統計力学の基礎概念への脱線から離れて,再び,量子統計力学3の
続きです。
経路積分と摂動論に戻る最後の関門の第2量子化とGreen関数
について記述します。
今日は,まず,第2量子化について述べます。
そのため,最初はBose統計に従う粒子に着目します。
粒子数の演算子nrを考えます。
添字rは具体的にはBoseスカラー粒子なら波数(運動量)kだけ
ですが,Fermi粒子かスピンが1のBose粒子ならスピン変数をσ
としてr=(k,σ)などを意味します。
便宜上,適宜この添字rを省略して個数演算子をn,その固有値
nを持つ状態を,ケットベクトル |n>で記述します。
n|n>=n|>です。
固有値nは整数値のみを取り,固有ベクトル|n>は
<m|n>=δmnと直交規格化されているとします。
こうしたnの固有状態に対して次のような作用を及ぼす演算子
a,a+を導入します。
すなわち, a|n>=n1/2|n-1>,
a+|n>=(n+1)1/2|n+1> なる作用です。
つまり,aは粒子数を1つ減らす演算子,a+は1つ増やす演算子
です。そこでaを消滅演算子,a+を生成演算子と呼びます。
これらは状態のケットにのみに作用して,その係数には作用せず
素通りするとします。
するとa+a|n>=n1/2a+|n-1>=n|n>,
aa+|n>=(n+1)1/2a+|n+1>=(n+1)|n>
が成立します。
それ故,a+aが,個数演算子nの役割をすることがわかります。
そじで添字rを復活させると,nr=ar+arです。
a,a+の行列要素をつくると,任意のm,nに対して,
<m|a|n>=n1/2<m|n-1>=n1/2δm,n-1であり,
<n|a+|m>=(m+1)1/2δm,n+1=n1/2δm,n-1ですから
<n|a+|m>=<m|a|n>* が成立します。
したがって,a+はaのHermite共役です。
よって,ar+はarのHermite共役です。
そこで,上添字+(ダガー)を文字通り演算子のHermite共役を意味
する記号と考えれば,nr+=(ar+ar)+=ar+ar=nrとなるため
nrは実数のみを固有値とするHermite演算子なので,この意味では
定義は無矛盾です。
また,a+a|n>=n|n>,aa+|n>=(n+1)|n>より,
全ての|n>に対して,(aa+-a+a|n>=|n>ですから,
aa+-a+a=1 が成立します。
任意の演算子A,Bに対して交換子[A,B]を
[A,B]≡AB-BAで定義すれば,
[a,a+]=1と書けます。
一方,[a,a]=[a+,a+]=0 は自明です。
あるいは,これを一般化して[ar,as+]=δrs,
[ar,as]=[ar+,as+]=0 とします。
これは,異なる添字r≠sのnr,nsの固有状態なら固有値が
同じnであっても直交し無関係であることを意味しますが,
これは例えば添字rが運動量kを意味するBose粒子では,異なる
kでの個数は無関係なので当然の規約です。
これらの交換関係は,改めて固有値と固有ベクトルの表現を添字
付きで,nr|nr>=nr|nr>etc.とすれば,一般化された固有
ベクトルは,|..,nr..,ns..>=..|nr>..|ns>..の
ような直積表現と解釈され,
r≠sなら.aras|..,nr..,ns..>
=(nr1/2ns(1/2|..,nr-1 ..,ns-1..>
=asar|..,nr..,ns..>,
ar+as+|..,nr..,ns..>
=(nr+1)1/2(ns+1)1/2|..,nr+1 ..,ns+1..>
=as+ar+|..,nr..,ns..>nr..,ns..>,
そして,
aras+|..,nr..,ns..>
=nr1/2(ns+1)1/2|..,nr-1 ..,ns+1..>
=as+ar|..,nr..,ns..>nr..,ns..>であり,
r=sなら,aras+|..,nr..,ns..>
=(nr+1)|..,nr..,>
=(as+ar++1)|..,nr..,ns..>となりますから
明らかです。
Fermi統計に従うFermi粒子の場合,nr|nr>=nr|nr>
のnrは0,1の2つの値しか取り得ないので,消滅,生成演算子
ar,ar+をar|nr>=n1/2|nr-1>,
ar+|nr>=(nr+1)1/2|nr+1>で同じように定義しても,
