中性子の平均寿命の計算(Fermi理論) Pending
弱い相互作用の旧理論に基づいて,具体的に中性子nの
β崩壊:n→p+e-+ν~の崩壊率を求めてみようと
思います。
まず.Fermi理論に基づく,nのβ崩壊のS行列要素
は,Sfi=(-i)(2π)-6V-2{mnmpme/(2EnEpEeEν~)}1/2
×(2π)4δ4(Pn-Pp-pe-pν~)Mfi
と書けます。
ただし,Mfiは,この崩壊反応の不変振幅です。
4元運動量:pν~で作用領域から出ていく反ニュートリノ:
ν~は,4元運動量:-pν~で入ってくる負エネルギーの
ニュートリノ:νのスピノル:vν(pν~)で表現されます。
核子の散乱振幅が,核子:(p,n)のV-Aカレントと,
レプトン:(e,ν)のV-Aカレントの積で与えられる
という.これまでの論議を適用すると,
不変振幅は,
Mfi=(G/√2)[up~(Pp)γμ(1-αγ5)un(Pn)]
×[ue~(pe)γμ(1-γ5)vν(pν~)]
と書けます。
V,Tをそれぞれ,β崩壊相互作用の体積,反応時間
とすると,中性子nが単独で自由に存在するというi
(始状態)から,p,e,ν~が存在するf(終状態)への
上記S行列要素:Sfiの絶対値の平方に,
終状態の陽子pの密度:(2π)-3Vd3Pp,電子eの密度:
(2π)-3Vd3pe,反ニュートリノν~の密度:
(2π)-3Vd3pν~を掛けると,
その微小領域への遷移確率は,
|Sfi|2(2π)-9V3d3Ppd3ped3pν~で与えられる
と考えられます。
これを,体積Vと時間Tの積:VTで割った単位体積当りの
遷移速度を,始状態の中性子nの密度:(1/V)で割ったもの
が,中性子1個当たりの単位時間当たりの,
d3Ppd3ped3pν~ への崩壊確率:dωを与えます。
ただし,崩壊現象では,VをV=∞の全空間として,
V=(2π)3δ3(0),TをT=∞=(-∞,∞)の全時間
として,T=(2π)δ(0)とし,VT=(2π)4δ4(0)と
同定します。
また,粒子がVの中に1個だけあるという波動関数の
規格化でなく,全空間でのデルタ関数式規格化では,
最後にV=(2π)3とします。
そこで,
dω={|Sfi|2(2π)-9V3d3Ppd3ped3pν~}V/(VT)
=(2π)-9(2π)4δ4(Pn-Pp-pe-pν~)
d3Ppd3ped3pν~ {mnmpme/(2EnEpEeEν~)}|M |2
です。
ここで,右辺を一般的方法では観測にかからない終状態の
反ニュートリノν~の状態について総和するため,∫d3pν~
を実行します。
ところが,∫d3pν~/(2Eν~)=∫d4pν~θ(pν~0)δ(pν~2)
なる公式があるので,d3pν~を実行すると,
∫d4pν~ によりδ4(Pn-Pp-pe-pν~)因子が消えて,
因子:θ(pν~0)δ(pν~2)が残ります。
さらに,eの状態の総和では,
d3pe=|pe|EedEedΩe=βeEe2dEedΩeです。
よって,dω=(2π)-5{mnmpme/(EnEpEe)}θ(Eν~)
×δ(pν~2)|Mfi|2d3Pp|pe|EedEedΩe
と書けます。
右辺の|Mfi|2については,特定偏極を仮定した場合
の|Mfi|2=(G2/2)|up~Pp)γμ(1-αγ5)un(Pn)|2
×|ue~(pe)γμ(1-γ5)vν(pν~)|2
の代わりに,
核子:(p.n)のスピン,および,電子と反ニュートリノ:
(e.ν~)のスピンで総和を取って,中性子nのスピンで平均
したもの::
つまり.(1/2)∑SpSn∑ee,sν~|Mfi|2
=(G2/2)(1/2)∑SpSn|up~(Pp)γμ(1-αγ5)un(Pn)| 2
×∑SpSn|(ue~(pe)γμ(1-γ5)vν(pν~)| 2
=(G2/4){1/(8mpmnme)}
∑μνTr[(Pp+mp)γ μ(1-αγ5)(Pn+mn)γ ν(1-αγ5)]
×Tr[pνγ μ(1-γ5)(pp+me)γν(1-γ5)]]
を不変振幅による確率密度の因子と考えて,この値を
