弱い相互作用の旧理論(4)(Fermi理論)
弱い相互作用の旧理論の続きです。
前回から回り道をしたためもあり,大分間が空いたので,
まず前回までの内容を要約しておきます。
まず,β崩壊のS行列要素Sfi(e-)が±1や±iなど大きさ1
の位相因子を除いて次式で与えられるとします。
Sfi(e-)=(2π)-6{mpmnme/(2Eν~EpEnEe)}1/2
×(2π)4δ4(pe+pν~+Pp-Pn)M です。
Mは不変振幅と呼ばれますが,これはスピノルu(p,s),
v(p,s)etc.をスピンsへの依存性を無視して,u(p),
v(p)etc.と書けば,
M=Σi=S,P,VA,TCi [up~(Pp)Γiun(Pn)]
[ue~(pe)(1+αiγ5)Γivν(pν)]
です。
ここで,Γi={1,γ5,γμ,γ5γμ,σμν},
Γi={1,γ5,γμ,γ5γμ,σμν} です。
これらの16種類のガンマ行列:
Γi={1,γ5,γμ,γ5γμ,σμν}は,
それぞれをΨ~(x)とΨ (x)で挟んだ双一次形式:
Ψ~(x)ΓiΨ(x)で与えられるカレントが示す4次元空間
の上での変換性によって,
1はスカラー(S),γ5は擬スカラー(P),γμはベクトル(V),
γ5γμは軸性ベクトル(A), σμν=(i/2)[γμ, γν]
は2階テンソル(T)と分類されます。
また,逆β崩壊のS行列要素Sfi(e+)も同一の形になります
が,このときは反応と逆反応の,「詳細釣り合いの原理
(Principle of detailed-balance)」から,係数Ci,αiをその
複素共役に置き換える必要があります。
このとき,スピノルの積でのラベルも次のように変わります。
up~(Pp)Γiun(Pn) → un~(Pn)Γiup(Pp),
ue~(pe)(1+αiγ5)Γiivν(pν)]
→ uν~~(pν~)(1+αiγ5)Γiue(pe)]
です。
さらにαi は単に複素共役でなく,i=A,Vではαi →+αi*,
i=S,P,Tではαi →
-αi* と変える必要があります。
核子のスピノルについては,あらゆる運動量依存性を無視し,
それによって注意を許容される遷移のみに限定すれば,
不変振幅Mは,Pauliの2成分スピノルを用いた簡単な表現
になります。
すなわち,
M ~ (up+un)[CS{ue~(pe)(1+αSγ5)vν(pν)}
+CV{ue~(pe)(1+αVγ5)γ0vν(pν)}]
+(up+σun)[2CT{ue~(pe)(1+αTγ5)Σvν(pν)}
+CA{ue~(pe)(1+αAγ5)γ5γvν(pν)}]
です。
ただし,up,unは4成分スピノルの上2成分(大成分)
で与えられる核子の2成分スピノルで,σ=(σ1,σ2,σ3)
はPauliの2×2スピン行列です。
Σ=(Σ1,Σ2,Σ3)は,2つのPauliの2×2行列σを対角
要素とする4×4細胞対角行列を意味します。
(up+un)に比例する項:S,VはFermi遷移と呼ばれ,これは
核子n,pについて,スピンSの変化がゼロ:|ΔS|=0です。
他方, (up+σun)に比例する項:A,TはGamow-Teller遷移
と呼ばれ, 核子n,pについて,|ΔS|=1です。
原子核内のβ崩壊の観測では,Fermi遷移が,Gamow-Teller遷移
から分離されて分類されます。
一方,核内遷移では都合よく定義された角運動量状態間で
遷移が生じますが,他方,自由中性子nのβ崩壊ではFermi遷移
とGamow-Teller遷移の両方が同時に寄与しています。
