ゲージ場の量子論から(その1)(経路積分と摂動論9)
「ゲージ場の量子論から(経路積分と摂動論)」の続きです。
まず,前回までの話を要約します。
※ 相互作用Lint(φ)が存在してLagrangian密度Lが,
L(φ,∂φ)=(1/2)∂μφ∂μφ-(1/2)μ2φ2(x)+Lint(φ)
で与えられる実スカラー粒子の場 φ(x)を想定します。
この相互作用しているスカラー粒子のN点Green関数G(N)は,
G(N)(x1,..,xN)=<0|T(φ(x1)φ(x2)..φ(xN)|0>で
与えられますが,これの生成汎関数をZ[J]とします。
Z[J]は,配位空間の経路積分によって,
Z[J]=N∫Dφ exp[i∫d4x{(-1/2)φ(□+μ2)φ
+Lint(φ)+Jφ}]
=N∫Dφ exp[i{(-1/2)φ*(□+μ2)φ+J*φ}]
と書けます。
ただし,右辺の最後の式では,煩わしい∫d4xという表現を省略
するため,時空座標xの任意関数φ(x),ψ(x)に対して,内積と
呼ばれる演算:φ*ψを,φ*ψ=∫d4xφ(x)ψ(x)=ψ*φに
よって定義しました。
Z[J]は,,結局,Z[J]=<exp[i∫d4x{Lint(φ)+J*φ}]>0
/<exp[i∫d4x{Lint(φ)}>0 なる式で表わせることが
わかります。
ただし,任意のφの汎関数F(φ)について,
<F(φ)>0=(exp{(1/2)(δ/δφ)*iΔF*(δ/δφ)}*F(φ))φ=0
と定義されています。
<F(φ)>0の具体的な意味は,F(φ)に左から微分演算子
exp{(1/2)(δ/δφ)*iΔF*(δ/δφ)}
=Σk=0∞(1/k!)(1/2)k(δ/δφ)*iΔF*(δ/δφ)}k
を作用させ,最後にφをゼロと置く操作です。
これは,<exp[i∫d4x{Lint(φ)+J*φ}]>0では
級数展開Σk=0∞(1/k!) )1/2)k(δ/δφ)*iΔF*(δ/δφ)}k
のkの1次ごとにexp[i∫d4x{Lint(φ)}]からφ(x)φ(y)
のようなφの対を1つ取り除き,代わりに,それを自由場の
伝播関数 iΔF(x-y)=<0|TT(φin(x)φin(y)|0>
に置き換える操作を示しています。
そして,係数(1/2)はxとyの交換の自由度2で割ることを意味
していますから,結果的に係数は1です。
そして,自由場の伝播関数はFourier積分の形で,
ΔF(x-y)
=∫d4k(2π)-4[exp{-ik(x―y)}/(k2-μ2+iε)]
なる形をしています。(※)
ここまでがこれまでの要約です。
今日の記事では,ここから出発して具体的な摂動の手順を
述べてゆきます。
生成関数における指数関数因子の級数展開は,
Z[J]=<exp[i∫d4x{Lint(φ)+J*φ}]>0
/<exp[i∫d4x{Lint(φ)}>0
=Σm=0∞(1/m!)∫d4y1..d4ym
<iLint(y1).. iLint(ym)exp(iJ*φ)>0/(分母)
です。
この右辺の級数展開は相互作用LintがLに比べて,微小な摂動
であると考えたときの摂動展開そのものです。
(分母)=<exp[i∫d4x{Lint(φ)}>0の効果については後述
するとして,分子の各項について具体的な計算方法を考えます。
具体的には,< >0はまずφの2個の積の場合には,明らかに,
<φ(x1)φ(x2)>0=iΔF(x1-x2)=[φin(x1)φin(x2)]
です。
ただし,考察の便宜上,iΔF(x1-x2)をSymbolicに
[φin(x1)φin(x2)]なる記号で表現しました。
このように,φ(x1),φ(x2)の組をFeynman伝播関数
iΔF(x1-x2)で置き換える操作を縮約(contraction)
と呼びます。
この自由伝播関数を図示するときは,図4.3のように点x1とx2
をつなぐ線で表わすことにします。
次に,φの4個の積の場合には,
<φ(x1)φ(x2)φ(x3)φ(x4)>0
=[φin(x1)φin(x2)][φin(x3)φin(x4)]
+[φin(x1)φin(x3)][φin(x2)φin(x4)]
+[φin(x1)φin(x4)][φin(x2)φin(x3)]
=iΔF12iΔF34+iΔ13FiΔF24+iΔF14iΔF23 となります。
ここでも,また,iΔF(x1-x2)をiΔF12などと略記しました。
実際に,<φ(x1)φ(x2)φ(x3)φ(x4)>0
=(exp{(1/2)(δ/δφ)*iΔF*(δ/δφ)}*φ(x1)
φ(x2)φ(x3)φ(x4))φ=0 を実行してみると,こうなる
ことがわかります。
つまり,4つのφの積φ(x1)φ(x2)φ(x3)φ(x4)に< >0
を作用させる場合:exp{(1/2)(δ/δφ)*iΔF*(δ/δφ)}
