Dirac方程式の解
Dirac方程式の導出の続きとして,その自由粒子の平面波の解
の導出過程を2010年の過去記事「散乱の伝播関数の理論(8)」,
および,「散乱の伝播関数の理論(9)」から抜粋して再掲しよう
と思います。要するに得意の手抜き記事のiつですが。。
ただし,以下では素粒子理論などでは普通のc=hc=1の
自然単位 を用います。(hはPlank定数;hc=h/(2π))
※↓以下,過去記事の再掲載です。
自由粒子のDirac方程式:
(iγμ∂μ-m)Ψ(x)=0 の一般解Ψ(x)の導出過程を
記述します。
2行2列のPauliのスピン行列をσ=(σ1,σ2,σ3)とします。
また,同じく2×2行列ですが単位行列を12とします。
です。
Pauli行列の主要な性質としては,交換関係:
[σi,σj]=σiσj-σjσi=2iεijkσk,および,
反交換関係:{σi,σj}={σi,σj}+=σiσj+σjσi=2δij
が成立する。ということがあります。
ただし,[A,B]≡AB-BA,{A,B}≡{A,B}+≡AB+BA
です。
4行4列の行列:βを2つの2×2対角細胞が12,-12で
非対角細胞が02の対角細胞型行列とします。
また,4行4列の行列ベクトル:α=(α1,α2,α3)を対角成分
が 02で,2つの非対角成分が共にσ=(σ1,σ2,σ3)である行列
とします。
容易にわかるように,{αi,αj}+=αiαj+αjαi=2δij,
{αi,β}+=αiβ+βαi=0,β2=1です。
そこで,γ0≡β,γ≡βα,or (γ1,γ2,γ3)≡(βα1,βα2,βα3)
なる表示を採用すると,これらの{γμ}μ=0,1,2,3は確かにDirac行列
が満たすべき条件:{γμ,γν}+=2gμνを満足します。
ただし,Minkowski計量(metric)としては,g00=1,g0i=0,
gij=-δijを採用しています。
Dirac方程式(iγμ∂μ-m)Ψ(x)=0 の解である波動関数
(Dirac-spinor):Ψ(x)は4行1列の縦ベクトルです。
(※ 余談ですが,世界がd次元のMinkowski時空なら,その時空で
の Dirac-spinor(スピノール)は,2成分-spinorの(d/2)個の直積
(=tensot:テンソル)で与えられるため,その次数は,2d/2 です。)
このDirac方程式の変数分離解をΨ(x)=w(p)exp(-ipx)と
書けば,w(p)も4元spinorで,方程式:(γμpμ-m)w(p)=0
を満足します。
粒子の4元運動量は自然単位でpμ=(E,p)ですが,特に粒子と
共に運動していて,粒子が静止している(p=0)と見える"運動座
標系=静止系"S0では,pμ=(E,p)=p0μ≡(±m,0)です。
(↑ ※p0μ=(±m,0)として,負の静止エネルギー:E=-mの解
も捨てず,率直に独立解として採用するのがミソです。)
このS0系での変数分離解は,p0μ=(±m,0)の±に応じて,
Ψ0(x)=w(0)exp(-imt),または,Ψ0(x)=w(0)exp(imt)
です。
そこで,(iγμ∂μ-m)Ψ(x)=0;Ψ(x)=w(p)exp(-ipx)
による(γμpμ-m)w(p)=0 は,p00=mならγ0w(0)=w(0),
p00=-mならγ0w(0)=-w(0) です。
したがって,静止系での変数分離解Ψ0(x)は,γ0w±(0)=±w±(0)
(複号同順)を満たすγ0の2つの独立な固有ベクトルw±(0)を用いて
Ψ0+(x)=w+(0)exp(-imt),および,
Ψ0-(x)=w-(0)exp(imt) と表わされます。
γ0の固有ベクトルw±(0)のうち,固有値+1の固有ベクトル:
w+(0)は,(1,0,0,0)T,(0,1,0,0)Tの1次結合で与えられます。
