弱い相互作用の旧理論(13)(Fermi理論)
「弱い相互作用の旧理論(12)」からの続き:π中間子
の崩壊の続きです
。
最近は時間が残り少ないこともあり,つい一遍に長い記事を
アップしようとしてしまいます。
以前は,WordでA4の6頁くらいの記事までにしていました。
それ以上になるとココログフリーが受け付けず,エラーに
なっていたからです。
どうしても原稿が大きいときは,仕方なく分割して
いましたが,最近は10頁を超えても大丈夫になったよう
です。
まあ,時代の流れでしょうか?ドメインも昔より大きいサイズ
が普通になったのかも知れません。
この記事もつい11ページくらいになりました。
時間が少ないというのは私の残りの寿命のことですが,
決闘前夜の天才ガロアでもあるまいに。。凡人のくせに。。
さて,前回最後では,π崩壊の崩壊率ωが
ω=1/τ={G2|a|2/(8π)}μ3(m/μ)2(1-m2/μ2)2
で,与えられることを見ました。(τは崩壊の寿命)
これはm=meを代入すれば,π-→e-+ν~の崩壊率:
ωe=1/τeを,m=mμを代入すれば,π-→μ-+ν'~
の崩壊率:ωμ=1/τμを与えます。
一方,これらの現象で観測されているπの寿命は,
τ=(2.55±0.03)×10-8secです。
ωμ>>ωeであり,τμ<<τeですから,πの寿命の観測値
は崩壊:π-→μ-+ν’~によるそれ=τμを反映したもの
と考えられます。
そこで,ωμの予測値:
ωμ=1/τμ={G2|a|2/(8π)}μ3(mμ/μ)2(1-mμ2/μ2)2
を観測値のω=1/τ ~ 1/{(2.55±0.03)×10-8sec}に等しい
と置くことから,|a|の値を決めることができます。
計算を実行した結果,|a|~ 0.93μと評価されました。
※(注13-1):上記のように,τμ=(2.55±0.03)×10-8sec
から|a|~ 0.93μの評価値を得る計算内容を示します。
まず,1/τμ={G2|a|2/(8π)}μ3(mμ/μ)2(1-mμ2/μ2)2
の両辺の単位が合致するように単位(次元)を調節します。
1/τμの右辺は,hc=c=1(hc=h/2π;hはPlanck定数)
とする自然単位の評価式であり,この表現ではhcもcも単に
1に過ぎないので両辺にこれらhcやcをいくつ掛けても式
としての意味は同じです。
それら,右辺に(hcrcs)を乗じた無数の同値な式を,
1/τμ=(hcrcs)}{G2|a|2/(8π)}μ3(mμ/μ)2(1-mμ2/μ2)2
と書きます。
これらの中から,右辺を通常の単位に換算して単位が左辺
の(1/τμ)の単位(=T-1)に一致する場合が通常の単位での
正しい等式であり,それを探すのを次元解析と呼ぶのでした。
そこで,単位のみを問題とする次元解析の等式は,
T-1=[Ga]2M3[hcrcs]と書けます。
(※[A]は物理量Aの単位です。)
この次元解析の等式を解析する際には,[hc]=ML2T-1,
[c]=LT-1,および,{Ga}を代入する必要があります
が,今のところ,単位:[Ga]が全く不明です。
この不明な単位を,崩壊振幅の因子の運動量表示での形から
求めます。
π崩壊の運動量表示の頂点での相互作用の振幅は,
(Ga/√2)[Pμuμ~(p)γμ(1-γ5)vν'(pν'~)]
で与えられることを見ましたが,
これは,座標表示 では,Hamiltonian密度をHとするとき,
係数を除き,H=(Ga/√2)∂μφπΨμ~γμ(1-γ5)Ψν~
であることを意味します。
単位の等式では,単位のない係数は無関係であり,
