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2016年3月15日 (火)

粒子の弱崩壊におけるV-A結合電子の偏極

唐突ですが,表題の項目について「弱い相互作用の旧理論」 

のシリーズ記事に割り込みます。
 

以前の記事「散乱電子の偏極について」で記述したように,
 

運動する電子のスピン4元ベクトルをsμ(0,)とすると 

これは次の条件を満足します。
 

ただし,相対論を意識する意味で,特にc=1の自然単位ではなく 

通常の光速cを陽に書く単位を用います。
 

この通常の単位で電子の4元運動量をpμ(/,)

すると, 電子の4元スピン:μ(0,)が満たすべき

条件は,

(1) 2=sμμ(0) 2 2=-1  

(2) sp=0,あるいは,0sβです。 

(
※ただし,vを電子速度としてβ=c/E=/cです。)

 

これらの条件は,質量がmの電子の静止系ではpμ(/,0) 

μ(0,),21なので,sp=-sp0, かつ. 

2=sμμ=- 2=-1を満たし,こうした等式の両辺 

が慣性座標系に依らない不変量=Lorentzスカラーである

ことに由来します。
 

そして,ここでの21を満たす3次元スピン,普通,記号

で記述される大きさ1/2のスピン角運動量そのものではなく,

通常はs=σ/2で定義される大きさ1Pauliσに相当する

ものです。
 

ただし,Pauliσ(σ1,σ2,σ3),2成分スピノルに作用する 

2×2行列ですが,ここでの大きさ1は行列としては4成分 

Diracスピノルに作用する4×4行列を想定しています。
 

つまり,ここでの(1,2,3)の各々のsは行列と 

しては,細胞対角成分が共に2×2のPauli行列σkである 

ような4×4の細胞対角行列σ(4)を意味します。
 

Diracのガンマ行列による表現ではγ0γ5γがこの

=σ(4)k(k=1,2,3)に一致します。


 

この定義での物理量(演算子){(sp)/||}helicity 

(ヘリシティ)と呼び,

{(sp)/||}(,)=+u(,) 

を満たす,helicity固有値+1に属する4元スピノル:(,)

に対応する電子を右巻き電子,または正のhelicity(正の偏極)

を持つ電子といいます。
 

同様に,{(sp)/||}(,)=-u(,)を満たす

固有値1に属するスピノル;(,)に対応する電子

を左巻き電子,または,負のhelicity(負の偏極)を持つ電子

といいます。
 

次に,このu(,±)を2成分のφ±,χ±に分割して, 

(,±)[φ±(),χ±()],のように表わすと, 

(,±){(sp)/||}(,±)=±u(,±) 

を満たすことは,


  2
成分スピノルとして
{(σp)/||}φ±()=±φ±(),

かつ,{(σp)/||}χ±()=±χ±()が満たされること

を意味します。
 

pの向きが3軸の正の向きである,(σp)/||=σ3

場合には±1に属する規格化された2成分固有スピノル

をh±すると,+[1,01T,-[0,11Tです。
 

そこで,φ+(),χ+() ∝h+, かつ,φ-()=χ-() ∝h-

であり,(sp)/||=s3の固値±1に属するhelicityが正,

負の固有スピノル:u(,±),,bを適当な係数として, 

(,)[+,ah+]T,(,)[h-,bh-]T,


なる形
に書けることがわかります。
 

ところで,以前の記事「散乱の伝播波関数の理論(9)」など

参照すると,質量がmのDirac粒子の正エネルギー解の陽

な形は,(,)

{(E+m)/(2)}1/2[1,0,3/(E+m),/(E+m)]T 

(,)

{(E+m)/(2)}1/2[0,1,/(E+m),-p3/(E+m)]T 

で与えられます。

(※ただし,±≡p1±i2(複号同順)であり,また,ここでは

c=1の自然単位系に戻っています。)
 

今想定している3軸の正の向きが運動の向きの場合は, 

=p0,=p≡||ですから,このとき,簡単

ために規格化係数:{(E+m)/(2)}1/2をAと書けば,
 

(,)=A[1,0,/(E+m),0],および, 

(,)=A[0,1,0,-p/(E+m)]T です。
 

さらに,先に定義した(σp)/||=σ3の固有値±1に属する 

成分スピノル:±を用いると, 

(,)=A[h+,ph+/(E+m)], 

(,)=A[-,-ph-/(E+m)] 

と簡素化されます。
 

ところが,電子とニュートリノのスピノルでγμ(1-γ5)

はさむレプトンのV-A相互作用が働く場合,電子スピノル

()に左からγμ(1-γ5)がかかるときには,

まず,(1-γ5)が作用して,
 

(1-γ5)(,)=A{1-p/(E+m)}[h+,-h+], 

(1-γ5)(,)=A{1+p/(E+m)}[h-,-h-]

となります。

(※何故なら,今の表示での(1-γ5)は下図の通りです。)

そして,[h+,-h+],{(sp)/||}の固有値+1に属し,

一方, [-,-h-]は固有値―1に属する,それぞれ,,

helicity,helicity固有状態です。
 

このV-A相互作用後には,観測される偏極(helicity)

期待値:(sp)/||,P=(―N)/(+N)

