« Dirac方程式の非相対論極限近似(1) | トップページ | リオ五輪。。卓球女子団体。。銅メダル »

2016年8月14日 (日)

Dirac方程式の非相対論極限近似(2)

Dirac方程式の非相対論極限近似の続きです。
 

前記事では,外電磁場,Φ,との相互作用がある場合の電荷eを

持つ電子の一般的Hamiltomian:

α(e)+βm+eΦ=Θ+βm+ε 

から,正負エネルギー成分を混合するoddなパラメ-タを

除いて非相対論極限で正エネルギーの2成分スピノルのみ

が満たす波動方程式を導くことを意図したユニタリ変換

の演算子:Fexp(i)を与えるHermite演算子を見出す

ことを試みました。
 

電磁場が時間tに依存し,それ故,系のHamiltonian:が時間

1/)<<1の非相対論的極限で(1/)の低次まででは,

=iβΘ/(2),Hから oddパラメ-タを除く(1/)オーダー

候補であるというところまで述べました。
 

すなわち,まず.=βm+Θ+εから,の1次近似として,

変換:exp(i)exp(i)exp(i)1i,

exp(i)1iを代入した

H'(1i)(βm+Θ+ε)(1i)において,

 

[1/]の項を無視して,H'=βm+Θ+ε+i[,β] 

とし,これの右辺でodd:Θ=α(p-)が消えることを

要求してi[,β] = -Θなるっ条件から,

=iβΘ/(2)を得たのでした。
 

そこで,この近似では,=iβΘ/(2), 

H'(1i)(βm+Θ+ε)(1i)=βm+ε 

です。
 

一方,=O(1/)と仮定して(1/)の3次の精度までの

近似は,'= exp(i){H-i(/∂t)}exp(i) 

i[,](i2/2)[,[,]](i3/6)[,[.[,]]] 

(i4/24)[,[,[.[,βm]]]]-Sd(i/2)[,d]

(1/6)[,[,d]] (ただし,Sd=∂/∂t)

と書けることを見ました。
 

この近似の項に,=iβΘ/(2)を代入すれば, 

=βm+Θ+εより 

i[,]=-Θ+β[Θ,ε]/(2)+βΘ2/, 

(i2/2)[,[,]]=-βΘ2/(2)[Θ,[Θ,ε]]/(82) 

-Θ3/(22), 

(i3/6)[,[,[,]]]=Θ3/(62)-βΘ4/(63) 

-β[Θ,[Θ,[Θ,ε]]/(483),
 

(1/24)[,[,[.[,βm]]]]=βΘ4/(243)+Θ5/(244)
 

また,diβΘd/(2),

(i/2)[,d]=-i[Θ.Θd]/(82)  

(1/6)[,[,d]]=-iβ[Θ,[Θ,Θd]]/(483)

です。
 

ユニタリ変換後のHamiltonianを非相対論的に展開して, 

(運動エネルギー/)3(運動エネルギー)×(場のエネルギー)/2 

のオーダーまででoddパラメータの除去が満足されるような 

を求めるというのが意図でしたから,
 

(i3/6)[,[,[,]]]=Θ3/(62)-βΘ4/(63) 

-β[Θ,[Θ,[Θ,ε]]/(483) 

~ Θ3/(62)-βΘ4/(63) として最後の項は無視し,

また,(1/24)[,[,[.[,βm]]]]

=βΘ4/(243)+Θ5/(244) ~ βΘ4/(243)

とします。
 

まさらに,(1/6)[,[,d]]=-iβ[Θ,[Θ,Θd]]/(483) 

も,(1/)のより高次の微小量なので無視します。
 

すると,'=β{m+Θ2/(2)―Θ4/(83)}+ε

[Θ,[Θ,ε]]/(82) 

i[Θ.Θd]/(82)+β[Θ,ε]/(2)-Θ3/(32)

iβΘd/(2) =βm+ε'+Θ'
 

ただし,ε'=ε+β{Θ2/(2)―Θ4/(83)}[Θ,[Θ,ε]]/(82) 

i[Θ.Θd]/(82)です。

これはΘについては偶数乗のみを含むためevenな寄与です。
 

一方,得られたHamiltonianにおいてodd項は,Θの奇数乗のみ

ですが,これは,変換の結果:(1/)のオーダーでしか存在しない

ようになりました。
 

これらを,さらに除去し減じるために, 

S'= -iβΘ'/(2) 

=-iβ{β[Θ,ε]/(2)-Θ3/(32)iβΘd/(2)}/(2) 

なる変換をさらに行います。
 

Θ'=β[Θ,ε]/(2)-Θ3/(32)iβΘd/(2)}

H'のΘ自身以外のΘの奇数乗の部分の総和です。
 

こうした変換をのFoldy-Wouthuysen変換と呼びますが,この変換 

の下で,H"exp(iS'){H(i(/∂t}}exp(iS') 

=βm+ε'+β[Θ,ε']/(2)iβΘ'd/(2) 

=βm+ε'+Θ" となります。
 

このH"の場合, Odd部分:Θ"=β[Θ,ε']/(2)iβΘ'd/(2) 

,(1/2)とさらに小さくなっています。
 

さらにS"=-iβΘ"による正準変換を行うことで, 

(3)exp(iS"){H”i(/∂t}}exp(iS") 

