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2016年5月15日 (日)

中性子の磁気モーメント(再掲載記事)

  閑話休題で,今から9年前の2007年7/25にアップした過去記事::

「中性子の磁気モーメント」を再掲載します。


  本ブ
ログは,2006年3/20に開始しましたが,,その年末に急に

心臓病になり2,007年4月には順天堂大で心臓バイパス手術を

受けて,そのため職も失なって,静養中の,ヒマばかりはあった頃

です。

,

 この頃は,せせと毎日のように張り切ってブログを書き,記事のネタ

にもいろいろと苦労していた磁気で,唐突に,学生時代を思い出して,

素粒子論のカラークォーク模型に基づいて,陽子と中性子の磁気

モーメントの評価をするというテーマの記事を書いたのでした。

  これは,丁度,今化学記事として進行中の「強い相互作用(湯川相互作用)」

の強い相互作用による核子の電磁構造の変化というテーマにピッタリの

話題のこの磁気を思い出したのでで,全文を再掲載しておきます。

 まあ,一種の手抜きですネ。

(※↓以下は,過去記事の丸写しです。)

 今日は昔の学生時代を思い出して少し素粒子論を復習してみよう

と思います。

 
現在ではハドロン(Hadron)を構成するクォーク(Quark)の

フレーバー(Flavor)の自由度は,2種類ずつ3世代あって,

アップ(up),ダウン(down);チャーム(charm),ストレンジ

(strange);ボトム(bottom),トップ(top)の6種類があると

されていますが,

 "核子=陽子p or 中性子n"を構成するだけなら,

"アップ=u"と"ダウン=d"の2種類だけで十分です。

 

 核子と,その核力を媒介する主要な粒子であるπ中間子を

uとd,あるいはこれらの反粒子の複合粒子として記述する

には,2次元特殊ユニタリ群:SU(2),すなわち,アイソスピン

(Isotopic spin;荷電スピン)の群の表現を考えるだけで

十分です。


 
"核子=陽子p or 中性子n"は,uとdの3体で構成される

バリオン(Baryon;(重粒子)であり,スピンが1/2のFermi粒子

(Fermion)です。

 
そして素電荷eを電荷の単位とすると,陽子pは電荷が1

であり,中性子nは,電荷がゼロである,ということによって

特徴付けられています。

 そして電荷をQ,アイソスピンベクトルを,バリオン数をBと

すると,Q=I3+B/2という等式が成立します。

 核子はそのアイソスピンがI=1/2で,陽子はI31/2,中性子

はI3=-1/2の固有状態です。

 
ただし,ストレンジネス(Strangeness):Sまで考慮に入れると,

Q=I3+Y/2;Y≡S+Bとなります。

 Yはハイパーチャージ(Hyperchage)といわれる量です。

 私くらいの世代の学生時代なら,丁度卒業の頃くらいにチャーム

(Charm)を与える(J/ψ)粒子が発見されたわけですから,わかって

いたのはこの程度までです。

 
ちなみにスピンがゼロの擬スカラー粒子であるπ中間子に

 ついては,B=0,I=1であり,π±0は,それぞれ,

 I3=±1,0 の固有状態です。

 一般に各素粒子はユニタリ群の既約表現の1つ1つに対応

 していて,超選択則(Superselection rule)により,崩壊現象

 を除けば異なる既約表現間の遷移は禁止されていると考え

 ます。

 一方,クォークu,dのスピンは1/2で,それらの電荷Qは,

 eを単位として,それぞれ,2/3,-1/3です。

 ということは,B=1/3なので,Q=I3+B/2からu,d

 のアイソスピンはI=1/2で,それぞれはI3がI31/2,

 -1/2の固有状態であるとしてよいことがわかります。

 
SU(2)群の2次元基本表現を表わすクォーク3体で構成される

 複合粒子=核子について,3体が合成された直積表現の既約表現へ

 の分解は, 2×2×2=2+2+4 となります。

(因みにストレンジネス:Sまで含めたSU(3)だと,

3×3×3=1+8+8+10 になります。)

 

さて,まず,2体での既約分解が,2×2=1+3となるのは

自明です。

 

つまり,Tij=T[i,j]+T{i,j};T[i,j]1/2(ij-Tji)(反対称=1)

{i,j}1/2(ij+Tji)(対称=3) ですね。

 
そして,2×2=1+3 から,さらに3体では,

2×2×2=(1+3)×2=2+(2+4)という既約分解

を得ます。

 
まず,右辺の最初の2はアイソスピン 0 と 1/2を合成して

アイソスピン 1/2を作ることに相当します。


 次の2はアイソスピン1と1/2を合成してアイソスピン1/2を

つくることです。

 

右辺の最後の4はアイソスピン 1と1/2を合成してアイソスピン

3/2をつくることに相当します。

 
アイソスピン3/2はTijkを完全対称にすることで得られますから

[i,j,k]です。

 このテンソルの成分の数はi,j,k=1,2の全ての組み合わせ

の数,つまり,2個から重複を許して3個を選ぶ組み合わせ

なので確かに4個あります。

 
これは核子ではなくて,π-pあるいはπ-n共鳴であり,

質量が,およそ,1230MeVのΔ粒子(デルタ)を表わしています。 

一方,2×2×2=2+(2+4)の右辺の最初の2はT[I,j]k,

すなわち,(1/2)(121-T211)と(1/2)(122-T212)を表わして

います。

よって右辺の残りの2はT{I,j}K[I,j,k]で与えられます。

これらのゼロでない独立な成分は,(1/3)(2112-T121-T211)

(1/3)(2221-T212-T122)の2つです。

そして,陽子pと中性子nは,この最後に示した方のI31/2,

-1/2の既約表現に対応するとされています。

 
これらはu,dという記号をそのままu,dを示す状態の波動関数

として表現すれば,規格化も含めて,

p=(1/6)1/2(2uud-udu-duu),

n=(1/6)1/2(2ddu-dud-udd)

となります。

 
ところで,こうした理論によるとアイソスピンとスピンが共に3/2

Δ++ 粒子において,スピン成分がsz=+3/2の状態は,

Δ++=u↑ となります。

 

これはフレーバー自由度,スピン自由度について共に

完全対称です。

 
ハドロンのクォークによる複合粒子としての表現が"軌道角運動量

がゼロの基底状態=S状態"で与えられるという仮定によれば,

Δ++はクォークの交換に対して位置座標の交換を含めて完全対称

な状態関数で表現されることになります。

 
しかし,これはFermi統計,つまり多粒子系の状態はFermi粒子の

交換に対して反対称であるべきである,という要請に矛盾します。 

そこで,実際の理論では,もう1つ別の自由度であるカラー(Color)

というものを導入し,カラー自由度については1重項(無色:Singlet)

であること,つまりクォークの交換についてカラー自由度について

完全反対称の状態にあるとして,この矛盾を解消しています。

そこで,今問題としている陽子:

p=(1/6)1/2(2uud-udu-duu)と,

中性子:n=(1/6)1/2(2ddu-dud-udd)

について考えると,これらは1番目と2番目のクォークの交換

について対称です。

 
しかし,カラー自由度については完全反対称ですから,スピン

の自由度についても1番目と2番目のクォークの交換について

対称であることが要求されます。

そこでスピン1/2に対する回転群SU(2)の既約表現についても

同じ変換性を持つ表現で,

|↑>=(1/6)1/2(2↑↑↓-↑↓↑-↓↑↑)と,

|↓>=(1/6)1/2(2↓↓↑-↓↑↓-↑↓↓)

を採用します。

陽子のスピンアップ状態としては,

(1/6)(2uud-udu-duu)(2↑↑↓-↑↓↑-↓↑↑)

と表現すればいいのでは?と推測されます。

そこで,結局アイソスピンとスピンの両方を考慮したとき,

クォークの交換に対して完全対称でなければならないこと

から,

|p>=(1/18)1/2[uud(2↑↑↓-↑↓↑-↓↑↑)+cyclic]

=(1/18)1/2[2u-u-u)+cyclic]

と表現さるべきであることが結論されます。

 
同様に,

|n>=(1/18)1/2[ddu(2↑↑↓-↑↓↑-↓↑↑)+cyclic]

=(1/18)1/2[2d-d-d)+cyclic]

です。

 
これらはかつて流行したことのあるフレーバー・スピン対称性;

SU(6)の対称な,56重項既約表現に対応するものです。

 余談ですが,このSU(6)というのは,対称性の帰結として

角運動量保存則が従う現実世界が等方的であるという性質,

つまり現実の空間での回転群:SU(2)~SO(3)というスピン

角運動量に関わる対称性と,フレーバーという内部空間,

アイソスピンならアイソ空間(荷電空間)での回転対称性

を含むSU(3)のフレーバー対称性を合成したものです。

 こうした現実空間と仮想内部空間を混合した対称性

というのは,非相対論で成り立つ近似的なものです。

 
こうした混合対称性は相対論まで含めた4次元時空という

実空間に対しては厳密には成立し得ないことが定理として

証明されています。

,

ただし,例外があって超対称性は,この限りではありません。
(※ワインバーグの「場の量子論」邦訳第5巻参照※)

 クォークは電子などのレプトン(Lepton;軽粒子)と同じく,

構造を持たないスピンが1/2の素粒子なので,その磁気回転比

gは,g=2で近似することができます。

そこで,クォークで構成された複合粒子の磁気モーメント

(磁気能率)をμとし,電荷を持つ構成粒子によって,これを

評価すると,μのz成分は,

 μzΣi{eic/(2Mi)}(liz+giz)

なる式で与えられると考えられます。

 

ここで,ei,Mi,i,iは,それぞれi番目の構成粒子の電荷,

質量.軌道角運動量,スピンです。

 また,h
c≡h/(2π)で,hはPlanck定数,cは光速です。

iz=σi3/2と書き,dの質量とuの質量は等しい:M~ Mu

とすると,

μz|p>=ehc/(2Mu)(1/18)1/2

[{(10/3)u(1/3)u(1/3)u}

+{(10/3)u(1/3)u(1/3)u}

+..] となります。

したがって,普通に,状態の期待値として陽子pの磁気モーメント:

μpz=<pz|p>を計算すれば,
 μ
pz{ehc/(2Mu)}×3×(1/18)×[(5/3)×4+(-1/3)+(-1/3)]

=ehc/(2Mu) が得られます。

 

同様に,中性子nでは,

μnz=<nz|n>={ehc/(2Mu)}×3×(1/18)

×[(-4/3)×4+(2/3)+(2/3)]=(-2/3){ehc/(2Mu)}

が得られます。
 

したがって,理論的には,中性子と陽子の磁気モーメントの

として,μn(-2/3)という結果を得ます。

 実験によると,Bohr磁子μB=ehc/(2mp)を単位として,

核子の磁気モーメントは,陽子pがおよそ2.79で,中性子nが

-1.91であることが古くからわかっています。

 
つまり,μp 2.79μBn ~ -1.91μB です。

 
実測値でも,中性子と陽子の磁気モーメントの比は,

μnp ~ -1.91/2.79 ~ (-2/3)で与えられること

になります。

それ故,先の理論的考察は実験事実を正しく評価しています。


 
普通,電荷を持たない物体では角運動量があっても,電流がない

ので磁気モーメントはゼロですから,これは中性子が総体として

の電荷はゼロでも,内部に電荷密度の分布を持つ構造がある証拠

を与えると考えられます。

さらに,μp がBohr磁子μB2.79倍であることが,陽子の質量:

pがクォークの質量:Mu  ~ udの~2.79倍程度であることを

示唆していると考えるなら,up,downクォークの質量が,

u ~ Md 330MeV程度であろうというクォーク質量の推定値

も得られます。

 参考となる書籍が,徒歩では行けないちょっと離れたトランク

ルームにあり,おまけに風邪で外出もままならないので,

ほとんど記憶に頼って計算したため,合理的な結果を得るまで,

かなり計算間違いを繰り返して苦労しました。

参考文献:S.Weinberg著(青山秀明他共訳)「場の量子論5」

(超対称性;構成と超対称標準模型)(吉岡書店)

(※以上,再掲載記事でした。)

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