クライン・ゴルドン方程式(6)
前後しますが,「弱い相互作用の旧理論」については一応
終わったので,クライン・ゴルドン方程式(Klein-Gordon eq.)
の続きに移ります。
ただし, 「弱い相互作用の旧理論」の最後のCVC
の記事とPCACの記事では,自分の中でまだ納得してない
不完全燃焼の部分が残っているのでPending状態ですが。。。
それに,急いでもないのに後回しですが。。。
以下,本題です。
§9.6 高次のプロセス(Higher-order Processes)
ここまで,主として電子に対する伝播関数の理論を模倣して
きましたが,この理論展開を,さらに続けることができて,前の
例から高次の計算法則が推測できます。
すなわち,電子のケースのFeynmanルールから,荷電π中間子
に対するルールへの主要な変更は,次のように書けるとが
わかります。
1.図9.6に示すように,運動量pからp'へとπ中間子を散乱
する電磁頂点では,時間的に未来,過去の両方向に対して,電子
頂点からπ頂点への変更の結果は,次のような置き換えと
なります。
すなわち,eγμ → e(pμ+p'μ) です。
(ただし,eは,eγμでは電子の電荷,e(pμ+p'μ)では,
荷電π中間子の電荷を意味します。)
2. 2次の相互作用項:(-e2AμAμ)に対応する光子2個連結
のπ頂点は,2ie2gμνなる因子として寄与します。
これは,先のπのCompton散乱のS行列要素:
Spfpi=(ie2ε0-2)(2π)-6(16ωiωfk0k'0)-1/2
(2π)4δ4(pf+k'-pi-k)
×[{ε(2pi+k)}{(pi+k)2―μ2}-1{ε'(2pf+k')}
+{ε'(2pi-k')}{(pi-k')2―μ2}-1{ε(2pf-k)}
-2εε']
において,[ ]の中の最後の項に反映されています。
2ie2gμνの因子iは,この項に対する摂動展開のパラメータです。
このS行列要素の式はe2のオーダーの計算ですが,e(pμ+p'μ)
については摂動の2次なのに,この項は摂動の1次の計算なので
現われるため出現する因子です。
つまり,通常の積分方程式のn回の反復近似から得られるn次の
摂動項では,因子:(-i)nが出現するため,e(pμ+p'μ)の寄与を
enのオーダーまで計算するとき,-e2AμAμ項が計算にm回
出現するなら,このiは因子:(-i)n-2mim=(―i)n-m×(-1)mとして
寄与するわけです。
※(注6-1);電子のFeynman規則では,実は1頂点には,単にeγμでは
なく(-i)という因子も伴なった(-ieγμ)が対応します。
それ故,πの頂点でもe(pμ+p'μ)だけでなく,正確には
{-ie(pμ+p'μ)}が対応するのですが,この余分の(-i)
は,摂動級数の4元座標変数積分の前に掛かる(-i)因子に
起因します。
したがって,光子がn個連結した頂点には通常はenに因子:(-i)n
が付随します。
しかしながら,(-e2AμAμ)がm個挟まってトータルでenの寄与
の頂点ならルールは修正されて,en-2mに寄与する(n-2m)重の
e(pμ+p'μ)からの摂動級数因子:(-i)n-2mと,m重の
(-e2AμAμ)からの摂動因子(-i)m,および,(-e2)mから
e2mを除いた(-1) mを掛け合わせたimの寄与があります。
結果的には,(-i)n-2m×(-i)2m×(-i)m=(-i)n-2m×im
=(-i)n-mなる係数がenのオーダーの項の係数として寄与する
はずです。
したがって,(-e2AμAμ)の1個当たりの虚数係数の寄与
としては+iです。 (注6-1終わり)※
2ie2gμνの係数因子2は,この頂点での崩壊や散乱において
生成,または消滅される量子(光子)が常に2個であるために
出現します。 (図9.7参照)
ちなみに,ゲージ不変性のテストは,与えられたeの任意
オーダーに寄与するあらゆるグラフの総和を示す相互作用
振幅に対して適用されます。
前の例でも見たように,摂動級数の各eのオーダーごとに
ゲージ不変性が成立するため,これはp^A+Ap^とAA
に由来する項の相対因子が正しいかどうか?の簡単で有用
なチェックを与えます。
3.運動量がpの内線に対応する伝播関数については,次のように
置換します。
i/(p-m+iε)=i(p+m)/(p2-m2+iε)→ i/(p2-μ2+iε)
です。
4.外線に付与する規格化因子は電子スピノルのそれに取って
代わって次のようにします。
(m/E)1/2u(p) → {1/(2ω)}1/2 です。
他の全ての因子:特にiと(2π)のべき乗については厳密に電子に