=Σk=0∞(iN/k!)(1/2)k(δ/δφ)*iΔF*(δ/δφ)}kの右辺
のうちの2次の項 (i2/2!)(1/2)2(δ/δφ)*iΔF*(δ/δφ)}2
だけがゼロでない寄与をします。
何故なら,4つのφの積へのk=0,1 の0次と1次の作用では
微分演算の後にφの因子が1つ以上残るため,φ=0としたとき
に消えます。
一方,k≧3では,φの4つの積をφで6回以上微分するので
これはゼロになるからです。
この操作を前と同じように図示すると図4.4のようになります。
一般に,<F(φ)>0
=(exp{(1/2)(δ/δφ)*iΔF*(δ/δφ)}**F(φ))φ=0
なる操作を加える際,
φの汎関数 F(φ)がφの(2n)個の積である場合,これは,
(2n)個のφ1 ~ φ2n の中から2つずつn対を縮約して
得られるiΔFのn個の積を,あらゆる可能なn対の作り方
にわたって加え上げることで得られます。
すなわち,
<φ1φ2..φ2n>0=Σ組合わせ[iΔFi1j1iΔFi2j2..(iΔFinjn)
です。
※(注2):<φ(x1)..φ(x3n)>0において,作用する,
exp{(1/2)(δ/δφ)*iΔF*(δ/δφ)}
=Σk=0∞(iN/k!)(1/2)k(δ/δφ)*iΔF*(δ/δφ)}k
の右辺の級数項のうち,ゼロでない寄与をするのは.k=nの項:
(1/n!)(1/2)n(δ/δφ)*iΔF*(δ/δφ)}n だけです。
これの係数 (1/n!)(1/2)nのうち,(1/2)nはn対の各々で,
例えば引数がx1,x2なら
lΔF(x1-x2)=(1/2){iΔF(x1-x2)+iΔF(x2-x1)}
になるという意味で,交換対称の自由度2と相殺し,
また,(1/n!)はn個の対を順序付けて区別する必要がない
のでn!の順列の数n!と相殺しますから, 結局,各々の重み
係数は1になるわけです。 (注2終わり※),
こうした事実が,以下,一般のFeynmanダイアグラムにおいて
重み係数を算定するための基礎となります。
さて,Z[J]=<exp[i∫d4x{Lint(φ)+J*φ}]>0
/<exp[i∫d4x{Lint(φ)}>0
=Σm=0∞(1/m!)∫d4y1..d4ym
<iLint(y1).. iLint(ym)exp(iJ*φ)>0 /(分母)
に戻ります。
φのみの関数であるような相互作用 Lint(φ)は一般にφの
多項式なので,右辺各項の分子の被積分関数における
<iLint(y1).. iLint(ym)exp(iJ*φ)>0の因子も
上述の<φ(x1)φ(x2)>0や<φ(x1)φ(x2)φ(x3)φ(x4)>0
と同様に評価することができます。
ただ,各Lint(yj)の因子は皆,同一時空点yjおけるφの積
であるという点が違います。
ここで,簡単のため,Lint(φ)=(-g/3!)φ3(x)という
φ3-相互作用を例にとり,Green関数の生成汎関数
Z[J]の(分子)=Σm=0∞(1/m!)∫d4y1..d4ym
<iLint(y1).. iLint(ym)exp(iJ*φ)>0の中での因子
exp(iJ*φ)=exp{i∫d4xJ(x)φ(x)}のみを
級数展開します。
すなわち,exp{i∫d4xJ(x)φ(x)}
=Σn=0∞(1/n!)[∫d4x1..d4xn{iJ(jx1)..iJ(xn)}
φ(x1)..iφ(xn)}]ですが,
以下,便宜上4次元積分∫d4xjを∫dxjと略記すると,
右辺のn=2の項は,
(1/2!)[∫dx1dx2{iJ(x1)iJ(x2)}φ(x1)φ(x2)]
です。
<iLint(y1).. iLint(ym)exp(iJ*φ)>0 の中の因子
exp(iJ*φ)を,この2次の展開項のみに置き換え,
Lint(yj)=(-g/3!)φ3(yj)(j=1,..,m)
を代入すれば,n=2の展開項は,
(1/2!)[∫dx1dx2{iJ(x1)iJ(x2)}
×[Σm=0∞(1/m!)∫dy1..dym(-ig/3!)m
<φ(x1)φ(x2)φ3(y1).. φ3(ym)>0]
となります。
生成関数の定義から,(1/2!)[∫dx1dx2{iJ(x1)iJ(x2)}
に掛かる係数:[Σm=0∞(1/m!)∫dy1..dym(-ig/3!)m
×<φ(x1)φ(x2)φ3(y1)..φ3(ym)>0]は,2点Green関数
G(2)(x1,x2) を示しています。
この係数=2点Green関数 G(2)(x1,x2)は,摂動の0次(m=0)
では,自由場のそれ:iΔF(x1-x2)=<φ(x1)φ(x2)>0で
与えられます。
(↑ 再び,図4.3を参照)
そこで,相互作用がある場合の(真の)伝播関数=2点Green関数
G(2)(x1,x2)はiΔ'F(x1-x2)で表現されることもあります。
また,摂動の1次(m=1)の項は,
∫dy(-ig/3!)<φ(x1)φ(x2)φ3(y)>0]
