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2015年11月 8日 (日)

散乱問題の復習(10)(対消滅)

 散乱問題の復習=再掲記事の続きです。

  制動輻射からCompton散乱までの話が終了しましたが,これら

  のFeynmanグラフとの継続性から,

 今回はその双対グラフとして,
荷電粒子-反粒子対(電子-陽電子対)

 が光子(γ線)へと対消滅する振幅,断面積の評価計算に入ります。

 

 

§7.8 Pair Anihilation into Gamma Rays(γ線への対消滅)

 

 下に再掲のCompton散乱に対するFeynman diagram(図7.10)

を横に向けると,かなり物理的に興味深いプロセスに遭遇します。

すなわち,電子-陽電子対の2つの光子への消滅です。

 

そして,上図7.11に示す運動学に関連したS行列要素は,

運動量空間では次のように書けます。

 

fiPair=e2{m2/(4E12ε02)}1/2(2π)4

δ4(k1+k2-p-p)v~(p,s)

[(-iε2){i/(1-m)}(-iε1)

+(-iε1){i/(2-m)}(-iε2)]u(p,s)

です。

 

これは,Bose統計で要求されるように2つの光子の入れ換え

に対しては対称です。

 

これまでのFeynman伝播関数(propagator)に関する記述では,この

プロセスは過去に生成された正エネルギー:pの電子が負エネル

ギー状態:-pに散乱されて伝播し過去に帰る,という描像に対

応します。

 

そして経路に沿って2つの光子を生成します。

 

つまり,エネルギーを輻射場へと2回手放します。

 

こうした過程が起こり得るのは最低次でe2のオーダーです。

  

何故なら,エネルギー・運動量の保存により,運動学的に対消滅

から単一の光子に転化することは有り得ないからです。

 

さらに,SfiPairの2つの光子の入れ換え対称性が保証されるため

には両方のグラフが含まれる必要があります。

 

ところで,すぐ前に考察したCompton散乱振幅を見返すと,

  

fiComp={e2/(ε02)}(2π)4δ4(pf+k'-pi-k)

(4k0k' 0)-1/2{m2/(Efi)}1/2

u~(pf,sf)[(-iε'){i/(i-m)}(-iε)

+(-iε){i/(i'-m)}(-iε')]u(pi,si)

です。

 

これと,今の対消滅の振幅: 

fiPair=e2{m2/(4E12ε02)}1/2(2π)4

δ4(k1+k2-p-p)v~(p,s)

[(-iε2){i/(1-m)}(-iε1)

+(-iε1){i/(2-m)}(-iε2)]u(p,s)

を比較して見ると,

 

非常に強い類似性に気が付くはずです。

 

実際,(ε,k)⇔(ε1,-k1),(ε',k')⇔(ε2,+k2),

かつ,(pi,si)⇔(p,s),(pf,sf)⇔(-p,s) 

なる交換(代入)によって,振幅SfiCompとSfiPairは互いに変換

し合うことが見て取れます。

 

 これは,任意の順序に対して正しく,タイプ:A+B → C+D

 の反応を,例えばA+C~ → B~+Dなるプロセスに関連付ける

 "一般的な代入法則=詳細釣り合いの原理

 (principles of detailed Valance)" の1例になっています。

 

 この代入規則の別の例は下の再掲:図7:8 

 に対応する制動輻射(Bremsstrahlung)の振幅:

 

 SfiBrem=e2∫d4xd4yψ~f(x)[-i(x;k)iSF(x-y)

 (-iγ0)A0Coul(y)+(-iγ0)A0Coul(x)iSF(x-y)

 {-i(y;k)}]ψi(y);

  

 A0Coul(x)≡-Ze/(4πε0||)(e<0 は電子の電荷),

 

 および,下図7.12に示す対創生(対生成:pair production)の振幅

 です。

 

 さて,対消滅に戻って,

 fiPair=e2{m2/(4E12ε02)}1/2(2π)4

 δ4(k1+k2-p-p)v~(p,s)

 [(-iε2){i/(1-m)}(-iε1)

 +(-iε1){i/(2-m)}(-iε2)]u(p,s)

 から,

 

 もう,お馴染みのステップで微分断面積の構成に進みます。

 

 偏りのない入射陽電子-電子(電子が静止の実験室系)を仮定

 した結果は,

 

 dσ~={e4/(2πε0)2}∫{m/(Eβ)}(―1)(1/4)(4m2)-1

 Tr(m-){ε21ε1/(2p1)+ε12ε2/(2p2)}

 (+m){ε11ε2/(2p1)+ε22ε1/(2p2)}

 {d31/(2k1)}{d32/(2k2)}δ4(k1+k2-p-p)

