弱い相互作用の旧理論(7)(Fermi理論)
弱い相互作用の旧理論の続きです。
前回記事の最後では,
(※)例えばν~+p → n+e+のような散乱過程における
断面積は,エネルギーの2乗と共に増加します。
そして,G2Ec.m 2 ~ {Ec.m/(300Mp)}4/Ec.m2)ですから,
重心系のエネルギーEc.m がEc.m ~ 300Mp ~ 300BeV
に達するまでに,弱い相互作用は強い相互作用と同程度に
なり非局所性や高次の作用の効果が非常に重要になると
予測されます。(※)
と書きました。
今日は具体的にν~+p → n+e+の散乱断面積を求めて上記
の言明が成立することを確かめる私の注釈のみをアップします。
※(注7-1):mp=mn=MNとすると,陽子pの反ニュートリノ
による散乱(逆β崩壊):ν~+p → n+e+のS行列要素は,
Sfi=(-i)(2π)-6{MN2me/(2Eν~EpEnEe)}1/2
×(2π)4δ4(Pn+pe-Pp-pν~)M と書けます。
そして,前回確立されたように不変振幅は,
M =(G/√2)[un~(Pn)γ μ(1-αγ5)up(Pp)]
×[ve~(pe)γ μ (1-γ5)vν(pν=)}
です。
散乱の微分断面積dσは,V,Tをそれぞれ散乱相互作用
の体積,時間とすると,
i(始状態)からf(終状態)への遷移率に,終状態のnの密度:
(2π)-3Vd3Pn,および,eの密度:(2π)-3Vd3P,さらに標的粒子p
の密度:(1/V)を掛けた遷移率密度:
{|Sfi|2/(VT)(2π)-6V3d3Pnd3peを入射流束:
(|vν~-vp|/V)で割ったもので与えられます。
ただし,散乱現象では。V=(2π)3δ3(0),T=(2π)δ(0)で,
VT=(2π)4δ4(0)と同定されるので,
|Sfi|2/(VT)=(2π)-6{MN2me/(2Eν~EpEnEe)
×(2π)4δ4(Pn+pe-Pp-pν~)|M |2
であり, また,δ関数式規格化ではV=(2π)3です。
それ故,微分断面積は,
dσ={(2π)3/(|vν~-vp|)(2π)-12
{MN2me/(2Eν~EpEnEe)}(2π)-6d3Pnd3pe
×(2π)4δ4(Pn+pe-Pp-pν~)|M |2
です。
ところが,慣性中心系(C.M系;CM重心系)では
pν~+Pp=Pn+pe=0 ,or Pp=-pν~,Pn=-pe
です。
故に,|vν~|=c=1=Eν~であり,vν~=pν~/Eν~,
vp=Pp/Ep より,
|vν~-vp|=|(pν~/Eν~)-(Pp/Ep)|
=|pν~|{(1/Eν~)+(1/Ep)|=(Eν~+Ep)/(Eν~Ep)
=(Eν~+Ep)/Ep です。
ここでまず, d3Pnを実行すると
δ4(Pn+pe-Pp-pν~)からδ3(Pn+pe-Pp-pν~)
が消えて,δ(En+Ee-Ep-Eν~)だけが残ります。
さらに,d3pe=Ee|pe|dEedΩeです。
よって,
dσ=(2π)-2{MN2me/(2Eν~EpEnEe) Ep/(Eν~+Ep)
×δ(En+Ee-Ep-Eν~)|M |2|pe|EedEedΩe
です。
右辺の|M |2については,全ての粒子が各々特定に偏極している
と仮定した場合の不変振幅の絶対値の2乗である
|M |2=(G2/2)|un~(Pn)γμ(1-αγ5)up(Pp)|2
×|ve~(pe)γμ(1-γ5)vν(pν~)|2
の代わりに,非偏極と考えて,不変振幅の絶対値の2乗
を核子p.nのスピンと,反ニュートリノ,電子のスピン
で総和を取って,中性子nのスピンで平均したもので置
き換えます。すなわち,次式で置き換えます。
つまり,∑SpSn∑ee,sν~|M |2
=(G2/2)(1/2)∑SpSn|un~(Pn)γμ(1-αγ5)up(Pp)|2
×∑ee,sν~|ve~(pe)γμ(1-γ5)vν(pν~)|2
=(G2/4){1/(4MN2)}
∑μνTr[(Pn+MN)γμ(1-αγ5)(Pp+MN)γν(1-αγ5)]
×{1/(2me)}Tr[pνγμ(1-γ5)(pp+me)γν(1-γ5)]
を不変振幅による確率密度の因子とするわけです。
そして,核子部分のトレースは,
Tr[(Pn+MN)γμ(1-αγ5)(Pp+MN)γν(1-αγ5)]
=Tr[(Pn+MN)γμ(1+α2-2αγ5)Ppγν
+MN(1ーα2)Tr[(Pn+MN)γμγν]
=(1+α2)Tr(PnγμPpγν)-2αTr(γ5PnγμPpγν)
+MN2(1+-α2)Tr(γμγν)
=4(1+α2)(PnμPpν+PnνPpμ-gμνPnPp)
+4MN2((1ーα2)gμν
+8iα∑αβγδ εαβγδPnαgμβPpγgνδ) です。
一方,レプトン部分のトレースは,
Tr[γ ν(1-γ5)pνγμ(1-γ5)(pe+me)]
=2Tr[γν(1-γ5)pν~γ
μ(pe+me)]
=2Tr(γνpν~γ μpe)+2Tr(γ5γνpν~γ μpe)
=8(pν~νpeμ+pν~μpeν+-gνμpν~pe)
+8i∑ρστηερστηpν~ρgνσpeτgμη) です。
