摂動論のアノマリー(10)
摂動論のアノマリーの続きです。第3章に入ります。
3.Consequence of the Triangle Anomaly
(三角グラフアノマリーからの帰結)
これまでの節で見出された,軸性ベクトルの4次元発散
におけるアノマリーからのいくつかの帰結を調べます。
このアノマリーの存在が軸性ベクトル頂点のくり込みと,
γ5-対称性 を取り扱うべき標準的結果において,変化を
生ぜしめることを見るつもりです。
そしてまた,(68)式:∂μj5μ(x)=2im0j5(x)
+{α0/(4π)}Fξσ(x)Fτρ(x)εξστρ
から,その一般化が,π0の崩壊の興味深い物理的暗示
を与える,真空から2光子への行列要素である,素朴な
発散の2im0j5に対する1つの「低エネルギー定理」
が導かれることを見出すつもりです。
§3.1.Renormalization of Axial-Vector Vertex
(軸性ゲクトル頂点のくり込み)
まず,くり込みの下での軸性ベクトル頂点の挙動の解析から
始めます。
思い起こすと,
式(30):Γμ5(p,p')=ZA-1Γ~μ5(p,p'),および,
Γ5(p,p')=ZP-1Γ~5(p,p')
によって,軸性ベクトル頂点と擬スカラー頂点の両方は
,掛け算的にくり込み可能で、それぞれのくり込み定数:
ZAとZPを有します。
ここで,これらのくり込み定数が電子波動関数のくり込み
定数:Z2と同じか,あるいは簡単に関連付けられるか否か?
を検討します。
まず,第一に,式(44):(p-p')μΓ5μ(p,p')
=2m0Γ5(p,p')+SF'-1(p) γ5+γ5SF'-1(p')
の素朴なWard恒等式から導かれる解答を見出し,
それから,式(70):(p-p')μΓ5μ(p,p')
=2m0Γ5(p,p')+SF'-1(p)γ5+γ5SF' -1(p')
-i{α0/(4π)}F~(p.p')
におけろように,アノマリーを考慮すると,その解答が,
どのように変化するか?を見ることにします。
無限大のくり込み定数:m0,Z2,ZA,ZPについて,厳密な
方法で論じるために,Feyman規則に切断:Λを導入する
標準的な手法に従うことにします。
そこで,くり込み定数は,最後にΛ→∞へと発散させる
Λの有限関数となります。
これをなすべき切断を導入する多くの異なる手法があります。
1つの特殊な方法は次節で詳細に叙述します。
外線運動量が切断に比して小さいままであるような,
低エネルギー定理のタイプの問題のみを扱う限り,
どのように切断が導入されるか?という手法の詳細
には無関係に論じることができます。
特に,外線運動量がゼロに近づき,他方,切断Λが∞
になるという計算では,極限の順序の不明確さは,
全く関係ありません。
一方,外線運動量が∞に近づくようなBjorken極限
の計算においては.外線運動量は切断より.はるかに
小さいままか,切断よりはるかに大きくなるか?
