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2015年11月22日 (日)

弱い相互作用の旧理論(5)(Fermi理論)

弱い相互作用の旧理論の続きです。

 

前回の最後ではβ崩壊において,核子の反跳が小さいときの

不変振幅の近似式:

M  ()[{~()(1+αγ5)ν(ν)} 

 +C{~()(1+αγ5)γ0ν(ν)}] 

 +(σ)[2{~()(1+αγ5)Σν(ν)} 

 +C{~()(1+αγ5)γ5γν(ν)}] 

においてγ5係数 αiの値が全て+1に決まり,
 

 ()[{~()(1γ5)ν(ν)}  

  +C{~()(1+γ5) γ0ν(ν)}] 

  +(σ)[2{~()(1+γ5)Σν(ν)} 

  +C{~()(1+γ5)γ5γν(ν)}] 
 

のように簡単になるとわかったところからの続きです。
 

今日は,残る係数C,,,を決定する作業に向かいます。

 再び,β崩壊の行列要素S
fi(e-)
を書き下すところから始めます。
 

 Sfi(-)(2π)-6{/(2ν~)}1/2 

 ×(2π)δ(+pν~+P-P)M  です。
 

崩壊の微分断面積を与える遷移率は,これから得られる

|fi(-)|2/(VT)比例しますから,の絶対値を平方して

終状態粒子のスピンについて総和を取り,始状態粒子非偏極

のときはそのスピンについて平均する必要があります。
 

このとき,非偏極の核子p,nに対してはFermi遷移(,)と,

Gamow-Teller遷移(,)の間に干渉項はないことがわかります。
 

※(5-1)Fermi遷移とGamow-Teller遷移の間の干渉項が無い

ことを証明します。
 

まず,上に与えたの式のFermi項の()の係数を, 

 F=[{~()(1+γ5)ν(ν)}

 +C{~()(1+γ5)γ0ν(ν)}],
 

 Gamow-Teller項の(σ)の係数を,

 G[2{~()(1+γ5)Σν(ν)} 

 +C{~()(1+γ55γν(ν)}]


と置けば,
()F+(σ)G です。

そこで,
|
)|2 ∝ ΣSp,Sn|(u)F+(uσ)|2
 

=ΣSp,Sn[|(u)| 2||2|(uσ)|2||2 

+()(σ)(σ)()] 

と書けます。

この右辺の第3,4項がFとGの干渉項です。

β崩壊する前の始状態の中性子nが非偏極で,これのスピン平均を取るだけでなく,終状態のp,e,ν~のスピンについても総和すれば,

|)|2 ∝ ΣSp,SnΣse,sν~|(u)F+(uσ)|2 

ですが,FとGの干渉項は,

ΣSp,Sn(u)(σse,sν

+ΣSp,Sn(σ)()Σse,sν* 

です。

この干渉項第3項,および,第4項のFの係数:

()(σ),および,の係数:

(σ)()の双方において,

()≠0となるのは,核子の反跳が無視できる非相対論的

極限の核子の2成分スピノルでは,=Sのときのみです。


しかし,実は後で気づいたのですが,このこととは
関係なく,

中性子nの静止系でのスピン部分は,spin-upのu[1.0]

でも,spin-downのu[0,1]でもPauliのスピン行列の表示

では,σ1=σ2=0 です。
 

 また, spin-up[1.0],なら,σ3=+u,より,

(σ3)()であり,spin-downの[0,1]

なら3=-u,より,(σ3)=-()

です。
 

これらは干渉項のF,の係数がゼロであることを

意味するので,結局,Fermi項とGamow-Teller項の干渉は無

いことが示されました。

(5-1終わり)※
 

さらに,同じ

()[{~()(1+γ5)ν(ν)} 

+C{~()(1+γ5) γ0ν(ν)}] 

