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2016年7月 6日 (水)

中性子の平均寿命の計算(Fermi理論) Pending

                             

弱い相互作用の旧理論に基づいて,具体的に中性子nの 

β崩壊:n→p+e+ν~の崩壊率を求めてみようと

思います。

 まず.Fermi理論に基づく,nのβ崩壊S行列要素 

,fi(-i)(2π)-6-2{np/(2npeν~)}1/2 

×(2π)4δ4(-P-p-pν~)fi  

と書けます。
 

ただし,fi,この崩壊反応の不変振幅です。
 

元運動量:ν~で作用領域から出ていく反ニュートリノ: 

ν~,4元運動量:-pν~で入ってくる負エネルギーの 

ニュートリノ:νのスピノル:ν(ν~)で表現されます。
 

核子の散乱振幅が,核子:(,)のV-Aカレントと, 

レプトン:(,ν)のV-Aカレントの積で与えられる 

という.これまでの論議を適用すると,

 
不変振幅は,

fi(/2)[up~(pμ(1-αγ5)un(n)]

×[ue~(eμ(1-γ5)vν(ν~)] 

と書けます。
 

,Tをそれぞれ,β崩壊相互作用の体積,反応時間 

とすると,中性子nが単独で自由に存在するというi

(始状態)から,,,ν~が存在するf(終状態)への

上記S行列要素:fiの絶対値の平方に,

  
終状態の陽子
pの密度:(2π)-3Vd3p,電子eの密度:

(2π)-3Vd3e,反ニュートリノν~の密度: 

(2π)-3Vd3ν~を掛けると,

  
その微小領域への
遷移確率は,

|fi|2(2π)-933p33ν~で与えられる

と考えられます。
 

これを,体積Vと時間Tの積:VTで割った単位体積当りの 

遷移速度を,始状態の中性子nの密度:(1/)で割ったもの 

,中性子1個当たりの単位時間当たりの,

3p33ν~ への崩壊確率:dωを与えます。
 

ただし,崩壊現象では,VをV=∞の全空間として, 

V=(2π)3δ3(0),TをT=∞=(-∞,)の全時間 

として,T=(2π)δ(0)とし,VT=(2π)4δ4(0) 

同定します。
 

また,粒子がVの中に1個だけあるという波動関数の 

規格化でなく,全空間でのデルタ関数式規格化では, 

最後にV=(2π)3とします。
 

そこで, 

dω={|fi|2(2π)-933p33ν~}/(VT) 

(2π)-9(2π)4δ4(-Pp-pe-pν~)

3p33ν~ {np/(2npeν~)}|M |2 

です。
 

ここで,右辺を一般的方法では観測にかからない終状態の

反ニュートリノν~の状態について総和するため,3ν~

を実行します。
 

ところが,3ν~/(2ν~)=∫d4ν~θ(ν~0)δ(ν~2) 

なる公式があるので,3ν~を実行すると,

∫d4ν~ によりδ4(-P-p-pν~)因子が消えて, 

因子:θ(ν~0)δ(ν~2)が残ります。
 

さらに,eの状態の総和では, 

3||EdEdΩ=β2dEdΩです。
 

よって,dω=(2π)-5{np/(npe)}θ(ν~) 

×δ(ν~2)|fi|23p||dEdΩe  

 と書けます。
 

右辺の|fi|2については,特定偏極を仮定した場合 

|fi|2(2/2)|up~pμ(1-αγ5)un(n)|2 

 ×|e~(μ(1-γ5)vν(ν~)|2   

 の代わりに,
 

 核子:(.)のスピン,および,電子と反ニュートリノ:

 (.ν~)のスピンで総和を取って,中性子nのスピンで平均

したもの::

つまり.(1/2)SpSne,sν~|fi|2 

(2/2)(1/2)SpSn|u~(pμ(1-αγ5)u(n)| 2 

×SpSn|(ue~(eμ(1-γ5)vν(pν~)| 2 

   

(2/4){1/(8pn)} 

μνr[(+mp)γ μ(1-αγ5)(n+mn)γ ν(1-αγ5)] 

