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2014年11月19日 (水)

統計力学の基礎(4)(量子統計力学1)

 古典統計力学3の続きで量子統計力学に入ります。

 

§1.多粒子系の量子力学 

ここまでの古典統計力学における考察と同様,体積Vの容器の中

に莫大な数であるN個の自由粒子が閉じ込められているケースを

考えますが,統計力学を進める前にこうした多粒子系の量子力学

をレビューしておきます。

 

簡単のため,系全体のHamiltonianが系を構成する各粒子それの

単純和で与えられる場合を論じます。

 

N個のうち,k番目の粒子のHamiltonianを(k)とすると,

は,(1)(2)..+(N)と表わされます。

 

この場合,系を支配する定常状態のSchroedingerの波動方程式: 

Ψ=EΨの形式的な解 Ψは, 

Ψ(1,2…,N)=ψr1(1)ψr2(2)..ψrN(N),および, 

固有値 E=ε1+eε2..+εrN の組で与えられます。

 

ただしrk,および,εrkは,それぞれ,1粒子のSchroedinger

波動方程式:(rk) ψrk=εrkψrkを満たす1粒子の波動関数

(固有関数),および,エネルギー固有値です。

 

全系の解:Ψ(1,2,..,N)=ψr1(1)ψr2(2)..ψrN(N)は,

1番目の粒子がr,2番目の粒子がr..という状態,にある

ことを意味します。

 

しかしながら,量子力学の立場では,そのような粒子の個別性は

否定され,より制限された波動関数のみが許されます。

(粒子の分別不可能性)

 

一般に量子力学的粒子は位置座標の他にスピンと呼ばれる

内部自由度を持っており,その大きさは0.1/2,1,3/2,のような

値のみを取り得ます。

 

スピンが0.1.2,..の整数値をとるとき,その粒子はBose粒子

(Boson),1/2,3/2…のような半奇数値をとるときは,粒子は

Fermi粒子(Fermion)と呼ばれます。

 

自由粒子であれば一般にスピンがsの状態は(2s+1)重に縮退

しています。

 

そして,N粒子系が全てBose粒子の集まりであれば,それは

Bose統計(=粒子の交換に対して対称)に,一方,全てFermi

粒子の集まりならFermi統計(=粒子の交換に対して反対称)

に従うことがわかっています。

 

前に,N粒子の定常状態波動関数を

Ψ(1,2…,N)=ψr1(1)ψr2(2)..ψrN(N)と書きました

.例えばψr1(1)は,粒子1の座標変数を1,スピンをs1

とした関数ψ1(1,s1)の引数 (1,s1)をまとめて数1

で代表させたものです。

 

Bose統計では,その波動関数が粒子の交換に対して対称 

すなわち,Ψ(2,1,3,..)=Ψ(1,2,3,..)であり,Fermi統計

では反対称:すなわち.Ψ(2,1,3,..)=-Ψ(1,2,3,..) 

です。

 

そこで,一般にを(1,2,3,..)を(r,r,..,r)に置き換える

置換演算子とすれば,

Bose統計の場合,

Ψ(1,2,3,..N)=Ψ(1,2,3,..N),

Fermi統計の場合,

Ψ(1,2,3,..N)=(-1)δ(P)Ψ(1,2,3,..N)

です。

 

ただし,はδ(P)は,が偶置換のときは偶数,奇遺憾のときは

奇数を表わします。そして,この対称性は自由粒子だけでなく

粒子間相互作用があるときも成立します。

 

しかし特に自由粒子なら,こうした対称性を満たす波動関数を,

1粒子固有関数のN個の積:ψ1(1)ψr2(2)..ψrN(N)の

一次結合として,

Bose粒子ならΨ(1,2,3,..N)

 =(N!)-1/2Σψr1(1)ψr2(2)..ψrN(N),

Fermi粒子ならΨ(1,2,3,..N)

 =(N!)-1/2Σ(-1)δ(P)ψr1(1)ψr2(2)..ψrN(N) 

 と表わすことができます。

 