[H ]=[Ga][∂μφπ][Ψμ~γμ(1-γ5)Ψν~]
ですが,単位が既知のものについては具体的な単位
を代入します。
まず,左辺のHはエネルギー密度なので,
[H]=[エネルギー]L-3 です。
ただし,[エネルギー]=M[加速度]L=ML2T-2 です。
次に,スピノル Ψについては,Ψ~ΨがFermi粒子の確率密度
を与えるため,[Ψ~Ψ]=L-3ですが,Ψμ~γμ(1-γ5)Ψν'も
Ψ~Ψと同じ単位と考えられるので,[Ψμ~γμ(1-γ5)Ψν']
=L-3 です。
また,hc=c=1の単位では,φπのような質量mのスカラー
粒子の状態関数φについて,相互作用のないLagrangian密度
は.Lφ=(1/2)(∂μφ∂μφ-m2φ2) ですが,
左辺のLφの単位は,Hと同じで,[Lφ]=[エネルギー]L-3
なので,[∂μφπ]=[エネルギー]1/2L-3/2 であることが
わかります。
故に, [H]=[Ga][∂μφπ][Ψμ~γμ(1-γ5)Ψν']は,
[エネルギー] L-3=[Ga][エネルギー]1/2L-3/2L-3
となるため,Gaの単位として,
[Ga]=[エネルギー]1/2L3/2 が得られます。
[エネルギー]=ML2T-2 を用いるなら,
[Ga]=M1/2LT-1 です。
したがって,T-1=[Ga]2M3[hcrcs]=ML5T-2[hcrcs]
より.[hcrcs]=M-4L-5T を得ます。
これと,[hc]=ML2T-1,[c]=LT-1 より,
-4=r,-5=2r+s,-1=-r-s ですから,
結局,r=-4,s=3 を得ます。
つまり,通常の単位なら,
1/τμ=hc-4c3{G2|a|2/(8π)}μ3(mμ/μ)2×(1-mμ2/μ2)2
というのが正しい等式です。
ここで,πの質量μを単位として,|a|≡αμと置くと,
自然単位では,1/τμ={G2|a|2/(8π)}μ3(mμ/μ)2(1-mμ2/μ2)2
から,1/τμ={G2α2/(8π)}μ5(mμ/μ)2(1-mμ2/μ2)2であり
通常単位では,
1/τμ=hc-4c3{G2α2/(8π)}μ5(mμ/μ)2(1-mμ2/μ2)2
です。
τμ={(8π)/(G2α2)}(hc4/c3)μ-5(μ/mμ)2{μ2/(μ2-mμ2)}2
G2α2=(1/τμ)(8πhc4c7)(μc2) -5(μ/mμ)2{μ2/(μ2-mμ2)}2
です。
右辺に,τμ~ 2.55×10-8sec,μc2 ~ 140MeV,mμc2~ 106MeV,
そして,c=3×1010cm/sec,hc=6.6×10-16eVsec, MeV=106eV
を代入して計算すると,結局,
G2α2 ~ 7.135×10-19cm7sec-4eV-1
を得ます。
よって,Gα ~ 8.447×10-9(cm7sec-4eV-1)1/2
です。
ところで,以前のμ粒子の崩壊寿命を計算した際の考察では
[G]=ML5T-2であり,G ~ 8.88×10-38 (eVcm3)でした。
Gα ~ 8.447×10-9(cm7sec-4eV-1)1/2を上のGで割って
α ~ 9.503×1027(cm1/2sec-2eV-3/2) が得られます。
これによると,[α]=L1/2T-2(ML2T-2)-3/2=M-3/2L-5/2T
であり,[Gα]=M1/2L5/2T-1 です。
実はこのαにも(hcpcq)の因子が陰伏していて,真のα
は, 無次元(単位なし)のただの数であって,Gαの単位は
Gと同じであるとすると,
