摂動論のアノマリー(14)
摂動論のアノマリーの続きです。
4. Absence of Radiative Correction
(輻射補正の欠如).
今からは,前章-前節の最後で持ち上がった問題:
「三角グラフヘの輻射補正はアノマリーのある
軸性ベクトルの発散方程式を,修正させるか否か?」
ということを取り扱います。
すなわち,式.(100):∂μj5μ(x)=2im0j5
+{α0/(4π)}(1+C)Fξσ(x)Fτρ(x)εξστρ
における定数Cの値は何か?
そして式(110):H(0)=2α0/π.および,G(0)=-2α0/π
の「低エネルギー定理」は,どのように修正を受けるか?
ということを論じます。
そして,結局,C=0 であり,式(110)は摂動論のあらゆる
オーダーで正確である,という著しい結果を見出します。
この結論は,基本的な三角グラフへの輻射補正は,
少なくとも5つの軸性頂点を持つ軸性ベクトルループ
を含み,それは最低次の軸性ベクトルの三角グラフに類似
せず,通常の,アノマリーのない軸性ベクトルWard恒等式
を真に満足する,ということに気付くことによって発見的
に理解できます。
そこで,仮想光子の運動量が固定されているとき,複雑な
輻射補正のグラフは,発散アノマリーを持ちません。
仮想光子の4元運動量は,基本的にこれらWard恒等式の
両辺にパラメータとして現われるので,仮想光子積分が,
あまりにもひどい発散をしない限り,Ward恒等式はこの
積分が実行された後でさえ成立し続けます。
本章の目的は,この発見的論旨を,より詳細な計算で
裏付け,三角グラフの輻射補正における通常のくり込み
可能な無限大によって何の問題も生じない,ことを示す
ことです。
§4.1.General
Augument(一般的論旨)
最低次のアノマリーを持つ,軸性ベクトルの発散の式(68):
∂μj5μ(x)=2im0j5
+{α0/(4π)}Fξσ(x)Fτρ(x)εξστρ
および,
「低エネルギ0定理」(110):
H(0)=2α0/π,G(0)=-2α0/π は厳密に
正しいことを,以下に示します。
すなわち,これらは摂動論の,最低次だけでなく任意
のオーダーまで正しい式であること,が示されます。
一般的議論から始めます。
基本的な考え方は次の通りです。
前章で見たように掛け算因子:Z2(これは(68)右辺の素朴な
発散項の行列要素を有限にするくりこみ定数)は,式(68)左辺
の軸性ベクトルカレントの行列要素からは,
発散を除去できません。
そこで,(68)の全ての項を同時的に有限にする単純な再計量
というものは存在しません。
それ故,くり込まれていない(故に発散する)場と質量,
結合定数を含んではいても,(68)を直接,扱うのが最も
簡単です。
これらの発散量の道具を,well-defined(無矛盾的定義)
にするため,質量:Λの光子のregulator場(正規子の場)
を導入することによって,QEDの切断版をつくります。
切断処法は,通常のくりこみプログラムが実行される
ことを許します。
電子の裸の質量:m0と波動関数のくり込み定数:Z2,
および,軸性ベクトル頂点のくり込み定数;ZAは,
くり込まれた電荷と質量,および,切断Λの確立した
関数となります。
切断の場の理論において,くり込まれていない量に
対する(68)の正当性を証明するのは直線的で簡単
です。
それから,なお,切断が存在するときの行列要素:
<2γ|2m0j5|0>に対する「低エネルギー定理」を
導出し,最後に素朴な発散のくり込まれた行列要素に
対する「低エネルギー定理」を得るために切断Λを
無限大に近づけます。
さて,第1章で述べたQEDの通常のFeynmanルールを修正
することによって,切断を導入します。
新しいルールは,次のように読めます。
(ⅰ)運動量がpの電子内線に対して因子:
i(p-m0+iε)-1を付与し,各頂点には,(-ie0γμ)
を付与する。
運動量がqの各光子内線に対しては,通常付与する
伝播関数:(-igμν)/(q2+iε)を,切断regulator
の寄与を含めたもの;:
(-igμν){1/(q2+iε)- 1/(q2―Λ2+iε)}
=(-igμν)(-Λ2)/{(q2+iε)(q2―Λ2+iε)}..(112)
で置き換える。(光子伝播関数の正規化)
(ⅱ)下図の2頂点の真空偏極(vaccum polarization)ループ
に対する寄与を次式で与える。
すなわち,Πμν(2)(q)=(-i)∫d4k(2π)-4
[Tr|γμ(p-m0+iε)-1γν(p+q-m0+iε)-1}]
(113) です。
このΠμν(2)(q)が出現すれば,いつでもゲージ不変の
引き算項を用いることができます。
すなわち,
Πμν(2)(q)=(-q2gμν+qμqν){Π(2)(q2)-Π(2)(0)}
(114) です。
※(注14-1:上記の式(114)の説明です。
以前,既に「摂動論のアノマリ-(1)」で詳述したように,
真空偏極の2次の固有グラフの寄与;Π(2)μν(q)を単に
全てのオーダーの寄与を示すのと同じ記号でΠμν(q)
と書けば,ゲージ不変性条件により,qμΠμν(q)=0,
かつ,qνΠμν(q)=0 です。
それ故,Πμν(q)=(qμqν―q2gμν)Π(q2)
と書けます。 Πμν(q)は2次発散しますがΠ(q2)は
高々,対数発散です。
,
光子伝播関数;iDFμν(q)=(-igμν/q2)の内線に
真空偏極グラフを挿入したあらゆるオーダーの寄与を
総和した級数和が,真の伝播関数: iDF'μν(q)である
というのを図示すれば,
ですが,これの自己エネルギー固有部分を2次の真空
偏極の寄与.Πμν(q)}(に限定して,式に書き下せば,
iDF'μν(q)=(-igμν/q2)
+(-ie02/q2){iΠμν(q)}(-i/q2)
+(-ie02/q2){iΠμλ(q)}(-i/q2){iΠλν(q)}
×(-i/q2)+....
です。
実際には寄与しないスカラー光子や縦波光子を無視
すると,DF'μν(q)
=(-gμν/q2)+{(e02/q2)Πμλ(q)DF'λν(q),
故に, {q2gμλ-e02Πμλ(q)}DF'λν(q)
=-gμν です。
これに,Πμν(q)=(―q2gμν+qμqν)Π(q2)
を代入すると,
{q2gμλ-(-q2gμλ+qμqλ)e02Π(q2)}
DF'λν(q)=-gμν です。
したがって,
DF'μν(q)=-gμν/[q2{1+e02Π(q2)}]
+qμqλe02Π(q2)/[q2{1+e02Π(q2)}]
DF'λν(q)
より.
