統計力学の基礎(6)(量子統計力学3)
量子統計力学の続きです。
§3.状態和に対する表式
莫大な数 N個の粒子から構成される系全体のHamiltonian
をHとし,そのk番目のエネルギー固有値をEk,固有関数
をΨk(1,2,..,N)とします。
HΨk=EkΨkです。
ここでxの関数f(x)をf(x)=Σn0=∞anxnで定義します。
このとき,xをHで置き換えたものとして演算子 f(H)を定義
できます。
Hが線型演算子なのでf(H)も線型演算子です。
HΨk=EkΨkより,H2Ψk=Ek2Ψk,..,HnΨk=EknΨk
となるため,f(H)Ψk=f(Ek)Ψkとなります。
したがって,exp(-βH)Ψk=exp(-βEk)Ψkです。
ここで,Diracのブラケット記法に移行します。
H|Ψk>=Ek|Ψk>,exp(-βH)|Ψk>=exp(-βEk|Ψk>
etc.です。
|Φ>=Φ(1,2,..,N),|Ψ>=Ψ(1,2,..,N)に対して,
スカラー積(ユニタリ内積)を,
<Φ|Ψ>=∫Φ*(1,2,..,N)Ψ(1,2,..,N)dτ1dτ2..dτN
で定義します。
Hの固有関数 |Ψk>=Ψk(1,2,..,N) (k=1,2,..)は規格化
直交条件<Ψi|Ψj>=δijを満たし,|Ψ1>,|Ψ2>,.. は,
完全系を構成するとします。
つまり,任意の|Ψ>は,|Ψ>=Σkck|Ψk>;ck=<Ψk|Ψ>
と展開されます。これは,|Ψ>=Σk|Ψk><Ψk|Ψ>とも書ける
ので,完全系をなすことは,Σk|Ψk><Ψk|=1と表現されます。
一方,任意の演算子をAとするとき,<Φ|Ψ>の<Φ|を<Ψj|
とし,|Ψ>をA|Ψj>とすると,<Ψj|A|Ψj>ですが,これを
i行j列の行列要素とする行列を同じ記号Aで表わすこtとに
します。
すると,exp(-βH)|Ψk>=exp(-βEk)|Ψk>によって,
正準分布の状態和=分配関数Zは,
Z=Σkexp(-βEk)=Σk<Ψk|exp(-βH)|Ψk>
と表わされます。
行列A=(Aij)のトレース(trace:対角和)を,TrA=ΣkAkk
で定義すると,Aij=<Ψj|A|Ψj>の場合は,
TrA=ΣkAkk=Σk<Ψk|A|Ψk> です。
以上から,状態和(分配関数)は量子論的期待値の和として,
Z=Tr[exp(-βH)と書けることがわかります。
これを大きな状態和=大分配関数に拡張するには少し注意を
要します。何故なら,それは粒子数の変動を伴うからです。
エネルギーだけなら量子論の物理量としてHamiltonian Hと
いう対応する演算子がありました。
そこで,自由粒子の場合,以前Bose分布とFermi分布の導出の際
に与えた,エネルギー固有値がεrの1粒子状態を占有する粒子
数nrを,個数演算子と見なしてnrと書き,
H=Σrεrnr,N=Σrnrとすれば,大分配関数ZGは上記の
分配関数Zのケースと同様にして,ZG=Tr[exp{-β(H-μN)}]
と書けます。
この個数nrを演算子と見なする法を第2量子化といいます。
謂わゆる場の量子化ですね。
§4.古典的極限(高温極限)
これまでと同じく,莫大な数 N個の粒子が体積Vの箱の中にある
として考察していますが,粒子間には相互作用が働くとします。
そのポテンシャルをUとし,これは粒子の空間座標x1,x2,..,xN
のみの関数と仮定します。
特に2体力のみならvijを粒子iと粒子jの間に働く力の
ポテンシャルとして,U=Σi<jvijと書けます。
しかし,以下の論議はより一般的で,UをU=Σi<jvijの形に
限定する必要はありません。
今,対象としている体系の全Hamiltonianは,
H=H0+U(x1,x2,..,xN)であり,
H0={-hc2/(2m)}Σk=1N∇k2であるとします。
H0とUは一般には演算子として非可換ですが,古典的極限では
交換するとしてよいので,
exp(-βH)=exp{-β(H0+U)}~ exp(-βU)exp(-βH0)
です。
そこで,状態和は,この古典極限では,