また,固有値が-1の固有ベクトルw(-)(0)は,(0,0,1,0)T,
(0,0,0,1)Tの1次結合です。
そこで,独立な4つを改めて,w(1)(0)≡(1,0,0,0)T,
w(2)(0)≡(0,1,0,0)T,w(3)(0)≡(0,0,1,0)T,
w(4)(0)≡(0,0,1,0)T と定義します。
(↑ ※ 右上添字Tは行列の転置(transport)を示します。
そこで,行(横)ベクトルの右肩添字Tは列(縦)ベクトルを
意味します。※)
すると,静止系での4つの独立解は,
ψ0(r)(x)=w(r)(0)exp(-iεrmt)(r=1,2,3,4)
で与えられることになります。
ただし,符号関数εrは,εr≡1 (r=1,2),εr≡-1 (r=3,4)
で定義されます。
したがって,静止系での自由粒子の一般解Ψ0(x)は,Ψ0(r)(x)の
1次結合で表わせます。
一方,Lorentz変換(4次元回転):x'μ=aμνxν,
または略記法でx'=axに伴なう波動関数のLorentz回転:
Ψ'α(x')=Ψ'α(ax)≡Sαβ(a)Ψβ(x) (成分表記)
または,Ψ'(x')=Ψ'(ax)=S(a)Ψ(x) (行列表記)
を考えます。
x'=ax より,その逆変換:a-1対しx=a-1x'ですから,
Ψ'(x')=S(a)Ψ(a-1x'),つまり,
Ψ'(x)=S(a)Ψ(a-1x)です。
他方,Ψ(x)=S(a-1)Ψ'(ax),Ψ(x)=S-1(a)Ψ'(ax)より,
S(a-1)=S-1(a)なる関係が成立することがわかります。
また,∂/∂xμ=(∂x'ν/∂xμ)(∂/∂x'ν)ですから,
x'ν=aνμxμより.∂μ=aνμ∂'νです。
そこで,Dirac方程式:(iγμ∂μ-m)Ψ(x)=0 にx=a-1x',
および,Ψ(x)=S-1(a)Ψ'(x')を代入して,左からS(a)を
掛けると,[iS(a)γμS-1(a)aνμ∂'ν-m]Ψ'(x')=0
を得ます。
それ故,aνμS(a)γμS-1(a)=γν,つまり,
aνμγμ=S-1(a)γνS(a)であれば,
上式は(iγν∂'ν-m)Ψ'(x')=0 となって,
方程式が相対論的に共変(covariant)になります。
特に,aμν=gμν+Δωμν;Δωνμ=-Δωμνと書けて,
Δωμνが微小の場合の微小Lorents変換を考えます。
これに対する4×4変換行列S(a)をΔωμνの1次まで展開して
1次の係数行列を,-(i/4)σμνと表現すれば,
S(a)=1-(i/4)σμνΔωμν+O(Δω2) です。
今のところ,σμνは未知の4次行列ですが,以下でそれを具体的に
決定します。
O(Δω2)が無視できる無限小変換では,
S(a)=1-(i/4)σμνΔωμν,
S-1(a)=1+(i/4)σμνΔωμνより,
aμνγν=S-1(a)γμS(a)は,
Δωμνγν=-(i/4)Δωαβ(γμσαβ-σαβγμ)
となります。
ここで,Δωμνγν=gμαΔωανγν
=gμαΔωαβgβνγν=gμαΔωαβγβ
=gμβΔωβαγαにより,
Δωμνγν=(1/2)(gμαΔωαβγβ+gμβΔωβαγα)
=(1/2)Δωαβ(gμαΔγβ-gμβγα) を得ます。
故に,(1/2)Δωαβ(gμαΔγβ-gμβγα)
=-(i/4)Δωαβ(γμσαβ-σαβγμ)ですから,
2i(gμαΔγβ-gμβγα)=[γμ,σαβ] です。
結局,無限小変換では,S(a)=1-(i/4)σμνΔωμν;
σμν=(i/2)[γμ,γν]であることがわかります。
さて,無限小ではなく一般の有限なLorentz変換を上記の無限小
変換を継続的に無限回反復した結果として評価するため,Δωμν
をΔωμν≡Δω(In)μνと表現します。
