« ユニセフから支援者へのメール転載。。。 | トップページ | 花見(浜町公園) »

2015年4月 6日 (月)

ゲージ場の量子論から(その1)(経路積分と摂動論 11)

 「ゲージ場の量子論から(経路積分と摂動論)の続きです。

 

 予定通り,スカラー場からFermion場への定式化の移行ですが,

Fermi粒子の場では演算子が反可換なため,経路積分においては

演算子対応する古典場で積分するのですが,その反可換性を満

たす古典場の対応物がありません。

 そこで,単純に,直線的(Straitfoward)に拡張するというわけには

いきません。

 

§4.4フェルミオン場の経路積分 

 

 フェルミオン(Fermion;Fermi粒子)というのは粒子のスピンが

1/2,3/2,5/2..のような半奇数値(Plank定数を単位として)であり

多数の粒子系集団としては粒子の交換反対称なFermi-Dirac統計

に従うものですが,

 ここでは,ここまでBose粒子として最も単純なスピンがゼロの

スカラー粒子で理論展開してきたのと同じ精神で,Dirac方程式に

従うスピンが1/2Dirac場を主に考察します。

 

Dirac場(Spinor場)を,

ψ(x)=[ψ1(x),ψ2(x),ψ3(x),ψ4(x)]とすると,

ψ(x)=[ψ+1(x),ψ+2(x),ψ+3(x),ψ+4(x)]であり

これは次の同時刻反交換関係を満たします。

 

{ψα(,t),ψ+β(,t)}=δαβδ3(), 

{ψα(,t),ψβ(,t)}={ψ+α(,t),ψ+β(,t)}

=0 

 

しかしながら,これまでと同じく経路積分を導く基礎となる 

ψα()=ψα(,t=0) の固有値と固有ベクトルの関係式 

ψα()|ψ>=ψα()|ψ>において,固有値が通常の複素数

であるとすれば,上記の反交換関係に矛盾します。

 

(※注6):何故なら,ψα()ψβ()|ψ>=ψα(β()|ψ>,

かつ,ψβ()ψα()|ψ>=ψβ(α()|ψ> より,

 

{ψα(),ψβ()}|ψ>=[ψα()ψβ()+ψβ()ψα()]|ψ> 

α(β()+ψβ(α()]|ψ> ですが,

これの左辺は上記の同時刻反交換関係:{ψα(),ψβ()}|=0

により,ゼロに等しいので,右辺の固有値もゼロであるべき:

つまり,ψα(β()+ψβ(α()=0 であることが

必要ですが,固有値が通常のゼロでない複素数なら,

ψα(β()+ψβ(α()α(β()≠0

なので矛盾します。 (注6終わり※)

 

そこで,この固有値関係を矛盾なく扱うためには,固有値ψα()

を,お互いの間,および,演算子

ψ(x)=[ψ1(x),ψ2(x),ψ3(x),ψ4(x)]

ψ(x)=[ψ+1(x),ψ+2(x),ψ+3(x),ψ+4(x)]の成分

のいずれとも反可換なGrassmann数(グラスマン数)と考える

必要があります。

つまり, 

α(),ψβ()}={ψα(),ψβ()}

={ψα(),ψ+β()}=0 であるべきです。

 

すなわち,Fermion場というのは,物理的には対応する古典場

が存在しないけれど,強いて”古典的対応物”を考えれば,

Grassmann数値を取る場ということになります。

 

そして,Grassmann数について積分(定積分)するという概念が

必要となります。

 

まず,Grassmann数が1変数ξしか存在しない場合を考察します。

 

Grassmann数は自分自身とも反可換ですから,ξ2=0です。

 

それ故,ξの2次以上の量は全てゼロなのでξの任意の

連続関数f(ξ)はξの1次式ですから,

 

0,f1を通常の複素数として,f(ξ)=f0+f1ξと

表わされます。

 