固有状態 |nr>としては,固有値nrがnr=0,1の状態
|0>,|1> の2つしか存在しないため,全ての作用を具体的に
書くことができて,ar|1>=|0>,ar+|0>=|1>であり,
一方,ar|0>=ar+|1>=0 でなければなりません。
それ故,arar|1>=0,ar+ar+|0>=0
です。
また.arar|0>=0,ar+ar+|1>=0
も明らかですから
演算子としてarar=ar+ar+=0です。
他方,arar+|0>=|0>,ar+ar|1>=|0>ですから,
arar+|1>=0, ar+ar|0>=0の成立と合わせると,
(arar++arar+)|0>=|0>,
(arar++arar+)|1>=|1> を得ます。
よって,Fermi粒子の場合は,任意の演算子A,Bに対して
反交換子{A,B}を{A,B}≡AB+BAで定義して,
{ar,as+}=δrs,{ar,as}={ar+,as+}=0
と規約すれば,全ての辻褄があって無矛盾となります。
Fermi粒子でも個数演算子はnr=ar+arであり,
nr|nr>=nr|nr> が成立します。
なお,粒子が存在しない状態 |0>に対しては,Fermi粒子だけ
でなくBose粒子でもar|0>=0
が成立して,これ以上は粒子
を消滅させることができないとしています。
|0>に対してこのように規約すれば.Bose粒子の
nr|nr>=nr|nr>を満たす固有値nrについても許される
のは非負の整数のみ:nr=0,1,2..です。
そして,全てのrについての粒子がゼロの状態 |0>の直積で
与えられる全く粒子の存在しない状態
|..,nr..,ns..>=|0,..,0...,0,..>を真空(vacuum)と
呼ぶことにします。
量子論では零点振動とか零点エネルギーと呼ばれる真空の
エネルギ-なるものの存在について論じられることもありますが
そうしたものは無視して,真空はHamiltomian
Hの固有値がゼロ
の固有状態であるとします。
つまり,真空 |0,..,0...,0,..>はエネルギ^-がゼロの
基底状態(エネルギーの原点)であるとします。
すると,演算子Hは,εrを添字rに対応する1粒子のエネルギー
として,H=Σrεrnr=Σrεrar+ar と表現されます。
特に,粒子が自由粒子でr=(k,σ)なら,εr=hc2k2/(2m)
です。
次に,xとスピンsの関数としてこの粒子の場の演算子:
φσ(x,s)を,φσ(x,s)=V-1/2Σrarexp(ikx)δ(s,σ)
によって導入します。
ただし,δ(s,σ)はスピン部分の関数でδ(s,σ)はσ=s
のとき1でそれ以外はゼロの関数です。
スピンがゼロのBose粒子なら常にσ=s=0ですから,
δ(s,σ)=δ(s,0)≡1 であって,場はスカラー場
φ(x)≡φ0(x,0)と表現されます。
一方,スピンが1/2のFermi粒子の場合,σ=±,で
φ±(x,s)=φ±(x)δ(±,s)と書くと,これは2成分が
φ±(x)のスピノール:(φ+(x), φ-(x))Tで表わされます。
さらに,スピンが1のBose粒子の場合,やはり,σ=1,-1,0の場
φσ(x,s)をφσ(x,s)=φσ(x)δ(s,σ)と書いて,3成分
がφ±(x),φ0(x)の3行1列の列ベクトル
(φ+(x),φ-(x),φ0(x))T で表現されます。
そして,場φσ(x,s)のHermite共役 φσ+(x,s)を,
φs+(x,s)=V-1/2Σrar+exp(-ikx)δ(s,σ)
とします。
改めて,交換子 [A,B]を[A,B]-,反交換子 {A,B}
を[A,B]+と書くことにします。
つまり,[A,B]±≡AB-±BA(複号同順)です。
場の演算子に対しては,+の反交換子がFermi粒子,-の交換子
がBose粒子に対応して,交換関係,反交換関係:
[φσ1(x1)
φσ2+(x2)]±=δ3(x1-x2)δσ1,σ2,
[φσ1(x1)
φσ12(x2)]±=[φσ1+(x1)
ψσ2s2+(x2)]±=0
が成立しています。
また, H=Σrεrar+arは,ポテンシャルUが存在する
場合,H=∫d3xφσ+(x)[-hc2∇2/(2m)+U(x)]φσ(x)
と書けます。
