« 訃報!!愛川欣也さん。。。 | トップページ | 訃報!!加瀬邦彦さん。。自殺 »

2015年4月21日 (火)

ゲージ場の量子論から(その1)(経路積分と摂動論 12)

ゲージ場の量子論から(経路積分と摂動論)の続きです。

 

 Fermionのコヒーレント(coherent:可干渉)状態というテーマ

からです。これはFermion場の固有状態を意味します。

 

時空座標xに依存し正準反交換関係に従う場の演算子:ψ(x) 

という一般的Dirac場の考察に入る前に,場の演算子の固有値と

してのGrssmann数の性質を考察するため,

 

インデックス(添字)である座標xを省略し,単純な反交換関係: 

{ψ,ψ}=1,{ψ,ψ}={ψ,ψ}=0 に従う簡単な構造 

の演算子 ψ,ψを考えます。

 

ψを粒子,またはエネルギーの消滅演算子,ψを生成演算子と

みなし,粒子の無い状態,またはエネルギー最低状態を意味する

真空を|0>,粒子,またはエネルギー量子が1個存在する状態を

|1>とします。

 

 こうしたDirac粒子の場合,ψ|0>=0, |1>=ψ|0>で,{ψ,ψ}=0

なので,ψ|1>=0 ですから,粒子が2個以上存在する状態は

存在しません。

 

 このように定義されたψについて,ψ|ψ>=ψ|ψ>を満たす

演算子:ψ固有状態をコヒーレント状態と呼びます。

 

このとき,ψ|ψ>=ψ|ψ>より,このコヒーレント状態は, 

 |ψ>=|0>-ψ|1>=exp(-ψ ψ)|0>

 と表わすことができます。

 

(※注8):何故なら,固有値ψはGrassmann 数のはずですから,

 |ψ>が|0>と同じくGrassmann 偶の状態としa,bを普通の数

として,|ψ>=a|0>+bψ|1>と展開できます。

 

よって,ψ|ψ>=0+bψψ|1>=-bψψψ|0> 

=-bψ{ψ, ψ}|0>=-bψ|0> です。

 

他方, ψ|ψ>=aψ|0>+bψ2|1>=aψ|0> です。

 

そこで|ψ>=ψ|ψ>は,-bψ|0>=aψ|0>を意味

します。故に,b=-aであり,|ψ>は|ψ>=a(|0>-ψ|1>)

と表わされます。

 

 a=1と規格化すれば,結局,|ψ>=|0>-ψ|1>を得ます。

 

 一方,exp(-ψ ψ)|0>=(1-ψ ψ)|0>=|0>-ψ|1>

 です。

 

以上から,|ψ>=|0>-ψ|1>=exp(-ψ ψ)|0>を得ました。 

(注8終わり※)

 

さて,固有値 ψはGrassmann 数で,演算子ψ,ψの双方と反交換

します。 また,真空 |0>がGrassmann 偶なので,|1>=ψ|0>

はGrassmann 奇です。

 

それ故,ψ|1>=ψψ|0>=-ψ|0>ψ,

つまり,ψ|1>=-|1>ψ を得ます。

 

Graassmann数同士の積やGrassmann 数と反可換な演算子の積の

複素共役を取る場合,X,YをGraassmann数,または反可換演算子

として,(XY)=Y=-Xなる規則に従うことも

わかります。

 

(※注9):何故なら,ξ,ηを実Grassmann数としてX=ξ+iηと

すれば=ξ-iηでありXX=ξ2+η2+i(ξη-ηξ)

です。

 

普通の数なら,ξη-ηξ=0 で,XX=ξ2+η2はXの謂わゆる

絶対値と呼ばれる実数です。

しかし,今はξ ,ηが実Grassmann数なのでξ2=η2=0 であって,

一般に,XX=i(ξη-ηξ)≠0 です。

 