また,M ~ (up+un)×[CS{ue~(pe)(1+αSγ5)vν(pν)}
+CV{ue~(pe)(1+αVγ5)γ0vν(pν)}]
+(up+σun)×[2CT{ue~(pe)(1+αTγ5)Σvν(pν)}
+CA{ue~(pe)(1+αAγ5)γ5γvν(pν)}]
における因子:(1+αiγ5)(i=S,V,TA)のうち,
αiγ5に比例する項はパリティの保存則を破るため,
1956年のLeeとYangによる仕事=パリティ非保存の予想(とWuに
よる検証)の以前には,非本義Lorent変換の1つである空間反転
(パリティ変換)の下でのS行列要素:Sfiの不変性を破らない
よう全て廃棄されていました。
しかし,LeeとYangに従う弱い相互作用でのパリティの破れの
実験的発見以後,今やキーとなるシリーズ実験により,あらゆる
Ci,αiの完全な決定へと導くことになりました。
パリティを破る項での定数αiは電子の縦偏極を測定すること
で決定されます。
この偏極を決める1つの方法は,原子内の崩壊に伴う電子散乱
の左右対称性を測定することに依ります。
すなわち,電子の偏極PをP=(NR-NL)/(NR+NL)
で定義します。
ただし, 電子のスピンはs=(1/2)σと書けますが,pをその
電子の運動量,p^=p/|p|を運動の向きを示す単位ベクトル
とするとき,σp^=+1(右巻き(right-handed:正のhelicity)
の電子の個数:つまり,電子自身の運動の向きに偏極したスピン
を持つ電子数をNR,
σp^=-1(左巻き(left-handed:負のhelicity)の電子の個数:
つまり運動と逆向きスピンを持つ電子数をNLとしました。
自由中性子nの崩壊同様,核内でのFermi遷移とGamow-Teller
遷移の両方で電子の反跳が無いという極限では,ニュートリノ
の放出角全体にわたって積分した後,電子の偏極Pは良い精度
で次のように与えられます。
すなわち,P=-|pe|/Ee=-|βe|です。
そこで,相対論的極限の|βe|→ 1(光速)の極限では左巻きの
電子のみが放出されることになります。
PR=NR/(NR+NL),PL=NL/(NR+NL)とおけば,
これらはそれぞれを電子の右偏極率,PLを左偏極率であり
PR+PL=1であり,P=PR-PLです。
それ故,P=-|βe| ~
-1 は,PR=0, PL=1を意味します。
Coulomb散乱で入射電子の偏極がp≦1の場合,散乱角をθとすると
その角度に散乱された電子の偏極Pは,
P=p(1-2me2sin2(θ/2)/{Ee2cos2(θ/2))+me2sin2(θ/2)})
となることが知られています。
これは,つまり原子内でβ崩壊があった場合,崩壊によって放出
された電子が原子内で散乱された結果,中心の核の反跳が無視
できるならCoulomb散乱と見なすことができて,その際の散乱
電子の偏極をも示す式と考えられます。
そこで, Ee=me/(1-βe2)1/2より相対論的極限|βe|→ 1
では,me/Ee → 0 なのでP → pです。
相対論的極限でβ崩壊で放出される電子が左巻きのみなら
p=-1なので,この高エネルギーの極限では崩壊後に原子
内で散乱された後に観測される電子の偏極もP=-1の
左巻きのみのはずです。
そうして,同じ極限で,左巻き電子に対するスピン射影演算子
は(1-γ5)/2となりますから, 左巻き電子の波動関数ΨLH
はΨLH=(1-γ5)Ψ/2で与えられることもわかります。
