摂動論のアノマリー(12)
摂動論のアノマリーの続きです。
※余談ですが,私の現在の満身創痍状態は,70近い高齢に
加え30年前から持病の糖尿病で今は血管がボロボロに
なってるせいだと思います。
最近,健康番組を見ていると,糖尿病は身体にとっては諸悪
の根源で,認知症の引き金になりやすく,また,高齢とともに
海馬が委縮して,記憶もまばらになっていくといわれますが,
なぜか私は幸か不幸か,脳だけは以前に増してよく働いて
くれてるようです。
線香花火が落ちて消える直前の輝きなのか?,はたまた
狂い咲きなのか?三振前の大当たりなのか? という
ところでしょうが。。。
ただし,残念なことに身体は動きませんし,さびしい
ことに五欲,煩悩は弱いです。※)
§3.3 Connection between γ5 -Invaliance and a Conserved
Axialvectot current in massless Electrodynamics
(γ5 –不変性と質量ゼロの電磁力学における軸性ベクトル
カレントの保存の間の関係)
さて,質量がゼロのスピノル電磁力学,すなわち,Lagrangian密度
が,L(x)=ψ~(x)(iγ∇―m0)ψ(x)-(1//4Fμν(x)Fμν(x)
-e0Aμ(x)...(1) で与えられる標準的なQEDで,
荷電Fermion の質量がゼロ;m0=0と仮定したケースにおいて,
軸性ベクトルの摂動三角グラフの効果を考察します。
この考察では,三角グラフがLagrangianの対称性と
保存カレ)ントの間の通常の理論的関係を破るという結論
に導く,ことが見出されます。
以前の議論におけるように,特異な現象がないとき成立する
標準理論から始めます。
{Φ(x)}={Φ1(x),φ2(x),..}と∂λΦ}を,それぞれ,
正準場と,その時空座標による微分係数とし,場の理論
が次のLagrangian密度で記述されるとします。
すなわち,L(x)=L({Φ},{∂λΦ}) .(88) です。
Lの不変性と保存カレントの関係を確立するために,
場に対して,次の無限小局所ゲージ変換を施します。
パラメータ:v(x)をv(x)~ 0(無限小)として,
Φj(x) → Φj(x)+v(x)Gj({Φ(x)})..(89)です。
これに対応するカレント:jαをjα=-δL/δ(∂αv) (90)
で定義します。
このとき,場の運動を記述するEuler-Lagrange方程式
を用いることによって.このカレントの4次元発散が,
∂αjα=-δL/δv ..(91) で与えられることが
容易にわかります。
※(注12-1): (91)式を証明します。
まず,Φj'=Φj+v(x)Gj({Φ})と置いて,
Φjの変分をδΦj=Φj'-Φj=v(x)Gj({Φ})
と書きます。
すると,∂λΦj'=∂λΦj+∂λV・Gj+V・∂λGj
より,δ(∂λΦj)=∂λ(δΦj)=∂λV・Gj+V・∂λGj
です。
それ故,Φjの変分に対するLの変分は,
δL=L({Φ’},{∂λΦ’})-L({Φ},{∂λΦ})
=(∂L/∂Φj)δΦj+{∂L/∂(∂λΦ)}δ(∂λΦj)
=(∂L/∂Φj)v・Gj({Φ})
+{∂L/∂(∂λΦ)}(∂λv・Gj+v・∂λGj)
で与えられます。
一方,δL/δV={L(v+δv)-L(v)}/δv
=(∂L/∂Φj)Gj+{∂L/∂(∂λΦj)}(∂λGj)
です。
そして,カレントの定義により,
jα=-δL/δ(∂αv)=-{∂L/∂(∂αΦ)}Gjですから,
∂αjα=-∂α {∂L/∂(∂αΦ)}Gj-{∂L/∂(∂αΦ)}∂αGj
です。
ここで.Euler-Lagrange方程式:
∂α{∂L/∂(∂αΦj)}-(∂L/∂Φj)=0 を用いると,
∂αjα=-(∂L/∂Φ)Gj-{∂L/∂(∂αΦj)}∂αGj
を得ます。
この最右辺は,確かに,上記の(-δL/δv)に一致
していることがわかります。 (注12-1終わり※)
特に(89):Φj(x) → Φj(x)+v(x)Gj({Φ(x)})
のゲージ変換でv(x)=v(一定)であるとき∂αv=0
で,これは局所ゲージ変換(local gauge transformation)
ではなく大域ゲージ変換(global transformation)です。
特に,大域ゲージ変換に対してLが不変で,δL/δv=0
のとき,カレントは,jα=-{∂L/∂(∂αΦ)}Gjで与えられ
∂αjα=0 が成立します。(Noetherの定理)
そこで,Lagrangiian:Lを不変に保つ任意の連続変換に,
1つの保存カレントが対応します。
そして,容易に証明できるように,カレントjαと関わる
チャージをQ(t)=∫d3xj0(x,t)とすると,
これは次の性質を持ちます。
すなわち,dQ(t)/dt=0。。(92a),および,
[Q,Φj(x)]=iGj(x)..(92b) です。
