赤外発散の論文(1961)の詳解(3)
赤外発散論文詳解の続きです。
前回のアップが12月15日で暮れから正月にかけて,頭もお休み
してましたが,ほぼ1カ月ぶりに思考力が回復しました。
§2.電子散乱への輻射補正
(Radiative
corrections to electron scattering)
本節では,電子ポテンシャル散乱への仮想光子,実光子補正を
扱います。
赤外寄与を陽に因子化して,Feynman-ダイアグラムの
well-defined(無矛盾)なセットとして確認し,これを詳細に
論じます。
最初,散乱中心はエネルギーを持たない運動量のみの存在で
あり,その結果,総エネルギーが丁度,その散乱中心に入射して
散乱されるまでの散乱される電子のエネルギー損失に等しい
ような検知されない実光子が生成され放出されるという
プロセスを仮定します。
そうして,この際の総運動量Kは,0≦|K|≦εの領域に限定
されていると仮定します。
こうした仮定に従う電子散乱は実験として興味深く,論じる
には比較的簡単ですが,後節ではより複雑な問題へと一般化
する予定です。
(a)仮想光子輻射補正(Virtual photon-radiative corrections)
運動量がpの状態からp'の状態へと電子が散乱される間に,
いくつかの光子が生成される過程を考えます。
終状態を固定したままで最低次の行列要素への輻射補正を
考察します。
Mn(p,p')をn個の仮想光子を含む全てのダイアグラム
に対応する行列要素の寄与とします。
これは,(仮想光子の個数nがゼロの)ポテンシャル散乱は,
M0 と表現され,n≧1の仮想光子を含む散乱は.
このポテンシャル散乱(n=0)とは区別されることを意味
します。ただし,実光子に関わる変数は省略しています。
すると,完全な散乱の行列要素:M(p,p')は次のように
書けます。
M(p,p')=Σn=0∞Mn(p,p')..(2.1) です。
Mnは,n個の仮想(軟)光子を持つのでn次の赤外発散を有する
と予想されます。
実際,これは赤外切断の対数のn次多項式となることは直感的
に明らかです。
ここでの我々の仮想光子の論議の目的は,Mnが次の構造を持つ
ことを示すことです。
すなわち,M0=m0 ..(2.2a)
M1=m0αB+m1 ..(2.2b)
M2=m0(αB)2/2!+m1αB+m2 ..(2.2c)
Mn=Σr=0nmn-r(αB)r/r! ..(2.2d) です。
ただし,mj(j≧1)は,赤外発散がない(nn=0の)
行列要素:M0=m0 に対して,αjのオーダーの
(仮想光子数nに独立な)関数です。
そして,因子αBの方は,1つ の仮想光子当たりの
赤外寄与を含んだ量です。
(2.1) と(2.2)から直ちに,指数関数の中に赤外項が
現われる式:M=exp(αB)Σn=0∞mn ..(2.3)
が導かれます。
※(注): 何故なら,
M=Σn=0∞Mn=Σn=0∞Σr=0n{mn-r(αB)r/r!}
=m0{Σn=0∞αB)n/n!}+m1{Σn=1∞αB)n-1/(n-1)!}
+m2{Σn=2∞αB)n-2/(n-2)!}+.. =exp(αB)Σn=0∞mn
となるからです。(注終わり※)
さて,(2.2)式の成立を厳密に証明するため,先に,
「n個の仮想光子を含む全てのダイアグラムに対応する
行列要素の寄与」という曖昧な表現で与えたMnの明確な定義
を与えることから始めます。
Mn=(1/n!)∫..∫Πj=1n{d4kj/(kj2-λ2)}
ρn(k1,..,kn)..(2.4)と定義します。
ここで光子質量としてλを導入しました。
この扱いが.光子運動量の最低限界値を与えるのと同等である
ことは後で示します。
※今のところ,n個の仮想光子:k1,..,knによる内線の伝播関数
以外の寄与:ρn(k1,..,kn)の明確な定義が示されていないので
これは定義といっても,未知の量Mnを別の未知量:ρnへと転嫁
しただけです。※
係数:(1/n!)は,ρnがn個の仮想光子k1,..,knについて
対称化されたものであることを示すための因子です。
この対称化は(2.2)式を得るのに本質的な役割を果たすこと
がわかります。
さて,これらk1,..,knの関数としてのρnのグラフで考察
します。
図1.あらゆる可能なポテンシャル相互作用と実光子
のセット,および,(nー1)個のk層光子を含む基本グラフ
のセットの表現
上の図1は,最初の(n-1)個の仮想光子,および,
任意個数のポテンシャル相互作用と関わる基本の
Feymanグラフを表わしています。
図2.図1のグラフに1つの仮想光子を挿入する可能なやり方
また,次の図2は,種々の基本グラフにn番目の1光子が挿入
できる可能なやり方を表わしています。
n番目の仮想光子の両端が荷電粒子外線上につながるグラフ
(図2の(d),(e),(f))の寄与は,他のあらゆる光子の運動量が
ゼロでないなら,kn→ 0 のとき有限です。
一方,kn→ 0 とkj→ 0 (j<n)が同時的に生じるときにはkn
とkjでの重複発散が生じます。
しかし.後の付録Aでゲージ不変でない項とゲージ不変な項