×Tr[νγ μ(1-γ5)(+m)γν(1-γ5)]] 

を不変振幅による確率密度の因子と考えて,この値を 

|fi|2に置き換えます。

 

核子部分のトレースは, 

r[(p+mp)γ μ(1-αγ5)(n+mn)γ ν(1-αγ5)] 

=Tr[(p+mp)γ μ(1+α22αγ5)nγ ν 

+mn(1-α2)r[(p+mp)γ μγν] 

(1+α2)r(pγ μnγ ν)2αTr(γ5pγ μnγ ν) 

+mpn(1-α2)r(γ μγν) 

4(1+α2)(pμnν+Ppνnμ-gμνpn) 

+4pn(1-α2)μν 

8iα∑αβγδεαβγδpαμβnγνδ)

と書けます。
 

一方,レプトン部分のトレースは, 

r[γ ν(1-γ5)(+m)γμ(1-γ5)ν~] 

2r[γν(1-γ5)(+m)γ μν~] 

2r(γνeγ μν~)2r(γ5γνeγ μν~) 

8(eνν~μ+peμν~ν-gνμeν~) 

8iρστηερστηeρνσν~τμη)  

です。
 

核子のトレースとレプトンのトレースの積を取り, 

総和∑μνを取ると,μ,νについて対称な項と反対称な 

項の積は,対称性の故にゼロとなって消え,反対称項同士, 

対称項同士の積だけがゼロでない寄与をします。
 

反対称項同士の積は, 

64α∑μναγρτ [εαμγνερντμpαnγeρν~τ] 

です。
 

μνεαμγδερντμ 2(δαρδγτ-δατδγρ)

なので,これは, 

128α∑αγρτ(δαρδγτ-δατδγρ)pαnγν~ρτ 

=-128α[(pν~)()(p)(nν~)] 

となります。
 

一方,対称項同士の積は, 

32(1+α)2(pν~)(n)(p)(nν~) 

-32mpn(1-α2)(eν~) です。
 

故に,(1/2)SpSne,sν~|fi|2{2/(pn)} 

[(1+α)2(pν~)(ne)(1-α)2()(ν~) 

pn(1-α2)(eν~)]  を得ます。
 

ここで,保存則:-Pp-pe-pν~0.より, 

ν~=P-Pp-peですから,これを代入してpν~を含む項 

を消去します。
 

(pν~)(pn)-mp2(pe), 

(ν~)=mn2(np)(ne), 

(eν~)(en)(ep)-me2  

です。
 

それ故,(1/2)SpSne,sν~|fi|2{2/(pn)} 

×[(1+α)2(pe){(pn)(pe)-mp2} 

 +(1+-α)2(){n2(pe)(ne)} 

 pn(1-α2)[(en)(ep)-me2}]  

です。
 

特に,崩壊する前の中性子の静止系:nμ(n,0)を想定 

すると,n=mnであり,+Ee+Eν~=mnです。 

また,ν~0  です。
 

また.反ニュートリノの質量がゼロという条件から, 

0ν~2(-Pp-pe)2 

=mn2+mp2+me22{(pn)+()-(ne)}なので, 

(pn)()-(ne)(n2+mp2+me2)/2, or, 

()(ne)(pn)(n2+mp2+me2)/2  

です。
 

よって,中性子の静止系:Pn=(mn,0)で, 

 ()(n)-(pn)(n2+mp2+me2)/2 

=mn(e-Ep)+(n2+mp2+me2)/2 です。


 したがって,(1+α)2
(pe){(pn)(pe)-mp2}

=(1+α)2{n(e-Ep)+(n2+mp2+me2)/2}

×{n(2pーEe)ー(n2+3mp2+me2)/2}  です。
 

また,(1ーα)2(){n2(pe)(ne)} 

=(1ーα)2()[(n2-mp2-me2)/2(pn)2(ne)] 

­=(1ーα)2{n(e-Ep)+(n2+mp2+me2)/2} 

{(n2-mp2-me2)/2+mn(p2e)}  です。
 

さらに,-mpn(1ーα2){(en)(ep)-me2} 

pn(1ーα2){(pn)-(n2+mp2+3me2)/2} 

pn(1ーα2){(n2+mp2-3me2)/2-mnp} です。
 

そして,δ(ν~2)=δ((-Pp-pe)2) 

=δ((-Pp-pe)2) 

=δ(n2+mp2+me22{(pn)()-(ne)}) 

=δ(n2+mp2+me22n(p-Ee)ー2()) 

=δ(n2+mp2+me22n(p-Ee)-2(1-βpβecosθ)) 

ですから,

 
このデルタ関数のEpの係数は,

2{n+E(1-βpβecosθ) です。
 

よって,3p|p|dEdΩpによる積分結果は, 

∫dΩp4πとして,∫d3pδ(ν~2) 

4πβp2/[2{n+E(1-βpβecosθ)}]

です。
 

また,θ(ν~)=θ(-Ep-Ee)因子より, 

0≦Ee≦m-Epである必要があります。
 

そこで. 

dω=(2π)-5δ4(-Pp-pe-pν~)

3p33ν~ {p/(pe)} 

×[(1/2)SpSne,sν~|fi|2] から積分を実施すると,
 

ω=(2π)-5{4πβp2/mn)}0n-EpdΩ 

[βee /{n+E(1-βpβecosθe)} 

×[(1+α)2{n(e-Ep)+(n2+mp2+me2)/2} 

×{n(2p-Ee)+(n2-mp2+me2)/2}

(1-α)2{n(e-Ep)(n2+mp2+me2)/2} 

×{(n2-mp2-me2)/2+mn(p2e)} 

pn(1-α2){(n2+mp2-3me2)/2-mnp}] 

が得られます。
 

α~1.21と評価されているので,取りあえず,α~1として, 

(1-α)2(1-α2)に比例する項,および,me2を無視し,

核子pの反跳も小さいとして,pをmpで近似します。

e2を無視するので,|e| ~ Ee より,βe ~ 1です。

 

α=1のとき,ゼロでない寄与をする項は, 

(1+α)2{{n(e-Ep)+(n2+mp2+me2)/2} 

×{n(2p-Ee)-(n2+3mp2+me2)/2} 

4{ne(n2+mp2-2mnp)/2}

×{-mne(n2+3mp2-4mnp)/2} 

=-4n2e2+mn(22+4mp2-6mnp)e 

(n4-mp4+2mn3p+6mnp3-8mn2p2)}

です。

  最後に得られたEeの2次式をF
(Ee )と置き,

さらに,M=mn, ΔM=mn-mp, E~m,

β~ΔM/M と近似します。

 すると,

ω=(2π)-4{22/mn}0n-Ep∫dΩ 

[βee F(Ee )/{mn+E(1-βpβecosθe)}

(2π)-3{βp2}0ΔMd(cosθe)

[e F(Ee )/{n+E(1-βpcosθe)}]

(2π)-320ΔM

[ F(Ee )×log{[1+E(1+βp)/mn}/{1+E(1-βp)/mn}]

を得ます。

ここで,log{[1+E(1+βp)/mn}/{1+E(1-βp)/mn}

~2E/M と近似します。 

そして,F(Ee ) ~ -4M2(Ee2 +ΔMEe /2)です。

故に,ω ~ (2π)-32}0ΔM(8MEe3+4MΔMEe 2)


  
最終的には,ω~ (G2/π3)}[(5/12)M(ΔM)4}

と近似評価されます。 

ここで,単位のみを問題とする次元解析の等式を 

書くと,-1=[G]25[cs]と掛けます。
 

c6.6×1016eVsec ,c3×1010cm/secであり, 

 [c]=ML2-1,[]=LT-1なので, 

-1[]2(ML2-2)5(ML21)r(LT-1)s.
 

