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2015年11月 8日 (日)

散乱問題の復習(11)(電子^電子散乱'(メラー散乱1)

 散乱問題の復習=再掲記事の続きです。 

 

 電磁相互作用を受けての粒子散乱の最後の応用例として,

 電子-電子散乱,および電子-陽電子散乱の摂動計算を

 実行します。

 (※実は,当面の弱い相互作用論議へのツナギとしてこの記事

 を参照することが一連の記事再掲載の主目的です。※)

 

§7.9 Electron-Electron and Electron-Positron Scattering

 (電子-電子散乱,および電子-陽電子散乱)

 

 電子-電子散乱は,かつての記事「散乱の伝播関数の理論(13),

 (14),(15)(応用2)」で述べた電子-陽子散乱とほとんど同じ方法

 で扱うことができます。

 

 しかし,電子-電子散乱では電子の同等性のために生じるもう1つ

 のgraphがあります。

 

 この過程に対する2つのgraphsを下図7.13に示します。

 これらのdiagramsは関連する運動学を定義します。

 

まず,かつての電子-陽子散乱の散乱振幅を再掲すると,

fi=(eep02){m2/(Eif)}1/2{M2/(Epipf)}1/2

{u~(pf,sf)(-iγμ)u(pi,si)}

{u~(Pf,Sf)(-iγμ)u(Pi,Si)}(-i){(pf-pi)2+iε}-1

(2π)4δ4(Pf-Pi+pf-pi) です。

 

ただし,エネルギー・運動量の保存から,pf-pi=Pi-Pf です。

 

 そこで,同じように電子-電子散乱の振幅SfiMを与えると,

 SfiM=(e2202)(E121'E2')-1/2

 [{u~(p1')(-iγμ)u(p1)}{u~(p2')(-iγμ)u(p2)}

 (-i){(p1-p1')2+iε}-1

 -{u~(p1')(-iγμ)u(p2)}{u~(p2')(-iγμ)u(p1)}(-i)

 {(p1-p2')2+iε}-1](2π)4δ4(p1'+p2'-p1-p2)

 と書けます。

 

ただし,便宜上スピン添字:si,sj'etc.は伏せました。

 

(注20^1):Feynman規則に忠実に,頂点(vertex)には因子:

 (-ieγμ)を,光子内線にはその伝播関数(-i)(q2+iε)-1

 を対応させました。

 

実はベクトル粒子である光子の伝播関数は,正しくは,

(-i)(gμν+縦波ゲージ項)/(q2+iε)のテンソル形なのですが,

頂点因子を含めると,(-ieγμ)gμν(-ieγν)

=(-ieγμ)(-ieγμ) となります。

 

そして,qμに比例する縦波項は,ゲージ不変性(=電荷の保存)を

反映して,光子の分極(偏光:spin)εの横波性:εq=0 により消

えて寄与はゼロなので,伝播関数を省略したスカラー形で書きま

した。(注20-1終わり)※

 

 右辺の[ ]の中の"第1項=直接項"と"第2項=交換項

 (exchange term)"の間の相対的な(-)符号は電子の従うFermi統計

 に由来します。

 

 つまり,散乱振幅が2つの終状態電子の交換に対して反対称である

 ことが要求されます。

 

 Fermi統計はまた,初期電子の交換に対する反対称性をも要求します。

 

同様な論旨から,2つのBose粒子を含む状態から,またはBose粒子

状態への散乱振幅はそれらの交換の下で対称です。

 

この後者の性質は前の図7.11に対する電子-陽電子の対消滅過程

の散乱振幅での終状態光子の交換に対して確認されています。

 

さて,電子-電子散乱振幅:

fiM=(e2202)(E121'E2')-1/2

[{u~(p1')(-iγμ)u(p1)}{u~(p2')(-iγμ)u(p2)}(-i)

{(p1-p1')2+iε}-1

-{u~(p1')(-iγμ)u(p2)}{u~(p2')(-iγμ)u(p1)}

(-i){(p1-p2')2+iε}-1](2π)4δ4(p1'+p2'-p1-p2)

には,交換項が入ったときの(1/√2)や1/2のような追加の規格化

因子は導入されていません。

 

これは,fiから微分断面積を作る法則が始状態,または終状態に

同種粒子が存在することによっては変わらないからです。

 

ただ,既に対消滅過程でも述べたように,終状態に同種粒子が存在

するとき,全断面積を得るための積分においては,

σ~=(1/2)∫(dσ~/dΩ)dΩのように1/2因子を含む必要がある

ことには注意を要します。

 

