=M!/( M!M!..,M!..)で与えられます。

 1つの分け方:(M,M,..,M,..)がΓ0空間のaの体積

の細胞に相当するので,あらゆる(M,M,..,M,..)の組を

与えるΓ0空間内の体積はWaとなります。

 

「エルゴード仮設」,または「等重率の原理」によってΓ0空間内

のある体積を占める確率はその体積に比例します。

 

それ故,今の場合Σk=1=M,および,E0=Σの条件下

でlnWを最大にする分布が最も実現確率が高く,熱平衡時にはそうした(M,M,..,M,..)が実現されているはずです。

 

このMを求めると前回と同じ手順でM=M exp(-βE)/Z

なる分布が得られます。

 

 これをM=Σに代入すると, 

 Z=Σexp(-βE)

 =(1/a)∫exp(-βE)dq..dqdp..dp 

が得られます。

 このZを分配関数(partition function),または,

状態和(sum over states)と呼びます。

 前と同じくLagrangeの未定係数法で仮に与えた係数パラメータ

βは,熱平衡にあるM個の体系に共通なので.絶対温度Tと同じく

熱平衡の尺度と予期されます。

 いいかえると,βはTのみの関数です。

 そして,今.この想定された莫大な個数M個の系のうちで唯一つ

の系だけに着目すると,それがエネルギーEの状態となる確率が

exp(-βE)に比例することがわかります。

 

 実際の正しい確率はexp(-βE)/{Σexp(-βE)z}で

与えられます。

 

着目した体系以外の,それに接触した残りの巨大な(M-1)個の

系全体を温度を一定に保つ熱浴と見なせば,これは熱浴に漬かって

いる,または,恒温槽に接触している体系の確率分布を記述するもの

と考えられます。

 

 このような[分布を正準分布(canonical distribution)と呼び,

この方法を正準集団の方法といいます。

 

 前と同様,∂(lnZ)/∂β=-Σexp(-βε)/Z

 =-E0/M=<E>です。

 

 一方,Helmholtzの自由エネルギーをF=U-TSとすると,

 [∂{(F/T)}/∂T]V=-U/Tなので,内部エネルギー

 Uが系のエネルギーの平均値 <E>に一致する,

 つまり,U=<E>として比較することから,kをある定数

としてF=-kTlnZ,β=1/(kT)が得られます。

 

 さて,N粒子の理想気体ではf=3Nで

 Z=(1/a)∫exp(-βE)dq..dqdp..dp 

 =(1/a){∫d∫exp(-2/(2mkT))d}

 =V(2πんkT)3N/2/aなので,

 

 F=-kTlnZ=kTln{V(2πmkT)3N/2/a}

となります。

 そこで,(∂F/∂V)=-NkT/Vですが,F=U-TS

なので(∂F/∂V)=-(∂S/∂V)=-Pです。

 

 すなわち,PV=NkTを得ますから,やはり,k=k

であり,結局,F=-kTlnZ,β=1/(kT) です。

 

 しかし,実は上記のFの表式:

F=-kTlnZ=kTln{V(2πんkT)3N/2/a}は体積V 

への依存性が正しくないです。

つまり,N/V一定でV→2VならF→2Fとなるべきなのにそう

なっていません。

 

 熱力学量には温度T,圧力Pのように物質量とは無関係な示強性

の量と,エネルギーやエントロピーのように物質量に比例して1モル

が2モルになればそれらも倍の値になる,という示量性の量があり

ますが自由エネルギーFは1つの示量性の量です。

 

 N/Vが一定でV→ 2VというのはN→ 2NでVV→ 2Vで

あり,単純に同じ系が2つあるのと同じ意味ですから,常識で

考えてもF→ 2Fとなるはずです。

 

 つまり,F=-kln{V(2πmkT)3N/2/a}

 =-NkTln{V(2πmkT)3/2/a/(1/N)} 

→ -kln{(2V)2N(2πmkT)3N/a}

=2NkTln{2V(2πmkT)3/2/a1{1/(2N)}} 

2F-2NkTln2-kTlnaとなって常識と相容れません。

 

 仮に,Z=(1/a){∫d∫exp(-2/(2mkT))d}

 =V(2πんkT)3N/2/aの右辺をN!で割れば,

 -ln(N)=-NlnN+Nであり,N→ 2Nに対して, 

-NlnN+N→ -2NlnN+2N=2(-NlnN+N)-Nln2な

ので,ほぼこの矛盾が解消されます。

 

 これは古典統計の1つの欠陥であり,N個の粒子に1番,2番

と順序を付けて区別することはできない,という量子統計で解決

されることは後述しますが,量子統計に移行しなければならない

理由の1つです。

 

 前回の孤立系では,N個の粒子の個々のエネルギーが

ε,..,εE=ε+ε..+εと書けるとき,

Eが一定不変という条件つきでk番目の粒子がエネルギーε

を取る確率がexp{-ε/(kT)}/[Σjexp{-ε/(kT)}]

で与えられることを見ました。

 

 ここではN個の粒子系のエネルギーがE=ε+ε..+ε

を満たすエネルギー値Eを取る確率が

exp{-E/(kT)}/[Σexp{-E/(kT)}]

exp{-(Eε+ε+..+ε)/(kT)}

/[Σexp{-(Σε)/(kT)}]で与えられ,

, その際,E=ε+ε+..+ε=(一定)という制約条件

なしで各々の粒子のエネルギ^-εが独立に変わり得ると

してよいので,

 結局,k番目の粒子がエネルギーεを取る確率が

 exp{-ε/(kT)}/[Σjexp{-ε/(kT)}]で与えられる

という同じ結論が,孤立系で外界とエネルギーのやりとりがない

という条件抜きでも成立することがわかります。

 

したがって,今回の正準集団の方法による結果は前回の小正準集団

の方法を包摂したより一般的なものであることがわかりました。

 

 今日も次の大正準集団の項に入る予定でしたが,長くなり過ぎた

のでここで終わります。

 

参考文献: 中村 伝 著「統計力学」(岩波全書) 

阿部流蔵 著「統計力学(第2版)」(東京大学出版会), 

久保亮五 著「大学演習 熱学・統計力学」(裳華房)

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