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2014年11月27日 (木)

統計力学の基礎(8)(統計力学の基礎付け2)

 統計力学の基礎付けの続きです。

 前回の終わりでは,

 もう1つ気になるのが,統計集団(アンサンブル)を考える際の純粋集団(純粋状態)と混合集団(混合状態)の話です。

と書きました。

その続きです。

 

前々回の記事の量子統計力学2では,分配関数ZはN粒子系の多体問題の純粋状態のトレースによりZ=Tr[exp(-β)]で与えられることを示しました。

 

まあ,小正準集団を想定するなら集団を構成する個々の微視状態を

普通の干渉も有り得る観測前のコヒーレントな量子状態(純粋状態)

と考えることも可能てす。

 

しかし,正準集団の考え方では,莫大な個数 M個の同じ系を集めて全体

として孤立系になるような集団とするわけですが,この集団の個々の系

は全て同じ構造を持つとはいっても,それらは既に純粋状態ではなく,

エネルギ「ーEを持つ系(=純粋状態)が率exp(-βE)/Zで混合された

デコヒ-レントな混合状態と考えられます。

 

 統計集団というのは,統計力学の理論を定式化するために便法

として想定されたものに過ぎないので,それが純粋集団か混合集団

か?のようなことについて思い煩う必要はないのですが。。。

私はやはり気になります。

 

これについては,2006年10/23の記事「観測の理論(デコヒーレンス)」

があります。

これもまず全文を再掲載します。

 

(※以下,過去記事の全文です。)

 

今日は,観測に伴なって固有状態の干渉項が消滅すること

=デコヒーレンス (decoherence)の現象を最近の理論に基づいて

述べてみたいと思います。

 

ただし私自身は本質的には多世界解釈の方に傾いています。

まず,"観測可能量(observable)=物理量=線型演算子"その

あらゆる固有値:oiに属する固有状態:|i>の集合,つまり,

|i>=i|i>を満たす|i>の集合があり,これら

完全系を形成している,すなわち,∑i|i><i|=1

が成立しているとします。

"任意の状態=純粋状態":|ψ>は|ψ>=∑ii|i>と展開可能

この同じ状態|ψ>において,物理量を状態を乱すことなく

独立に多数回観測したときにはの固有値以外が観測されること

はなく,観測値がoiである確率が|ci|2で与えられます。

そして∑i|ci|21が成立しているというのが量子力学

の観測に関する枠組みと考えられます。

 

しかも,通常は固有状態|i>は正規直交化されていて,

<i|j>=δijなのでci=<i|ψ>なる式が成立して

います。 

したがって,この純粋状態|ψ>における物理量O^の観測値

の"期待値=平均値"は,

ψ=∑i|ci|2i=∑ii|ψ><ψ|i><i||i>

=∑i<ψ|i><i||i><i|ψ>=<ψ||ψ>

で与えられます。

 

つまり,<ψ=<ψ||ψ>であり.

ψ=∑i<ψ||i><i|ψ>=∑i<i|ψ><ψ||i>

=Tr(ψ)となります。

ここで射影演算子とよばれるψψ|ψ><ψ|で定義され,

物理量の対角和(trace)が,Tr()≡∑i<i||i>と定義

されています。

 

そして対角和の値が,これを定義する完全系{|i>}の選択に依

ないことも簡単にわかります。

ところで,もしもこの体系が,状態間の干渉が存在するような状態

の重ね合わせのみで成り立つ純粋状態ではなく,

 

情報の欠如などによって統計的に純粋状態:ψ,φ,χ,...が

それぞれ確率:W(ψ),W(φ),W(χ),...で混合している混合

状態であるとすれば,

 

の期待値は<>=∑ψ(ψ)<ψ||ψ> 

で与えられます。

 

これも,<>=∑ψ(ψ)<ψ||ψ>

=∑ψiW(ψ)<ψ||i><i|ψ>

=∑iψ(ψ)<i|ψ><ψ||i>=Tr(ρ)

となり,純粋状態の<ψ=Tr(ψ)と同じ形に

書けます。

 

ここでρ^はρ≡∑ψ(ψ)|ψ><ψ|=∑ψ(ψ)ψと定義

されて統計作用素,または,密度演算子(密度行列)と呼ばれます。

対象となる体系のHamiltonianとすると統計作用素ρ

時間に依存する量子力学の線形演算子に相違ないので,

Heisenbergの運動方程式:ic(∂ρ/∂t)=[,ρ]

