摂動論のアノマリー(13)
摂動論のアノマリーの続きです。
§3.4
Low Energy Theorem for 2im0j5(x)
(2im0j5(x)に対する低エネルギー定理)
本章の最後に,アノマリ-のある軸性ベクトル発散の式
(68):∂μj5μ(x)=2im0j5
+{α0/(4π)}Fξσ(x)Fτρ(x)εξστρ は,
真空から2光子の,素朴な発散:2im0j5の行列要素に
対する興味深い「低エネルギー定理」に誘導すること
を示します。
まず,第1に,上の式(68)は輻射補正のない三角グラフを
想定し,下図に示すようなグラフの寄与を考慮せずに導出
されたこと,に着目します。
次数を勘定すると,これらのグラフもまた外線の本数
は同じで,単純な最低次の三角グラフと同じく.運動量
の1次で発散します。
(※ ↑ 部分グラフの自己エネルギー部分をくりこんて,
m0 → m,e0 → eなどとした後も全体の三角グラフ
の1次発散は残ります。)
それ故,これら自身も軸性ベクトルカレントの発散に
おけるアノマリーに寄与します。
そうしたアノマリー項は,§2.2で,可能な引き算項に
ついて挙げた6つの条件を満足するLorentz擬スカラー
でなければなりません。
そこで,これらも式(68)における右辺の最低次の三角
アノマリーと同一の形を持つ必要があることが容易に
わかる,と思います。
そこで式(68)を次式に置き換えることによって三角
グラフの輻射補正に由来する三角アノマリーの可能性
を考慮に入れます。
すなわち,∂μj5μ(x)=2im0j5
+{α0/(4π)}(1+C)Fξσ(x)Fτρ(x)εξστρ (100)
とします。
以下,上記の式(100)を「低エネルギー定理」の基礎となる
式として用います。
先に進むため,真空:|0>と2光子状態:
|γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)>による(68)の行列要素を取ります。
2光子のKetベクトル:<γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)|の持つ
4元運動量k1,k2と偏光:ε1+,ε2+から形成できる唯一
の擬スカラーはk1ξk2τε1σ*ε2ρ*εξτσρですから,
(68),または(100)の各項の行列要素は全て,この表現形
を因子として含むはずです。
そこで,<γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)|∂μj5μ|0>
=(4k10k20)-1/2k1ξk2τε1σ*ε2ρ*εξτσρF(k1,k2) (101a)
<γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)|2im0j5|0>
=(4k10k20)-1/2k1ξk2τε1σ*ε2ρ*εξτσρG(k1,k2) (101b)
<γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)|{α0/(4π)}FξσFτρεξστρ|0>
=(4k10k20)-1/2k1ξk2τε1σ*ε2ρ*εξτσρH(k1,k2).(101c)
と書くことができます。
ここで,F(k1,k2),G(k1,k2),H(k1,k2)はスカラー:
(k1)2,(k2)2,(k1k2)の関数ですが,光子は共に実光子
なので,(k1)2=(k2)2=0であり,結局,(k1k2)のみの
関数です。
等式(100)の行列要素としての形は,F,G,Hによって
次のように単純な等式に書き直せます。
F(k1,k2)=G(k1,k2)+(1+C)Hk1,k2) .(102)
です。
この式(102)から[]亭エネルギー定理」を導出するため.,
次に定義する行列要素:
Mμ=(4k10k20)-1/2<γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)|j5μ|0>
についての注目すべき運動学的性質を用います。
前節で着目したように,Lorentz不変性,ゲージ不変性,
Bose統計の要請は,Mμが次の一般形をとることを要求
します。
これについては「摂動論のアノマリー(6)」でのRσρμ
についての考察を参照します。
以下,煩雑さを避けるため,Mμを表現する係数を前に
Rσρμを表わすのに用いたのと,全く同じAj(1,2、6)
で表わしますが,ここでは当然,前とは異なるものを
意味します。
Mμ=ε1σ*ε2ρ*[A1k1τετσρμ+A2k2τετσρμ
+A3k1ρk1ξk2τεξτσμ+A4k2ρk1ξk2τεξτσμ
+A4k2ρk1ξk2τεξτσμ+A5k1σk1ξk2τεξτρμ
+A6k2σk1ξk2τεξτρμ] .(103)
と書くことができて
A1=(k1k2)A3+(k2)2A4,
A2=(k1)2A5+(k1k2)A6 であり,
A3(k1,k2)=-A6(k2,k1),
A4(k1,k2)=-A5(k2,k1) ,.(104)
です。
軸性カレントの発散の行列要素は,(k1+k2)μMμに
比例します。
ここで6つの4元ベクトル:a,b,c,d,e,fによって
満足される恒等式を用います。
すなわち,(af)|bcde|+(bf)|cdea|
+(cf)|deab|+(df)|eabc|
+(ef)|abcd|=0 .(105) です。
ただし,(af)=a・f(aとfのスカラー積) で
あり,|abcd|=aξbτcσdηεξτση etc.