一方,始状態(初期状態)においては同種粒子に対して特別な因子は

現われません。

 

何故なら,入射流束(flux)は粒子が異種か,同種かを問わず不変で

あるからです。

 

電子-電子散乱はこの法則の明確で単純な例になっています。

 

なお,SfiMの右辺の"第2項=交換項"は,移行運動量 or 運動量遷移

(momentum-transfer):(p1'-p1)が小さい前方散乱近傍では無視

できます。

 

この極限では,散乱振幅は正確にCoulomb散乱の振幅に等しくなり

粒子の統計には依存しません。

 

さて,散乱振幅から今まで通りのやり方で偏りのない電子の散乱

に対する微分断面積が得られます。

 

すなわち,慣性中心系(重心系)では,

dσ~=e44/{E4(2β)}∫d31'd32'(2π)-2

δ4(p1'+p2'-p1-p2)(1/4)(16m4)-1[{1/(p1'-p1)2}2

{Tr(1'+m)γμ(1+m)γν}{Tr(2'+m)γμ(2+m)γν}

-(p1'-p1)-2(p2'-p1)-2

{Tr(1'+m)γμ(1+m)γν(2'+m)γμ(2+m)γν}

+(p1'⇔p2'の交換項)] です。

 

Eは慣性中心系での各粒子のエネルギー,βはその速度です。

2つの初期電子の相対速度は2βです。

 

(注20-20):

 2体散乱の慣性中心系(重心系)では,121'+2'=0

 なので,|1|=|2|,|1'|=|2'|です。

 

そして,散乱(衝突)前後のエネルギー保存則より,

1+E2=E1'+E2'であって,しかも粒子は全て電子なので質量

も同じmですから粒子エネルギーは全て同じ値で,

1=E2=E1'=E2'です。

 

そこで,この全て同じのエネルギーをEと書くわけです。

 

また,重心系で全ての粒子に共通な速度の大きさを,

β=|1|=|1|/E1=|2|=|2|/E2とおくと,

12=0 より2=-1なので,|12|=2β

と書けます

 

また,(1/4)Σs1,s2,s1',s2'{u~α(p1')(γμ)αββ(p1)}

{u~γ(p2')(γμ)γδδ(p2)}{u~λ(p2)(γν)λσσ(p2')}

{u~ξ(p1)(γν)ξηη(p1')}

=(1/4)(16m4)-1{(1'+m)ηαμ)αβ(1+m)βξ}(γν)ξη}

{(2'+m)σγμ)γδ(2+m)δλν)λσ}

=(1/4)(16m4)-1{Tr(1'+m)γμ(1+m)γν}

{Tr(2'+m)γμ(2+m)γν},  

 

(1/4)Σs1,s2,s1',s2'{u~α(p1')(γμ)αββ(p1)}

{u~γ(p2')(γμ)γδδ(p2)}{u~λ(p1)(γν)λσσ(p2')}

{u~ξ(p2)(γν)ξηη(p1')}

=(1/4)(16m4)-1{(1'+m)ηαμ)αβ(1+m)βλν)λσ

(2'+m)σγμ)γδ(2+m)δξν)ξη}

=(1/4)(16m4)-1

{Tr(1'+m)γμ(1+m)γν(2'+m)γμ(2+m)γν}

 

です。(注20-2終わり)※

 

 相対論的エネルギーでは,この2βは光速の2倍の値に近づきます

 が,特殊相対性理論と矛盾するものではありません。

 

 事実,1つの電子の速度を他の電子から見るなら決して光速は超え

 ません。

 

(※相対論では有り勝ちな光速度不変に対する誤解の1つですね。) 

 

そして,(p1'⇔p2'の交換項)は,dσ~における右辺最初の2項で

1'とp2'を交換して得られる2つの付加項の存在を示しています。

 

 直接散乱と交換散乱の双方において出現する干渉項は唯1つの長い

 トレース因子を含みます。

 

微分断面積に寄与する行列要素の平方(ノルムの2乗)を表示する

図形的方法は,2つのループと2つのトレース項因子を持つ直接項

と,1つのトレース因子のみ持つ干渉項の違いを明示します。

(図7.14:Pending)

 

これらのdiagramsは,添字μ,νの順序を保持しつつスピノ-ル因子

を直線的に求めるときには便利です。

 

ライン上の白丸は分母因子:(p2-m2)-1が現われないことを注意す

るものです。

 