このとき,ΨLH~=(1+γ5)Ψ~/2です。
したがって,相対論的極限において正しい結果が実現されるため
には,全てのγ5の係数αiは+1 に等しくなければならないと結論
されます。
ここまで,要約と前回の「弱い相互作用の旧理論(3)」の最後の
部分の再掲載でした。(※)
さて,ここからが今日の新しい内容ですが,いきなり,私自身の注
から入ります。
β崩壊で放出される電子の偏極Pが,βe=ve/c=pe/Eeに対し,
P=-βe=-|βe |で与えられること,従って,相対論的極限:
βe →1(ve → c)では,P→
-1と左巻き電子のみになること ,
それ故,次の不変振幅M の表現式:
M ~ (up+un){CSue~(pe)(1+αSγ5)vν(pν)}
+CV{ue~(pe)(1+αVγ5) γ0vν(pν)}]
+(up+σun)[2CT{ue~(pe)(1+αTγ5)Σvν(pν)}
+CA{ue~(pe)(1+αAγ5)γ5γvν(pν)}]
における全てのγ5の係数αiが符号(+)も含め,正確に+1でなければ
ならないことを実験結果からだけでなく,理論の側からも証明を与え
たいのです。
ただし,厳密で完全な証明は難しいので,下記の私の(※注)では,
αi=+1 が,P=-βe=-|βe |なることと無矛盾であり,少なく
ともこれが理論の辻褄が合うための十分条件であることを示します。
※(注4-1):まず,前提として,β崩壊のS行列要素:Sfi(e-)の
最低次の形が,今まで通り次式で与えられるとします。
Sfi(e-)=(2π)-6{mpmnme/(2Eν~EpEnEe)}1/2
×(2π)4δ4(pe+pν~+Pp-Pn)M ;
M=Σi,j=S,P,VA,TCi
[up~(Pp)Γiun(Pn)][ue~(pe)(1+αiγ5)Γjvν(pν)]
です。
因子Mは,さらに反跳が小さいという近似で
M ~ (up+un)[CS{ue~(pe)(1+αSγ5)vν(pν)}
+CV{ue~(pe)(1+αVγ5)γ0vν(pν)}]
+(up+σun)[2CT{ue~(pe)(1+αTγ5)Σvν(pν)}
+CA{ue~(pe)(1+αAγ5)γ5γvν(pν)}]
と簡単になります。
そこで,β崩壊で放出される電子の偏極Pは,係数Ciへの依存性
を除けば次の式で与えられます。
(※各項の寄与が共通値であることを示せば係数は無関係です。)
P=(NR-NL)/(NR+NL)
=[ΣA,B|Tr{(1+γ5sR)/2}(pe+me)ΓApν~ΓB}
-Tr|(1-γ5sR)/2}(pe+me)ΓApν~ΓB}]
/[ΣA,BTr{(pe+me)ΓApν~ΓB}]
これは,P=[ΣA,B|Tr{γ5sR(pe+me)ΓApν~ΓB}
/[ΣA,BTr{(pe+me)ΓApν~ΓB}]
と書けます。
上式のΣA,Bを,(A,B)=(ij)={S,P,V,A,T}の総和Σi,j
とし,ΓAはΓA=(1+αiγ5)Γi,ΓBはΓB=(1±αj*γ5)Γjで
あるとします。
ただし.ΓBの式の右辺の(±)符号は,j=V,Aのとき(+)であり,
j=S,P,Tのとき(ー)です。
こうすれば不変振幅Mの形を偏極に体現したことになります。
しかし,特に初めから全てのi,jについてαi=αi*=+1と
仮定します。
すると, ΓA=(1+γ5)Γi,ΓB=(1±γ5)Γj です。
このとき,ΓApν~ΓBは,
ΓApν~ΓB=(1+γ5)Γipν~(1±γ5)Γjなる形になります。
そこでまず,iの分類ごとに,これを計算します。