すなわち,-1[]25+r102+s-10-r-s です。
 

また,以前の記事によると,G~8.88×1038eVcm3であり,

[]ML52でした。


  それ故,上記等式は,
-1=M7+r202rS14―r-s です。 

それ故, 7+r=0,  20+2r+s=0, -14-r-s=-1  から

結局,r=-7,s=-6 が得られます。
 

故に,通常の単位では, 

ω=1/τn=π-32/(6c7){(8/3)M(ΔM)4}です。
 

ただし,M=MN=mn ~ mp 940MeV, 

ΔM=(n-mp) 1.3 MeVですから, 

(5/12)(ΔM)4 ~ 1120 (MeV)5 です。
 

これと,

G=8.88×10-44(MeVcm3),c6.6×1022MeVsec ,

c3×1010cm/secを,

ω=1/τn=π-3(2/6c7){(1/3)(ΔM)4}

 に代入すると,3
 

 ω=1/τn

 ~ π-3×68.4×6.67×36×106×900/sec 

 ~ 6.25/sec を得ます。
 

これが正解とすると,自由中性子nの寿命の評価値は,  

τ~ 0.16 sec となります。

 
確か,昔読んだ文献に
よると,自由な 中性子nの平均寿命は,

15=900sec ~ 103 sec 程度ではなかったかと記憶して

いるので,ここでの評価計算は大雑把な近似であることを考慮

しても.やや不一致な値です。。。。
 

(1):過去記事;「弱い祖語作用の旧理論(11)」での  

μ粒子の崩壊:μ→e+ν+ν~についての計算を  

参照すると,ω=1/τμ=G2μ5/(192π3) でした。

μ崩壊では,ΔM=mμ-mμ~ mμですから計算式と 

しては,私が個人的に評価した上記の中性子の崩壊率と 

係数を除いて一致しています。
 

まあ,μ崩壊の計算を参照して,考察したので当然といえば

当然の結果ではありますが。。。
 

 そして,この自然単位でのμ崩壊率の式を通常の単位

に直すと, ω=G2(μ2)5c-7-6/(192π3)

が得られます。
 

 この際に行なった計算過程を,そのまま再掲すれば,

 
まず,G=(1.015±0.03)×10-5×(940MeV)-2c33
 
から,誤差:±0.03を省いて,
 
21.0152×10-10×(940MeV)-4c66 です。

 
μの質量:μ2 106MeVを代入すれば,
 
ω=1.0152×10-10×(940MeV)-4(106MeV)5c-1/(192π3)
 
2.97×10-16MeV/c となります。
 

 MeV単位では,hc6.6×10-22(MeVsec)なので, 

 結局,μ粒子のの崩壊率は,

 ω=1/τμ(2.97×106/6.6)sec-1 であり,

 平均寿命はτμ=1/ω~2.22×10-6sec であるという

 予測計算値が得られました。

 
他方,μの平均寿命の実験観測値は,
 
τμ(2.21±0.003)×10-6secですから,

これについては予測計算値が観測値とほぼ一致して

います。 (1終わり)
 

一方,中性子nでなくBose粒子の荷電π中間子の3体崩壊: 

π→π0+e+ν~ があります。

 

これにおいても,同様に評価できると仮定して, 

(ΔM)4,μ(Δμ)4と書き,μ~140MeV,  

Δμ~4.5 MeVを代入すると,

μ(Δμ)457400(MeV)5 です。
 

中性子の崩壊と同じ方針で,このプロセスでの崩壊率

の評価ができると仮定したときの評価値は, 

ω ~ 1.6×10-3/sec×a2×57400/2680 となるため

  
Fermi粒子のV-Aカレントの寄与: 

|up~pμ(1-αγ5)un(n)|2が,πについては, 

|pi+pf|2に変わるであろうという推測からは別の評価 

もできそうですが,まだ計算していません。
 

いずれにしろ,どこが間違いか?今のところよくわからない 

ですが,この方針での計算のどこがミスなのか?または方針

そのものが間違いなのかとか,検討中です。

Pending。。。。

 今日はここで終わります。

 

(参考文献):J.D.Bjorken & S.D.Drell  

”Relativistic QantumMechanics”(McGrawHill)

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