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2017年7月 2日 (日)

摂動論のアノマリー(10)

摂動論のアノマリーの続きです。第3章に入ります。
 

3.Consequence of the Triangle Anomaly 

(三角グラフアノマリーからの帰結)
 

これまでの節で見出された,軸性ベクトルの4次元発散 

におけるアノマリーからのいくつかの帰結を調べます。
 

このアノマリーの存在が軸性ベクトル頂点のくり込みと,

γ5-対称性 を取り扱うべき標準的結果において,変化を

生ぜしめることを見るつもりです。
 

そしてまた,(68):μ5μ()2i05() 

{α0/(4π)}ξσ()τρ()εξστρ 

から,その一般化が,π0崩壊の興味深い物理的暗示

を与える,真空から2光子への行列要素である,素朴な

発散の2i05に対する1つの「低エネルギー定理」

が導かれることを見出すつもりです。
 

§3.1.Renormalization of Axial-Vector Vertex 

(軸性ゲクトル頂点のくり込み)
 

まず,くり込みの下での軸性ベクトル頂点の挙動の解析から 

始めます。
 

思い起こすと, 

(30):Γμ5(,p')=Z-1Γ~μ5(,p'),および, 

Γ5(,p')=Z-1Γ~5(,p')  

によって,軸性ベクトル頂点と擬スカラー頂点の両方は

,掛け算的にくり込み可能で、それぞれのくり込み定数:

とZを有します。

 
ここで,これらのくり込み定数が電子波動関数のくり込み

定数:2と同じか,あるいは簡単に関連付けられるか否か?

を検討します。
 

まず,第一に,(44):(p-p')μΓ5μ(,p')

20Γ5(,p')+SF'-1(p) γ5+γ5F'-1(p')

 の素朴なWard恒等式から導かれる解答を見出し,


  
それから,(70):
(p-p')μΓ5μ(,p')

20Γ5(,p')+SF'-1(p)γ5+γ5F' -1(p')

i{α0/(4π)}~(.p') 

におけろように,アノマリーを考慮すると,その解答が,

どのように変化するか?を見ることにします。
 

無限大のくり込み定数:0,2,,について,厳密な

方法で論じるために,Feyman規則に切断:Λを導入する

標準的な手法に従うことにします。
 

そこで,くり込み定数は,最後にΛ→∞へと発散させる

Λの有限関数となります。
 

これをなすべき切断を導入する多くの異なる手法があります。
 

1つの特殊な方法は次節で詳細に叙述します。
 

外線運動量が切断に比して小さいままであるような, 

低エネルギー定理のタイプの問題のみを扱う限り,

どのように切断が導入されるか?という手法の詳細

には無関係に論じることができます。
 

特に,外線運動量がゼロに近づき,他方,切断Λが∞

なるという計算では,極限の順序の不明確さは,

全く関係ありません。
 

一方,外線運動量が∞に近づくようなBjorken極限

の計算においては.外線運動量は切断より.はるかに

小さいままか,切断よりはるかに大きくなるか?

なります。
 

先に進むために,まず,上述の素朴な軸性ベクトル

Ward恒等式(44):において,p'=pと置くことから

始めます。このとき,左辺の軸性ベクトル頂点項は

消えます。
 

すなわち,020Γ5(,)+SF'-1(p)γ5

+γ5F'-1(p)ですが,この両辺に電子波動関数の

くり込み定数:Z2を掛けます。
 

202Γ5(,)

=-{2F'-1(p)γ5+Zγ'-()} 

=-{F'~-1(p)γ5+γ5S''~-()} ..(76)
 

(※ 何故なら,F'(p)=Z2F'~(p)なので  

,F'~-1(p)=Z2 F' -1(p)です。)
 

(76)の右辺の,{F'~ -1(p)γ5+γ5F'~ -()}

,くり込まれた伝播関数SF'~(p)の定義から,大きい

Λの極限で,切断Λに無関係に有限であるとされる量

なので,左辺の202Γ5(,)もまた,有限です。
 

一方,1章で見たように,一般のp,p'に対する

Γ5(,p'),くり込み定数Zを掛けることにより,

Γ5(,p')が有限になります。
 

故に,2,有限因子を除いて同一と

結論できます。202/=有限値  ..(77)
 

次に,くり込まれた電子伝播関数,(光子伝播関数,

ベクトル頂点)の表現式(16)::

F'(p)=Z2 F'~(p),

Fμν()=Z3F'~μν(), '

Γμ(,p')=Z1 Γμ~(,p'),

0=Z1/231/2  および,


軸性ベクトル頂点,
擬スカラー頂点の表現式(30): 

Γμ5(,p')=Z-1Γ~μ5(,p'), 

Γ5(,p')=Z-1Γ~5(,p')

素朴な軸性ベクトルWard恒等式: 

(p-p')μΓ5μ(,p')20Γ5(,p') 