Grassmann数の積分を定義するに当たっては,次の2つの性質

が成立することを要求します。

 

(ⅰ)線型性: a,bを任意の複素数とすると, 

 ∫dξ[af(ξ)+bg(ξ)]

 =a∫dξf(ξ)+b∫dξg(ξ)

 

(ⅱ)部分積分可能性: ∫dξ[∂f(ξ)/∂ξ] =0

 

この2番目の条件は定積分の端点では消えるという通常の関数

の部分積分の性質と同じであることの要求です。

 

 次に,∫dξ[∂f(ξ)/∂ξ] =0 にf(ξ)=f0+f1ξを

代入します。

 

∂f(ξ)/∂ξ=f0より,線型性から∫dξf0=f0∫dξ1=0 

ですから∫dξ1=0 です。

そこで∫dξf(ξ)=f1∫dξξです。

 

定積分した結果は定数ですから,∫dξξもある定数です。

この定数を1とする規約を採用します。

 

結局,∫dξξ=1,∫dξ1=0 です。

 

この結果は積分∫dξと微分(∂/∂ξ)が同じ結果をもたらすこと

を示しています。

 

ここでaを普通の数として積分変数の置換:ξ'=aξ

を考えます。

 

この変換のJacobianをJとしてdξ=Jdξ'とすると,

 

∫dξ(aξ)=∫Jdξ'ξ'=1が成立しなければなりません。

 

∫dξ'ξ'=∫dξξ=1なので,J=a:

すなわち,dξ=ad(aξ)です。

これは,通常の積分測度の変換と比べてJacobianが逆数で出現

することを示しています。

しかし,前述したように ∫dξ,および,∫dξ'をそれぞれ,

微分(∂/∂ξ),および,(∂/∂ξ')と同一視するなら普通の

変換則です。

次に,N個のGrassmann変数 ξ(j=1,..,N)がある場合を

考えます。

 

この場合も積分を∫dξξ1,∫dξ1=0 で定義します。

 

さらに, ξ同士や積分記号dξ同士,そして, ξとdξ

は全て反可換とします。

 

これは反交換子記号{A , B}≡AB+BAを用いると, 

}={ξ,dξ}={dξ,d+f}=0 と

書けます。

 

そして,これら積分演算∫dξは,再び,微分演算(∂/∂ξ)

に同等です。

 

N変数 ξ,.., ξ)の関数f(ξ)=f(ξ,.., ξ)

は一般に,(ξ)=f0+f1ξ+f2(i,j()ξξ+..

+fξξN-1..ξ2ξ1と展開できますが,N重積分は右辺最後

の項の係数を取り出します。

 

つまり,∫dξf(ξ)=fです。

ただし,dξ=dξ1dξ2..dξです。

 

変数置換 ξ'Aξ (ξ'j=Ajkξk)に対して

ξ=Jdξ'とすると,

f(ξ')=f0+f1ξ'+f2(i,j()ξ'ξ'+..

+fξ'..ξ'1であって,

∫dξf(ξ)=∫Jdξ'f(ξ')=fですが,

 

ξ'..ξ'1=Σ(iN..i1)[(AiN..A1i1)fξiN..ξi1] 

(det)fξ..ξ1

となります。

 

つまりξ ξ'=Aξfなる線型変換で最後の係数は

→ (det)fと変換されるわけです。

 

一方,dξ=Jdξ'と仮定したので, 

=∫dξ'f(ξ')=∫J-1ξf(Aξ)

=J-1(det)fを得ます。

 

それ故,J-1(det)=1,すなわち,J=detと結論されます。

 

∫dξ((det)f(Aξ)=∫dξf(ξ)ですから,

Grassmann数の関数では.通常の数の関数の置換積分とは,

積分変数の係数の構造が逆数の関係になることがわかります。

 

 こうした特殊な性質で定義したGrassmann数の定積分では変数

を定数だけずらす平行移動変換に対し,積分値は不変であること

を容易に示すことができます。

 