になります。
先に進むために,まず,上述の素朴な軸性ベクトル
Ward恒等式(44):において,p'=pと置くことから
始めます。このとき,左辺の軸性ベクトル頂点項は
消えます。
すなわち,0=2m0Γ5(p,p)+SF'-1(p)γ5
+γ5SF'-1(p)ですが,この両辺に電子波動関数の
くり込み定数:Z2を掛けます。
2m0Z2Γ5(p,p)
=-{Z2SF'-1(p)γ5+Z2γ5SF'-1(p)}
=-{SF'~-1(p)γ5+γ5S''~-1(p)} ..(76)
(※ 何故なら,SF'(p)=Z2SF'~(p)なので
,SF'~-1(p)=Z2 SF' -1(p)です。)
(76)の右辺の,-{SF'~ -1(p)γ5+γ5SF'~ -1(p)}
は,くり込まれた伝播関数SF'~(p)の定義から,大きい
Λの極限で,切断Λに無関係に有限であるとされる量
なので,左辺の2m0Z2Γ5(p,p)もまた,有限です。
一方,第1章で見たように,一般のp,p'に対する
Γ5(p,p')は,くり込み定数Zを掛けることにより,
ZPΓ5(p,p')が有限になります。
故に,ZPとZ2は,有限因子を除いて同一と
結論できます。2m0Z2/ZP=有限値 ..(77)
次に,くり込まれた電子伝播関数,(光子伝播関数,
ベクトル頂点)の表現式(16)::
SF'(p)=Z2 SF'~(p),
DF’μν(q)=Z3DF'~μν(q), '
Γμ(p,p')=Z1 Γμ~(p,p'),
0=Z1e/Z2Z31/2 および,
軸性ベクトル頂点,擬スカラー頂点の表現式(30):
Γμ5(p,p')=ZA-1Γ~μ5(p,p'),
Γ5(p,p')=ZP-1Γ~5(p,p') を
素朴な軸性ベクトルWard恒等式:
(p-p')μΓ5μ(p,p')=2m0Γ5(p,p')
+SF'-1(p) γ5+γ5SF'-1(p')に代入して,
両辺にZAを掛けます。
すると,
(p-p')μΓ~5μ(p,p')
=(ZA/Z2){(2m0Z2/ZP)Γ~5(p,p')
+SF'~-1(p)γ5+γ5SF'~-1(p')}..(78)
を得ます。
これを切断Λで偏微分してみます。
くり込まれた量を,チルダ(~)の付いた関数で表現
しているので,,れらは大きいΛの極限で,切断Λに
独立に有限であり,これらをΛで微分するとゼロです。
それ故,0 =(∂/∂Λ)[(ZA/Z2){(2m0Z2/ZP)Γ~5(p,p')
+SF'~-1(p)γ5+γ5SF'~-1(p')}]..(79)
を得ます。
(77)式 :2m0Z2/ZP=有限値 を用いると,
(∂/∂Λ) {(2m0Z2/ZP)Γ~5(p,p')
+SF'~-1(p)γ5+γ5SF'~-1(p')}=0
ですから,
結局,(∂/∂Λ)(ZA/Z2)=0 ...(80)
つまり, Z2/ZP=有限値 です。
軸性頂点のくり込み因子ZA,および,ZP,および,有限な
因子を除いて,それぞれ,Z2,および,2m0Z2に等しいこと
になります。
ここで,厳密には正しくない,素朴なWard-恒等式(44)
(p-p')μΓ5μ(p,p')=2m0Γ5(p,p')
+SF'-1(p) γ5+γ5SF'-1(p')を
補正された正しいWard-恒等式:(70):
(p-p')μΓ5μ(p,p')=2m0Γ5(p,p')
+SF'-1(p)γ5+γ5SF' -1(p')
-i{α0/(4π)}F~(p.p')に置き換えると,ここまで
のくり込み定数についての結論も 部分的に修正される
べきです。
最後の頂点のアノマリー項:FξσFτρεξσρτに対する
Feynman規則を蒸し返すと,運動量遷移がゼロ,
つまり,k1=-k2のとき,交換反対称の運動量遷移項:
k1ξk2τεξσρτεは消えます。
そこでp'=p のときは付加項:F~(p.p')が消えます。
その結果,p'=pのときの素朴なWard恒等式による式
(76) :2m0Z2Γ5(p,p)
=-{Z2SF'-1(p)γ5+Z2γ5SF'-1(p)}
=-{SF'~-1(p)γ5+γ5SF'~-1(p)}
および,(76)からの帰結である(77)
:2m0Z2/ZP=有限値
は,なお正しい式です。
よって,アノマリーが存在するときでも,
2m0Z2Γ5(p,p)は有限です。
一方,前のΛで微分した式(79):