(σ)[2{~()(1+γ5)Σν(ν)} 

 +C{~()(1+γ5)γ5γν(ν)}] において,
 

SとV,あるいはAとTの間にも干渉項はありません。

 何故なら,
これらは異なる反ニュートリノの状態へと

導くからです。

 すなわち,因子(1+γ5)を順序を交換させて最も
右の

反ニュートリノ波動関数(負エネルギーニュートリノ

波動関数):ν(ν)のすぐ左まで移動させたとき,
 

SとTでは(1+γ5)のままなので,この遷移は左巻きの

反ニュートリノ(=右巻きの負エネルギーニュートリノ) 

νLH(ν)|(1+γ5)/2}νLH(ν) へと導きます。
 

 これに対して,VとAでは(1+γ5)から(1-γ5)に変わる

ため,遷移は右巻きの反ニュートリノへと導くわけです。
 

 こうして,SとVの間にもAとTの間にも干渉が無いことは,

先に弱い相互作用の旧理論(3)」で実験からもそれが無いこと

が確認されているFielz項というものが無いことを意味します。
 

(52)「弱い相互作用の旧理論(3)」では,β崩壊の

S行列要素が,次のように与えられると仮定しました。,

 Sfi(-)=-iΣαβγδ=1 4∫d41..44
 

Ψα()(1)Ψβ() (2)Ψγ()(3)Ψα(ν) (4)

×Fαβγδ(1,..,.4)
 

  そして,始状態の中性子が非偏極の場合の遷移率,または

 微分断面積に比例する量:|fi|2/(VT),

 始状態のn,終状態のp,,ν~ のスピンについて総和を取る

 とき,波動関数部分は次のようにトレース因子に帰着します。

 すなわち,|fi|2/(VT) (2π)4δ4(+pν~+P-P) 

(4ν)-1 Σ,r(+m)Γν~ΓB  

 なる式を得ます。
 

 この式のトレース因子:Σ,r(+m)Γν~Γ

 計算すると,

 Σ,r(+m)Γν~Γ

 =AEν~+BEν~+CEν~β^ν~ 

 なる一般形を持つことがわかります。

 ただし,,,Cは定数です。

 (※何故なら,Σ,r(+me)Γν~Γ 

=Σ,rΓν~Γ+mΣ,rΓν~Γ

において, 


 
右辺第2項:meΣ,rΓν~Γは明らかに

ν~に比例しますが,ν~0=Eν~,より特にνに平行な方向

をz軸(3軸)に採用すればν~=Eν~(γ-γ3)ですから,

一般にこれはEν~に比例します。
 

一方,右辺の第1項:Σ,rΓν~Γはpν~

スカラー積やμν~νμνのような係数がつく形なので.

ν~に比例する項 ν~に比例する項に分割される

からです。 ※)
 

 そこで,始状態:|i>から終状態:|f>への遷移率として, 

 |fi|2/(VT) (/+B+Cβ^ν~)

 ×(2π)4δ4(+pν~+P-P) 

 なる表式を得ました。
 

これに基づき, 終状態:|f>=|,ν,>に対する

位相空間因子:, ν~,を掛けて陽子と

ニュートリノの運動量ν~にわたって積分すると,

中性子nのβ崩壊における電子eのスペクトル分布 

 を見出すことができます。
 

特に,ニュートリノの運動量にわたる積分では,

ν~|ν~|2|ν~|dΩν~=Eν~2dEν~dΩν

であり,^ν~を含む項は奇関数なので積分の結果ゼロです。
 

 それ故,電子eのスペクトル分布は, 

dω∝ p(-M-E)2(/e~+B)dEe なる

形になります。
 

実験によると,自由中性子だけでなく,許される遷移として

知られている広いクラスの原子核のβ崩壊についても電子

スペクトルはこの依存性を持ち,さらにA=0となることが

実験において観測されました。
 

この(/~+B)依存性のうち消えるA/項は,Fierz

の干渉項と呼ばれるものの1つです。

(52終わり)
 