hc=6.6×10-16(eVsec),c=3×1010(cm/sec)により,
α ~ 9.503×1027(cm1/2sec-2eV-3/2)hc3/2c-1/2 です。
計算して,0.93に近い値のα ~ 0.927 が得られました。
この単位選択では,|a|=αμ ~ 0.927μ,(μ~140MeV)
であり,aはμ,またはμc2と同じく,質量M,または
エネルギーの単位です。
つまり,端的に言えば,最初から|a|=0.927μとして,
1/τμ=(hcpcq){0.9272G2/(8π)}μ5(mμ/μ)2(1-mμ2/μ2)2
と書いて,右辺の単位がT-1となるようにp,qを決めれば
τμ ~ 2.55×10-8sec が得られるわけです。
(注13.1終わり)※
さて,あらゆるレプトンを含む崩壊においては,普遍的に,
V-A結合:[u~(p)γμ(1-γ5)v(k~)]が寄与すると
いう仮定によって,π中間子の崩壊からμ粒子の偏極が
決まります。
これは,崩壊の連鎖:π-→ μ-+ν'~→ e-+ν~+ν'~
におけるμのスピン方向と崩壊電子のスピン方向を
互いに関連付ける,μ崩壊スペクトルにおける非対称(ひずみ)
パラメータのユニークな予測に導きます。
これを見るため,まず,与えられた立体角要素に出現する
μ粒子の偏極を計算し,それから,これらのμ粒子からの崩壊
電子のスペクトルを計算します。
π崩壊におけるμ粒子の偏極を計算するために,S行列要素:
Sfi(π)=(-i)(2π)-9/2{mμ/(4EPEk~Ep)}1/2(Ga/√2)
Pμu~(p)γμ(1-γ5)v(k~)] (2π)4δ4(P-p-k~)
に戻り,与えられたμのスピン偏極sの状態への微分崩壊率
を計算します。
終状態のν'~のスピンsk~では総和し.始状態のπのスピン
Sでは相和して平均しますが,終状態のμのスピンsは固定
なので.崩壊率を求める際には, (1/2)ΣS,sk~|Sfi(π)|2に,
状態密度や,位相体積V,そして反応時間Tを掛けます。
すなわち,
dω=(1/2)ΣS,sk~|Sfi(π)|22∫d3k~d3p(VT)-1V
です。
これに,(VT)-1V=[(2π)4δ4(0)]-1,V=(2π)3
を代入すると,
dω=(1/2){(2π)3/(2π)5}(2EP)-1(G2|a|2/2)
∫d3k~d3p{mμ/(2Ek~Ep)}δ4(P-p-k~)
ΣS,sk~|Pμu~(p,s)γμ(1-γ5)v(k~,sk~)|2
={1/(4π2)}(2EP)-1(G2|a|2mμ/2)
∫d3k~(2Ek~)-1d3p(2Ep) -1δ4(P-p-k~)
ΣS,sk~|Pμu~(p,s)γμ(1-γ5)v(k~,sk~)|2
です。
スピン射影演算子:Σ(s)=(1+γ5s)/2 は,
Σ(s)u(p,s)=u(p,s),Σ(s)u(p,-s)=0
を満たす演算子です。これを用います。
mμΣS,sk~|Pμu~(p,s)γμ(1-γ5)v(k~,sk~)|2
=mμ(PμPν)ΣS,sk~[{u~(p,s)γμ(1-γ5)v(k~,sk~)}
×{v~(k~,sk~)γν(1-γ5)u(p,s)}]
=(PμPν)(mμ/2)
ΣS,sk~[{u~(p,s)(1+γ5s)γμ(1-γ5)v(k~,sk~)}
×{v~(k~,sk~)γν(1-γ5)u(p,s)}]
=(1/4)(PμPν)
Tr[(p+mμ)(1+γ5s)γμ(1-γ5)k~γν(1-γ5)]
=(1/2)(PμPν)
×Tr[(p+mμ)(1+γ5s)γμ(1-γ5)k~γν]
