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2017年7月20日 (木)

摂動論のアノマリー(14)

  摂動論のアノマリーの続きです。
 

4. Absence of Radiative Correction 

(輻射補正の欠如).

今からは,前章-前節の最後で持ち上がった問題: 

「三角グラフヘの輻射補正はアノマリーのある

軸性ベクトルの発散方程式を,修正させるか否か?」 

ということを取り扱います。

   
すなわち,.(100):μ5μ()2i05 

{α0/(4π)}(1+C)ξσ()τρ()εξστρ  

における定数Cの値は何か? 

   そして式(110):(0)2α0/π.
および,(0)=-2α0/π

の「低エネルギー定理」は,どのように修正を受けるか?

ということを論じます。

   
そして,結局,C=0 であり,(110)は摂動論のあらゆる 

オーダーで正確である,という著しい結果を見出します。
 

この結論は,基本的な三角グラフへの輻射補正は,

少なくとも5つの軸性頂点を持つ軸性ベクトルループ

を含み,それは最低次の軸性ベクトルの三角グラフに類似

せず,通常の,アノマリーのない軸性ベクトルWard恒等式

を真に満足する,ということに気付くことによって発見的

に理解できます。
 

そこで,仮想光子の運動量が固定されているとき,複雑な

輻射補正のグラフは,発散アノマリーを持ちません。
 

仮想光子の4元運動量は,基本的にこれらWard恒等式の

両辺にパラメータとして現われるので,仮想光子積分が,

あまりにもひどい発散をしない限り,Ward恒等式はこの

積分が実行された後でさえ成立し続けます。
 

本章の目的は,この発見的論旨を,より詳細な計算で

裏付け,三角グラフの輻射補正における通常のくり込み

可能な無限大によって何の問題も生じない,ことを示す

ことです。
 

§4.1.General Augument(一般的論旨)
 

最低次のアノマリーを持つ,軸性ベクトルの発散の式(68): 

μ5μ()2i05 

{α0/(4π)}ξσ()τρ()εξστρ  

および, 

「低エネルギ0定理」(110):

(0)2α0/π,(0)=-2α0/π は厳密に

正しいことを,以下に示します。

   
すなわち,これらは摂動論の,最低次だけでなく任意

のオーダーまで正しい式であること,が示されます。

一般的議論から始めます。

基本的な考え方は次の通りです。
 

前章で見たように掛け算因子:Z2(これは(68)右辺の素朴な

発散項の行列要素を有限にするくりこみ定数),(68)左辺

の軸性ベクトルカレントの行列要素からは,

発散を除去できません。
 

そこで,(68)の全ての項を同時的に有限にする単純な再計量 

というものは存在しません。

  
それ故,くり込まれていない(故に発散する)場と質量,

結合定数を含んではいても,(68)を直接,扱うのが最も

簡単です。
 

これらの発散量の道具を,well-defined(無矛盾的定義)

にするため,質量:Λの光子のregulator場(正規子の場)

を導入することによって,QEDの切断版をつくります。
 

切断処法は,通常のくりこみプログラムが実行される

ことを許します。

  
電子の裸の質量:m0と波動関数のくり込み定数:Z2,

および,軸性ベクトル頂点のくり込み定数;,

くり込まれた電荷と質量,および,切断Λの確立した

関数となります。
 

切断の場の理論において,くり込まれていない量に

対する(68)の正当性を証明するのは直線的で簡単

です。
 

それから,なお,切断が存在するときの行列要素:

2γ|205|0に対する「低エネルギー定理」を

導出し,最後に素朴な発散のくり込まれた行列要素に

対する「低エネルギー定理」を得るために切断Λを

無限大に近づけます。
 

さて,第1章で述べたQEDの通常のFeynmanルールを修正

することによって,切断を導入します。
 

新しいルールは,次のように読めます。
 

()運動量がpの電子内線に対して因子:

i(-m0iε)-1付与し,各頂点には,(i0γμ)

を付与する。

  
運動量がqの各光子内線に対しては,通常付与する

伝播関数:(iμν)/(2iε),切断regulator

の寄与を含めたもの;:

(iμν){1/(2iε)1/(2―Λ2iε)} 

(iμν)(-Λ2)/{(2iε)(2―Λ2iε)}..(112) 

で置き換える。(光子伝播関数の正規化)
 

()下図の2頂点の真空偏極(vaccum polarization)ループ

対する寄与を次式で与える。

すなわち,Πμν(2)()(i)∫d4(2π)-4 

[r|γμ(-m0iε)-1γν(-m0iε)-1}]

(113) です。
 

このΠμν(2)()が出現すれば,いつでもゲージ不変の

引き算項を用いることができます。

  すなわち,
 

Πμν(2)()=(-q2μνqμqν){Π(2)(2)-Π(2)(0)}

(114) です。
 

(14-1:上記の式(114)の説明です。

  以前,既に「摂動論のアノマリ-(1)」で詳述した
ように,

真空偏極の2次の固有グラフの寄与;Π(2)μν()を単に

全てのオーダーの寄与を示すのと同じ記号でΠμν()