を,独立にゲージ不変な表現と結合させると,こうした全ての
重複発散も相殺して)消えることが示されます。
故に.残る唯一の発散は,基本グラフでkn→ 0としたときの
図2の(a),(b),(c)に対応するものです。
この論議は,ρを次のように分離形で書くことを許します。
ρn(k1,..,kn)
=S(kn)ρn-1(k1,..,kn-1)+βn(1)( k1,..,kn-1;kn)
..(2.5) です。
ここで,S(kn)は図2からのknの赤外寄与を含む因子であり,
残りの項はknの赤外発散を含まない寄与部分です。
それ故,他のk1,..,kn-1による赤外発散は,この分離の影響
を受けることはありません。
以下では,β項はknについて非赤外であるという言葉を
しばしば使用します。
漸化式(2.5)の反復から,まず,次のように書けます。
ρn(k1,..,kn)
=S(kn)S(kn-1)ρn-2(k1,..,kn-2)
+S(kn)βn-1(1)( k1,..,kn-2;kn-1)
+S(kn-1)βn-1(1)( k1,..,kn-2;kn)
+{-S(kn-1)βn-1(1)( k1,..,kn-2;kn)
+βn(1)( k1,..,kn-1;kn)}..(2.6)
この式でρnにおけるk1nとkn-1の対称性から左辺と,
右辺最初の3項はknとkn-1の交換に対して不変です
から,最後の{ }の中の量もknとkn-1の交換に対して
不変であるはずです。
しかも,この{ }の中の量:
-S(kn-1)βn-1(1)( k1,..,kn-2;kn)
+βn(1)( k1,..,kn-1;kn) は赤外因子:S(kn-1)がknに依存
しないため,knについては非赤外であると言えます。
これをβn(2)( k1,..,kn-1;kn)と定義します。
すなわち,βn(2)( k1,..,kn-1;kn)
=-S(kn-1)βn-1(1)( k1,..,kn-2;kn)
+βn(1)( k1,..,kn-1;kn)..(2.7) です。
(2.6),(2.7)から,ρn(k1,..,kn)
=S(kn)S(kn-1)ρn-2(k1,..,kn-2)
+S(kn)βn-1(1)( k1,..,kn-2;kn-1)
+S(kn-1)βn-1(1)( k1,..,kn-2;kn)
+βn(2)( k1,..,kn-1;kn)となり
knとkn-1の両方について赤外寄与因子と非赤外部分
を分離できます。
この形は,我々の長波長光子の議論から予期される特性を
示しています。
漸化式(2.5)の適用を繰り返し,ρnのkに関する対称性を
活用すれば,
ρn(k1,..,kn)
=S(k1)..S(kn)β0
+Σi=1nS(k1)..S(ki-1)S(ki+1)β1(ki)
+..+Σi=1nS(ki)βn-1( k1,..,ki-1,ki+1,..kn)
+βn( k1,..,kn)..(2.8) が得られます。
ただし,β1は単に上添字をはずしたβi(j)を意味します。
この(2.8)はkkのあらゆる置換(Permutation)の総和と
して表現できます。
すなわち,ρn(k1,..,kn)
=ΣpermΣr=0n[1/{r!(n―r)!}]Πi=1rS(ki)
βn-r(kr+1,..kn)..(2.9)です。
そして,βn-rは全て非赤外です。
これを,Mn=(1/n!)∫..∫Πj=1n{d4kj/(kj2-λ2)}
ρn(k1,..,kn)..(2.4) に代入すると,
Mn=Σr=0n[1/{r!(n―r)!}]{∫d4kS(k)/(k2-λ2)}r
Πi=1n-r{∫d4kiβn-r(k1,..kn-r)/ki2}..(2.10)
となります。
ここで赤外発散を避ける必要のない項では仮想質量λを
略しました。
最後に,定義:
αB(p,p'(ε))≡∫d4kS(k)/(k2-λ2)..(2.11),
および, mr(p,p'(ε))
≡(1/r!)Πi=1r{∫d4kiβn-r(k1,..kr)/ki2}..(2.12)
を与えます。,
すると,(2.10)式:
Mn=Σr=0n[1/{r!(n―r)!}]{∫d4kS(k)/(k2-λ2)}r
Πi=1n-r{∫d4kiβn-r(k1,..kn-r)/ki2}
は,Mn=Σr=0n{(αB)r/r!}mn-rとなり,
結局,先の行列要素の(2.2)式の一般形:
Mn=Σr=0nmn-r(αB)r/r! ..(2.2d)と完全に一致し
当面の目的は達成されました。
ここで,Bとmrはエネルギー保存の関係:E'=E-εを
通して,遷移エネルギーεに依存することに注意してこの項目:
(a)仮想光子輻射補正(Virtual photon-radiative corrections)
を終わります。
次回は,(b)実光子輻射補正(Real photon-radiative corrections)
に入ることを予定して,いつもよりやや短かいですが終わります。
PS:今日も寒いので気分が暖かくなりそうな春の映像を送ります。
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