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2015年11月27日 (金)

弱い相互作用の旧理論(6)(Fermi理論)

弱い相互作用の旧理論の続きです。

前回記事の最後の部分では次のように述べました。(※)

今のところ,
 

M = ()[{~()(1+γ5)ν(ν) 

+C{~()(1+γ5) γ0ν(ν)}] 

(σ)[2{~()(1+γ5)Σν(ν)} 

+C{~()(1+γ5)γ5γν(ν)}] 

には,S,,,Tの4種類の項全てが現われるとしていて, 

これらのどれを否定するか?の根拠はありません。

そこで,
崩壊率を示す量の一般形:

|fi|2/(VT) (/+B+Cβ^ν~)

×(2π)4δ4(+pν~+P-P)

における係数Cを測定する実験を行ない,それによってC,,

,のより多くの情報を得ること、(電子-反ニュートリノの

角相関関係を見ること)など考える必要があります。
 

例えば,SとVの寄与のみを含む純粋Fermi遷移を考察します。
 

電子と反ニュートリノのスピン変数にわたって和を取ると電子

に相対的に出現する反ニュートリノの角分布として次式を得ます。
 

Fermi(θ) Tr[(+m)(1+γ5)

(+γ0)ν~+γ0)(1-γ5)] 

=8Eν~||2(1-β(cosθ)+||2(1+β(cosθ)


ただし,θは電子と反ニュートリノのなす角です。


と書きました。
(※)

今日は,この式が得られる理由を述べる私の注から始めます。

(6-1):SとVの寄与のみを含み,AとTが無い場合

のβ崩壊の不変振幅 ,次のように書けます。
 

M ()[{~()(1+γ5)ν(ν)}

+CV{~()(1+γ5) γ0ν(ν)}] 

()[~()(1+γ5)(+Cγ0)ν(ν)]

です。

 そして,
電子に相対的に出現する反ニュートリノの角分布:

Fermi(θ)は,上式の絶対値を平方して,電子と反ニュートリノ

のスピンについて総和したものに比例します。


 ところが,

|~()(1+γ5)(+Cγ0)ν(ν)|2 

[~()(1+γ5)(+Cγ0)ν(ν)] 

×[ν(ν)(+Cγ0)(1+γ5) γ0()] 


=[u~()(1+γ5)(+Cγ0)ν(ν)]

×[ν~~(ν)(+Cγ0)(1-γ5)()]


です。

 

故に,Σse,sν~ |~()(1+γ5)(+Cγ0)ν(ν)|2 

=Tr[(+m) (1+γ5)(+Cγ0)ν~

(+Cγ0)(1-γ5)] ですが,

 既に見たようにS→VやV→Sの遷移は寄与しないことに対応

してやCの項は実際に消えてゼロになることが

わかります。

一方,||2=Cの係数は, 

r[(+m)(1+γ5)ν~(1-γ5)]

2r[(+m)(1+γ5)ν~] 

2r(ν~)8ν~8(ν=ν)


8ν~(1-βcosθ) 
です。
 

また,||2=Cの係数は, 

r[(+m)(1+γ5)γ0ν~γ0 (1-γ5)]

2r[(+m)(1+γ5)γ0νγ0] 

2[r(γ0νγ0~)-Tr(γ5γ0νγ0) 

8(0ν~0+p0ν~0-pν)

8iεαβγδα0βν~γ0δ 

8[2ν~(ν~)8(ν=ν)
8ν~(1+βcosθ) 

です。
 

以上から, 

Fermi(θ) ∝ Σse,sν~ 

|~()(1+γ5)(+Cγ0)ν(ν)|2 

8ν~[||2(1-βcosθ)||2(1+βcosθ)] 

を得ました。   (6-1終わり)
 

 さて,if=-Sfiなので,逆β崩壊でも同じ角分布が見出される

はずです。
 

この分布を決める実験は,35におけるほとんど純粋なFermi遷移

では逆βでの陽電子(Positron)と反跳核の方向を測ることで実行

され,近似的に(1+βcosθ)に比例する結果が得られました。
 

つまり,Fermi遷移では,実際に起きるのはV(ベクトル)のみである
ことが示され
たわけです。

一方,AとTのみの純粋なGamow-Teller遷移について同様な角分布

を計算すると,これは,

GT(θ) ∝ Eν~×[|C|2{1-(1/3)βcosθ}

+4|C|2{1+(1/3)βcosθ}] となります、
 

(6-2):純粋なGamow-Teller遷移:つまり,とTの寄与のみ

を含み,SとVが無いβ崩壊の不変振幅,


4×4行列のベクトルΣ=(Σ1,Σ2,Σ2)の定義:

Σ=(1/2)Σijεkijσij=(i/4)Σijεkij]

を用いると,

M (σ)[2{~()(1+γ5)Σν(ν)} 

+C{~()(1+γ5)γ5γν(ν)}] 

=Σk=13(σk) 

×[~()(1+γ5){2(i/4)Σijεkij[γi,γj]

+Cγk}ν(ν)] と書けます。
 

電子に相対的に出現する反ニュートリノの角分布:

GT(θ)は上式の絶対値を平方して,電子と反ニュートリノ

のスピンについて総和したものに比例します。

すなわち,GT(θ) ∝(1/2)ΣSp,SnΣse,sν~||2 です 


ここで,GT(1/2)ΣSp,Sn(σ)と置くと,

 

GT(θ)∝(1/2)ΣSp,SnΣk=13 [(MGTGT(GT*k) 

×Σsesν~|~()(1+γ5){2(i/4)Σijεkij[γi,γj]

+Cγk}ν(ν)|2 


=Σsesν~Σk,l (MGT kGT*l)
 

×([~()(1+γ5){2(i/4)Σijεkij[γi,γj]

+γk}ν(ν)] 

×[ν~(ν~)γ0{2(i/4)Σmnεlmn[γm,γn]

+γγk}(1-γ5)()]} です。
 

そして,A → TやT → Aの遷移は寄与しないことに対応して

やC項はゼロになることがわかります。
 

一方,||2=Cの係数は,因子(GT kGTl)を

除けば,次のトレース項になります。


すなわち,{1/2m)}Tr
 [(+m) (1+γ5) γkν~γl(1-γ5)]

(1/)r[(+m) (1+γ5) γkν~γl] です。

これは,

(1/){r(γkν~γl)-Tr(γ5γkν~γl)} 

(4/)(kν~l+plνk-gklν~

-iεαβγδαkβν~γlδ) 

(4/)(kν~l+plνk+δklν~

-iεαkγlαν~γ) 

となります。
 

よって,||2=Cの係数は,

[(GT)(GTν~)+|GT|2(ν~)

-iεαkγlανγGTGT*i] 
に比例することがわかります。

 

そして,

GTkGTl(1/4){ΣSp,Sn(σk)} 

×|ΣSp,Sn(σk)} 

(1/2){ΣSp,Sn(~γ5γk)(~γ5γl)} {1/(82)} [r{(+M) γ5γk(+M)γ5γl}] 

{1/(82)}{r(γk~γl)-M2r(γkγl)} 

{4/(82)}{kl+Plk-gkl(+M2))

です。
 

 これを中性子nの静止系:~(,0)で計算すると. 

kl+Plk­0, =M なので、 

GT kGTl{1/(22)}(+M2)δkl

(1/2)}(1+E/)δklす。
 

故に, GT kGTl,GT kGTl(1/3)GT|2δkl 

となって,これはδklに比例する形をしています。
 

このδkl因子を考慮すれば,εαkγl0 より,

||2の係数は,Σsesν~Σk,l=13 (MGT kGTl) 

×{1/(2)}r[(+m)(1+γ5)γkν~γl(1-γ5)]} 


=Σsesν~Σk,l=13 GT kGTl
 

×(4/)(kν~l+plνk+δklν~

-iεαkγlαν~γ) 

(1/3) sesν~Σk,l=13|GT|2δkl 

×(4/)(kν~l+plνk+δklν~-iεαkγlαν~γ) 

(1/3)Σsesν~|GT|2

×(4/){2ν~3(ν~ν~)} 

(4/)Σsesν~|GT|2ν~{1(1/3)βcosθ} 


なる結果を得ます。

 

また,|C|2の係数は,GT kGTlを除けば, 

次のトレース項になります。
 

(1/4){1/(2m)}Σijmnr{(+m)(1+γ5)εkijεlmn

[γi,γj]ν~[γm,γn](1-γ5)}
 

GT kGTl,GT kGTl(1/3)|GT|2δklを掛けて

総和:Σklを取ると,
 

これは,{1/(12)}Σijimn(δiδin-δinδjm) 

×Tr[(+m) (1+γ5)[γi,γj]ν~[γm,γn](1-γ5)]
 

{1/(6)}Σij r[(+m) (1+γ5)

[γi,γj]ν~[γi,γj](1-γ5)]
 

です。
 

Σijr[(+m) (1+γ5)[γi,γj]ν~[γi,γj](1-γ5)] 

=Σijr([γi,γj]ν~[γi,γj])

-Σijr(γ5[γi,γj]ν~[γi,γj]) 