 1つの定Grassmann数ベクトルをとすると,∫dξf(ξ)

 =∫ξ+d)..(ξ1+d1)=f=∫dξf(ξ) 

 

特に断わらなかったのですが,ここまでのGrassmann数ξは実数

に対応するrassmann数を想定していました。

 

 複素Grassmann数ψ(j=1,..,N)および,その共役ψを, 

 形式的に2つの実Grassmann数ξから,ψ=ξ+iη, 

 および=ξ-iηと定義します。

 

 この複素Grassmann数による積分を, 

 ∫dψψ1, ∫dψψ=1,その他はゼロと定義します。

 

 つまり, ∫dψψ=1, ∫dψψ=δjk,かつ, 

 ∫dψψ=∫dψψ0 と定義するわけです。

 

これは,ここまでの実Grassmann数による積分の定義と矛盾しません。 

 

(※注7):任意の複素Grassmann数ψに対して,∫dψψ=1と定める

なら,ψにψを代入すると∫dψψ1が得られます。

 また,ξ,ηを実Grassmann数としてψ=ξ+iηと表わすなら

 がゼロでψが実Grassmann数 ψ=ξのとき,∫dψψ=1は

 ∫dξξ=1を意味します。

 そして,積分変数がξの場合はiηは単なる定数であり,積分

 の平行移動不変性における座標の変位を虚数iηに拡張すれば

 ∫dξξ=∫dξ(ξ+iη)=1となるはずです。

 

 さらにdψ=d(ξ+iη)なる変数変換でもξからの変数変換

 ではJ=1でdψ=dξであり∫dψξ=∫dξξ=1です。

 ηからの変数変換でも∫d(iη)(iη)=1 です。

 

 いずれにしろ∫dψψ=∫d(ξ+iη)( ξ+iη)=1で

 実Grassmann数の積分の定義と矛盾しません。 

 

 (注7終わり※)

 

 以下では,一般にギリシャ文字ξ,η等を実Grassmann数に限らず

 複素Grassmann数としても使用します。

 

 次に,経路積分等への応用に有用なGrassmann数におけるδ関数

 とGauss積分の公式について記述します。

 

  まず,∫dξδ(ξ-ξ0)f(ξ)=f(ξ0)を満たすδ関数を

  δ(ξ)=ξと定義します。実際,f(ξ)=f0+f1ξと書いて

  これとδ(ξ-ξ0)=ξ-ξ0を代入すれば,

 ∫dξδ(ξ-ξ0)f(ξ)=∫dξ(ξ-ξ0)( f0+f1ξ)

 =f0+f1ξ0=f(ξ0) となります。

 

 すると,通常のδ関数に関する公式:

 ∫dxexp(ipx)=2πδ(p)によく似た公式:

 ∫dξexp(ξη)=δ(η)が成立します。

 

 (※:何故なら,exp(ξη)=1+ξηなので,

 ∫dξexp(ξη)=∫dξ(1+ξη)=η=δ(η)

 となるからです。※)

 

 次に,ξ,ηをGrassmann数のN次元列ベクトル,Aを普通の

 (Grassmann偶の)N×N行列とするとき,次のGauss積分の公式

 が成立します。

 すなわち,∫ηξexp(ξAη)=detA です。ただし,

 dηξ=(dη1dξ1)(dη2dξ2)..(dηdξ) 

 =(dηdηN-1..dη2dη1)(dξ1dξ2..dξN-1dξ) です。

 

 (※ 何故なら,偶数個の交換では全体の符号は変わらないので. 

 (dη1dξ1)(dη2dξ2).. )..(dηN-1dξN-1)(dηdξ) 

 =dη(dη1dξ1)(dη2dξ2)..(dηN-1dξN-1)dξ 

 =dηdη-1(dη1dξ1)(dη2dξ2)..(dηN-2dξN-2)

 dξN-1dξ..