を満足します。

 

ただし,hc≡h/(2π)でhはPlanck定数です。

 

実は状態|ψ>はSchroedinger表示の時間を含む状態ベクトル

|ψ(t)>で,これがSchroedingerの方程式:

ihc(∂/∂t)|ψ(t)>=|ψ(t)> を満たします。

 

逆に統計作用素ρ≡∑ψ(ψ)|ψ(t)><ψ(t)|が時間

を含むHeisenberg表示の作用素となるため,Heisenbergの

運動方程式:ihc(∂ρ/∂t)=[,ρ]を満たすと考えて

よいわけです。

時間発展の演算子を(t',t)=exp{-i(t'-t)}と

すると,|ψ(t')>=(t',t)|ψ(t)>ですから,

ρ(t)≡∑ψ(ψ)|ψ(t)><ψ(t)|によって

ρ(t')=(t',t)ρ(t)(t',t)-1となります。

 

統計作用素ρの時間発展はユニタリ変換によって行われる

のでρ,ρに関わる関係式は時間発展によって変化しません。

簡単のため,スピンが1/2の区別できる粒子が2個ある体系に

ついて考察します。

 

スピン1/2の1粒子のスピン角運動量の演算子をとすると,

それは2行2列の行列表示では,Pauliのスピン行列σを用いて,

=(c/2)σと表わされます。

 

σz の固有値+1,-1の固有状態を,それぞれ|α>,|β>とします。

 

2つの粒子それぞれのこうした状態を,それぞれ,(i)

と|β(i)>(i=1,2)で指定することにします。

このとき,全系の任意の状態ベクトルは(1)>|α(2)>,

(1)>|β(2)>,|β(1)>|α(2)>,|β(1)>|β(2)>の1次結合

で表わされます。

 

そして,例えばスピンがゼロの状態は,

|0>=(1/21/2)(|α(1)>|β(2)>-|β(1)>|α(2)>)

で与えられます。

 

この状態での統計作用素ρ^0は,

ρ0 =(1/2)(|α(1)>|β(2)>-|β(1)>|α(2)>)

(<α(1)|<β(2)|-<β(1)|<α(2)|)

=(1/2)(|α(1)><α(1)|(2)><β(2)|

-|α(1)<β(1)|(2)><α(2)|

-|β(1)><α(1)|(2)><α(2)|

+|β(1)><β(1)|(2)><α(2)|)

となります。

 

ただし,記号は直積を表わしています。

 

このρ0は確かに,純粋状態を示す"統計作用素=射影演算子"

です。

ここで,一般に粒子1のみに関する物理量(1)を測定する場合

を想定すると,このときも対象としては全体系ですから,

物理量を表わす作用素(1)(2)です。

 

その期待値は,

(1)(2)>=Tr(ρ(1)(2))

=∑ij<i(1)|<j(2)|ρ(1)|j(2)>|i(1)

=Tr(ρ(1)(1))  と書くことができます。

 

ここで,ρ(1)<j(2)|ρ|j(2)>=Tr,2(ρ) です。

そして,部分系である粒子1の物理量(1)の測定の期待値は全て

(1)(2)>=Tr(ρ(1)(1))の形で表わせるので,

 

実質的には,ρ(1)が部分系である粒子1の状態を示す統計作用素

であると見なすことができるでしょう。

ここで,ρρ0 の場合には,

ρ0(1)=<α(2)|ρ0(2)>+<β(2)|ρ0(2)

=(1/2)(|α(1)><α(1)|+|β(1)><β(1)|) です。

 

そこで,全系が純粋状態でも,部分系である粒子1の状態は

z成分のスピンが上向きと下向きが1対1に混合した混合状態

となることがわかります。

話を戻して,体系の状態が|ψ>で物理量O^の固有状態での

展開が,|ψ>=∑ii|i>(∑i|ci|21) で与えられると

します。

 

O^の測定装置はマクロな物体ですが,装置も状態ベクトル

表わすことができると仮想して,その初めの状態を|o>A

とします。

そして,対象が状態|i>にあるとき,それを測定したときの

"対象=体系と装置"の変化を|i>|o>A|i>|i>A

とします。

そこで,|ψ>を測定したときには,

|ψ>|o>A → ∑ii|i>|i>A となります。

 