 と「弱い相互作用の旧理論(3)」で書きました。


 この内容から,Fielz項:A/Eは,トレース因子のうちの,

 meΣ,rΓν~Γなる項によるAEν~に起因している

 ことがわかります。
 

rΓν~Γ.Γ,ν,Γに合計で奇数個のγ行列因子

が含まれていればゼロですから,

(,)の組ではΓがS(スカラー)でΓがV(ベクトル),

またはその逆, 

(,)の組では,Γ(1)がA(軸性ベクトル)でΓ

(テンソル),またはこの逆 

のケース以外はこのトレースにゼロでない寄与をしません。
 

 したがって,SとVの間にも,AとTの間にも干渉が無いことは

 A=0を意味するわけです。


 
もしもニュートリノが100%より小さい偏極で放出される

 なら,Fielz項が無いことはSかVのどちらか一方,および,

 AとTのどちらか一方の項のみが含まれる相互作用の形が

 要求されます。
 

つまり,完全に左回りと決まらないときは(1+γ5)(1-γ5)0

が効かないので,SとV,AとTの項は消えるとは限らないので

A=0となるためには,SかV,AかTのそれぞれ,どちらかの

寄与がゼロと考える他にはありません。


※(注5-3):すぐ前に述べたように,

A/EのFielz項はrΓν~Γに起因し.(,)の組では

ΓがSでΓがV,またはその逆,(,)の組では,ΓがAで

ΓがT,またはこの逆のみがこれに寄与します。

ただし,ΓがSでΓがVとはΓ(1γ5)1,Γ(1γ5)γλ

を意味するので.Γν~Γ2(1γ5)γλν~,となります。
 

また,ΓがAでΓがTとはΓ(1γ5)γ5γλ,Γ(1γ5)σρτ

を意味するのでΓν~Γ2(1γ5)γλσρτν~となります。
 

 ところが,ニュートリノの波動関数~が完全に左巻きなら,それ

に由来するνは左巻き反ニュートリノなので.これは

ν(1γ5)ν/2を満たします。
 

 この場合,2(1γ5)γλν~2(1γ5)γλ(1γ5)ν~/2 

 =(1γ5)(1γ5)γλν~0 で,かつ,

 2(1γ5)γλσρτν~2(1γ5)γλσρτ(1γ5)ν~/2

 (1γ5)(1γ5) γλσρτν~,0 となり,

そもそも||2に寄与するFielz項は存在しません。

 

それ故,ニュートリノが完全に左巻きではないのにA=0になる

のは,(,)の組ではS,Vのどちらかがゼロ,(,)の組では

,Tのどちらかがゼロである場合しかありません。

 

(5-3終わり)

 

しかし,今のところ, 

M = ()[{~()(1+γ5)ν(ν)} 

 +C{~()(1+γ5) γ0ν(ν)}] 

 +(σ)[2{~()(1+γ5)Σν(ν)} 

 +C{~()(1+γ5)γ5γν(ν)}]
 

にはS,,,Tの4種類の項全てが現われるとしていて,

これらのどれを否定するか?の根拠はありません。
 

そこで, |fi|2/(VT) (/+B+Cβ^ν~) 

(2π)4δ4(+pν~+P-P)における係数Cを測定する

実験を行ない,それによってC,,,のより多くの情報

得ること(=電子-反ニュートリノの角創刊関係を見ること)

考える必要があります。
 

例えば,SとVの寄与のみを含む純粋Fermi遷移を考察します。

電子と反ニュートリノのスピン変数にわたって和を取ると電子

に相対的に出現する反ニュートリノの角分布として次式を得ます。
 

Fermi(θ) Tr[(+m)(1+γ5)(+γ0)ν~

(+γ0)(1-γ5)]

=8Eν~[|C|2(1-βcosθ)+|C|2(1+βcosθ)]

ただし,θは電子と反ニュートリノのなす角です。
 

この式の導出の詳細は次回にまわして,今日はここで終わります。
 

(参考文献):J.D.Bjorken & S.D.Drell”Relativistic QantumMechanics”(McGrawHill)

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