摂動論のアノマリー(11)
摂動論のアノマリーの続きです。
§3.2.Radiative Correction to νll scattering
(νll散乱への輻射補正)
式(81):Z2Γ5μ(p,p')
=γμγ5{1-(3/4)(α0/π)2 ln(Λ2/m02)}+α0×(有限値)
+α02×(有限値)+O(α03)
の応用として.
νll散乱(lはlepoton(軽粒子;μまたはe)の輻射補正
を考えます。
式(40):で見たように,Fielz変換の後では,νll散乱を
記述する局所カレントーカレントLagrangianは,
次のようになります。
(G/√2){μ~γλ(1-γ5)μνμ~γλ(1-γ5)νμ
+e~γλ(1-γ5)eνe~γλ(1-γ5)νe} ..(83)
これの輻射補正は,ニュートリノカレントには触れず,
単に荷電レプトンのカレント:μ~γλ(1-γ5)μと,
e~γλ(1-γ5)eの輻射補正を計算することで
得られます。
これら,略記した,μとeのV-Aカレントを,改めて
u(μ)~γλ(1-γ5)u(μ), u(e)~γλ(1-γ5)u(e)
と詳細形で表わすと,
輻射補正することは,これらのカレントを
u(μ)~Z2(μ)[Γ(μ)λ-Γ(μ)5λ)u(μ) ,および,
u(e)~Z2(e)[Γ(e)λ-Γ(e)5λ)u(e) .(84)
に置き換えることに相当します。
これを見るため,まず,「摂動論のアノマリー(1)」において,
列挙したFeymanルールの項目(ⅲ):を再掲載すると,
各光子の外線に因子:εμ√Z3を対応付ける。
ここにεμは光子の偏極4元ベクトルであり,Z3は光子波動関数
のくり込み定数である。
各電子外線にはグラフに入ってくるものに,√Z2u(p,s),
それから出ていくものに,√Z2u~(p,s)を対応させる。
陽電子の外線はuの代わりにvを用いるだけの違いである。
Z2は電子波動関数のくり込み定数である。
非連結泡グラフの挿入や,外線の電子線や光子線への自己
エネルギーの挿入は除く。
です,
(84)は,これに由来する波動関数のくり込み定数Z2(μ,e)2
と Properな頂点:Γ(μ,e)λ,Γ(μ,e)5λを伴なう形式です。
既に,通常のベクトルカレントのWard恒等式から,
Z2(μ)Γ(μ)λ,Z2(e)Γ(e)λは有限であることを知って
います。
一方,式(81)によれば,Z2(μ,e)Γ(μ,e)5λ
=γλγ5[1-(3/4)(α0/π)2ln(Λ2/m02)]+α0×(有限値)
+α02×(有限値)+O(α03) .(85)であり,
これは軸性ベクトルの三角グラフの存在のために,νeeと
νμμの散乱への輻射補正が摂動論の4次で発散することを
意味します。
この結果は,μ崩壊やνe+e,νμ+μの散乱への輻射補正
が摂動のあらゆるオーダーで有限である,という事実とは,
際立って対照的になっています。
2つのケース(同値変形であるFielz変換前後の形式)の決定的
な違いは,もちろん,
μ-数(=Nμ+Nνμ)とe-数(=Ne+Nνe)の別々に保存する
ため,,カレント;μ~λ(1-γ5)μと,e~γλ(1-γ5)eとは異なり
カレント:μ~γλ(1-γ5)eは,閉電子ループや閉μ-粒子ル-プ
とcoupleできず,
それ故,面倒な三角グラフは存在しないということです。
νl+lの散乱における輻射補正,に対して,2つの観方を
取ることができます。
1つの観点は,既知のことですが,とにかく,レプトン的
弱い相互作用の局所カレント-カレント理論が正しい
はずがない,ということです。
何故なら,この理論は高エネルギーでユニタリでない
行列要素に導くこと,そして,そのことから高次の弱い
相互作用の効果として,発散する結果を得るからです。
そこで,満足できる弱い相互作用の理論を与えるのために,
式(83):(G/√2){μ~γλ(1-γ5)μνμ~γλ(1-γ5)νμ
+e~γλ(1-γ5)eνe~γλ(1-γ5)νe}
における必要な修正がνll散乱の無限輻射補正の欠陥を
救うことが完全に可能となります。
これは上記の(83)が次式に置き換わるよう有効Lagrangian
