強い相互作用(湯川相互作用)(16)
現在,「弱い相互作用の旧理論」というシリーズ記事を連載中
ですが,次にアップ予定の項目の「ベクトルカレントの保存:
CVC(Conserved Vector Current)についての草稿を準備中に,
かつての「強い相互作用(湯川相互作用)」のシリーズ記事に
おける,核子のまわりの光子の雲による電磁形状因子:
(Electric Form
Factor)を参照する必要に迫られました。
しかしながら,私の参照ノートには,もちろん,その項目も欠損
なく記述されていますが,
ブログ過去記事を調べてみると,「強い相互作用(湯川相互作用)」
は,2013年3月に,このテーマが終了する直前に,当時63歳の誕生日
(2013年2月1日)に就職したばかりだった練馬区の会社を足の不調
で,1ヶ月ちょっとの,まだ見習い中の3月4日に残念ながら辞職し,
翌々週の3月19日には.順天堂大学付属医院の形成外科に入院して,
足の指を切除する手術をし,以後6月初めまで長期入院となり闘病
生活に入ったため,2013年3月8日にアップした
「強い相互作用(湯川相互作用)(15)」を最後にPending状態に陥り,
そのまま,今まで放置していたのでした。
その後,日本人のノーベル賞受賞に刺激されて,2015年の秋
からは, 「弱い相互作用の旧理論」なるテーマに飛躍したので,
電磁形状因子を含む欠損部分が生じていました。
この部分もその後の素粒子理論の展開に必要な項目なので,
これを機会に,ここ2~3回程度の科学記事として,
「強い相互作用(湯川相互作用)」の残りの部分を続きとして
再開して,このシリーズ記事を完了し,その後,また,
「弱い相互作用の旧理論」に戻りたいと思います。
まず,当時のテーマは,核子N(陽子pと中性子n)同士の散乱
の項目を終了して,π中間子と核子の散乱:π-N散乱の散乱
振幅をπ中間子を交換する湯川相互作用をメインとする核力
の相互作用(強い相互作用)や,アイソスピン対称性
(=荷電スピンのSU(2)対称性)などに基づいて,計算する項目
でした。
記事:「強い相互作用(湯川相互作用)(15)」は,ほとんどが私の
注だけという内容なので,注以外の本文説明がある,それより1つ
前の過去記事: 「強い相互作用(湯川相互作用)(14)」の大部分を
再掲載するところから,思い出しつつ始めようと思います。
(※↓以下,まず「強い相互作用(湯川相互作用)(14)」の再掲載
です。)
π-N散乱の散乱断面積σが,その観測における比の通り,
σ(π+p→π+p):σ(π-p→π0n):σ(π-p→π-p)
=9:2:1 と計算される理由を記述する注からです。
※(注14-1): さらに前の記事:「強い相互作用(湯川相互作用)(13)」
で示した,アイソスピンによる核子,π中間子,および,その合成状態
の記述を示します。
Iをアイソスピン(Isotopic-spin:荷電スピン)の固有値,その
第3軸成分の固有値をI3とすると,I=1/2の核子Nにおいて,陽子
pの状態はI3=+1/2の状態であり,これを示す2成分スピノル
状態関数をχp,I3=-1/2の中性子nの状態をχnとします。
一方,I=1のπ中間子では,I3=+1のπ+状態を|φ+>,
I3=0のπ0状態を|φ0>,I3=-1のπ-状態を|φ->
とします。
φ+,φ0,φ+は,それぞれ,I=1の状態を示す独立な3次元
縦ベクトルです。
このとき,P3/2^をπ-N状態のI=3/2でI3=3/2である状態
の射影演算子とすると,χp+<φ+|P3/2^|φ+>χp=1 です。
一方,χn+<φ0|P3/2^|φ->χp
=χn+{φ0*φ--(1/3)(τφ0*)(τφ-)}χp
=χn+{(2/3)φ0*φ--(1/3)iτ(φ0*×φ-)}χp
も成立します。
φ0*φ-=φ(3)(φ(1)-iφ(2))/√2=0
φ0*×φ-=(φ(3)×φ(1)-iφ(3)×φ(2))/√2
=(φ(2)+iφ(1))/√2=i)(φ(1)-iφ(2))=iφ- より,
-(1/3)iτ(φ0*×φ-)=(τ1-iτ2)/(3√2) です。
(τ1-iτ2)χp =2τ-χp=2χnなので.
χn+{(2/3)φ0*φ--(1/3)iτ(φ0*×φ-)}χp=√2/3
を得ます。
同様に,χp+<φ-|P3/2^|φ->χp
=χp+{(2/3)φ-*φ--(1/3)iτ(φ-*×φ-)}χp
=2/3-(1/3)χp+τ3χp=1/3 です。
よって,I=3/2のチャネルにおいては,
π+p→π+p,π-p→π0n,π-p→π-p
の散乱振幅(S行列要素Sfi)の比は,1:√2/3:1/3,確率
の比は9:2:1 となることがわかります。
あるいは,アイソスピン固有状態を|I,I3>で表現すると,
|π+>=|1,1>,|π0>=|1,0>,|π->=|1,-1>,
|p>=|1/2,1/2>,|n>=|1/2,-1/2> です。
そこで,これらの合成から得られる状態のうち,I=3/2の
固有状態は,|3/2,3/2>=|1,1>|1/2,1/2>=|π+p>,
√3 |3/2,1/2>=√2 |1,0>|1/2,1/2>+|1,1>|1/2,―1/2>
より,|3/2,1/2>=(√2/√3)|π0p>+(1/√3)|π+p>,
同様に,|3/2,-1/2>
=(√2 /√3)|1,0>|1/2,-1/2>+(1/√3)|1,-1>|1/2,1/2>
=(√2/√3)|π0n>+(1/√3)|π-p>,
|3/2,-3/2>=|1,-1>|1/2,-1/2>=|π-n> です。
※参考のため,I=1/2の固有状態の合成表現も羅列してみると,
|1/2,1/2>
=-(1/√3)|1,0>|1/2,1/2>+(√2/√3))|1,1>|1/2,-1/2>
=-(1/√3)|π0p>+(√2/√3))|π+n>,
|1/2,-1/2>
=-(√2/√3)|1,-1>|1/2,1/2>+(1/√3))|1,0>|1/2,-1/2>
=-(√2/√3)|π-p>+(1/√3))|π0n> です。※
以上から,逆に,|π+p>=|3/2,3/2>,|π-n>=|3/2,-3/2>,
|π0p>=(√2/√3)|3/2,1/2>-(1/√3)|1/2,1/2>,
|π-p>=(1/√3)|3/2,-1/2>-(√2/√3)|1/2,-1/2>,
|π0n>=(√2/√3)|3/2,-1/2>+(1/√3)|1/2,-1/2>,
|π+n>=-(1/√3)|3/2,1/2>-(√2/√3)|1/2,1/2>
と表現されます。
よって,I=3/2のチャネルのみでは,
<π+p|P33|π+p>:<π0n|P33|π-p>
:<π-p|P33|π-p>=1:√2/3:1/3 です。
ただし,P33は,アイソスピン射影演算子:P3/2^と,同様な
スピンが3/2のスピン射影演算子Q3/2^の直積の(3,3)チャネル
の射影演算子を意味します。P33=P3/2^Q3/2^です。
(注14-1終わり)※
次に,このエネルギー領域では,散乱は,主として,I=J=3/2
のチャネルを通るというこれらの示唆で,先に求めた散乱の
微分断面積の式:
[dσ33(π+p)/dΩ] C.M.~ {4f2/(3ωμ2)}2q4(1+3cos2θ)
の妥当性を,2つの一般的な観測の助けを借りて拡張すること
を試みます。
まず,[dσ33(π+p)/dΩ] C.M.~ {4f2/(3ωμ2)}2q4(1+3cos2θ)
のエネルギー依存性は,ω→ ∞(q→ ∞)に対して,σ→ ∞を予測
するため,低イエネルギー閾値の近傍を除いては,現実的では無いこと
に着目します。(μをπの質量としてω=q2/(2μ)です。)
実際の全断面積:σの大きさには,エネルギーと共に無限大に増大
するわけではなく,ユニタリ[性(確率の保存)の結果として上限が
存在します。
純粋に伝播関数の理論の枠内でS行列のユニタリ性を論じるのは
難しいので,ここでは,単に非相対論的散乱理論の一般的結果から
のいくつかのことを用いることにします。
1.与えられたチャネルに対して,散乱振幅は次の形を取ります。
t ∝ (1/q)exp(iδ)sinδ=1/{q(cotδ-i)}
(※tは散乱振幅:f(θ)をπの軌道角運動量lを持つ部分波
の総和に展開したときのP波(l=1)の項の寄与です。)
qは慣性中心系(重心系)での粒子の運動量で,δは前に述べた
ように,チャネルの散乱による位相のずれ(phase-shift)です。
もしも,同じ量子数について弾性散乱に匹敵する非弾性チャネル
がないならδは実数(弾性散乱)です。
※(注14-2):非相対論的な1粒子の中心対称ポテンシャルによる
散乱の散乱状態波動関数:Ψ(r)は,
散乱前の粒子が運動量qで入射する平面波が,(q,q')=|q|2cosθ
なる散乱角θで散乱された後の球面波と重みf(θ)で重ね合わせられた
定常状態になるという描像で,
r→ ∞で,Ψ(r) ~ exp(iqr)+f(θ) exp(iq'r)/rのような
漸近形を持つという境界条件で定式化されます。
この式で定義される散乱振幅:f(θ)は角運動量lの部分波に展開
され,f(θ)={1/(2iq)}Σl=0∞(2l+1){Sl(q)-1}Pl(cosθ)
={1/(2q)}Σl=0∞(2l+1)Tl(q)Pl(cosθ),
ただし,Sl(q)=1+iTl(q) と表わすことができます。
そして,位相のずれδlは,S行列成分:Sl(q)=1+iTl(q)の散乱
されず素通りする前方散乱成分の1を除く部分(=T行列):Tl(q)
について:Tl(q)≡2exp(iδl)sinδlで定義されます。
散乱が弾性散乱のときは,|Sl(q)|=1なので,Tl(q)が1に比して
微小とすれば,
{1-iTl(q)*}{1+iTl(q)|~1+i{Tl(q)-Tl(q)*}=1
から,Tl(q)は実数であり,Tl(q)=exp(iδl)sinδl ~ δl
より,位相のずれ:δlも実数であると結論されます。
f(θ)の展開で,l=1のP波の成分をtとし,その位相のずれ:
δ1を単にδと書けば,P1(cosθ)=cosθより,
t=(3/2)(1/q)exp(iδ)sinδcosθです。
そして,exp(iδ)sinδ=sinδ/exp(-iδ)
=sinδ/(cosδ-isinδ)=1//(cosδ/sinδ-i)
=1//(cotδ-i) ですから.
t=(3/2)cosθ[1/{q(cotδ-i)}となります。
したがって,t ∝ (1/q)exp(iδ)sinδ=1/{q(cotδ-i)}
なることが示されました。
(注14-2終わり)※
2.軌道角運動量が,~lで,全角運動量がJ=l+1/2のチャネル
の全断面積への寄与は,σtotJ,l≦{4π(2J+1)/2}/q2 のように
限定されます。
つまり,ユニタリ性の結果,|Sl(q)|≦1から,断面積σに上限が
あることが示されます。
※(注14-3): 入射波の方向を特にz軸に取り,exp(iqr)=exp(iqz)
とした場合,χ±をスピン1/2がある場合のスピンが±の状態関数
とすれば,
Ψ(r)χは,r~ ∞で,
exp(iqz)χ± ~ {1/(2iqr)}[Σl=0∞(2l+1)
{exp(iqr)-(-1)lexp(-iqr)}Pl(cosθ)]χ±
です。
(※:スピンがゼロの1粒子πが固定されたスピンが1/2の標的p
またはnの作る中心対称ポテンシャルで散乱されるという1粒子
量子力学の散乱では,散乱される1粒子πの状態関数は,単に
Ψ(r)であって,標的であるスピンが1/2のpまたはnのスピン
状態関数:χ=[χ+,χ-]Tなどは無関係のはずですが,
ここでは,角運動量に関しては散乱された状態をπと核子N
(p,またはn)が合成された,スピンとしては,1/2の|πN>
状態のΨ(r)χのような状態関数で表現されるよう拡張
しました。
そして,(3,3) チャネルは,全角運動量としては,J=3/2の
状態への部分波散乱を意味しますが,これはスピンだけで
なく軌道角運動量lとの合成が3/2という意味です。※)
J=l+1/2で,Jz=J3=±1/2の場合:l+≡J-1/2=l,
l-≡l+1/2=l+1と定義します。
くどいようですが,間違いやすいので念を押すと,
J=l++1/2=l--1/2 です。
l+=lを用いた表現では,
|J,1/2>=|l++1/2,1/2>
={(l++1)/(2l++1)}1/2Yl+0χ+
+{l+/(2l++1)}1/2Yl+1χ-
|J,-1/2>=|l++1/2,-1/2>
={(l++1)/(2l++1)}1/2Yl+0χ-
+{l+/(2l++1)}1/2Yl+-1χ+ であり,
他方,同じものを,l-=l+1を用いて表現すると,
|J,1/2>=|l--1/2,1/2>
={l-/(2l-+1)}1/2Yl-0χ+
-{{(l-+1)/(2l-+1)}1/2Yl-1χ-
|J,-1/2>=|l--1/2,-1/2>
=-{l-/(2l-+1)}1/2Yl-0χ-
+{{(l-+1)/(2l-+1)}1/2Yl--1χ+ です。
Spinのない場合には, 入射波がΨ(r)=exp(iqz)のとき,
r~∞で,Ψ(r) ~ {1/(2iqr)}
[Σl=0∞(2l+1){Slexp(iqr)-(-1)lexp(-iqr)}Pl(cosθ)]
=exp(iqz)+{exp(iqr)/(2iqr)}
[Σl=0∞(2l+1)(Sl-1)Pl(cosθ)] であり,
f(θ)={1/(2iq)}[Σl=0∞(2l+1)(Sl-1)Pl(cosθ)]
=(1/q)}[Σl=0∞(2l+1)exp(iδl)sinδlPl(cosθ)]
でした。
一方,Spin:1/2がある場合は,まず,軌道角運動量lが固定なら,
|l+1/2,1/2>
={(l+1)/(2l+1)}1/2Yl0χ++{l/(2l+1)}1/2Yl1χ-
|l-1/2,-1/2>
=-{l/(2l+1)}1/2Yl0χ-+{{(l+1)/(2l+1)}1/2Yl-1χ+
より,
(2l+1)1/2Yl0χ+
=(l+1) 1/2|l+1/2,1/2>-l1/2|l-1/2,1/2>,
(2l+1)Pl(cosθ)χ+
=(4π) 1/2{(l+1)1/2|l+1/2,1/2>-l1/2|l-1/2,1/2>
です。
同様に,(2l+1)Pl(cosθ)χ-
=(4π) 1/2{(l+1)1/2|l+1/2,-1/2>+l1/2|l-1/2,-1/2>
です。
Spin波動関数以外の座標の波動関数は,
Ψ(r) ~ {1/(2iqr)}[Σl=0∞(2l+1)
{Slexp(iqr)-(-1)lexp(-iqr)}Pl(cosθ)]
ですから,lが保存される散乱の場合,Jz=J3=±1/2の寄与
は,前方散乱以外では,r~∞で,J=l+1/2とJ=l-1/2,
の重ね合わせとなります。
例えば,入射波のスピンが+のときには,
Ψχ+~ {exp(iqr)1/(2iqr)}
[Σl=0∞(2l+1)(Sl-1)Pl(cosθ)χ+
~ {exp(iqr)1/(2iqr)}(4π)1/2
[Σl=0∞(Sl-1){(l+1)1/2|l+1/2,1/2>
+l1/2|l-1/2,-1/2>}] と書けるはずです。
しかし,今問題としている散乱では軌道角運動量lではなく
全角運動量Jが保存されるため,Jz=J3=±1/2の場合の寄与
には,同じJに対してJ=l++1/2=l--1/2で与えられる軌道
角運動量のペア:l+=l=J-1/2.とl-=l+1=J+1/2の寄与
があります。
それ故,前方散乱以外では,r~∞で,スピノルをΨ=[ψ+,Ψ-]T
と2成分で表現すると,上成分:J3=+1/2の成分は,
Ψ+ ~ {1/(2iqr)}exp(iqr)(4π)1/2
[Σl=0∞{(Sl+-1)(l++1)1/2|l++1/2,1/2>
-(Sl--1)l-1/2|l--1/2,1/2>} です。
また,J3=-1/2の下成分は,
Ψ- ~ {1/(2iqr)}exp(iqr)(4π)1/2
[Σl=0∞{(Sl+-1)(l++1)1/2|l++1/2,-1/2>
+(Sl--1)(l-+1)1/2|l--1/2,-1/2>}
です。
ただし,上の表現式でのΣl=0∞は,l=l-=l++1のlによる
総和を意味します。
ここで,fl±を
fl±≡(Sl±-1)/(2iq)=exp(iδl±)sinδl±/q
と定義すると,散乱振幅:f(θ)=[f(θ)+,f(θ)-]T
についても
f(θ)+(4π)-1/2
=Σl=0∞{(Sl--1)(l-+1)1/2|l+1/2,-1/2>
+(Sl--1)(l-+1)1/2|l--1/2,-1/2>}
=Σl=0∞[(2l++1)-1/2{fl+(l++1)Yl+0χ+
+fl+{l+(l++1)}1/2Yl+1χ-}
-(2l-+1)-1/2{fl-l-Yl-0χ+
-fl-{l-(l-+1)}1/2Yl-1χ-}]
=Σl=0∞[(2l-1)-1/2{fl-1lYl-10χ+
+fl-1{l(l-1)}1/2Yl-11χ-}
-(2l+1)-1/2{fllYl0χ+-fl{l(l+1)}1/2Yl1χ-}]
同様に,f(θ)-(4π)-1/2
=Σl=0∞[(2l-1)-1/2{fl-1lYl-10χ-
+fl-1{l(l-1)}1/2Yl-1-1χ+}
-(2l+1)-1/2{fllYl0χ-
-fl{l(l+1)}1/2Yl-1χ+}] となります。
したがって,σtot±=∫|f(θ)±|2dΩ
=4πΣl=0∞[(2l-1)-1{l2+l(l-1)}|fl-1|2
+[(2l+1)-1{l2+l(l+1)}|fl|2]
=4πΣl=0∞l{|fl-1|2+|fl|2}
固定J値のみの寄与は,
4πl{|fl-1|2+|fl|2}=4π(2J+1)/(2q2)}
{|sinδl-1|2+|sinδl|2} です。
結局,σtotJ±≦4π(2J+1)/(2q2)}が満たされることが
わかります。 (注14-3終わり)※
(※以上,「強い相互作用(湯川相互作用)(14)」の再掲載終了)
次の記事「強い相互作用(湯川相互作用)(15)」は,ここで必要な
非相対論的散乱理論の一般的結果の第3の項目である:
3.有効距離展開;q(2l+1)cotδ=a+bω+cω2+..
が低エネルギーで良い近似を与える。
ということの根拠を述べた私の(注15-1)のみがその内容です。
これの再掲載は割愛します。直接過去記事を参照してください。
これで,,非相対論的散乱理論の一般的結果からの必要事項は
いくつかの注により根拠を示すことができたので,再び箇条書き
にして記載しておきます。
1.与えられたチャネルに対して,散乱振幅tは次の形を取る。
t ∝ (1/q)exp(iδ)sinδ=1/{q(cotδ-i)}
ただし,qは慣性中心系(重心系)での各粒子の運動量であり,
δはチャネルの位相のずれ(phase-shift)です。
同じ量子数について,弾性衝突に匹敵する非弾性のチャネルがない
なら,δは実数です。
2.軌道角運動量がlで全角運動量がJ=l+1/2のチャネルの
全断面積への寄与は,σtotJ,l≦{4π(2J+1)/2}/q2 のように
限定される。
3.有効距離展開;q(2l+1)cotδ=a+bω+cω2+..