チャージ:Qは運動の恒量(constant)です。
※(注12-2) ∂αjα=0 は,3次元空間のベクトル解析表現
では,謂わゆる連続の方程式;∂j0/∂t+divj=0 を意味
します。
故に,dQ/dt=(d/dt)∫d3xj0(x,t)
=-∫d3x(divj)=-∫S=∞jdS=0 が
得られます。
次に,j0=-{∂L/∂(∂0Φj)}Gjですが,
正準理論では,πj=∂L/∂(∂0Φ)jはΦjの
正準共役運動量(Canonical conjugate momentum)
であり,正準量子化は,これらが同時刻正準交換関係:
[πj(x,t),Φk(y,t)]=-iδjkδ3(x-y)
を満たすという,量子条件を課すことでなされます。
そこで,j0(x)=-πj(x)Gj(x)ですから,
[j0(x,t),Φj(y,t)]=iGj(x,t)δ3(x-y)
です。
したがって,
[Q,Φj(y,t)]=∫d3x[j0(x,t),Φj(y,t)]
=iGj(y,t), つまり ,[Q,Φj(x)]=iGj(x)
が成立します。 (注12-2終わり※)
※(注12-3):変換の無限小パラメータ:vが一定の大域
ゲージ変換は第1種ゲージ変換,vが時空点xの関数である
v=v(x)のときの局所ゲージ変換は第2種ゲージ変換と
呼ばれる,ことがあります。
普通に,ゲ^―ジ変換に対して不変というと第2種ゲージ変換
に対する不変性を指すことが多く,この変換に対してLが
不変なとき,系はゲージ対称性を持つといいます。
しかし,Noether定理が成立してカレントの保存則を得る
には,第1種ゲージ変換に対してLが不変であれば十分です。
もっとも,第2種ゲージ変換に対してLが不変であれば,
特別な場合として,第1種ゲージ変換に対してLが不変な
ことは明らかですから,第2種ゲージ変換に対してLが不変
なら,同じカレント:jについて保存則が成立し運動の恒量
としてチャージ:Qが存在します。
しかし,逆は成立しません。第1種ゲージ変換に対して系が
不変(Lが不変)であるとしても,第2種ゲージ変換に対して
系が不変であるとは限りません。
例えば,大域的な座標原点の平行移動(時空点の平行移動)
に対して系が不変(Lが不変)な場合,保存チャージとして
場の4元運動量;Pμ=(P0,P)を得ます。
しかし,一般に,局所的平行移動については,この系は不変性
を保てないではない,ことが多いです。
通常は,一様な平行移動不変性=空間の一様性(=座標原点
の位置の取り方の自由)から運動の恒量として運動量;Pμ
が,回転(ブースト)対称性=空間の等方性(座標軸の向き
の取り方の自由)から角運動量:Mμνが得られます。
しかし,余談ですが,巨大個数の気体分子が容器の中に密閉
されていて.内部で衝突を繰り返して熱平衡にあるような
熱力学,統計力学の対象となるような系では,空間の一様性
も等方性も満たされず,ただ.時間の一様性のみ存在して,
運動の恒量としては,系のエネルギ-:E=P0だけが存在
します。
そこで,統計力学を規定するのには,系の運動量Pも角運動量
Mも寄与せず,関係するのはEのみです。
(注12-3終わり※)
さて,本文の最後の式;[Q,Φj(x)]=iGj(x)..(92b)
はQが,v=一定のゲ-ジ変換の生成子(generator)をなす
ことを示しています。
※(注12-4):任意の状態ベクトル:|α>に対して,ゲ-ジ変換
を与えるユニタリ変換をパラメータ:vの関数としてU(v)
とすると,この変換は,状態空間では,|α> → U(v)|α>
なることを意味します。
任意の|α>,|β>に対して,場Φjの行列要素は
<α|Φj(x)|β> → <α|U+(v)Φj(x)U(v)|β>
と変換されます。
これが,古典物理との対応原理を満たします。
すなわち,vが無限小のとき,
<α|Φj(x)|β> → <α|U+(v)Φj(x)U(v)|β>
=<α|Φj(x)+vGj({Φ(x)})|β> です。
|α>,|β>は任意なので,
U+(v)Φj(x)U(v)=Φj(x)+vGj({Φ(x)})ですが,
[Q,Φj(x)]=iGj(x)を代入すると,
Φj(x)-iv[Q,Φj(x)]=(1-ivQ)Φj(x)(1+ivQ)
です。
したがって,v~ 0では,U(v)=1+ivQ ~ exp(ivQ)
です。vが無限小でないときは,U(v)=exp(ivQ)で,
このQを数学では,Lie群の元であるユニタリ変換:U(v)
のLie代数といい,物理学では,ゲージ変換の生成子
(generator)といいます。
U(v)がユニタリ(Unitary)演算子:,
つまり,U+(v)=exp(-ivQ+)=U-1(v)=exp(-ivQ)
なので,Q+=Qとなり,Qはエルミート(Hermite)演算子です。
これはQの期待値が実数であることを意味します。
(注12-4終わり※)
次に,質量ゼロの電磁力学のケースに特殊化し,