Z=Trexp(-βH)=Tr[exp(-βU)exp(-βH0)]
です。
系がFermi統計に従うとし,上記の状態和のトレース表現 :
Z=Trexp(-βH)=Σk<Ψk|exp(-βH)|Ψk>のトレース
を取る状態 |Ψk>して,Slater行列式:
Ψ(1,2,3,..N)=(N!)-1/2ΣP(-1)δ(P)P
ψr1(1)ψr2(2)..ψrN(N)を使います。
これは,前に粒子間に相互作用がある場合には自由粒子の集まり
とは異なって,全系の波動関数は1粒子のエネルギー固有関数の
積の一次結合の形にはならない,と記述したことに矛盾するよう
ですが。。
2007年6/15の過去記事
「ハートリー・フォック(Hartree-Fock)近似(1)」での電子の
集まりに対するHartree近似,すなわち,独立電子近似のような近似
を考えれば相互作用が弱い場合には矛盾ではないと考えられます。
したがって,(r1,r2,..,rN)の組に対応する1つの,Slater行列式
Ψ(1,2,3,..N)=(N!)-1/2ΣP(-1)δ(P)P
ψr1(1)ψr2(2)..ψrN(N) を,ψr1,r2,..,rN(1,2,3,..N)と書けば,
Z=Trexp(-βH)=Σk<Ψk|exp(-βH)|Ψk>のトレース
を取るべき)|Ψk>の添字kは,今の場合,k=(r1,r2,..,rN)
で与えられます。
ただし,各rj(j=12,..,N)は1粒子波動関数ψrj(j)の添字
であり,このrjは1粒子エネルギー固有値εrjに対応しています。
それ故,トレースの総和Σkはあらゆるエネルギー準位の組
(r1,r2,..,rN)のSlator行列式 ψr1,r2,..,rN(1,2,3,..N)
にわたって取られます。
以上から,Z=Trexp(-βH)=Σk<Ψk|exp(-βH)|Ψk>
=Σ(r1,r2,..,rN)∫exp(-βU)ψ*r1,r2,..,rN(1,2,3,..N)
exp(-βH0)ψr1,r2,..,rN(1,2,3,..N)dτ1dτ2..dτNなる
表式を得ます。
この表式のΣ(r1,r2,..,rN)で総和される内容を,F(r1,r2,..,rN)
と書いて,Z=Σ(r1,r2,..,rN)F(r1,r2,..,rN)と表現すると,
F(r1,r2,..,rN)は,次の性質を有します。
(ⅰ)F(r1,r2,..,rN)は(r1,r2,..,rN)の個々の引数成分の交換
に対して対称である。
(ⅱ)F(r1,r2,..,rN)は(r1,r2,..,rN)のうち2つ以上のrkが
一致するときにはゼロである。
以上の2点からr1<r2<..<rN)の制限付きの1つの
(r1,r2,..,rN)の組に対して(N!)個の同じF(r1,r2,..,rN)
が対応するため,状態和は,Z=Σ(r1,r2,..,rN)F(r1,r2,..,rN)
=,(1/N!)Σr1,r2,..,rNF(r1,r2,..,rN)と表わされます。
ただし,左辺のΣ(r1,r2,..,rN)の添字の組(r1,r2,..,rN)は,
r1<r2<..<rN)の制限付きで,右辺のΣ(r1,r2,..,rNの添字
r1,r2,..,rNには,そうした順序の制限は無しです。
そこで,今の場合の,
Z=Trexp(-βH)=Σk<Ψk|exp(-βH)|Ψk>を再び,
陽に書くと,(r1,r2,..,rN)をr1<r2<..<rN)に制限して
Z=Σ(r1,r2,..,rN)∫exp(-βU)ψ*r1,r2,..,rN(1,2,3,..N)
exp(-βH0)ψr1,r2,..,rN(1,2,3,..N)dτ1dτ2..dτN
ですから,
Z=(1/N!)Σr1,r2,..,rN∫exp(-βU)(N!)-1ΣP(-1)δ(P)
[Pψ*r1(1)ψ*r2(2)..ψ*rN(N)]exp(-βH0)
[ψr1(1)ψr2(2)..ψrN(N)]dτ1dτ2..dτN です。
ここで,ρ(x,y)≡Σrψ*r(x)exp{βhc2/(2m)}∇y2}ψr(y)