です。
※注13-1)
(105)を証明します。
まず,|abcd|=aξbτcσdρεξτσρ etc.は
明らかに4元ベクト:a,b,c,dを列ベクトルとする
4×4行列の行列式に等しいです。
さらに,a,b,c,d,eを列ベクトルとする4×5行列
に,1行(aμ,bμ,cμ,dμ,eμ)を上に追加して5×5行列
をつくり,その行列式を展開すると,
aμ|bcde|+bμ|cdea|+cμ|deab|
+dμ|eabc|+eμ|abcd|を得ます。
この展開前の5×5行列式は.μが,0,1,2,3のどれでも
行が一致するので,ゼロです。
そこで両辺にfμを掛けてμで総和縮約すれば,
(af)|bcde|+(bf)|cdea|+(cf)|deab|
+(df)|eabc|+(ef)|abcd|=0
が得られます。 (注13-1終わり※),
さて,(af)|bcde|+(bf)|cdea|
+(cf)|deab|+(df)|eabc|
+(ef)|abcd|=0 においてa=f=k1,b=k2,
c=k1+k2.d=ε1*,e=ε2*と置くことにより,
(k1+k2)μMμ
=(A3-A6)(k1k2)k1ξk2τε1*σε2*ρεξτσρ(106)
を得ます。(※ここは本文をそのまま直訳しただけです。)
※(注13-2):上の式(106)を証明します。
(103)のMμを表わす式の両辺に(k1+k2)μを掛けて,
実光子条件:(k1)2=(k1)2=0, および,光子の横波条件:
k1ε1*=k2ε2*=0 を適用します。
このとき,例えばk1τk1σετσρμのように,ετσρμに
同じk1が2個以上掛かった因子などはゼロと消えるため,
(k1+k2)μMμ
=(k1+k2)μ[ε1σ*ε2ρ*{A1k1τετσρμ
+A2k2τετσρμ+A3k1ρk1ξk2τεξτσμ
+A4k2ρk1ξk2τεξτσμ+A4k2ρk1ξk2τεξτσμ
+A5k1σk1ξk2τεξτρμ}]
=A1|k1ε1*ε2*(k1+k2)|+A2|k2ε1*ε2*(k1+k2)|
=A1|k1ε1*ε2*k2|+A2|k2ε1*ε2*k1|
=(A1-A2)|k1ε1*ε2*k2| となります。
そして,A1=(k1k2)A3+(k2)2A4=(k1k2)A3,
A2=(k1)2A5+(k1k2)A6=(k1k2)A6 ですから
(k1+k2)μMμ=(A3-A6) (k1k2)|k1ε1*ε2*k2|
を得ます。
そして,|k1ε1*ε2*k2|=ε1τ*ε2σ*k1ξk2ρεξτσρ
=ε1τ*ε2σ*k1ξk2ρεξτσρ
=k1ξk2τε1*σε2*ρεξσρτ
=k1ξk2τε1*σε2*ρεξτσρですから,結局,
式(106)が得られました。
どうも,本文に反して(106)を証明するだけなら,恒等式
(105)を使う必要はなかったようです。
しかし,ちなみに,一応,a=f=k1b=k2,
c=k1+k2.d=ε1*,e=ε2*を式(105)に代入して
みると.(k1)2|k2(k1+k2)ε1*ε2*|
+(k2k1)|(k1+k2)ε1*ε2*k1|
+{(k1+k2)k1}|ε2*ε1*k1k2|
+(ε1*k1*)|ε2*k1k2(k1+k2)|
+(ε2*k1)|k1k2(k1+k2)ε1*|=0
です。
(k1)2=(k1)2=0, k1ε1*=k2ε2*=0 を用いると
(k2k1)(|k2ε1*ε2*k1|+|k2ε1*ε2*k1|
+|ε2*ε1*k1k2|)=0 です。
つまり,|k2ε1*ε2*k1|+|k2ε1*ε2*k1|
+|ε2*ε1*k1k2|を得ます。 (注13-2終わり※)
さて,軸性ベクトルj5μの(真空 → 2光子)の
行列要素:Mμは,
Mμ=(4k10k20)-1/2<γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)|j5μ|0>
と定義されているので,
たった今証明した式(106): (k1+k2)μMμ
=(A3-A6)(k1k2)k1ξk2τε1*σε2*ρεξτσρ
は,(k1+k2)μ<γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)|j5μ|0>
=(A3-A6)(k1k2)k1ξk2τε1*σε2*ρεξτσρ
を意味します。
一方,式(101a):<γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)|∂μj5μ|0>
=(4k10k20)-1/2k1ξk2τε1σ*ε2ρ*εξτσρF(k1,k2)
の左辺:<γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)|∂μj5μ|0>は,
明らかに,上記の,
(k1+k2)μ<γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)|j5μ|0>
の定数倍です。
つまり,
(4k10k20)-1/2k1ξk2τε1σ*ε2ρ*εξτσρF(k1,k2)