後者はi行j列の成分がΨ(i)の行列をΨとすると行列式 detΨ

意味します。これは,Slater行列式として知られています。

 また,全体にかかる係数(N!)-1/2は全確率が1となる条件

規格化条件:

∫Ψ(1,2,3,..N)Ψ(1,2,3,..N)dτ1dτ2..dτ=1

を満足させるために必要な規格化定数です。

 

ただし,記号∫dτkはスピンによる総和と積分:Σsk∫d3k

総称しています。

 

そして,Fermi粒子の場合, k≠lなるk,lに対し,もしもr=rl

なら行列式の性質によってΨ=0 です。

 

つまり,Fermi粒子ではk≠lなる異なる粒子k,lが,因子

ψrk(k)ψrl(l)によってr=rlなる同じ1粒子状態を占める

確率はゼロです。

 

したがって,同じ1粒子状態状態に2つ以上のFermi粒子が入ること

はできないことがわかります。

これをPauliの排他律(exclusion principle)といいます。

 

一方,Bose粒子にはこのような制限はなく同じ1粒子状態に原理的

には無限個Bose粒子が入ることができます。

 

この性質を表わすには,1粒子の状態rを占める粒子数nを考察

するのが便利です。

 

そうした粒子数nを考えれば,Bose粒子の場合には,

=0,1,2,...が,Fermi粒子の場合にはn=0,1のみが

許されます。

 

系の粒子の総数がNの場合N=Σです。そして,いずれの場合

も系全体のエネルギーEは,E=Σεで与えられます。

 

特に自由粒子では,[/(2m)]ψ=εψです。Plank定数を陽にh

と書く単位では,=-ihc∇ですからε=hc/(2m)と

書けます。ただし,hc=h/(2π)です。

 

これらの固有関数はスピンには依らず,2重に縮退しています。

 

ところで,粒子間に相互作用が存在すると,系の波動関数

Ψ(1,2,3,..N)は,

Ψ(1,2,3,..N)

=(N!)-1/2Σψr1(1)ψr2(2)..ψrN(N),または,

Ψ(1,2,3,..N)

=(N!)-1/2Σ(-1)δ(P)ψr1(1)ψr2(2)..ψrN(N)

ような形には書けません。

 

しかしながら,このような多粒子系AとBがあって,それぞれの系

内部では粒子が相互作用していても,AとBの間に相互作用がない

なら全体系のエネルギーEはA,BそれぞれのエネルギーE,E

の和としてE=E+Eをと表わすことができます。

 

.量子統計力学における正準集団,大正準集団 

,対象としている非常に多くの粒子から成る多粒子系と全く

同じ構造の体系がM個あるケ-スを想定してそれらを密着させて

並べます。

 

それらM個の系のそれぞれにはごく弱い相互作用がありエネルギー

を交換するものとします。

しかし,M個全体は孤立系で外部とは何の交渉もないとします。

 

古典論での出発点は.莫大な個数M個あると想定した同じ系の

うちでエネルギーがEにあるものの個数をMとするとき.

次の3つの点が成立するということでした。

 

 すなわち,(ⅰ)W=M!/{Π(M!)}, 

(ⅱ)(M1,M2,..)なる組で示されるMの配分が実現される確率は

Wに比例する。(ⅲ)平衡状態ではWが最大になっている。 

 の3つです。

 

 これらは「エルゴード仮設」,なたは「等重率の原理」に基づく

 ものです。

 

量子論でもこの状況は同じです。量子論の古典論との決定的な

違いは系を構成する微視的粒子の区別が不可能なこと:つまり,

1番目の粒子,2番目の粒子..というように粒子に順番を付ける

ことは量子論の世界では不可能であることです。

 

しかし,微視的粒子の集まりでなく巨視的な系のM個の集まりで

ある正準集団や大正準集団では,個々の系を区別して番号を付ける

ことが可能なので,これらの方法においては古典論との違いはない

と考えられます。

 

古典統計との違いが克明に現われるのは小正準集団の方法ですが

これについては別記事で後述する予定です。

 

