クライン・ゴルドン方程式(3)
Klein-Gordon eq.の続きです。
次の,荷電スピンゼロ粒子が電磁場と相互作用する場合
の項目に移ります。
§9.3 電磁ポテンシャルの導入
(Introduction of Electromagnetic
Potentials)
アイソスピンがゼロでスピンもゼロの中間子の電磁場との
相互作用は,これまでと同じく,極小相互作用変換:
p^μ→p^μ-eAμ(x) (p^μ≡i∂μ)によって導入されます。
ただし,電磁場Aμ(x)は,今対象としているスピンゼロの粒子
が相互作用する電磁波の量子=光子を示す場の演算子では
なくて,今のところは,謂わゆる外場のポテンシャル:c数
であるとします。
そして,eは対象粒子の電荷,Aμ(x)は,普通の実数値
の場です。
自由粒子のKlein-Gordon方程式:(□+μ2)φ(x)=0を,
[(i∂μ)(i∂μ)+μ2]φ(x)=0と書けば,極小変換で
電磁場Aμ(x)と相互作用する場合の粒子が満たす
基本方程式は,
は,[(i∂μ-eAμ)(i∂μ-eAμ)+μ2]φ(x)=0
となります。
この両辺の複素共役を取れば.φ*(x)に対する方程式:
[(i∂μ+eAμ)(i∂μ+eAμ)+μ2]φ*(x)=0
を得ます。
電磁カレントは,Aμがないいときの
jμ=φ*i∂μφ-φi∂μφ* の代わりに機械的に,
jμ=[φ*(i∂μ-eAμ)φ-φ(i∂μ+eAμ)φ*]
とすると,これは確かに,保存則∂μjμ=0を満たします。
そこで,Q(t)≡∫d3xρ(x,t)=∫d3xj0(x)
=i∫d3x(φ*(∂0⇔φ)-2eA0)φと置けば,
dQ/dt=0です。
※(注3-1):実際,i∂μjμ
=i∂μ[φ*(i∂μ-eAμ)φ-φ(i∂μ+eAμ)φ*]
=-eAμφi∂μφ*-eAμφ*i∂μφ
+φ*{(i∂μ-eAμ)(i∂μ-eAμ)-μ2}φ
-φ(i∂μ+eAμ)(i∂μ+eAμ)-μ2}φ*
+φ*eAμ(i∂μ-eAμ)φ
+φeAμ(i∂μ+eAμ)φ*=0 です。
(注3-1終わり)※
散乱において入射する荷電中間子を示す平面波:φinは,
このポテンシャル:Aμで散乱されて,
[(i∂μ-eAμ)(i∂μ-eAμ)-μ2]φ(x)=0
の解:φで与えられる振幅(波動関数)となります。
正振動数の波だけが時間的未来に散乱され,負振動数
の波は過去に散乱されるという境界条件を採用して,
[(i∂μ-eAμ)(i∂μ-eAμ)―μ2]φ(x)=0を,
Feynman伝播関数(Propagator):ΔFを用いて積分します。
すなわち,
[(i∂μ-eAμ)(i∂μ-eAμ)-μ2]φ(x)=0は.
(□+μ2)φ=-ie(∂μAμ+Aμ∂μ)φ+e2AμAμφ
を意味するため,
V^(x)=ie(∂μAμ(x)+Aμ(x)∂μ)-e2Aμ(x)Aμ(x)
と定義すると,方程式は(□+μ2)φ(x)=-V^(x)φ(x)
と書けるので,
これの形式的な解(※単に積分方程式形)として,
φ(x)=φin(x)+∫d4yΔF(x-y)V^(y)φ(y)
を得ます。
※(注3-2):何故なら,(□+μ2)φin(x)=0であり,
かつ,(□+μ2)ΔF(x-y)=-δ4(x-y)なので,
(□+μ2)∫d4yΔF(x-y)V^(y)φ(y)
=-∫d4yδ4(x-y)V^(y)φ(y)
=-V^(x)φ(x) より,
(□+μ2)φ(x)=-V^(x)φ(x)
が成立します。
さらに, 別の観点で考察します。
[□+μ2+V^(x)]φ(x)=0 のFeynman伝播関数:
ΔF~を,[□+μ2+V^(x)]ΔF~(x-y)=-δ4(x-y)
を満たし,然るべき境界条件を有するGreen関数と定義すると,
(□+μ2)ΔF~(x-x0)
=-δ4(x-x0)-V^(x)]ΔF~(x-x0)
=∫d4yδ4(x-y)[-δ4(y-x0)-V^(y]ΔF~(y-x0)
=(□+μ2)[ΔF(x-x0)
+∫d4yΔF(x-y)V^(y]ΔF~(y-x0)
が成立します。
これは結局,
ΔF~(x-x0)
=ΔF(x-x0)++∫d4yΔF(x-y)V^(y)ΔF~(y-x0)
の成立を意味します。
自由粒子の平面波の解:φin(x)=φin+(x)+φin-(x)
については,t>t0で
φin+(x,t)=i∫d3x0ΔF(xーx0)i(∂0⇔)t0φin+(x0,t0)
t<t0で
φin-(x,t)=i∫d3x0ΔF(xーx0)i(∂0⇔)t0φin-(x0,t0)
と表現できました。
電磁場Aμがあるときにも,仮に自由粒子の平面波の集まり
と同じく,正振動数の波φ+と負振動数の波φ-というもの
が定義可能で,φ(x)=φ+(x)+φ-(x)とそれらの和に
分割できるなら,
t>t0で
φ+(x,t)=i∫d3x0Δ~F(xーx0)i(∂0⇔)t0φ+(x0,t0)
t<t0で
φ-(x,t)=-i∫d3x0Δ~F(xーx0)i(∂0⇔)t0φ―(x0,t0)
と書けと予想されます。
しかし,むしろ,これらの右辺で与えられるものを,それぞれ,
φ+(x),φ-(x)と定義します。
すると,ΔF~(x-x0)=ΔF(x-x0)
+∫d4yΔF(x-y)V^(y)ΔF~(y-x0)によって,
φ(x)=φ+(x)+φ-(x)は,
φ(x) =φin(x)++∫d4yΔF(x-y)V^(y)φ(y)
と表わされるわけです。
(注3-2終わり)※
このφ(x) =φin(x)++∫d4yΔF(x-y)V^(y)φ(y)
は,Dirac粒子における
Ψ(x)=ψ(x)+e∫d4ySF(x-y)γμAμ(y)Ψ(y)
のアナロジーであり,
解の物理的解釈は,その際に電子に対して与えられたものと
酷似しています。
散乱後の未来において,正エネルギー粒子を表わす正振動数
の波のみが出現することを保証するため,
φ(x) =φin(x)++∫d4yΔF(x-y)V^(y)φ(y)
でFeynman伝播関数を伴なった形に積分しました。
これは,Φ(x,t)=φin(x)
+i∫d3pfp(+)(x)∫d4yθ(t-y0)fp(+)*(y)
V^(y)φ(y)-i∫d3pfp(-)(x)∫d4y
θ(y0-t)fp(-)*(y)V^(y)φ(y)と
書けます。
この式はまた,負振動数の波として過去に伝播するはもの
を含んでいます。
しかし,自分の装置で注視している観測者の見地で
見ると電荷がeの負エネルギー粒子の過去におけう吸収
は,電荷が-eの正エネルギー粒子のその時点での放出
に等価です。
その意味で自然界の各粒子には,反対に荷電した反粒子
が存在する,という基本的な,そして実験的に証明すること
のできる予言へと誘導されます。
しかし,ある粒子は電荷を持たないかも知れません。
そのケースには,それ自身の反粒子を持たないかも
知れません。
そうした1つの例は中性でスピンがゼロのπ中間子:π0です。
これは荷電π中間子とほぼ同じ質量μを持つけれど,
電磁相互作用Aμが関わる方程式:
[(i∂μ-eAμ)(i∂μ-eAμ)+μ2]φ(x)=0
を満たさない,というより,e=0の場合の方程式を
満たします。
自由π0中間子に対する伝播関数は前節で導入した荷電π
中間子の場合と完全に同様にろんじることができます。
荷電π中間子に対して定義したカレントの第ゼロ成分の
空間積分Qはπ0中間子では消えるためこの粒子は自由な
Klein-Gordon方方程式のφ*=φを満たす実解:φによって
表現されます。
そして,その正振動数解は未来へ負振動数解は過去へ
と伝播するというFeynmanの解釈に従います。
(※π0の反粒子はπ0自身です。)
いつもよりかなり短かいですが今日は,ここで
終わります。
(参考文献):J.D.Bjorken & S.D.Drell
”Relativistic QantumMechanics”(McGrawHill)
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