弱い相互作用の旧理論(17)(Fermi理論)
「弱い相互作用の旧理論」の続きです。
前回のCVC仮説(=ベクトルカレントの保存)について
ブログ記事を書くついでに20年以上ぶりに考察して細かい
計算などチェックしつつ,まだ納得できない部分もあり
ますが,取りあえず次のPCACの項目に移ります。
§10.17 軸性ベクトル相互作用の部分的保存(PCAC)
(Partialy Conserved Axial vector
Coupling)
核子の周りの中間子の雲は,軸性ベクトル,またはβ崩壊相互
作用のGamow-Teller部分にもまた影響すると考えられます。
α~1.21という数は,中間子の雲の影響に由来して,ベクトルの
結合定数に軸性ベクトルの強さを関連付けるものであると解釈
します。
αは1に近い数で,仮想の中間子の雲による結合の強さの
くり込み計算は対数的に発散する値を与えます。
これは,軸性ベクトルのβ崩壊結合に対しても,恐らくは近似的
な保存則が成立しているだろうこと,を示唆しています。
現時点では,このおぼろげなアイデアも,他の如何なるアイデア
に基づいても,αの大きさを説明するための進歩は,なされて
いません。
そこで,αの値の説明そのものについては,ここでは,これ以上
考えないことにします。
しかし,弱い崩壊振幅における核子の部分的に保存する
軸性ベクトルカレントに結合するレプトンカレントという
アイデアは,以下に論じるように,荷電π中間子の観測寿命
に適合するよう予測計算を行なうことにおいて,幾らかの
成功を得ています。
軸性ベクトルカレントへの最も単純な輻射補正は,図10.22
に示すように単一のπ中間子を含むグラフです。
ここまでのFeynmanルールによれば,これはβ崩壊の不変振幅
に次のような項として寄与します。
すなわち,
Min=(Ga/√2)(-ig√2)[up~(Pp)iγ5u(Pn)](q2-μ2)-1
×(iqμ)[ue~(pe)γμ(1-γ5)vν(pν~)] です。
ただし,(Ga/√2)は,前に与えたπ中間子崩壊のS行列要素:
Sfi(π)=(-i)(2π)-9/2{m/(4EPEpEk~)}1/2(Ga/√2)
Pπu~(pe)γμ(1-γ5)v(k~)(2π)4δ4(Pπ-pe-k~)
における結合定数を示しています。
また,gはπ-Nの強い相互作用の結合定数であり.追加の因子
√2は荷電π放出のアイソスピン行列に由来する係数です。
弱い相互作用の1次のオーダーで,図10.23に示すようなグラフ
に由来する,多くの追加の寄与があります。
こうした全てのグラフの寄与は次のような形に書けます。
すなわち,M=Fμ(+)(Pp,Pn)u~(pe)γμ(1-γ5)v(k~)
です。
ただし,Fμ(+)(Pp,Pn)=(Ga/√2)u~(Pp)
×[γμγ5F1(q2)+qμγ5F2(q2)+pμγ5F3(q2)]u(Pn)
q=Pn-Pp=pe+k~,p=Pp+Pn です。
この形式の特徴は,電磁カレントに対して作成したものに同様
です。唯一の違いは,軸性ベクトルカレントを作成するために
γ5が挿入されていることです。
もしもFμ(+)(Pp,Pn)への寄与が図10.23のように,
アイソベクトルの(+)成分として変換すると仮定するならば,
このことを示すことによって,この形をさらに簡単にすること
ができます。
すなわち,F3(q2)=0 です。
これは,強い相互作用の荷電共役(Charge cobhugatuon)不変性
とアイソスピン不変性に基づくものです。
これを示すため,図10.23(a)の頂点τ+をτ3にし,図10.23(b)
でのレプトンに結合するπ-中間子の放出頂点でも,τ+をτ3
に変えることによってFμ(+)(P',P)をアイソ空間で回転
させます。
強い相互作用の荷電独立性のために,これはFμ(+)(P',P)
をアイソベクトルの第3成分に変換させます。
特に,陽子pについては,
Fμ3(P',P)=(Ga/√2)u~(P')
×[γμγ5F1(q2)+qμγ5F2(q2)+pμγ5F3(q2)]u(P)
ただし,q=P'-P,p=P'+P
となります。
強い相互作用の荷電共役不変性によれば,図10.23のグラフに