=(1/2)Tr[(p+mμ)(1+γ5s)P(1-γ5)k~P]
です。
したがって,
dω={1/(8π2)}(2EP)-1(G2|a|2/2)
∫d3k~(2Ek~)-1d3p(2Ep) -1δ4(P-p-k~)
×Tr[(p+mμ)(1+γ5s)P(1-γ5)k~P]
となります。
故に,dω={G2|a|2/(8π2)}(μ/EP)μ3(mμ/μ)2
∫d3p(2Ep) -1δ((P-p)2)
×[(1/2)(1-mμ2/μ2)+mμ(sp)/μ2] を得ます。
※(注13-2): ∫d3k~(2Ek~)-1δ4(P-p-k~)
=∫d4k~θ(Ek~~)δ(k~2)δ4(P-p-k~)
=θ(EP-Ep)δ((P-p)2) です。
そして,Tr[(p+mμ)(1+γ5s)P(1-γ5)k~P]
= Tr[(p+mμ)P(1-γ5)k~P]
-Tr[γ5(p+mμ)sP(1-γ5)k~P]
=4{2(pP)(k~P)-(kp)P2}
-mμ{Tr(sPk~P])-Tr(γ5sPk~P)}
=4{2(pP)(k~P)-(kp)P2}
-mμ{2(sP)(k~P)-(sk~)P2} (k~=P-p-k)
}
=4[μ2{(pP)+mμ2}-2(pP)2
-mμ{μ2(sP)-2(sP)(pP)}] ですが,
(P-p)2=k~2=0より,P2-2(pP)+p2=0,
そして,P2=μ2,p2=mμ2 なので,
(pP)=(μ2+mμ2)/2 です。
故に,μ2{(pP)+mμ2}-2(pP)2=(μ2mμ2-mμ4)/2
=μ2mμ2(1-mμ2/μ2)/2 であり,
-mμ{μ2(sP)-2(sP)(pP)}
=-mμ(sP){μ2-2(pP)}
=mμ3(sP)です。
以上から.Tr[(p+mμ)(1+γ5s)P(1-γ5)k~P]
=4μ2mμ2{(1/2)(1-mμ2/μ2)+mμ(sP)/μ2}
です。
(注13-2終わり)※
この崩壊率:dω=|G2|a|2/(8π2)}(μ/EP)μ3(mμ/μ)2
∫d3p(2Ep) -1δ((P-p)2)
×{(1/2)(1-mμ2/μ2)+mμ(sP)/μ2}
は,μ粒子の正のhelicity(右巻き:s=sR)で最大です。
このとき,sP=sRP={(1/2)(μ2/mμ)(1-mμ2/μ2)
です。
※(注13-3) sP=s0EP-sPですが,一方,既に以前の
記事で.4元運動量pを持つDirac粒子のスピン4元ベクトル
sμの満たすべき条件を与えました。
それによると,sp=s0Ep-sp=0 なので,
s0=sp/Ep=sβμであり,s2=(s0)2-s2=-1なので
μ粒子の場合,|s|=(1-βμ2)1/2=Ep/mμです。
ただし,c=1の自然単位では,βμ≡vμ/c=vμで,
βμ=|p|/Ep です。
故に,sP=s(βμEP-P)と書けますが,この
(sP)は,初期の崩壊前のπの運動量:Pが決まっている
とき,明らかに,放出されたμのスピンsの向きが,その
μ自身の運動量p=βμEpの向きに一致するとき,最大
になります。
πの静止系では,P=0で,EP=μなので,
sP=s(βμEP-P)=sβμμですから,
sの向きがp=βμEpの向きに一致するとき,このとき
sはhelicityが+1のs=sRを意味しますが,
sP=sRP=sRβμμ=|sR||βμ|μ
=(Ep/mμ)(|p|/Ep)μ=|p|μ/mμ
を得ます。
前記事の最後で記述したように,|p|=|k~|=Ek~
=μ-Ep,かつ,Ep=(p2+mμ2)1/2より,
|p|=(μ2-mμ2)/(2μ)なので.
