このところ,暑さもあって体調が悪く,右足薬指の骨髄炎も.歩くと
感染症にかかって深刻な事態なる危険性があり歩かない方がベター
なので,この年齢で人並みの欲を出さないなら,別に無理して外出
する必要もなく休日を決め込んでスポーツ観戦三昧の毎日です。
これが最後の五輪観戦になるかもしれないし。。入院するより
ましです。
というわけで,ゴロゴロしているうち,何故か右手腱鞘炎で箸
を持っても痛く,マウスも左手という状態に。。トホホ。。
で,ブログも短い訃報程度しか右手だけでは打てませんでした。
といって,左手は遅すぎるし。。。
丁度,ブログ記事も自分の覚え書きを兼ねた科学記事は
「弱い相互作用」シリーズも終わって一段落し
「クライン・ゴルドン方程式」を終われば参考テキスト
の1冊目については全て終了と思っていました。
ところが,Kleim –Gordon方程式の項目の続きでlこの方程式の
非相対論極限近似の項目で,参考テキスト第4章のDirac方程式
の非相対論的極限近似の項目を参照する必要に迫られました。
そこで,本ブログの過去記事を調べてみると,この項目を
スキップしていたことがわかりました。
この第4章の途中からは,相対論方程式の効果によって
非相対論的量子力学で計算された水素様原子のエネルギー
準位が,相対論的方程式の効果でより精密に修正される。
という超微細構造の話題に移行していて,
その部分については過去記事で言及していましたが,最初
の非相対論的極限近似の導入部分は割愛していました。
しかし,この部分をスキップした頃とは違って,今は私の
読書ノートの全てを遺漏なく回顧録としてブログ化する
という方針に心変わりしているので,この際,これも
「Dirac方程式の非相対論極限近似」という題目で記事に
したいと思います。
丁度,右手もだましだなし使えるようになってきましたし。
第4章 フォールディ・ウウトホイゼン変換
(Foldy-Wouthuysen Transformation)
§4.1 序論(Introduction)
負エネルギーの問題はさておき,Dirac方程式は,電子について
適切な記述を与えると思われます。
すなわち,それは,微細な非相対論的極限を持ち,自動的に正確
な磁気モーメント項などを生み出します。
そこで,今から,Dirac方程式に従う電子の与えられた外場
ポテンシャルとの相互作用について論じます。
特に,本質的には,相対論的特徴である未解決の負エネルギー
解と関わる困難を避けて,まずは低エネルギーの性質に着目
します。
Compton波長:(1/m )と,Bohr半径:{1/(αm)}の間の領域:
(1/m )<<|x|<{1/(αm)}の領域に局在化された電子
を見出す水素原子のような問題では,第3章「自由粒子の
Dirac方程式の解」で論じた,波束に負エネルギー解が混入
してくるというような問題については,とても微小な影響
しか無いであろう。と予想されます。
※(注1-1):ここではhc=c=1とする自然単位を用いています。
ただし,hc=h/(2π)であり,hはPlanck定数です。
αは微細構造定数で普通のSI単位では,
α=e2/(4πε0hcc)と定義されています。
α ~ 1/137(単位無し)です。
Compton波長の定義は正しくはλc=h/(mc)=2πhc/(mc)
であり,自然単位ではλc=1/mではなくλc=,2π/mです。
しかし,オーダー的には1/mでも2π/mでもと大した違いは
ありません。
また,Bohr半径は,元々はmを水素原子内の電子の質量(または
換算質量)としてaB=4πε0hc2/(me2) で与えられました。
これはaB=hc/(αmc)であり,自然単位ではaB=1/(αm)
です。 (注1-1終わり)※
実際には水素原子に対するDirac方程式から得られる
定常エネルギー準位のエネルギー固有値は,極端なほど
精密に観測値と一致します。
しかしながら,Coulombポテンシャルにおける固有値問題