|Mfi|2に置き換えます。
核子部分のトレースは,
Tr[(Pp+mp)γ μ(1-αγ5)(Pn+mn)γ ν(1-αγ5)]
=Tr[(Pp+mp)γ μ(1+α2-2αγ5)Pnγ ν
+mn(1-α2)Tr[(Pp+mp)γ μγν]
=(1+α2)Tr(Ppγ μPnγ ν)-2αTr(γ5Ppγ μPnγ ν)
+mpmn(1-α2)Tr(γ μγν)
=4(1+α2)(PpμPnν+PpνPnμ-gμνPpPn)
+4mpmn(1-α2)gμν
+8iα∑αβγδεαβγδPpαgμβPnγgνδ)
と書けます。
一方,レプトン部分のトレースは,
Tr[γ ν(1-γ5)(pe+me)γμ(1-γ5)pν~]
=2Tr[γν(1-γ5)(pe+me)γ μpν~]
=2Tr(γνpeγ μpν~)+2Tr(γ5γνpeγ μpν~)
=8(peνpν~μ+peμpν~ν-gνμpepν~)
+8i∑ρστηερστηpeρgνσpν~τgμη)
です。
核子のトレースとレプトンのトレースの積を取り,
総和∑μνを取ると,μ,νについて対称な項と反対称な
項の積は,対称性の故にゼロとなって消え,反対称項同士,
対称項同士の積だけがゼロでない寄与をします。
反対称項同士の積は,
-64α∑μν∑αγρτ [εαμγνερντμPpαPnγpeρpν~τ]
です。
∑μνεαμγδερντμ = 2(δαρδγτ-δατδγρ)
なので,これは,
128α∑αγρτ(δαρδγτ-δατδγρ)PpαPnγpν~ρpeτ
=-128α[(Pppν~)(Pppe)-(Pppe)(Pnpν~)]
となります。
一方,対称項同士の積は,
32(1+α)2(Pppν~)(Pnpe)+(Pppe)(Pnpν~)
-32mpmn(1-α2)(pepν~) です。
故に,(1/2)∑SpSn∑ee,sν~|Mfi|2={G2/(mempmn)}
[(1+α)2(Pppν~)(Pnpe)+(1-α)2(Pppe)(Pnpν~)
-mpmn(1-α2)(pepν~)] を得ます。
ここで,保存則:Pn-Pp-pe-pν~=0.より,
pν~=Pn-Pp-peですから,これを代入してpν~を含む項
を消去します。
(Pppν~)=(PpPn)-mp2-(Pppe),
(Pnpν~)=mn2-(PnPp)-(Pnpe),
(pepν~)=(pePn)-(pePp)-me2
です。
それ故,(1/2)∑SpSn∑ee,sν~|Mfi|2={G2/(mempmn)}
×[(1+α)2(Pppe){(PpPn)-(Pppe)-mp2}
+(1+-α)2(Pppe){mn2-(Pppe)-(Pnpe)}
-mpmn(1-α2)[(pePn)-(pePp)-me2}]
です。
特に,崩壊する前の中性子の静止系:Pnμ=(mn,0)を想定
すると,En=mnであり,Ep+Ee+Eν~=mnです。
また,Pp+pe+pν~=0 です。
また.反ニュートリノの質量がゼロという条件から,
0=pν~2=(Pn-Pp-pe)2
=mn2+mp2+me2-2{(PpPn)+(Pppe)-(Pnpe)}なので,
(PpPn)+(Pppe)-(Pnpe)=(mn2+mp2+me2)/2, or,
(Pppe)=(Pnpe)-(PpPn)+(mn2+mp2+me2)/2
です。
よって,中性子の静止系:Pn=(mn,0)では,
(Pppe)=(Pnpe)-(PpPn)+(mn2+mp2+me2)/2
=mn(Ee-Ep)+(mn2+mp2+me2)/2 です。
したがって,(1+α)2(Pppe){(PpPn)-(Pppe)-mp2}
=(1+α)2{mn(Ee-Ep)+(mn2+mp2+me2)/2}
×{mn(2EpーEe)ー(mn2+3mp2+me2)/2} です。
また,(1ーα)2(Pppe){mn2-(Pppe)-(Pnpe)}
=(1ーα)2(Pppe)[(mn2-mp2-me2)/2+(PpPn)-2(Pnpe)]
=(1ーα)2{mn(Ee-Ep)+(mn2+mp2+me2)/2}