sRP=|p|μ/mμ=(μ2-mμ2)/(2mμ)
={(1/2)(μ2/mμ)(1-mμ2/μ2)と変形できます。
(注13-3終わり)※
次に,与えられたスピンsを持つμ粒子が,μ- →e-+ν~+ν'~
と崩壊する崩壊率を得るために.「弱い相互作用の旧理論(10)」
のμ粒子の崩壊の項を参照すると,
μ-,e-,ν',ν~の4元運動量:Pμ,pe,pν',pν~
をP,p,k,k~に, それに伴なってEμ,Ee,Eν',Eμ~
を,EP,Ep,Ek,Ek~と書き,さらにμとeの規格化定数:
(mμ/EP)1/2,(me/Ep)1/2をそれぞれ,{1/(2EP)}1/2,
{1/(2Ep)}1/2に置換して整理したμ崩壊のS行列要素は,
Sfi=(-i)(2π)-6[1/{(2EP)(2Ep)(2Ek)(2Ek~)}]1/2
×(2π)4δ4(P-p-k-k~)M ~;および,
M ~=(G~/√2)(4mμme)1/2[uν'~(k)γμ(1-λγ5)uμ(P)]
×[ue~(p)γμ(1-γ5)vν~(k~)] で与えられるのでした。
このS行列要素から,粒子が非偏極のとき,μの崩壊率は,
dω=(1/2)(2π)-5{1/(2EP)}∫d3p(2Ep) -1
d3k(2Ek) -1d3k~(2Ep) -1δ4(P-p-k-k~)Σspins|M ~|2,
および, Σspins|M ~|2
=(|G~|2/2)(4mμme)
Σspins |[uν'~(k)γμ(1-λγ5)uμ(P)]
×[ue~(p)γμ(1-γ5)vν~(k~)]|2
=(|G~|2/2)Tr[γμ(1-λγ5)(P+mμ)γν(1-λ*γ5)k]
×Tr[(p+me)γμ(1-γ5)k~γν(1-γ5)]
で与えられます。
これに,μ崩壊の測定結果から得られた値:λ=+1
を代入します。
π崩壊での終状態のμが偏極していて,そのスピンs
を持って継続してμが崩壊する際の始状態の μのスピンを
sに固定するため,スピ射影演算子:Σ(s)=(1+γ5s)/2を挿入して,
Σspins|M ~|2=(|G~|2/2)
(1/2)Tr[γμ(1-γ5)(1+γ5s)(P+mμ)γν(1-γ5)k]
×Tr[(p+me)γμ(1-γ5)k~γν(1-γ5)](|G~|2/2)
としたもの を計算する必要があります。
以前の非偏極のケースのトレース計算では,
(|G~|2/2)Tr[γμ(1-λγ5)(P+mμ)γν(1-λ*γ5)k]
×Tr[(p+me)γμ(1-γ5)k~γν(1-γ5)]
=32|G~|2{|1-λ|2(kk~)(Pp)+|1+λ|2(kp)(k~P)}
でした。
これに,λ=+1を代入すると,
(|G~|2/2)Tr[γμ(1-γ5)(P+mμ)γν(1-γ5)k]
×Tr[(p+me)γμ(1-γ5)k~γν(1-γ5)]
=128(|G~|2(kp)(k~P) です。
一方,今回の計算は,
Σspins|M ~|2=(|G~|2/4)
Tr[γμ(1-γ5)(1+γ5s)(P+mμ)γν(1-γ5)k]
×Tr[(p+me)γμ(1-γ5)k~γν(1-γ5)] ですが,
これの,Tr[γμ(1-γ5)(1+γ5s)(P+mμ)γν(1-γ5)k]
因子のsを含む項としてはmμを含むものだけが寄与します。
結局,複雑な計算プロセスを省略して結果だけ書くと,
この後者の偏極時のトレース計算では,
Σspins|M ~|2=64|G~|2(kp){k~(P-mμs)}
となります。
ただし,ここでのΣspinsは,射影演算子::Σ(s)=(1+γ5s)/2
を挟んだ総和なので実質的にはμのスピンsは固定して総和
から除外した和を意味します。
これを前者(=非偏極)の不変振幅:M~での総和式:
Σspins|M ~|2=128|G~|2(kp)(k~P)と比較すると,
非偏極式に(1/2)を掛けてP → P-mμs とすることで
μのスピンがsに偏極した場合の結果となることがわかります。
しかし,遷移率dωの評価では非偏極の場合はΣspins|M ~|2をμ
のスピンsで平均するために(1/2)を掛けるのですが,s固定
の場合は逆に(1/2)を掛ける必要はありませんから,(1/2)は
不要で,P→(P-mμs)なる操作のみ意味を持ちます。