の正確な解を示す前に, Dirac理論から,非相対論的で
容易に解釈可能な形の中で電子と場の間の異なる相互作用
項の存在を,引き出して示すことは教育的であろうと
思われます。
そこで,(谷)-Foldy-Wouthuysenによって展開された
系統的手法:すなわち,Dirac方程式を2つの2成分方程式
に分割するような正準変換を考察する手法を以下で紹介
します。
分割された方程式の1つは,非相対論的極限でPauliの
表示になり,もう1つは,負エネルギー状態を記述します。
§4.2 自由粒子の変換(Free- particle Transformation)
Foldy-Wouthuysen変換の最初の描写として,4つの互いに
反交換する4×4行列,β,α=(α1,α2,α3)を与えられた
Hamilton形式で書かれた最も便利な形式の次の自由粒子
に対するDirac方程式を考察します。
すなわち,ihc(∂Ψ/∂t)
={cα(-ihc∇)+βmc2}Ψ=HΨ です。
c=hc=1の自然単位系では,H=αp+βm,
p=-i∇,であり,
i(∂Ψ/∂t) =(-iα∇+βm)Ψ=HΨ
なる方程式です。
ここでβ,α=(α1,α2,α3)は,σ1,σ2,σ3を3つの
2×2 Pauli行列,Iを2×2単位行列として.βは対角成分
が1,-1の4×4対角行列,αk(k=1,2,3)は対角成分
がゼロで反対角成分がσkの3つの4×4行列とした陽な
表示の行列とします。

Ψ=[θ,χ]Tと書くとき,大成分θを小成分χと混合させる
上記表示のαのようなあらゆる演算子を方程式から除く
ユニタリ変換:UFを探します。
そして,任意のαのような演算子を奇(odd),大成分と小成分
を混合させない演算子を偶(even)と呼ぶことにします。
例えば,α,γはoddであり,1,β,
σk=(i/2)Σi,jjεijkγiγj,はevenです。
Sを時刻tに陽には依存しないHermite演算子
としてUF=exp(iS)と書けば,Ψ'=UFΨ=exp(iS)Ψ
です。
そこで,i(∂Ψ/∂t) =HΨ より,
i(∂Ψ'/∂t)=iexp(iS)(∂Ψ/∂t)
=exp(iS)HΨ=exp(iS)Hexp(-iS)Ψ'が成立
します。
これを,i(∂Ψ'/∂t)=H'Ψ';
H'= exp(iS)Hexp(-iS)と書きます。
:UF=exp(iS)によるユニタリ変換:UFHUF-1
=exp(iS)Hexp(-iS)がodd演算子を除去する変換
である。という前提が実際に成立するなら,
H'= exp(iS)Hexp(-iS)は,odd演算子を含まない
はずです。
H=αp+βmであって{α,β}=0 ですから,
これは2成分スピン演算子から成るHamiltonian:
H=σ1B1+σ3B3をeven演算子:1とσ3だけの線形結合
に対角化する変換を見出す問題に似ています。
この変換は,1軸(x軸)と3軸(z軸)で作られる平面
(xz平面)を2軸(y軸=原点)のまわりに回転する
演算であり,具体的には,U=exp(is2θ)=exp(iσ2θ/2);
tanθ=B1/B3で与えられます。
※何故なら,U=exp(iσ2θ/2)=Σn=0∞(1/n!)(iθσ2/2)n
=cos(θ/2)+iσ2sin(θ/2)より,
UHU-1
={ cos(θ/2)+iσ2sin(θ/2)}(σ1B1+σ3B3)
{cos(θ/2)-iσ2sin(θ/2)}
=(B12+B32)σ3cosθ/B3=±(B12+B32)1/2σ3 ※
これは,H=αp+βmに対する変換:
UFHUF-1=exp(iS)Hexp(-iS)のUFが次の形であろう
ことを示唆します。
すなわち,UF=exp(iS)=exp(iβαpθ)
=cos(|p|θ)+(βαp/|p|)sin(|p|θ) です。
最右辺の形は指数関数のべき展開から得られます。
H'= UFHUF-1=exp(iS)Hexp(-iS)