β{m+Θ2/(2)―Θ4/(83)}+ε-[Θ,[Θ,ε]]/(82) 

i[Θ.Θd]/(82) が得られました。
 

このとき,Θ2/(2){α(-e)}2/(2)

 

(-e)2/(2)-eσB/(2)となって,この項から 

Pauliのスピン磁気モ^-メント項:-eσB/(2)が出現

します。
 

非相対論極限で,こうそた項が得られることは,既に別の

過去記事で述べました。

(※ 10年前の2006年9/8の本ギログの過去記事:

パウリのスピンと相対性理論」を参照ください。)
 

(2-1):念のため,簡単に復習すると 

まず,Π-e=-i∇-e とおくとき,

(αΠ)2=Σi,jαiΠiαjΠj=Π2iσ(Π×Π)であり,

そして,Π×Π(i-e)×(i-e)ie∇×A

ieBによって,(αΠ)2=Π2-eσB

が得られるという話でした  。(2-1終わり)
 

一方, [Θ,[Θ,ε]]+Θd}/(82)

{/(82)}{iα∇Φ-iαAd} 

{i/(82)}αEです。
 

{i/(82)}[Θ, αE]{i/(82)}[αp,αE] 

{/(82)}{i/(82)}σ(∇×) 

{/(42)}σ(×)ですから,
 

結局,このオーダーまででの変換Hamiltonian, 

(3)=β{m+(-e)2/(2)4/(82)}

+eΦ{eβ(2)}σB-{i/(82)}σ(∇×) 

{/(42)}σ(×){/(82)}∇E 

となります。
 

これらは,{(-e)2+m2}1/2の非相対論極限での

,直接,物理的解釈が可能な,求めるオーダーまでの展開

を示しています。

つまり,補正は相対論的な質量(運動エネルギー)の増加

に相当する意味を持っているわけです。
 

このうち,{i/(82)}σ(∇×E){/(42)}σ(×) 

は静電エネルギー,と磁気双極子エネルギーです。

  
この項のペアは一緒にまとめて,スピン軌道エネルギーです。
 

つまり,iσ(∇×E)2σ(×)iσ(∇×E-E×∇) 

ですから,例えば,球対称静電ポテンシャル:();r=|| 

なら,E=-∇=-(/)(dV/dr)で∇×E=0

です。

 
このとき, iσ(∇×)2σ(×)2σ(×), 

σ(×)=-(1/)(dV/dr)σ(×) 

(1/)(dV/dr)σLと書けます。
 

×は,軌道角運動量です。
 

{i/(82)}σ(∇×E){/(42)}σ(×) 

{/(42)}(1/)(dV/dr)σL=Hspin-orbit 

(スピン軌道相互作用エネルギー)です。
 

これは特殊相対論により,運動する電子が感じる磁場:

=-×とスピン;σ/2の電子の磁気モーメント:

μ=ge/(2) (gは磁気回転比)による磁気エネルギー:

μB=-geσ/(42)(×) (g=2) を意味します。
 

しかし,{/(42)}σ(×)ではThpmas歳差運動の効果

で因子g=2が無くなっています。
 

このことは電子の軌道モーメントの方は標準的磁気回転比: 

g=g01を持つことを示唆しています。
 

最後の項:{/(82)}Darwin項として知られています。
 

これはZitterbewegung(ジグザグ運動)に寄与する項です。
 

電子の位置座標のゆらぎがδr~(1/m)(=Compton波長)

程度で,このためCoulombポテンシャル:V=V()=V()

いくらか不鮮明に見えます。
 

この補正は,<δV>=<V(+δ>-<V() 

=<δ∇V+(1/2)Σijδxiδxj(2/∂xi∂x)

ですが,<δ∇V> ~ 0 より,  静電ポテmシャルエネルギー

としての補正(ぼやけ)は,
 

<eδV> ~ (/6)(δr)2>∇2=-(/62)∇Eであり,

これは係数は少し違いますが,,この電子の雲によるCoulomb

エネルギーのゆらぎ<eδV>が,上記のDarwin::

{/(82)}の物理的意味をなす。わかります、
 

さて,次は,§4.4水素原子(Hydrgen Atom)であり,第4章

はこれで終わりとなっているのですが,
 

この最後の節の内容については,既に本ブログの2011 

/17,/26,/,/11の過去記事:

「水素様」原子の微細構造」(1),(2),(3)(4),および,

2011年8/22,/,10/,11/.11/11,11/23の「

水素様」原子の微細構造」(補遺1),(補遺2),(補遺3-1),

(補遺3-2),(補遺4),(補遺5-1),(補遺5-2)

に詳述しています。
 

そこで,Dirac方程式の非相対論極限=参考テキスト

第4章Foldy-Wouthuysen変換」のトピックについて

,これで終わります。
 

(参考文献):J.D.Bjorken & S.D.Drell 

”Relativistic QantumMechanics”(McGrawHill

|

« Dirac方程式の非相対論極限近似(1) | トップページ | リオ五輪。。卓球女子団体。。銅メダル »

111. 量子論」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: Dirac方程式の非相対論極限近似(2):

« Dirac方程式の非相対論極限近似(1) | トップページ | リオ五輪。。卓球女子団体。。銅メダル »