摂動論のアノマリー(5)
摂動論のアノマリーの続きです。
前回は,軸性ベクトルのWard(-Takahashi)の恒等式(44):
(p-p')μΓ5μ(p,p')=2m0Γ5(p,p')
+SF'-1(p)γ5+γ5SF'-1(p')
を,通常の場理論が厳密に正しいという前提で,証明した
ところで 終わりました。
§2.1 Ward-identity in Perturbation Theory
(摂動論におけるWardの恒等式)
今から,(44)式に到るナイーブで形式的な操作が,
実際的な摂動論においても正しい操作かどうか?
を調べたい,と考えます。
まず,軸性頂点の頂点補正:Λ5μ,および,Λ5を次式で
定義します。
すなわち,Γ5μ=γμγ5+Λ5μ,および,Γ5=γ5+Λ5.(45)
です。
そ うして,(44)式:
(p-p')μΓ5μ(p,p')=2m0Γ5(p,p')
+SF'-1(p)γ5+γ5SF'-1(p')に,たった今与えた
定義式(45)と,式(7):SF'(p)=1/(p-m0-Σ(p))
を代入すると,(44)は,次のように書き直せます。
(p-p')μΛ5μ(p,p')=2m0Λ5(p,p')
-Σ(p)γ5-γ5Σ(p') ..(46) です。
この式を,摂動論的に導くために,Λ5μ(p,p')に寄与
しているdiagramsを2種類に分割します。
(a)軸性頂点:γμγ5が,外線4運動量:p'に始まり,
外線4運動量pで終わるFermi粒子線上に接している
diagrams,
および,
(b) 軸性頂点:γμγ5が,1つの閉じた内線ループ上に
接しているdiagrams
の2種類です。
※(注5-1)「軸性ベクトル頂点が1個だけあって,残りの
頂点 が全てベクトル頂点のループでは,ベクトル頂点の
個数が奇数の場合,ループの寄与はゼロである。」という
「Furryの定理」の一般化を証明します。
(証明)閉じたループには時計回りのもの:図(ⅰ)とそれ
に対応する反時計回りのもの;図(ⅱ)とが存在するため,
寄与は次のF1,とF2の和で与えられます。
すなわち,
F1=Tr[{1/(p2k-m+iε)}aγ5{1/(p2k-1-m+iε)}
a2k-1...a2{1/(p2k-1-m+iε)}a1] ,
および,
F2=Tr[a1{1/(-p1-m+iε)}a2{1/(-p2-m+iε)}
a3..a2k{1/(-p2k-1-m+iε)}aγ5{1/(-p2k-m+iε)}]
です。
F1の両辺に荷電共役変換(Charge conjugation)の演算子:
C^=iγ2γ0(C^+=C^-1)によるユニタリ変換を行うと,
C^F1C^-
1=Tr[C^{1/(p2k-m+iε)}aγ5{1/(p2k-1-m+iε)}
a2k-1...a2{1/(p2k-1-m+iε)}a1C^-1]
ですが,trace(トレース:対角和),の性質から,
F1の式の右辺
=Tr[C^-1C^{1/(p2k-m+iε)}aγ5
{1/(p2k-1-m+iε)}2k-1...a2{1/(p2k-1-m+iε)}a1]
=F1 です。
よって,C^F1C^-1=F1であり,F1は荷電共役不変です。
他方,F1=C^F1C^-1=Tr[C^{1/(p2k-m+iε)}
C^-1C^aγ5C^-1C^{1/(p2k-1-m+iε)}
C^-1C^a2k-1C^-1.C^a2C^-1C^{1/(p2k-1-m+iε)}
C^-1C^a1C^-1] よ書けます。
C^=iγ2γ0に対しては,C^γμC^-1=-γμT,
また,C^γ5C^-1=γ5Tです。
(※Tは転置行列:transpose matrix)
よって,C^aC^-1=-aT.C^pC^-1=-pT etc.