(1) i=Sのとき,ΓApν~ΓB=(1+γ5)pν~(1±γ5)Γj
=(1+γ5){1-(±γ5)}pν~Γj なので,
j=V,Aなら,ΓApν~ΓB=(1+γ5)(1-γ5) pν~Γj=0
であり,
j=S,P,Tなら,ΓApν~ΓB=(1+γ5)2pν~Γj
=2(1+γ5)pν~Γj です。
(2)i=Pのとき,ΓApν~ΓB=(1+γ5) γ5pν~(1±γ5)Γj
=(γ5 +1)pν~(1±γ5)Γjなので,i=Sのときと同じです。
故に,j=V,Aなら,ΓApν~ΓB=0 であり,
j=S,P,Tなら,ΓApν~ΓB=2(1+γ5)pν~Γj です。
(3)i=Vのとき, ΓApν~ΓB=(1+γ5)γλpν~(1±γ5)Γj
=(1+γ5)(±γ5)γλpν~Γj なので,
j=V,AならΓApν~ΓB=(1+γ5)2γλpν~Γj
=2(1+γ5)γλpν~Γj であり,j=S,P,Tなら,
ΓApν~ΓB=(1+γ5)(1-γ5) γλpν~Γj =0 です。
(4)i=Aのとき,ΓApν~ΓB=(1+γ5)γ5γλpν~(1±γ5)Γj
=(γ5+1)γλpν~(1±γ5)Γjなので,i=Vのときと同じです。
すなわち,j=V,AならΓApν~ΓB=2(1+γ5)γλpν~Γj
であり,j=S,P,Tなら,ΓApν~ΓB=0 です。
(5)i=Tのとき, ΓApν~ΓB=(1+γ5)σλτpν~(1±γ5)Γj
=(i/2)(1+γ5)[γλ,γτ]pν~(1±γ5)Γj
=(i/2)(1+γ5){-(±γ5)}[γλ,γτ]pν~Γjなので,
j=V,Aのときは,ΓApν~ΓB=0 であり,
j=S,P,Tのとき,ΓApν~ΓB=2(1+γ5)0σλτpν~Γj
です。
以上から,i=V,Aなら,j=S,P,Tではゼロ,
i=S,P,Tならj=V,Aではゼロとなって,(V,A)の組
と(S,P,T)の組は独立であることがわかります.
そして,既にP(擬スカラー)はFermi項にもGamow^Teller項にも
出現しない許容されない遷移カレントであるとわかっているので
以下では考察からはずします。
次に,
P=[Σ|Tr{γ5sR(pe+me)ΓApν~ΓB}
/[ΣTr{(pe+me)ΓApν~ΓB}]
の分母,分子において,Σをはずした各項を評価します。
上述のようにP(擬スカラー)のケースは排除し,( V,A)と(S,T)
の独立性を考慮して考察します。
①i=S,j=Sなら
分母=Tr{(pe+me)ΓApν~ΓB}]=2Tr{(pe+me)(1+γ5)pν}
=8pepν~ であり,
分子=Tr{γ5sR(pe+me)ΓApν~ΓB}
=2Tr{γ5sR(pe+me)(1+γ5)pν}=-8mesRpν~
です。
核子側の因子の同じS(スカラー)についてもトレースを求め,
反ニュートリノの放出される方向の立体角dΩν~についての積分
を実行すると,pν~の奇関数についての項はゼロとなって消える
ことを考慮すれば,
結局,分母=8EeEν~であり,分子=-8msR0Eν~ です。
②i=S,j=Tなら,
分母=Tr{(pe+me)ΓApν~ΓB}]
=2Tr{(pe+me)(1+γ5)pνσλτ}
=i(Tr{pepν~[γλ,γτ]}+Tr{pepν~γ5 [γλ,γτ]})
=8i(peτpν~λ-peλpν~τ)+8εαβλτpeαpν~β,
分子=Tr{γ5sR(pe+me)ΓApν~ΓB}
=2Tr{γ5sR(pe+me)(1+γ5)pνσλτ}
