クライン・ゴルドン方程式(5)
クライン・ゴルドン方程式(Klein-Gordon eq.)の続きです。
今回は,科学記事のアップが,ずいぶん,久しぶりとなりましたが,
実はこの間,別の計算に明け暮れていました。
それは「弱い相互作用の旧理論」に基づいて,自由中性子n
の崩壊率,または平均寿命の予測値の精密な値を求めるという
課題です。
思えば,「弱い相互作用の旧理論」は,ここまで記事を重ねて
いながら,μ粒子や荷電π中間子の崩壊率,寿命については実験
観測値とほぼ適合する予測計算値を得ていながら,肝心の中性子
nのβ崩壊による崩壊率や寿命については,具体的な計算を実行
していなかったことに気付きました。
しかし,前回の「弱い相互作用の旧理論(15)]」で,CVC
の仮説から,πー→ π0+eー+ν~ なるπの崩壊が存在し.その
崩壊率のオ-ダーが 10-8 程度である,という参考テキストに
あった値を天下り的に記述してアップした後,これは如何なる
計算で評価されたるのか?という根拠が気になりました。
結局,Fermi粒子とBose粒子の違いはありますが,これは
中性子のβ崩壊:n→ p+eー+ν~と同じ3体崩壊なので,
nとpの質量,質量差と,πnとπ0のそれらを比較すれば,
nのβ崩壊での評価値との比較で納得できる回答が得られる
のでは?と考えるに至りました。
そこで,これまでの関連記事を全てチェックしたところ,
ここまで肝心の中性子nのβ崩壊の具体的計算を怠っていたこと
に気付いたわけdす。
既にμ崩壊の詳細計算などは実施ししているので,同様に
やれば簡単に計算評価できると思っていたのに,なかなか数値
として合理的と思われる評価が得られず,
中途挫折しているうちに.つなぎにでも,
「クラインゴルドン方程式」の続きの新記事をアップしよう
と思ったわけです。
さて,前回の記事「クラインゴルドン方程式(4)」の最後では,
電荷が+ZeのCoulombポテンシャルによるπ+中間子の
ポテンシャル散乱の微分断面積(角分布) が,微細構造定数:
α=e2/(4πε0) ~ 1/137の最低次で,
dσ/dΩ=Z2α2Z2e4//{4β2p2sin4(θ/2)}で与えられ,
これは,2014年の過去記事:
「散乱の伝播関数の理論(11)(応用1-1)」で求めた,同じ
Coulombポテンシャルによる電子の散乱微分断面積:
dσ/dΩ=Z2α2{1-β2sin2(θ/2)}/{4β2p2sin4(θ/2)}
とは.電子スピンの1/2と関わる,スピノルについてのトレース
に起因する因子:{1-β2sin2(θ/2)}のみが異なるという,
合理的で当然な結果が得られた。
というところで終わりました。
さて,今日はその続きですが,これと似た結果はπ-中間子の
Coulomb散乱 に対しても得られます。
上の図9.4のように,散乱前に運動量piμを持ったπ-中間子
を表わすfpi(-)*(y)が,散乱後に,終状態で出現する
φ(y)=fpf(-)(y)運動量pfμを持つπ-中間子へと遷移する
S行列要素は,この前に求めた下図9.3に対応する同じ運動量
遷移q=pf-piのπ+中間子のS行列要素:
Spfpi=(-ie)(2π)-3(4ωfωi)-1/2(pf+pi)μAμ(q)
から,
Spfpi=(+ie)(2π)-3(4ωfωi)-1/2(pf+pi)μAμ(q)
に変わるだけです。
これらは,π+とπ-の電荷の符号の変化に対応して符号だけ
が異なるため,π+とπ-は,Coulomb散乱の最低次近似では,
同一の微分断面積を持つことがわかります。
中心電荷Zeは,π+中間子には斥力,π-中間子には引力を
及ぼすという明確な違いがあるにも関わらす,散乱微分断面積
は同一という計算結果ですが,これは以前の電子散乱と陽電子
散乱のケースに述べたのと同じく最低次の計算で一致すると
いうだけで,高次の計算をまでを考慮すれば,その差異が現わ
れます。
そして,こうした計算から学び取れることは,荷電π中間子の
頂点には,電子の頂点に対するeγμの代わりに,因子:
e(pf+pi)μが結び付くということです。
