摂動論のアノマリー(15)
摂動論のアノマリーの続きです。
前回記事の最後では,
我々の切断手法を明白にするには,次には軸性ベクトルカレント
j5μ(x)と擬スカラーカレント:j5(x)を導入し,それらの性質
を調べる段階です。
まず,第1にこうしたカレントの全ての行列要素が,切断理論
の計算で有限になるかどうか?をチェックする必要があります。
そして,この疑問の答えはyesです。すなわち,それら行列要素
は有限となり,1つの軸性ベクトル,または1つの擬スカラー
の頂点を含む基礎Fermionループの全てが,陽な引き算の必要
なく光子頂点へゲージ不変性を課すことによって,有限になる
という事実から,直ちに導かれます。
と書いて終わりました。
ここからの続きが今回の記事です。
こうして我々は直ちに,式(68)::
∂μj5μ(x)=2im0j5(x)
+{α0/(4π)}Fξσ(x)Fτρ(x)εξστρ
が,我々の切断理論でも確かに満足されることを示す,
という続く問題へと向かうことができます。
これをなすために,2F個のFermion外線とB個のBoson外線
を持つj5μを含む任意のFeynman振幅を考えます。
第2章(§2)で進めたように,diagramsを2つのカテゴリー
に分割します。
タイプ(a)とタイプ(b)を,軸性ベクトル頂点:γμγ5が,
diagramを通過する2F個のFermion線の1つに接しているのか?
または,内部の閉ループに接しているのか?によって分けます。
典型的なタイプ(a)とタイプ(b)のdiagramsを次図に示します。
タイプ(a)のdiagramsに対しては,丁度,第2章(§2)の(47)
~(49)におけるようにWard恒等式の導出は,γμγ5を含む
Fermion内線が伝播関数の代数的操作を純粋に含みます。
※(注15-1):「摂動論のアノマリー(5)で述べたことを
再掲します。
(a)図の型の典型的な寄与は,
Σk=12n-1{Πj=1k-1[γ(j){1/(p+pj-m0)}]
×[γ(k){1/(p+pk-m0)}γμγ5{1/(p'+pk-m0)}
×Πj=k+12n-1[γ(j){1/(p'+pj-m0)}]×γ(2n) (・・・)}
(47)です。
これに,(p-p')μを掛けて,それに,
{1/(p+pk-m0)}(p-p')γ5{1/(p'+pk-m0)}
={1/(p+pk-m0)}(2m0γ5){1/(p'+pk-m0)}
+{1/(p+pk-m0)}γ5+γ5{1/(p'+pk-m0)}.(48)
なる公式を用います。
頂点:Λ5μへのグラフ型(a)の寄与(47)は,
Σk=12n-1{Πj=1k-1[γ(j){1/(p+pj-m0)}]
×[γ(k){1/(p+pk-m0)}γμγ5{1/(p'+pk-m0)}
×Πj=k+12n-1[γ(j){1/(p'+pj-m0)}]γ(2n) (・・・)}
ですが,
これにQμ=(p-p')μを掛け,代数的に順序を変えつつ,
公式(48)を適用すると,
Σk=12n-1{Πj=1k-1[γ(j){1/(p+pj-m0)}]
×[γ(k){1/(p+pk-m0)}(2mμ0γ5){1/(p'+pk-m0)}]
×Πj=k+12n-1[γ(j){1/(p'+pj-m0)}]γ(2n) (・・・)}
-(・・・)Πj=12n-1[γ(j){1/(p+pj-m0)}]γ(2n)γ5
-γ5Πj=12n-1[γ(j){1/(p'+pj-m0)}]γ(2n) (・・・)
.(49) が得られます。
(注15-1終わり※)
斜線のnlobへのFermion伝播関数の線に加わる光子伝播関数の
4元運動量にわたる積分(p1,..,p2nにわたる積分)は,正規化
された場理論において全て収束するので,積分の内部での変数
のシフトのような代数的操作をしても安全(特異性なし)です。
再掲の式(49)は,Σk=12n-1{Πj=1k-1[γ(j){1/(p+pj-m0)}]
×[γ(k){1/(p+pk-m0)}(2mμ0γ5){1/(p'+pk-m0)}]
×Πj=k+12n-1[γ(j){1/(p'+pj-m0)}]γ(2n) (・・・)}
-(・・・)Πj=12n-1[γ(j){1/(p+pj-m0)}]γ(2n)γ5
-γ5Πj=12n-1[γ(j){1/(p'+pj-m0)}]γ(2n)
(・・・)
この右辺第1項は,発散計算のスタートのj5μのタイプ(a)
のdiagramsに対応する2im0j5のFeynman振幅へのタイプ(
a)の寄与を与えます。
残りの項は,j5μの同時刻交換関係からWard恒等式に
おいて生じるFermion外線運動量:pとp'を有する通常の
表面項を与えます。
こうしてタイプ(a)のdiagramsに関する限りのj5μの発散
は,単に2im0j5であって余分な項は存在しません。
次に,典型的なタイプ(b)の寄与に向かいます。
これはつ次のように書けます。
すなわち,L(Q:γμγ5;p1..p2n-1)(・・・) です。
ただし,L(Q;Γ;p1..p2n-1)
=∫d4r[Tr{Σk=12nΠj=1k-1{γ(j(r+p1-m0)-1}
×γ(k)(r+pk-m0)-1Γ(r+pk-Q-m0)-1
×Πj=k+12n{γ(j(r+p1-Q-m0)-1}..(118) です。
ここで,いつものように,注意を閉ループに集中し,
diagramのそれ以外の残りの因子を(・・・)と略記
しました。
以前と同じ簡単な代数で(118)の発散は次のように
書けます。
すなわち,
L(Q:iQμγμγ5;p1..p2n-1)=L(Q;2im0γ5;p1..p2n-1)
+∫d4r(Tr[γ5Πj=1k-1{γ(j(r+p1-m0)-1]
-γ5Πj=12n{γ(j(r+p1-Q-m0)-1)1)..(119)
既に見たように,n≧2のループに対しては,式(119)の残り
の積分は相殺して次のWard恒等式を得ます。
L(Q:iQμγμγ5;p1..p2n-1)=L(Q;2im0γ5;p1..p2n-1)
.(120)です。
再び, p1..p2n-1にわたる積分は,正規化場理論においては,
全て収束するため.(120)に誘導する操作は,,これら収束積分
の内部で全て遂行できます。
このことは.n≧2のループを含むタイプ(b)の部分が全て
通常の発散方程式;∂μj5μ(x)=2im0j5(x)に一致する
ことを意味します。
最後に,ループを,ただ1個だけ持つ,つまりn=1のdiagram
でループが,軸性ベクトル頂点を1個持つ三角形のケースを
考える必要があります。
今や,なじみ深いことですが,このdiagramはアノマリー
を持つWard恒等式へと導きます。
これは正規化されたQEDでは,素朴な発散式に,次の項を加える
ものです。
すなわち, {α0^/(4π)}|Fξσ(x)+FRξσ(x)}
{Fτρ(x)+FRτρ(x)}εξστρ(121) です。
ただし,α0^=e0^2/(4π) です。
要するに,我々のdiagram的解析は,正規化された場の理論
における軸性ベクトルの発散の式が次のようになることを
示しています。
すなわち,∂μj5μ(x)=2im0j5(x)
+{α0^/(4π)}Fξσ(x)Fτρ(x)εξστρ
+{α0^/(4π)}εξστρ
×{Fξσ(x)FRτρ(x)+FRξσ(x)Fτρ(x)
+FRξσ(x)FRτρ(x)}..(122) です。
(122)はFRを含む項を除いて,そして係数を中間くりこみ
電荷で表現していることを除いて.式(68)と同等です。
FRの項は,系が正規子(regulator)の場を陽に含むことから
生じています。
(68)との完全な同等性を見るため,本節で使用される中間
くりこみ電荷を第2章の非くり込み電荷(=裸の電荷)と次式
によって関連付けます。
すなわち,e0^(Fξσ)中間くり込み量=e0(Fξσ)非くりこみ量..(123)
です。
決定的な点はアノマリー項の係数が正確にα0^/(4π)
であり,摂動論の高次に由来する未知の結合定数のベキ
を含まないということです。
たった今与えたdiagram的解析は,次のように簡潔に
言い換えることができます。
もしも,運動方程式を計算するのに,(116)の正規化された
Lagrangian密度を使用し,軸性ベクトルカレントの発散を
素朴に計算するのに,それで導かれる運動方程式を用いる
なら,正規化されていない理論と同じく,
∂μj5μ(x)=2im0j5(x)..(124) を見出します。
そして、この(124)の右辺に余分な項が加わるとしたら,
それは素朴な導出が破れるような,特異なdiagram的な計算
にのみ由来するはずです。
しかし,正規化された場理論では,あらゆる仮想光子運動量
による積分は収束します。
それ故,そのQFDだけでは,diahram的な計算によっても,(124)
に付加項を与える特異性に導くことはできません。
,したがって,その破れ=アノマチー項が本当に存在するなら
それは基本的な軸性ベクトルのループ自身の性質に関連しな
ければならず,他の内線伝播関数の自己エネルギーなど内部
の輻射補正の影響は含まないはずです。
ところが,これまで見たように,4つ以上の光子を含む軸性
ベクトル頂点を持つループは,正確に式(124)を満足します。
したがって,基本的な三角グラフのみが,唯一の可能な
アノマリーの源である,と結論されます。
こうして,アノマリー項は三角グラフの特性のみに由来し
それは,通常のQEDのくり込み=輻射補正の影響を受けない
ことがわかりました。
次は先述の「低エネルギー定理」もまた,輻射補正の
影響を受けない,ということを論じる予定ですが,長く
なると予想されるので.今日は短いですがここで
終わります。
(参考文献):Lectures
on Elementary Particles and
Quantum Field Theory(1970 Brandeis University
SummerInstitute in Theoretical Physics) VolumeⅠ
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