  です。

 

ただし≡p/E(p≡||)は入射陽電子の速さです。

 

また,右辺の因子1/4は電子と陽電子の初期spin状態の平均に由来し,

マイナス符号は陽電子スピノールの規格化に由来します。

 

(※標的電子が静止の実験室系では,E=m,つまりm/E=1

であり標的に向かう速さは||=β=||/Eです。)

 

 行列要素の単純化された形は,実験室系での横波ゲージの選択:

 ε1=0,ε2=0,および,Compton散乱で適用したのと同じ

 交換則(代入則)のためです。

 

 (※実験室系では,初期電子の4元運動量はp=(m,0)で,光子の

 4元spin(偏り)はそれぞれ,ε1=(0,ε1),ε2=(0,ε2)です。)

 

(注19-1):上記dσ~の具体形を説明するため,まず,

 A≡v~(p,s)[ε2(1+m)ε1/(-2p1)

 +ε1(2+m)ε2/(-2p1)]u(p,s)

 とおきます。

 

 すると,(+m)εiu(p,s)

 =-εi(-m)u(p,s)=0 なので,

 A=v~(p,s)[ε21ε1/(2p1)+ε12ε2/(2p1)]

 u(p,s) と簡単化されます。

 

そして,電子spinによる総和の寄与は,

Σ±s-β(p,s)u~λ(p,s)=(p+m)βλ/(2m)

です。

 

同様に,陽電子spinによる総和の寄与は,

-Σ±s+δ(p,s)v~α(p,s)

=Σr=34εrδr(p)w~αr(p)

=Σr=14εrδr(p)w~αr(p)(m-)δα/(2m)

=(m-)δα/(2m)

です。

 

故に,Σ±s-,±s+|A|2

=Σ±s-,±s+{v~α(p,s)

[ε21ε1/(2p1)+ε12ε2/(2p1)]αββ(p,s)}

{u~λ(p,s)[ε11ε2/(2p1)+ε22ε1/(2p1)]λδ

δ(p,s)}

 

=(4m2)-1(m-)δα

[ε21ε1/(2p1)+ε12ε2/(2p1)]αβ

(p+m)βλ[ε11ε2/(2p1)+ε22ε1/(2p1)]λδ

と書けます。

 

すなわち,Σ±s-,±s+|A|2=(4m2)-1

Tr(m-){ε21ε1/(2p1)+ε12ε2/(2p2)}

(+m){ε11ε2/(2p1)+ε22ε1/(2p2)}

なる式を得ます。(注19-1終わり)※

 

さて,トレース因子の具体的計算に入ります。

まず,Tr(m-)ε21ε1(+m)ε22ε1

=Trε12ε2(+m)ε11ε2(m-)

=Tr(m-)ε12ε2(+m)ε11ε2より,

 

dσ~の右辺トレース因子のうち分母が4(p1)(p2)の2つの

項は等しいことがわかります。

 

一方,T1≡Tr(m-)ε21ε1(+m)ε11ε2とおくと,

前のCompton散乱におけるトレース計算と同じく

ε12=-1,k12=0 によって,m,m2を因子に持つ項の寄与は

ゼロです。

 

そこで,T1=-Trε21ε1ε11ε2

=-8k1{k1+2(k1ε2)(pε2)} です。

 

ところが,保存則:k1+k2=p+pよりp-k1=k2-p

ですからk1=k2です。

 

また,pε2-k1ε2=k2ε2-pε2=0より,

ε2=k1ε2 です。

 

そこで,結局,T1=-8k1{k2+2(k1ε2)2} です。

 

同様に,T2≡Tr(m-)ε12ε2(+m)ε22ε1

=-Trε12ε2ε22ε1

=-8k2{k2+2(k2ε1)(pε1)} より,

 

2=-8k2{k1+2(k2ε1)2} を得ます。

 

最後に,T3≡Tr(m-)ε21ε1(+m)ε22ε1

=Tr(m-)ε12ε2(+m)ε11ε2とおけば,

=-p+(k1+k2) より,

 

3=Tr(+m)ε21ε1(+m)ε22ε1

-Tr(12)ε21ε1(+m)ε22ε1

=8(k1)(k2){2(ε1ε2)2-1}

+8(k2)(k1ε2)2+8(k1)(k2ε1)2 です。

 

したがって,

Tr[(m-){ε21ε1/(2p1)+ε12ε2/(2p2)}

(+m){ε11ε2/(2p1)+ε22ε1/(2p2)}]