波動関数の規格化因子は,1/(2ω)1/2で.これは電子に対する
(m/E)1/2にとって代わるものであり,もちろんスピノル因子:
u(p),v(p)などの因子も存在しません。
電磁場;Aμ(x)がある場合のπ中間子のスカラー波動関数
φに対する方程式:(□+μ2)φ(x)=-V^(x)φ(x);
V^(x)=ie(∂μAμ(x)+Aμ(x)∂μ)-e2Aμ(x)Aμ(x)
から,
Spfpi=δ3(pf-pi)-i∫d4yfpf(+)*(y)V^(y)φ(y)
で,φ(y)=fpi(+)(y)とおくことによりπ+中間子のS行列
要素の座標表示の最低次近似の計算式を得ました。
そして,これからS行列要素の運動量表示の最低次の
pf≠pfにおける表式:
Spfpi=(-ie)(2π)-3(4ωfωi)-1/2(pf+pi)μAμ(q)
を得たのでした。
この際には,V^(x)=ie(∂μAμ(x)+Aμ(x)∂μ)
と見なし,eの2次の項である -e2Aμ(x)Aμ(x)は
無視したため,V^頂点に対する因子;e(pf+pi)μが
得られたわけです。
したがって,最低次では不要な-e2Aμ(x)Aμ(x)に
対するFeynman図のルールは不明でしたが,これを得るために
荷電中間子のCompton散乱を考察します。
Coulomb 散乱では,Aμ(x)は単に外場のポテンシャル:であり,
特に静電Coulombポテンシャル:
Aμ(x)=gμ0{Ze/(4πε0)}/|x|
=∫d4q(2π)-4Aμ(q)exp(-iqx);
Aμ(q)={Ze/(ε0|q|2)}2πδ(ωf-ωi)gμ0
でしたが,
Compton散乱では中間子と光子が衝突するため,Aμ は
Aμ(x)=Σλ=±∫d3kε0-1{(2π)32k0}-1/2
[a^(k,λ)εμ(k,λ)exp(-ikx)
+a^+(k,λ)εμ(-k,λ)exp(-ikx)]
ただし,k0=|k| で与えられる光子を示す電磁場
とします。
このAμ(x)は,本質的には第2量子化された電磁場
の演算子であり,それ故,係数:a^(k,λ), a^+(k',λ')
も演算子で,交換関係:[a^(k,λ), a^+(k',λ')]
=δ3(k-k')δλλ'を満たす,それぞれ,光子1個の
消滅演算子,生成演算子です。
kは光子の運動量,λは横波の2つの独立な偏光(偏極)
を示し,εμ(k,λ)は.kを進行方向とする座標系では
ε(k,λ)k=0で直交する横波光子の3次元単位でクトル
となる大きさが1の4元偏光ベクトルを意味します。
(※つまり,εμ(k,λ)εμ(k,λ)=0-ε(k,λ)2=-1です。)
ただし,ここではまだ量子電磁力学や場の量子論でなく,
相対論的量子力学としてやや現象論的な扱いをします。
したがって,ここで重要なのは,規格化された平面波
ベクトル波動関数:{(2π)32k0}-1/2εμ(k,λ)exp(-ikx)
を持つ運動量kの光子が,a^(k,λ)に従って,1個だけ消滅
=吸収され,他方,{(2π)32k0}-1/2εμ(-k,λ)exp(ikx)
で表わされる波は,a^+(k,λ)に従って,同じ運動量kの
光子1個が生成=放出されるプロセスに対応する,という
ことです。
それ故,上の図9.5に示される運動量piで入射してpfで出ていく
π中間子の運動量遷移がq=pf-piの相互作用:V^による散乱
のS行列要素が,
相互作用がV^の波動関数の摂動近似,
φi(x)=φin(x)+∫d4yΔF(x-y)V^(y)φin(y),
φ2(x)=φin(x)+∫d4yΔF(x-y)V^(y)φ1(y)
つまり,
φ1(x)=fpi(+)(x)+∫d4yΔF(x-y)V^(y)fpi(+)(y)
より,Spfpi(1)≡<fpf(+)φ1>
≡limt→∞∫d3xfpf(+)*(x)i∂0⇔φ1(x)
=δ3(pf-pi)+(-i)∫d4yfpf(+)*(y)V^(y)fpi(+)(y),
φ2(x)=fpi(+)(x)+∫d4yΔF(x-y)V^(y)fpi(+)(y)