由来するFμ(+)(Pp,Pn)=(Ga/√2)u~(Pp)
×[γμγ5F1(q2)+qμγ5F2(q2)+pμγ5F3(q2)]u(Pn)
なる付加的寄与においては,
陽子が反陽子に置き換えられた場合でも,"裸の"陽子カレント
と同様,Fμ(+)(Pp,Pn)はFμ3(Pp,Pn)に帰着させられる
必要があります。
つまり,運動量PμからP'μの状態へと散乱される反陽子
の荷電共役遷移については,
参考テキストでは.第6章伝播関数.本ブログでは,
「散乱の伝播関数の理論」で論じているように,
運動量(-P'μ)から(-Pμ)の状態へと散乱され,
時間的な前方,つまり過去へと伝播する負エネルギーの
陽子に対応する下図10.24のグラフで記述されます。
これに対応する頂点がγμγ5の素朴な軸性カレント:
JAμ(P',P)=u~(P')γμγ5u(P)は,荷電共役変換
:Cで,v~(P)γμγ5v(P')
=-u(P)C-1γμγ5Cu~T(P')exp{iδ(P',P)}
=-u~(P')γμγ5u(P)exp{iδ(P',P)} なる等式
を満たします。
これは,つまり,
JAμ(-P,-P')=-JAμ(P',P)exp{iδ(P',P)}
を意味しています。
※2009年12/20の過去記事:「Diracの空孔理論(2)」によれば、
Dirac方程式に従う陽子の荷電共役変換演算子:Cは行列表示で,
C=iγ2γ0=-iγ2γ0と選択することができます。
このとき,C-1=C+=-Cであり,陽子の正エネルギー
Pのspinor:u(P,S),と負エネルギー:(-P)のspinor:
v(P,S)のスピンSを省略した表現では
v(P)=Cu~T(P),よって,
exp{-δ(P)}v+(P)=γ0uT(P)C-1,
or exp{-δ(P)}v~(P)=γ0uT(P)C-1γ0
と書けます。
これから,v~(P)γμγ5v(P')
=γ0uT(P)C-1γ0γμγ5Cu~T(P')
exp[i{δ(P)-δ(P')}]となりますが,
γ0uT(P)γ0=uT(P),(γ0)2=1,γ0C-1γ0=-C-1
より,位相変化をδ(P',P)=≡δ(P)-δ(P')
で定義すれば,
v~(P)γμγ5v(P')
=-uT(P)C-1γμγ5Cu~T(P')exp{iδ(P',P)}
を得ます。
さらに,uT(P)C-1γμγ5Cu~T(P')
=[uT(P)C-1γμγ5Cu~T(P')]T
=u~(P'){C-1γμγ5C}Tu(P)ですが,
C=iγ2γ0より,C-1=CT,(C-1)T=C なので,
{C-1γμγ5C}T=C-1γ5TγμTC=γ5C-1γμTC
=-γ5γμ=γμγ5 より,
-uT(P)C-1γμγ5Cu~T(P')=-u~(P')γμγ5u(P)
が得られるわけです。 (注17-1終わり)※
※(注17-2):より詳細にDirac粒子の荷電共役不変性
(Charge Conjigation)の意味について振り返るため,
2009年12/20の過去記事:「Diracの空孔論(2)」から一部を抜粋
して再掲し,粒子と反粒子の対称性を意味する荷電共役不変性
の項目を復習しておきます。
(再掲開始:↓)
Diracの空孔理論は,取り得る全ての負エネルギー状態が完全に占有
された負エネルギー電子の海(=真空)において,エネルギー:(-E)
(E>0),および,電荷e(電子の場合はe=-|e|<0)を持つ電子1個
の欠損を示す,負エネルギーの海における1個の空孔(hole)が,1個の
正エネルギーの陽電子の存在に同等である,と解釈する理論です。
そこで,この解釈では電磁場Aμがある場合の質量mの電子波動関数
Ψが従うDirac方程式:(i∂-eA-m)Ψ=0 の負エネルギー解
と,正エネルギー陽電子の固有状態を示す波動関数が1対1に
対応するはずです。
ただし,A≡γμAμ,i∂≡iγμ∂μ=iγμ(∂/∂xμ),
A≡γμAμです。
pμ^=i(∂/∂xμ)ですから,p^=i∂であり,
自由電子のDirac方程式に,極小相互作用変換:
pμ^→ pμ^-eAμを施して得られるものが,Aμが
存在する場合の上記の電子波動関数に対する
波動方程式です。
こうした解釈により,陽電子の波動関数Ψcは電子とは正の電荷