以下,「散乱の伝播関数の理論(11)(応用1-1)」で与えたγ行列に関

する定理を用いて具体的にトレース因子を評価します。

 

特に,干渉項の8個のγ行列の積のトレースの計算における縮約には

[性質6]:(ⅰ)γμγμ=4・1,(ⅱ)γμγμ=-2,

(ⅲ)γμabγμ=4ab,(ⅳ)γμabcγμ=-2cba,

(ⅴ)γμabcdγμ=2(dabccbad)

が非常に有用です。

 

r(1'+m)γμ(1+m)γν(2'+m)γμ(2+m)γν

おいて,例えば相対論的エネルギーE>>mを想定してm2に比例

する項を無視すれば,奇数個のγ行列の積のトレースへの寄与は

ゼロなので,これはTr(1μ1γν2μ2γν)となります。

 

そして[性質6]の(ⅳ)から,γν2μ2γν=-22γμ2'

なので,Tr(1μ1γν2μ2γν)

=-2Tr(1μ12γμ2') です。

 

さらに,(ⅲ)よりγμ12γμ=4p12なので,結局,

Tr(1μ1γν2μ2γν)=-8p12Tr(1'2')

=-32(p12)(p1'p2') を得ます。

 

(注20-2):実際に正しくは,

 Tr(1'+m)γμ(1+m)γν(2'+m)γμ(2+m)γν

 =-32(p12)(p1'p2')+m2{Tr(γμγν2μ2γν)

 +Tr(γμ1γνγμ2γν)+Tr(γμ1γν2μγν)

 +Tr(1μγνγμ2γν)+Tr(1μγν2μγν)

 +Tr(1μ1γνγμγν)}+m4Tr(γμγνγμγν)

 です。

 

そして,Tr(γμγν2μ2γν)+Tr(γμ1γνγμ2γν)

+Tr(γμ1γν2μγν)+Tr(1μγνγμ2γν)

+Tr(1’γμγν2μγν)+Tr(1μ1γνγμγν)

=-2Tr(γμ2γμ2')+4p2μTr(γμ1)

+4p2'μTr(γμ1)+4p2μTr(1μ)+4p2'μTr(1μ)

-2Tr(1μ1γμ) です。

 

よって,これは16{(p22')+(p12)+(p12')+(p1'p2)

+(p1'p2')+(p1'p1)}

=16{(p12)+(p1'p2')+(p1+p2)(p1'+p2')}

です。

 

ところがp1+p2=p1'+p2',それ故p12=p1'p2'ですから,

さらに,16{2(p12)+(p1+p2)2}=32{2(p12)+m2}

に帰します。

 

 また,Tr(γμγνγμγν)=-2Tr(γνγν)=―32 です。

 

 以上から,

 Tr(1'+m)γμ(1+m)γν(2'+m)γμ(2+m)γν

 =-32{(p12)2-2m2(p12)-m4+m4}

 =-32(p12)(p12-2m2) を得ます。

 

 一方,[性質4]:Tr(1..n)

 =a12Tr(3..n)-a13Tr(24..n)+..

 +a1nTr(2..n-1),

 

 特にTr(1234)

 =4(a1234+a1423-a1324)より,

 Tr(1'+m)γμ(1+m)γν

 =4{p1'μ+p1'ν-gμν(p11'-m2)}

 です。

 

同様に,Tr(2'+m)γμ(2+m)γν

=4{p2'μ2ν+p2'ν2μ-gμν(p22'-m2)}ですから,

結局,

{Tr(1'+m)γμ(1+m)γν}{Tr(2'+m)γμ(2+m)γν}

=16{p1'μ+p1'ν-gμν(p11'-m2)}

{p2'μ2ν+p2'ν2μ-gμν(p22'-m2)}

です。

 

したがって,

{Tr(1'+m)γμ(1+m)γν}{Tr(2'+m)γμ(2+m)γν}

=16[(p1'p2')(p12)+ (p12)(p1'p2')+(p1'p2)(p12')

+(p12')(p1'p2)-(p11'-m2)

{(p22')+(p2'p2)}-(p22'-m2){(p11')+(p1'p1)}

+4(p11'-m2)(p22'-m2)] です。

 

ところが,保存則:p1+p2=p1'+p2'によって,

12=p1'p2',p12'=p1'p2,p11'=p22'ですから,

結局,

{Tr(1'+m)γμ(1+m)γν}{Tr(2'+m)γμ(2+m)γν}

=32{(p12)2+(p12')2-2m2(p11'-m2)}

を得ます。

 

(注20-3終わり)※

 