+SF'-1(p) γ5+γ5F'-1(p')に代入して,

両辺にを掛けます。
 

すると, 

(p-p')μΓ~5μ(,p') 

(/2){(202/)Γ~5(,p') 

+SF'~-1(p)γ5+γ5F'~-1(p')}..(78) 

を得ます。
 

これを切断Λで偏微分してみます。
 

くり込まれた量を,チルダ()の付いた関数で表現

しているので,,れらは大きいΛの極限で,切断Λに

独立に有限であり,これらをΛで微分するとゼロです。
 

それ故,0 (/∂Λ)[(/2){(202/)Γ~5(,p') 

+SF'~-1(p)γ5+γ5F'~-1(p')}]..(79) 

を得ます。
 

(77):202/=有限値 を用いると, 

(/∂Λ) {(202/)Γ~5(,p')

+SF'~-1(p)γ5+γ5F'~-1(p')}0

ですから,

  
結局,(/∂Λ)(/2)0 ...(80)

つまり, 2/=有限値 です。
 

軸性頂点のくり込み因子Z,および,,および,有限な

因子除いて,それぞれ,2,および,202に等しいこと

になります。
 

ここで,厳密には正しくない,素朴なWard-恒等式(44) 

(p-p')μΓ5μ(,p')20Γ5(,p') 

+SF'-1(p) γ5+γ5F'-1(p')

補正された正しいWard-恒等式:(70):

(p-p')μΓ5μ(,p')20Γ5(,p') 

+SF'-1(p)γ5+γ5F' -1(p')

i{α0/(4π)}~(.p')に置き換えると,ここまで

のくり込み定数についての結論も 部分的に修正される

べきです。
 

最後の頂点のアノマリー項:ξστρεξσρτに対する 

Feynman規則を蒸し返すと,運動量遷移がゼロ,

つまり,k1=-k2のとき,交換反対称の運動量遷移項:

1ξk2τεξσρτεは消えます。

そこでp'=p のときは付加項:~(.p')が消えます。
 

その結果,p'=pのときの素朴なWard恒等式による式

(76) :202Γ5(,)

=-{2F'-1(p)γ5+Zγ5'-()} 

=-{F'~-1(p)γ5+γ5F'~-()} 

および,(76)からの帰結である(77)

:202/=有限値

,なお正しい式です。
 

よって,アノマリーが存在するときでも,

202Γ5(,)は有限です。
 

一方,前のΛで微分した式(79): 

 0 (/∂Λ)[(/2){(202/)Γ~5(,p') 

+SF'~-1(p)γ5+γ5F'~-1(p')}] 

,(79)と番号を付け直し,
 

これの修正を, 

0 (/∂Λ)[(/2){(202/)Γ~5(,p') 

+SF'~-1(p) γ5+γ5F'~-1(p')}] 

(/∂Λ)[{iα0/(4π)}~(.p')].(79) 

とすることができます。
 

~に比例する余分な項の存在は,(80):

(∂/∂Λ)(/2)0 による前の結論の,(/2)

とZ2Γ5μ(,p')が有限であるということ,を引き出す

ための妨げとなります。
 

我々はZ2を掛けた後でさえ,なお,軸性ベクトル頂点:

Γ5μ(,p')には発散する項が残ることを予想します。
 

そうした項は,摂動論のα02のオーダーで,上図の

三角グラフの結果として,最初に現われます。
 

これは,(64)を用いて,容易に対数発散することが

わかります。
 

(10-1):「摂動論のアノマリー(7)」においては, 

,,Wは任意としてk1=ξU,2=ξU+ξV+Wと 

置いて,ξ→∞とするときのRσρμの挙動に対する必要条件 

を述べました。
 

そして,特に,将来の参照のため,V=0 のときに 

(k1+k2=有限=p'-pの下で, 

ξ→∞ のときの,σρμを評価すると, 

σρμ(1=ξU,2=-ξU+(p-p') 

→ -8π2ξUτετσρμ+O(lnξ)..(64)  

となることに着目しておきます。
 

と書きました。
 

実際,三角グラフを含むe0の4次の頂点の寄与は, 

∫d41(2π)-4(i0γσ)(i)(12iε)-1(i02)

(2π)-4 σρμ(1,2)(i)(22iε)-1(i0γρ)

(2-m0iε)-1
 

(2π)-8(8π204)ετσρμγσγρ 

∫d41[(12iε)-11τ{(-k1+p-p)2iε}-1 

(2+m0iε)/{(p-k2)2-m02iε}] 

となり
 

光子伝播関数において,紫外切断:Λを

(2iε)-1(2iε)-1(2-Λ2iε)-1 

によって導入すると,

 
上記のk=k1についての積分では,

1→∞のとき,(分母)~ k16,(分子) ~k12であり,

これに∫d41が掛かる際,発散次数:Dは,トータル

,D=0 となるので,積分結果はO[ln(Λ2/02)]

対数発散と結論されます。  

(10-1終わり※)

 

