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2017年6月20日 (火)

摂動論のアノマリー(8)

摂動論のアノマリーの続きです。
 

前回は,軸性カレントのWardの恒等式が,軸性頂点を1つ含む 

三角グラフの摂動計算では,(63): 

(1+k2)μσρμ20σρ8π21ξ2τεξτσρ 

となり, 右辺の最後の項が,純粋に場理論から求められる恒等式

への余分な異常項=アノマリーとして存在することがわかり,
 

これを引き算などの単純な操作で除去する試みは不可能であり, 

むしろ.これを本質的な存在と認めるべきである,という結論 

に到達した。というところで終わりました。
 

前回の記事は1976年当時のノートと,それに説明不足がある

のを,後の1995年に補足したノートを含めたものから原稿を

書きました。,
 

そして,日付によると,1995年の112日夜から13日未明

までの深夜に,ここまでの内容の理解が完了したようです。
 

そして,今回は,また主に1975年のノ-トからの引用です。

本講義の残りでは,当面の三角グラフに対して,常に表現:

σρμを用います。

 この方が,"正しい"軸性ベクトルWard恒等式を
満足し,

異常項(アノマリー)を持たないように引き算された

表現:R'σρμより,むしろ自然であると考えます。
 

ベクトルカレントのWard恒等式が,軸性ベクトルカレント

Ward恒等式よりも,先験的に神聖であるということは

決してない,と思われるので,この選択には,何らかの正当化

の言を要します。

 
とりわけ,次のことに着目します。

 
もしも,三角グラフが,ニュートリノ-反ニュートリノ対と

2つの光子の物理的相互作用を記述することを期待する

なら,ベクトルカレントの保存を強要する,ことは本質的な

ことです。

 
2つの光子は,J=1という状態には存在し得ないので,

νν~のJ=1の状態から2光子の状態へという寄与は

消える必要があります。
 

 (8-1):2光子のC.M系(質量中心系(center of fmass)

=重心系で考察します。

光子は,スピン1の自由度3の3次元空間ベクトルで表現

されます,特に質量がゼロのベクトル粒子という性格から,

縦波自由度が除去されて,実は自由度が2の粒子です。
 

しかし.取りあえず,横波のみであることを忘れるとこれは,

3次元空間のベクトルで表現されます。
 

そこで2光子系の波動関数は,運動量表示で2階の3次元

テンソル:ij()(,j=1,2,3)で記述されます。2つの

添字は各々1つの光子のベクトル添字に対応します。
 

.M系という意味は,01+k2です。

故に,1-k221です。

 
2光子がいずれも横波であるという条件を用いると, 

iij=kjij0 です。

 
さらに光子は,粒子(状態)交換で対称なBose統計に従います。
 

光子の交換は,添字iとjの交換と同時に → -kを

意味 しますから,

Bose統計から,ji()=Aij() 要求されます。
 

つまり,座標系の反転は2階テンソルの向きを変えず,(極性) 

ベクトル.の向きを変えます。


 一方,Bose統計は空間反転に対して全体
としてのパリティが

1であることを要求するわけです。
 

3次元ベクトルのテンソル積として得られる2階テンソル:

ij,3×3=1+3+5と,表現空間に分解され,それぞれ

スピン:S=0,1,2 に対応します。

  1次元(S=0)と5次元(S=2)は対称テンソル,3次元

(S=1) は反対称テンソルです。

そこで,これが意味するスピン波動関数部分のパリティは,

S=0 とS=2 の対称 テンソルなら,+1でS=1の反対称

テンソルなら,-1です。
 

一方,軌道部分を考察すると,軌道角運動量をLとすると

トータルの角運動量は,J=L+Sで与えられます。,

総角運動量が1の状態:つまり,J=1となるためには,

(,)(1,0),(0,1),(1,1)(1,2) 組合わせしか

ありません。

 
よく知られているように,軌道部分のパリティは,

(-1)与えられますすから,

 
スピンと軌道の積で全体としてのパリティが+1

であるべき,というBose統計性の必要条件は,

(,)(1,0),(0,1),(1,2)のペアでは満足

れ得ません。
 

残るのは,(,)(1.1)だけですが,
 
ここで光子は質量
のあるベクトル粒子のようなSO(3)