ここで,少なくともXXは実数であるという条件を課すと, 

(XX)=XX,つまり,-i(ξη-ηξ)=i(ξη-ηξ), 

または,(ξη-ηξ)=-(ξη-ηξ) です。

 

すなわち,実Grassmann数の積は純虚数のように,

(ξη)=-ξη なる性質を有することがわかります。

 

これは=ξ,η=ηなので,(ξη)=-ξη=ηξ

とも書けますが,複素Grassmann数に自然に拡張すれば

(XY)=Yです。  (注9終わり※)

 

そもそも,X,YがGrassmann数でなくただの数なら

(XY)=Y右辺のYはXも等しく,

(XY)=Yという表現式に何らの新しい意味はない

ですが,反可換なGrassmann 数なら積の順序に決定的意味

があります。

 

 そこで,ψ|ψ>=ψ|ψ>の共役を取ると,

  <ψ|ψ=<ψ|ψであり, 

<ψ|=<0|-<1|ψ=<0|exp(-ψ ψ)です。

 

そこで2つのコヒーレント状態 |ψ>=|0>-ψ|1>と. 

|ψ'>=|0>-ψ'|1> の内積は,

 <ψ|ψ'>=<0|0>+<1|ψexp(ψψ')ψ'|1>

 =1+ψψ'= exp(ψψ') となります。

 

それ故,コヒーレント状態を用いた完全性条件は, 

 ∫dψdψ|ψ>exp(-ψψ)<ψ|=1 となります。

 

(※注10):完全性というのは,ある演算子ΛΛ|λ>=λ|λ>で 

与えられる固有ベクトルの系: {|λ>}によって,任意の状態ベクトル 

|φ>が|φ>=Σλλ|λ>と展開可能であることをいいますが,

 

 特に<λ|λ'>=δλλ'と,固有系が正規直交化されている場合

 には,展開係数はCλ=<λ|φ>と書けるので,

 |φ>=Σλ|λ><λ|φ>と表わされるため, 

 Σλ|λ><λ|を演算子とみなすと,Σλ|λ><λ|=1なる等式

 が成立し,これを完全性条件と呼ぶのでした。

 

 もしも,Λの固有値 λが連続固有値であり,固有状態の正規直交性

 が<λ|λ'>=δ(λ-λ') で与えられるケースには,展開は,

  |φ>=∫dλ|λ><λ|φ>という形となるので,

  完全性条件,∫dλ|λ><λ|=1 で与えられます。

 

 コヒーレント状態による展開も,

 |φ>=∫dψ|ψ><ψ|φ>となるなら上と同じ話なのですが,

 状態の規格化が<ψ|ψ'>= exp(ψψ')であって,正規直交的 

  ではないため上記の手順の論法ではうまくいきません。

 

 しかし,実際には任意ベクトル|φ>は,正規直交性を満たす|0>

|1>だけで展開可能なので,|0>と|1>による展開では,

完全性条件:0><0|+|1><1|=1 が満たされます。

 

コヒーレント状態)|ψ>による展開を,その展開係数をF(ψ)と書き 

|φ>=∫dψdψ|ψ>F(ψ) なる形と想定します。

 

これに,左から<ψ'|=<0|+<1|ψ'を掛けると, 

  <ψ'|φ>=∫dψdψ<ψ'|ψ>F(ψ) 

  =∫dψdψ exp(ψ'ψ)F(ψ)

  =∫dψdψ(1+ψ'ψ)F(ψ)ですが,

  この積分はψ'=ψのときのみゼロでない値を取ります。

 

そして,このとき,<ψ|φ>=exp(ψψ)F(ψ) 

  つまり,F(ψ)=exp(-ψψ)<ψ|φ>です。

 

これを,|φ>=∫dψdψ|ψ>F(ψ)に代入すると, 

|φ>=∫dψdψ{|ψ>exp(-ψψ)<ψ|φ>となるため, 

完全性条件として,

  ∫dψdψ{|ψ>exp(-ψψ)<ψ|=1を得ます。 (注10終わり)

