ニュ-トリノの質量とヘリシティ(弱い相互作用補遺)
最近アップしている科学記事は,「弱い相互作用の旧理論」
というシリーズで,素粒子論の比較的専門的なトピックを
具体的な計算式を入れて記述するという.ある意味
堅苦しい文の羅列ですが,
今日は,閑話休題(コーヒー・ブレイク)として,私的には
比較的軽い常識的話の記述でお茶を濁したいと思います。
テーマは,ニュートリノ質量とその左巻き,右巻きの性質
(ヘリシティ)の関係ですから,テーマとしては決して軽く
はないですが。。。。
相対性理論によれば,質量がmの自由粒子の速度ベクトル
をvとすると,そのエネルギーEは,光速をcとして
E=mc2/|1-(v/c)2}1/2であり,運動量pは,
p=mv/|1-(v/c)2}1/2で与えられます。
そこで,1-(v/c)2≧0という条件が満たされなければ,
Eやpを与える式の分母:|1-(v/c)2}1/2が実数であると
いう意味が無くなるので,v2≦c2,つまり,自由粒子の速度
vの大きさv≡|v|は最大でも光速cである必要があります。
すなわち,相対性理論がそれ以前の理論と異なるのは,観測
される粒子の速度には大きさとして限界の速度があって,
それが光速cであるという理論です。
(※ただし,現実的ではないゴーストのような虚数質量の粒子
タキオンの存在を仮定すれば,vが光速cを超えるという想定
での理論展開も可能ではありますが。。。※)
そして,vが光速に等しい:v=cのときには,
1-(v/c)2=0 となるため,E=mc2/|1-(v/c)2}1/2,
p=mv/|1-(v/c)2}1/2なる式の右辺の分母が共にゼロ
で,これらは意味を失ないます。
しかし,分子のmc2やmvもまたゼロであれば,何らか
別の意味の矛盾しない規約を追加して,その場合のEやp
を定めることができるはずです。
まず.E=mc2/|1-(v/c)2}1/2,p=mv/|1-(v/c)2}1/2
から.v=c2p/Eであり,他方,Einsteinの関係式:
E2=c2(p2+m2c2)が成立することがわかります。
質量mがゼロであるかどうか?を考慮せずにエネルギーE
や運動量pの式を与えましたが,上記のv=c2p/Eの方は
m≠0でなければ得られない関係式です。
一方,E2=c2(p2+m2c2)は,m=0ではE2=c2p2であり,
自由粒子のエネルギーは運動エネルギーのみで,あり通常
のエネルギー原点がゼロという規定なら,それは負になる
ことはないため,E=c|p|です。
このm=0の極限でも,v=c2p/Eが成立するとすれば,
E=c|p| と合わせてv=cp/|p|となるため,
v=|v|=cです。
一方,m≠0ならE>c|p|なので,常にv<cです。
そこで,m → +0においての理論式の連続性を考慮して粒子
の質量mがゼロであることと自由粒子の速度の大きさが限界
である光速cに等しいことは同値であると規約します。
実際,例えば光=光子の質量はゼロであって,その速度の大きさ
は,もちろん光速cです。
そして,上記のことは古典論でも量子論でも,これまでの
あらゆる実験観測結果と矛盾しない事実であることが確認
されています。
そこで,ニュートリノνの質量も光と同じく完全にゼロで
あればその運動速度は光速cです。
ニュートリノが光子と異なるのは,それのスピンsが半奇数
のFermi粒子.特にスピンがs=1/2のDirac粒子であること
です。
量子論によれば,Dirac粒子のスピンベクトルを
s=(s1,s2,s3)とし,3軸成分s3の値を測定すると
常に,s3=+1/2,またはs3=-1/2,の,いずれか一方
のみが観測されます。
ここでPauliのσを導入すると,s=σ/2であり
s3=+1/2,またはs3=-1/2は,それぞれσ3=+1,
またはσ3=-1に対応します。
特に粒子の進行方向の単位ベクトル:p/|p|がsの第3軸の
正の向きを示すものとするときは,σ3=σp/|p|ですが,
これをhelicityと呼び,σ3=+1のhelicity:+1の状態を
右巻き(右偏極),σ3=-1の helicity:-1の状態を左巻き
(左偏極)と称するのでした。
そこで,中性子nのβ崩壊やμ粒子の崩壊の際,観測される
電子eと反ニュートリノν~のペアにおいては100%右巻き
の反ニュートリノと大部分は左巻きの電子が観測される
といことが真実なら,それはそのニュートリノνの質量
がゼロであること,を意味すると考えられます。
ところで,スピン1/2の粒子の速度の大きさvが光速cより
も小であれば,観測者が静止状態でそれを見る準拠系として
