中性子の磁気モーメント(再掲載記事)
閑話休題で,今から9年前の2007年7/25にアップした過去記事::
「中性子の磁気モーメント」を再掲載します。
本ブログは,2006年3/20に開始しましたが,,その年末に急に
心臓病になり2,007年4月には順天堂大で心臓バイパス手術を
受けて,そのため職も失なって,静養中の,ヒマばかりはあった頃
です。
,
この頃は,せせと毎日のように張り切ってブログを書き,記事のネタ
にもいろいろと苦労していた磁気で,唐突に,学生時代を思い出して,
素粒子論のカラークォーク模型に基づいて,陽子と中性子の磁気
モーメントの評価をするというテーマの記事を書いたのでした。
これは,丁度,今化学記事として進行中の「強い相互作用(湯川相互作用)」
の強い相互作用による核子の電磁構造の変化というテーマにピッタリの
話題のこの磁気を思い出したのでで,全文を再掲載しておきます。
まあ,一種の手抜きですネ。
(※↓以下は,過去記事の丸写しです。)
今日は昔の学生時代を思い出して少し素粒子論を復習してみよう
と思います。
現在ではハドロン(Hadron)を構成するクォーク(Quark)の
フレーバー(Flavor)の自由度は,2種類ずつ3世代あって,
アップ(up),ダウン(down);チャーム(charm),ストレンジ
(strange);ボトム(bottom),トップ(top)の6種類があると
されていますが,
"核子=陽子p or 中性子n"を構成するだけなら,
"アップ=u"と"ダウン=d"の2種類だけで十分です。
核子と,その核力を媒介する主要な粒子であるπ中間子を
uとd,あるいはこれらの反粒子の複合粒子として記述する
には,2次元特殊ユニタリ群:SU(2),すなわち,アイソスピン
(Isotopic spin;荷電スピン)の群の表現を考えるだけで
十分です。
"核子=陽子p or 中性子n"は,uとdの3体で構成される
バリオン(Baryon;(重粒子)であり,スピンが1/2のFermi粒子
(Fermion)です。
そして素電荷eを電荷の単位とすると,陽子pは電荷が1
であり,中性子nは,電荷がゼロである,ということによって
特徴付けられています。
そして電荷をQ,アイソスピンベクトルをI,バリオン数をBと
すると,Q=I3+B/2という等式が成立します。
核子はそのアイソスピンIがI=1/2で,陽子はI3=1/2,中性子
はI3=-1/2の固有状態です。
ただし,ストレンジネス(Strangeness):Sまで考慮に入れると,
Q=I3+Y/2;Y≡S+Bとなります。
Yはハイパーチャージ(Hyperchage)といわれる量です。
私くらいの世代の学生時代なら,丁度卒業の頃くらいにチャーム
(Charm)を与える(J/ψ)粒子が発見されたわけですから,わかって
いたのはこの程度までです。
ちなみにスピンがゼロの擬スカラー粒子であるπ中間子に
ついては,B=0,I=1であり,π±,π0は,それぞれ,
I3=±1,0 の固有状態です。
一般に各素粒子はユニタリ群の既約表現の1つ1つに対応
していて,超選択則(Superselection rule)により,崩壊現象
を除けば異なる既約表現間の遷移は禁止されていると考え
ます。
一方,クォークu,dのスピンは1/2で,それらの電荷Qは,
eを単位として,それぞれ,2/3,-1/3です。
ということは,B=1/3なので,Q=I3+B/2からu,d
のアイソスピンはI=1/2で,それぞれはI3がI3=1/2,
-1/2の固有状態であるとしてよいことがわかります。
SU(2)群の2次元基本表現を表わすクォーク3体で構成される
複合粒子=核子について,3体が合成された直積表現の既約表現へ
の分解は, 2×2×2=2+2+4 となります。
(因みにストレンジネス:Sまで含めたSU(3)だと,
3×3×3=1+8+8+10 になります。)
さて,まず,2体での既約分解が,2×2=1+3となるのは
自明です。
つまり,Tij=T[i,j]+T{i,j};T[i,j]≡1/2(Tij-Tji)(反対称=1)
T{i,j}≡1/2(Tij+Tji)(対称=3) ですね。
そして,2×2=1+3 から,さらに3体では,
2×2×2=(1+3)×2=2+(2+4)という既約分解
を得ます。
まず,右辺の最初の2はアイソスピン 0 と 1/2を合成して
アイソスピン 1/2を作ることに相当します。
次の2はアイソスピン1と1/2を合成してアイソスピン1/2を
つくることです。
右辺の最後の4はアイソスピン 1と1/2を合成してアイソスピン
3/2をつくることに相当します。
アイソスピン3/2はTijkを完全対称にすることで得られますから
T[i,j,k]です。
このテンソルの成分の数はi,j,k=1,2の全ての組み合わせ
の数,つまり,2個から重複を許して3個を選ぶ組み合わせ
なので確かに4個あります。
これは核子ではなくて,π-pあるいはπ-n共鳴であり,
質量が,およそ,1230MeVのΔ粒子(デルタ)を表わしています。
一方,2×2×2=2+(2+4)の右辺の最初の2はT[I,j]k,
すなわち,(1/2)(T121-T211)と(1/2)(T122-T212)を表わして
います。
よって右辺の残りの2はT{I,j}K-T[I,j,k]で与えられます。
これらのゼロでない独立な成分は,(1/3)(2T112-T121-T211)
と(1/3)(2T221-T212-T122)の2つです。
そして,陽子pと中性子nは,この最後に示した方のI3=1/2,
-1/2の既約表現に対応するとされています。
これらはu,dという記号をそのままu,dを示す状態の波動関数
として表現すれば,規格化も含めて,
p=(1/6)1/2(2uud-udu-duu),
n=(1/6)1/2(2ddu-dud-udd)
となります。
ところで,こうした理論によるとアイソスピンとスピンが共に3/2
のΔ++ 粒子において,スピン成分がsz=+3/2の状態は,
Δ++↑=u↑u↑u↑ となります。
これはフレーバー自由度,スピン自由度について共に
完全対称です。
ハドロンのクォークによる複合粒子としての表現が"軌道角運動量
がゼロの基底状態=S状態"で与えられるという仮定によれば,
Δ++↑はクォークの交換に対して位置座標の交換を含めて完全対称
な状態関数で表現されることになります。
しかし,これはFermi統計,つまり多粒子系の状態はFermi粒子の
交換に対して反対称であるべきである,という要請に矛盾します。
そこで,実際の理論では,もう1つ別の自由度であるカラー(Color)
というものを導入し,カラー自由度については1重項(無色:Singlet)
であること,つまりクォークの交換についてカラー自由度について
完全反対称の状態にあるとして,この矛盾を解消しています。
そこで,今問題としている陽子:
p=(1/6)1/2(2uud-udu-duu)と,
中性子:n=(1/6)1/2(2ddu-dud-udd)
について考えると,これらは1番目と2番目のクォークの交換
について対称です。
しかし,カラー自由度については完全反対称ですから,スピン
の自由度についても1番目と2番目のクォークの交換について
対称であることが要求されます。
そこでスピン1/2に対する回転群SU(2)の既約表現についても
同じ変換性を持つ表現で,
|↑>=(1/6)1/2(2↑↑↓-↑↓↑-↓↑↑)と,
|↓>=(1/6)1/2(2↓↓↑-↓↑↓-↑↓↓)
を採用します。
陽子のスピンアップ状態としては,
p↑=(1/6)(2uud-udu-duu)(2↑↑↓-↑↓↑-↓↑↑)
と表現すればいいのでは?と推測されます。
そこで,結局アイソスピンとスピンの両方を考慮したとき,
クォークの交換に対して完全対称でなければならないこと
から,
|p↑>=(1/18)1/2[uud(2↑↑↓-↑↓↑-↓↑↑)+cyclic]
=(1/18)1/2[2u↑u↑d↓-u↑u↓d↑-u↓u↑d↑)+cyclic]
と表現さるべきであることが結論されます。
同様に,
|n↑>=(1/18)1/2[ddu(2↑↑↓-↑↓↑-↓↑↑)+cyclic]
=(1/18)1/2[2d↑d↑u↓-d↑d↓u↑-d↓d↑u↑)+cyclic]
です。
これらはかつて流行したことのあるフレーバー・スピン対称性;
SU(6)の対称な,56重項既約表現に対応するものです。
余談ですが,このSU(6)というのは,対称性の帰結として
角運動量保存則が従う現実世界が等方的であるという性質,
つまり現実の空間での回転群:SU(2)~SO(3)というスピン
角運動量に関わる対称性と,フレーバーという内部空間,
アイソスピンならアイソ空間(荷電空間)での回転対称性
を含むSU(3)のフレーバー対称性を合成したものです。
こうした現実空間と仮想内部空間を混合した対称性
というのは,非相対論で成り立つ近似的なものです。
こうした混合対称性は相対論まで含めた4次元時空という
実空間に対しては厳密には成立し得ないことが定理として
証明されています。
,
ただし,例外があって超対称性は,この限りではありません。
(※ワインバーグの「場の量子論」邦訳第5巻参照※)
クォークは電子などのレプトン(Lepton;軽粒子)と同じく,
構造を持たないスピンが1/2の素粒子なので,その磁気回転比
gは,g=2で近似することができます。
そこで,クォークで構成された複合粒子の磁気モーメント
(磁気能率)をμとし,電荷を持つ構成粒子によって,これを
評価すると,μのz成分は,
μz=Σi{eihc/(2Mic)}(liz+gsiz)
なる式で与えられると考えられます。
ここで,ei,Mi,li,siは,それぞれi番目の構成粒子の電荷,
質量.軌道角運動量,スピンです。
また,hc≡h/(2π)で,hはPlanck定数,cは光速です。
siz=σi3/2と書き,dの質量とuの質量は等しい:Md ~ Mu
とすると,
μz|p↑>=ehc/(2Muc)(1/18)1/2
[{(10/3)u↑u↑d↓+(1/3)u↑u↓d↑+(1/3)u↓u↑d↑}
+{(10/3)u↑d↓u↑+(1/3)u↓d↑u↑+(1/3)u↑d↑u↓}
+..] となります。
したがって,普通に,状態の期待値として陽子pの磁気モーメント:
μpz=<p↑|μz|p↑>を計算すれば,
μpz={ehc/(2Muc)}×3×(1/18)×[(5/3)×4+(-1/3)+(-1/3)]
=ehc/(2Muc) が得られます。
同様に,中性子nでは,
μnz=<n↑|μz|n↑>={ehc/(2Muc)}×3×(1/18)
×[(-4/3)×4+(2/3)+(2/3)]=(-2/3){ehc/(2Muc)}
が得られます。
したがって,理論的には,中性子と陽子の磁気モーメントの
比として,μn/μp ~ (-2/3)という結果を得ます。
実験によると,Bohr磁子μB=ehc/(2mpc)を単位として,
核子の磁気モーメントは,陽子pがおよそ2.79で,中性子nが
-1.91であることが古くからわかっています。
つまり,μp ~ 2.79μB,μn ~ -1.91μB です。
実測値でも,中性子と陽子の磁気モーメントの比は,
μn/μp ~ -1.91/2.79 ~ (-2/3)で与えられること
になります。
それ故,先の理論的考察は実験事実を正しく評価しています。
普通,電荷を持たない物体では角運動量があっても,電流がない
ので磁気モーメントはゼロですから,これは中性子が総体として
の電荷はゼロでも,内部に電荷密度の分布を持つ構造がある証拠
を与えると考えられます。
さらに,μp がBohr磁子μBの2.79倍であることが,陽子の質量:
Mpがクォークの質量:Mu ~ Mudの~2.79倍程度であることを
示唆していると考えるなら,up,downクォークの質量が,
Mu ~ Md ~ 330MeV程度であろうというクォーク質量の推定値
も得られます。
参考となる書籍が,徒歩では行けないちょっと離れたトランク
ルームにあり,おまけに風邪で外出もままならないので,
ほとんど記憶に頼って計算したため,合理的な結果を得るまで,
かなり計算間違いを繰り返して苦労しました。
参考文献:S.Weinberg著(青山秀明他共訳)「場の量子論5」
(超対称性;構成と超対称標準模型)(吉岡書店)
(※以上,再掲載記事でした。)
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