=i(-meTr{sRpν~[γλ,γτ]}
+meTr{sRγ5pν~[γλ,γτ]})
=8mei(sRτpν~λ-sRλpν~τ)-8meεαβλτsRαpν~β
です。
これらは,λ,τについて反対称ですから,同じく反対称なΓT
の核子カレントと積和し,かつdΩν~についての積分の結果,
α=β=0以外の寄与はゼロのため,分母=分子=0 で偏極P
には寄与しません。
③i=V,A,j=Vなら,
分母=Tr{(pe+me)ΓApν~ΓB}]
=2Tr{(pe+me)(1+γ5)γλpνγτ}
=2[Tr(peγλpνγτ)+Tr(peγ5γλpνγτ)]
=8(peλpν~τ+peτpν~λ-gλτpepν~)
-8iεαβλτpeαpν~β,
分子=Tr{γ5sR(pe+me)ΓApν~ΓB}
=2Tr{γ5sR(pe+me)(1+γ5)γλpνγτ}
=-2meTr{sRpν~γλpνγτ)+2meTr{sRγ5γλpνγτ)
=-8me(sRλpν~τ+sRτpν~λgλτsRpν~)
+8meiεαβλτsRαpν~β,
故に,前のi=Sと同様,
分母=8EeEν~, 分子=--8mesR0Eν~ です。
④i=V,A,j=Aなら,
分母=Tr{(pe+me)ΓApν~ΓB}]
=2Tr{(pe+me)(1+γ5)γλpνγ5γτ}
=2[Tr(peγλpνγτ)+Tr(peγλpνγ5γτ)]
= 8(peλpν~τ+peτpν~λ-gλτpepν~)
-8iεαβλτpeαpν~β,
分子=Tr{γ5sR(pe+me)ΓApν~ΓB}
=2Tr{γ5sR(pe+me)(1+γ5)γλpνγ5γτ}
=-2meTr{sRpν~γλpνγτ)+2meTr{sRγλpνγ5γτ)
=-8me(sRλpν~τ+sRτpν~λgλτsRpν~)
+8meiεαβλτsRαpν~βです。
故に,やはり,分母=8EeEν~, 分子=--8mesR0Eν~
です。
⑤i=T,j=S,のときは,
分母=Tr{(pe+me)ΓApν~ΓB}]
=2Tr{(pe+me)(1+γ5)σλτpν}
=8i(peτpν~λ-peλpν~τ)+8εαβλτpeαpν~β,
分子=Tr{γ5sR(pe+me)ΓApν~ΓB}
=2Tr{γ5sR(pe+me)(1+γ5) σλτpν}
=i(-meTr{sRpν~[γλ,γτ]}+meTr{sRγ5pν~[γλ,γτ]})
=8mei(sRτpν~λ-sRλpν~τ)-8meεαβλτsRαpν~β,
故に, 分母=8EeEν~, 分子=--8mesR0Eν~
です。
最後に,⑥i=j=Tでも,
分母=Tr{(pe+me)ΓApν~ΓB}]
=2Tr{(pe+me)(1+γ5)σλτpνσρσ}
分子=Tr{γ5sR(pe+me)ΓApν~ΓB}
=2Tr{γ5sR(pe+me)(1+γ5) σλτpνσρσ}
以下,同様な詳細計算は省略しますが,
やはり,分母=8EeEν~, 分子=--8mesR0Eν~
です。
以上から,
P=[Σ|Tr{γ5sR(pe+me)ΓApν~ΓB}
/[ΣTr{(pe+me)ΓApν~ΓB}]
=-mesR0Eν~/(EeEν~)=-mesR0/Ee
が得られました。
ここで,|sR|=1/(1-βe2)1/2=Ee/me より,
sR0=|1-|sR|2)1/2=βe /(1-βe2)1/2=βe Ee/me
です。
したがって,確かに,
P=-mesR0/Ee=-βe=-|βe | が得られました。
しかし,もしもαi=+1を仮定しないなら,どうなるか??