が低エネルギーで良い近似を与える。
の3つの事項です。
さて,既に§10.6のπ-N散乱(Meson-Nucleon Scattering)で見た
ように,小さいエネルギーの分母 ~ωと,P波相互作用の相互的に
長い時間スケール~1/ωは,P波の強いエネルギー依存性を自然に
予想させます。
それ故,(3,3)チャネル(I=J=3/2)に対する,
q(2l+1)cotδ=a+bω+cω2+..において,Born近似での高次
の補正は無視できません。
すなわち,不変振幅:
M ~ (-ig02/M)[u+(s2)χ2+]<φ2|(Pi/2^+P3/2^)|φ1>]
[u(s1)χ1]
-{ig02/(4M2)}(4πq2/3)[u+(s2)χ2+]
<φ2,q2|[9P11^/ω-{4P33^-2P13^-2P31^+P11^}/ω]
|φ1,q1>[u(s1)χ1] において,
P波に対応する第2項は,
-{ig02/(4M2ω)}(4πq2/3)[u+(s2)χ2+]
<φ2,q2|(8P11^+2P13^+2P31^-4P33^)]|φ1,q1>
[u(s1)χ1] です。
そして,q(2l+1)cotδ=a+bω+cω2+.. においては,
このチャネルでのBorn近似の引力を強めるような大きさが負の
係数cに導くと予想されます。
※(注16-1):何故なら,引力のときの位相のずれδは正で,
a=0,b>0のとき,cotδ ~ 1/δ ~bω+cω2+..ですが,
これはc<0ならω2に対して減少するため,δはω2と共に増加
します。 (注16-1終わり)※
dσ33(π+p)/dΩ ~ {4f2/(3ωμ2)}2q4(1+3cos2θ)
を書き直すと,
dσ33(π+p)/dΩ ~ (1/q2)|exp(iδ33)sinδ33}2(1+3cos2θ),
かつ,[exp(iδ33)sinδ33]Born ~ 4q3f2/(3ωμ2)
なる表現 を得ます。
※(注16-2): 上記を証明します。
まず,前回までで詳述したように,ポテンシャル散乱の一般論
から, 中心対称なポテンシャルによる散乱の散乱状態の
波動関数Ψ(r)は,r→∞で,
Ψ(r) ~ exp(iqr)+f(θ) exp(iq'r)/r のような
漸近形を持ちます。
この散乱される粒子にスピン1/2がある場合には状態関数を
Ψ=[ψ+,ψ-]Tと書き,f(θ)=[f(θ)+,f(θ)-]Tとして,
r→∞で,Ψ ~[ exp(iqr)+f(θ) exp(iq'r)/r]
となりますが,スピン3軸成分が+でも-でも,
散乱の微分断面積は,dσ/dΩ=|f(θ)±|2で与えられます。
散乱振幅:f(θ)は角運動量lの部分波に展開できて,
f(θ)={1/(2iq)}Σl=0∞(2l+1){Sl(q)-1}Pl(cosθ)
={1/(2q)}Σl=0∞(2l+1)Tl(q)Pl(cosθ),
Sl(q)=1+iTl(q) と表わすことができます。
Tl(q)=exp(iδl)sinδlと書いた時のδlが位相のずれです。
f(θ)の展開においてl=1のP波の成分をt,その位相のずれ
:δ1を単にδと書けば,t=(3/2)(1/q)exp(iδ)sinδcosθです。
そして,exp(iδ)sinδ=sinδ/exp(-iδ)=sinδ/(cosδ-isinδ)
=1//(cosδ/sinδ-i)=1//(cotδ-i) ですから.
t=(3/2)cosθ[1/{q(cotδ-i)} と書けます。
したがって,P波の振幅tは,
t ∝ (1/q)exp(iδ)sinδ=1/{q(cotδ-i)}
なる挙動をします。
改めてP波の位相のずれをδ1とすると,
(注14-3)から,J=l+1/2 でJが保存されるとき,
fl=(1/q)exp(iδl)sinδlであって,
f(θ)+=(4π)1/2Σl=0∞[(2l-1)-1/2{fl-1lYl-10χ+
+fl-1{l(l-1)}1/2Yl-11χ-}
-(2l+1)-1/2{fllYl0χ+-fl{l(l+1)}1/2Yl1χ-}]
f(θ)-=(4π)1/2Σl=0∞[(2l-1)-1/2{fl-1lYl-10χ-
+fl-1{l(l-1)}1/2Yl-1-1χ+}
-(2l+1)-1/2{fllYl0χ--fl{l(l+1)}1/2Yl-1χ+}]
です。
l=1のP波に関わる項のみが寄与しては,
f1=(1/q){exp(iδ1)sinδ1であり,
f(θ)+=(4π)1/2[-3-1/2{f1Y10χ+-21/2f1Y11χ-]