かつ,C^(aγ5)C^-1=-aTγ5T=(aγ5)T です。
以上から,F1=C^F1C^-1
=(―1)2k-1Tr[{1/(-p2k T-m+iε)}(aγ5) T
×{1/(-p2k-1 T-m+iε)}a2k-1 T...a2 T
{1/(-p2k-1 T-m+iε)}a1 T]
=(-1) 2k-1Tr[a1{1/(-p1-m+iε)}a2
{1/(-p2-m+iε)}a3..a2k{1/(-p2k-1-m+iε)}
aγ5{1/(-p2k-m+iε)}] T=-F2
を得ます。
したがって,F1+F2=0 です。(照明終わり)
(注5-1終わり※)
(a)図の型の典型的な寄与は,
Σk=12n-1{Πj=1k-1[γ(j){1/(p+pj-m0)}]
×[γ(k){1/(p+pk-m0)}γμγ5{1/(p'+pk-m0)}]
×Πj=k+12n-1[γ(j){1/(p'+pj-m0)}]×γ(2n) (・・・)}
.(47)です。
ここで,注意をγμγ5の接する内線に集中し,diagrams
の残りの部分の因子(=図のblob)は,(・・・)で記述
しました。
これに,(p-p')μを掛けて,
{1/(p+pk-m0)}(p-p')γ5{1/(p'+pk-m0)}
={1/(p+pk-m0)}(2m0γ5){1/(p'+pk-m0)}
+{1/(p+pk-m0)}γ5+γ5{1/(p'+pk-m0)}..(48)
なる公式を用います。
※(注5-2): 上の公式の証明です。
(48)の左辺={1/(p+pk-m0)}
(p+pk-m0-p'-pk+m0)γ5{1/(p'+pk-m0)}]
=γ5{1/(p’+pk-m0)}+{1/(p+pk-m0)}γ5
(p'+pk-m0+2m0){1/(p’+pk-m0)}
=γ5{1/(p'+pk-m0)}+{1/(p+pk-m0)}γ5
+{1/(p+pk-m0)}(2m0γ5){1/(p'+pk-m0)}
(注5-2終わり※)
そこで,頂点:Λ5μへのグラフ型(a)の寄与(47)は,
Σk=12n-1{Πj=1k-1[γ(j){1/(p+pj-m0)}]
×[γ(k){1/(p+pk-m0)}γμγ5{1/(p'+pk-m0)}]
×Πj=k+12n-1[γ(j){1/(p'+pj-m0)}]γ(2n) (・・・)}
ですが,これに(p-p')μを掛け,代数的に順序を
変えつつ,公式(48)を適用すると,
Σk=12n-1{Πj=1k-1[γ(j){1/(p+pj-m0)}]
×[γ(k){1/(p+pk-m0)}(2mμ0γ5){1/(p'+pk-m0)}]
×Πj=k+12n-1[γ(j){1/(p'+pj-m0)}]γ(2n) (・・・)}
-(・・・)Πj=12n-1[γ(j){1/(p+pj-m0)}]γ(2n)γ5
-γ5Πj=12n-1[γ(j){1/(p'+pj-m0)}]γ(2n) (・・・)
.(49) が得られます。
※(注5-3):因子:γ(k){1/(p+pk-m0)}γμγ5{1/(p'+pk-m0)}
に(p-p')μを掛けると,
γ(k){1/(p+pk-m0)}(p-p')γ5{1/(p’+pk-m0)
=γ(k){1/(p+pk-m0)}(2m0γ5){1/(p'+pk-m0)}
+γ(k)[{1/(p+pk-m0)}γ5+γ5{1/(p'+pk-m0)}]
です。
よって,この第1項から,
Σk=12n-1{Πj=1k-1[γ(j){1/(p+pj-m0)}]
×[γ(k){1/(p+pk-m0)}(2mμ0γ5){1/(p'+pk-m0)}]
×Πj=k+12n-1[γ(j){1/(p'+pj-m0)}]γ(2n) (・・・)}
が得られるのは明らかです。
他方,Σk=12n-1{Πj=1k-1[γ(j){1/(p+pj-m0)}]
×[γ(k){1/(p+pk-m0)}γ5+γ(k)γ5{1/(p'+pk-m0)}]