の慣性系(=観測者は例えば座標原点に固定されていて,
座標系と全く同じ速度で運動するような系)の選択によって
は,その粒子は静止した粒子と観測されることもあります。
つまり,粒子の速度をvと見る準拠系において粒子と
全く同じ速度vで慣性運動している座標系に固定された
観測者にとってはその粒子は確かに静止しています。
もしも,粒子の速度をvと見る同じ準拠系で,それを測定
する慣性系の速度がvを超えるなら,その新しい慣性系を
準拠系として観測者が見る粒子の運動の向きは,元の向き
とは反対になります。
そして,helicityが+1というのは,古典的には運動する
粒子の後方から見て右巻きに螺旋運動して進行する右ネジ
のような意味ですし,他方helicityが-1というのは,その
逆の左ネジの意味です。
しかし,もしも,慣性系を乗り換えることで粒子の進行の向き
が逆転することが可能な場合なら,後方から見て右巻きのもの
は前方から見ると左巻きですから,helicityは逆転します。
ところが,ある慣性系で粒子の速度vの大きさが光速cに
等しいなら如何なる慣性系に乗り換えてもその粒子は相変
わらず光速で進行していて,ましてや静止したり進行方向
が逆転することは無い,というのが相対性理論の骨子の1つ
です。
それ故,例えばニュートリノの質量が真にゼロで.その結果
光速cで運動しているなら,一旦左巻きと観測されれば,常に
そうであり100%左巻きのままです。
この場合は前に回りこむことは不可能です。
「弱い相互作用の旧理論(10)」では,
(※以下再掲);中性子nのβ崩壊n → p+e-+ν~ の
S行列要素は,
Sfi=(-i)(2π)-6{MN2me/(2Eν~EpEnEe)}1/2
×(2π)4δ4(Pn-Pp-pe-pν~)M ;
M =(G/√2)[up~(Pp)γμ(1-αγ5)un(Pn)]
×[ue~(pe~)γμ(1-γ5)vν~(pν~)]で与えられます。
それ故,μ粒子の崩壊:μ- → e-+ν'+ν~のS行列要素
も,上記の不変振幅因子:
M =(G/√2)[up~(Pp)γμ(1-αγ5)un(Pn)]
×[ue~(pe~)γμ(1-γ5)vν~(pν~)]のうちレプトンの
ペア:(e,ν~)が寄与する部分の因子:
[ue~(pe~)γμ(1-γ5)vν~(pν~)]は全く同一である
と仮定します。
これはμ粒子の崩壊でも,100%右巻き反ニュートリノと
大部分が左巻きの電子という偏極率で,このペアが,出現
することを示しています。
したがって,μ-,e-,ν’,ν~の4元運動量:
Pμ,pe,pν’,pν~をそれぞれ,P,p,k,k~と略記すると,
μ崩壊のS行列要素は,
Sfi=(-i)(2π)-6[mμme/{EμEe(2Eν’)(2Eν~)}]1/2
×(2π)4δ4(P-p-k-k~)M ~ ;
M~=(G~/√2)[uν'~(k)γμ(1-λγ5)uμ(P)]
×[ue~(p)γμ(1-γ5)vν~(k~)]
で与えられる,と考えられます。
このとき,λはν'の左巻き率を示すパラメーターである。etc.
(再掲載終了※)と書きました。
そして,不変振幅MやM~の(e,ν~)のペア因子:
[ue~(p)γμ(1-γ5)vν~(k~)]は,反ニュートリノν~の
右巻き率が100%であることを意味しているわけです。
一方,中性子nのβ崩壊での(n,p)ペアの因子 :
[up~(Pp)γμ(1-αγ5)un(Pn)] におけるパラメータ
αの +1からのずれは,中性子nの右巻きからの偏り
(右偏極率),または,陽子pの左巻きからの偏り(左偏極率)
を示しています。
そして,「弱い相互作用の旧理論(6)」においては,観測
との 比較から,
√2CV=(1.015±0.03)×10-5×(1/Mp2)=G
CA=(1.21±0.03)CV=αCV
なる評価が得られていました。
このα~1.21>1という結果は,pもnも質量が約940MeVと
ゼロではなく,そこで当然その運動速度vはcより小さい
ので理にかなった値でしょう。
他方,μ崩壊での(ν',μ)ペア因子:
[uν'~(k)γμ(1-λγ5)uμ(P)]におけるパラメータ
λはν'の左巻き率,または,μの右巻き率に対応します。
「弱い相互作用の旧理論(10)」では,
(※以下再掲):μ崩壊率のエネルギー分布として,
( dω/dE) ~ {|G~|2mμ2Ep2/(48π3)}
×[6|1-λ|2{1-2(Ep/mμ)}+|1+λ|2{3-4(Ep/mμ)}]
を得ます。
この段階で,このエネルギー分布予測を観測と比較すると,
観測は良い精度でλ=+1を支持しています。etc.