を簡単な例で見てみます。
電子の偏極Pの式:
P=(NR-NL)/(NR+NL)
=[ΣA,B|Tr{(1+γ5sR)/2}(pe+me)ΓApν~ΓB}
-Tr|(1-γ5sR)/2}(pe+me)ΓApν~ΓB}]
/[ΣA,BTr{(pe+me)ΓApν~ΓB}]
=[ΣA,B|Tr{γ5sR(pe+me)ΓApν~ΓB}
/[ΣA,BTr{(pe+me)ΓApν~ΓB}]
上式のΣA,Bを(A,B)=(i,j)={S,P,V,A,T}で
Σi,jとし,,ΓA=(1+αiγ5)Γi,ΓB=(1±αj*γ5)Γjとするところ
までは前と同じです。
ここで,前はαi=αj*=+1とは仮定しましたが,これを仮定せず
このままで計算してみます。
すると,ΓApν~ΓBは,
ΓApν~ΓB=(1+αiγ5)Γipν~(1±αj*γ5)Γj
となります。
したがって,特にi=S(スカラー)のときは,
ΓApν~ΓB=(1+αiγ5)pν~(1±αj*γ5)Γj
=(1+αiγ5){1-(±αj*γ5)}pν~Γj なので,
さらに,j=V,Aなら,ΓApν~ΓB
=(1+αSγ5)(1-αj*γ5)pν~Γj
=(1-αSαj*)pν~Γj であり,
他方,j=S,P,Tなら、
ΓApν~ΓB=(1+αSγ5)(1+αj*γ5))pν~Γj
={1+αSαj*+(αS+αj*)γ5}pν~Γj
です。
特に,簡単な場合として,i=S,j=Sとすると,
Pの分母=Tr{(pe+me)ΓApν~ΓB}]
=Tr{(pe+me){1+|αS|2+(αS+αS*)γ5}pν}
=4(1+|αS|2)pepν~,
分子=Tr{γ5sR(pe+me)ΓApν~ΓB}
=2Tr{γ5sR(pe+me){1+|αS|2+(αS+αS*)γ5}pν}
=-4me(αS+αS*)sRpν~ です。
前と同じく,反ニュートリノの放出される方向の立体角dΩν~
について積分すると,pν~の奇関数についての項はゼロとなって
消えることから,
結局,分母=4(1+|αS|2)EeEν~であり,
分子=-4me(αS+αS*)sR0Eν~ です。
それ故,もしも電子の偏極Pへの寄与がi=S,j=Sの項しか
ないとした場合には,
P=(分子)/(分母)
=-{(αS+αS*)/{(1+|αS|2)}(mesR0/Ee)であり,
結局,P=-{(αS+αS*)/(1+|αS|2)}|βe |
となります。
この右辺の値が,正確に,P=-|βe |となるのは,
(αS+αS*) /(1+|αS|2)=1:つまり,
αS+αS*=1+αSαS*,or |1-αS|2=1のときに限るため,
αS=+1は,先に示したように,(分子)/(分母)=-|βe |と
なるための十分条件であるだけでなく,
恐らく,i,j=S,V,A,Tの全てに共通に
(分子)/(分母)=-|βe |となるための必要条件でもあるはず
です。
(※元々仮定したMの形では,i=jのケース以外を考察
する必要はなかったのに,ついやってしまいました。
(注4-1終わり)※
かくして,不変振幅:
M ~ (up+un){CSue~(pe)(1+αSγ5)vν(pν)}
+CV{ue~(pe)(1+αVγ5)γ0vν(pν)}]
+(up+σun)[2CT{ue~(pe)(1+αTγ5)Σvν(pν)}
+CA{ue~(pe)(1+αAγ5)γ5γvν(pν)}] は,
M ~ (up+un){CSue~(pe)(1+γ5)vν(pν)}
+CV{ue~(pe)(1+γ5)γ0vν(pν)}]
+(up+σun)[2CT{ue~(pe)(1+γ5)Σvν(pν)}
+CA{ue~(pe)(1+γ5)γ5γvν(pν)}]
とやや簡単になり,後は,係数CS,CV,CT,CAを決定する
作業が残っているのみとなりました。
今日は,ほとんど式の説明を与える私自身の注釈だけで,
テキストなどでは,通常,きれいな見かけの計算結果だけを表示
して書かないような,舞台裏の内容である,だらだらと長くて
泥臭い計算の羅列でしたが, 一応,これで終わります。
(参考文献):J.D.Bjorken & S.D.Drell
"Relativistic QantumMechanics" (McGrawHill)
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