 =(dηdηN-1..dη2dη1)(dξ1dξ2..dξN-1dξ) 

 を得ます。※)

 (Gaussの公式の証明)

 ζAηと変数変換すると,exp(ξAη)=exp(ξζ)であり, 

 また,dη=d(-1ζ)=(det)dηζなので, 

 ∫dηξexp(ξAη)=(det)∫dζξexp(ξζ)

 です。

 

一方,exp(ξζ)

=Σm=0(1/m!)(ξ1ζ1+ξ2ζ2+..+ξζ)と展開され

ますが,

ζξ=(dζ1dξ1)(dζ2dξ2)..(dζdξ) 

 =(dζdζN-1..dζ2dζ1)(dξ1dξ2..dξN-1dξ)

 による2N重積分で効くのは,項:

 (1/N!)(ξ1ζ1+ξ2ζ2+..+ξζ)に含まれる異なる

 全てのjのξjζ(j=1,2,..N)の1次の項の積のみです。

 

すなわち,(ξ1ζ1+ξ2ζ2+..+ξζ)!の展開項のうち, 

 (ξ1ζ1)(ξ2ζ2)..(ξζ),および,これの2個ずつ順序を

 変えた全ての順列に対応する講のみが積分でゼロでない値

 を取ります。

 

しかも2個ずつの順序交換では全体の符号は変化しませんから

結局,N!個の同じ1ζ1)(ξ2ζ2)..(ξζ)のみを得ますが,

これは係数:(1/N!)と相殺してトタルの係数は1です。

 

そして,∫dζξ1ζ1)(ξ2ζ2)..(ξζ)=1

すから,∫dζξexp(ξζ)=1です。

 

したがって,∫dηξexp(ξAη)

(det)∫dζξexp(ξζ)=detA が得られました。

 

 (証明終わり)

 

 Gauss積分の公式:∫dηξexp(ξAη)=detの導出 

 においてはξjが実Grassmann数でも複素Grassmann数でも同じ

 ∫dξjξj=1,∫dξj1=0 なる積分規則のみを使用したので

 この公式はξ,ηが実であるか否かに関わらず成立します。

 

 したがって,一般にψを複素列ベクトルとして, 

 ∫dψψexp(ψAψ)=detAです。

 

 今日は,きりがいいのでこれで終わります。

 

 Grassmann数というのは冪零(ベキレイ),特に2乗してもゼロと

いうことで絶対値のようなゼロでない大きさを持たないため,数

とは思えない不思議な実体であり,その演算には通常の数の演算

の常識では想像できない性質があるので苦労します。

 

遷移振幅,Green関数等を評価計算する経路積分では,Gauss積分

の公式,-∞dxexp(-ax2)=(π/a)1/2とその複素数への

拡張が重要ですから,Fermion場のような反交換する量に対する

Gauss積分公式の導出がGrassmann数導入の一応の目的でした。

 

(参考文献):九後汰一郎 著「ゲージ場の量子論Ⅰ」(培風館)

|

« ユニセフから支援者へのメール転載。。。 | トップページ | 花見(浜町公園) »

114 . 場理論・QED」カテゴリの記事

コメント

解析入門Ⅰの2ページ目の
(R10)1≠0(0以外の元の存在)
というものの意味はなんですか?詳しく教えてください。お願いします。

投稿: さとし | 2015年4月18日 (土) 17時01分

お久しぶりです。今まで妹が課題でパソコンを使っていたのでめーるができませんでした。呑みの件はどうなさいますか?奢ってもらえる日を楽しみにしております。中々メールも見れないので、ちょくちょく見るようにします。

投稿: ヨッシー | 2015年4月 9日 (木) 09時31分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ゲージ場の量子論から(その1)(経路積分と摂動論 11):

« ユニセフから支援者へのメール転載。。。 | トップページ | 花見(浜町公園) »