何故なら,H=Σrεrnr=Σrεrar+arですが,
簡単のためスピンがゼロのBose粒子を想定しarの添字rが運動量
(波数)kである場合を考えて,arをa(k)と書くことにすると,
εr=ε(k)=k2/(2m)+U(k) です。
ただし,U(k)はポテンシャルU(x)のfourier変換,または
位置xに共役な物理量である運動量k表示のポテンシャル
です。
U(x)=V-1∫d3kU(k)exp(ikx)
⇔ U(k)=∫d3xU(x)exp(-ikx) なる式で与えられます。
個数演算子もこの表示ではnr=ar+arはn(k)=a+(k)a(k)
と書けます。
交換関係 [ar,as+]=δrs,[ar,as]=[ar+,as+]=0
は,r=k1,s=k2として,[a(k1)a+(k2)]=δ3(k1-k2),
[a(k1),a(k2)]=[a+(k1),a+(k2)]=0
となります。
故に,H=Σrεrar+ar=∫d3kε(k)a+(k)a(k)
=∫d3kd3pε(k)a+(k)a(p)δ3
(k-p)ですが,
δ3 (k-p)=V-1∫d3xexp{-i(k-p)x}なので,
H=V-1∫d3x∫d3kda+(k)exp(-ikx)
∫d3pε(p)a(p)exp(ipx)
=V-1/2∫d3xφ+(x)∫d3p[p2/(2m)+U]ε(p)
a(p)exp(ipx)
=∫d3xφ(x)[-hc2∇2/(2m)+U(x)]φ(x)
となるからです。
※(注釈):ここで第2量子化についての薀蓄を少し述べたく
なりました。
元々の通常の(第一量子化の)1粒子量子力学では
H=-hc2∇2/(2m)+U(x)であり,多粒子系では
H=Σk{-hc2∇2/(2mk)}+U(x1,x2..,xN)であった
のに対して,
第2量子化で全ての質量mkが同じmの同一粒子
ではH=∫d3x φσ+(x)[-hc2∇2/(2m)+U(x)]φσ(x)
と表現されるのには,どういう意味があるのでしょうか?
第2量子化(場の量子化)は波動関数を演算子と見なす操作で行う
ことが可能なため,量子論の基礎付けを根底から大転換する新理論
のように見えますが,実はそれほど重大な意味はなくて,単に表示
を位置座標表示=x表示から個数表示にユニタリ変換するだけの
表示の変換に過ぎないと考えられます。
すなわち,抽象的なあるHilbert空間の状態ベクトルに作用
する線型作用素(演算子)としてHamiltonianをH,運動量を
pとすると,H=p2/(2m)+U です。
このとき,x表示での演算子の行列要素は位置座標で対角化
されています。
つまり,x表示では任意の演算子Aの行列要素<x|A|y>は
x=yの対角成分のみがゼロでない対角行列の形をしています。
演算子が運動量pなら,特にSchroedinger表現でのpについて
はx表示では,<x|p|y>=-ihc∇xδ3(x-y)であり,また,
ポテンシャルUは<x|U|y>=U(x)]δ3(x-y)で与えられ
ます。
Hについても,
<x|H|y>=[-hc2∇2/(2m)+U(x)]δ3(x-y) です。
多粒子系なら,位置座標が(x1,x2..,xN),および,
(y1,y2..,yN)の状態でHを挟むと,行列要素は,
<x1,x2..,xN|H|y1,y2..,yN>
=[Σk|-hc2∇k2/(2mk)]+U(x1,x2..,xN)]
δ3(x1-y1)δ3(x1-y1)..δ3(xN-yN) です。
ただし,U(x1,x2..,xN)は,Uの行列要素が
<x1,x2..,xN|U|y1,y2..,yN>=U(x1,x2..,xN)
δ3(x1-y1)δ3(x1-y1)..δ3(xN-yN) なる対角成分
のみを持つとした多体系のポテンシャルを意味します。
状態 |Ψ>の波動関数,つまり位置表示での状態ベクトル
Ψ(x1,x2..,xN)は,|Ψ>に含まれる位置の固有状態
|x1,x2..,xN>の成分,
あるいは,その位置固有状態で展開した展開係数であって
粒子の存在確率の確率振幅を表わすものですから
Ψ(x1,x2..,xN)=<x1,x2..,xN|Ψ>なる式で与え
られます。
ここで,便宜上,X=(x1,x2..,xN)と略記すると,
Ψ(X)=<X|Ψ>です。
そこで,
<Ψ|H|Ψ>=∫dXdY<Ψ|X><X|H|Y><Y|Ψ>