ですから,今の例の場合<φ(x1)φ(x2)φ3(y)>0の中がφの
奇数べき(5次)なので寄与はゼロです。
※(注3):何故なら< >0の操作ではφによる2回ずつの微分が
施され,余ったφのベキが存在するときには最後のφ=0の操作
で除去されるからです。 (注3終わり※)
さらに,摂動の2次(m=2)の項を陽に書くと,
(1/2!)∫dy1dy2[(-ig/3!)2
×<φ(x1)φ(x2)φ3(y1)φ3(y2)>0] です。
< >0の中のφ(x1)φ(x2)φ3(y1)φ3(y2)の8個のφの積
を2個ずつの組に分け,それぞれをiΔFに置き換えるという
縮約の取り方を考えると,下の4.5図の(a)~(d)のような
4種類のFeynmanグラフが得られます。
これらのグラフにおいては,
Lint(φ)=(-g/3!)φ3なるφ3-相互作用は3本の線が
会する点に対応し,その点を(3点-)頂点(Vertex)
と呼びます。
グラフから値を計算して評価する際には,こうしたそれぞれの
点や線がどんな重み(係数)で効くのか?という点が重要ですが,
これらの評価は結構,面倒な手続きです。
例えば,4.5図(a)の重みを計算してみます。
この図の2箇所の点1',2'のどちらをLint(y1)とLint(y2)
のどちらの点に取るかで2通りありますが.これが,
(1/m!)=(1/2!)を相殺します。
※つまり,摂動のm次の項に現われる(1/m!)の因子は,1つ1つ
のグラフに対してそのm個の頂点が互いに区別できない限り,
そのどれをm個のLint(yj)に対応させるかでm!通りの取り方
があるので一般にこのm!と相殺します。
次に, 点1'にLint(y1)を2'にLint(y2)を対応させると
決まったとしても.Lint(y1)には3つのφ(y1)が含まれて
いるので,φ(x1)と縮約する相棒となるφ(y1)を選ぶのに
3通り,φ(x2)とφ(y2)でも同様に3通りあり,残りの
φ2(y1)とφ2(y2)の間で縮約する方法が2通りあります。
したがって,[4.5図(a)]
=(3・3・2)/(3!)2∫dy1dy2[iΔF(x1-y1)(-ig)
×{iΔF(y1-y2)}2(-ig)iΔF(y2-x2)] を得ます。
(b)の場合も(1/2!)との相殺は同じです。
そして,1と1’の結び方は3通り,残るφ2(y1)と2との結び
方は2通り, 残る1個のφ(y1)とφ3(y2)との結び方は3通り
です。
(c)の場合も(1/2!)との相殺は同じですが,これは2つの
1次グラフの積と考えられます。
そして,1と1'の結び方,2と2'の結び方はそれぞれ3通り
です。
しかし,(d)の場合には(1/2!)との相殺はありません。
何故なら,この図では元々1'と2'との区別はないからです。
そして,これは0次のグラフと2次のグラフの積です。
このときの0次のグラフはiΔF(x1-x2)です。
一方,2次のグラフについては1'のφ3(y1)に2'のφ3(y2)
を結合させるやり方は3!通りあります。
したがって,[4.5図(c)]=G1(1)(x1)G1(1)(x2)
[4.5図(d)]=G0(2)(x1,x2)(1/2!)
×{3!/(3!)2}∫dydz[(-ig){iΔF(y-z)}3(-ig)
です。
ただし,
G1(1)(x)=(3/3!)∫dyiΔF(x-y)(-ig)iΔF(y-y)
G0(2)(x1,x2)=(iΔF(x1-x2) です。
ここで,Gm(n)(はn点Green関数の摂動のm次の量を意味します。
相互作用:Lint(φ)=(-g/3!)φ3の係数(1/3!)は,元々"普通"
の場合に相殺して消えるように付加されたものです。
例えば,3点Green関数の1次の摂動は,
G1(3)( x1,x2,x3)=∫dy<φ(x1)φ(x2)φ(x3)
(-ig/3!)φ3(y)>0
=∫dy[(-ig)iΔF(x1-y)iΔF(x2-y)iΔF(x3-y)]
となって係数が相殺されて1になります。
つまり,普通はφ3(y)の相棒には3つの区別できる端点のφが
対応し3!通りの取り方があるので係数(1/3!)を相殺します。
ところが, 4.5図の(a)~(d)のではどれも完全には3!が消され
切っていません。
これは互いに区別できないφが存在するためです。
そのため,(a),(b)を示す式では(1/2)が残ります。
(c)では(1/2)2が残り,(d)ではループを作る3本の腺が区別
できないので(1/3!)がそのまま残りますが,それ以外に
(1/m!)=(1/2)も残ります。
こうした重み因子=係数を統計因子と呼びます。(下図参照)
今日はここまでにします。
(参考文献):九後汰一郎 著「ゲージ場の量子論Ⅰ」(培風館)
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