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2014年11月27日 (木)

統計力学の基礎(7)(統計力学の基礎付け1)

量子統計力学の基礎(6)(量子統計力学3)からの続きです。

 

しかし,今回はむしろ,統計力学全般の基礎に関かわる私の

昔からの疑念のようなものについて記述します。

 

さて,統計力学といえば通常,その基礎付けとして「エルゴード仮説」

または,「等重率(等確率)の原理」という基礎原理があり.これに

基づいて正準集団という統計集団を想定して議論を進めます。

 

そして,その原理と方法はともかく,得られた結論,確率分布等に

ついては実際の巨視的現象を正しく評価できているので,現状

では,それを疑う余地はないと思います。

 

しかし,このブログを始めて2ヶ月の頃の2006年5/22の記事

「エルゴード問題と次元」においても,その基礎原理は大げさ

である,という趣旨のことを書きました。

 

 (※「エルゴード問題と次元」は短かいので,以下再掲全文です。)

 

昨日書いた「ブラウン運動とフラクタル次元」の中で書き漏らして

いた重要な話題を今日、思い出したのでここに書きます。

 

 それは統計物理学で等重率の原理とか,等確率の原理 

 (principle of equal a-priori probability)とか呼ばれて 

 いる話題です。

 

統計物理学,あるいは統計力学というのは,現在明確に確立

されている ものは平衡系の統計力学というものです。

 

これは,熱平衡状態にある巨視的な熱力学系の問題を,分子論

的な,つまり,微視的な多数の分子の運動の平均値という見方

から統計的分布問題として見直す物理学を意味するものです。

 

 例えば,たった1リットルの体積の容器の中に酸素を常温,常圧

 で閉じ込めた例を考えても,その中には実はおよそ1022個もの酸素

 分子があります。

 

そして,それらの分子約1022個の全てが容器の壁に衝突する衝撃

の総和を壁の面積で割り算したものを非常に長時間の時間平均

として,巨視的量である圧力を計算するために,

その容器の中の莫大な個数の分子の各々に関して古典力学なら

Newton の運動法則に従う軌跡を実際に追跡計算して非常に長時間

の平均から平均値を求めることは超大なコンピュータを用いても

非常に困難なことです。

 

(※しかし,最近ではなコンピュータの性能の急速な進歩と相俟って

実際にこうしたシミュレーション計算を試みる「計算物理学」なる

分野もあるようですが。。。)

 

ところが,統計物理学では「等重率の原理」という基本原理が

あり,これに従って統計平均を取ることで長時間平均を計算

できると考えます。

 

 これは,「長時間の間に各分子はそれぞれ全ての可能な軌道を

 一様に取る。」という原理です。

 

 つまり,今の場合なら「長時間のうちに容器内の個々の分子は

 総分子数が一定で,分子の総エネルギーが系のこの温度での内部

 エネルギーに等しい,という条件を満足する限り,運動方程式の

 全ての可能な解の軌道を取る。」という仮定を採用した原理の

 ことです。

 

 この仮定は実は巨視的な量の「長時間平均」が分子全体の軌道

 の作る「相空間平均」と一致するということと同じ意味で,これ

 を数学的には「エルゴード仮定(エルゴード仮説;

 ergodic ppothesis)」といい,これが実際に成立するかどうか?

 を研究する問題を「エルゴード問題」といいます。

 

こうした問題を考える背景には長時間平均を求めるより相空間

平均を求める方がはるかに簡単な計算で済む,という事がある

わけです。

 

ただ,N個の分子が描く相空間の軌道(位置と運動量)は時間と

 いうただ1つのパラメータの6N次元空間への写像です。

,

 ですから,その像も1次元のはずですが相空間自身の次元は位置

 と運動量合わせて6N次元です。

 

 そして,エネルギーが一定であるという条件が1つ入った超平面

 は(6N-1)次元ですから,いずれにしろ全く次元が合いません。

 

 まあ,背景となる空間が何次元であろうと,軌道というからには

 像は常に1次元であるわけです。

 もちろん,古典力学でなく量子力学であれば,像を構成するのは

 古典軌道ではなく状態であるということになりますが,次元が

 合わないということに変わりはないでしょう。

 