ただし,Δωは軸:nのまわりの無限小Lorentz回転の回転角を表わす
無限小パラメータとし,Inはこの軸nについての単位Lorentz回転を
示す4×4行列とします。
※(注):3次元空間の回転なら,例えばz軸の回りのxy平面上の
角度φの回転なら,
x'=xcosφ-ysinφ,y'=xsinφ+ycosφ,z'=z
です。
これはφが無限小回転角:Δφなら,
x'=x-yΔφ,y'=xΔφ+y,z'=zですから,
行列形では,t(x',y',z')=t(x,y,z)+Δφt(―y,x,0)
={1+Δφ(Iz)}t(x,y,z) と書けます。
これによって,3次元の場合の対応する3×3行列Izを定義します。
ただし,t(x,y,z)は行ベクトル(x,y,z)の転置(transport)
である縦ベクトルを意味します。
同様に,x軸,y軸のまわりの回転に対する3×3行列Ix,Iyも
定義できます。(注終わり)※
さて,Δωμν=Δω(In)μν,Δω≡ω/Nとして,
Δω回転のN回の反復でωになる変換を考えます。
刻みNが無限大の極限では,
aμν=lim N→∞ Πn=1N{1+(ω/N)In}μν
={exp(ωIn)}μν,またはxμ=aμνxν
={exp(ωIn)}μνxν
が得られます。
そして,これに伴なうspinorの変換は,
S(a)αβ={1-(i/4)Δω(σμνInμν)}αβより,
Δωが一般の有限の角度ωなら,
S(a)αβ=exp{-(i/4)ω(σμνInμν)}αβ
= exp{-(1/8)ω[γμ,γν]Inμν}αβ です。
特に,x軸に沿って無限小の速度Δv=Δβ=Δωで運動する
座標系への無限小変換は,
x'0=x0-Δβx1,x'1=x1-Δβx0
です。
そこで,Lorentz変換:aμν=gμν+Δωμν;Δωνμ=-Δωμν
では,Δω01=Δω10=-Δβ以外の全てのΔωμνはゼロです。
この場合,有限変換ではx'μ={exp(ωIn)}μνxνであり,
x'0=x0coshω-x1sinhω,x'1=x1coshω-x0sinhω,
x'2=x2,x'3=x3 と書けます。
これに対応するLorentz変換は相対速度がv=β=tanhωの変換
です。
このとき,coshω=1/(1-β2)1/2,sinhω=β/(1-β2)1/2です。
よって,確かに無限小変換ではΔβ=Δωを満たしています。
さて,spinorの無限小変換はΔω01=-Δω10=Δω=Δβなので,
S(a)=1-(i/4)σμνΔωμνは,S(a)=1-(iΔω/2)σ01で,
σ01=(i/2)[γ0,γ1]=iγ0γ1=-iγ0γ1=-iβ2α1=-iα1
です。
それ故,S(a)=1-Δωα1/2です。
有限変換では,(α1)2=1ですからS(a)=exp(-ωα1/2)
=cosh(ω/2)-α1sinh(ω/2)です。
そして,系Sで粒子が速度v=βで運動することは,粒子に対して
静止しているS0系に対し系Sが相対速度-v=-βで運動する
ことに同等です。
したがって,静止系S0でpμ=(m,0)の正エネルギー粒子がS0に
対して相対速度-v=-βで運動するS系では,
x'0=x0coshω-x1sinhω,x'1=x1coshω-x0sinhω,
x'2=x2,x'3=x3 に対応して,
pμ=(E,p)なる表示で,E=mcoshω,p1=-msinhω,
p2=p3=0 なので,β=-tanhω=p/Eです。
ただし,p=|p|=p1です。
故に,tanhω=-p/Eにより,tanh(ω/2)=-p/(E+m),
cosh(ω/2)={(E+m)/(2m)}1/2を得ます。
一方,静止系S0でpμ=(-m,0)の負エネルギー粒子がS0に対し
相対速度-βで運動するS系では,