対するものと同一です。
最後に.同種粒子線を交換しただけのグラフの振幅に相対的
マイナス符号を付与するかどうか?という問題が残っています。
電子については,2つの同種粒子の交換を反対称とする
というPauliの原理によって,電子が交換されたグラフに
相対的なマイナス符号が導入されました。
一方,実験的検証の示すとところによれば,π中間子は
Bose粒子です。すなわち,それはBose-Einsteinの対称
統計を満足する粒子です。
特に,反応:K+ → π++π++π- では,2つのπ+
中間子は1つの相対的S状態に放出されます。
さらに,Pauliによって初めて与えられた強い理論的根拠が
あります。
つまり,スピンと統計の間には密接な関係があって,スピン
が半奇数の粒子達はFermi統計に従がって排他原理を満たし,
整数スピンの粒子達はBose統計に従う故に,対称化される,
ということです。
こうした論旨は後に述べる予定の場の量子論の枠組みの
中で最もうまく論じることができます。
しかし,ここでは単に今記述しようとしているスピンがゼロ
の粒子はBose-Einsteinの対称統計に従う粒子であることを
意味するBose粒子であると仮定します。
このことはBose粒子の交換だけが異なるグラフの振幅の間
の関係は,相対的(-)符号ではなく(+)符号でなければなら
ないことを意味します。
したがって,もはや閉じたループ上の積分や,散乱グラフと
消滅・生成グラフとの間に,電子のケースのような(-1)の
因子は出現しません。
これらの(-1)の因子は,図8.1(b)や図8.1(e)の電子の過程
に対応する振幅において空孔理論の状態へのPauliの排他原理
の適用によって導入された因子でした。
しかし,Bose粒子に対しては,状態が全て満たされている
負エネルギー粒子の海などは無く,空孔理論とは異なる道筋
で,こうした相対的符号を論じる必要があります。
同種のBose粒子のCoulomb散乱においては,図9.8の2つの
グラフの振幅間の相対的符号はプラスです。
これら,2つの線のエネルギーの符号を変えることで
Bose粒子の粒子-反粒子散乱に対する振幅を得ることが
できます。
例えば,入れ換え;q2 ⇔ -p2 によって,図9.9に示された
グラフの振幅が得られます。
図9.9のグラフに対応する2つの振幅間の相対符号は
入れ換え;q2 ⇔ ―p2が単に,散乱グラフの図9.8から図9.9
に移行する変化なら,正のままです。
この入れ換え;q2 ⇔ ーp2は,電子のプロセスにおいて,
p1⇔p1,p’ 1⇔p’1,p2⇔-q’1,p’2⇔-q1,なる
入れ換えで,既に遭遇した法則と同じ置換法則の一つの例であり
これによって,中間子(Bose粒子)の振幅に拡張されます。
こうした法則は図9.10の全ての3つのグラフの振幅に対して
相対的符号プラスへと誘導します。
図9.10(a)と図9.10(b)は頂点yの下では同等であり,それ故,
それらの間では相対的符号は(+)です。
一方,図9.10(c)に相対的に,図9.10(a)のuとvの間に付加
した散乱相互作用の導入は,符号変化は伴わないため,先述
したように,図9.10(b)の閉ループに伴なって(―1)因子が生じる
ことはないと結論されます。
π中間子やK中間子のようなスピンゼロBose粒子の電磁
相互作用の高次の計算については,また,くり込みの効果を
示すという課題があります。
これは,テキストの第8章:本ブログでは
「量子電磁力学の輻射補正」シリーズ記事において電子に
対して行なったものの完全なアナロジーとして追跡すること
ができます。
しかし,実際にこうしたアナロジー追跡の詳細に立ち入ることは
しません。
このことの主な理由は,電子とは異なり中間子π,Kにはそれら
自身や核子:p,nとの,電磁相互作用よりはるかに強い相互作用
があるためです。
したがって,計算結果の物理的観測との比較が可能となる前に,
この強い相互作用の効果をも含まれなければならないからです。
そこで,高次の電磁相互作用の効果の詳細よりも,これら非電磁
相互作用の論議の方が重要です。
そして実際,この章の続きとして強い相互作用,弱い相互作用
のトピックに移り,これも本ブログ記事で紹介しました。
今日はここで終わります。
次回は,Klein-Gordon方程式の非相対論的近似について
述べる予定です。
(参考文献):J.D.Bjorken & S.D.Drell
"Relativistic QantumMechanics"(McGrawHill)
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