さて,(ⅰ),(ⅱ),(ⅲ)の仮定が量子論でも正しいと認めて正準集団

の方法を進めると,古典論と同じく,

粒子数がN個と一定な系でエネルギーがEにある確率分布は,

exp(-βE)/Z;Z=Σexp(-βE)で与えられます。

 

さらに,粒子の交換も許す大正準集団では,粒子数Nの系で

エネルギーEk(N)の状態をN粒子の系が取る確率は,次式で

与えられます。

λexp{-βEk(N)}/Z=exp[-β{Ek(N)-μN}]/Z

です。

 

ただし,分母の大分配関数Zは,

=ΣN=0Σexp[-β{Ek(N)-μN}] 

です。

 

E=Σεを用いると,粒子個数がNでΣ=Nという制限

がある場合の自由粒子に対する状態和=分配関数:

Z=Σexp(-βE)は,Z=ΣΣnr=N exp{-β(Σε)}

と表わすことができます。

 

 しかし,大きな状態和=大分配関数では,Σ=Nという粒子数

 制限がないので,は各準位rについて独立に変わるとしてよい

 と考えられるため,

 

 =Σnr exp{-β(Σε-μΣ)}

 =Σnr exp[-β{Σ-μ) }]

 =ΠΣnr exp{-βn-μ)} となります。

 

 そして,粒子がBose粒子なら,n=0,1,2,..を取り獲るので

Σnr exp{-βn-μ)}=Σnr=0 exp{-βn-μ)}  

=1+exp{-β(ε-μ)}+exp{-2β(ε-μ)}+..(無限等比級数) 

[1- exp{-β(ε-μ)}]-1ですから,

=Π[1- exp{-β(ε-μ)}]-1 を得ます。

 

一方,粒子がFermi粒子なら,n=0,1のみなので 

Σnr exp{-βn-μ)}=Σnr=01 exp{-βn-μ)} 

=1+exp{-β(ε-μ)}ですから,

=Π[1+ exp{-β(ε-μ)}] です。

 

そこで,nの平均値をfと書けば, 

≡<n

=Σ,Nexp{-βE-μN}}/[ΣE,N exp{-βE-μN}] 

=Σnrexp{-βn-μ)}/Σnrexp{-βn-μ)} 

=-{∂Z/∂(βε)}/ Z=-∂{lnZ/∂(βε)} より,

 

Bose粒子,Fermi粒子のそれぞれについて, 

exp{-β(ε-μ)}/[1- exp{-β(ε-μ)}]

=1/[exp{β(ε-μ)}-1],

 

exp{-β(ε-μ)}/[1+ exp{-β(ε-μ)}]

=1/[exp{β(ε-μ)}+1] 

が得られます。

この分布則を,それぞれ,Bose分布,Fermi分布と呼びます。

これらは,β(ε-μ)=(ε-μ)/(kT)が大きいときには

=1/[exp{β(ε-μ)}±1]

~ exp{-β(ε-μ)}=exp{-(ε-μ))/(kT)}となって,

古典的なMaxwell-Boltzmann分布になります。

ところで,Z=exp(-βΩ) or Ω=-lnZ/βで熱力学ポテンシャル 

Ωを定義すれば,前と同じくΩ=-PVであり, 

dΩ=-SdT-pdV-<N>dμですから,エントロピー 

はS=-(∂Ω/∂T)V,μで与えられます。 

 

 Z=Π[1±exp{-β(ε-μ)}]±1 より  

Ω=-lnZ/β=-±Σ[ln[1±exp{-β(ε-μ)}]です。

 結局,種々の計算の末,(詳細は略。。)

S=kΣ[-flnf±(1±f)ln(1±f)]なるエントロピーの表現

を得ます。

 

短かいですが,本記事はここで終わります。 

 

すぐ後に小正準集団の方法を含む2007年の過去記事を再掲載する

予定です。

 

参考文献: 阿部流蔵 著「統計力学(第2版)」(東京大学出版会)

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