pμ=(-E,-p)(E>0)なるエネルギー表示で,
tanh(ω/2)=p/(-E+m)=-p/(E-m),
cosh(ω/2)={(E-m)/(2m)}1/2 です。
以上から,自由粒子波動関数の4つの独立な解は,
Ψ(r)(x)=w(r)(p)exp(-iεrpx),
w(r)(p)=S(a)w(r)(0)
={cosh(ω/2)-α1sinh(ω/2)}w(r)(0)
であり,
w(1)(0)≡(1,0,0,0)T,w(2)(0)≡(0,1,0,0)T,
w(3)(0)≡(0,0,1,0)T,w(4)(0)≡(0,0,1,0)T
であることがわかりました。
さて,座標のLorentz変換:xμ→aμνxνに対応する運動量の
Lorentz変換:pμ→aμνpνから,
E=p0=mcoshω=m/(1-β2)1/2,
p=p1=-msinhω=mβ/(1-β2)1/2
を得ます。
そこで,-tanh(ω/2)=-tanhω/{1+(1-tanh2ω)1/2}
=β/{1+(1-β2)1/2}=p/(E+m)であり,
cosh(ω/2)={1-tanh2(ω/2)}-1/2={(E+m)/(2m)}1/2
であること,がわかります。
故に,-sinh(ω/2)=-tanh(ω/2)cosh(ω/2)
={p/(E+m)}{(E+m)/(2m)}1/2=p/{2m(E+m)}1/2
を得ます。
そして,S(a)=(w(1)(p),w(2)(p),w(3)(p),w(4)(p))
=cosh(ω/2)-α1sinh(ω/2) です。
これから,
w(1)(p)={(E+m)/(2m)}1/2(1,0,0,p/(E+m))T,
w(2)(p)={(E+m)/(2m)}1/2(0,1,p/(E+m),0)T,
w(3)(p)={(E+m)/(2m)}1/2(0,p/(E+m),1,0)T,
w(4)(p)={(E+m)/(2m)}1/2(p/(E+m),0,0,1)T
と書けます。
一般の速度:β=(β1,β2,β3)を持つ粒子のw(r)(p)
=S(a)w(r)(0)を得るには,
S(a)αβ=exp{-(i/4)ω(σμνInμν)}αβ
= exp{-(1/8)ω[γμ,γν]Inμν}αβの右辺の生成行列:
Inμνを速度βの空間軸回転の3×3直交行列:Tを考慮した形
にします。
pμ=(E,p)は,E=m/(1-β2)1/2,p=mβ/(1-β2)1/2
ですが,特にp±≡p1±ip2=m(β1±iβ2)/(1-β2)1/2と
定義します。
計算結果だけ書くと,
w(1)(p)={(E+m)/(2m)}1/2
(1,0,p3/(E+m),p+/(E+m))T,
w(2)(p)={(E+m)/(2m)}1/2
(0,1,p-/(E+m),-p3/(E+m))T,
w(3)(p)={(E+m)/(2m)}1/2
(p3/(E+m),p+/(E+m),1,0)T,
w(4)(p)={(E+m)/(2m)}1/2
(p-/(E+m),-p3/(E+m),0,1)T
です。
特に,ここだけ単位を復活させ光速cを陽に書くと,
まず,β=v/c,pμ=(E/c,p)で,
E=mc2/(1-β2)1/2,p=mv/(1-β2)1/2,
p±=p1±ip2=m(v1±iv2)/(1-β2)1/2です。
w(1)(p)={(E+mc2)/(2mc2)}1/2
(1,0,p3c/(E+mc2),p+c/(E+mc2))T,
w(2)(p)={(E+mc2)/(2mc2)}1/2
(0,1,p-c/(E+mc2),-p3c/(E+mc2))T,
w(3)(p)={(E+mc2)/(2mc2)}1/2
(p3/(E+mc2),p+c/(E+mc2),1,0)T,
w(4)(p)={(E+mc2)/(2mc2)}1/2
(p-c/(E+mc2),-p3c/(E+mc2),0,1)T