変換;(89):Φj(x) → Φj(x)+v(x)Gj({Φ(x)})
が,スピノル場:ψ(x)に対するゲージ変換;
ψ(x) → {1+iγ5v(x)}ψ(x)>..(93)である場合
を考えます。
この変換はQEDのLagrangian(1):
L(x)=ψ~(x)(iγ∇―m0)ψ(x)-(1//4Fμν(x)Fμν(x)
-e0Aμ(x)で,m0=0としたものを,vが定数のとき不変に
保ちます。
そこでカレントを計算すると,jα=-δL/δ(∂αv)
=-{∂L/∂(∂αψ)}γ5ψ=ψ~γαγ5ψ..(94)です。
これは,既に論じてきた軸性ベクトルカレント:j5αに
一致するので,式:(68):∂μj5μ(x)=2im0j5(x)
+{α0/(4π)}Fξσ(x)Fτρ(x)εξστρ に従えば,
∂αjα={α0/(4π)}Fξσ(x)Fτρ(x)εξστρ..(95)
を満たすはずです。
それ故,正準定式化と運動方程式を用いて得られた式(91):
∂αjα=-δL/δv が,この場合には破れています。
つまり,軸性ベクトルの三角グラフの存在のために,たとえ
質量ゼロの電磁力学のLagrangian(そして摂動論のあらゆる
次数)が不変であろうと,γ5-変換(=Chiral変換)と関わる
軸性ベクトルカレントは保存しないことがわかります。
しかしながら,γ5-変換に対応するNoetherの保存カレント
が存在しないときでさえ,なお,(92):dQ/dt=0,
[Q,Φj(x)]=iGj(x)の性質を持つ,変換の生成子:
Q=Q~5が存在する,ことがわかります。
これは興味深いことです。
このことを見るために,修正カレント:j~5μを次のように
定義します。
すなわち,
j~5μ(x)=j5μ(x)-(α0/π)Aξ(∂ρAτ)εξμτρ.(96)
です。
これは,
(95):∂μj5μ={α0/(4π)}Fξσ(x)Fτρ(x)εξστρ
を用いると,保存条件:∂μj~5μ(x)=0..(97)
を満足することがわかります。
このj~5μ(x)は保存しますが,これは明らかに電磁場
のゲージの取り方に依存するため,観測可能なカレント
演算子ではありません。
(※電場,磁場など,電磁力学で実際に観測される量は
ゲージ不変であることが必要です。※)
※(注12-5)
j~5μ(x)=j5μ(x)-(α0/π)Aξ(∂ρAτ)εξμτρ
なので,ゲージ変換:
Aξ(x) → A'ξ(x)=Aξ(x)+∂ξΛ,
かつ,ψ(x) → ψ'(x)=exp{ie0Λ(x)}ψ(x)
を考えると,
まず,ψ~(x) → ψ'~(x)=ψ~(x)exp{ie0Λ(x)}
です。
それ故,ψ~γμγ5ψ → ψ'~γμγ5ψ'= ψ~γμγ5ψ,
つまり,j5μ ← j'5μ=j5μですから,j5μはゲージ不変
です。また,よく知られているように,場の強さは,
Fτρ → F'τρ=Fτρを満たします。
しかし,Aξ(∂ρAτ)εξμτρ=(1/2)AξFτρεξμτρですが
AξFτρ → A'ξFτρ≠AξFτρであり,これはゲージ不変
ではありません。 (注12-5終わり※)
それでも,j~5μに関連するチャージを,
Q~5=∫d3xj~50(x)とすると,これは,
Q~5=∫d3x{ψ+γ5ψ+(α0/π)A(∇×A)}
と書けて,ゲージ不変であり,それ故観測可能量(observable)
です。
※(注12-6):j~50=ψ+γ5ψ-(α0/π)Aξ(∂ρAτ)εξ0τρ
=ψ+γ5ψ+(α0/π)εijkAi(∂jAk)
=ψ+γ5ψ+(α0/π)A(∇×A) です。
そして,B=∇×Aは磁場であり明らかにゲージ不変です。
また,A → A+∇Λに対して,A(∇×A)=AB
→ (A+∇Λ)B=AB+(∇Λ)B=AB+∇(ΛB)-∇B
ですが,∇B=0,かつ,∫d3x∇(ΛB)=0 より
∫d3xA(∇×A)はゲージ不変です。
(注12-6終わり※)
Q~5については,(97):∂μj~5μ(x)=0.により
dQ~5/dt=0 が成立し,また,生成子の条件:[
Q~5,ψ(x)]=-γ5ψ(x) が満たされます。
これは,スピノル場の同時刻正準反交換関係:
{ψα(x,t),ψ+β(y,t)}+=δαβδ3(x-y)
を用いて容易にチェックできます。
切りがいいし,今日はここで終わります。
次回は,第3章の最終節である,§3.4 Low Energy Theorem
for 2im0j5(x)(低エネルギー定理)に入ります。
(参考文献):Lectures on Elementary Particles and
Quantum Field Theory
(1970 Brandeis University SummerInstitute in
Theoretical Physics) VolumeⅠ
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