そして,dωは
dω=(1/2)(2π)-5{1/(2EP)}∫d3p(2Ep) -1
d3k(2Ek) -1d3k~(2Ek~) -1δ4(P-p-k-k~)
×64|G~|2(kp){k~(P-mμs)} です。
「弱い相互作用の旧理論(11)」で記述した非偏極
のμ崩壊率:
dω=(1/2)(2π)-5{1/(2EP)}∫d3p(2Ep) -1
d3k(2Ek) -1d3k~(2Ek~) -1δ4(P-p-k-k~)
×128|G~|2(kp)(k~P) の
k,k~による積分の実行では,
Iαβ(Q)≡∫d3k(2Ek) -1d3k~(2Ek~) -1kαkβ
δ4(Q-k-k~) ;ただし,Q≡P-pと置き,これが,
Iαβ(Q)=(π/24)(gαβQ2+2QαQβ)となるいう公式
を求めて使用しました。
これを用いると,偏極の崩壊率は,
dω=(2π)-5{1/(2EP)}∫d3p(2Ep) -1
d3k(2Ek) -1d3k~(2Ek~) -1δ4(P-p-k-k~)
×64|G~|2(kp){k~(P-ms))
=(2π)-5{1/(2EP)}∫d3p(2Ep) -1|G~|2
(64π/24)(gαβQ2+2QαQβ)pα(P-mμs)β
となります。
sP=0 なので,)(gαβQ2+2QαQβ)pα(P-mμs)β
={p(P-mμs)}Q+2(pQ){(P-mμs)Q}
=(pP){mμ2+me2-2(pP)}
-mμ(sp){mμ2+me2-2(pP)}
+{2(pP)-2me2}{mμ2+-(pP)+mμ(sp)}
=-4(pP)2+3(pP)(mμ2+me2)-2mμ2me2
-mμ(sp){mμ2+3me2-4(pP)} です。
μの静止系では,Ep=mμであり,
上式右辺=-4(pP)2+3(pP)(mμ2+me2)-2mμ2me2
-mμ(sp){mμ2+3me2-4(pP)}
=-4mμ2Ep2+3mμEp(mμ2+me2)-2mμ2me2
-mμ(sp){mμ2+3me2-4(mμEp)} です。
ここで,微小なme2を無視すると,
右辺 ~ -4mμ3Ep{3-(Ep/mμ)}-mμ3{(sp)/Ep}
{4(Ep/mμ)-1} となります。
d3p(2Ep)-1=(1/2)|p|EpdEpdΩpであり,
|p| ~ Epなのでdω ~ |G~|2mμ2/(48π4)Ep2dEpdΩp
×[{3-4(Ep/mμ)}-{(sp)/Ep}{4(Ep/mμ)-1}]
が得られます。
既に見たように,π崩壊では角運動量保存則から
μ粒子は正のhelicityで生成され放出されます。
そこで,μのスピンsと電子の運動量pについて
<(sp)/Ep>=-s^p^=-cosθ です。
θは,μ粒子のスピンと,その崩壊で放出された電子e
の進行方向:p^のなす角です。
(※何故なら,μの静止系では|s|=1より,s=s^です。
また,me ~ 0 から,p/Ep ~ p^です。
2015年11/12の過去記事:「散乱電子の偏極について」を参照
してください。※)
これから,<dω> ~ |G~|2mμ2/(24π3)dEpd(cosθ)
{3-4(Ep/mμ)}(1-αhcosθ) を得ます。
ここに,αh≡(4Ep-mμ)/(3mμ-4Ep)は非対称パラメータと
呼ばれる量です。
他方,先に計算した偏極していない自由μ粒子の崩壊の
エネルギー分布は,
,(dω /dEp)~ |G~|2mμ2/(12π3){3-4(Ep/mμ)}
でした。
電子の放出角での積分は∫d(cosθ)=2,∫d(cosθ)(1-αh)
=2-αhですから,自由μ粒子でなく,π崩壊から正のhelicityに
偏極して放出されたμ粒子では,,崩壊のエネルギー分布が
(dω /dEp)~ |G~|2mμ2/(12π3){3-4(Ep/mμ)}(1-αh/2)
となることが観測されるはずです。
今日も長くなり過ぎたので,ここで終わります。
(参考文献):J.D.Bjorken & S.D.Drell
”Relativistic QantumMechanics”(McGrawHill)
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