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2015年3月18日 (水)

ゲージ場の量子論から(その1)(経路積分と摂動論9)

ゲージ場の量子論から(経路積分と摂動論)」の続きです。

 

まず,前回までの話を要約します。

 

※ 相互作用int(φ)が存在してLagrangian密度が, 

(φ,∂φ)=(1/2)∂μφμφ-(1/2)μ2φ2(x)+int(φ) 

で与えられる実スカラー粒子の場 φ(x)を想定します。

 

この相互作用しているスカラー粒子のN点Green関数G(N)は, 

 G(N)(x1,..,xN)=<0|T(φ(x1)φ(x2)..φ(x)|0>で 

与えられますが,これの生成汎関数をZ[J]とします。

 

[J]は,配位空間の経路積分によって, 

[J]=N∫Dφ exp[i∫d{(-1/2)φ(□+μ2

 +int(φ)+Jφ}] 

=N∫Dφ exp[i{(-1/2)φ*(□+μ2)φ+J*φ}] 

と書けます。

 

ただし,右辺の最後の式では,煩わしい∫dxという表現を省略

するため,時空座標xの任意関数φ(x),ψ(x)に対して,内積と

呼ばれる演算:φ*ψを,φ*ψ=∫dxφ(x)ψ(x)=ψ*φに

よって定義しました。

 

[J],,結局,Z[J]=<exp[i∫dx{int(φ)+J*φ}]>0 

 /<exp[i∫dx{int(φ)}>0 なる式で表わせることが

 わかります。

 ただし,任意のφの汎関数F(φ)について, 

 <(φ)0(exp{(1/2)(δ/δφ)*iΔ*(δ/δφ)}*F(φ))φ=0 

 と定義されています。

 

  <(φ)0の具体的な意味は,F(φ)に左から微分演算子 

 exp{(1/2)(δ/δφ)*iΔ*(δ/δφ)} 

 =Σk=0(1/k!)(1/2)k(δ/δφ)*iΔ*(δ/δφ)}

 を作用させ,最後にφをゼロと置く操作です。

 

 これは,<exp[i∫dx{int(φ)+J*φ}]>0では 

 級数展開Σk=0(1/k!) )1/2)(δ/δφ)*iΔ*(δ/δφ)}

 のkの1次ごとにexp[i∫dx{int(φ)}]からφ(x)φ(y)

 のようなφの対を1つ取り除き,代わりに,それを自由場の

 伝播関数 iΔ(x-y)=<0|T(φin(x)φin(y)|0 

 に置き換える操作を示しています。

 

 そして,係数(1/2)はxとyの交換の自由度2で割ることを意味

 していますから,結果的に係数は1です。

 

 そして,自由場の伝播関数はFourier積分の形で,

 Δ(x-y)

 =∫d4k(2π)-4[exp{-ik(x―y)}/(k2-μ2+iε)] 

 なる形をしています。(※)

 

 ここまでがこれまでの要約です。

 

今日の記事では,ここから出発して具体的な摂動の手順を

述べてゆきます。

 

生成関数における指数関数因子の級数展開は, 

[J]=<exp[i∫dx{int(φ)+J*φ}]>0

/<exp[i∫dx{int(φ)}>0  

=Σ=0(1/m!)∫d41..d 

iint(y1).. iint(y)exp(iJ*φ)>0/(分母)

です。

この右辺の級数展開は相互作用intに比べて,微小な摂動

あると考えたときの摂動展開そのものです。

 

(分母)=<exp[i∫dx{int(φ)}>0の効果については後述

するとして,分子の各項について具体的な計算方法を考えます。

 

具体的には,< >0はまずφの2個の積の場合には,明らかに, 

φ(x1)φ(x2)0(1-x2)=[φin(x1in(x2)]

です。

 