測られます。
 

ただし,helicityが+1(右巻き)で出現する電子数, 

helicityが-1(左巻き)で出現する電子数です。
 

したがって,元々u(,)とu(,)が対等に存在して

いた場合,-A反応の後には,係数;{1-p/(E+m)}

の絶対値の2:|{1-p/(E+m)}|2に比例し,

他方,|{1+p/(E+m)}|2に比例するため,
 

理論的には,
(sp)/||>=P
 

[{1-p/(E+m)}||1+p/(E+m)|2] 

/[|1-p/(E+m)|2|1+p/(E+m)|2] 

-[4/(E+m)]/[{2(E+m)222}/(E+m)2)] 

-[4(E+m)]/[2(E+m)222]=-p/ 


となります。

 

結局,(sp)/||>=P=-β=-v/cとなることが 

わかりました。

 (βは電子速度をvで,光速cを陽に書く単位
ではβe/

で定義される量ですが,c=1の自然単位では,単にβです。

そしてβ=|β|です。)
 

ただ,上記論旨では,電子eのスピノルueをu()と考えて, 

γμ(1-γ5)なるV-A因子を想定して考察しましたが,

実際の中性子nのβ崩壊やμ崩壊では,放出される

反ニュートリノν~とのペア(,ν~),e~γμ(1-γ5)ν~

なる因子として出現しますから,

γμ(1-γ5)ではなくて,直接,e~γμ(1-γ5)
 

なる因子について論じた方が良かったかもしれません。
 

しかし,e~γμ(1-γ5)=ue~(1+γ5)γμであり, 

e~(1+γ5){(1-γ5)}~ですから,

e~γμ(1-γ5)因子から生じるue~(1+γ5)の左巻き,

右巻きは,γμ(1-γ5)因子での(1-γ5)のそれ

と同一と考えられるため,反ニュートリノとのペア

(,ν~)で放出される電子について上記の結果は

(sp)/||>=P=-β=-v/cを得たのと 

同等です。
 

Dirac粒子が電子eであることを強調して添字eを付加

すると偏極の期待値は,

(ee)/|e|>=Pe=-βe=-ve/ 

と表現されます。
 

相対論的極限のve →c(光速) or β 1では, 

100%左巻き電子のみが放出されることになります。
 

e(-N)/(/(+N)は電子の偏極

(helicity)の期待値ですが,e=N/(+N),

e=N/(+N)とおけば,これらPe,e,

それぞれを電子の右偏極率,左偏極率を意味します。
 

e+Pe1であり,期待値P eは比率:e,e

それぞれに,+1,―1のhelicityを掛けた平均値:

e=Pe-Peです。
 

電子速度が光速cになる相対論的極限では 

e=-β→ -1ですが,これは,e0,e1

であり,100%左巻きになることを意味します。
 

さて,逆β崩壊でのレプトンペア(,ν)の陽電子の放出

際しては,これは負エネルギーの電子の入射として先の

β崩壊(,ν~)のレプトン因子:e~γμ(1-γ5)ν~

の代わりに,ν~γμ(1-γ5)e因子となり,


  (1
-γ5)ν~
100%右巻きの反ニュートリノを意味する

のに対し,ν~γμ(1-γ5)=uν~(1+γ5)γμ100

左巻きのニュートリノを意味します。
 

他方,質量mのDirac粒子の負エネルギー解は 

正エネルギー解;()[φ(),χ()]の大成分φと 

小成分χを入れ換えたv()[χ(),φ()]なる形 

になり,
   
(,)=A[+/(E+m),h+],
 

(,)=A2[-p-(E+m),h-]

です。
 

そして,(1-γ5)(,)

=A{/(E+m)-1}[h+,-h+], 

(1-γ5)v(,)

=A{-p/(E+m)-1}[h-,-h-] 

です。
 

Diracの空孔理論(holeTheory)や散乱のFeynman規則

により 電子の負エネルギ-解:(,),運動量が-p

でスピンがアップ(),つまりhelicityが-1

正エネルギーの陽電子を意味し,
 

逆に,(,),運動量が-pでスピンがダウン(), 

つまり,helicityが+1の正エネルギーの陽電子を意味 

するため,


結局,
 (sp)/||>=P 

[|/(E+m)1|2|-p/(E+m)1|2] 

/[|/(E+m) 1|2|-p/(E+m)1|2] 

=p/m=β が得られます。
 

したがって,(ee)/|e|>=Pe=βe=ve/ 

を得ます。
 

 よって,100%左巻きのニュートリノとペアで放出される

陽電子の場合,陽電子速度が光速cになる相対論的極限:

e→c or βe1では,陽電子は100%右巻きとなります。
 

「弱い相互作用の旧理論」の次にアップする予定のπ中間子

の崩壊について過去ノートから草稿を作成していた際に,ここ

までの弱い相互作用の理論展開では,電子など質量がゼロでない

レプトン(軽粒子)の偏極(helicity)について私自身の理解が

十分でなく,かなり誤解があるのでは?との疑いが生じたので
 

ここのところ見えない眼と働きの鈍い頭で,文献や参考書

などを調べて,改めて知見を納得してまとめたのがこの記事

です。
 

間違えていたと思える最近の記事の部分はこれからボチボチ

修正してゆこうと思います。


 
その後にπ中間子の崩壊に移りますね。


PS:この記事を受けて,最近の記事の中で,

「100%偏極したニュートリノとcoupleした,質量のある電子

μ粒子も100%偏極している。」
 という意味の間違った記述を
していた部分については.現時点

(3月16日夜)では,修正が完了したと思います。

 

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