と書けば,ゲージ不変性条件により,qμΠμν()0,

かつ,νΠμν()0 です。
 

それ故,Πμν()(μqν―q2μν)Π(2) 
  と書けます。
 Πμν()は2次発散しますがΠ(2)

高々,対数発散です。
,

光子伝播関数;iFμν()(iμν/2)の内線に

真空偏極グラフを挿入したあらゆるオーダーの寄与を

総和した級数和が,真の伝播関数: iF'μν()である

というのを図示すれば,

ですが,これの自己エネルギー固有部分を2次の真空

偏極の寄与.Πμν()}(に限定して,式に書き下せば,
 

iF'μν()(iμν/2)

(i02/2){iΠμν()}(i/2) 

(i02/2){iΠμλ()}(i/2){iΠλν()}

×(i/2)+.... 


  です。
 

実際には寄与しないスカラー光子や縦波光子を無視

すると,F'μν()

(-gμν/2){(02/2)Πμλ()F'λν(),

 
故に, {2μλ-e02Πμλ()}F'λν()

=-gμν です。


  これに,
Πμν()(―q2μν+qμqν)Π(2)

を代入すると,

{2μλ(-q2μλ+qμλ)02Π(2)}

F'λν()=-gμν  です。

   
したがって,

 F'μν()=-gμν/[2{1+e0Π(2)}]

 +qμλ0Π(2)/[2{1+e0Π(2)}]

 F'λν() 

 より.

   
F'μν()=―gμν/[2{1+e0Π(2)}]
  +
(μνに比例する項)という形を得ます。

 
右辺最後の縦波光子項は,計算には寄与しないので

 無視して,

 F'μν()=―gμν/[2{1+e0Π(2)}] 

   です。

   
対数発散するΠ(2)から,2をシフトしたものを

引けば有限になるので,Π~(2)=Π(2)-Π)(0)

 とすれば,これは有限です。

   
くり込んだ光子伝播関数DF'~μν(),右辺で

  Π(2)代わりに,Π~(2)で置き換えたもので

  与えて,F'~μν()

 =―gμν/[2{1+e0Π~(2)}] 

 とします。   (14-1終わり※)
 

 さて,次図のような4つ以上の頂点を持つ真空偏極ループ

  は,カレントの保存条件を課して計算されます。

    既に見たように,さらなる引き算の必要なく,

 これらを有限にできます。

   
(14-2);「摂動論のアノマリー(2)」で示した

  ように.発散次数をDとすると,これは,まず,内線

  により,b=光子の内線の個数,f=電子の内線の

  個数,k=内線運動量積分の個数として,
   
=4k-2b―fと書けます。

   
さらに,この同じDは,n=頂点の個数,B=boson

 外線の個数,F=fermion外線の個数とすると内線

   にも頂点nにも関係なく,D=43/2-B

   となります。これが次数勘定定理でした。

    そ
こで,上の2つのグラフでは,光子外線

 がB=B=6fermion外線は共に,F=0

 なので,D0,D=-2 です。
  
 
いずれにしろ,カレント保存条件(=ゲージ不変性条件)

 から,少なくとも次数2が消費されて減るので実質的な

発散次数をDeffとすると,eff≦D-2となりDは負と

なる のでこれ以上の引き算などの操作はしなくても,

収束します。   (14-2終わり※)

   
()いつものように,各内線積分としてループ変数:lにわたる 

 因子:∫d4(2π)-4が存在し,Fermionループであればさらに,

 因子:(1)が加わる。
 

 ()結合定数:0^,電子の裸の質量:0,波動関数のくり込み

 因子:2,くり込まれた量である電荷:,質量:,および

 切断:Λの関数として固定するため,1章で概説した標準的

 反復くり込み手法を用いる。

  このとき,有限なΛに対しては,:0^,0,2,全て

 有限となる。その理由は,光子伝播関数の正規化(および,

 ゲージ不変性),あらゆる頂点,伝播関数の自己

  エネルギー部分:たとえば次図のようなΠμν(2)()以外

 の全ての光子自己エネルギー部分を有限にするからです。
  そして1
,自己エネルギー:Πμν(2)()2)自身も,既に

 陽な引き算で有限化されています。

    ここで
^0はe0と同じではなく,これらは次式で関係

 付けられていることに注意します。

 0^2=e02/{1+e0Π(0)}..(115) です。

  
つまり,0^,謂わゆる中間くり込み電荷で,裸の電荷

 の最低次の真空偏極とその反復に関わる発散のみを除去

 することにより得られるものです。
 

(14-3): 私の学んだBjorken-DrellVol.1のテキスト 

では発散回避については,最低次の真空偏極のみのくり込み

だけという趣旨で,光子のくり込み定数をZ3として,

中間くり込みでなく最終くり込みの物理的電荷をeが,

 e=Z31/20,という形になるとされていました。

   
光子伝播関数;