この最後の状態はもちろん純粋状態であって,物理量の期待値

を取れば当然|,i>|i>A 間の干渉が現われるはずです。

 

最初の状態が純粋状態であって時間発展がユニタリですから当然

それは予想されたことです。

しかし,我々の観測の経験では,測定の最後の状態は

|i>|i>Aの状態がW(oi)=|ci|2の確率で混じり合って

いて,決して干渉作用など起きない混合状態です。

簡単のために,1電子のスピンのz成分を観測するStern-Gerlach

の実験のようなものを考察します。

 

これは,不均一な磁場の中にスピン磁気モーメントを持つ電子

が入射してスピンが上向きか下向きかが検出される実験です。

 

入射電子はある一定のスピン状態にあって,

|ψ>=(c1|α>+2|β>)|φ>,(|c1|2|c2|21)

であるとします。

 

ただし,|φ>は電子線の空間的運動を表わす状態ベクトルです。

 

入射電子が磁場の中を通るとスピンの向きによって空間的運動

は上下に分裂するので,

 

|ψ> → |γ>≡c1|α>|φ>+2|β>|φ

 

となります。

そして,上下にある検出装置の統計作用素=密度行列をそれぞれρAα,ρAβ,対象と装置の全体系の"統計作用素=密度行列"をη0

すると,

 

η0=|γ><γ|ρAαρAβ

=(|c1|2ρ++|c2|2ρ--12*ρ+-21*ρ-+)ρAαρAβ

 

と書けます。

 

ここで,

 

 ρ++=|α><α|><φ|,

 ρ--=|β><β|><φ|,

 ρ+-=|α><β|><φ|,

 ρ-+=|β><α|><φ|

 

です。

測定装置が状態ベクトルで表わされている状況では,ユニタリ性の故,

測定の結果として,干渉項ρ+-,ρ-+が消えることは決して有り得ないことです。

 

そこで装置は初めから混合状態にあると考えます。

 

すなわちマクロな装置はN個~ Avogadro数個程度の粒子の集合系

であり,このN粒子の系の多数の状態ベクトルの混合状態が装置を

表わしていると考えるわけです。

そして,測定にはある時間にわたって全体系の密度行列η0を調べる

必要があります。

 

それぞれ,N,N'粒子系から成る上下の検出装置に対して

η0(N,N')≡|γ><γ|ρAα(N)ρAβ(N') と定義

します。

 

相互作用が起こる直前の時刻をt0 として,時刻tでの全体系の

統計作用素をN,N'を省略してη(t)と書くと,η(t0)=η0

対し, 

η(t)=∑N,NW(N)W(N')(t,t0)η0(N,N')(t,t0)-1

(ただし∑(N)=1)

と書くことができます。

η0(N,N')=|γ><γ|ρAα(N)ρAβ(N')において,

例えばρ+-に関わる部分は,

|α><β|><φ|ρAα(N)ρAβ(N') です。

 

装置との相互作用部分がスピンに依らないとすれば,時間発展

は,(t,t0)ρAα(N)<φ|ρAβ(N')(t,t0)-1

となります。

 

ここで,|φ>はρAα(N)のみ,<φ|はρAβ(N')のみと相互作用

するので左右に分けました。

 

tを相互作用が終わった時刻とし,N個の粒子の個数に比例する

運動長さの単位をL(N)とすると,そのオーダーはL(N)~N1/3

です。

 

そして,比例定数として波数因子kを掛けた位相の変化がある

と考えられるので,

左の(t,t0)>ρAα(N)は因子exp{ikL(N)}を,

右の<φAβ(N')(t,t0)-1は因子exp{-ikL(N')}

を含むはずです。

ここで,η(t)=∑N,N’...を連続化して積分式にすると,

η(t)=∫dL∫dL'W(L-L0)W(L'-L0)(t,t0)

η0(L,L')(t,t0)-1(ただし∫dL(L-L0)=1)

となります。

 

位相部分だけに着目すると,L(N)~N1/3が大きい極限で

密度行列要素は,それぞれ,

 

ρ++ → 1,ρ-- → 1,および, ρ+-→ exp{ik(L-L')},

ρ-+ → exp{-ik(L-L')}

 

となります。

 