です。
さて,波動関数:ψ(r)(x)=w(r)(p)exp(-iεrpx)は,
もちろん, Dirac方程式:(γμp^μ-m)ψ(r)(x)=0
を満足します。
そして,p^μ=(p^0,-p^)=(i(∂/∂t),-i∇)=i∂μより,
γμp^μψ(r)(x)=iγμ∂μw(r)(p)exp(-iεrpx)
=εrγμpμw(r)(p)exp(-iεrpx)ですから,
(εrγμpμ-m)w(r)(p)=0 が成立します。
これは,(γμpμ-εrm)w(r)(p)=0 とも書けます。
これらの式の両辺のHermite共役を取ると,
w(r)+(p)(γμ+pμ-εrm)=0 です。
そして,γ0+=γ0,γ+=-γですから,γμ+γ0=γ0γμより,
等式の両辺の右からγ0を乗じた後,4行1列の行ベクトル:
w(r)~(p)≡w(r)+(p)γ0を用いると,
w(r)~(p)(γμpμ-εrm)=0 を得ます。
また,ψ(ax)=S(a)ψ(x)より,ψ+(ax)=ψ+(x)S+(a)
ですから,ψ~(ax)=ψ+(ax)γ0=ψ+(x)S+(a)γ0
=ψ~(x)γ0S+(a)γ0です。
容易にわかるように,γ0S+(a)γ0=S-1(a)なので,
ψ~(ax)ψ~(x)S-1(a)です。
故に,ψ~(ax)ψ(ax)=ψ~(x)ψ(x)となり,ψ~(x)ψ(x)は
Lorentz-scalarですから,
w(r)~(p)exp(iεrpx)w(r')(p)exp(-iεr'px)
=w(r)~(p)w(r')(p)exp{i(εr-εr')px}はスカラー
(Lorents不変量)です。
そして,εr,pxもスカラーですから,
w(r)~(p)w(r')(p)exp{i(εr-εr')px}は,
w(r)~(0)w(r')(0)=εrδrr'に一致します。
故に,w(r)~(p)w(r')(p)=εrδrr'なる関係式を得ました。
また,証明は省略しますが,
Σr=14εrw(r)α(p)w(r)~β(p)=δαβなる式も成立します。
ψ~(x)ψ(x)がLorentz-scalarなので,確率密度:
ψ+(x)ψ(x)=ψ~(x)γ0ψ(x)はLorentz不変では
ありません。
これは,jμ(x)≡(ρ(x),j(x))=ψ~(x)γμψ(x)の第0成分
として変換します。
また,簡単な計算からw(r)+(εrp)w(r')(εr'p)=(E/m)δrr'
を得ます。
E/m=(1-β2)1/2ですから,β=0 での3次元体積を
ΔV0とすると,
w(r)+(εrp)w(r')(εr'p)ΔV
=w(r)+(εrp)w(r')(εr'p)ΔV0(1-β2)1/2
=δrr'
となります。
よって,この規格化では確率密度でなく確率がLorentz不変です。
ψ(r)(x)=w(r)(p)exp(-iεrpx)から,
上記のw(r)+(εrp)w(r')(εr'p)=(E/m)δrr'なる表式は,
運動量がpの正エネルギーのsスピノル:
w(r)(p)exp(-iEt+ipr)(r=1,2)は,
逆符号の運動量-pを持つスピノル:
w(r')(-p)exp(iEt+ipr)(r'=3,4)
のHermite共役と直交するという描像です。
そこで,同じ空間運動量pを持ち反対符号のエネルギーを持つ
平面波解ψ(r)(x),ψ(r')(x)は,r=1,2;r'=3,4,または
r=3,4;r'=1,2ならψ(r)+(x)ψ(r')(x)=0 になるという意味
で直交します。
さて,u(p,s)で運動量:pμ=(E,p)とスピン:
sμ=(s0,s)を持つDirac方程式の正エネルギー解を記述します。
すなわち,(γμpμ-m)u(p,s)=0 です。
ただし,sμは静止系p0μ=(m,0)での偏極ベクトルs0により