の散乱項:νeμ,νμeを導入することができれば可能です。
すなわち,(G/√2){μ~γλ(1-γ5)μ-e~γλ(1-γ5)e}
{νμ~γλ(1-γ5)νμ-νe~γλ(1-γ5)νe}..(86) です。
これは,式(68)での面倒で余計なアノマリー項が,裸の質量m0
には独立であり,それ故,上記(86)においてμ粒子と電子の項
の間で,それらアノマリーが相殺して消えるように作用します。
つまり,軸性カレントの4次元発散のWard恒等式は,
∂λ{μ~γλγ5μ-e~γλγ5e}
=2im0(μ)μ~γ5μ-2im0(e)e~γ5e..(87)
となります。
式(76)~(79)のアノマリーのない場合の論議を
上の(87)に適用すれば,この輻射補正が有限であること
が示されます。
これで何が生じるのか?というと,全νee散乱振幅に
おいて,e-三角グラフとμ-三角グラフが,互いに逆符号
として寄与するため,アノマリーは正規化されて消える
という主張です。
実験的に,νeeの弾性散乱を調べることによって,式(86)
と式(87)を区別して,どちらが現実に近いか?を見ることは
可能です。
しかし,現在の実験の限界上では,なお,結果は(86)と矛盾
しないものですが,非常に限定的になりつつあります。
※(注11-1):現在では,ニュートリノ以外の荷電レプトンは
μ粒子,e(電子)の他に,τ粒子が存在することがわかって
います。
これらの粒子の電荷は,素電荷eを単位として全て(-1)です。
一方,軸性カレントの三角アノマリーは,ループをつくる粒子
の電荷に比例しており,その相殺はレプトンの寄与だけでは
不可能と考えられています。
そこで,ハドロンを構成する3世代のクォークを考慮に入れます。
それは,(u,d)(アップ,ダウン)(c,s)(チャーム,ストレンジ),
(t,b)(トップ,ボトム)です。
これらは,それぞれ,(2/3,-1/3)の電荷を持って います。
そして,現実にはカラー自由度の3があるので,電荷の総和
は(+3)です。
これらに,レプトンの3世代:(e,νe),(μ,νμ) (τ,ντ)
が対応していて,電荷はそれぞれ,(-1,0)で総和は(-3)です。
また,それぞれの粒子には電荷が反対符号の反粒子も存在します。
いずれにしろ.全ての三角グラフのアノマリーの寄与は,
トータルでは,相殺され消えます。
この相殺は,クォークにカラー自由度が無かったり,レプトン
に3世代が無いなら,成立しません。
そして,例えばνee散乱でアノマリーが寄与しない理由は,
その散乱振幅に,摂動の中間状態としてeやνeだけでなく,
あらゆる可能な素粒子の三角ループが介在するFeymanグラフ
の寄与が総和されてゼロになることである,と考えられます。
こうしたことを最初に指摘したのは,確かt'Hooftであった
と記憶しています。
こんなことは,ネットででも,チョッと調べればわかること
でしょうが,最近,歳のせいか,認知症や老人性のウツ病のケ
があるのか?ブログ原稿書きのときには,自分の参照中の
ノート以外の記憶にあることを調べるのも億劫で面倒くさい。
という心境です。もう先は長くないかも??
(注11-1終わり※)
まだ,いつもより短かいですが,次の項目:
§3.3 Connection between γ5 -Invaliance and a Conserved
Axial-vectot current in massless Electrodynamics
(γ5 –不変性と質量ゼロの電磁力学における軸性ベクトル
カレントの保存の間の関係)
は,これまでとは,一見,全く別とも思われる論題を考察する
ので今日はここで終わります。
次回は§3.3に入る予定です。
(参考文献):Lectures on Elementary Particles and
Quantum Field Theory
(1970
Brandeis University SummerInstitute in
Theoretical Physics) VolumeⅠ
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