=[cos(|p|θ)+(βαp/|p|)sin(|p|θ)](αp+βm)
[cos(|p|θ)-(βαp/|p|)sin(|p|θ)]
=(αp+βm)[cos(|p|θ)-(βαp/|p|)sin(|p|θ)]2
=(αp[cos(2|p|θ)+(m/|p|)sin(2|p|θ)]
+β[mcos(2|p|θ)+|p| sin(2|p|θ)]
と書けます。
ここで,θをtan(2|p|θ)=|p|/mとなるように選択
します。
すると, H'= βmcos(2|p|θ)(1+|p|2/m2),
つまり,H'=β(m2+p2)1/2が得られます。
同じtan2|p|θ)でもcos(2|p|θ)が正となるようなθ
を採用しました。
得られたHamiltonianは,最初の章では排斥されたもの
です。
しかし,今度は負エネルギーも許容されるという重要な
変化を伴なっています。負エネルギーと4成分波動関数は,
H'=β(m2+p2)1/2なる形のHamiltonianから,
線型なDirac方程式に因数分解するために支払われた代償
でした。
§4.3一般的変換(The General Transformation)
自由粒子の方程式を想定する限り大した特徴は無いように
見えるので,与えられた電磁場の中にある1電子という,
より一般的なケースを想定して対応する変換を求めます。
まず,Dirac-HamiltonianはH=α(p-eA)+βm+eΦ
です。これはH=αp+βmに極小相互作用変換:
p → (p-eA),H → (H-eΦ)を施したものです。
ここで,Θ=α(p-eA),ε=eΦと置けば,
H=βm+Θ+εであり,βΘ=-Θβ,βε=+εβ
です。
H=α(p-eA)+βm+eΦ=βm+Θ+ε
において,出現する場が時間tに依存し,それ故,
Hamiltonian自身は時間tに依存します。
この電磁場Aとの相互作用を含む一般的場合には,
UF=exp(iS)のSもまた,時間tに依存すると思われます。
つまり[H,S]≠0 です。
そこで,自由電子でH=αp+βmに対して,
UF=exp(iS)=exp(iβαpθ)として,
H'= UFHUF-1=exp(iS)Hexp(-iS)
=β(m2+p2)1/2が得られたように,
あらゆる次数でのH'oddなパラメータが除去される
ようなSを作ることは不可能です。
したがって,変換されたHamiltonianを(1/m)のベキで
非相対論的に展開し,(運動エネルギー/m)3と,
(運動エネルギー)×(場のエネルギー)/m2のオーダー
まででoddパラメータの除去が満足されるようなSを
求めます。
再び,Ψ'= exp(iS)Ψと書けば,Ψ=exp(-iS)Ψ'であり,
i(∂Ψ/∂t)=i(∂/∂t){exp(-iS)Ψ'}
=exp(-iS)i(∂Ψ'/∂t)+{i(∂/∂t)exp(-iS)}Ψ'
です。
一方,i(∂Ψ/∂t)=HΨ=H{exp(-iS)Ψ'}
ですから,
i(∂Ψ'/∂t)=exp(iS)[H{exp(-iS)Ψ(
-{i(∂/∂t)exp(-iS)}Ψ'}
=[exp(iS){H-i(∂/∂t)}exp(-iS)]Ψ'
です。
以上から,HとSが時間tに依存する場合は,
H'=
exp(iS){H-i(∂/∂t)}exp(-iS)とすれば,
i(∂Ψ'/∂t)=H'Ψ' となって,Schroedinger方程式
の形を保つことができます。
exp(iS)=1+1S+(iS)2/2+..であり,Sは非相対論的
極限では,exp(iS)→1となるような小さい値としています。
そこで,非相対論的極限では1/m=1/(mc2)<<1より,
微小な値の(1/m)でのベキ展開ではSは1次以上のベキで
展開されるはずです。つまり,S=O[1/m]です。
ここで公式:exp(iS)Hexp(-iS)
=H+i[S,H]+(i2/2!)[S,[S,H]]
+..+(im/m!)[S,[S,..[S,H]]]+..