×Πj=k+12n-1[γ(j){1/(p’+pj-m0)}]γ(2n) (・・・)}
=Σk=12n-1{Πj=1k[γ(j){1/(p+pj-m0)}γ5
×Πj=k+12n-1[γ(j){1/(p'+pj-m0)}]γ(2n) (・・・)}
-Σk=12n-1{Πj=1k-1[γ(j){1/(p+pj-m0)}
×γ5Πj=k2n-1[γ(j){1/(p’+pj-m0)}]γ(2n) (・・・)}
=Πj=12n-1[γ(j){1/(p+pj-m0)}γ5γ(2n) (・・・)
-γ5Πj=12n-1[γ(j){1/(p'+pj-m0)}]γ(2n)
(・・・)
=-(・・・)Πj=12n-1[γ(j){1/(p+pj-m0)}]γ(2n)γ5
-γ5Πj=12n-1[γ(j){1/(p'+pj-m0)}]γ(2n) (・・・)
です。
(注5-3終わり※)
(49)の第1項は,2m0Λ5(p.p')への,(a)のブラフの寄与,
一方,第2.3項は,同じグラフの,{-Σ(p)γ5-γ5Σ(p')}
への 寄与に等しいことがわかります。
あらゆる(a)のタイプのグラフの総和のΛ5μ(p.p')
および,Λ5(p.p')への寄与分を,それぞれ,
Λ5μ(a)(p.p'),および,Λ5(a)(p.p')とすると,
(49)の成立は,(p-p')μΛ5μ(a)(p.p')
=2m0Λ5(a)(p.p') -Σ(p)γ5-γ5Σ(p').(50)
を意味します。
(↑ ※ 内線の個数が頂点の個数より必ず1つ少ない数
なので,(-i)Σ(p)の係数:(-i)は,全てのi,(-i)
因子を相殺で除いたときに,相殺されて消えます。)
次に,(b)のタイプのΛ5μ(p.p')への寄与に移ります。
典型的な項は,Furryの定理による係数:2やループ因子
(-1)など,Λ5μ(p.p')とΛ5(p.p')の両方に共通な
係数を除けば,
∫d4rTr(Σk=12n{Πj=1k-1[γ(j){1/(r+pj-m0)}]
×[γ(k){1/(r+pk-m0)}(γμγ5){1/(r+pk+p'-p-m0)}]
×Πj=k+12n[γ(j){1/(r+pj+p'-p-m0)}]})×(・・・)..(51)
です。
(p-p')μを掛けて,公式(48)を適用すると,
∫d4rTr(Σk=12n{Πj=1k-1[γ(j){1/(r+pj-m0)}]
×[γ(k){1/(r+pk-m0)}(2m0γ5){1/(r+pk+p'-p-m0)}]
×Πj=k+12n[γ(j){1/(r+pj+p'-p-m0)}]})×(・・・)
+∫d4rTr(Σk=12n{Πj=1k[γ(j){1/(r+pj-m0)}]
×[γ5Πj=k+12n[γ(j){1/(r+pj+p'-p-m0)}]})
.-Πj=1k-1[γ(j){1/(r+pj-m0)}]
×[γ5Πj=k2n[γ(j){1/(r+pj+p'-p-m0)}]})
×(・・・)
=∫d4rTr(Σk=12n{Πj=1k-1[γ(j){1/(r+pj-m0)}]
×[γ(k){1/(r+pk-m0)}(2m0γ5){1/(r+pk+p'-p-m0)}]
×Πj=k+12n[γ(j){1/(r+pj+p'-p-m0)}]})×(・・・)
-∫d4rTr({γ5Πj=12n[γ(j){1/(r+pj-m0)}]
-γ5Πj=12n[γ(j){1/(r+pj+p’-p-m0)}]})×(・・・) (52)
となります。
この(52)の第1項は,Λ5μ(p.p')への(b)のグラフに
対応する2m0Λ5(p.p')への寄与です。
前の(a)と同様,Λ5μ(p.p'),および,Λ5(p.p')への
(b)のタイプのグラフの寄与の総和を,それぞれ,
Λ5μ(b)(p.p'),および,Λ5(b)(p.p')と書きます。
一方,(42)の第2項と第3項は,第2項の積分変数を
rから(r+p-p')に変えるという操作が正しいなら,
完全に相殺して消えます。
以上から.