 普通に考えると,例えばこの3次元空間の世界で普通の質点の

 軌道を考え,どんなに小さな1つの容器を取ってきて,その中に

 1次元の軌道のどんなに莫大な量を集めて入れても,この容器

 を満たすことは不可能です。

 

 そこで前の記事で述べたフラクタル次元,ハウスドルフ次元,

 またはペアノ曲線(Peano曲線)を考えればこの矛盾は解消される

 と思ったわけです。

 

 実際,軌道の長さは無限大で総本数も無限大個あると考えても

 いいわけですからね。

 

 そして,まあ,確かにエルゴード仮説が成立すれば「等重率の原理」

 は成立するはずです。

 

 したがって,現在の平衡系の統計力学の成立する基礎原理の成立

 が保証されるわけです。

 

 実際,今の統計物理学で熱力学をうまく説明できているわけです

 から問題はないのですが,少し大げさかな?という気もします。

 

 というのも,先の例のような小さい容器の中でも,分子が全ての

 軌道を尽くして容器全体を覆って塗りつぶしてしまうまでには

 恐らく宇宙の始まりから今までを1000回繰り返すより,はるかに

 長い時間がかかることがわかっているからです。

 

 これについてはポアンカレ()の再帰定理

 (Poincare’recurrence theorem)におけるポアンカレ周期

 (Poincare’period)について書かれている文献を参照して

 ください。

 

 (過去記事の再掲載終わり ※)

 

要するに,小さな容器内であろうと宇宙の始まりから今まで,その

中の粒子たちが全ての可能な軌道,または状態を尽くくしたこと

などは1度もないにも関わらず,

実際には確率的に最大の熱平衡状態に速やかに到達して以後,

その状態からは,ほとんど揺らぐことなく居座り続けるという

のが現実ですから。。。。

 

 エルゴード仮説も等重率の原理も関係ないけれど,ただ,最大

 確率の状態が実現されることだけは正しい,ということでしょう。

 

 これに関連しては,2006年11/2の「ボルツマン方程式とH定理」

 という過去記事もあります。

 

 (※これも以下に全文を再掲載します。)

 

 今日は不可逆過程と関連してボルツマン方程式とボルツマン

 (Boltzmann)のH定理について述べたいと思います。

 

 まず,質量がmで全分子数がNの気体が速度v+dvの間

 にある粒子数の分布をf()dとします。

 

 簡単な考察によって,絶対温度Tで熱平衡状態にある場合,f()

 はMaxwell-Boltzmann分布,すなわち,

 f()=N[m/(2πkB)]3/2exp[-m2/(2kB)] に従うこと

 がわかります。

 

 これは,∫f()d=Nと規格化しされています。

 

 次に,同じ気体分子が非平衡状態にあるとしてその分布関数を位置

 と速度,および,時刻tの関数としてf(r,,t)とします。

 

つまり時刻tにrと+d,vと+dにある分子数を

f(,,t)dとするわけです。

これも,∫f(,,t)d=Nと規格化しておきます。

 

 このとき粒子の衝突を無視した自由運動による各位置の近傍

 での粒子数の保存を表わす連続の方程式は

 ∂f/∂t+∇f=0 となります。

 

これは,Liouvilleの方程式を分布関数に対して与えたものと

なっています。

 

 しかし一般に非平衡状態では衝突による粒子数変化による

 「湧き出し項」として,衝突項が存在して連続の方程式は

 ∂f/∂t+∇f=(∂f/∂t)coll となるはずです。

 

 これをBoltzmann方程式と呼びます。

 

 そして,ある時刻tに速度',1'をもつ粒子対が衝突して

 単位時間に,速度1との粒子対となって+d,

1 1+d1領域に入ってくるプロセスの頻度を,

σ(,1|',1')とします。

 

これと全く逆に+d,1 1+d1領域から出て

行くプロセスの頻度をσ(',1'|,1)とするなら, 

 

衝突(湧き出し)項(∂f/∂t)collは,

(∂f/∂t)coll=∫σ(,1|',1')(,,t)

f(,1,t)d1'1'∫σ(',1'|,1)

f(,,t)f(,1,t)d1'1'