0 =(∂/∂Λ)[(ZA/Z2){(2m0Z2/ZP)Γ~5(p,p')
+SF'~-1(p)γ5+γ5SF'~-1(p')}]
を,式(79a)と番号を付け直し,
これの修正を,
0 =(∂/∂Λ)[(ZA/Z2){(2m0Z2/ZP)Γ~5(p,p')
+SF'~-1(p) γ5+γ5SF'~-1(p')}]
+(∂/∂Λ)[{-iα0/(4π)}ZAF~(p.p')].(79b)
とすることができます。
F~に比例する余分な項の存在は,式(80):
(∂/∂Λ)(ZA/Z2)=0 による前の結論の,(ZA/Z2)
とZ2Γ5μ(p,p')が有限であるということ,を引き出す
ための妨げとなります。
我々はZ2を掛けた後でさえ,なお,軸性ベクトル頂点:
Γ5μ(p,p')には発散する項が残ることを予想します。
そうした項は,摂動論のα02のオーダーで,上図の
三角グラフの結果として,最初に現われます。
これは,式(64)を用いて,容易に対数発散することが
わかります。
※(注10-1):「摂動論のアノマリー(7)」においては,
U,V,Wは任意としてk1=ξU,k2=ξU+ξV+Wと
置いて,ξ→∞とするときのRσρμの挙動に対する必要条件
を述べました。
そして,特に,将来の参照のため,V=0 のときに
(k1+k2=有限=p'-pの下で,
ξ→∞ のときの,Rσρμを評価すると,
Rσρμ(k1=ξU,k2=-ξU+(p-p')
→ -8π2ξUτετσρμ+O(lnξ)..(64)
となることに着目しておきます。
と書きました。
実際,三角グラフを含むe0の4次の頂点の寄与は,
∫d4k1(2π)-4(-ie0γσ)(-i)(k12+iε)-1(ie02)
(2π)-4 Rσρμ(k1,k2)(-i)(k22+iε)-1(-ie0γρ)
(p-k2-m0+iε)-1
=(2π)-8(-8π2e04)ετσρμγσγρ
∫d4k1[(k12+iε)-1k1τ{(-k1+p’-p)2+iε}-1
(p-k2+m0+iε)/{(p-k2)2-m02+iε}]
となり
光子伝播関数において,紫外切断:Λを
(k2+iε)-1→(k2+iε)-1-(k2-Λ2+iε)-1
によって導入すると,
上記のk=k1についての積分では,
k1→∞のとき,(分母)~ k16,(分子) ~k12であり,
これに∫d4k1が掛かる際,発散次数:Dは,トータル
で,D=0 となるので,積分結果はO[ln(Λ2/m02)]の
対数発散と結論されます。
(注10-1終わり※)
発見的味方では,この発散はZ2を掛けることによっては
除去されないと見えます。何故なら,Z2はベクトルカレント
のみ保存する理論から得られるもぼであり,軸性ベクトルの
三角アノマリーの存在については,その理論では"未知"である
からです。
光子の伝播関数:(-igμν)/(q2+iε)を,
(-igμν){1/(q2+iε)-1/(q2-Λ2+iε)}に
置き換えることによって,切断を導入すると,
次式を見出します。
Z2Γ5μ(p,p')=γμγ5{1-(3/4)(α0/π)2ln(Λ2/m02)}
+α0×(有限値)+α02×(有限値)+O(α03)..(81)
です。
※(注10-2):上の(81)を証明します。
:
アノマリーが無い場合,α0の1次,2次(=e0の2次,4次)
の輻射補正は,下図の通りであり,
これの計算結果は,Γ5μ(p,p')=γμγ5+α0×(有限値)
+α02×(有限値)+O(α03)+(Z2-1-1)γμγ5 つまり,
Z2Γ5μ(p,p')=γμγ5+α0×(有限値)+α02×(有限値)
+O(α03)で与えられます。
これに,先のα0の2次の(有限項)+無限大(切断Λの関数)
の三角グラフの寄与が加わります。
この寄与は,{-α02/(2π4)}ετσρμγσγρ
∫d4k1[(k12+iε)-1k1τ{(k1-p’+p)2+iε}-1
(p-k2+m0)/{(p-k2)2-m02+iε}]
で与えられます。,
そして,積分項=2!∫dxdydz∫d4k1
δ(1-x-y-z)k1τ(p-k2+m0)
/[(k12-λ2)x+{(k1-p'+p)2-λ2}y
+{(p-k2)2-m02}z+iε]3
とFeynman積分で表現されます。
これをまず,zで積分すると,z=1-x-yであり,
分母の[ ]の中は.
