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2016年1月19日 (火)

Dirac方程式の導出(3)

Dirac方程式の導出の続きです。


§1.4 非相対論との対応(Nonrelativisticcorrespondence)

  Dirac方程式のLorentz不変性を確立するという問題を論じる前に,

,方程式が物理的意味をなすことを見ることの方が,

恐らくより切実な課題です。
 

 単一の自由電子を想定し,静止した1つの電子に対応する独立な解

の個数をカウントすることから始めます。


 4元運動量がpμ(/,1,2,3)(/.)の自由粒子の
 

波動関数をΨとすると,このΨは,ic(∂Ψ/∂t)=EΨ, 

ic(∂Ψ/∂xk)=-ic(∂Ψ/∂xk)=pkΨ (k=1,2,3)

を満たす,4元運動量の同時固有状態です。


 
静止した粒子の4元運動量は,μ(/,)(mc,0)ですから, 

この場合はΨはic(∂Ψ/∂t)=mc2Ψ, ic(∂Ψ/∂xk)0  

(k=1,2,3)を満たすはずです。
 

したがって,この場合はDirac方程式: 

ic(∂Ψ/∂t)=Σk=13(ichc)αk(∂Ψ/∂xk)+βmcΨは 

単にic(∂Ψ/∂t)=βmcΨ となります。
 

βの固有値は2個が+1で2個がー1ですが,先に与えたβを対角成分

1,4×4対角行列とする特別な標示では,βの+1に属する

固有ベクトルは係数を除いて.(1)[1,0,0,0]T,および,

(2)[0,1,0,0]T です。
 

また,固有値-1に属する固有ベクトルはw(3)[0,0,1,0]T, 

および,(4)[0,0,1,0]Tです。
 

そこで, ic(∂Ψ/∂t)=βmcΨの独立な解は, 

Ψ(1)exp(-imc/)(1),Ψ(2)exp(-imc/)(2), 

Ψ()exp(imc/c)(3),,Ψ(4)exp(imc/c)(4) 

のように具体的な形で表わすことができます。
 

最初の2つΨ(1),Ψ(2)ic(∂Ψ()/∂t)=mc2Ψ(),(k=1,2)

を満たし,正エネルギー+mc2に対応しますが,後の2つΨ(3),Ψ(4)

,ic(∂Ψ()/∂t)=-mc2Ψ(),(k=3,4)を満たし

負エネルギー(負質量)E=-mc2に対応します。
 

2次形式:=p22+m24をそのまま量子論の波動方程式に

定式化したために,異質な負エネルギー解という非常な困難を

導きましたが,これの解決.反粒子の形成理論において重要な役目

を果たすことに導きます。

 

しかし,こうしたことは第5章の空孔理論において到達することで,

今のところは受け入れ可能な正エネルギーの解のみに限定して考察

します。
 

特にそれらは非相対論的極限でPauliの2成分スピン理論に帰着

することを示します。
 

この目的のために4元ポテンシャル:μ(Φ/,)で記述される

電磁場との相互作用を導入します。
 

ただし,ここでの電磁場=電磁ポテンシャルAμ,電機場を

光子(電磁波)の集まりとして量子化(第2量子化=場の量子化)

した場=演算子ではなく,取りあえず.対象の電子とは独立に外部

から与えられた外場=c数の古典場とします。
 

この外電磁場と元の自由電子とが相互作用する合成系の記述は,

古典相対論力学での点電荷の電磁場との相互作用の記述において

実施され,謂わゆる極小相互作用(minimal coupling)として知られて

いるゲージ不変な置換:μ → pμ-eAμによって導入されます。
 

今の量子論のケース「では,μはpμ ic(/∂xμ)と量子化

されて4元運動量演算子となっているので,極小作用の電磁相互作用

ic(/∂xμ)  ic(/∂xμ)-eAμなるっ置換で実現

されます。
 

これは,演算子としては,

ic(/∂t) -eΦ=ic(/∂t)-eΦ 

=-ic -e=-ic∇-e 

を意味します。
 

それ故, 自由粒子のDirac方程式: 

ic(∂Ψ/∂t)=Σk=13(ichc)αk(∂Ψ/∂xk)+βmcΨ

において4次の係数行列の組:(α1,α2,α3),3次元ベクトルと

見なしてα表現した方程式:

Ψ=ic(∂Ψ/∂t)=-cα(ic∇Ψ)+βmcΨ 

に相互作用を導入すると,
 

ic(∂Ψ/∂t)[α(-e)+βmc+eΦ]Ψ 

となります。(e<0は電子の電荷です。)
 

この方程式が,Dirac粒子に対して極小相互作用を導入した式です。
 

Dirac粒子は点電荷であることが想定されていて周りに電磁場を

纏っています。
 

非相対論的量子論で扱った摂動論との比較を強調するなら, 

系のHamiltonian0'としては自由粒子単独の 

Hamiltonian:0=cαp+βmcに相互作用の

摂動Hamiltonian:=-ecαA+eΦが加わったという形

になります。
 

このとき,行列cα,電荷がeの点電荷の相互作用の古典表現

での速度を演算子に書き換えたものとして出現しています。
 

すなわち,古典論でのこうした系の摂動'に対応する」Hamilton

関数,classical=-evA+eΦで与えられるからです。
 

この演算子としての対応:op=cα, ここでの流速ベクトル

の表現:=cΨαkΨ,or=Ψ(α)Ψが,古典的には

=ρに対応することを見ても明らかです。
 

これはまた,Ehrenfestの方程式の相対論的拡張を行なえば直接

導かれます。
 

(1):空間座標に対するHeisenbergの運動方程式は, 

/dt=(i/c)[,](i/c) [0-ecαA+eΦ,] 

(i/c)α[,]=cαです。

 

何故ならdxj/dt

(i/c)α[,j](i/c)Σ=13αk[,j] 

であって,の交換関係が,[,j]=―iδkjであるから

です。


 
最左辺のd/dtは位置座標の時間微分なので速度に他なり

ません。

したがって,最右辺のcαは速度表示での演算子:opという意味 

を持ちます。(注1終わり)※
 

(2):ここで古典物理学での電磁場の中の点電荷の運動の力学を

復習します。
 

一般に,系のLagrangianLagrange関数を

(,,);d≡d/dtとすると,この系の

Lagrangianはその時間tによる積分:dtが作用 

与えるとき,粒子の実際の軌道がこのSを最小とするように

与えられます。
 

軌道の両端を固定したときSが最少になる条件は変分原理:

δS=δ∫dt=0から決まり、これは

(/dt)(/)-∂L/x=0なる微分方程式に帰着 

します。この方程式をEuler-Lagrange方程式といいます。
 

 質量がmの自由粒子(質点)Lagrangian:=0,古典的には

非相対論では0=m2/2ですが相対論を考慮した場合は

0=-mc2(1β2)1/2;β/cです。

解析力学では,系の共役運動量量:,=∂/で定義

します。
 

単一の粒子の他に影響されるものが何もない自由粒子1個のみ

の系の場合は,Lagrangian0とおいて.この場合の共役

運動量:p=0/,非相対論の場合の0=m2/2

では=∂0/=mであり,

相対論の場合の0=-mc2(1-β2)1/2なら

=∂0/=m(1-β2)-1/2ですが.いずれも普通の力学で

意味する質点の運動量に一致します。
 

通常の力だけに依存する位置エネルギーによって,-

で与えられる保存力の場(∇×0)の場合,運動エネルギーをT

とすると,=∂/,-=-∂/であり,

には無関係,には無関係なので,とおけば,

0より0でこの場合も=∂/=∂0/

となって,


Euler-Lagrange
方程式:
/dt)(/)-∂L/x=0

古典力学の質点の運動方程式:/dt=-に一致します。
 

一方,質量mの自由粒子が電荷eを持つ点電荷で,周りに電場,

磁場があるとき,電磁気学によるとスカラーポテンシャルをΦ,

ベクトルポテンシャルをとして,=-∇Φ-∂/∂t,

=∇×と表現できます。
 

そして,電荷がeの点電荷が電場,磁場から受ける力

=e(×)と書けます。
 

ところが,(×)i(×∇×)i=ΣjkΣlmεijkjεklmlm 

=Σjlmδ(δilδjm-δiδjl)jlm=vjij-vjji

=∂i(vA)()jですから, 

×=-∇Φ-∂/∂t+∇(vA)()A 

です。
 

故に, =e(×)