ただし,考察の便宜上,iΔ(1-x2)をSymbolicに

[φin(x1in(x2)]なる記号で表現しました。

このように,φ(x1),φ(x2)の組をFeynman伝播関数

(1-x2)で置き換える操作を縮約(contraction)

と呼びます。

 

この自由伝播関数を図示するときは,図4.3のように点x1とx2

をつなぐ線で表わすことにします。

 

次に,φの4個の積の場合には, 

φ(x1)φ(x2)φ(x3)φ(x4)0 

[φin(x1in(x2)][φin(x3in(x4)]

[φin(x1in(x3)][φin(x2in(x4)]

[φin(x1in(x4)][φin(x2in(x3)] 

1234+iΔ1324+iΔ1423 となります。

 

ここでも,また,iΔ(1-x2)をiΔ12などと略記しました。

 

実際に,<φ(x1)φ(x2)φ(x3)φ(x4)0 

 =(exp{(1/2)(δ/δφ)*iΔ*(δ/δφ)}*φ(x1)

 φ(x2)φ(x3)φ(x4))φ=0 を実行してみると,こうなる

 ことがわかります。

 

つまり,4つのφの積φ(x1)φ(x2)φ(x3)φ(x4)に< >0

作用させる場合:exp{(1/2)(δ/δφ)*iΔ*(δ/δφ)} 

 =Σk=0(i/k!)(1/2)(δ/δφ)*iΔ*(δ/δφ)}の右辺

 のうちの2次の (i2/2!)(1/2)2(δ/δφ)*iΔ*(δ/δφ)}2

 だけがゼロでない寄与をします。

 

 何故なら,4つのφの積へのk=0,1 の0次と1次の作用では

微分演算の後にφの因子が1つ以上残るため,φ=0としたとき

に消えます。

一方,k≧3では,φの4つの積をφで6回以上微分するので

これはゼロになるからです。

 

この操作を前と同じように図示すると図4.4のようになります。

 

一般に,<F(φ)0

(exp{(1/2)(δ/δφ)*iΔ*(δ/δφ)}**F(φ))φ=0 

 なる操作を加える際,

 φの汎関数 F(φ)がφの(2n)個の積である場合,これは,

 (2n)個のφ1 ~ φ2n の中から2つずつn対を縮約して

 得られるのn個の積を,あらゆる可能なn対の作り方

 にわたって加え上げることで得られます。

 

すなわち,

φ1φ2..φ2n0=Σ組合わせ[iΔi1j1i2j2..(injn)

です。

 ※(注2):<φ(x1)..φ(x3n)0において,作用する, 

 exp{(1/2)(δ/δφ)*iΔ*(δ/δφ)} 

 =Σk=0(i/k!)(1/2)(δ/δφ)*iΔ*(δ/δφ)}

 の右辺の級数項のうち,ゼロでない寄与をするのは.k=nの項: 

 (1/n!)(1/2)(δ/δφ)*iΔ*(δ/δφ)}n だけです。

 

これの係数 (1/n!)(1/2)のうち,(1/2)はn対の各々で,

例えば引数が1,x2なら

lΔ(x1-x2)=(1/2){iΔ(x1-x2)+(x2-x1)}

になるという意味で,交換対称の自由度2と相殺し,

また,(1/n!)はn個の対を順序付けて区別する必要がない

ので!の順列の数n!と相殺しますから, 結局,各々の重み

係数は1になるわけです。 (注2終わり※),

 

こうした事実が,以下,一般のFeynmanダイアグラムにおいて

重み係数を算定するための基礎となります。

 

 さて,Z[J]=<exp[i∫dx{int(φ)+J*φ}]>0

 /<exp[i∫dx{int(φ)}>0  

 =Σ=0(1/m!)∫d41..d 

 <iint(y1).. iint(y)exp(iJ*φ)>0 /(分母)

 に戻ります。

 

 φのみの関数であるような相互作用 int(φ)は一般にφの

 多項式なので,右辺各項の分子の被積分関数における

 <iint(y1).. iint(y)exp(iJ*φ)>0の因子も

 上述の<φ(x1)φ(x2)0や<φ(x1)φ(x2)φ(x3)φ(x4)0

 と同様に評価することができます。

 

 ただ,int(y)の因子は皆,同一時空点yおけるφの積

 であるという点が違います。

 

 ここで,簡単のため,int(φ)=(-g/3!)φ3(x)という

 φ3-相互作用を例にとり,Green関数の生成汎関数

 Z[J]の(分子)=Σ=0(1/m!)∫d41..d 

 iint(y1).. iint(y)exp(iJ*φ)>0の中での因子

 exp(iJ*φ)=exp{i∫d4xJ(x)φ(x)}のみを

 級数展開します。

 

 すなわち,exp{i∫d4xJ(x)φ(x)} 

  =Σ=0(1/n!)[∫d41..d4{iJ(j1)..iJ(x)}

  φ(x1)..iφ(x)}]ですが,

 以下,便宜上4次元積分∫d4jを∫dxjと略記すると,

 右辺のn=2の項は,

 (1/2!)[∫dx1dx2{iJ(x1)iJ(x2)}φ(x1)φ(x2)] 

 です。

 

iint(y1).. iint(y)exp(iJ*φ)>0 の中の因子

 exp(iJ*φ)を,この2次の展開項のみに置き換え,

int(yj)=(-g/3!)φ3(yj)(j=1,..,m)

を代入すれば,n=2の展開項は, 

  (1/2!)[∫dx1dx2{iJ(x1)iJ(x2)}

  ×[Σm=0(1/m!)∫dy1..dy(-ig/3!)

  <φ(x1)φ(x23(y1).. φ3(y)>0]

  となります。

 

生成関数の定義から,(1/2!)[∫dx1dx2{iJ(x1)iJ(x2)}

に掛かる係数:m=0(1/m!)∫dy1..dy(-ig/3!)

×<φ(x1)φ(x23(y1)..φ3(y)>0],2点Green関数

(2)(x1,x2) を示しています。

 

この係数=2点Green関数 G(2)(x1,x2)は,摂動の0次(m=0)

では,自由場のそれ:(x1-x2)=<φ(x1)φ(x2)>0

与えられます。 

 (↑ 再び,図4.3を参照)

 

 そこで,相互作用がある場合の(真の)伝播関数=2点Green関数

 G(2)(x1,x2)iΔ'(x1-x2)で表現されることもあります。

 

 また,摂動の1次(m=1)の項は,

 ∫dy(-ig/3!)<φ(x1)φ(x23(y)>0] 

 ですから,今の例の場合<φ(x1)φ(x23(y)>0の中がφの

 奇数べき(5次)なので寄与はゼロです。

 

 ※(注3):何故なら< >0の操作ではφによる2回ずつの微分が

 施され,余ったφのベキが存在するときには最後のφ=0の操作

 で除去されるからです。 (注3終わり※)

 

 さらに,摂動の2次(m=2)の項を陽に書くと, 

  (1/2!)∫dy1dy2[(-ig/3!)2

  ×<φ(x1)φ(x23(y13(y2)>0] です。

 

 < >0の中のφ(x1)φ(x23(y13(y2)の8個のφの積

 を2個ずつの分け,それぞれをに置き換えるという

 縮約の取り方を考えると,下の4.5図の(a)~(d)のような

 4種類のFeynmanグラフが得られます。

 

 これらのグラフにおいては,

 int(φ)=(-g/3!)φ3なるφ3-相互作用は3本の線

  会する点に対応し,その点を(3点-)頂点(Vertex)

 と呼びます。

 

  グラフから値を計算して評価する際には,こうしたそれぞれの

  点や線がどんな重み(係数)で効くのか?という点が重要ですが,

  これら評価は結構,面倒な手続きです。

 

  例えば,4.5図(a)の重みを計算してみます。

  この図の2箇所の点1',2'のどちらをint(y1)とint(y2)

  のどちらの点に取るかで2通りありますが.これが,

  (1/m!)=(1/2!)を相殺します。

 

 ※つまり,摂動のm次の項に現われる(1/m!)の因子は,1つ1つ

 のグラフに対してそのm個の頂点が互いに区別できない限り,

 そのどれをm個のint(yj)に対応させるかで!通りの取り方

 があるので一般にこのm!と相殺します。

 

  次に, 点1'にint(y1)を2'にint(y2)を対応させると

  決まったとしても.int(y1)には3つのφ(y1)が含まれて

  いるので,φ(x1)と縮約する相棒となるφ(y1)を選ぶのに

  3通り,φ(x2)とφ(y2)でも同様に3通りあり,残りの

  φ2(y1)とφ2(y2)の間で縮約する方法が2通りあります。

 

  したがって,[4.5図(a)]

  =(3・3・2)/(3!)2∫dy1dy2[iΔ(x1-y1)(-ig) 

  ×{iΔ(y1-y2)}2(-ig)iΔ(y2-x2)] を得ます。

 

  (b)の場合も(1/2!)との相殺は同じです。 

  そして,1と1’の結び方は3通り,残るφ2(y1)と2との結び

  方は2通り, 残る1個のφ(y1)とφ3(y2)との結び方は3通り

  です。 

  (c)の場合も(1/2!)との相殺は同じですが,これは2つの

  1次グラフの積と考えられます。 

 

  そして,1と1'の結び方,2と2'の結び方はそれぞれ3通り

  です。

 

  しかし,(d)の場合には(1/2!)との相殺はありません。 

  何故なら,この図では元々1'と2'との区別はないからです。

  そして,これは0次のグラフと2次のグラフの積です。

  このときの0次のグラフはiΔ(x1-x2)です。

  一方,2次のグラフについては1'のφ3(y1)に2'のφ3(y2)

  を結合させるやり方は3!通りあります。

 

  したがって,[4.5図(c)]=G(1)(x1)G(1)(x2) 

 [4.5図(d)]=G0(2)(x1,x2)(1/2!) 

 ×{3!/(3!)2}∫dydz[(-ig){iΔ(y-z)}3(-ig)

 です。 

 

 ただし,

 G(1)(x)=(3/3!)∫dyiΔ(x-y)(-ig)iΔ(y-y) 

 G0(2)(x1,x2)=(iΔ(x1-x2) です。

 

 ここで,G(n)(はn点Green関数の摂動のm次の量を意味します。

 

 相互作用:int(φ)=(-g/3!)φ3の係数(1/3!)は,元々"普通"

 の場合に相殺して消えるように付加されたものです。

 

  例えば,3点Green関数の1次の摂動は, 

  G(3)( x1,x2,x3)=∫dy<φ(x1)φ(x2)φ(x3)

  (-ig/3!)φ3(y)>0 

  =∫dy[(-ig)iΔ(x1-y)iΔ(x2-y)iΔ(x3-y)] 

  となって係数が相殺されて1になります。

 

 つまり,普通はφ3(y)の相棒には3つの区別できる端点のφが

 対応し3!通りの取り方があるので係数(1/3!)を相殺します。

 

  ところが, 4.5図の(a)~(d)のではどれも完全には3!が消され

 切っていません。

 これは互いに区別できないφが存在するためです。

 そのため,(a),(b)を示す式では(1/2)が残ります。

 

 (c)では(1/2)2が残り,(d)ではループを作る3本の腺が区別

 できないので(1/3!)がそのまま残りますが,それ以外に

 (1/m!)=(1/2)も残ります。

 こうした重み因子=係数を統計因子と呼びます。(下図参照)

 

     今日はここまでにします。

 

 (参考文献):九後汰一郎 著「ゲージ場の量子論Ⅰ」(培風館)

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