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2016年4月26日 (火)

強い相互作用(湯川相互作用)(17)

前回の記事:「強い相互作用(湯川相互作用)(16)」は,記事が

長過ぎるという理由で,やや中途半端なところで終わりました。


その続きです。
 

前記事の続きなので,まず,その記事の最後の部分を再提示します。
 

.M系でのBorn近似では,[exp(iδ33)sinδ33] Born

  432/(3ωμ2)ですから,このオーダーで,

[3cotδ33]Born 3ωμ2/(42) です。
 

※(注 17-1):途中からなので,改めて式における記号のいくつか

説明 しておきます。
 

文中の単位は全てc=hc1の自然単位です。

(cは光速,hはPlank定数でhc≡h/(2π)です。)
 

π-N散乱において,質量がMの核子N(,またはn)

衝突するπ中間子の質量をμ,そのエネルギー:運動量4元ベクトル

を,μ(0,)とします。q0(2+μ2)1/2です。
 

また,ωはω≡q0(2+μ2)1/2で定義されるπのエネルギー. 

はその運動量であり,q≡||と定義しています。
 

また,核子:Nのエネルギー:運動量4元ベクトルはpμ(0,) 

です。p0(2+M2)1/2です。
 

π-N散乱のC.M系とは慣性中心系(Center of Mmass System

重心系)を意味し,衝突前には0を満たす慣性系です。
 

実験室系とは,衝突前には核子Nが静止した標的であるような

慣性系:μ(0,)(,0)となる座標系です。
 

一般に実験室系と慣性中心系では散乱(微分)断面積の値は

違います。
 

また,軌道角運動量がlの部分波散乱振幅における位相のずれ

δで記述います。


  ただし,ここで用いている
δ33はアイソスピンも含む(3,3)チャネル

の部分波振幅における位相のずれ:つまり,全アイソスピンが3/2

のπp散乱で,角運動量も軌道角運動量がl=1のP波と陽子p

のスピン1/2の総和として,全角運動量が3/2のチャネルの部分波

振幅における位相のずれの意味です。
 

(17-1終わり)
 

[3cotδ33]Born 3ωμ2/(42)なる式,

(2l+1)cotδ=a+bω+cω2のl=1の式と比較すると,

a=0,b~3μ2/(42)を得ます。
 

このωによるベキ展開の次の係数cを決定して,散乱長への有効

レンジ補正を含む公式に発展させるためには,低エネルギー近似

計算の限界を超える必要があります。
 

既に,(3,3)チャネルでのq3cotδ33=a+bω+cω2の係数c

が負であるという予想をしました。何故なら,この符号は他の

チャネルと逆に引力ポテンシャルに対応するからです。
 

そこで,このcの負符号まで含めた低エネルギー近似を書くと, 

3cotδ33=+{3ωμ2/(42)}(1-ω/ω)なる形に書けます。
 

これは,20.08,あるいは同じことですが,02/(4π)14とし, 

ω2.2μとすればπp散乱実験との良い一致が見られます
 

(※f2{02/(4π)}{μ/(2)}2,μ~140MeV,M~ 940MeVです。)
 

式:q3cotδ33=+{3ωμ2/(42)}(1-ω/ω),固定された

核子源(ω/M→0の極限)に関する中間子理論から,§10.6

π-N散乱の節で与えた散乱振幅の表式: 

fi(2π)-6{2/(412ω1ω2)}1/2 

×(2π)4δ4(2+p2-q1-p1)

(i0)2χ2~(2,2)[φ2τiγ5i{γ(1+q1)-M}]-1 

iγ5τφ1τφ1iγ5i{γ(1-q2)-M}]-1iγ5τφ2] 

(1,1)χ1

において,なされたような結合定数のベキ展開に頼ることにより,

ChewLowによって,初めて導出された評価式です。
 

さて,ここからが,前からの続き=今回の新たな記事です。
 

(17-2):ωは,ω≡q0(2+μ2)1/2で定義されるπ

 中間子エネルギーですが,ωが実際に意味のあるπの

 エネルギーなら,ωもq=||も正の実数ですから,

 ω=(2+μ2)1/2≧μを満たすはずです。
 

こうした実際にωがπの取り得るエネルギーであり,ω≧μ

を満たすとき,ωの値を物理的値といい,ωの作る複素平面

上のω≧μの実数半直線領域をωの物理的領域といいます。
 

 そして,ωが取り得る下限値:ω=μを物理的領域の閾値

 いい,ます。他方,ω<μの実数半直線上や,他の複素平面領域

 を非物理的領域と呼びます。  (17-3終わり)
 

dσ33(π)/dΩ

(1/2)|exp(iδ33)sinδ33}2(13cos2θ), 

かつ,[exp(iδ33)sinδ33]Born 432/(3ωμ2)

のω=0 おける特異性:つまり,特異点:ω=0はω=μにおける

物理的閾値より下の非物理的領域にありますが,これはBorn振幅

でのエネルギー分母がゼロになることに起因すると見なすことが

できます。
 

(17-3):まず.2013年1/9の過去記事:

「強い相互作用(湯川相互作用)(10)より,一部を再掲載して

 π-N散乱の復習をします。
 

次の図10.8Feynman-diagram,結合定数:02/(4π)

オーダーの最低次の核子Nによるπ中間子の散乱を記述して

います。

 Feynman-ruleによって,図の散乱振幅は,

fi(2π)-6{2/(412ω1ω2)}1/2

×(2π)4δ4(2+p2-q1-p1)M です。
 

ただし,は不変振幅で,(i0)2χ2~(2,2) 

[φ2τiγ5i{(11)-M}]-1iγ5τφ1 

τφ1iγ5i{(12)-M}]-1iγ5τφ2](1,1)χ1 

です。
 

交叉対称性(Crossing symmetry)というものが存在して,

fi,φ1 φ2,1 ⇔ -q2 なる交換の下で不変です。
 

この交換の下での対称性は,最低次だけでなく全ての高次の

摂動においても保持されることがわかります。
 

Feynman-diagramから10.8a図の1つのように終状態でπが放出

されるよりも前に始状態で入射するπが吸収されるようなグラフ

の1つ1つの図に対して,10.8b図のように終状態でπが放出

されるより後に始状態で入射するπが吸収されるだけ異なる

グラフが1つずつ存在します。

(↑ここまでが再掲載部分です。)
 

π-N散乱の中間状態の核子伝播関数は,2つの交差グラフで, 

1/{(±)-M}であり,この分母を有理化すると, 

1/{(±)-M}{(±)+M}/{(p±q)2-M2}ですが,
 

π-N散乱の最低次グラフでは,伝播関数の両端の頂点に結合

する核子線もπの線も実粒子を示す外線であって,質量殻上に

あるため:2=M2,かつ,2=μ2より,分母は

{(p±q)2-M2}=±2pq+μ2 です。
 

さらに,標的核子の静止系=実験室系では,μ(0,)

(,0)なので,ω=q0として.

{(p±q)2-M2}=±2pq+μ2=±2Mω+μ2 です。
 

したがって,結局,1/{(±)-M}

{(±)+M}/(±2Mω+μ2) です。

よって,分母がゼロになるωの極は,ω=ω1≡μ2/(2),

または,ω=ω2≡-μ2/(2)の1位の極ですが,低エネルギー

の極限:(ω/)0 では,ω1,ω2共にゼロになります。
 

いずれにしろ,特異点ではω≧μが満足されないので,特異点

=極は非物理的領域にあります。  (17-3終わり)
 

(17-4):運動量表示の核子Nの伝播関数:

i/( i/(-M+iε)やπ中間子の伝播関数:i/(2-μ2iε)

の分母にあるpμやqμエネルギー=p0やq0のゆらぎ(不確定さ)

:⊿Eは時間tのゆらぎ:⊿tと,Heisenbergの不確定性原理:

⊿E⊿t≧1/2を満たすことがわかっています。
 

そのため,衝突散乱を含む遷移現象のような⊿t≠0 ですが非常

短かい⊿t~ 0のような反応の途中では,⊿E~ 大となり,

一時的にエネルギー・運動量が保存される=Mやq2=μ2

質量殻を外れた非物理的領域にあってもいいだろう。。という

もっともな憶測と,
 

実は,単なる近似計算法に過ぎない摂動論や計算のメカニズム 

を図式化したFeynman-diagramの中間状態(内線=伝播関数)の上

の粒子(状態)が非物理的なエネルギー・運動量を取り得ること

のイメージが,何故か合致していて,それらは仮想粒子(仮想状態)

と呼ばれています。

 逆に物理的粒子(外線)
実粒子と呼ばれます。

 
(17-4終わり)

さて,10.10のように,中間子頂点の間を伝播するのが唯一の

核子線であるような,あらゆる高次の項も係数因子としてω­0

の単一の1位の極を持つ項に寄与し,この極の留数はそれらの

効果の総和で与えられます。


 

他の全てのdiagrams:例えば,10.11,エネルギーがω=0,

π中間子の外線に対して有限であり,それ故,の第2,または

有効距離項に寄与します。


 
3cotδ33=+{3ωμ2/(42)}(1-ω/ω)に対して,

[(3cotδ33)/ω]を縦軸,ωを横軸としてプロットし,非物理的値

なので実測データには存在しないω=0の対応点を外挿すること

によって,10.10の振幅への寄与分を分離します。
 

10.10の振幅は,物理的核子p2=M2が虚数運動量:

q=||iμを持つω=(2+μ2)1/20の中間子を吸収放出

,なお,物理的核子,つまり,(p+q)2=M2のままであるような

ものの強さを測ることになります。
 

この振幅は,Chew-Lowによって確認されたように,中間子π

と核子Nの結合定数の値であり,2 0.08なる値がこの外挿

法から決定されたのでした。
 

 今日の」記事はここで終わります。
 

 次回は強い相互作用の最後の項目である電磁形状因子について 

記述する予定です。
 

(参考文献):J.D.Bjorken & S.D.Drell 

"Relativistic QantumMechanics" (McGrawHill)

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