+∫d4zd4yΔF(x-y)V^(y)ΔF(y-z)fpi(+)(y),
より,Spfpi(2)≡<fpf(+)φ2>-Spfpi(1)
=(-i)2∫d4yd4xfpf(+)*(x)V^(x)ΔF(x-y)
V^(y)fpf(+)*(y)と掛けるため。
Compton 散乱では,
V^=ie(∂μAμ+Aμ∂μ) -e2AμAμのうち,
ie(∂μAμ+Aμ∂μ}については,pf≠piのとき,
Spfpi(2)=(-i)2∫d4yd4z[fpf(+)*(y)
{ie(∂yμAμ(y)+Aμ(y)∂yμ}
×iΔF(y-z){ie(∂zμAμ(z)+Aμ(y)∂zμ)}fpi(+)(z)]
が寄与し,
また,-e2AμAμについては,
Spfpi(1)=(-i)∫d4y[fpf(+)*(y)
{-e2Aμ(yx)Aμ(x)}fpi(+)(x))}
とした寄与があるので,これらの和を取ったものが
S行列要素のeの最低次(eの2次:e2)のオーダー
の近似になります。
運 動量表示では,
Aμ(x)=Σλ=±∫d3k{(2π)32k0}-1/2ε0-1
[a^(k,λ)εμ(k,λ)exp(-ikx)
+a^+(k,λ)εμ(-k,λ)exp(-ikx)]
から,
Feynmanル-ルとして,(k,λ)の光子を吸収する場合は,
{(2π)32k0}-1/21/2ε0-1εμexp(-ikx)を,(k',λ')の光子
を放出する場合は,{(2π)32k’0}-1/2ε0-1ε’μexp(ik'x)
を付与します。
吸収と放出の交差項のみ,Compton 散乱のグラフに寄与して.
Spfpi=(2π)-6(16ωiωfk0k'0)-1/2
(2π)4δ4(pf+k'-pi-k)
×(-i)2(ie2ε0-2)[{ε(2pi+k)}{(pi+k)2―μ2}-1
{ε'(2pf+k')}+{ε'(2pi-k')}{(pi-k')2―μ2}-1
{ε(2pf-k)}]+(-i){-e2ε0-22(εε’)}]
が得られます。
最後の,-e2AμAμの項については2の因子が掛かること
に注意が必要です。
※(注5-1):元々,摂動展開では元々,展開の1次項に対して,
2次項には,(1/2!)という因子が掛かっていますから,相対的
に2次近似は1次近似の2倍の寄与をするといえます。
あるいは,より直感的に1頂点でつの光子が結合するFeynman図
で光子の吸収と放出を交換する2重の寄与がカウントされる
からです。 (注5-1終わり)※
上記のπ+中間子のCompton散乱のS行列要素の式のチェックに,
2010年7/30の過去記事:「散乱の伝播関数の理論(18)(応用4)」における
電子のCompton散乱のS行列要素の式:散乱断面積を与える式で
ある有名な「クラインー仁科(Klein-Nishina)の公式」に至るS行列要素を
用いることができます。
これは,SfiComp=(e2/ε02V2)(2π)4δ4(pf+k’-pi-k)
(4k0k' 0)-1/2{m2/(EfEi)}1/2
u~(pf,sf)[(-iε'){i/(pi+k-m)}(-iε)
+(-iε){i/(pi-k'-m)}(-iε')]u(pi,si)
でした。
ここで,ε=εμγμであり,Vは(2π)3と読み換えることが
できます。
この時の散乱振幅に対して適用したようにゲージ不変性
のテストを適用することができます。
すなわち,吸収光子でのεμ→εμ+Λkμ,および,放出光子
でのε'μ→ε'μ+Λ'k'μなる変換に対して,Sfiが不変
であることをチェックすることで,散乱振幅の式の妥当性を
ある程度,チェックできます。
実際,Spfpi=(ie2ε0-2)(2π)-6(16ωiωfk0k'0)-1/2
(2π)4δ4(pf+k'-pi-k)
×[{ε(2pi+k)}{(pi+k)2―μ2}-1{ε'(2pf+k')}
+{ε'(2pi-k')}{(pi-k')2―μ2}-1{ε(2pf-k)}
-2(εε')] ですが,
これは,これらの変換に対して不変:ゲージ不変なる
ことを示すことができます。