 

また,任意の演算子のトレース(対角和)を取る演算に対して, 

r=<0||0>+<1||1> 

 =∫dψdψexp(ψψ)<ψ||ψ>なる興味深い公式 

 も得られます。

 

(※ 実際,

∫dψdψ(1+ψψ)(<0|+<1|ψ)(|0>+ψ|1>) 

 =∫dψdψψ<0||0>+<1|ψψ|1>) 

 =<0||0>+<1||1> です。※)

 

 このことが,統計物理学の有限温度系の分配関数:Tr[exp(-β)]

 の評価に経路積分を応用する際,Fermion場が虚時間τ=itの

 方向にβだけ進んだとき,ψ(τ+β)=-ψ(τ)のように反周期的

 であるべきということの根拠を与えます。

 

ここまでは,時空座標xなどの添字を省略した形の自由度1の場

ψ,ψで論じてきましたが,

多自由度系でも,例えば離散的添字aがある場合なら,

ψψ=Σψψ,ψψ=Σψψ,

dψdψ=Πdψdψのように,

 自由度の添字aを補うだけでそのまま論議は成立します。

 

さて,Dirac場の経路積分を表現するというテーマに入ります。

 

すなわち,やっと反交換関係に従う場のGrassmann数の固有値の演算

について準備 が完了したので,

具体的にLagragian密度が, 

 L(ψ,ψ,Aμ)=ψ~(x)(i∂μμ-m-eγμμ)ψ(x) 

 (ただし,ψ~(x)=ψ(x)γ0)で与えられるDirac場:

 ψ(x)=ψ(,t)の遷移振幅に対する経路積分の表式を

 求めるという本題に入ります。

 

ここで,Aμ(x)は今のところ,光子の場(=演算子)μ(x)では

なく外からかけられた電磁場(外場=c数)としておきます。

 

空間座標を自由度の添字とみなし,[ψ(,t)]を列ベクトル, 

 [ψ(,t)]を行ベクトルと解釈して, これらを,それぞれ,

 Ψ(t),Ψ(t)と記すことにすれば, 

 系のHamiltonian (t)は, 

 H(t)=(Ψ(t),Ψ(t),t)≡Ψ(t)(t)Ψ(t)

 と書けます。

 

ただし,右辺の超行列の積は, 

Ψ(t)(t)Ψ(t)∫d3[ψ(,t)][(t)]x,y[ψ(,t)] 

で定義されます。

 

真ん中に挟んだ超行列:(t)は,今の場合, 

 [(t)]x,y≡[-α{∇-ie(,t)}+mβ-eA0(,t)]

 ×δ3() です。

 

ここで,4×4行列:β,αは,γ0 β,γ=βαで定義されます。 

 そこで2=1より,逆に,β=γ0,α=βγです。

 

 時刻tにおけるHeisenberg演算子 ψ(,t)の固有状態

 |ψ,t>,ψ(,t)|ψ,t>=ψ()|ψ,t>を満たす状態

 であるとすれば,これはBosonの系と同じく,時刻tに粒子が固有状態

 ψにある状態と解釈されます。

 

以前のBoson系と同じく()=ψ(,0)をSchroedinger表示

の場の演算子として,その固有状態 |ψ>をψ()|ψ>=ψ|ψ>

なる状態として与えると,

 

 |ψ,t>=exp(-it)|ψ> です。

 

そして,時刻tからtへの,遷移振幅 <Ψ,t|Ψ,t

を前と同様,時刻tを細かく分割して,各時刻において完全系(=1)

を挿入して次のように書きます。

 

 すなわち,<Ψ,t|Ψ,t 

 =∫..∫Πj=1{dψjdψj {<Ψj+1,tj+1j,tj

 exp(-Ψjψj)}<Ψ1,t10,t0> です。

 

ただし,時刻の分割は,t=t0=<t1<.. t<tN+1=t

であり,対応して0=Ψ1,..,ΨN+1=Ψとします。

 