核子のトレースとレプトンのトレースの積を取り,
総和∑μνを取ると,μ,νについて対称な項と反対称な項
の積は消えます。
反対称項同同士の積は,
=-64α∑μν∑αγρτ [εαβμγνερντμPnαPpγpν~ρpeτ]
ですが,
∑μνεαμγδερντμ = 2(δαρδγτ-δατδγρ)
なので,これは,
-128α∑αγρτ(δαρδγτ-δατδγρ)PnαPpγpν~ρpeτ
=-128α[(Pnpν~)(Pppe)-(Pnpe)(Pppν~)]
となります。
また,対称項同同士の積は,
32(1+α2)(Pnpν~)(Pppe)+(Pnpe)(Pppν~)
-32MN2(1-α2)(
pν~pe) です。
それ故,
∑SpSn∑ee,sν~|M |2={G2/(meMN2)}
×[(1+α)2(Pnpe)(Pppν~)+(1ーα)2(Pnpν~)(Pppe)
-MN2((1ーα2)(pν~pe)] です。
そして,(Pnpe)(Pppν~)
=(EnEe+pe2)(Eν~Ep+Eν~2) ,かつ,
(Pnpν~)(Pppe)
=(EnEν^+pepν~)(EpEe+pν~pe),
そして, pν~pe=Eν~Ee-pν~peです。
pe2=Ee2βe2,pepν~=EeEν^βecosθC.M
故に,
(1+α)2(Pnpe)(Pppν~)+(1-α)2(Pnpν~)(Pppe)
-MN2((1ーα2)(pν~pe)]
=(1+α)2(EnEe+Ee2βe22)(Eν~Ep+Eν~2)
+(1-α)2(EnEν^+EeEν^βecosθC.M)
(EpEe+EeEν^βecosθC.M)
-MN2((1ーα2)(Eν~Ee-EeEν^βecosθC.M)
=(Eν~EpEnEe)[(1+α)2(1+Eν~/Ep){1+(Ee/En)βe2}
+(1-α)2{1+(Ep/En)βecosθC.M}{1+(Eν~/Ep)βecosθC.M}
-(1-α2){MN2/(EnEp)(1-βecosθC.M)}
dΩeCM.の積分を実行するとcosθC.M}の1次の項は消えます。
また,∫-11cos2θd(cosθ)=2/3より
∫-cos2θdΩ=1/3です。
故に,(1/2)∑SpSn∑ee,sν~|M |2dΩeCM.
={4πG2/(meMN2))(Eν~EpEnEe)
×[(1+α)2(1+Eν~/Ep){1+(Ee/En)βe2}
+(1-α)2{1+(En~/3En)βe2}-(1-α2)MN2/(EnEp)}
です。
そこで,
dσ=(2π)-2{MN2me/(2Eν~EpEnEe)[Ep/(Eν~+Ep)]
×δ(En+Ee-Ep-Eν~)|M |2|pe|EedEedΩe
の|M |2dΩeの因子を,
すぐ上のスピン和と平均を立体角:dΩeC.Mで積分済みの式:
∫dΩeC.M(1/2)∑SpSn∑se,sν~|M |2dΩeC.M
で置き換えて,最後に残るdEe積分を実行すれば,
総断面積σとして,
σ={G2/(2π)}βeEp2{(1+α)2[{1+(Ee/En)βe2}
+(1-α)2{[Ep/(Eν~+Ep){1+(En~/3En)βe2}
-{(1-α2)MN2/(En(Eν~+Ep))} |Ee=Ep+Eν~-En
が得られます。
慣性中心系(C.M系)のEp,Eν~,および, pp,pν~は初期条件
として与えられます。
そして,終状態では,pe+pn=0 により,pn=-peですから,
エネルギーの保存則:
(pe2+MN2)1/2+(pe2+me2)1/2=Eν~+Epによって
|pe|が決まります。
さらに,この|pe|からEe,Ep および,βe=|βe|=|pe|/Ee
も求まります。
高エネルギー(Eν → 大)ではEp,Ee,Ee,Eν~は
MNやmeよりはるかに大きく,これら全てが,
Ee ~ |pe|,βe=|βe|=1に等しく同じオーダー
になります。
したがって,σ∝G2Ee2が得られました。(注7-1終わり)※
(注)だけという内容で短かいですが,今日はここで終わります。
(参考文献):J.D.Bjorken & S.D.Drell”Relativistic QantumMechanics”(McGrawHill)
| 固定リンク
「115. 素粒子論」カテゴリの記事
- くりこみ理論(第2部)(2)(2020.12.30)
- 物理学の哲学(15)(終)(アノマリー)(2020.11.03)
- 物理学の哲学(14)(アノマリー)(2020.10.28)
- 物理学の哲学(13)(アノマリー)(2020.10.10)
- 物理学の哲学(12)(アノマリー)(2020.10.08)
「111. 量子論」カテゴリの記事
- クライン・ゴルドン方程式(8)(2016.09.01)
- クライン・ゴルドン方程式(7)(2016.08.23)
- Dirac方程式の非相対論極限近似(2)(2016.08.14)
- Dirac方程式の非相対論極限近似(1)(2016.08.10)
- クライン・ゴルドン方程式(6)(2016.07.27)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント