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2016年5月 2日 (月)

強い相互作用(湯川相互作用)(18)

「強い相互作用(湯川相互作用)」の続きです。

 前回最後の約束通り電磁形状因子の話です。
 

§10.9 中間子と核子の電磁構造 

(Electromagneic Structure of Mesons and Nuclrons)
 

中間子πと核子Nの相互作用は,既述した通り,それらの強い

相互作用に影響されます。
 

陽子pの磁気モーメントは,電荷eの粒子に対するDirac方程式

から 予測される値:1.0μBに比べて異常に大きい値:2.79μB

持つことが,かなり昔から知られています。
 

ここで,μB,μB≡ehc/(2p)であり,これは核子のBohr

磁子(Bohr Magneton)です。(hc=h/(2π),hはPlank定数)

(※自然単位ではμB=e/(2p)ですが特にここだけ単位を

入れてみました。※)
 

 ただし,「量子電磁力学の輻射補正」の項目で2次のくり込み

として求めたSchwingerの異常磁気能率項:{α/(2π)}μB などの

補正については,今は無視しています。
 

同様に,中性子nは-1.91μBの磁気モーメントを持ちます。

しかし,Dirac方程式は電荷ゼロの中性粒子については.

磁気モーメントはゼロであることを予測します。
 

Dirac方程式:(iγμμ-M)Ψ()0,電磁相互作用を

導入するには,通常は極小電磁結合(minimalcoupling):

iγμμ → γμ(iμ-eAμ)なる置き換えを行いますが,

これからは,1.0μBの磁気モーメントが得られるだけです。
 

したがって,この極小置換の代わりに,さらに磁気相互作用

をも加えて,

iγμμ → γμ(iμ-eAμ)(κNμB/2)σμνμν

としてみます。

ここに,κ1.79,κ=-1.91です。
 

ただし,σμνは,σμν(i/2)[γμ,γν] で定義されています。 

したがって,σνμ=-σμνであり,μ=νならゼロです。 

また,μν=∂νμ-∂μνです。
 

(18-1):{γμ(iμ-eAμ)-M}ΨN()0 の非相対論的極限 

では,ΨH [ψ,0]とすると,[(μBσB)ψ,0]という項が出ます。
 

何故なら,σij=σij(,j=1,2,3)は.細胞対角成分がPauli行列;σk

の細胞対角行列です。ただし,(,)(1.2)ならσ12iγ1γ2,

なのでk=3,同様に,(,)(2.3)ならk=1,(,)(3.1)

ならk=2です。
 

その他の(,)成分は,反対称性:σji=-σijから決まります。
 

また,ij=∂ji-∂ijより,(23,31,12)=∇×

です。故に,Σij13σijij[(2σB,0]T です。
 

他方,(10,20,30)=∂/∂t-∇φ==-(01,02,03)

であり,σk0iγkγ0=ですが,これは細胞対角成分がゼロの細胞

反対角行列なのでΣk=13(σk00+σ0k0k)も細胞反対角行列の

ため,ψN ,0]に作用させると大成分(上成分には寄与

しません。
 

故に,非相対論的極限では,この-(κNμB/2)σμνμνの項を

加えることで2成分スピノルψに対して,これが陽子波動関数

なら-{(1+κB)μBσB)}ψ,中性子波動関数なら,

-κBμB(σBという磁気モーメントによるPauli 

を得ます。
 

相対論的には, 付加項はLorentzスカラーであるべきなので,

μ,νの一方が 0 場合も含めて,(κNμB/2)σμνμν

加えると正しいHamiltonian密度が得られると予想されます。 
 

(何故なら,磁場の中に磁気モーメントμの磁石(磁気双極子)

ある場合の磁気エネルギーは,μBです。)  (8-1終わり)
 

しかし,より有効なアプローチは,このような新しいパラメータ

を含む項を導入するような試みは避けて,通常の極小結合変換:

iγμμ → γμ(iμ-eAμ)忠実に議論を進める方法です。
 

このアプローチは,上述の異常磁気モーメントも含む

[γμ(iμ-eAμ)]からの全ての偏差を,強い相互作用の影響

に帰せしめるものです。
 

強い相互作用と電磁相互作用の違いはありますが,この同じ

精神のアプローチ20114/4から7/3までの過去記事:

「量子電磁力学の輻射補正」の(1)(14)では,原子のエネルギー

準位におけるLambシフトや電子の異常磁気モーメントが光子

(電磁波)と電子の電磁相互作用の効果を考慮することにより, 

現在の実験的精度の限界まで説明できることを見ました。
 

 このときは最低次のくり込みに頼った詳細な計算を行って

定量的評価を得きましたが,

 
強い相互作用には電磁相互作用ほど
理論的基盤が無いため,

今回は,詳細な計算に頼ることなく,不変性(対称性)の要請のみ

にに頼ることで,強い相互作用で生成される[γμ(iμ-eAμ)]

からの修正の一般形式を確立することを試みます。
 

今のπとNの相互作用の例では,Lorentz不変性と電磁カレント

の保存の要請が1粒子の電磁頂点(Vertex)を厳しく限定します。
 

最初に,10.12()の電磁相互作用の光子のπ中間子頂点へ

(強い相互作用)による)”輻射補正を与える図10.12()

のグラフを考察します。

 π-Nの強い相互作用でのFeynman-ruleによれば,  

10.12()の頂点への図10.12()による電磁カレント

の補正は,

(μ+p'μ) → e(μ+p'μ)

(i02)2()∫d4(2π)-4

×Tr[(-M) -1(eγμ)(-M) -1

(iγ5)(-M)-1(iγ5)]≡e(μ+p'μ)+Iμ(p',)

です。
 

(18-2):電磁相互作用する光子に電荷がeのFermi粒子

が2本接続する電磁相互作用頂点では,その質量m,電荷eの

Dirac粒子の波動関数(スピノル)ψが従うDirac方程式は,

(iγμμ-m=eγμμψであり,これに基づく

Feynman-ruleでは,1つの頂点の寄与は,(ieγμ),

これに光子の波動関数:μ,またはその伝播関数が接続する

のでした。
 

10.12()のように,同じ光子の電磁相互作用頂点で

Dirac粒子でなく質量μ,電荷eのBose粒子である荷電π

中間子が2本接続するときは,


 
自由中間子の従うKlein-Gordon方程式:

(□+μ2)φ=(μμ+μ2)φ=0,極小変換:

iμ (iμ-eAμ)により,光子の電磁相互作用

あるときは,粒子が従う方程式は,

[(iμ-eAμ)(iμ-eAμ)-μ2]φ=0 となります。
 

これに,ゲ-ジ条件を物理的状態の付帯条件:

(μμ())|phys>=0で与えて,実質上の方程式は,

(□+μ2)φ=(iμφ)(eAμ)(2μμ)φ 

となるため,

 運動
量qで入ってくる光子が,運動量が
p'のπと運動量

が-pのπの対に偏極(対生成)する(未来から負エネルギー

の運動量pのπが入ってきて過去に進み,運動量qの光子

を吸収し,そこからは正エネルギーのp'=p+qのπ

なって,また未来へと出ていく)ときの単純な頂点のeの

1次摂動の因子は,(i)×e(μ+p'μ)です。
 

しかし,π中間子に核子が2本接続する強い相互作用頂点

の場合は,πが擬スカラー粒子でもあり,核子の波動関数

Ψ=[ψp,ψn]Tが従うDirac方程式,

(iγμμ-M)Ψ=g0iγ5(τφ)Ψ なので,これに基づく

Feynman-ruleでは,このπ中間子の強い相互作用の1頂点の 

寄与は(i0)(iγ5τ)であり,これにπ中間子の波動関数

φ(Φ1,φ2,φ3)または,その伝播関数が接続します。
 

上述のことは,20128/1にアップした本ブログの過去記事: 