とおくと,固有関数の完全性 |r><r|=1
or Σrψ*r(x)ψr(y)=δ3(x-y)
=(2π)-3∫d3kexp{ik(x-y)} が成立しますから
ρ(x,y)=(2π)-3∫d3kexp{ik(x-y)-βhc2k2/(2m)}
ですが,
ik(x-x)-βhc2k2/(2m)
=-{βhc2/(2m)}{k-im/(βhc2)}2-m//(2βhc2)
なので,
ρ(x,y)=(2π)-3exp[{-m/(2βhc2)}(x-y)2]
∫d3k exp{{βhc2/(2m)}{k-im/(βhc2)(x-y)}2
結局,ρ(x,y)
={m/{2πβhc2}}3/2 exp{-m//(2βhc2)(x-y)2}
を得ます。
古典的極限, or 高温極限では,βhc2 ~ 0 ですから,上の最後
に得たGauss誤差関数の表現によると,x≠yのρ(x,y)の
寄与は,x=yのρ(x,y)=ρ(x,x) の寄与に比してほぼ
ゼロであり無視できます。
そしてρ(x,y)
={m/{2πβhc2}}3/2 exp{-m//(2βhc2)(x-y)2}
でx=yとすると,ρ(x,x)={m/{2πβhc2}}3/2 を得ます。
したがって,βhc2 ~ 0 の極限では,
Z=(1/N!)Σ(r1,r2,..,rN∫exp(-βU)(N!)-1
ΣP(-1)δ(P) [Pψ*r1(1)ψ*r2(2)..ψ*rN(N)]
exp(-βH0)[ψr1(1)ψr2(2)..ψrN(N)]dτ1dτ2..dτNにおいて,
Σ(r1,r2,..,rNの各項で,1つの添字rjに対するψrjとψ*rj
の積因子による関数:ρj(x,y)
≡Σrjψ*rj(x)exp{βhc2/(2m)}∇y2}ψr1(y)に寄与する
のは,総和ΣP(-1)δ(P)PのうちでP=1(恒等置換)に対応する
x=yの寄与のみです。
これは,{m/{2πβhc2}}3/2をj=1,2,..NのN個掛け合わせた
{m/{2πβhc2}}3N/2ですが,ZはこれのΣ(r1,r2,..,rNのあらゆる
順列の(N!)個の総和を2つの(N!)因子で割ったもので
与えられますが,それ故,1つの(N!)は相殺されます。
よって,
Z=(1/N!){m/{2πβhc2}}3N/2∫d3x1d3x2..d3xNexp(-βU)
が得られます。
ここで.Q≡∫d3x1d3x2..d3xNexp(-βU)とおき,
β=1/(kBT),hc=h/(2πを考慮すると,
Z=(1/N!){(2πmkBT)3N/2/h3N}Q と書けます。
特に,理想気体でU=0ならQ=VNなので,a=h3Nと
置けば,Z=(1/N!){ VN(2πmkBT)3N/2/a}となり,前に
古典統計に基づいて求めた理想気体の分配関数をN!で割った
ものに一致します。
まだまだ,この項の草稿は続いてるのですが,長いので分ける
ことにして一旦,終わります。
(参考文献):阿部龍蔵 著「統計力学(第2版)」(東京大学出版会)
PS;11/22の土曜日には1回目の忘年会?がありました。
私は極度の金欠で38円しかなかったので19時池袋待ち合わせには
障害者無料のフリーパスで巣鴨から都パスで出かけ,池袋,大山,巣鴨
と3件はしごしてタクシー代も含め全ておごってもらいました。
もう7年半も前に心臓病手術直後にクビになった会社の先輩1名
と後輩3名です。
当時,門前仲町で降りて永大橋のそばに2000年から7年間通って
て20時から朝7時まで勤務していた職場は既に無く,今は八王子
で同じ仕事をもっと少人数で引き継いでるらしいです。
後輩のうち1名には今回はじめて会いました。
私が辞めた直後くらいに入社したらしいですが,いかにも人が
好さそうな顔をしていました。
イヤ,7年も前に辞めたのに,いまだに1年に数回はタダ酒
さそってくれるのも私の人徳?のセイかな。。
アリガタイことです。。
夜中3時に帰宅して翌朝9時まで爆睡して日曜日はサワヤカに
めざめました。
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