s0μ=(0,s0)で定義される4元ベクトルです。
したがって,任意の慣性座標系でsμsμ=s0μs0μ=-s02
=-1,pμsμ=p0μs0μ=0 です。
そして,u(p,s)がスピン:sを持つという意味を,
静止系p0μ=(m,0)ではu(p0,s0)がσs0u(p0,s0)
=u(p0,s0)を満たすことと定義します。
ただし,σs0=σis0iでσi≡εijkσjk=iεijkγjγkです。
行列σi=iεijkγjγkは,Pauliの2×2スピン行列
σi=iεijkσjσkの4×4行列版です。
(※下図では区別する便宜のため,4×4行列の方をσ(4)k,と
表記しました。※)
静止系では,i∂ψ/∂t=βmψ,H=βmですが,
よって,(γμpμ-m)u(p,s)=0,σs0u(p0,s0)
=u(p0,s0)によりu(p,s)の定義が可能です。
同様に,(γμpμ+m)v(p,s)=0 を満たす解で,静止系で
-s0のスピンを持つという条件:σs0v(p0,s0)=-v(p0,s0)
によってv(p,s)を定義します。
この結果,w(1)(p)=u(p,uz),w(2)(p)=u(p,-uz),
w(3)(p)=v(p,-uz),w(4)(p)=v(p,uz) です。
ただし,uz=(uz0,uz)は,静止系では,uz0μ=(0,uz0)
=(0,0,0,1)という形になる4元ベクトルです。
そして,uz0=(0,0,1)はz方向の spin-upを意味します。
さて,天下り的ですが,Λr(p)≡(εrγμpμ+m)/(2m)
(r=1,2,3,4),またはΛ±(p)≡(±γμpμ+m)/(2m)
とおけば,
Λr(p)Λr'(p)=(1+εrεr')Λr(p)/2 が成立するので,
Λ+2(p)=Λ+(p),Λ-2(p)=Λ-(p),
Λ+(p)Λ-(p)=0,Λ+(p)+Λ-(p)=1 です。
Λr(p)w(r')(p)=(εrγμpμ+m)w(r')(p)/(2m)
={εr(γμpμ-εr'm)/(2m)+(1+εrεr')/2}w(r)(p)
={(1+εrεr')/2}w(r)(p)です。
故に,r=1,2,かつr'=1,2,または,r=3,4,かつr'=3,4
なら,Λr(p)w(r')(p)=w(r')(p) です。
r=1,2,かつr'=3,4,または,r=3,4,かつr'=1,2
なら,Λr(p)w(r')(p)=0 です。
そして,また,Σ(s)≡(1+γ5γμsμ)/2と置きます。
すると,Σ(uz)=(1+γ5γμuzμ)/2です。
ただし,γ5=γ5≡iγ0γ1γ2γ3です。
明らかに,Σ(uz)u(p,uz)=u(p,uz),
Σ(uz)v(p,uz)=v(p,uz)で,
Σ(-uz)u(p,uz)=Σ(-uz)v(p,uz)=0 です。
Σ(uz)は共変形なので,Σ(s)u(p,s)=u(p,s),
Σ(s)v(p,s)=v(p,s)で,
Σ(-s)u(p,s)=Σ(-s)v(p,s)=0
が成立します。
以上から,P1(p)≡Λ+(p)Σ(s),P2(p)≡Λ+(p)Σ(-s),
P3(p)≡Λ-(p)Σ(-s),P4(p)≡Λ-(p)Σ(s)とおけば,
これらはPr(p)w(r')(p)=δrr'w(r')(p),または,
Pr(p)Pr'(p)=δrr'を満たす正負のエネルギー固有関数
の射影演算子となります。
Σr=14εrw(r)α(p)w(r)~β(p)=δαβ or
Σr=14εrw(r)(p)w(r)~(p)=1ですから,
Λ+(p)Σr=14εrw(r)(p)w(r)~(p)
=Σr=12w(r)(p)w(r)~(p)
=Λ+(p),
Λ-(p)Σr=14εrw(r)(p)w(r)~(p)
=-Σr=34w(r)(p)w(r)~(p)
=Λ-(p) です。
故に,規格化された波動関数を,
