摂動論のアノマリー(8)
摂動論のアノマリーの続きです。
前回は,軸性カレントのWardの恒等式が,軸性頂点を1つ含む
三角グラフの摂動計算では,式(63):
-(k1+k2)μRσρμ=2m0Rσρ+8π2k1ξk2τεξτσρ
となり, 右辺の最後の項が,純粋に場理論から求められる恒等式
への余分な異常項=アノマリーとして存在することがわかり,
これを引き算などの単純な操作で除去する試みは不可能であり,
むしろ.これを本質的な存在と認めるべきである,という結論
に到達した。というところで終わりました。
前回の記事は1976年当時のノートと,それに説明不足がある
のを,後の1995年に補足したノートを含めたものから原稿を
書きました。,
そして,日付によると,1995年の1月12日夜から13日未明
までの深夜に,ここまでの内容の理解が完了したようです。
そして,今回は,また主に1975年のノ-トからの引用です。
本講義の残りでは,当面の三角グラフに対して,常に表現:
Rσρμを用います。
この方が,"正しい"軸性ベクトルWard恒等式を満足し,
異常項(アノマリー)を持たないように引き算された
表現:R'σρμより,むしろ自然であると考えます。
ベクトルカレントのWard恒等式が,軸性ベクトルカレント
のWard恒等式よりも,先験的に神聖であるということは
決してない,と思われるので,この選択には,何らかの正当化
の言を要します。
とりわけ,次のことに着目します。
もしも,三角グラフが,ニュートリノ-反ニュートリノ対と
2つの光子の物理的相互作用を記述することを期待する
なら,ベクトルカレントの保存を強要する,ことは本質的な
ことです。
2つの光子は,J=1という状態には存在し得ないので,
νν~対のJ=1の状態から2光子の状態へという寄与は
消える必要があります。
※ (注8-1):2光子のC.M系(質量中心系(center of fmass)
=重心系で考察します。
光子は,スピン1の自由度3の3次元空間ベクトルで表現
されますが,特に質量がゼロのベクトル粒子という性格から,
縦波自由度が除去されて,実は自由度が2の粒子です。
しかし.取りあえず,横波のみであることを忘れるとこれは,
3次元空間のベクトルで表現されます。
そこで2光子系の波動関数は,運動量表示で2階の3次元
テンソル:Aij(k)(i,j=1,2,3)で記述されます。2つの
添字は各々1つの光子のベクトル添字に対応します。
C.M系という意味は,0=k1+k2です。
故に,k=k1-k2=2k1です。
2光子がいずれも横波であるという条件を用いると,
kiAij=kjAij=0 です。
さらに光子は,粒子(状態)交換で対称なBose統計に従います。
光子の交換は,添字iとjの交換と同時にk → -kを
意味 しますから,
Bose統計から,Aji(-k)=Aij(k) が要求されます。
つまり,座標系の反転は2階テンソルの向きを変えず,(極性)
ベクトル.kの向きを変えます。
一方,Bose統計は空間反転に対して全体としてのパリティが
+1であることを要求するわけです。
3次元ベクトルのテンソル積として得られる2階テンソル:
Aijは,3×3=1+3+5と,表現空間に分解され,それぞれ
スピン:S=0,1,2 に対応します。
1次元(S=0)と5次元(S=2)は対称テンソル,3次元
(S=1) は反対称テンソルです。
そこで,これが意味するスピン波動関数部分のパリティは,
S=0 とS=2 の対称 テンソルなら,+1でS=1の反対称
テンソルなら,-1です。
一方,軌道部分を考察すると,軌道角運動量をLとすると
トータルの角運動量は,J=L+Sで与えられます。,
総角運動量が1の状態:つまり,J=1となるためには,
(L,S)=(1,0),(0,1),(1,1)(1,2) の組合わせしか
ありません。
よく知られているように,軌道部分のパリティは,
(-1)Lで与えられますすから,
スピンと軌道の積で全体としてのパリティが+1
であるべき,というBose統計性の必要条件は,
(L,S)=(1,0),(0,1),(1,2)のペアでは満足
され得ません。
残るのは,(L,S)=(1.1)だけですが,
ここで光子は質量のあるベクトル粒子のようなSO(3)群
の自由度3の粒子ではなく,縦波の無い自由度2のE(2)群
に属することを考慮します。
2光子系は,3×3=1+3+5なる規約表現空間への
次元展開ではなく2×2=1+3と展開され.それぞれ,
S=0,S=2に対応し,S=1をつくることはできません。
以上から,(L,S)=(1.1)も有り得ないので,
結局,2光子系はJ=1の状態をつくることができない
ことがわかりました。
(注8-1終わり※)
そこで,Rσρμによって,上記の"J=1の状態から2光子
への寄与は消えなければならない"という要求を表現
すると次の通りです。
νν~対の運動量:(k1+k2)に対して,lμを
l(k1+k2)=0 を満たす任意のスピン1の偏極ベクトル
とし,(ε1,k1),(ε2,k2)を,ε1k1=0,ε2k2=0,
(k1)2=(k2)2=0 を満足する光子変数とすれば,
lμε1σε2ρRσρμ=0 が成立しなければならない。
.