(-e)を持つだけ異なる,電子と同じ波動方程式を満たすはず
なので,それは,(i∂+eA-m)Ψc=0 の正エネルギー解である
と考えられます。
このことから,2つの方程式を互いに変換させる演算子を作る
という発想に導かれます。
これを遂行するためには,変換の結果として,2つの演算子;
p^=i∂とAの間の相対的符号が変換前と異なるようになる
ことが必要ですが,これは単に複素共役を取ることで可能です。
すなわち,{i(∂/∂xμ)}*=-(∂/∂xμ),Aμ*=Aμ
なので,(i∂-eA-m)Ψ=0, or
{γμ(i∂μ-eAμ)ーm}Ψ=0は,両辺の複素共役を取ることで
{(i∂μ+eAμ)γμ*+m}Ψ*=0 となります。
もしも,(Cγ0)γμ*(Cγ0)-1=-γμなる代数関係を満たす
正則行列Cγ0を見出すことができれば,
{(i∂μ+eAμ)(Cγ0)γμ*(Cγ0)-1+m}(Cγ0Ψ*)=0
より,{(i∂μ+eAμ)γμ-m}(Cγ0Ψ*)=0 となります。
ところで,Ψ~=Ψ+γ0より,γ0Ψ*=Ψ~Tですから,
このCγ0を用いてΨc≡Cγ0Ψ*=CΨ~Tと定義すれば,上記
方程式は,{(i∂μ+eAμ)γμ-m}Ψc=0となり,
陽電子の波動関数をΨcとしたときに,それが満たすベキ方程式
に一致します。
今,用いているDiracガンマ行列の表示では,C=iγ2γ0と選択
すれば,C=-C-1=-C+=-CTであり,C(γμ)TC-1=-γμ,
またはC-1γμC=-(γμ)Tとなり,それ故,
(Cγ0)γμ*(Cγ0)-1=γ0γμ +γ0=-γμです。
したがって,C=iγ2γ0は,上記の(Cγ0)γμ*(Cγ0)-1
=-γμなる条件を確かに満足します。
任意の表示はユニタリ同値なことから,これは任意の表示の
変換でも常に(Cγ0)γμ*(Cγ0)-1=-γμを満たすCを作る
ことが可能なことを示すに十分です。
しかし,(i∂+eA-m)Ψc=0を満たすような
Ψc≡Cγ0Ψ*=CΨ~Tを与える荷電共役演算子:Cの定義に
おいては,位相の任意性があることに気付きます。
例えば,今の行列でのC=iγ2γ0なる陽な表現では,Ψc=iγ2Ψ*
です。そこで,静止した負エネルギー電子:
Ψ=(2π)3/2[0,0,0,1]Texp(imt)であれば,
Ψc=iγ2Ψ*=(2π)3/2[1.0,0,0,1]Texp(-imt)
となります。
これは,静止したspin-downの負エネルギー電子の欠損が.
静止したspin-upの正エネルギー電子の存在に等価という描像
に対応しています。
この場合には,荷電共役変換後に位相変化は無いように
見えますが,一般には,
exp{iδ(p,s)}v(p,s)=Cu~T(p,s),
exp{iδ(p,s)}u(p,s)=Cv~T(p,s) となって
v(p,s)とu(p,s)が互いに位相因子:exp{iδ(p,s)}
を伴なう運動量表示の荷電共役spinorの対になると
考えられます。
波動関数の位相には何の物理的意味も無いように見えますが,
実はこれにも重要な意味が隠されている場合があります。
(再掲載終了) (注17-2終了)※
陽子pの素朴な軸性カレントにおける荷電共役不変性:
v~(P)γμγ5v(P')
=-u~(P')γμγ5u(P)exp{iδ(P',P)},
または,JAμ(-P,-P')=-JAμ(P',P)exp{iδ(P',P)}
での位相因子:exp{iδ(P',P)}は,運動量とスピンから決まる
量です。
一方,β崩壊のハドロンカレント因子での強い相互作用のπの
雲など の高次補正を含む軸性カレントの第3成分:
Fμ3(P’,P)=(Ga/√2)u~(P')
[γμγ5F1(q2)+qμγ5F2(q2)+pμγ5F3(q2)]u(P)
も, こうした補正前の素朴なカレント:JAμ(P',P)
と同じ荷電共役変換性を持つと考えられます。
すなわち,
Fμ3C(-P',-P)=-Fμ3(P',P)exp{iδP',P)}
です。
これから,容易に,F3(q2)=0 となることが結論されます。
※(注17-3): Fμ3C(-P',-P)={Ga/√2}v~(P)