{(mn2-mp2-me2)/2+mn(Ep-2Ee)} です。
さらに,-mpmn(1ーα2){(pePn)-(pePp)-me2}
=-mpmn(1ーα2){(PpPn)-(mn2+mp2+3me2)/2}
=mpmn(1ーα2){(mn2+mp2-3me2)/2-mnEp} です。
そして,δ(pν~2)=δ((Pn-Pp-pe)2)
=δ((Pn-Pp-pe)2)
=δ(mn2+mp2+me2-2{(PpPn)+(Pppe)-(Pnpe)})
=δ(mn2+mp2+me2-2mn(Ep-Ee)ー2(Pppe))
=δ(mn2+mp2+me2-2mn(Ep-Ee)-2EpEe(1-βpβecosθ))
ですから,
このデルタ関数のEpの係数は,
-2{mn+Ee(1-βpβecosθ) です。
よって,d3Pp=|Pp|EpdEpdΩpによる積分結果は,
∫dΩp=4πとして,∫d3Ppδ(pν~2)
=4πβpEp2/[2{mn+Ee(1-βpβecosθ)}]
です。
また,θ(Eν~)=θ(mn-Ep-Ee)因子より,
0≦Ee≦mn-Epである必要があります。
そこで.
dω=(2π)-5δ4(Pn-Pp-pe-pν~)
d3Ppd3ped3pν~ {mpme/(EpEe)}
×[(1/2)∑SpSn∑ee,sν~|Mfi|2] から積分を実施すると,
ω=(2π)-5{4πβpEpG2/mn)}∫0mn-EpdEedΩe
[βeEe /{mn+Ee(1-βpβecosθe)}
×[(1+α)2{mn(Ee-Ep)+(mn2+mp2+me2)/2}
×{mn(2Ep-Ee)+(mn2-mp2+me2)/2}
+(1-α)2{mn(Ee-Ep)+(mn2+mp2+me2)/2}
×{(mn2-mp2-me2)/2+mn(Ep-2Ee)}
+mpmn(1-α2){(mn2+mp2-3me2)/2-mnEp}]
が得られます。
α~1.21と評価されているので,取りあえず,α~1として,
(1-α)2や(1-α2)に比例する項,および,me2を無視し,
核子pの反跳も小さいとして,Epをmpで近似します。
me2を無視するので,|pe| ~ Ee より,βe ~ 1です。
α=1のとき,ゼロでない寄与をする項は,
(1+α)2{{mn(Ee-Ep)+(mn2+mp2+me2)/2}
×{mn(2Ep-Ee)-(mn2+3mp2+me2)/2}
=4{mnEe+(mn2+mp2-2mnmp)/2}
×{-mnEe-(mn2+3mp2-4mnmp)/2}
=-4mn2Ee2+mn(2mn2+4mp2-6mnmp)Ee
+(mn4-mp4+2mn3mp+6mnmp3-8mn2mp2)}
です。
最後に得られたEeの2次式をF(Ee )と置き,
さらに,M=mn, ΔM=mn-mp, Ep~mp,
βp ~ΔM/M と近似します。
すると,
ω=(2π)-4{2EpG2/mn}∫0mn-EpdEe∫dΩe
[βeEe F(Ee )/{mn+Ee(1-βpβecosθe)}
~ (2π)-3{βpmpG2}∫0ΔMdEe∫d(cosθe)
[Ee F(Ee )/{mn+Ee(1-βpcosθe)}]
= (2π)-3G2∫0ΔMdEe
[ F(Ee )×log{[1+Ee(1+βp)/mn}/{1+Ee(1-βp)/mn}]
を得ます。
ここで,log{[1+Ee(1+βp)/mn}/{1+Ee(1-βp)/mn}
~2Ee/M と近似します。
そして,F(Ee ) ~ -4M2(Ee2 +ΔMEe /2)です。
故に,ω ~ (2π)-3G2}∫0ΔMdEe(8MEe3+4MΔMEe 2)
最終的には,ω~ (G2/π3)}[(5/12)M(ΔM)4}
と近似評価されます。
ここで,単位のみを問題とする次元解析の等式を
書くと,T-1=[G]2M5[hcrcs]と掛けます。
hc=6.6×10-16eVsec ,c=3×1010cm/secであり,
[hc]=ML2T-1,[c]=LT-1なので,
T-1=[G]2(ML2T-2)5(ML2T-1)r(LT-1)s.