ところで,Riemann^Lebesgueの定理によれば,L,L'が無限大の

極限では,

∫dL∫dL'W(L-L0)W(L'-L0)exp{ik(L-L')} → 0

となります。

 

このことから"統計作用素=密度行列"からρ+-ρ-+の干渉項

が消えてρ++ρ--の項のみがそのままの形で残ることになり,

事実上デコヒーレンスが実現されることになると考えられます。

ただし,清水明氏の量子測定の原理とその問題点」に書かれて

いますが,

"測定装置の他に環境も含めたとしても干渉項のオーダー

観測時間をT,光速をcとして,exp[-(正定数)×cT3]が限界

あり決して正確にゼロになって消えるわけではない。"

という問題は残っています。

一方,szの測定によって必ずしもσzの固有状態である

|α>,|β>が観測されると考える必要はないという本質的な

問題もあります。

 

例えば,|χ±>≡(1/21/2)(|α>±|β>)(複号同順)はσx

対してのスピンの+,-の固有状態です。

 

先の統計作用素において非干渉成分として,

ρ++=|α><α|><φ|,ρ--

=|β><β|><φ| の代わりに,

 

ρ'++=|χ><χ||φ'><φ'|,

ρ'--=|χ><χ||φ'><φ'|

 

が残ると考えても何の不都合もないからですね。

こちらの問題は(猫生)か(猫死)のどちらか一方のみの状態が観測

されるとして定式化しても,

 

それらの重ね合わせ状態が観測されるとして定式化しても,

"統計作用素=密度行列"のデコヒーレンスだけからは,

それらは全く同等である,ことから多世界解釈の問題でもあり

超選択則関わる問題ですね。

 

例えば変換群の異なる既約表現にまたがる重ね合わせ状態は

観測されない,とかの原理的問題であると思います。

 

具体的には既約表現の問題とは,ちょっと違うかもしれないです

が,アイソピン(荷電スピン)に関わる2次元特殊ユニタリ群

SU(2)において,

 

陽子と中性子の重ね合わせ状態は決して観測されない,という

のも超選択則の例です。

 

これに対して,φメソンやKメソンにはむしろ混合(mixing)が

ある状態で存在する方が普通なので,自然がどういうメカニズム

になっているのかは不思議なことです。

 

これに関しては,観測を行なう以前の物理系の状態を記述する

"波動関数や密度行列をも実在であると考えるかどうか?"

という哲学的な問題も関連あるかもしれません。

 

参考文献;町田茂 著「基礎量子力学」(丸善),

ボーム 著「量子論」(みすず書房)

(再掲載終了※) 

さて,再び,考察しますが,正準集団,大正準集団が混合集団であることは疑う余地がりません。

 

しかし,小正準集団についてははっきりしません。

 

古典統計力学では,小正準集団に属する微視的状態は相空間の

個々の軌道であり,それらの状態はもちろん干渉するわけではなく

運動方程式のN個の厳密な解の全ての情報から巨視的平均量確率

分布を求める代わりに,統計的原理を導入,それに基づいてそれら

の量を求めるのですから,集団には完全な情報が欠如しているのは

明らかです。

 

しかし,量子論では,古典論と対比すると,N粒子の系の完全な情報

が,そもそも確率波という確率的なものです。

 

そして,個々の微視状態を多体系の波動方程式の解の重ね合わせで

与えられる純粋状態と考えることもできそうです。

 

純粋状態だけで熱平衡状態を表現できれば情報の欠如なく定式化

できると思いますが,これはシミュレーション計算をする計算物理学

の分野でしょうか?。

 

統計力学の原理に基づいて最大確率を与える分布を求めるという

旧来からの統計力学の思想に合致する対象は,小正準集団でも,干渉

などしない混合状態の集団です。

 

実際,系の巨視的量の観測はマクロな測定装置を用いて行なうわけ

ですから,その時点で既にマクリな装置との干渉でデコヒーレント

な状態に移行した後の系を対象としていると考えるのが普通です。

 

ネットを検索してみると,私の種ひゅうの疑念と意図を共有する

 

ものとして,大阪市大,杉田歩氏のPDF

;量子統計力学の基礎付けについて;」, および,

すう理化学化学科学2013年6月号の特集記事として,

量子純粋状態による統計力学の定式化がありました。 

 

今日はこれで終ります。

 

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