×[γμγ5F1(q2)+qμγ5F2(q2)-pμγ5F3(q2)]v(P')
ですが,
一方,Fμ3(P',P)=(Ga/√2)u~(P')
×[γμγ5F1(q2)+qμγ5F2(q2)+pμγ5F3(q2)]u(P)
です。ただし,q=P'-P,p=P'+Pです。
そして,荷電共役によって,
v~(P)γμγ5v(P')
=-u~(P')γμγ5u(P)exp{iδ(P',P)},
かつ,
v~(P)γ5v(P')
=-u~(P')γ5u(P)exp{iδ(P’,P)}
が成立します。
故に,Fμ3(P',P)exp{iδ(P',P)}=(Ga/√2)v~(P)
×[γμγ5F1(q2)+qμγ5F2(q2)+pμγ5F3(q2)]v(P')
です。
これが,Fμ3C(-P,-P')=(Ga/√2)v~(P)
×[γμγ5F1(q2)+qμγ5F2(q2)-pμγ5F3(q2)]v(P')
に恒等的に等しいことから,
F3(q2)=0 が結論されます。(注17-2終わり)※
軸性ベクトル部分の図10.23(b)のようなグラフに由来する
β崩壊の振幅への寄与は,図10.22のグラフの最低次の
不変振幅:
Min=(Ga/√2)(-ig√2)[up~(Pp)iγ5u(Pn)](q2-μ2)-1
×(iqμ)[ue~(pe)γμ(1-γ5)v(pν~)]
に,あるq2のスカラー関数F(q2)を掛けたもので
与えられると考えられます。
ただし,ここではq=Pn-Ppです。
よってβ崩壊でのπ-N頂点の寄与による摂動の全ての次数
の修正の総和は,上記振幅での[up~(Pp)iγ5u(Pn)]の因子
を,[up~(Pp)iγ5F(q2)u(Pn)]なる形の相互作用因子に
置き換えることで得られると考えられます。
ここに,F(q2)は,不変運動量遷移q2の不変関数です。
これは,奇数個のγ5頂点があるとき, PpやPnをDirac
自由粒子外線の次に位置するところまで右から左に交換
させ移動させて,核子の質量Mに置換できるという事実
から従います。
こうして,核子の雲の中に単一のπ中間子が,直接レプトン
と結合する図10.23(b)のようなグラフの寄与は,qμγ5に
比例するため,
Fμ(+)(Pp,Pn)=(Ga/√2)u~(Pp)
×[γμγ5F1(q2)+qμγ5F2(q2)]u(Pn)
の右辺のF2(q2)にのみ寄与します。
そこで,F2(q2)から図10.23(b)のようなグラフの寄与
を分離して,
F2(q2)=F2~(q2)+(-ag√2)F(q2)/(q2-μ2)
と書きます。
定数aは,以前に荷電π中間子崩壊の論議で予測計算値が
πの観測寿命に合致するよう導入された,結合定数Gの
係数です。
形状因子:F(q2)は,q2=μ2において,§10.8のπ-N散乱
で論じられた,π-N結合定数:gの観測される強さによって
より明確にされます。
gは,物理的に観測された結合定数の評価:
g2/(4π)~14に一致するように取られる定数であり,
F(q2)は,q2=μ2で1に規格化されます。
F(μ2)=1です。
F2(q2)については,何の情報もありません。しかし,これは,
軸性カレントqμγ5の係数であって,反跳補正:~q/M
に等しいのでβ崩壊では観測されません。
一方,これまでの論議からF1(0)=-α~ -1.21であること
がわかっています。
こうした準備に基づいて,PCAC=軸性ベクトルカレント
の部分的保存という課題を考察します。
もしも軸性カレントも,(極性)ベクトルのカレントと同様に
正確に保存するなら,qμFμ(+)(Pp,Pn)=0 が成立します。
この式と,Fμ(+)(Pp,Pn)の形状因子構造;
Fμ(+)(Pp,Pn)=(Ga/√2)u~(Pp)×
{γμγ5F1(q2)+qμγ5F2(q2)]u(Pn)
を組み合わせると,
-2MF1(q2)+q2F2(q2)=0 が得られます。
※(注17-4):何故なら,
qμu~(Pp)[γμγ5F1(q2)+qμγ5F2(q2)]u(Pn)
=u~(Pp)qγ5F1(q2)u(Pn)+q2u~(Pp)γ5F2(q2)u(Pn)
ですが,
u~(Pp)qpγ5F1(q2)u(Pn)
=u~(Pp)(Pn-Pp)γ5F1(q2)u(Pn)