の自由度3の粒子ではなく,縦波の無い自由度2のE(2)

に属することを考慮します。

 
2光子系は,3×3=1+3+5なる規約表現空間への

次元展開ではなく2×2=1+3と展開され.それぞれ,

S=0,S=2に対応し,S=1をつくることはできません。
 

以上から,(,)(1.1)も有り得ないので,

結局,2光子系はJ=1の状態をつくることができない

ことがわかりました。     

 (8-1終わり※)
 

そこで,Rσρμによって,上記の"J=1の状態から2光子

への寄与は消えなければならない"という要求を表現

すると次の通りです。
 

νν~対の運動量:(1+k2)に対して,μ

(1+k2)0 を満たす任意のスピン1の偏極ベクトル

とし,(ε1,1),(ε2,2)を,ε110,ε220,

(1)2=(2)20 を満足する光子変数とすれば,

με1σε2ρσρμ0 が成立しなければならない。

.

ということです。

(55):σρμ(1,2)
=A11τετσρμ+A22τετσρμ
+A31ρ1ξ2τεξτσμ+A42ρ1ξ2τεξτσμ
+A42ρ1ξ2τεξτσμ+A51σ1ξ2τεξτρμ

+A62σ1ξ2τεξτρμ 

および,

(56):1(1,2)=-A2(2,1),3(1,2)=-A6(2,1),

4(1,2)=-A5(2,1) 

(57):1(12)3(2)24,2(1)25(12)6 

(58):31,2)=-16π211(1,2),

41,2)16π2{20(1,2)-I10(1,2)}

 によって与えられるRσρμ,この条件:

με1σε2ρσρμ0 を満足することが,実際に

Rosenbergによって,示されています。

(※これは,実際に容易にチェックできますが。。)

 
一方,(65)の引き算項:σρμ4π2ετσρμ(1-k2)τ,

明らかにμε1σε2ρσρμ0 を満たしません。
 それ故,R' σρμ=Rσρμ-Sσρμもまた,条件

με1σε2ρR'σρμ0 を満足しません。

 第2に,以下に見ることですが,Ward恒等式のアノマリー

と交換子のアノマリーの関係は,ベクトオルカレントの保存

(=ゲージ不変性)が守られているときには,特に簡単な形式

をとります。

 最後に三角グラフのアノマリーの最も興味深い適用,つまり,

π0崩壊の低エネルギー定理」は,三角グラフの定義が

用いられる方法に独立である,ということが後にわかります。


 
そこで再び,(このケースには本質的ではないですが)

ゲージ不変性を守るという条件が,便利であることが

わかります。

 
(↑※ 以上,§2.2「引き算によるアノマリー除去

 の不可能性」終わりです。※)

§2.3 Anomaly for General Axial-Vector current Matrix Element

(一般的軸性ベクトルカレントの行列要素のアノマリー)

 
次に,三角グラフに対するアノマリーを伴うWard恒等式(63):

(1+k2)μσρμ20σρ8π21ξ2τεξτσρ

までで,やめた,グラフ的解析に戻ります。

  
明らかに,基本的な三角グラフに対するWard恒等式の破れ

 は, 下図のような型の任意のグラフdiagramに対してもWard

 恒等式の不成立を引き起こします。

  
下記のグラフにおいては,三角グラフから出てくる2つ

 の光子線が2F個のFermion線とB個のBoson線が出ているblob

の中に入っています。



  
上述の式(63),基本三角グラフの軸性カレントの発散に

対する式から,一般の場合の軸性ベクトルカレントの

Ward恒等式は軸性ベクトルカレントの4次元発散

対する(41):μ5μ()2i05(), 

μ5μ()2i05()

{α0/(4π)}ξσ()τρ()εξστρ..(68)