ということです。
式(55):Rσρμ(k1,k2)
=A1k1τετσρμ+A2k2τετσρμ
+A3k1ρk1ξk2τεξτσμ+A4k2ρk1ξk2τεξτσμ
+A4k2ρk1ξk2τεξτσμ+A5k1σk1ξk2τεξτρμ
+A6k2σk1ξk2τεξτρμ
および,
(56):A1(k1,k2)=-A2(k2,k1),A3(k1,k2)=-A6(k2,k1),
A4(k1,k2)=-A5(k2,k1)
(57):A1=(k1k2)A3+(k2)2A4,A2=(k1)2A5+(k1k2)A6
(58):A3k1,k2)=-16π2I11(k1,k2),
A4k1,k2)=16π2{I20(k1,k2)-I10(k1,k2)}
によって与えられるRσρμが,この条件:
lμε1σε2ρRσρμ=0 を満足することが,実際に
Rosenbergによって,示されています。
(※これは,実際に容易にチェックできますが。。)
一方,(65)の引き算項:Sσρμ=4π2ετσρμ(k1-k2)τは,
明らかにlμε1σε2ρSσρμ=0 を満たしません。
それ故,R' σρμ=Rσρμ-Sσρμもまた,条件
lμε1σε2ρR'σρμ=0 を満足しません。
第2に,以下に見ることですが,Ward恒等式のアノマリー
と交換子のアノマリーの関係は,ベクトオルカレントの保存
(=ゲージ不変性)が守られているときには,特に簡単な形式
をとります。
最後に三角グラフのアノマリーの最も興味深い適用,つまり,
「π0崩壊の低エネルギー定理」は,三角グラフの定義が
用いられる方法に独立である,ということが後にわかります。
そこで再び,(このケースには本質的ではないですが)
ゲージ不変性を守るという条件が,便利であることが
わかります。
(↑※ 以上,§2.2「引き算によるアノマリー除去
の不可能性」終わりです。※)
§2.3
Anomaly for General Axial-Vector current Matrix Element
(一般的軸性ベクトルカレントの行列要素のアノマリー)
次に,三角グラフに対するアノマリーを伴うWard恒等式(63):
-(k1+k2)μRσρμ=2m0Rσρ+8π2k1ξk2τεξτσρ
までで,やめた,グラフ的解析に戻ります。
明らかに,基本的な三角グラフに対するWard恒等式の破れ
は, 下図のような型の任意のグラフdiagramに対してもWard
恒等式の不成立を引き起こします。
下記のグラフにおいては,三角グラフから出てくる2つ
の光子線が2F個のFermion線とB個のBoson線が出ているblob
の中に入っています。
上述の式(63),基本三角グラフの軸性カレントの発散に
対する式から,一般の場合の軸性ベクトルカレントの
Ward恒等式は軸性ベクトルカレントの4次元発散に
対する式(41):∂μj5μ(x)=2im0j5(x)を,
∂μj5μ(x)=2im0j5(x)
+{α0/(4π)}Fξσ(x)Fτρ(x)εξστρ..(68)
で置き換えることによって簡単に記述されます。
式(68)は,j5μ,j5,および,{α0/(4π)}FξσFτρεξστρ
に対する次のようなFeynmanルールを用いて,容易に
証明されます。
j5μ(x) p←・←p’ ⇔ γμγ5
j5(x) p←・←p’ ⇔ γ5
{α0/(4π)}FξσFτρεξστρ k1,σ←・←k2,ρ
⇔ (-2α0/π)k1ξk2τεξστρ
ただし,α0=e02/(4π) です。
※(注8-2):頂点因子のうち,{α0/(4π)}FξσFτρεξστρ
部分に対応する寄与を,Γσρ(-k1,k2)と書けば,