(再掲載終了※) と書きました。
さらに,λ=+1としたときのμ崩壊率ωの評価から,その
結合定数G~ が中性子nのβ崩壊のGに2%以内の誤差で
等しいと結論されていました。
もしも,ν'が100%左巻きではないなら,λを実数値と
するとき,必ず.λ>1ですから,このG~とGの2%以内の誤差
をλ=+1の評価の方に負わせれば,正確にG~=Gである
一方,λ~ 1.02程度に+1からのズレがあると
推測されます。
この記事の段階で,(e,ν~)ペアでνと称している
ニュートリノνは電子ニュートリノ:νeであり,(ν',μ)ペア
でν'と称している粒子は,νeとは別のμ-ニュートリノ: νμ
であることが後に確認されました。
もしも,正確にλ=+1なら,νeと同じくνμも100%左巻き
であり,これはνμの運動速度も光速cに等しく質量がゼロ
であることを示唆していると考えられます。
しかしながら,νeとνμ,さらにはそれら両方と異なるτ粒子
の崩壊に伴なうτ-ニュートリノ:ντも存在して,それらの間
に質量差がある証拠とされるニュートリノ振動の存在が,岐阜
のカミオカンデで観測されたことから,ν'=νμの質量は正確
にはゼロではないと考えられ,その反映がλ~ 1.02程度の
λ=+1からのズレに現われるのではないか?と推量される
わけです。
軽い話題と前置きしたのにも関わらず,最後はやや専門的
になりましたが,今日はこれで終わります。
今回の内容には,参考文献はなく単に常識的な知見を総合
したありふれた感想に過ぎません。
PS:ここからは余談です。。。少し暖かくなってきました。
既に頭の中は春ですが。。。
そういえば,ブログ開始が2006年3/20で,もうすぐ10年記念日
ですが,あとチョットでブログのカウンターが100万アクセス
に達しそうです。
さて,近年の私の入院は,大体寒い冬の時期が最も多く,昨年
の5月1日のようにせいぜい春までです。
まあ,中途半端な気候の春の木の芽どきは,昔から精神不安定
になるので,暑い季節にでもなれば比較的体調がよくなるので
しょうか。。。
もうすぐ両足棺桶で,睡眠不足が解消される永眠も近いのに,
ついテレビなどで才能豊かな方を見かけると素直に感心して
ればいいのに年甲斐もなく才能に嫉妬してケチをつけたくなる
のは性格がイジましいからでしょう。
(※最近では,歌手のさだまさしさん,ジャーナリストの池上
さん,行動力のある杉良太郎さんなどに嫉妬。。)
死ぬ前に,神か悪魔に魂を売ってサバン症?のごとく道を
聞いて夕べには死す,とかの道も。。
イヤ,死ぬこと自体,生まれてきた以上だいたい100年以内
に100%この世からいなくなることは,ものごころついた頃
からわかっていて避けられないのを覚悟していて.
男の平均寿命から考えてあと10年も命があるかないか?
というのでアセったりはしてないつもりです。ひょっとして
今日か明日にも道端でバッタリというのもありますからネ。
ただ,痛い熱い苦しいのはイヤだし,麻酔のない手術,介錯
のない切腹とかなら,あるいは認知症,植物状態,私なら
完全な失明でも,残る人生の意味がほぼ無くなるので,でも
自殺の勇気もないので「さあ殺せ」という感じでしょうか。
でも部屋で火事にでもあったら,死ぬの怖くない,と言いながら
も本能的に真っ先にアセって逃げるでしょう。
私のような凡人は,体を切り刻まれていくような拷問を受けたら
最愛の人をも売ってしまうでしょう。
イヤー,つい38年前の1977年暮れの東京で初めて就職した会社
の新人1年目の神楽坂での忘年会の2次会で当時直属の7歳上
の上司に.「オモテへ出ろー」とやって,翌日,辞職願を出した
のを思い出してしまいました。
私.今でもそうですが,唐突に脈絡も関係もない自己主張を
するクセがあって,そのときも日頃のグータラ仕事ブリを説教
されてる最中に,上記の「人間(自分)は拷問には耐えられない
実体だ。」という一般論的持論を述べたのに,おそらく,
「仕事がきつくて拷問だ」という風に誤解されて口論になった
という記憶がよみがえりました。
40年近く経っても執念深いというか,何というか,イヤ進歩が無いと
いうべきか。。。まったくぅ。。。
PS2:歌手の徳永英明さん。。また,「もやもや病」再発という
ことらしいですが,私も2009年夏に友人の春日部の医院での脳の
MRI検査で,そう診断されたことがありました。。
2009年9/10の過去記事「脳の病気?」を参照
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