k12+2k1{py-p'(1-x)}+p'2(1-x)
+(p2-2pp')y-m02(1-x-y)-λ2(x+y)
となります。
これは,積分変数をl=k1+{py-p’(1-x)}に
変数置換すると,
l2+p’2x(1-x)+p2y(1-y)―2pp’xy
-m02(1-x-y)-λ2(x+y) となります。
一方,分子の因子は,k1τ=lτ-{pτy-p'τ(1-x)}
p-k2+m0=-l+py+p'x+m0となります。
結局,積分項=2!∫dxdy∫d4l
[lτ-{pτy-p'τ(1-x)}(-l+py+p'x+m0)
/[l2+・・-m02(1-x-y)-λ2(x+y)]3ですが,
発散(D=0の対数発散)に寄与するのは,分子の項のうち,
lτl-=-lτlζγζのに比例する項のみです。
既に光子伝播関数に赤外切断:λを導入した,
1/[l2+・・-m02(1-x-y)-λ2(x+y)]3
の因子を,さらに紫外切断:Λをも導入した,
1/[l2+・・-m02(1-x-y)-λ2(x+y)]3
-1/[l2+・・-m02(1-x-y)-Λ2(x+y)]3l2-・・・]3
に置き換えると.
Λ→∞のときに対数発散する,
{-α02/(2π4)}ετσρμγσγρ
∫d4k1[(k12+iε)-1k1τ{(k1-p’+p)2+iε}-1
(p-k2+m0)/{(p-k2)2-m02+iε}]の部分は,
{-iα02/(4π2)}ετσρμγσγργτ∫01dxdy
l(ln[l2+・・-m02(1-x-y)-λ2(x+y)]
-ln[l2+・・-m02(1-x-y)-Λ2(x+y)])
~{-iα02/(4π2)}ετσρμγτγσγρ(1/2)ln(m02/Λ2)
=-{3α02/(4π2)}γμγ5ln(Λ2/m02)
となるこという結論が得られます。
したがって,Γ5μ(p,p')=γμγ5+α0×(有限値)
+α02×(有限値)+O(α03)+(Z2-1-1)γμγ5
-{3α02/(4π2)}γμγ5ln(Λ2/m02) です。
故に,Z2Γ5μ(p,p’)=(γμ+Λ~μ)γ5
-{3α02/(4π2)}γμγ5ln(Λ2/m02)
=γμγ5[1-{3α02/(4π2)}ln(Λ2/m02)]
+α0×(有限値)+α02×(有限値)+O(α03)
が得られました。
(注10-2終わり※)
(上日証明した式'81)と同じことですが,
ZA=Z2[1+(3/4)(α0/π)2ln(Λ2/m02)+O(α03)]..(82)
です。
(※つまり,[Z2/{1-(3/4)(α0/π)2ln(Λ2/m02)
+O(α03)}]Γ×5μ(p,p')=ZAΓ5μ(p,p')
予想通り,アノマリーがあると,
Λ→∞で.(ZA/Z2)→∞という計算結果でした。
今日はここで終わります。
次は§3.2のレプトンの散乱の評価に入ります。
(参考文献):Lectures
on Elementary Particles
and Quantum Field Theory
(1970 Brandeis University SummerInstitute
in Theoretical Physics) VolumeⅠ
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