=-u~(Pp)Ppγ5F1(q2)u(Pn)-u~(Pp)γ5F1(q2)Pnu(Pn)
=-2Mu~(Pp)γ5F1(q2)u(Pn) です。
故に,qμFμ(+)(Pp,Pn)=0 は,u~(Pp),u(Pn)
について恒等的に,u~(Pp)γ5[-2MF1(q2)
+q2F2(q2)]u(Pn)=0 が成立する,ことを意味するため,
-2MF1(q2)+q2F2(q2)=0 です。 (注17-4終わり)※
したがって,もしも正確に軸性カレントが保存うると仮定
すれば,F2(q2)=2MF1(q2)/q2となるのですが,これは
F1(0)≠0より,F2(q2)がq2=0に極を持つことを意味
します。
これはつまり,F2(q2)が関わる相互作用では,質量がゼロ
の擬スカラー粒子の交換が寄与することを意味しています。
このF2(q2)のq2=0の極を,
F2(q2)=F2~(q2)+(-ag√2)F(q2)/(q2-μ2)
なる表現におけるπ中間子交換の極:q2=μ2と関連
付けよう,という発想は魅力的です。
つまり,π中間子の質量がゼロなら,軸性カレントも正確に
保存されるはずでしたが,πのゼロでない質量μの存在で,
このカレントの保存が破られているのでは?という連想が
生じるわけです。
そこで,qμFμ(+)(Pp,Pn)=0 の代わりに,
修正された仮説:
0=limμ→0[qμFμ(+)(Pp,Pn)]=limnμ→0[u~(Pp)γ5
×{-2MF1(q2)+q2F2(q2)-ag√2)F(q2)/(q2-μ2)}
u(Pn)] を採用します。
この構造が,現実のπ質量のμ≠0でも,q2=0においてほとんど
ずれがなく成立すると仮定すれば,
近似的に,2Mα=ー2MF1(0)~ag√2が成立すること
になります。(※F(0)=μ2?。。)
数値的にはα~1.21,g2/(4π)~14より.
|a|~ 0.87μなる「予測を得ます。
(※(注17-5):私の計算では.g√2~(104π)1/2,M~940MeV.
μ~140MeVより,a=2Mα/g√21~26.137MeV=0.90μ
です。 (注17-5終わり)※
これは,以前にπ±崩壊の論議で,π±の観測された平均寿命
から評価された|a| ~ 0.93μと10%以内の誤差で一致
します。
こうしたπ中間子の崩壊率,Fermi定数Gとπ-N結合定数
gの間の関係は,GoldbergerとTreimanによって初めて導出
されたものです。
次いでこれがPCACの帰結であると論じたのは,
南部(Nambu),Bernsteinによるものです。
以上,「)弱い相互作用の旧理論(Fermi理論)」については,
これで終わります。
実は参考テキスト(Mechanics;量子力学)もこれが最後
です。
私のノートではこれの読了期日は1994年4/27(44歳)
となっています。これは22年前バブルも終わりかけて,私は
定職を離れて本格的なプータロー生活となった頃です。
金無し,ヒマありでしたから,過去の専門に戻るというこの
変態的趣味にふける,くらいしか,自己実現の道がなかった
と当時は考えたようです。結局,今も続いてますが。。。
さて,同じ著者:B-Jのテキストの続きは,もう1巻,第11章
から始まるもの(=Field;場理論)がありますが,実は私は,
この順で順序良く読んだのではなく,学生時代に両方とも
テキストとして使用していた当時から,これらを同時に
並行して読んでいました。
弱い相互作用については,古典的なFermi理論はこれで終わり
ますが,新理論というのは,ニュートリノに質量があるという
最近の発見内容も含むのが条件でしょうが。。
その中間にある,Weinberg-Salam理論の紹介や,その予想通り
実際に発見された弱い相互作用のゲージ粒子(Weak-Boson),
の話題,そして,カラークォークを含む最近の旧理論なども,
できれば別記事としてアップしたいと思っています。
まだ,命があれば。。。。。
(参考文献):J.D.Bjorken & S.D.Drell
”Relativistic QantumMechanics”(McGrawHill)
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