ですが,辺第2項のΣijr(γ5[γi,γj]ν~[γi,γj])

ゼロとなることがすぐにわかります。
 

一方, 第1項はΣijr([γi,γj]ν~[γi,γj]) 

2Σij [r(γiγjν~γiγj) -Tr(γjγiν~γjγ)] 

96ν~|1(1/3)β~cosθ} です。(詳細計算は省略)


したがって,|C|2の係数は,
これに

{1/(6)}Σise,sν~|GT|2を掛けて得られるので,

(16/)Σise,sν~|GT|2ν~|1(1/3)βcosθ}

です。

よって,,Tの寄与は,(4/)Σsesν~|GT|2ν~

,×[|C|2|1(1/3)βcosθ}+4,|C|2|1(1/3)βcosθ}]

です。  (注6-2終わり)※

GT(θ) ∝ Eν~,×[|C|2|1(1/3)βcosθ}

+4,|C|2|1(1/3)βGTcosθ}]なる分布式に基づいて

23のβ崩壊のような純粋Gamow-Teller遷移での測定や,

Fermi遷移とGamow-Teller遷移の混合において観測された
他のデータ
は,|C/C|<<1を示しています。

この結果からC/C=0 と考えると,結局,

 

(){~()γ0(1-γ5)ν(ν)}]

(σ){~()γ(1-γ5)ν(ν)} 


が得られます。

 

かくして,β崩壊に関わる弱い相互作用は,VとAのみで構成

されると結論されます。

そして,β崩壊からは,右巻きの反ニュートリノ

(左巻きニュートリノ)のみが放出されることが示されています。
 

後は,単にCとCの大きさと相対的位相のみが決定さるべき

ものとして残っているのみです。
 

大きさは中性子nの崩壊率とO14の崩壊における純粋なFermi遷移

の測定から見出されます。


 位相はV-Aの混合に敏感な偏極中性子のβ崩壊中の中性子

スピン軸に相対的な電子の角分布の測定から決まります。

 

これらによる最終結果は次の通りです。

2(1.015±0.03)×10-5×(1/2)=G 

(1.21±0.03)=αCV 

です。

このGの定義と数値の結果を

(){~()γ0(1-γ5)ν(ν)}]

(σ){~()γ(1-γ5)ν~(ν)} 

に代入し,相対論的表記を復活させると,β崩壊の不変振幅

として次式を得ます。


 すなわち,
 

(/2)[uμ(1-αγ5)u][~γμ(1-γ5)ν~]


 です。


 さて,今や,この不変振幅:を弱い相互作用の摂動の1次の

効果と見て,これ自身を相互作用摂動項と見なしてより高次の

Feynmanグラフの計算を試みようと考えるのは当然です。
 

 しかしながら,この相互作用頂点を単なるδ-関数に置き換える

局所相互作用の近似では,こうした高次のグラフの計算は明確には

できません。
 

何故なら,

既に,電磁相互作用の輻射補正の項で見たように閉ループグラフ

の計算などでは,無限大に発散する量が出現し,それを繰り込み

定数というものに分離して切り離すという手法を用いました。

 しかし,の弱い相互作用
の計算では,そうした操作は不可能で

あるような無限大量が生み出されるからです。
 

すなわち,今の弱い相互作用での局所相互作用近似は,高運動量

での収束を生み出すべき,核子やレプトン(軽粒子)の間で交換

されるBose粒子の運動量表示の伝播関数:F ∝ [1/(q2-μ2)]

(q → ∞ではF → 0)を単なる定数(=座標表示ではδ関数)

置換えることに同等ですから,例えば閉ループでの全ての運動

にわたる積分では正しい結果に導くことはないと予想される

わけです。
 

今までの理論展開では.弱い相互作用理論は確かに非常に微小な

結合定数で扱っていますが,こうした高次での発散を処理する

には有効ではありません。

(↑※これは今の言葉で言うなら,繰り込み不可能という意味です。

繰り込み可能な理論とするには,,4重頂点はF=定数ではなく,

2点間に質量μの弱ボゾンを交換するF ∝ [1/(2-μ2)])を割り

当てる必要があります。※)
 

例えばν~+p→n+eのような散乱過程における断面積

は,エネルギーの2乗と共に増加します。
 

そして,2c.m 2 {c.m/(300)}4/c.m2)ですから,重心系

のエネルギーEc.m が,c.m  300300BeV に達するまで

,弱い相互作用は強い相互作用と同程度になり非局所性や高次

の作用の効果が非常に重要になると予測されます。
 

今日はここで終わります。

(参考文献):J.D.Bjorken & S.D.Drell”Relativistic QantumMechanics”(McGrawHill)

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