=(1/4)[T1/(k1)2+T2/(k2)2

 +2T3/{(k1)(k2)}]

=2{-k2/k1-k1/k2+4(ε1ε2)2-2}(ki≡|i|)

を得ました。

 

 これから,dσ~={e4/(2πε0)2}{m/(Eβ)}

 ∫{d31/(2k1)}{d32/(2k2)}δ4(k1+k2-p-p)

 (-2/4)(4m2)-1{-k2/k1-k1/k2+4(ε1ε2)2-2}

 なる表式を得ます。

 

最後に残る唯一の仕事は実験室運動系でのδ関数の評価です。

 

dσ~の右辺のδ関数因子に対して積分d32,および,d31

うち立体角を除く変数1≡|1|による積分dk1を実行します。

 

すると,∫{d31/(2k1)}{d32/(2k2)}

δ4(k1+k2-p-p)

=(1/2)∫01dk1dΩk1δ((p+p-k1)2)

θ(E+E-k1)

=(1/2)∫01dk1dΩk1δ((p+p)2-2k1(p+p))

θ(E+E-k1)

と書けます。

 

すなわち,(dΩk1/2)∫0E++m1dk1

δ(2m2+2mE-2k1(m+E-pcosθ))

=(1/4)m(m+E)/(m+E-pcosθ)2dΩk1 

(p≡||) です。

 

そこで,β=||/E=p/E)より,

 

dσ~/dΩk1

={e4/(2πε0)2}(m/p)(-2/4)(4m2)-1

{-k2/k1-k1/k2+4(ε1ε2)2-2}

(1/4)m(m+E)/(m+E-pcosθ)2;

(p≡||) を得ます。

 

ただし,k1=|1|=m(m+E)/(m+E-pcosθ)

です。

 

これを整理すると, 

dσ~/dΩk1=α2(m+E)/[8p(m+E-pcosθ)2]

{-k2/k1-k1/k2+4(ε1ε2)2-2} です。

 

ただし,αは微細構造定数(structure constant)で,

c=hc=1の自然単位ではα≡e2/(4πε0)です。

(hc≡h/(2π);hはPlanck定数)

 

そして,エネルギー・運動量の保存則により, 

2=|2|=m+E-k1

=(m+E)(E-pcosθ)/(m+E-pcosθ)

=k1(E-pcosθ)/m ですから,

 

2/k1=(E-pcosθ)/m,k1/k2

=m/(E-pcosθ)/m です。

 

結局,入射電子と陽電子のspinに特定の偏りを考慮しない対消滅

の微分断面積が,

dσ~/dΩk1=α2(m+E)/[8p(m+E-pcosθ)2]

{(E-pcosθ)/m+m/(E-pcosθ)+2-4(ε1ε2)2}

で与えられることがわかります。

 

さらに,終光子のspin(偏光)についても偏りのない対消滅の

総断面積σ~を求めるため,終光子のspinと立体角dΩk1

わたって上記のdσ~/dΩk1を総和し積分します。

 

ただし,dΩk1積分については注意が必要です。

 

というのは終状態は2つの同種粒子を含むからです。

 

上のdσ~/dΩk1の式は光子の1つがdΩk1の中に現われる事象

をカウントしたものですが,光子の区別不可能性の故,検知される

1光子が2つの光子のうちのどちらか一方であることしかわかり

ません。

 

dσ~/dΩk1は,微分断面積としてはこのままでいいのですが,

全立体角にわたって積分する場合には,各状態を正確に2回

カウント(double-count)することになります。

 

そこで,正しくはσ~=(1/2)∫(dσ~/dΩk1)dΩk1

=(1/2)∫0dφk1-11d(cosθk1)(dσ~/dΩk1)

です。

 

 (※積分を模式的に総和の記号Σで表わせば,Σk1,k2dΩk1dΩk2

 ですが,これはk1,k2が同種粒子のときには,明らかにk1<k2

 k2<k1を二重にカウントするので1/2を掛けるのは当然です。)

 

積分を実行して任意のエネルギーレベルでの全断面積σ~を計算

するのは容易ではありませんが,低エネルギーと高エネルギーの

近似式は容易に得られます。

 

まず,低エネルギー極限(β<<1)では,→ 0,1→-2

であり,光子の偏りの平均は(1/2)Σε1,ε21ε2)2=1/2

ですから,σ~={α2π/(β2)}{1+O(β2)} です。

 

一方,高エネルギーの超相対論的極限では,

σ~={α2π/(mE)}

{ln(2E/m)-1+O((m/E)ln(E/m))+..} です。

 