(注20-4):以上から,

 dσ~=e44/{E4(2β)}∫d31'd32'(2π)-2

 δ4(p1'+p2'-p1-p2)(1/4)(16m4)-1[{1/(p1'-p1)2}2

 {Tr(1'+m)γμ(1+m)γν}{Tr(2'+m)γμ(2+m)γν}

 -(p1'-p1)-2(p2'-p1)-2

 {Tr(1'+m)γμ(1+m)γν(2'+m)γμ(2+m)γν}

 +(p1'⇔p2'の交換項)]

 は次のように書けます。

 

dσ~=e44/{E4(2β)}(1/2)∫d31'd32'(2π)-2

δ4(p1'+p2'-p1-p2)[{1/(p1'-p1)2}2

{(p12)2+(p12')2-2m2(p11'-m2)}

+(p1'-p1)-2(p2'-p1)-2(p12)(p12-2m2)

+{1/(p2'-p1)2}2{(p12)2+(p11')2-2m2(p12'-m2)}

+(p2'-p1)-2(p1'-p1)-2(p12)(p12-2m2)]

です。

 

 ここで,慣性中心系では,p12=E22,p11'

 =E22cosθ=p22',p12'=E21(-1')cosθ

 =E22cosθ=p1'p2,(p1'-p1)2=2m2-2p11'

 =2(m2-E22cosθ)=-22(1-cosθ),(p2'-p1)2

 =2m2-2p12'=2(m2-E22cosθ)=-22(1+cosθ)

 です。

 

 ただし,1=-2 です。

 

 故に,dσ~の右辺[ ]の中:

 {1/(p1'-p1)2}2{(p12)2+(p12')2-2m2(p11'-m2)}

 +(p1'-p1)-2(p2'-p1)-2(p12)(p12-2m2)

 +{1/(p2'-p1)2}2{(p12)2+(p11')2-2m2(p12'-m2)}

 +(p2'-p1)-2(p1'-p1)-2(p12)(p12-2m2)

 は次のように書けます。

 

[ ]=(1/4)p-4

[{(E2+p2)2+(E2+p2cosθ)2-2m22(1-cosθ)}/(1-cosθ)2

+{(E2+p2)2+(E2-p2cosθ)2-2m22(1+cosθ)}/(1+cosθ)2

+2(1-cosθ)-1(1+cosθ)-1(E2+p2)(E2+p2-2m2)/{(1-cosθ)

(1+cosθ)}]=..(中略)

 

=(1/2)p-4[4(E2+p2)2/sin4θ-3(E2+p2)2/sin2θ

+p4(1+4/sin4θ)] です。

 

ただし,p≡|| としました。

 

 p1'≡|1'|と置くと,β=p/E=p1'/E1'により,

 2p1'=2E1'β となります。

 

故に,∫{d31/(2p1')}{d32/(2E2')}δ4(p1'+p2'-p1-p2)

=(4E2β)-1∫d31/(2Eβ)}{d32/(2E)}

δ4(p1'+p2'-p1-p2)

=(dΩp1'/2)∫01'dp1'∫d424(p1'+p2'-p1-p2)

δ(p2'2-m2)θ(E2')

 

=(dΩp1'/2)∫01'dp1'δ((p1+p2-p1') 2-m2)

θ(E1+E2-E1')

=(dΩp1/2)∫02EE'dE'δ(4E 2-4EE')

=dΩp1'/8です。。

 

(注20-4終わり)※

 

したがって,微分断面積として,

(dσ~/dΩ)M={α2/(4E2)}{(E2+p2)/p2}2

[4/sin4θ-3/sin3θ+{p2/(E2+p2)}2(1+4/sin4θ)]

が得られました。

 

特に,E>>mでp~Eの高エネルギー極限では,

(dσ~/dΩ)M ~ {α2/(4E2)}(3+cos2θ)2/sin4θ

となります。

 

dσ~/dΩ

={α2/(8E2)}[{1+cos4(θ/2)}/sin4(θ/2)

+2/{sin2(θ/2)cos2(θ/2)}+{1+sin4(θ/2)}/cos4(θ/2)]

とも書けます。

 

これはm2が無視できるときのみ正しい式です。

 

これらはメラー(Möller)の公式と呼ばれています。(つづく)

 

参考文献:J.D.Bjorken & S.D.Drell "Relativistic Quantum Mechanics"(McGraw-Hill)

 以上,2010年9/6の過去記事「散乱の伝播関数の理論(20)」

 の再掲載です。

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