(2π)4δ4(k1+k2)(-i)(2π)-3(4ω1ω2)-1/2
εσ(k1)ερ(k2)Γσρ(-k1,k2)
=(-i){α0/(4π)}εσ(k1)ερ(k2)εξατβ
∫d4x<0|T[Fξα(x)Fτβ(x)]|k1,σ;k2,ρ>
ただし,Fμν(x)=∂νAμ(x)-∂μAν(x),
Aν(x)=∫d3k{(2π)3(2ω)}-1/2
{aμ(k)ex(-ikx))+a+μ(k)exp(ikx)} であり,
|k1,σ;k2,ρ>=a+ρ(k1)a+σ(k2)|0> です。
交換関係は,
[aα(k2),aβ(k2)]=[a+α(k1),a+β(k2)]=0,
[aα(k1),a+β(k2)]=δ3(k1-k2)gαβ です。
故に,(-i){α0/(4π)}εσ(k1)ερ(k2)εξατβ
∫d4x<0|T[Fξα(x)Fτβ(x)]|k1,σ;k2,ρ>
=(-i){α0/(4π)}εσ(k1)ερ(k2)εξατβ
(2π)4δ4(k1+k2){(2π)6(4ω1ω2)}-1/2
{(-ik1αgξσ+ik1ξgασ)( -ik2αgτρ+ik2τgαρ)
+(-ik1αgτσ+ik1τgασ)( -ik2αgξρ+ik2ξgαρ)}
=(2π)4δ4(k1+k2)(-i){{(2π)6(4ω1ω2)}-1/2
εσ(k1)ερ(k2){α0/(4π)}(―8)εξστρk1ξk2τ,
したがって,座標表示の{α0/(4π)}Fξσ(x)Fτρ(x)εξστρ
の寄与は,Γσρ(-k1,k2)=(-2α0/π)k 1ξk2τεξστρ
と×という結果が得られました。
(注8-2終わり※)
こうしたFeynmanルールを用いると,
基本三角グラフについては
∂μj5μ(x)=2im0j5(x) に対しての,
-(k1+k2)μRσρμ=2m0Rσρという形のWard恒等式
の代わりに.
-(k1+k2)μRσρμ=2m0Rσρ
+{(2π)4/(ie02)}(-i)(-2α0/π)k 1ξk2τεξστρ
=2m0Rσρ+8π2k1ξk2τεξτσρ
という形のアノマリー項のあるWard恒等式(63)が得られます。
(68)式:∂μj5μ(x)=2im0j5(x)
+{α0/(4π)}Fξσ(x)Fτρ(x)εξστρ
を用いると,軸性ベクトル頂点に対するWard恒等式が
どのように変わるか?を容易に見ることができます。
そのため,F~(p,p')を次式で定義します。
すなわち,SF'(p)F~(p,p')SF'(p')
=∫d4xd4yexp(ipx)exp(-ip'y)
<0|T[ψ(x)Fξσ(0)Fτρ(0)εξστρψ~(y)]|0>..(69)
です。
このとき,(p-p')μΓ5μ(p,p')=2m0Γ5(p,p')
+SF'-1(p)γ5+γ5SF' -1(p')-i{α0/(4π)}F~(p.p')
..(70)
これが(44)式:(p-p')μΓ5μ(p,p')=2m0Γ5(p,p')
+SF'-1(p)γ5+γ5SF' -1(p')
にとって代わる式です。
切りがいいので,今日はここで終わります。
次回は,今の考察に引き続く,
§2.4 Coordinate Space Calculation(座標空間の計算)
という項目に入る予定です。
(参照文献):Lectures on Elementary Particles
and Quantum Field Theory
(1970 Brandeis University SummerInstitute
in Theoretical Physics) VolumeⅠ
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