高エネルギー極限では,先に示した微分断面積: 

dσ~/dΩk1=α2(m+E)/[8p(m+E-pcosθ)2]

{(E-pcosθ)/m+m/(E-pcosθ)+2-4(ε1ε2)2}

 

における因子の[ ]内の最初の2項は,等しく対消滅の主オーダー

に寄与しますが,最後の2項は(m/E)だけ小さい寄与をします。

こうした結果は,最初1930年にDiracによって得られました。

 

(注19-2):まず,低エネルギー極限では,

120,1=-2 なので,θ=π

1/2)Σε1,ε2(ε1ε2)2=(1+cos2θ)/2=1,

故にΣε1,ε21ε2)2=Σε1,ε2(ε1ε2)2=2 です。

 

(12のなす角がθのときΣε1,ε2(ε1ε2)2=1+cos2θとなる

理由については,Compton散乱の断面積について書いた記事

散乱の伝播関数(17)(応用4)」の最後の部分を参照して下さい。)

 

そこで,低エネルギーでは,

σ~={πε02α2(m+E)/(2p)}

-11dz[(E-pz)/{m(m+E-pz)2}

+m/{(m+E-pz)2(E-pz)} 

~{πα2(m+E)/(2p)}

-11dz[(E-pz){1+pz/(mE)}2/{m(m+E)2

m{1+pz/(mE)}2(1+pz/E)/{(m+E)2}}

です。

 

故に,σ~={πα2(m2+E2)/(2mp(m+E)}

-11{1+pz/(mE)}2dz

+(p/E)(m2-E2)∫-11z{1+pz/(mE)}2dz

={πα2/(2mp(m+E)}

[(m2+E2)/{2+(2/3)p2/(m+E)2}

+(4/3)(p2/E)(m-E)] す。

 

ここで,E=m,β=p/E=p/mより,

=mβとおけば,結局,

σ~={α2π/(β2)}{1+O(β2)} を得ます。

 

一方,高エネルギー極限のp→ ∞ではθは固定されないので,

Σε1,ε21ε2)2=1+cos2θです。

 

そこで,σ~={πα2(m+E)/(2p)}

-11dz[(E-pz)/{m(m+E-pz)2}

+m/{(m+E-pz)2(E-pz)}

+(1-z2)/(m+E-pz)2] です。

 

これは,σ~={πα2(m+E)/(2p)}

-11dz[1/{m(E-pz)}-2/(m+E-pz)2}

+(1-z2)/(m+E-pz)2] と書けます。

 

積分項

=[{-1/(mp)}ln|E-pz|

-(2/p){1/(m+E-pz)}

-(1/p){1/(m+E-pz)}

-(1/p3){pz-(m+E)2/(pz-m-E)

+2(m+E)ln|m+E-pz|}]-11

 

={2/(mp)}ln(|p+E|/m)

-{2(m+E)/p3}ln{2m(m+E)/(m+E+p)2

-[1/{m(m+E)}{1+(m+E)2/p2}-2/p2} です。

 

※何と,先に,種元のテキストに結果が明示されていないこと

から予想して"計算は容易ではない"と書いたことに反して,

低エネルギー,高エネルギーを問わない一般的ケースでも

初等的に積分を実行できました。※

 

σ~={α2π(m+E)/(2p)}[{2/(mp)}ln(|p+E|/m)

-{2(m+E)/p3}ln{2m(m+E)/(m+E+p)2

-1/{m(m+E)}+(m+E)/(mp2)-2/p2]

なる一般式を得ました。

 

これは,高エネルギー極限:p→ ∞では,p~ E,

m+E~ Eなので,

σ~~ {α2π/(mE)}[ln(2E/m)-1+(m/E)ln(2E/m)

-m/E] と近似されます。

 

すなわち,

σ~={α2π/(mE)}{ln(2E/m)-1

+O((m/E)ln(E/m))+..}

なる近似式を得ました。  (注19-2終わり)※

 

PS:電磁単位の扱いにおける混乱から,散乱の伝播関数の理論(応用)

シリーズの散乱断面積に不要な真空誘電率ε0が含まれている間違

いを発見したのでそれら一連の式の誤まった係数を修正しておき

ました。(2010年8月30日(月)夕方)

 

参考文献:J.D.Bjorken & S.D.Drell "Relativistic Quantum Mechanics"(McGraw-Hill)

 

 以上,2010年8/27の過去記事「散乱の伝播関数の理論(19)」

 の再掲載記事でした。

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