f(θ)-=(4π)1/2[-3-1/2{f1Y10χ--21/2flY1-1χ+]
ですが,l=1の球面調和関数は具体的には,
Y10=(3/4π)1/2cosθ,Y11=-(3/4π)1/2sinθexp(iΦ),
Y1-1=(3/8π)1/2sinθexp(-iΦ)ですから,
4|Y10|2+2|Y1±1|2=(3/4π)(4cos2θ+sin2θ)
=(3/4π)(3cos2θ+1) です。
それ故,l=1の位相のずれδ1を,特にl=1,J=3/2の(3,3)
チャネルのみによる位相のずれ:δ33で代表させると,
dσ/dΩ ~ (1/q2)|exp(iδ33)sinδ33|2(1+3cos2θ)
と書けます。
一方,
[dσ33(π+p)/dΩ] C.M.~ {4f2/(3ωμ2)}2q4(1+3cos2θ)
ですから,これを上のdσ/dΩのを与える部分波振幅の式を
比較し,C.M系でのdσ/dΩとdσ33(π+p)/dΩとを等置
することにより,[exp(iδ33)sinδ33] C.M. Born ~ 4q3f2/(3ωμ2)
を得ます。
(注16-2終わり)※
t ∝ (1/q)exp(iδ)sinδ=1/{q(cotδ-i)}でしたから
exp(iδ33)sinδ33=1/(cotδ33-i)です。
そして,上記のように,C.M系でのBorn近似では,
[exp(iδ33)sinδ33] Born ~ 4q3f2/(3ωμ2)を得ました。
したがって,このオーダーでは,[q3cotδ33]Born~ 3ωμ2/(4f2)
です。
これをq(2l+1)cotδ=a+bω+cω2なる展開式比較すると
l=1のP波では,a=0,b ~ 3μ2/(4f2)を得ます。
このωによるベキ展開の次の係数cを決定して,散乱長への
有効レンジ補正を含む公式に発展させるためには,低エネルギー
近似計算の限界を超える必要があります。
既に,(3,3)チャネルでのq3cotδ33=a+bω+cω2の係数c
が負であるという予想をしました。何故なら,この負符号は他の
チャネルと逆に引力ポテンシャルに対応するからです。
そこで,このcの負符号まで含めた低エネルギー近似を書くと,
q3cotδ33=+{3ωμ2/(4f2)}(1-ω/ωr)なる形に書けます。
これは,f2 ~ 0.08,あるいは同じことですが,g02/(4π)~14
とし,ωr ~ 2.2μとすれば,π+p散乱実験との良い一致が
見られます。
この式:q3cotδ33=+{3ωμ2/(4f2)}(1-ω/ωr)は,固定
された核子源(ω/M→0の極限)に関する中間子理論から,
§10.6のπ-N散乱の節で与えた散乱振幅の表式:
Sfi=(2π)-6{M2/(4Ep1Ep2ωq1ωq2)}1/2
×(2π)4δ4(q2+p2-q1-p1)M;
M=(-ig0)2χ2+u~(p2,s2)[φ2*τiγ5i{γ(p1+q1)-M}]-1
iγ5τφ1+τφ1iγ5i{γ(p1-q2)-M}]-1iγ5τφ2*]
u(p1,s1)χ1 において,なされたような結合定数のベキ展開に
頼ることにより,ChewとLowによって,初めて導出された評価式です。
途中ですが,例によって夢中で書いてiいるうちに1記事としては
長くなり過ぎたと思われるので,今日は,ひとまず終わります。
(参考文献):J.D.Bjorken & S.D."Drell
"Relativistic QantumMechanics”(McGrawHill)
PS:先週金曜日の同期会?に続き,今週の4/22(金)夜は毎月1回
恒例の飲み会でした。楽しかったのですが,最近昼夜の温度差が
大きいこともあり,体調がやや変だったので,いつもは午前様で
したが,昨夜は23時ころには帰宅してゲロを吐き,その後熟睡し
たようです。
目覚めると夜中の3時半頃で,落ち着いたので.書きっぱなし
だったブログを編集し直しました。
土曜日だし、もう1回寝直します。永眠も近い?
(今,23日(土)早朝の4時50分です。)
※ずいぶん昔の正社員時代には,晴眠雨眠,垢デミック,。。
ワーニング・プロチョンなどと呼ばれていたの思い出しました。
デブだったし,昼食が大盛りでないと,ウワサになり,
どこか悪いのでは?と疑われました。
今も昔もイジられやすい。。。
千石不動産の近くにあって,飲みに行くたびに「死神が来た(失礼な!)」
と言われていたスナック「無我」が,巣鴨一番街に移転しているのを
発見。。近々行ってみよう。。。
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