を用います。
※(注1-2):以下は上の公式の証明です。
F(λ)=exp(iλS)Hexp(-iλS)と置きます。
Fλ)のλによるMaclaulin展開は
F(λ)=F(0)+F'(0)λ+(1/2!)F"(0)λ2
+…=Σm=0∞(1/m!)F(m)(0)λm です。
ただし,F(m)(λ)=dmF/dλmでF=F'(λ)
=F(1)(λ),F"(λ)=F(2)(λ) です。
F(λ)=exp(iλS)Hexp(-iλS)より,
まず,F(0)=Hです。
そして,F'(λ)=dF/dλ
=exp(iλS)iSHexp(-iλS)-exp(iλS)iHSexp(-iλS)
=exp(iλS)i[S,H]exp(-iλS)より,F'(0)=i[S,H]
を得ます。
さらに,F"(λ)=dF'/dλ
=exp(iλS)i2[S,[S,H]]exp(-iλS)なので,
F"(0)=i2[S,[S,H]] です。
同様にして,F(3)(0)=i3[S,[S,[S,H]]]…
かくして,帰納的に,F(m)(0)=im[S,..,[S,[S,H]]]
です。
これらを.F(λ)=exp(iλS)Hexp(-iλS)
= F(0)+F'(0)λ+(1/2!)F"(0)λ2+…
=Σm=0∞(1/m!)F(m)(0)λm に代入した後に
λ=1とすれば,
exp(iS)Hexp(-iS)=H+i[S,H]+(i2/2!)[S,[S,H]]
+..+(im/m!)[S,[S,..[S,H]]]+.. が得られます。
(注1-2終わり)※
H=βm+Θ+εであり,S=O[1/m]であることから
,(1/m)の3次までの精度での近似では,
H'=
exp(iS){H-i(∂/∂t)}exp(-iS)
~ H+i[S,H]+(i2/2)[S,[S,H]]+(i3/6)[S,[S.[S,H]]]
+(i4/24)[S,[S,[S.[S,βm]]]]
-Sd-(i/2)[S,Sd]+(1/6)[S,[S,Sd]]
ただし,Sd=∂S/∂tです。
※(注1-3): 上の式を確かめます。
公式:exp(iS)Hexp(-iS)=H+i[S,H]
+(i2/2!)[S,[S,H]] +..
+(im/m!)[S,[S,..[S,H]]]+..において,
H=i(∂/∂t)を代入すると,
exp(iS)i(∂/∂t){exp(-iS)}
=i(∂/∂t)+i2[S,∂/∂t]+(i3/2)[S,[S,∂/∂t]]
+(i4/6)[S,[S.[S,∂/∂t]]]+..ですが.
[S,∂/∂t]=-Sdですから,
与式=i(∂/∂t)-i2Sd―(i3/2)[S,Sd]]
-(l4/6)[S,[S,Sd]]-.. です。
そして,S=O[1/m]より,Sd=∂S/∂t=O[1/m]
と考えられるので,O[1/m3]まででは,
exp(iS)i(∂/∂t){exp(-iS)}
~i(∂/∂t)-i2Sd-(i3/2)[S,Sd]]-(l4/6)[S,[S,Sd]]
です。
i(∂Ψ'/∂t)=H'Ψ'の形でのΨ'はtに依存しないとすると
実質的に,exp(iS)i(∂/∂t){exp(-iS)}Ψ'
~{Sd+(i/2)[S,Sd]]-(1/6)[S,[S,Sd]]}Ψ’です。
(注1-3終わり)※
H'~ H+i[S,H]-(1/2)[S,[S,H]]
-(i/6)[S,[S.[S,H]]]
+(1/24)[S,[S,[S.[S,βm]]]]-Sd-(i/2)[S,Sd]
+(1/6)[S,[S,Sd]]
が,このイーダーまででoddパラメータを持たない.
という条件から具体的にSを探します。
そのため,まず,H=βm+Θ+εについて,Sの1次近似で
,exp(iS) ~ 1+iS, exp(-iS) ~ 1-iSを用います。
exp(iS)Hexp(-iS) ~ (1+iS)(βm+Θ+ε)(1-iS)
=βm+Θ+ε+im[S,β]+i[S,Θ]+i[S,ε]
ですが,
Θ=α(p-eA)=O(1),ε=eΦ=O(1)とS=O[1/m]
という仮定からm[S,β]=O(1),[S,Θ] =O[1/m],
[S,ε] =O[1/m].ですから,
O[1/m]の項を無視すると,
exp(iS)Hexp(-iS)~ βm+Θ+ε+im[S,β]
です。
この右辺でodd項:Θ=α(p-eA)が消えることを要求
すると,im[S,β] ~ -Θであれば満たされることが
わかります。,
これは,S=-iβΘ/(2m)と選べばよいのでは?
と思わせます。
(※何故なら,βΘ=-Θβより[β,Θ]=2βΘです。)
途中ですが,今日はこの当たりで終わります。
(参考文献):J.D.Bjorken & S.D.Drell
"Relativistic QantumMechanics"(McGrawHill)
最近のコメント