=e{-∇Φ-∂/∂t+∇(vA)()}

と書けます。
 

しかし,さらにd/dt=∂/∂t+()と変形できます

から,結局,=-e∇Φ+e∇(vA)-ed/dtと書けます。
 

仮に,=-∇Φ,0の静電気のみの場合なら,

F=E=-e∇Φですから,0,=eΦとすれば

通常のの形を採用して,

(/dt)(/)-∂/x=0 ,相対論,非相対論

共通の運動方程式:dp/dt=-∇Vに一致するのは

明らかで,このときは保存力場の方法が当てはまります。
 

しかし,今のも存在してゼロではなく,受ける電磁的力

=e(×)=-e∇Φ-ed/dt+e∇(vA)

与えられるときには,
 

(/dt){(vA)/)-∂(vA)/

/dt-∇(vA)ですから,
 

0-eΦだけでなく,0-eΦ+evA

すれば,共役運動量は=∂/=∂0/∂vですが,

これは自由な質点粒子の運動量:0/∂v(=mv(非相対論),

=m(1-β2)-1/2(相対論))とそれに付随する電磁場の運動量:

の和です。
 

Euler-Lagrange方程式:(/dt)(/)-∂L/x=0 

,/dt/x=,=∂0/+eより, 

(/dt)(0/∂v)+ed/dt=-e∇Φ+e∇(vA) 

となって,

運動方程式:(/dt)(0/∂v)=e(×)

を得ます。
 

これは非相対論ならd(mv)/dt=e(×),

相対論なら, 

{(1-β2)-1/2}/dt=e(×)ですから正しい

運動方程式に一致します。
 

このとき,Hamiltonian,=pで与えられるため. 

これを電磁場のない自由点電荷のそれ0=pv0と比較すれば, 

pv0+eΦ-evA=H0+eΦ-evAです。
 

しかし,上の手順では,,0の関数ですから,

表わす操作が抜けていて,結果は信頼性に欠けます。
 

具体的に書いてみると,非相対論では自由質点ではL0=m 2/2

ですが/mなので0pv0pv-m 2/22/(2),

電磁場のある場合は0-eΦ+evA,(-e)/

ですから,pvpv-m 2/2+eΦ-evA 

(-e)/m-(-e)2+eΦ-e(-e)/ 

(-e)2/(2)+eΦ です。
 

それ故,0'と書けば,p=m+e 

'=-/m+e22/(2)+eΦより,確かに 

'=-evAeΦが得られます。
 

2/(2)(-e)2/(2)+eΦ の比較から, 


2/(2)に
おいて-e,-eΦなる変換

を行なうと正しい関係式:-eΦ=(-e)2/(2)を得る

ことがわかります。


これが極小相互作用変換の意味でした。
 

一方,相対論では0=-mc2(1β2)1/2,=m(1β2)-1/2,

0pv0=mc2β2(1β2)-1/2+mc2(1β2)1/2 

=mc2(1β2)-/2より,0(22+m24)1/2です。
 

これは,相対論的関係式2=c22+m24から0=Eを意味

しています。
 

非相対論と同じ手順,(22+m24)1/2-e)

置き換えてeΦを加えればになることもわかります。

{2(-e)2+m24)}1/2+eΦ です。
 

故に,,{2(p-qA)2+m24)}1/2eΦ-(22+m24)1/2 

です。
 

なお,電磁場の単位は有理単位,ヘビサイド,SI,MKSAなどと 

色々あるので係数を明確には書きませんが,ここまでの論議は 

∫d3(22)=∫d3[(∇Φ+∂/∂t)2(∇×)2] 

に比例した電磁場自身のエネルギーなどの存在を度外視して

います。
 

部分的には,系の運動量.電荷の運動量mvの他に電磁場

運動量eが加わり,また,エネルギーとしてもeΦが加えられ

ていて点電荷の運動に直接影響する部分だけは取り入れられて

います。 (2終わり)
 

さて,長くなったのでひとまず終わります。

参考文献: J.D.Bjorken & S.D.DrellRelativistic QuantumMechanics"(MacGrawHill)

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