となると考えられます。

 

 ところで力学の時間反転に対する対称性から,1から'

 1'に変わる頻度は-'と-1'から-と-1に変化する

 頻度に等しい:つまり,

 σ(',1'|,1)=σ(-,-1|-',-1')

 と考えられます。

 これを「衝突数算定の仮定」と呼びます。

 

 さらに座標軸の向きを逆転させても,こうしたプロセスの頻度

 は同じと考えられるので,

 σ(-,-1|-',-1')=σ(,1|',1')です。

 

 そこで,結局σ(,1|',1')=σ(',1'|,1)

 としてよいと考えられます。

 

 ここで略記法として,f≡(r,,t), f'f(,',t),

 f1≡f(,1,t), 1'≡(,1',t)とおくと,

 衝突項は,

 (∂f/∂t)coll=∫σ(,1|',1')( f'1'- f f1)

 1'1' となります。

 

 気体分子の衝突は,大体弾性衝突であると思われるので衝突の

 前後でエネルギーも運動量も保存されると考えられるため,

 1'1',かつ,v2+v12=v'2+v1'2 以外の場合

 にはσ(,1|',1')=0 です。

 

 Boltzmann方程式が不可逆過程を記述していることを示すため,

 ここでBoltzmannのH関数という関数 Hを, 

 H(,t)≡∫(r,,t) log{f(r,,t)}d

 で定義します。

 ここでのlogは底がeの自然対数 lnを意味します。

 

 このとき,∂H/∂t=∫(∂f/∂t)(logf+1)dと書けます

  が,これにBoltzmann方程式 ∂f/∂t+∇f=(∂f/∂t)coll

 を代入すると,

 

 ∂H/∂t=∫(logf+1)[-∇f+(∂f/∂t)coll ] 

 =-∇[(flogf)d]+∫(logf+1) (∂f/∂t)coll

 です。

 

この右辺で,1×(衝突項)の部分の積分は,

 ∫(∂f/∂t)coll=∫σ(,1|',1')( f'1'- f f1)

 1'1'です。

 

 これは,σ(,1|',1')の,1,',1' についての

 粒子交換に対する対称性と,(f'1'- f f)の同じ粒子交換

 に対する反対称性からゼロとなります。

 

 したがって,Hの流れとして,H(flogf)dを定義

 すると,∂H/∂t+H[(logf)(∂f/∂t)coll]d

 となります。

 

 これはBoltzmannのH関数の流出入以外の正味の生成である

 dH/dt=∂H/∂t+H が,

 [(logf)(∂f/∂t)coll]d与えられることを示して

 います。

 

 そして,∫[(logf)(∂f/∂t)coll]d 

 =∫[(logf)σ(,1|’,1)( f'1'-ff1)]

 d1'1' です。

 

 この式の右辺は, 

[(logf1)σ(1,|1',')( f1'f' f1 f)]

1'1', 

[(logf')σ(',1'|,1)( f f1-f'1')]

1'1', 

[(logf1')σ(1','|1,) ( f1 f-f1'f')]]

1'1'

 の全てと等しいことになります。

 

しかも,対称性から,これらに現われるσは全て等しいので,

簡略して,σ(,1|',1')etc.の全てを単にσと略記する

ことにします。

 

すると,[(logf)(∂f/∂t)coll]d 

 =(1/4)∫[σ( f'1'-ff1)(logf+logf1logf'logf1')] 

11

(1/4)∫[σ( f'1'-ff1)log(ff1/f'f1')

1'1' と書けることになります。

 

ところがσは衝突頻度ですから,当然σ≧0 であり,しかも, 

(x-y)log(y/x)≦0 ですから,

 

結局,dH/dt=[(logf)(∂f/∂t)coll]d≦0 が示された

ことになります。

 

つまりBoltzmannのH関数は時間と共に常に一定,または,減少する,

ということが示されたわけです。

 

こうして,時間反転不変=可逆な力学法則から,どいうわけか

不可逆変化が導かれました。

これをBoltzmannのH定理といいます。

 