※(注5-2):上記Spfpiの右辺において,εμ,ε'μには
無関係な因子を除いたものは,
[{ε(2pi+k)}{(pi+k)2―μ2}-1{ε'(2pf+k')}
+{ε'(2pi-k')}{(pi-k')2―μ2}-1{ε(2pf-k)}
-2(εε')] で与えられます。
後者の変換:ε'μ→ε'μ+Λ'k'μに対する不変性の証明
も前者:εμ→εμ+Λkμに対するそれと,ほぼ同じです
から,ここでは,εμ→εμ+Λkμに対する不変性のみを
証明することにします。
これは上記の[ ]で囲んだ式で,εμをkμに置き換えると,
これがゼロとなることを示せば十分です。
[ ]の中={ε(2pi+k)}{(pi+k)2―μ2}-1{ε'(2pf+k')}
+{ε'(2pi-k')}{(pi-k')2―μ2}-1{ε(2pf-k)}
-2(εε') です。
したがって,[ ]ε→k
={k(2pi+k)}{(pi+k)2―μ2}-1{ε'(2pf+k')}
+{ε'(2pi-k')}{(pi-k')2―μ2}-1{k(2pf-k)}
+(2kε')
=(2pik)(2pik)-1{(2pfε')+(k'ε')}
-{(2piε')ー(k'ε')}(2pik')-1(2pfk))+(2kε')
=2pfε')+(k'ε')-(2piε')+(k'ε')-(2kε')
=2(pf+k'-pi-k)ε'=0 が得られます。
ここで,k2=k'2=0,および,保存則:pf+k'=pi+k
と,これにより(2pik')=(2pfk) etc.を用いました。
(注;5-2終わり)※
以上から,Spfpi=(ie2ε0-2)(2π)-6(16ωiωfk0k'0)-1/2
(2π)4δ4(pf+k'-pi-k)
×[{ε(2pi+k)}{(pi+k)2―μ2}-1{ε'(2pf+k')}
+{ε'(2pi-k')}{(pi-k')2―μ2}-1{ε(2pf-k)}
-2(εε')]
は確かにゲージ不変であることが示されました。
そして,運動量kμ=(k0,k)で進む光子は横波であり,
偏光:εμ=(0,ε)は,εk=-εk=0 を満たします。
これは,場のゲージ条件としては,∂μAμ=∇A=0
を意味します。
量子論では,こうしたLorentz不変性が満たされたり,便利
であるゲージ選択が矛盾に導く可能性もあって,状態の方に
物理的とかの付加条件を追加したりしますが,本質的には,
光子が∂μAμ=0,またはεk=0を満たすとする条件を採用
して計算しても問題は無いです。
'
それ故,εk=ε'k'=0 が満たされると考えます。
そして,また,πが最初静止していたと見える座標系では
空間軸の取り方は任意なので,このπと衝突する入射光の
偏光ベクトルがεμ=(0,ε)=(0,0,0,1)のとき,このεが
z軸の向きになるようにπの実験室系(Laboratory-ystem):
piμ=(μ,0)の座標系のz軸の向きに一致するように軸を
とることができます。
そうすれば,自動的にεpi=0です。
同様に終状態のπが静止している:つまり,散乱された
πと共に運動する,またはπに固定された慣性座標系:
pfμ=(μ,0)で散乱された光子の偏光の向きε'を
z軸に採用すれば,ε'μ=(0,ε')=(0,0,0,1)
なので,ε'pf=0 となります。
すると,εk=ε'k'=εpi=ε'pf=0ですから,結局,
{ε(2pi+k)}{(pi+k)2―μ2}-1{ε7(2pf+k')}
+{ε'(2pi-k')}{(pi-k')2―μ2}-1{ε(2pf-k)}
-2(εε')=-2(εε') となります。
それ故,Spfpi=(-ie2ε0-2)(2π)-6(16ωiωfk0k'0)-1/2
(2π)4δ4(pf+k'-pi-k)2(εε') です。
これから,
実験室系での荷電πのCompton散乱の微分断面先の式:
(dσ/dΩ)lab=(α2/μ2)(εε')2/{1+(k/μ)(1-cosθ)}2
を得ます。
※(注5-3): V,Tをそれぞれ,散乱の相互作用の体積,反応時間