ψp(r)(x)≡(2π)-3/2(m/E)1/2w(r)(p)exp{-iεrp(x-x0)}
とおくと,
(2π)-3(m/E)Λ+(p)exp{-ip(x-x0)}
=Σr=12ψp(r)(x)ψp(r)~(x0),
-(2π)-3(m/E)Λ-(p)exp{-ip(x-x0)}
=Σr=34ψp(r)(x)ψp(r)~(x0) となります。
(※↓ここからは,この過去記事の表題であった
「散乱の伝播関数の理論」の主要な内容であるところの
(iγμ∂μ-m)SF(x-x0)=δ4(x-x0) を満たす
Feynman伝播関数:SF(x-x0)の理論の項目に一足飛びに
脱線しています。
それ故,非相対論極限の「Foldy-Woutheusen変換」や,
負エネルギー解を解釈する「空孔理論」の項目などを
飛び越えて,やや飛躍した話になっています。※)
以上から,自由Dirac粒子のFeynman伝播関数は,
SF(x-x0)
=-iθ(t-t0)∫d3pΣr=12ψp(r)(x)ψp(r)~(x0)
+iθ(t0-t)∫d3pΣr=34ψp(r)(x)ψp(r)~(x0)
と書けます。
そこで,任意の正エネルギー解を,
ψ(+)(x)≡∫d3pΣr=12Cr(p)ψp(r)(x),
任意の負エネルギー解を,
ψ(-)(x)≡∫d3pΣr=34Cr(p)ψp(r)(x)と置きます。
すると,w(r)+(εrp)w(r')(εr'p)=(E/m)δrr' or
w(r)+(p)w(r')(p)=(E/m)δrr'によって,
ψp(r)+(x)ψp(r')(x)=(2π)-3δrr' です。
また,∫d3r0(2π)-3exp{-iεr(p'-p)x0}
=δ(p'-p)exp{-iεr(p0'-p0)t0}ですから,
∫d3r0∫d3pΣr=12ψp(r)(x)ψp(r)~(x0)γ0ψ(+)(x0)
=Σr,r'=12∫d3pd3p'Cr'(p')ψp(r)(x)∫d3r0(2π)-3
(m2/EE')1/2w(r)+(p)w(r')(p')exp{-iεr(p'-p)x0}
=Σr,r'=12∫d3p(m/E)Cr'(p)ψp(r)(x)w(r)+(p)w(r')(p)
=Σr=12∫d3pCr(p)ψp(r)(x)=ψ(+)(x)
を得ます。
したがって,θ(t-t0)ψ(+)(x)
=i∫d3r0SF(x-x0)γ0ψ(+)(x0)が成立します。
同様にして,θ(t0-t)ψ(-)(x)
=-i∫d3r0SF(x-x0)γ0ψ(-)(x0) も成立します。
これらは,SF(x-x0)が正エネルギー解ψ(+)(x0)を時間
の前方(=未来)へ,負エネルギー解ψ(-)(x0)を時間の後方
(=過去)へ運ぶことを明示しています。
SF(x-x0)は自由電子のFeyman-propagater(伝播関数)として
知られています。
これは,最初1942年に,Stükelbergによって陽電子理論に導入され
ました。
そして,1948年には,Feynmanによっても独立に導入されました。
Feynmanはそれを広範囲にわたって実際の計算に適用しました。
自由伝播関数SF(x-x0)から,正確で完全なGreen関数,そして,
S行列要素,つまり相互作用の力場が存在する場合の電子や陽電子
の種々の散乱過程に対する振幅を作ることができます。
このことを遂行するため,前の非相対論的扱いを書き直します。
まず,電磁相互作用のみ存在する場合の正確なFeyman-propagater
(伝播関数)SF'(x;x0)は,
[iγμ(∂/∂xμ)-eγμAμ(x)-m]SF'(x;x0)
=δ4(x-x0) を満たします。
これと,前に求めた式:{i(∂/∂t)-H0(x)}G(x;x0)
=∫d4x1δ4(x-x1)[δ4(x1-x0)+V(x1)G(x1;x0)],