置き換えることによって簡単に記述されます。
 

(68),5μ,5,および,{α0/(4π)}ξστρεξστρ

に対する次のようなFeynmanルールを用いて,容易に

証明されます。
 

5μ() p←・←p⇔ γμγ5 

5() p←・←p γ5

{α0/(4π)}ξστρεξστρ  1,σ←・←k2,ρ  

⇔ (2α0/π)1ξ2τεξστρ

 

ただし,α0=e02/(4π) です。
 

(8-2):頂点因子のうち,{α0/(4π)}ξστρεξστρ 

部分に対応する寄与を,Γσρ(-k1,2)と書けば,
 

(2π)4δ4(1+k2)(i)(2π)-3(4ω1ω2)-1/2

εσ(1)ερ(2)Γσρ(-k1,2)

(i){α0/(4π)}εσ(1)ερ(2)εξατβ 

∫d4x<0|[ξα()τβ()]|k1,σ;k2,ρ>
 

ただし,μν()=∂νμ()-∂μν(),

ν()=∫d3{(2π)3(2ω)}-1/2 

{μ()ex(ikx))+a+μ()exp(ikx)} であり,
 

|k1,σ;k2,ρ>=a+ρ(1)+σ(2)|0> です。
 

交換関係は,

[α(2),β(2)][+α(1),+β(2)]0, 

[α(1),+β(2)]=δ3(12)αβ です。
 

故に,(i){α0/(4π)}εσ(1)ερ(2)εξατβ 

∫d4x<0|[ξα()τβ()]|k1,σ;k2,ρ>
 

(i){α0/(4π)}εσ(1)ερ(2)εξατβ

(2π)4δ4(1+k2){(2π)6(4ω1ω2)}-1/2 

{(i1αξσi1ξασ)( i2ατρi2ταρ) 

(i1ατσi1τασ)( i2αξρi2ξαρ)}
 

(2π)4δ4(1+k2)(i){{(2π)6(4ω1ω2)}-1/2

εσ(1)ερ(2){α0/(4π)}(8)εξστρ1ξ2τ,
 

したがって,座標表示の{α0/(4π)}ξσ()τρ()εξστρ  

の寄与は,Γσρ(-k1,2)(2α0/π) 1ξ2τεξστρ 

と×という結果が得られました。   

  (8-2終わり※)
 

こうしたFeynmanルールを用いると, 

基本三角グラフについては 

μ5μ()2i05() に対しての, 

(1+k2)μσρμ20σρという形のWard恒等式 

の代わりに.
 

(1+k2)μσρμ20σρ 

{(2π)4/(i02)}(i)(2α0/π) 1ξ2τεξστρ 

20σρ8π21ξ2τεξτσρ 

という形のアノマリー項のあるWard恒等式(63)が得られます。
 

(68):μ5μ()2i05() 

{α0/(4π)}ξσ()τρ()εξστρ 

を用いると,軸性ベクトル頂点に対するWard恒等式が 

どのように変わるか?を容易に見ることができます。
 

そのため,~(,p')を次式で定義します。
 

すなわち,F'(p)~(,p')F'(p') 

=∫d4xd4exp(ipx)exp(ip'y) 

0|[ψ()ξσ(0)τρ(0)εξστρψ~()]|0..(69) 

です。
 

このとき,(p-p')μΓ5μ(,p')20Γ5(,p')

+SF'-1(p)γ5+γ5F' -1(p')i{α0/(4π)}~(.p')

 ..(70)
 

これが(44):(p-p')μΓ5μ(,p')20Γ5(,p') 

+SF'-1(p)γ5+γ5F' -1(p')

にとって代わる式です。
 

切りがいいので,今日はここで終わります。
 

次回は,今の考察に引き続く,

§2.4 Coordinate Space Calculation(座標空間の計算)

という項目に入る予定です。
 

(参照文献):Lectures on Elementary Particles 

 and Quantum Field Theory 

(1970 Brandeis University SummerInstitute  

in Theoretical Physics) Volume

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