F'μν()(-gμν)/[2{1+e0Π(2)}] 

,2 0 では,
 DFμν()
(-gμν)/[2{1+e0Π(0)}] 

=Z3Fμν()=Z3F'~μν()

に一致するというのがZ3の満たすべき条件でした。

 
これは,31/{1+e0Π(0)}を意味します。
 

31/{1+e0Π(0)}=e2/02 より,

2=e02/{1+e0Π(0)}を得ます。

の場合は,このeがe0^と定義されている

ようです。 (14-3終わり※)
 

()各電子外線と各光子外線にそれぞれ,波動関数のくり込み

因子:21/2,31/2=e/0を付与する。
 

このルール:()()の単純なセットは,通常のQEDの行列要素 

を有限にします。
 

これらのルールを,それらに次の正規化されたLagrangian密度 

(Regulated Lagrangian density):に対するFeynmanルール 

であることに着目ことにより,コンパクトに要約できます。
 

すなわち,L()0()() 

0()=ψ~()(iγμμ-m0)ψ()

(1/4)μν()μν()(1/4)μν()Rμν()

(1/2)Λ2μ()Rμ().

()=-e0^ψ~()(iγμψ(){μ()+ARμ()}  

+C(2){μν()+Fμν()}{μν()+FRμν()}(116) 

です。

  ここでAν(),質量:Λの正規化ベクトルメソン場であり
 

μν()=∂νν()-∂μν()は正規化場の強さ

のテンソルです。
 

(14-4):ψに対するEuler-Lagrange方程式, 

μ{/(μψα)}-∂/∂ψα0 から 

μ(ψ~iγμ)α+m0ψ~α

+e^0(ψ~γμ)α{μ()+ARμ()}0 


 整理すると,
 

[iγμμ-m0-e^0γμ{μ()+ARμ()}]

ψ()0 です。
 

一方,λに対するEuler-Lagrange方程式は. 

μ{/(μλ)}-∂/∂Aλ0 

ですが,
 

(1/4)μν()μν() 

(1/4)μανβ()(βα-∂αβ)

(νμ-∂μν)なので,

μ{/(μλ)}=∂μμλ()

です。

 
μμλ()+e^0ψ~()γλψ() 

4(2)μ{μλ()+Fμλ()}0 

ここで,μμλ()=-□Aλ+∂μλμ

を用います。
 

Feynmanゲージ;μμ0,μμ0

を取ると,μμλ()=-□Aλ,また,

μμλ()=-□Aλ 

結局,□Aμ()4(2) {μ()+Aμ()} 

=e^0ψ~()γμψ()=e^0μ() 

を得ます。
 

最後に,Rλに対するEuler-Lagrange方程式,: 

μ{/(μRλ)}-∂/∂ARλ0 より, 

(□+Λ2)μ()4(2) {μ()+Aμ()} 

=e^0ψ~()γμψ()です。

(()1/2(νν)2加えると,付帯条件として

の∂νν0 も得られます。)  (14-4終わり※)

 

(2)∝Π(2)(0)を含む項は,,(114):Πμν(2)() 

(-q2μνqμqν){Π(2)(2)-Π(2)(0)}2

の真空偏極ループの陽な引き算を実行する,対数的に

無限大のcounterter-term(相殺項)です。
 

:(116)は,正規子(regulator)の自由場のLagrangian密度

通常とは反対の符号で構成されています。
 

それ故, 正常共役運動量の儒号が反対で 

[μ(,), ∂Aν(,)/∂t]iμνδ3()

(117)ですが,これはAμに対して与えた正準交換関係:

(5):[μ(,),∂Aν(,)/∂t]

=-iμνδ() とは符号が反対です。
 

伝播関数の符号が交換関係の符号から直接導かれるので, 

正規子の裸の伝播関数は式(112): 

(iμν){1/(2iε)1/(2―Λ2iε)} 

(iμν)(-Λ2)/{(2iε)(2―Λ2iε)}. 

で要求されるように光子の裸の伝播関数と符号が反対

です。
 

我々の切断手法を明白にするには,次には軸性ベクトル

カレント:5μ()と擬スカラーカレント:5()

導入し,それらの性質を調べる段階です。

  まず,1にこうしたカレントの全ての
行列要素が,

切断理論の計算で有限になるかどうか?をチェック 

する必要があります。

 

そして,この疑問の答えはyesです。すなわち,それら

行列要素は有限となり,1つの軸性ベクトル,または

1つの擬スカラーの頂点を含む基礎Fermionループの

全てが,陽な引き算の必要なく光子頂点へゲージ不変性

を課すことによって,有限になる.という事実から,直ち

に導かれます。
 

途中ですが長くなったので.今日はここまで終わります。
 

(参考文献):Lectures on Elementary Particles and

Quantum Field Theory(1970 Brandeis University

SummerInstitute in Theoretical Physics) Volume

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