および,G(x;x0)
=∫d4x1G0(x;x1)[δ4(x1-x0)+V(x1)G(x1;x0)]
=G0(x;x1)+∫d4x1G0(x;x1)V(x1)G(x1;x0)
を利用します。
つまり,上の表現で{i(∂/∂t)-H(x)}γ0,V(x1)γ0を,
それぞれ,(iγμ∂μ-m),-eγμAμ(x)に置き換え,
G0(x;x0),G(x;x0)を,それぞれ,
SF(x-x0),SF'(x;x0) に置換します。
すると,{i(∂/∂t)-H0(x)}G(x;x0)
=∫d4x1δ4(x-x1)[δ4(x1-x0)+V(x1)G(x1;x0)]は,
(iγμ∂μ-m)SF'(x;x0)
=∫d4yδ4(x-y)[δ4(y-x0)+eγμAμ(y)SF'(y;x0)
となります。
これとδ4(x-y)=(iγμ∂μ-m)SF(x-y)より,
(iγμ∂μ-m)SF'(x;x0)
=(iγμ∂μ-m)[SF(x-x0)
+e∫d4ySF(x-y)γμAμ(y)SF'(y;x0)]
が成立します。
すなわち,SF'(x;x0)=SF(x-x0)
+e∫d4ySF(x-y)γμAμ(y)SF'(y;x0)
が成立します。
また,Dirac方程式;(iγμ∂μ-m)Ψ(x)=eγμAμ(x)Ψ(x)
の正確な解で,Feynmanの境界条件を満たすΨ(x)を考えます。
先述したように,相互作用のない自由伝播関数は,
SF(x-x0)
=-iθ(t-t0)∫d3pΣr=12ψp(r)(x)ψp(r)~(x0)
+iθ(t0-t)∫d3pΣr=34ψp(r)(x)ψp(r)~(x0)
で与えられます。
そこで,ψ(x0)が正負の両振動数成分を含む場合でも,
t>t0ではψ(x)は自由電子の正振動数成分のみの重ね合わせ
としてψ(x)=i∫d3r0SF(x-x0)γ0ψ(x0)と表わされます。
一方,Ψ(y)=lim t0→-∞ i∫d3r0SF'(y;x0)γ0ψ(x0)
です。
そこで,SF'(x;x0)
=SF(x-x0)+e∫d4ySF(x-y)γμAμ(y)SF'(y;x0)
により,
Ψ(x)=ψ(x)+e∫d4ySF(x-y)γμAμ(y)Ψ(y)
です。
他方,t<t0ではψ(x)は自由電子の負振動数成分のみの
重ね合わせとして,ψ(x)=-i∫d3r0SF(x-x0)γ0ψ(x0)
と表現され,
Ψ(y)=lim t0→ ∞ (-i)∫d3r0SF'(y;x0)γ0ψ(x0)
です。
よって,いずれの場合も、
Ψ(x)=ψ(x)+e∫d4ySF(x-y)γμAμ(y)Ψ(y)
なる同じ表現が得られます。
そして,Ψ(x)=ψ(x)+e∫d4ySF(x-y)γμAμ(y)Ψ(y)
は,未来t>t0では正振動数成分のみ,過去t<t0では負振動数
成分のみを含みます。
すなわち,t→ ∞ では,
Ψ(x)-ψ(x)=∫d3pΣr=12ψp(r)(x)[-ie∫d4yψp(r)~(y)
γμAμ(y)Ψ(y)],
および,t→-∞ では,
Ψ(x)-ψ(x)=∫d3pΣr=34ψp(r)(x)[+ie∫d4yψp(r)~(y)
γμAμ(y)Ψ(y)] です。
[ ]の中は,いずれもp,rに依存するc-数です。
こうして,電磁場Aμ(y)による散乱では,"散乱後(未来)t→ ∞
には電子は決して負エネルギーの海に落ちないという空孔理論
の要請"に従う散乱定式化が得られました。
まだ,満たされてない正エネルギー状態のみを取ることができる
のです。
参考文献:J.D.Bjorken & S.D.Drell "Relativistic Quantum Mechanics" (McGraw-Hill)
※ 以上,全て過去記事の再掲載でした。※
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