とすると,i(始状態)から,πと光子が存在するf(終状態)への
上記S行列要素:Sfiの絶対値の平方に,終状態のπ中間子の密度
(2π)-3Vd3pf,終光子の密度:(2π)-3Vd3k'を掛けると,
その微小領域への遷移確率は,|Sfi|2(2π)-6V2d3pfd3k'
で与えられます。
これを,体積Vと時間Tの積:VTで割った単位体積当りの
遷移速度は,{|Sfi|2/(VT)}(2π)-6V2d3pfd3k'です。
これを,さらに始状態の静止πに対する光子の入射流束(1/V)
とπの密度:(1/V)で割ったものが,π中間子1個と光子1個当
たりの単位時間当たりのd3pfd3k'への散乱確率:dσを
与えると考えられます。
ただし,こうした現象では,V=∞(全空間)として
V=(2π)3δ3(0),T=∞=(-∞,∞)の全時間として,
T=(2π)δ(0)とし,VT=(2π)4δ4(0)と同定します。
また,粒子がVの中に1個だけあるという波動関数
の規格化でなく,全空間でのデルタ関数式規格化では,
最後にV=(2π)3とします。
そこで,dσ={|Sfi|2/(VT)}V2(2π)-6V2d3pfd3k'
=(2π)6(2π)-12(2π)4δ4(pf+k'-pi-k)
(16ωiωfk0k'0)-14e4ε0-2(εε')2d3pfd3k'
piμ=(ωi,pi)=(μ,0)でωi=μ,
∫d3pf /(2ωf)=∫d4pf θ(ωf)δ(pf2-μ2)より,
右辺で∫d3pf /(2ωf)を実行すれば,δ4(pf+k'-pi-k)
は消えて,dσ=(2π)-2e4ε0-2(2μk0k'0)-1θ(μ+k0-k'0)
δ(pf2-μ2)(εε')2d3k' です。
そして,(k’0)-1d3k'=k'dk’dΩと書けば,
dσ/dΩ=(2α2/μ)∫0μ+k0(εε')2δ(pf2-μ2)k'dk'
です。(※ここでe2=4πε0αを代入しました。)
dk'積分を実行して,δ(pf2-μ2)因子を消去すると,
0=pf2-μ2=(pi+k-k')2-μ2
=2(pik)-2(pik')-2(kk')
=2μ(k0-k'0)―2(k0k'0)(1-cosθ)
=2μk0-2μk'0{1+(k0/μ)(1-cosθ)}
ですから,
k'0=k0/{1+(k0/μ)(1-cosθ)} を得ます。
ここで,k0=|k|を単にk,また k'0=|k'|を
単にk'と表記し直すと,k'=k/{1+(k/μ)(1-cosθ)}
であり,
また,pf2-μ2=(pi+k-k')2-μ2
=2μk-2μk'{1+(k/μ)(1-cosθ)} なので,
∫dk'f(k')δ(pf2-μ2)
=f(k')/[2μ{1+(k/μ)(1-cosθ)}]
ただし,k'=k/{1+(k/μ)(1-cosθ)}
以上から,始状態のπの実験室系で,
dσ/dΩ={2α2/(μk0)}
∫0μ+k0(εε')2δ(pf2-μ2)k'dk'
=(2α2/μ2)(εε')2/(2μ)/{1+(k/μ)(1-cosθ)}2
dσ/dΩ=(α2/μ2)(εε')2/{1+(k/μ)(1-cosθ)}2
が得られました。 (注5-3終わり)※
これは,低光子エネルギーの極限で,古典Thomson散乱の極限
に帰するものです。
結果を光子の終偏極ε'について総和し,始状態の入射光子
偏極εについて平均すれば,π+中間子の非偏極光子による
散乱の微分断面積として,[(dσ/dΩ)lab]
=α2(1+cos2θ)/[2μ2{1+(k/μ)(1-cosθ)}2]
を得ます。
(※何故なら,既に電子のCompton散乱の項で計算したように,
(1/2)Σε,ε'(εε')2/=(1+cos2θ)/2となるからです。)
今日はここで終わります。
次回は,より高次の計算について述べる予定です。
(参考文献):J.D.Bjorken & S.D.Drell
"Relativistic QantumMechanics”(McGrawHill)
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