DF'μν(q)=―gμν/[q2{1+e02Π(q2)}]
+(qμqνに比例する項)という形を得ます。
右辺最後の縦波光子項は,計算には寄与しないので
無視して,
DF'μν(q)=―gμν/[q2{1+e02Π(q2)}]
です。
対数発散するΠ(q2)から,q2をシフトしたものを
引けば有限になるので,Π~(q2)=Π(q2)-Π)(0)
とすれば,これは有限です。
くり込んだ光子伝播関数DF'~μν(q)を,右辺で
Π(q2)の代わりに,Π~(q2)で置き換えたもので
与えて,DF'~μν(q)
=―gμν/[q2{1+e02Π~(q2)}]
とします。 (注14-1終わり※)
さて,次図のような4つ以上の頂点を持つ真空偏極ループ
は,カレントの保存条件を課して計算されます。
既に見たように,さらなる引き算の必要なく,
これらを有限にできます。
※(注14-2);「摂動論のアノマリー(2)」で示した
ように.発散次数をDとすると,これは,まず,内線
により,b=光子の内線の個数,f=電子の内線の
個数,k=内線運動量積分の個数として,
D=4k-2b―fと書けます。
さらに,この同じDは,n=頂点の個数,B=boson
外線の個数,F=fermion外線の個数とすると内線
にも頂点nにも関係なく,D=4-3F/2-B
となります。これが次数勘定定理でした。
そこで,上の2つのグラフでは,光子外線
がB=4B=6でfermion外線は共に,F=0
なので,D=0,D=-2 です。
いずれにしろ,カレント保存条件(=ゲージ不変性条件)
から,少なくとも次数2が消費されて減るので実質的な
発散次数をDeffとすると,Deff≦D-2となりDは負と
なる のでこれ以上の引き算などの操作はしなくても,
収束します。 (注14-2終わり※)
(ⅲ)いつものように,各内線積分としてループ変数:lにわたる
因子:∫d4l(2π)-4が存在し,Fermionループであればさらに,
因子:(-1)が加わる。
(ⅳ)結合定数:e0^と,電子の裸の質量:m0,波動関数のくり込み
因子:Z2を,くり込まれた量である電荷:e,質量:m,および
切断:Λの関数として固定するため,第1章で概説した標準的
反復くり込み手法を用いる。
このとき,有限なΛに対しては,量:e0^,m0,Z2は,全て
有限となる。その理由は,光子伝播関数の正規化(および,
ゲージ不変性)が,あらゆる頂点,伝播関数の自己
エネルギー部分:たとえば次図のようなΠμν(2)(q)以外
の全ての光子自己エネルギー部分を有限にするからです。
そして1方,自己エネルギー:Πμν(2)(q)2)自身も,既に
陽な引き算で有限化されています。
ここでe^0はe0と同じではなく,これらは次式で関係
付けられていることに注意します。
e0^2=e02/{1+e02Π(0)}..(115) です。
つまり,e0^は,謂わゆる中間くり込み電荷で,裸の電荷
の最低次の真空偏極とその反復に関わる発散のみを除去
することにより得られるものです。
※(注14-3): 私の学んだBjorken-DrellのVol.1のテキスト
では発散回避については,最低次の真空偏極のみのくり込み
だけという趣旨で,光子のくり込み定数をZ3として,
中間くり込みでなく最終くり込みの物理的電荷をeが,
e=Z31/2e0,という形になるとされていました。
光子伝播関数;
DF'μν(q)=(-gμν)/[q2{1+e02Π(q2)}]
は,q2 → 0 では,
DF’μν(q)=(-gμν)/[q2{1+e02Π(0)}]
=Z3DFμν(q)=Z3DF'~μν(q)
に一致するというのがZ3の満たすべき条件でした。
これは,Z3=1/{1+e02Π(0)}を意味します。
Z3=1/{1+e02Π(0)}=e2/e02 より,
e2=e02/{1+e02Π(0)}を得ます。
今の場合は,このeがe0^と定義されている
ようです。 (注14-3終わり※)
(v)各電子外線と各光子外線にそれぞれ,波動関数のくり込み
因子:Z21/2,Z31/2=e/e0を付与する。
このルール:(ⅰ)~(ⅴ)の単純なセットは,通常のQEDの行列要素
を有限にします。
これらのルールを,それらに次の正規化されたLagrangian密度
(Regulated Lagrangian density):LRに対するFeynmanルール
であることに着目ことにより,コンパクトに要約できます。
すなわち,LR(x)=L0R(x)+LIR(x)
L0R(x)=ψ~(x)(iγμ∂μ-m0)ψ(x)
-(1/4)Fμν(x)Fμν(x)+(1/4)FRμν(x)FRμν(x)
-(1/2)Λ2ARμ(x)ARμ(x).