(p-p')μΛ5μ(b)(p.p')=2m0Λ5(b)(p.p').(53)
を得ます。
最後に,(50)と(53)を辺々加え合わせると,軸性カレント
のWardの恒等式(46):(p-p')μΛ5μ(p.p')
=2m0Λ5(p.p') -Σ(p)γ5-γ5Σ(p')
が得られます。
しかしながら,上述の導出においては,単純な代数的な
配置換えではないような唯一の操作として,式(52)の
第2,3項において.積分変数の置換を行ないました。
これが,正しい操作ではない可能性があります。
これが,正しい操作で有り得るのは,積分が悪くても
対数発散するときです。
この条件は,4つ以上の光子頂点を持つループ,つまり
n≧2なるループに対しては明らかに満足されています。
ところが,ループが,ただ2つの出入りする光子を持つ
ような三角グラフ(Triangle graph)のときは,n=1
なので(52)の積分は,2次発散すると見えます。
実際には,Tr{γ5γ(1)rγ(2)r}=0 なので,n=1
のとき,積分は表面上は1次的に発散します。
※(注5-4):実際の三角グラフの寄与を与える,∫d4r
が掛かる被積分関数は,係数を除いて,
Tr{γ5γ(1){1/(r+p1-m0)}γ(2) {1/(r+p2-m0)}}
={(r+p1)2-m02)(r+p2)2-m02)}-1
×Tr{γ5γ(1)(r+p1+m0)}γ(2)(r+p2+m0)}}
です。
これにおいて,Tr{γ5γ(1)rγ(2)r}
=4iεαβγδgα(1) rβgγ(1)rδ=0 を用いると,
Tr{γ5γ(1)(r+p1+m0)}γ(2)(r+p2+m0)}}
=Tr{γ5γ(1)(r+p1)γ(2) p2)+γ5γ(1)p1(r+p2)}
となり,
積分の発散時数はD=4+1-4=1となります。
(注5-4終わり※)
そして,1次発散するFeynman積分の平行移動(積分変数
の原点のずらし)によって積分値は不変ということを
利用する操作は,必ずしも正しい操作,ではないことは
良く知られています。(※これは,例えば有名な,
Jauch-Roelich著「The Theory of Photons and Electrons」
を参照)
※(注5-5);対数発散なら,A,Bが有限な定数で
A≠Bのとき,
∫∞dk/(k+A)-∫∞dk/(k+B)
=∫∞dk(B-A)/{(k+A)/(k+B)}
=[ln(k+A)/(k+B)] ∞なので,
積分領域境界のk→∞の紫外領域で,
ln(k+A)/(k+B)→0 が成立するため,
繰り込みでの切断による正則化が正当化される
のです。
しかし,1次発散では∫∞Adk-∫∞Bdk
=[(A-B)k] ∞→±∞ですから,一般に有限値
が得られません。。 (注5-5終わり※)
それ故,(53): (p-p')μΛ5μ(p.p')
=2m0Λ5(p.p')-Σ(p)γ5-γ5Σ(p')
は,上述の三角グラフでは破れている可能性が
あります。
そうして,これが現実に破れていることを見るために
Rosenbergによって計算された三角グラフの陽な表現
を使用します。
上に図示したグラフと,その2光子を入れ替えた
グラフの和は,Furryの定理では,どちらも同じ寄与
なので,因子2が掛かるだけですが,
,
-ie02(2π)-4Rσρμ
=2∫d4r(2π)-4(-1)Tr[{i/(r+k1-m0)}(-ie0γσ)
{i/(r-m0)}(-ie0γρ){i/(r-k2-m0)}(γμγ5)]
..(54) です。
この表現は,確かに1次発散します。
しかし,光子の自己エネルギー部分:Πμν(q)の評価のとき
のように,カレントの保存の要請から,光子の場の強さの
テンソル:(k2ξε2ρ-k2ρε2ξ),(k1ηε2σ-k2σε1η)
を通してcouple(相互作用)することを考慮すると
運動量の2つのベキが,その因子に費やされること
がわかるので,有効発散次数は,Deff=-1となって
収束積分が残ります。
(※収束はしてもゼロではないので,軸性カレントのWard
恒等式には確かに破れが存在して,これがアノマリーです。)
※(注5-6):つまり,ε1σε2ρRσρμ
∝(k2ξε2η-k2ηε2ξ)(k1αε2β-k2βε1α)
Cαβξημ(k1,k2)という場の強さに比例する形
であるなら,
εi→εi+ki(i=1,2)に対して,(kiαεiβ-kiβεiα)
→(kiαεiβ-kiβεiα)+(kiαkiβ-kiβkiα)
=(kiαεiβ-kiβεiα)となるため、ゲージ不変性が
保証されます。
(注5-6終わり※)
以下,長くなるので,今日はここで一旦終わります。~
(参照文献):Lectures on Elementary Particles
and Quantum Field Theory
(1970 Brandeis University SummerInstitute
in Theoretical Physics) VolumeⅠ
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