∝(A3-A6)(k1k2)k1ξk2τε1*σε2*ρεξτσρ
です。
そして, F(k1,k2)は(k1k2)のみの関数なので,
これをF(k1k2)と書けば,F(k1k2) ∝ (k1k2)
と結論されます。
故に,F(0)=0..(108) です。
これは,素朴な発散の(真空 → 2光子)の行列要素:
(101b): <γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)|2im0j5|0>
=(4k10k20)-1/2k1ξk2τε1σ*ε2ρ*εξτσρG(k1,k2)
のG(k1,k2)を,
演算子:{α0/(4π)}FξσFτρεξστρの行列要素,
つまり,(101c):
<γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)|{α0/(4π)}FξσFτρεξστρ|0>
=(4k10k20)-1/2k1ξk2τε1σ*ε2ρ*εξτσρH(k1,k2)
のH(k1,k2)に関係付ける「低エネルギー定理」
を与えます。
すなわち,先の式(102):
F(k1,k2)=G(k1,k2)+(1+C)Hk1,k2)
が成立しますが,これを,
F(k1k2)=G(k1k2)+(1+C)Hk1k2)
と書けば,0=F(0)=G(0)+(1+C)H(0)
が得られます。
したがって,G(0)=-(1+C)H(0) ..(109) です。
摂動論のゼロでない最低次では,Cは無視されます。
(※何故ならCは三角グラフの高次補正の輻射補正係数です。)
H(0)は「摂動論のアノマリー(8)」で与えた,j5μ,0j5,および
{α0/(4π)}FξσFτρεξστρに対するFeynmanルール:
j5μ(x) p←p' ⇔ γμγ5
j5(x) p←p' ⇔ γ5
{α0/(4π)}FξσFτρεξστρ k1,σ←k2,ρ
⇔ (-2α0/π)k1ξk2τεξστρ
から評価することができて,
H(0)=2α0/πです。故にG(0)=-2α0/π..(110)
です。
※(注13-3:何故なら,k1,k2→ 0 の低エネルギー2光子
の極限で上記のFeynmanルールから,
<γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)|{α0/(4π)}FξσFτρεξστρ|0>
=(4k10k20)-1/2(-2α0/π)k1ξk2τεξστρ
=(4k10k20)-1/2k1ξk2τε1σ*ε2ρ*εξτσρH(0)
と掛けるので,H(0)=2α0/π を得ます。
そして,G(0)=-(1+C)H(0)であり,k1,k2→ 0
の低エネルギー2光子の極限では,C=0 ですから,
G(0)=-2α0/π です。 (注13-3終わり※)
G(0)に対するこの結果は,もちろん,大した面倒も
なく,直接,式(61):Rσρ=k1ξk2τεξτσρB1,
B1,=8π2m0I00(k1,k2) に与えられたGに対する
最低次の表現から導出できます。
すなわち,G(0)
=[iε1*σε2*ρ(-ie02)(2π)-4(2m0Rσρ)
/k1ξk2τε1*σε2*ρεξτσρ]k1,k2→ 0
=e02(2π)-4(2m0B1) k1,k2→ 0
=-e02/(2π2)=-2α0/π.. (111)
となることがわかります。
※(注13-4):何故なら,
<γ(k1,ε1)γ(k2,ε2)|2im0j5|0>
=(4k10k20)-1/2k1ξk2τε1σ*ε2ρ*εξτσρG(k1k2)
は,k1,k2→ 0 の低エネルギー極限では,
この最低次の寄与の表現:
(4k10k20)-1/2iε1σ*ε2ρ*(-ie02)(2π)-4(2m0Rσρ)
に等しいからです。 (注13-4終わり※)
しかしながら,次節で詳細に見るように,「低エネルギー定理」
の本当の重要性は,G(0)に対する式(110)は.あらゆる輻射補正
を注意深く考慮に入れても,なお",正確に正しい"ということ
です。(※ただし,G(0)=-2α0/πではなくG(0)=-2α/π
が正しいのですが。。)
これで第3章が終わったので,今日はここまでです。
参照ノートの日付は1995年1/26(水)です。2/1の私の
45歳の誕生日直前です。
お金になる研究者などの仕事のためとかならともかく,
もっと人生イロイロあるのに,いい年をして何を真面目
に勉強してたんだか? 。まったく。。。
(※ 柔肌の熱き血潮に触れも見で,さみしからずや,
道を説く君(与謝野晶子)。。。)
さて,次回は,第4章,Absence of
Radiative Corrections
(輻射補正の欠如)に入る予定です。
(参考文献):Lectures
on Elementary Particles and
Quantum Field Theory
(1970) Brandeis University SummerInstitute in
Theoretical Physics) VolumeⅠ
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