しかし,これに対してはLoschmidtの逆行性批判という有名な反論

があります。

 

すなわち,「ある瞬間に時間的変化を反転する,つまり全粒子の向き

を逆転させると,逆にHは過去に向かって減少する,または未来に

向かっては増加することになる。」という反論です。

 

これは,まことにもっともな話です。

 こうしたさまざまな反論に悩んだ末に,とうとうBoltzmannは自殺

に追い込まれてしまったのです。

 

今考えると,実はH定理は確率法則による定理であり,例えば

衝突頻度σに対して「衝突数算定の仮定」が導入されています。

 

既に,「速度空間の大きい体積の方には小さい体積よりも粒子数

が多いはずである。」などの等重率の原理のような確率的構想が

入っていて単純な可逆的力学法則からの確率概念的な飛躍がある

ことに気づきます。

 

というわけで,確率法則としてBoltzmannのH定理は正当である

と認めて何ら問題はありません。

 

ところで,H関数は非平衡状態に対して与えられたものですが,

熱平衡状態は∫[(logf)(∂f/∂t)coll]d=0 ,つまり,

ff1=f'f1'に対応しています。

 

 そして,このときはfをで積分したものが,速度の

 Maxwell-Boltzmann 分布になります。

 

 平衡統計力学においてのみ定義され,そこで計算される

 エントロピーSを計算すると,これはBoltzmannのH関数と 

S=-kB∫H(,t)d+(定数)なる関係にあることが

わかります。

 

そこで,エントロピーの概念を拡張して,非平衡状態でも

エントロピーSをS=-kB∫H(,t)dで定義すればよい

のでは?と考えることができます。

 

「孤立系=(流出入のない系)ではエントロピーは常に増加する。」

という熱力学第2法則は,平衡状態に対するBoltzmannのH定理の

いい換えに過ぎないということにもなります。

 

 (再掲載終了※)

 そこで,実は,H定理における系の時間発展の向きが,確率的に

 大きい方向に一致する。そして,「粒子数は速度空間の体積が

 大きい方が大きい。または,粒子の存在確率は単純に体積に比例

 する。」などの概念を内包しています。

 そこで,結局,全ての軌道を通過しなくても系は最初から最大確率の

 向きに進むといえそうです。

 

 

 もう1つ気になるのが,統計集団(アンサンブル)を考える際の

 量子論での純粋集団(純粋状態)と混合集団(混合状態)の話です。 

 

 しかし,また記事として長くなり過ぎたので,続きは次回にします。

 

 今回はほとんど再掲記事ばかりでした。一種の手抜きですが

 私が述べたいことの趣旨は,はっきりと記述しました。 

 少しスッキリしました。

 参考文献は余り昔の記事には書いてないこともありますが,

 一般的にこの種のどのテキスト本にもありそうです。

PS:イヤイヤ,最近は本を買うお金もないし,買ったり借りたり調べたりしても眼が不自由で満足に根気が続かないですから。。。

 昔の疑問を,改めて反芻し,沈思黙考するくらいです。

 まさに形而上学ですかね。。アリストテレスは,現代的に実験,観測

 をして試行錯誤するのでなく自己の体験に根ざして座して沈思黙考

 することで道は開けるという志向でしょう。

,

 色即是空,空即是色。。形あるもの,実は何もない,も同じ。。

 ムニャムニャ。。ソクラテスの「無知の知」とか。。。

 連想ゲーム??

 親鸞。。「善人なおもて往生を遂ぐ,いわんや悪人をや」,

 イエス・キリスト。「私は義人のために来たのではない。

 (平穏をもたらすためではなく争いのタネをまくためにこの世

 にやって来た。)」

 釈迦。。「天上天下唯我独尊」,

 デカルト。「我思う。故に我有り」

 槙原。。「世界に一つだけの花。。No.1にならなくてもいい。

 元々特別なオンリーワン。。」 

 アナと雪の女王。。「ありのままでー。。」

福沢諭吉。。「天は人の上に人をつくらず。。」

。。。。 「天は人の上に人を載せて人をつくる。。ん??」

 

 

 

 

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