=∫dXdY<Ψ(X)<X|H|Y>Ψ(Y)
=∫dXdY Ψ+(X)H(X)Ψ(X) となります。
ただし,ここでも<X|H|Y>=H(X)δ(X-Y),と書け
ますが,dX≡d3x1d3x2..d3xN,
δ(X-Y)≡δ3(x1-y1)δ3(x1-y1)..δ3(xN-yN)
と略記しました。
つまり,1粒子量子力学の波動関数ψ(x)で張られる2乗可積分
関数の状態空間に作用するHamiltonian演算子は
H(x)=-hc2∇2/(2m)+U(x)であり,多粒子系の波動関数
Ψ(X)で張られる2乗可積分関数の空間に作用するHamiltonian
演算子はH(X)=Σk|-hc2∇k2/(2m)]+U(X)です。
一方,個数表示では,添字rを省略すると,n=a+a+
であり,|n>=(n!)-1/2(a+)n|0>です。
任意の演算子Aの個数表示による行列要素をX表示での
完全系条件∫dX|X><X|=1を挿入してX表示で展開
すると,
<m|A|n>=∫dXdY<m|X><X|A|Y><Y|n>
であり,
一方,任意の状態におけるAの期待値は
<Ψ|A|Ψ>=Σm,n<Ψ|m><m|A|n><n|Ψ>
=Σn<Ψ|n>An<n|Ψ> と書けます。
ただし,<m|A|n>=Amδmn です。
特に,A=Hについては,
<Ψ|H|Ψ>=Σm,n<Ψ|m><m|H|n><n|Ψ>
=Σn<Ψ|n>Hn<n|Ψ>であり,
<m|H|n>=Hmδmnです。
この個数状態 |n>全体で張られる空間の状態に作用して
<m|H|n>を与えるHamiltonian演算子Hについては,
スカラー場のBose粒子の場合に,
H=Σrεrar+ar
=∫d3xφ(x)[-hc2∇2/(2m)+U(x)]φ(x)
=∫d3xφ(x)H(x)φ(x)で与えられることを既に
見ました。
要するに,それぞれのHが異なるのは,それが作用すべき状態
の作る状態空間が異なるためです。
第2量子化した場合も,単に状態空間が変わるだけで,本質的
にそれらは,演算子の期待値,あるいは行列要素がどの空間でも
一致するようにユニタリ変換で結びついていて謂わゆる表示が
異なるだけで量子力学が新しくなったわけではありません。
(注釈終わり※)
このところ,薀蓄=脱線注釈部分を書いていて参考書も
なく頭の中にある知見をヒケラかそうとする余り,文章の堂々巡りが多くて長時間を費やしてしまいいました。
※本ブログ2007年8/8の過去記事「量子力学の基礎(表示の話)(1)」,
および,「量子力学の基礎(表示の話)(2)」も参照してください。
今日はここまでにします。
(参考文献):阿部龍蔵 著「統計力学(第2版)」(東京大学出版会)
PS:これに関連して,26歳(1976年)の春4月に一人で電車を
乗り継ぎ,途中東京で東大の友人のところに一泊し翌日青函
連絡船に乗って早朝に船酔いでゲロを吐きつつ初めての北海道
に渡り,旅館に一泊後,北大に遠路はるばる博士課程を受けに行
ったのを思い出しました。
(※今は博士課程(大学院後期過程)もあるようですが当時
は私の在籍大学には修士課程しかありませんでしたから。。)
テストは当然,修士論文の説明であろうと予想していたの
に,思いもかけず,研究室個室で朝から晩まで期限無しで参考
書を見たり外出するのも自由の4,5問程度のペーパーテスト
を出されました。
その第1問目が,Diracのテキストにあるような量子論の定式化
の話で,上記と同じような話を如何にして明快な解答にするか?
に夢中になった余り,堂々巡りの悪戦苦闘で,もちろん,参考書
などは持参してないし,まさか無期限で外出自由でも慣れない
札幌の地で大学内や外の図書館や本屋まで行って調べようと
いう気にもなりません。
(※慣れない一人旅で,心身もかなり疲れていました。)
結局,第1問を考えているだけで夜の8時になり,往復5千円
也の切符しかもってなくて,旅館にもう一泊する余裕もなく,
あきらめて,もう帰宅してしまっている出題した教授の部屋
のドアのポストに答案用紙を入れて帰途についたのを昨日の
ことのように思い出しました。
未だに覚えているのは,よほど悔しかったからでしょう。。
これも人生を左右する1つの岐路でしたね。。
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