発見的味方では,この発散はZ2を掛けることによっては

除去されないと見えます。何故なら,2はベクトルカレント

のみ保存する理論から得られるもぼであり,軸性ベクトルの

三角アノマリーの存在については,その理論では"未知"である

からです。
 

光子の伝播関数:(iμν)/(2iε), 

(iμν){1/(2iε)1/(2-Λ2iε)}

置き換えることによって,切断を導入すると,

次式を見出します。
 

2Γ5μ(,p')=γμγ5{1(3/4)(α0/π)2ln(Λ2/02)} 

+α0×(有限値)+α02×(有限値)+O(α03)..(81)

です。
 

(10-2):上の(81)を証明します。
:
 

アノマリーが無い場合,α0の1次,2次(=e0の2次,4次) 

の輻射補正は,下図の通りであり,


 
これの計算結果は,
Γ5μ(,p')=γμγ5+α0×(有限値)

+α02×(有限値)+O(α03)(2-11)γμγ5 つまり, 

2Γ5μ(,p')=γμγ5+α0×(有限値)+α02×(有限値)

+O(α03)で与えられます。
 

これに,先のα0次の(有限項)+無限大(切断Λの関数)

三角グラフの寄与が加わります。
 

この寄与は,{-α02/(2π4)}ετσρμγσγρ 

∫d41[(12iε)-11τ{(1-p+p)2iε}-1 

(2+m0)/{(p-k2)2-m02iε}] 

で与えられます。,
 

そして,積分項=2!∫dxdydz∫d41  

δ(1-x-y-z)1τ(2+m0)  

/[(12-λ2)x+{(1-p'+p)2-λ2} 

{(p-k2)2-m02}z+iε]3 

とFeynman積分で表現されます。
 

 これをまず,zで積分すると,z=1-x-yであり, 

分母の[ ]の中は. 

1221{py-p'(1-x)}+p'2(1-x) 

(22pp')-m02(1-x-y)-λ2(x+y) 

となります。
 

これは,積分変数をl=k1{py-p’(1-x)}に

変数置換すると, 

2+p2(1-x)+p2(1-y)2ppxy 

-m02(1-x-y)-λ2(x+y) となります。
 

一方,分子の因子は,k1τ=lτ{τy-p'τ(1-x)} 

2+m0=-y+'x+m0となります。
 

結局,積分項=2!∫dxdy∫d4

[τ{τy-p'τ(1-x)}(y+p'x+m0)

/[2+・・-m02(1-x-y)-λ2(x+y)]3ですが,

発散(D=0の対数発散)に寄与するのは,分子の項のうち,

τl-=-τζγζのに比例する項のみです。
 

既に光子伝播関数に赤外切断:λを導入した,

1/[2+・・-m02(1-x-y)-λ2(x+y)]3  

の因子を,さらに紫外切断:Λをも導入した, 

1/[2+・・-m02(1-x-y)-λ2(x+y)]3  

1/[2+・・-m02(1-x-y)-Λ2(x+y)]32-・・・]3 

に置き換えると.

 
Λ→∞のときに対数発散する,

 {-α02/(2π4)}ετσρμγσγρ 

∫d41[(12iε)-11τ{(1-p+p)2iε}-1 

(2+m0)/{(p-k2)2-m02iε}]の部分は,
 

{iα02/(4π2)}ετσρμγσγργτ01dxdy 

l(ln[2+・・-m02(1-x-y)-λ2(x+y)] 

ln[2+・・-m02(1-x-y)-Λ2(x+y)]) 

{iα02/(4π2)}ετσρμγτγσγρ(1/2)ln(02/Λ2)
 

=-{3α02/(4π2)}γμγ5ln(Λ2/02) 

となるこという結論が得られます。
 

したがって,Γ5μ(,p')=γμγ5+α0×(有限値)

+α02×(有限値)+O(α03)(2-11)γμγ5

{3α02/(4π2)}γμγ5ln(Λ2/02) です。
 

故に,2Γ5μ(,’)(γμ+Λ~μ)γ5

{3α02/(4π2)}γμγ5ln(Λ2/02) 

=γμγ5[1{3α02/(4π2)}ln(Λ2/02)]

+α0×(有限値)+α02×(有限値)+O(α03)

が得られました。 

(10-2終わり※)

 

(上日証明した式'81)と同じことですが, 

=Z2[1(3/4)(α0/π)2ln(Λ2/02)+O(α03)]..(82) 

です。

 (※つまり,[2/{1(3/4)(α0/π)2ln(Λ2/02)

+O(α03)}]Γ×5μ(,p')=ZΓ5μ(,p')

 予想
通り,アノマリーがあると,

Λ→∞で.(/Z2)→∞という計算結果でした。
 

今日はここで終わります。

次は§3.2のレプトンの散乱の評価に入ります。

 (参考文献):Lectures on Elementary Particles 

and Quantum Field Theory 

(1970 Brandeis University SummerInstitute

in Theoretical Physics) Volume

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