分割数Nを十分大きく取ると, Δt ~ 0であり 

 <Ψj+1,tj+1j,tj

 =<ψj+1,tj|(1-iΔt(tj)|Ψj,tj 

 =[1-iΔtΨj+1(tjj]<Ψj+1,tjj,tj 

 =exp{Ψj+1Ψj-iΔtΨj+1(tjj} です。

 

 (※ 何故なら,ψが自由度1の場:ψ(,t)の固有値で自由度1

 のGrassmann数の場合の公式:

 <ψ|ψ'>=<0|0>+<1|ψexp(ψψ')ψ'|1> 

 =1+ψψ'= exp(ψψ') より,

 

 Ψが列ベクトルΨ(t)=[ψ(,t)]の固有値である場合

 は,<Ψ|Ψ'>=1+ΨΨ'= exp(ΨΨ')ですから, 

 <Ψj+1,tjj,tj>=1+Ψj+1Ψj であり,

 

 (1-iΔtΨj+1M(tjj)(1+Ψj+1Ψj) 

 =1+Ψj+1Ψj-1-iΔtΨj+1(tjj) 

 =exp{ψj+1ψj-iΔtΨj+1(tjj} となるからです。※)

 

 <Ψj+1,tj+1j,tj>=exp{Ψj+1Ψj-iΔtΨj+1(tjj}

 を,<Ψ,t|Ψ,t 

 =∫..∫Πj=1{dΨjdΨj {<ψj+1,tj+1j,tj

  exp(-ΨjΨj)}<Ψ1,t10,t0> に代入すると,

 

 H(t)=(Ψ(t),Ψ (t);t)≡Ψ(t)(t)Ψ(t)なので, 

 <Ψ,t|Ψ,t 

 =∫..∫Πj=1{dΨjdΨj exp(-ψN+1ψ) 

 ×exp{ψj+1ψj-iΔtΨj+1M(tjj}exp(-ΨjΨj)} 

 =∫..∫Πj=1{(dΨjdΨj )exp(-ΨN+1ψ)} 

 ×exp[Σj=0[-Ψj+1j+1-Ψj)-iΔtH(Ψj+1j,tj)] 

 

 となります。 

右辺のj+1-Ψj)をΨj+1-Ψj=Δt(∂Ψj/∂t)=Δt∂0Ψj

と書き直すと,-Ψj+1j+1-Ψj)=(iΔt)(iΨj+100Ψj)

ですから,

 

 -Ψj+1j+1-Ψj)-iΔtH(Ψj+1j,tj) 

 =(iΔt)[iΨj+100Ψ-H(Ψj+1j,tj)] 

 =(iΔt)L(Ψj+1~,Ψj+1,Aμ(tj )) 

  =∫d3j+1(),Ψj(),Aμ(,tj)) です。

 

 それ故, 

 Σj=0[-Ψj+1j+1-Ψj)-iΔtH(Ψj+1j,tj)] 

 =Σj=0[iΔtΨ∫d3j+1(),Ψj(),Aμ(,tj))

 

したがって, 

 <Ψ,t|Ψ,t 

 =∫..∫DΨDΨ

 exp[i∫tItF4xd3(x),Ψ(x),Aμ(x))

 

 を得ます。

 

 ここでは,例として電磁場Aμ(x))を外場として入れましたが,

これはスカラー場でも何でもよく外場である必要はありません。

 

 今日はここまでにします。

 

(参考文献):九後汰一郎 著「ゲージ場の量子論Ⅰ」(培風館)

|

« 訃報!!愛川欣也さん。。。 | トップページ | 訃報!!加瀬邦彦さん。。自殺 »

114 . 場理論・QED」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ゲージ場の量子論から(その1)(経路積分と摂動論 12):

« 訃報!!愛川欣也さん。。。 | トップページ | 訃報!!加瀬邦彦さん。。自殺 »