LIR(x)=-e0^ψ~(x)(iγμψ(x){Aμ(x)+ARμ(x)}
+C(2){Fμν(x)+FRμν(x)}{Fμν(x)+FRμν(x)}(116)
です。
ここでARν(x)は,質量:Λの正規化ベクトルメソン場であり
FRμν(x)=∂νARν(x)-∂μARν(x)は正規化場の強さ
のテンソルです。
※(注14-4):ψに対するEuler-Lagrange方程式,
∂μ{∂LR/∂(∂μψα)}-∂LR/∂ψα=0 から
∂μ(ψ~iγμ)α+m0ψ~α
+e^0(ψ~γμ)α{Aμ(x)+ARμ(x)}=0
整理すると,
[iγμ∂μ-m0-e^0γμ{Aμ(x)+ARμ(x)}]
ψ(x)=0 です。
一方,Aλに対するEuler-Lagrange方程式は.
∂μ{∂LR/∂(∂μAλ)}-∂LR/∂Aλ=0
ですが,
(-1/4)Fμν(x)Fμν(x)
=(-1/4)gμαgνβ(x)(∂βAα-∂αAβ)
(∂νAμ-∂μAν)なので,
∂μ{∂LR/∂(∂μAλ)}=∂μFμλ(x)
です。
∂μFμλ(x)+e^0ψ~(x)γλψ(x)
-4C(2)∂μ{Fμλ(x)+FRμλ(x)}=0
ここで,∂μFμλ(x)=-□Aλ+∂μ∂λAμ
を用います。
Feynmanゲージ;∂μAμ=0,∂μARμ=0
を取ると,∂μFμλ(x)=-□Aλ,また,
∂μFRμλ(x)=-□ARλ
結局,□Aμ(x)-4C(2) □{Aμ(x)+ARμ(x)}
=e^0ψ~(x)γμψ(x)=e^0jμ(x)
を得ます。
最後に,ARλに対するEuler-Lagrange方程式,:
∂μ{∂LR/∂(∂μARλ)}-∂LR/∂ARλ=0 より,
-(□+Λ2)ARμ(x)-4C(2) □{Aμ(x)+ARμ(x)}
=e^0ψ~(x)γμψ(x)です。
(※LR(x)に1/2(∂νARν)2を加えると,付帯条件として
の∂νARν=0 も得られます。) (注14-4終わり※)
C(2)∝Π(2)(0)を含む項は,,式(114):Πμν(2)(q)
=(-q2gμν+qμqν){Π(2)(q2)-Π(2)(0)}の2つ
の真空偏極ループの陽な引き算を実行する,対数的に
無限大のcounterter-term(相殺項)です。
式:(116)は,正規子(regulator)の自由場のLagrangian密度
が通常とは反対の符号で構成されています。
それ故, AR正常共役運動量の儒号が反対で
[ARμ(x,t), ∂ARν(y,t)/∂t]=igμνδ3(x-y)
(117)ですが,これはAμに対して与えた正準交換関係:
(5):[Aμ(x,t),∂Aν(y,t)/∂t]
=-igμνδ3(x-y) とは符号が反対です。
伝播関数の符号が交換関係の符号から直接導かれるので,
正規子の裸の伝播関数は式(112):
(-igμν){1/(q2+iε)- 1/(q2―Λ2+iε)}
=(-igμν)(-Λ2)/{(q2+iε)(q2―Λ2+iε)}.
で要求されるように光子の裸の伝播関数と符号が反対
です。
我々の切断手法を明白にするには,次には軸性ベクトル
カレント:j5μ(x)と擬スカラーカレント:j5(x)を
導入し,それらの性質を調べる段階です。
まず,第1にこうしたカレントの全ての行列要素が,
切断理論の計算で有限になるかどうか?をチェック
する必要があります。
そして,この疑問の答えはyesです。すなわち,それら
行列要素は有限となり,1つの軸性ベクトル,または
1つの擬スカラーの頂点を含む基礎Fermionループの
全てが,陽な引き算の必要なく光子頂点へゲージ不変性
を課すことによって,有限になる.という事実から,直ち
に導かれます。
途中ですが長くなったので.今日はここまで終わります。
(参考文献):Lectures on Elementary Particles and
Quantum Field Theory(1970 Brandeis University
SummerInstitute in Theoretical Physics) VolumeⅠ
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