強い相互作用(湯川相互作用)(6)アイソスピン1)」における 

 アイソスピン定式化の項目を参照したものです。
 

それによれば,核子の波動関数Ψ=[ψp,ψn]Tが従う

Dirac方程式は,(iγμμ-M)Ψ=g0iγ5(τφ)Ψであり,

一方,π中間子の波動関数φ(Φ1,φ2,φ3)は,

Klein-Gordon方程式(□+μ2)φ=-g0Ψ~iγ5τΨ

に従います。
 

10.12()のグラフは運動量qで入ってくる光子が,

運動量(p'+k)の陽子と(-p-k)の反陽子との対

(ただし,q=p'-p)に偏極(対生成)して,時間の正の向き

には運動量(p'+k)の陽子から,強い相互作用の1頂点で

運動量p'のπ中間子を放出します。
 

その後には,運動量kの中性子が進み,次の頂点では,時間

の逆向きに運動量pのπが吸収されて(=運動量-pの

負エネルギ-のπが時間の正の向きに放出されて),運動量

(p+k)の負エネルギーの陽子となって進み全体として核子

線ループを作っています。
 

 これの寄与を求めるには,まず,核子NのFeyman伝播関数:

 iF(x-y)i∫d4(2π) -4[exp(iPx)(-M+iε)-1

の運動量表示のi(-M+iε)-1のPに,それぞれ,P=p'+k,

P=k,P=p+kを代入して,その間に頂点因子:(ieγμ),

(i0)(iγ5)を挟んで積を取ります。
 

 これは,アイソスピンのτと関わる因子を除いたもので.

 これば,(i0)i('-M) -1(ieγμ

 i(-M) -1(i0) (iγ5)i(-M)-1((i0)(iγ5)]

で与えられ,さらにFermionループなので,頂点因子 の寄与

 としてはトレースを取り,積分:()∫d4(2π)-4

 を実行します。
 

ここで考慮をはずしたアイソスピン因子を含む計算では,

ループ上の核子Feyman伝播関数は,iFだけではなく,

アイソスピンの2×2Pauli行列:τ(τ1,τ2,τ3)にも

作用するよう,を2×2単位行列として, 伝播関数,

iFであると解釈します。
 

 その1のα行β成分はδαβですから.ループの寄与を陽に

書くと,iFδαβ(iγ5τ)iFδαβ(iγ5τ) です。

 

一方の頂点で,|π+>=φ|p'>=(1/2)[1,I,0]φp'

を放出し,もう一方の頂点からは,|π>=φ|p>

(1/2)[1,i,0]φpをも放出するとき,

 頂点因子のうちのアイソスピンに関わる因子のみの寄与は, 

 δαβ(τφ)βγδγρ(τφ)ρα=Tr[(τφ)(τφ) 

 =Tr(2τ)(2τ](2)2 です。
 

ここで,τ(1/2)(τ1-τ2),τ(1/2)(τ1+τ2)より,

ττ1を用いました。
 

結果として,全ての寄与は,(i02)2()∫d4(2π)-4 

×Tr[i('-M) -1(ieγμ)i(-M) -1(iγ5)

i(-M)-1(iγ5)] となります。
 

摂動論の次数ごとにかかる(i)因子を考慮し,2次補正項

の因数を最低次のe(μ+p'μ)のそれに合わせ,伝播関数

iを除去すると,付加すべき項Iμ(p',)の正しい計算式

として,

(i02)2()∫d4(2π)-4 

 ×Tr[('-M) -1(eγμ)i(-M) -1

 (iγ5)(-M)-1(iγ5)] が得られます。 


  (18-2終わり)

 

しかしながら,上記のIμ(p',)の具体的な積分表現式

には,それほど興味は感じられません。何故なら,これは

02の発散する級数展開の第1項に過ぎず,しかもこの項

自身も明らかに発散するからです。
 

この強い相互作用では,電磁相互作用の補正でやったような

くり込み処方を適用することができそうにありません。
 

しかし,これがLorentz変換の下でのπの電磁カレント

への加えられた寄与の形であるとして,もしも有限なら

如何に変換するか?を見るのは興味深いことです。
 

こうした変換性は全ての高次のオーダーでも真であると

考えられます。
 

μ(p',)(i02)2()∫d4(2π)-4 

×Tr[('-M) -1(eγμ)i(-M) -1

(iγ5)(-M)-1(iγ5)] においてトレースを取り,

4k積分を実行したものが有限なら,右辺がLorentz

4元共変ベkトルとして変換するのは明らかです。
 

ここで,関係する独立で使用可能な4元共変ベkトルはpμ

とp'μだけですから,このIμ(p',)は次のように書ける

はずです。 

すなわち,μ(p',)=pμ1(2,p'2,(p-p')2) 

+p'μ2(2,p'2,(p-p')2) です。
 

係数:1,2は形状因子(form factor)と呼ばれ,

3つの独立なスカラー:2,p'2,(p-p()2のスカラー

関数です。
 

もしも,時間の正の向きを図の下から上に取り, 

電磁ポテンシャルによる実中間子の散乱のグラフと限定 

するなら,2=p'2=μ2ですから.形状因子:1,2, 

不変運動量遷移:2(p'-p)2のみの関数となります。
 

 そして,さらなる制限はカレント保存の要請から得られます。 

 例えば,実中間子の電磁カレントの運動量qμ成分に対しては,

 μμ(p',p)=pμμ(p',)-p'μμ(p',)=0

 です。

 
この結果は,積分表現式: 

μ(p',)(i02)2()∫d4(2π)-4  

×Tr[('-M) -1(eγμ)i(-M) -1 

(iγ5)(-M)-1(iγ5)]において,
 

積分変数をk → k+qのようにシフトしても,積分が

有限なら結果が変わらない。。という2011年4/8の

過去記事: 量子電磁力学の輻射補正(2)(真空偏極1)

の光子の真空偏極についての結果に同様な方法で証明

できます。

  そして,実際には積分は有限でないので,
有限化する手続き 

が必要なため,同様なあいまいさもあります。
 

※(注18-3):念のため「量子電磁力学の輻射補正(2)(真空偏極1)」

より,ほんの一部の図を転載です。


  下図8.5に
描写したように,電子loopはAμ(q)が相互作用

するブラックボックス(?=頂点)を流れるcurrentに対して

 e2補正を与えます。

 (※この図の実線=電子をπ中間子に変更す
れば図10.12に

 なります。※) 

   

(18-3終わり)


 
(18-4):πの散乱と見ると,10.12()で,一部係数を
 

除いてS行列要素は, 

fi(2π)-3(4ωfωi)-1/2(f+pi)μμ()ですが,


 これに 10.12()を加えた寄与は,  

fi(2π)-3(4ωfωi)-1/2[(f+pi)μ+Iμ(f.i)]μ()  

に修正されます。
 

そして,補正後のS行列要素Sfi,電磁場のゲージ変換:

μ()→Aμ()+qμΛ(q)に対して不変であるなら,

Λ()は任意なので,それは,μμ(f.i)0

意味します。

 つまり,上記のカレントの保存の条件はゲージ不変の条件と

同値です。
 

実際,元々のS行列要素は,電磁カレント=電流密度:

μ=eψ~γμψによる相互作用項(摂動項):μμ

=eψ~γμAμψに起因する散乱現象の振幅です。

 そして,
この電磁相互作用項のFourier 成分:

μ()μ()任意のΛ()についての ゲージ変換:

μ() → Aμ()+qμΛ(q)に対して,不変である

という条件が課せられると,電磁カレントjμ()

に対してμμ()0 が成立します。
 

これをqによるFourier成分でなく座標xによる表現で

見ると.μμ()0 :つまり電磁カレントの保存

意味します。  (18-4終わり)
 

μμ(p',)=p'μμ(p',)-pμμ(p',0

より,(p'p)1+p'22=p21(pp')2 です。
 

 この等式は,p2=p'2=μ2での実中間子散乱グラフでも成立

 し,このとき,[(pp')-μ2][1(2)-f2(2)]0

 なので,1(2)=f2(2) と結論されます。
 

 したがって,実π中間子の電磁ポテンシャル:μ

よる散乱でのπの電磁相互作用カレントは,

 e(p'μ+pμ) → e(p'μ+pμ)π(2)という形で

修正されます。
 

ただし,π(2)1+f1(2)1+f2(2),πの

電磁形状因子と呼ばれる,不変運動量遷移:q2のみの

スカラー関数です。
 

長くなったので,今日は,ここで終わります。
 

(参考文献):J.D.Bjorken & S.D.Drell 

"Relativistic QantumMechanics"(McGrawHill)

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