すなわち,T-1=[G]2M5+rL10+2r+sT-10-r-s です。
また,以前の記事によると,G~8.88×10-38eVcm3であり,
[G]=ML5T-2でした。
それ故,上記等式は,T-1=M7+rL20+2r+ST-14―r-s です。
それ故, 7+r=0, 20+2r+s=0, -14-r-s=-1 から
結局,r=-7,s=-6 が得られます。
故に,通常の単位では,
ω=1/τn=π-3G2/(c6hc7){(8/3)M(ΔM)4}です。
ただし,M=MN=mn ~ mp ~ 940MeV,
ΔM=(mn-mp) ~ 1.3 MeVですから,
(5/12)M(ΔM)4 ~ 1120 (MeV)5 です。
これと,
G=8.88×10-44(MeVcm3),hc=6.6×10-22MeVsec ,
c=3×1010cm/secを,
ω=1/τn=π-3(G2/c6hc7){(1/3)M(ΔM)4}
に代入すると,3
ω=1/τn
~ π-3×68.4×6.6-7×3-6×106×900/sec
~ 6.25/sec を得ます。
これが正解とすると,自由中性子nの寿命の評価値は,
τn ~ 0.16 sec となります。
確か,昔読んだ文献によると,自由な 中性子nの平均寿命は,
15分=900sec ~ 103 sec 程度ではなかったか?と記憶して
いるので,ここでの評価計算は大雑把な近似であることを考慮
しても.やや不一致な値です。。。。
※(注1):過去記事;「弱い祖語作用の旧理論(11)」での
μ粒子の崩壊:μ-→e-+ν’+ν~についての計算を
参照すると,ω=1/τμ=G2mμ5/(192π3) でした。
μ崩壊では,ΔM=mμ-mμ~ mμですから計算式と
しては,私が個人的に評価した上記の中性子の崩壊率と
係数を除いて一致しています。
まあ,μ崩壊の計算を参照して,考察したので当然といえば
当然の結果ではありますが。。。
そして,この自然単位でのμ崩壊率の式を通常の単位
に直すと, ω=G2(mμc2)5hc-7c-6/(192π3)
が得られます。
この際に行なった計算過程を,そのまま再掲すれば,
まず,G=(1.015±0.03)×10-5×(940MeV)-2hc3c3
から,誤差:±0.03を省いて,
G2=1.0152×10-10×(940MeV)-4hc6c6 です。
μの質量:mμc2 ~ 106MeVを代入すれば,
ω=1.0152×10-10×(940MeV)-4(106MeV)5hc-1/(192π3)
=2.97×10-16MeV/hc となります。
MeV単位では,hc=6.6×10-22(MeVsec)なので,
結局,μ粒子のの崩壊率は,
ω=1/τμ~(2.97×106/6.6)sec-1 であり,
平均寿命はτμ=1/ω~2.22×10-6sec であるという
予測計算値が得られました。
他方,μの平均寿命の実験観測値は,
τμ=(2.21±0.003)×10-6secですから,
これについては予測計算値が観測値とほぼ一致して
います。 (注1終わり)※
一方,中性子nでなくBose粒子の荷電π中間子の3体崩壊:
π―→π0+e―+ν~ があります。
これにおいても,同様に評価できると仮定して,
M(ΔM)4を,μ(Δμ)4と書き,μ~140MeV,
Δμ~4.5 MeVを代入すると,
μ(Δμ)4~ 57400(MeV)5 です。
中性子の崩壊と同じ方針で,このプロセスでの崩壊率
の評価ができると仮定したときの評価値は,
ω ~ 1.6×10-3/sec×a2×57400/2680 となるため
Fermi粒子のV-Aカレントの寄与:
|up~Pp)γμ(1-αγ5)un(Pn)|2が,πについては,
|pi+pf|2に変わるであろうという推測からは別の評価
もできそうですが,まだ計算していません。
いずれにしろ,どこが間違いか?今のところよくわからない
ですが,この方針での計算のどこがミスなのか?または方針
そのものが間違いなのかとか,検討中です。
Pending。。。。
今日はここで終わります。
(参考文献):J.D.Bjorken & S.D.Drell
”Relativistic QantumMechanics”(McGrawHill)
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